彼女はくすりと一つ笑って私に顔を寄せる。
「んっ……」
気づいたときにはもう遅い。
声にしかけた抗議は塞がれた私の唇から零れ落ちることは無く、ただ抑えられた吐息が彼女の口元に触れた。
彼女は右手を私の頬に、左手を膝の上の私の手に重ねて目を閉じていた。至近距離で彼女の表情を見て、私はどうしようもなく胸が高鳴るのを感じる。頭が白くなってまるで彼女と私しかここにはいないかのように思えた。
「ふっ、ん……」
なんてことは無い、お互いの唇を重ねてるだけ。なのに、それだけのことで私の体は雁字搦めになってしまい、蕩けた表情で彼女の唇の柔らかさや仄かな熱を感じていた。
「ん……文」
彼女の顔が一瞬離れて、何処までも青いその瞳に私が映っているのが見えた。何年も生きた妖怪では無く思春期の乙女のような私が瞳の向こうから私と目を合わせる。まるで自分とは思えない。
「可愛いよ、文」
びくっ、と体がはねる。彼女が私の名前を呼ぶ。それだけで胸がぽかぽかして凄く幸せな気分になった。
もっと名前を呼んで欲しい。可愛いって言って欲しい。そう伝えようとして口を開く。
「あ、もっと……んっ」
また口を塞がれる。それは、その先は口にしなくてもいいと言ってるようで私は嬉しくなった。
少し体温の低い彼女の舌が口内に侵入してくると、それはぞくぞくとした快感を私に味合わせる。それが何とも切なくて私は口を離して彼女の名前を呼んだ。
―
「んっ、チルノさぁん……」
「おーい、文ー?」
とても気持ちのいい朝だった。妖怪の山の片隅、とある新聞記者の自宅では未だ夢の中のこの家の主人と、それを変な顔をして見つめる小さな氷精の姿があった。
「ふふふっ、チルノさん。そんなに激しくしちゃ嫌ですよぅ」
「…………文? あさだよ?」
氷精の声は届かない。天狗は何か気持ちの悪い台詞を吐きながら身悶える。そして、夢の中の誰かにキスをした。実際、彼女がその唇を押し付けたのはベッドの横に置いてあった時計だったが眠る天狗はとても幸せそうである。
氷精は起こしちゃ悪いかな、と思った。幸せそうな夢を見ているみたいだし、昨日も彼女は結構遅くまで仕事をしていたのだ。出来るならゆっくり休ませてあげたい。彼女は仕事をしだすと回りが見えなくなるらしく机の上で爆睡していることなんてざらにある。
それにしても、と氷精は一人ごちる。何故今日に限って彼女は起きないのか。普段ならばこの愛しい天狗はどんなに熟睡しててもいつも同じ時間に起きてくるというのに。その正確さはとても真似できるものではない。氷精は彼女が十分に睡眠が取れてるか心配で、いっその事冬眠でもさせようかとまで考えた事がある。しかし、今の彼女に起きようという意思は無く、夢の中の誰かとイチャイチャしてる。夢のお相手が私じゃなかったら彼女の手帖は一週間は氷の中だ。
「あ、そういえば…………」
思い出した。彼女は昨日の夜、ベッドの上で私と抱き合いながら「明日はお休みです! もうこれ以上ないくらい休んじゃいますよー! だから明日は遅くまで寝て、二人でイチャイチャして、早くに寝ちゃいましょー!!」と宣言してた。私も「わーい、文とイチャイチャー!」とかって同意した気がする。
氷精は一つ溜息をついて、それから柔らかく微笑んだ。そんな大事なことを忘れていた自分にはどうしようもなく苛つかされるけど、彼女が寝てていい理由があったからそれだけで何か嬉しかった。
「うん、おこさなくてよかった」
正確には起きなくて、だが。
納得がいった氷精は、昨日寝たときと同じく大好きな腕に抱かれるように横になると、その寝顔を覗き見る。とても幸せそうで、その寝顔を見た誰もが微笑ましくて思わず笑顔がこぼれる、そんな顔だった。
「ふふっ、チルノさん」
氷精は今日はいっぱい甘えて、甘えさせてあげようと思った。だからそれまで―――愛しい、愛しいこの人がその優しい声で揺り起こしてくれるその時までは―――彼女の腕の中私も幸せな夢を見よう。そう決めて氷精は
「んっ、文、大すきだよ」
愛しの天狗と唇を重ねる。触れるか触れないかの微妙なキス。心優しい氷精の温かい温もりのあるキスだった。
「分かってまふよぅ、チルノさん」
さあ、今日は何をしようか。そう考えながら小さな氷の少女は大きな翼の少女の腕の中、目を閉じた。
妖怪の山の片隅、とある新聞記者の自宅では幸せそうな顔の二人が仲良く寄り添って眠っていた。とても気持ちのいい朝だった。
