Coolier - 新生・東方創想話

おいしい

2010/08/22 19:21:44
最終更新
サイズ
10.18KB
ページ数
1
閲覧数
3130
評価数
15/56
POINT
3290
Rate
11.63

分類タグ


注意!!
キャラの視点が途中で切り替わる(=====をはさんで)
自分設定あり。

それでは。




夏。蝉が煩い時期はもう過ぎたけどまだまだ暑い日。今日は約束がある。あなたに人形の作り方を教えるという約束。それを果たす為私は神社に向けて飛んでいた。手に持ったバケットには裁縫道具一式と色とりどりのお菓子。

「よろこんでくれるかな」
「シャンハーイ」
「そう?ありがと、上海」
「シャンハーイ!」

今日は気合を入れて作ったものばかりだ。中身はクッキーやフィナンシェといった何時もと変わらぬメニューだが、おいしいと言ってくれるだろうか。まあ、何を持って行ったっておいしいとは言ってくれるが、やはり、気持ちを込めて作ったものを、笑顔でおいしいと言ってもらえれば何時だって嬉しくなるもの。今日はおいしいと言ってくれるかな。いや、今日もおいしいと言ってくれるかな。そんなことを考えつつ、視界に入ってきた神社に向けて私はさらにスピードを上げて行った。


=====


「遅いなぁ」

縁側に腰掛けて、今日来るべき人を待つ。境内は全て、隅から隅まで掃除したし、服だって横着せずにきちんと着こなしている。
お茶と一緒に昨日あなたが持ってきてくれたお菓子の残りを食べる。何時もこんなおいしいお菓子を持ってきてくれるなんて、申し訳ない思いがないわけでもないが、あなたが何時もお菓子を食べる私を幸せそうに見上げるものだから断ることができないのだ。私はいつもその視線にどきどきして頭が回らずにただおいしいとしか言うことが出来ないのだが、言うたびにさらに幸せそうに顔を綻ばせるあなたが魅力的過ぎて、私はやはり、おいしいとしか言えなくなる。

「…今日はちゃんと感想とお礼を言おうっと」

何度目か分からない台詞を呟いたとき、丁度あなたが鳥居をくぐるのが見え、私の頭はもうさっき呟いた言葉を忘れてしまっていた。


=====


「お待たせ霊夢」
「あ、遅いわよ。日が暮れちゃうじゃないの」
「外の世界におけるある国では、『相手にも準備する時間が必要だろう』とわざと遅れて行く習慣があるらしいじゃない」
「ここは日本よ」

何時もと変わらないやり取り。こうでもしないとお互い恥ずかしくなってまともにお話が出来なくなってしまうから。
上海にお湯を沸かしてくるよう指示を出す。元気に返事をしながら意気揚々と奥へと消えて行く上海。

「お茶を淹れるわ。お茶会が終わったら早速人形の作り方を習いましょうか」
「お願いするわ」

バケットを取り出して一緒に持ってきたお皿にお菓子を盛り付けて行く。うん。これは今年1番の出来ね。これならあなたも喜んでくれるはず。
そこまで考えてふと、あなたが熱心にこちらを見ているのに気づく。

「どうしたの?」
「え!?い、いや、手がきれ…っじゃなくて今日もおいしそうだなぁって」

まだ食べてもらったわけでもないのに、おいしそうの一言だけで嬉しくなる。ここは「今日のは自信作なのよ」なんて言いながら話を広げていくべきなんだろうけど、今の一言が嬉くて中々言葉えを発することが出来ない。おいしい、うれしい、ありがとう、など何気ない一言。なんの面識がない人からも言われることのあるありふれた言葉。それでも、好きな子に言われればそれだけで嬉しさが何倍にも膨れ上がるんだから不思議なものだ。

「…はぁ」
「霊夢?」
「なんでもない」

何かしてしまっただろうか。あなたが今一瞬残念そうな顔してたけど…。急に不安になるも、直後上海がお湯が沸いたことを伝えに戻ってきたことにより、私はそちらに意識が移っていった。


=====


「く、私の馬鹿」
「え?」
「ん、なんでもないわ。盛り付け私がやっとくからお茶淹れてきて」
「うん」

奥に消えて行くあなたの後姿を見送りながら盛大にため息を吐く。さっきのはやってしまった。もしかしたら卑しい奴と思われたかも知れない。というかなんであそこで「あんたの手が綺麗」ってはっきり言えなかったのか。垢一つない純白の陶磁器のお皿に程よく狐色に染まったお菓子たちを並べる、白魚のような傷一つない綺麗な指先。不覚にも見とれていたときに急に声をかけられたものだから焦ってしまい、よくもまぁあんな褒めるチャンスを逃したものだ。

「アリスが戻ってきたらちゃんと御礼を言わなくては」

しばらく精神統一と言う名のイメトレをしていると、あなたが戻ってきた。…よし、最初にお礼言って次に「アリス、何時も悪いわね。私はあんたがここに来てくれるだけでも嬉しいわ」って言おう。そうしよう。

「お茶淹れてきたわよ」
「ああ、アリスありがと。何時もわ…」

振り向くとそこには白いエプロンと三角巾(私が何時も使ってるもの)をつけたアリスの姿が。…なんて言うか、洋風で可愛く、それでいて人形のような容姿をしたあなたが三角巾に白いエプロンなんて子供っぽい格好してるだけで破壊力が強かった。…鼻血出てないか少し心配。

「どうしたの」
「い、いやなんでもっ!!」

あなたは変な霊夢と言いながらもエプロンをはずしてこちらの隣に座る。あれ、私何を言おうとしていたんだっけ。今はただ、自分の煩い心音しか頭に響いてこない。

「食べてみて。今日のは自信作なの」
「へ、へぇ、それは期待できるわね」

食べて食べてと嬉しそうに聞いてくるあなた。それだけで考えが頭から吹き飛び何も残らなくなる。これ以上あなたの可愛い笑顔を見ているとそれこそ味すら分からなくなりそうだったので、私は早々にクッキーを口に放り込んだ。…確かにこれは何時もよりおいしい。さくさくと軽く、香ばしい香りが口に中に広がり、なおかつ香ばしさを全く邪魔することなく優しい甘みが口全体に広がってくる。正に自信作のクッキーだ。

「ねぇ、どうかな」

聞かれて振り返り、後悔した。どうかなと可愛らしく小動物のように首をかしげ、なんとも幸せそうな目であなたが見つめてくるものだから、さっきまで頭に描いていた感想はいとも簡単に頭の中からフォーマット。
ああ、まただ。あなたがそんなに嬉しそうに見てくるものだから、

「…おいしい」
「本当?…よかったぁ!」

またおいしいとしか言えなかったじゃないか。





それから人形の作り方を教えてもらった。あなたは人形のこととなると途端に表情に職人気質が表れ、何時もの可愛らしさとは全く違う凛々しさが漂っていて。作業が終わる頃には指に絆創膏が7つも巻かれていた。やっぱり針仕事中に手元から意識を放すものじゃないと思った。


=====


「出来た!!」
「…うん、初めてでこれなら凄いよ霊夢」
「巫女に出来ないことはないのだ!」
「巫女関係ないじゃないの」

本当に器用な子だ…持ち前の才能という奴か。咲夜ですら初めて人形作りを教えたときは苦労していたというのに。これなら内職でも食べて行くのに困らなそうだ。いや私が困らせないけど。とにかく、作業を終える頃には外はもう夜の蚊帳が下りていた。

「お、もうこんな時間ね」
「ごめんなさい。人形のこととなるとどうもやめ時が分からなくなってしまって」
「いいのよ私が頼んだんだから。そ、それよりも、もう、こんな時間になっちゃったんだから…ウチでご飯食べて、いきなさいよ」
「…え?い、いいわよそんな悪い」
「で、でも、…あっ今日のお礼だと思って受けとんなさいよ」
「…じゃ、じゃあ、ご馳走になります」

正直、乗り気ではなかった。勿論嫌な訳ではない。嫌なわけがあるものか!あなたの作る和食は私の作るご飯よりも繊細で優しい味で体に良くてとにかくおいしいから。でも、前にご馳走になったとき、あまりいいカッコできなかったから…。

そう、大体1月前くらいか。和食と洋食の味や勝手の違いの話で盛り上がり、夜まで話し込んでしまったときだ。「それなら今日は和食のおいしさに目覚めてもらう為に私が作ってあげる」と言われ私も喜んだのだが、食べている最中ずっとあなたが幸せそうに笑って「おいしい?」と聞いてくるものだから、私は恥ずかしさにどぎまぎして「おいしい…わ」としか返すことが出来ず、とても恥ずかしかったのだ。