「んっ……」
気づいたときにはもう遅い。
声にしかけた抗議は塞がれた私の唇から零れ落ちることは無く、ただ抑えられた吐息が彼女の口元に触れた。
彼女は右手を私の頬に、左手を膝の上の私の手に重ねて目を閉じていた。至近距離で彼女の表情を見て、私はどうしようもなく胸が高鳴るのを感じる。頭が白くなってまるで彼女と私しかここにはいないかのように思えた。
「ふっ、ん……」
なんてことは無い、お互いの唇を重ねてるだけ。なのに、それだけのことで私の体は雁字搦めになってしまい、蕩けた表情で彼女の唇の柔らかさや仄かな熱を感じていた。
「ん……文」
彼女の顔が一瞬離れて、何処までも青いその瞳に私が映っているのが見えた。何年も生きた妖怪では無く思春期の乙女のような私が瞳の向こうから私と目を合わせる。まるで自分とは思えない。
「可愛いよ、文」
びくっ、と体がはねる。彼女が私の名前を呼ぶ。それだけで胸がぽかぽかして凄く幸せな気分になった。
もっと名前を呼んで欲しい。可愛いって言って欲しい。そう伝えようとして口を開く。
「あ、もっと……んっ」
また口を塞がれる。それは、その先は口にしなくてもいいと言ってるようで私は嬉しくなった。
少し体温の低い彼女の舌が口内に侵入してくると、それはぞくぞくとした快感を私に味合わせる。それが何とも切なくて私は口を離して彼女の名前を呼んだ。
―
「んっ、チルノさぁん……」
「おーい、文ー?」
とても気持ちのいい朝だった。妖怪の山の片隅、とある新聞記者の自宅では未だ夢の中のこの家の主人と、それを変な顔をして見つめる小さな氷精の姿があった。
「ふふふっ、チルノさん。そんなに激しくしちゃ嫌ですよぅ」
「…………文? あさだよ?」
氷精の声は届かない。天狗は何か気持ちの悪い台詞を吐きながら身悶える。そして、夢の中の誰かにキスをした。実際、彼女がその唇を押し付けたのはベッドの横に置いてあった時計だったが眠る天狗はとても幸せそうである。
氷精は起こしちゃ悪いかな、と思った。幸せそうな夢を見ているみたいだし、昨日も彼女は結構遅くまで仕事をしていたのだ。出来るならゆっくり休ませてあげたい。彼女は仕事をしだすと回りが見えなくなるらしく机の上で爆睡していることなんてざらにある。
それにしても、と氷精は一人ごちる。何故今日に限って彼女は起きないのか。普段ならばこの愛しい天狗はどんなに熟睡しててもいつも同じ時間に起きてくるというのに。その正確さはとても真似できるものではない。氷精は彼女が十分に睡眠が取れてるか心配で、いっその事冬眠でもさせようかとまで考えた事がある。しかし、今の彼女に起きようという意思は無く、夢の中の誰かとイチャイチャしてる。夢のお相手が私じゃなかったら彼女の手帖は一週間は氷の中だ。
「あ、そういえば…………」
思い出した。彼女は昨日の夜、ベッドの上で私と抱き合いながら「明日はお休みです! もうこれ以上ないくらい休んじゃいますよー! だから明日は遅くまで寝て、二人でイチャイチャして、早くに寝ちゃいましょー!!」と宣言してた。私も「わーい、文とイチャイチャー!」とかって同意した気がする。
氷精は一つ溜息をついて、それから柔らかく微笑んだ。そんな大事なことを忘れていた自分にはどうしようもなく苛つかされるけど、彼女が寝てていい理由があったからそれだけで何か嬉しかった。
「うん、おこさなくてよかった」
正確には起きなくて、だが。
納得がいった氷精は、昨日寝たときと同じく大好きな腕に抱かれるように横になると、その寝顔を覗き見る。とても幸せそうで、その寝顔を見た誰もが微笑ましくて思わず笑顔がこぼれる、そんな顔だった。
「ふふっ、チルノさん」
氷精は今日はいっぱい甘えて、甘えさせてあげようと思った。だからそれまで―――愛しい、愛しいこの人がその優しい声で揺り起こしてくれるその時までは―――彼女の腕の中私も幸せな夢を見よう。そう決めて氷精は
「んっ、文、大すきだよ」
愛しの天狗と唇を重ねる。触れるか触れないかの微妙なキス。心優しい氷精の温かい温もりのあるキスだった。
「分かってまふよぅ、チルノさん」
さあ、今日は何をしようか。そう考えながら小さな氷の少女は大きな翼の少女の腕の中、目を閉じた。
妖怪の山の片隅、とある新聞記者の自宅では幸せそうな顔の二人が仲良く寄り添って眠っていた。とても気持ちのいい朝だった。
とっても好みでした。 GJ!