「じゃあ、待っててね。…今日は慧音から新鮮な野菜と魚のおすそ分け貰ったから、飛び切りなのを…ね」
「じゃ、じゃあ楽しみにしてる」

そうして奥に消えて行くあなたの後姿を見送りながら盛大にため息をつく。私はあの子よりもお姉さんなんだから(実年齢は私のほうが下だけど)ちゃんと笑顔でどこがどうおいしいか言って、ありがとうって言わないと。よし、とにかく霊夢が戻ってきたら最初にお礼言って「霊夢、ご馳走になって悪いわね。私はあなたがここで私に付き合ってくれるだけで嬉しいわ」て言おう。そうしよう。

…しばらくするとお醤油の香ばしい匂いが漂ってきてお腹がなってしまい、一人赤面してしまった。
そうして瞑想という名のイメトレをしているとお盆を抱えてあなたが戻ってきた。よし、

「お待たせ。出来上がりよ」
「霊夢、ご馳走になってわ…」

振り向くとそこには白いエプロンと三角巾(さっき私が使っていたもの)をつけたあなたの姿が。…なんていうか、何時も和風で可愛く、それでいて綺麗な容姿をしたあなたが三角巾に白いエプロンなんて子供っぽい格好をしているだけで破壊力が高かった。顔が赤くなってないか心配だ。

「どうしたの?」
「なんでもないわ」
「え、でも顔が赤く」
「さっきまで上海と殴りあってたからよ」
「へえ、そうなんだ」
「バカジャネーノ」

目の前にお皿が並べられていく。南瓜の煮物に豆腐と油揚げのお味噌汁、秋刀魚の塩焼きに大根と胡瓜のお漬物。正に和食だった。

「どうぞ召し上がれ。…中々の自信作、だから」
「…頂きます」

心底嬉しそうに視線を投げかけてくるあなた。無意識の行為だとは分かっているが、恥ずかしいのでやめていただきたい。
とりあえず食に集中しようと焼き魚に箸を伸ばす。見た目はパリッと焼かれているが中はふわっとしていて、口に含むとさっぱしとした白身の味と程よく効いた塩味が完全な融合をしていた。南瓜の煮物は柔らかく煮込まれていてすっと箸が通り、素材の甘さと調味料の自然な味付けとで絶妙なおいしさをかもし出しており、まさしく新鮮な食材と料理の手腕による自信作だった。

「どう…かな」

可愛らしい漆黒の瞳を潤わせ、心配そうに見上げながら聞いてくるあなた。それでもその瞳の奥には嬉しさが満ちているのが見て取れる。
一瞬だった。私の頭からこの手料理の感想を消し去ってしまうのには。

「お…おいしいわ」
「よかった…」

またやってしまった。おいしいとしか答えられなかった。この恥ずかしさはどうにかならないものか…多分、ならないだろうけど。


=====


「でね、だから言ってやったの。私はまだ未成年です!って」
「あははっ。まあ、その見た目じゃあね」
「ほんとは霊夢よりも年下なのに」

食後の気だるい時間帯。私たちはなんてことない談笑に華を咲かせていた。

「あんたのせいじゃないの。成長する魔法なんてかけるから」
「だって…かけてなかったら幻想郷に来れそうになかったし、…それじゃこうして霊夢に逢えなかったじゃないの!」
「え…?」
「…あ」

なんだこれ。気まずい空気が流れているが。私に会えなかったっと。…うれしいこと言ってくれるじゃないの。あなたを見ると言ってしまったとばかりに顔を赤くして俯いている。何だか私も恥ずかしくなり外に目を向けると満月が輝いていた。

「あ、アリス、満月よ」
「え?本当だ。…もうっ、面倒ね」

満月は狂気をはらんでいる。そのためそんな夜は碌な理性を持たない下級の妖怪が変に滾ったり、夜行性の妖精が悪戯に躍起になったりと厄介なことになるのだ。…これはもしかしてチャンスではないだろうか。頑張れ私。ここは勇気を振り絞るべきだ。勇気を出して「泊まっていきなさい」と言うんだ。幸い神社には一杯部屋があるし、言うは一時の恥、言わぬは一生の恥だ。

「アリス!」
「ん?なに霊夢」
「えっと…こ、今夜は、…泊まってい、いってもいい…んじゃないの?」
「え?」

…なんだこの腑抜けた聞き方は。いきなさいじゃなくていいんじゃないの?って…。これじゃ断られる恐れだってありうる。もし断られたら恥ずかしくて今晩は眠れないことだろう。
しかし、あなたは最初、目を見開き驚いて、次に恥ずかしそうに目を伏せて、最後にとても幸せそうに笑いながらこう言った。

「じゃあ、明日の朝は私が洋食で作ってあげる」

…またおいしいの一言しか言えないんだろうなぁ。
「でも霊夢…そういえばこの神社、布団一つしかないんじゃなかった…?」
「!!??」


11/10/21
読みやすく改良しました。
ご指摘してくださった方々ありがとうございます。
なるるが
http://sevenprismaticcolors.blog58.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1930簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
何気ない日常の中の幸福感が滲み出ていてよいとおもいました。

でも秋刀魚の場合白身と言うのだろうか?
6.100名前が無い程度の能力削除
まあまあお酒でも飲んでお互い素直になって…同じ布団で寝ましょうね?
8.無評価名前が無い程度の能力削除
とりあえず、二人とも一晩中布団の中で悶え苦しむといいよっ
9.100名前が無い程度の能力削除

点数入れ忘れ。。。。orz
16.100奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
もう最高です…これしか言えません!!後、後書きを詳しく
もっと広がれレイアリの輪!!!
18.80名前が無い程度の能力削除
二人とも可愛いわー
上海と殴りあってたって、その言い訳苦しすぎるよwww
アリス=魔法かかったロリスって感じでしょうか?
それでもアリスの方が年上だと思うのですが…
19.100名前が無い程度の能力削除
やだなにこれ。
ニヤニヤが止まらないwwww
20.90名前が無い程度の能力削除
ふん、似たもの同士め
恋に溺れておるわ
27.60名前が無い程度の能力削除
「読み辛いです」という注意書きは如何なものかとw
そこはなんとかして読み易くしてくださいよ!w
内容は甘々な私好みのレイアリ(レイアリな時点で全部私好みですが)だったのでこの点数で
32.90名前が無い程度の能力削除
この二人が結婚していないのは不自然なのではやく結婚するべき
37.70刻の旅人削除
視点の区切りは、なくても自然に読めると思います。
逆に、「あなた」という単語が多かった気がします。
普段の生活で自分が考える時のような、そんな風に書ければ、読みやすいのではないのでしょうか。
今後を楽しみにしています。
長々とすみませんでした。

バカジャネーノの破壊力が異常でしたw
レイアリ最高!
38.80名前が無い程度の能力削除
うは、かわいいなおいw
「バカジャネーノ」に変な声出たww
内容とは関係ないですが、注意書きは「読み辛い」じゃなくて「読みにくいところがあるかもしれません」程度に書いたらそれだけで印象変わるんじゃないかと思いました。
42.100名前が無い程度の能力削除
なんという似たもの同士。
44.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい甘さに全俺の糖分がマッハ
49.無評価なるるが削除
思ったよりも点数が伸びてびっくりです・・・。

>>5さま
二人は一緒に居るだけで幸せなのでしょう。
…なんと、確かに秋刀魚はどちらかと言うと赤身でした…不覚。

>>6さま
ちなみに枕も1つで共有です。

>>8及び9さま
どこかの鬼に聞いた話では一晩中うーうーとうなり声が響いていたとか…。

>>奇声を発する(ry in レイアリLOVE!さま
勿体無きお言葉、ありがとうございます!
この後霊夢は恥ずかしさのあまり気絶してしまい、少し期待していたアリスはがっかりするのでしたとさw

>>18さま
アリスは都会派なのでごまかし方も一味違うのです。
私の中のイメージでは(旧作からWin版へ繋がりがあったとして)肉体年齢はアリスが年上ですが実年齢は霊夢の方が年上だと思うのです。

>>19さま
存分にニヤニヤしてくださいとも!

>>20さま
二人にとって恋なんておぼれてなんぼのものなんでしょうね。多分。

>>27さま
申し訳ございません…。
読みやすさは(内容も含めて)今後の鍛錬で少しずつなくしていけたらいいなと思います。

>>32さま
お互いに変なところで抜けているのもこのカップリングならではと思います。
…まあぶっちゃけて言うと(いい意味で)バカップルなんですね。

>>刻の旅人さま
ご指摘いただきましてまことにありがとうございます。
確かに少々乱用しすぎた感がありますね。強調のしすぎも考え物…精進いたします。

>>39さま
改良させていただきました。
この上海はよく訓練されておりますゆえ(え

>>43さま
アリスは妖怪版魔理沙と言われていますが、性格的に霊夢似ですよね。

>>45さま
おお、ならばこのバケツに砂糖をお入れになってください。
それを原料にして更なる甘さのモノを作ってまいりますので(おい
51.100名前が無い程度の能力削除
すなおになーれ
53.100名前が無い程度の能力削除
続きは・・・?続きはどこだ!?
58.無評価Yuya削除
幸せそうでとてもよかった