ぱちり、と炎が舞った。
小さく、小さく。遠く、高く。
◆
神社の中、石段に座って、魔理沙はぼうっとして空を見上げた。
薄い雲がかかった紫色の空に、少し欠けた十六夜の月。
たぶん、今夜は晴れるだろう。
なんとなく、思った。
遠くから、囃子の音が聞こえてくる。眼下に、点々と明かりが見える。屋台にかかった提灯の明かりがいくつも、いくつも組み合わさって、まるで星空のように見えた。
その只中、魔理沙はまんじりともせずに待っていた。
本当は今すぐに下に行って、混ざりたいのだが、今日ばかりは待たなければならない。
さぁ、と穏やかな風が、魔理沙の頬を撫でる。
どこからか、声が聞こえた気がした。遠くから、近くから。
「あら、待ってたの?」
頭上から。
見上げると、鮮やかな紅に小さな白い花を咲かせた浴衣を着た霊夢が立っていた。後ろで手を組んで、小さく肩を揺らしながら、さも楽しげに、降りてきた。
魔理沙は立ち上がって、小さく笑みを浮かべた。
「ああ、待ってたぜ」
「そりゃあ、また、どうして?」
「それを言わせるか?」
「わかってるわよ」
くすくすと笑いながら、霊夢は魔理沙の隣に立って、つぅっと魔理沙の浴衣を撫でた。
「相変わらずの白黒ね」
「ああ、私のトレードマーク見たいなもんだからな。変か?」
ひらひらと白地に黒のラインの入った浴衣の袖を振りながら聞く。
「ううん。それ以外ないってくらい似合ってる」
「そうか、似合ってるのか」
嬉しそうに、ひらひらと、ひらひら、と嬉しそうに袖を揺らす。その様子を見ながら、霊夢は眼下を指差した。その先にはお祭りの屋台。
「ほら、早く行きましょう。終わっちゃうわ」
「終わらないよ。まだ始まったばかりだ」
唇の端を小さく吊り上げた笑み。霊夢は小さく頬を膨らませた。
「それでも」
「それでも、か」
頭の後ろで手を組んで、魔理沙はひょいと石段を跳んだ。五段ぐらい飛ばしてジャンプ。ふわりと着地。呆気にとられる霊夢を振り返って、手を伸ばす。
「ほら、だったら早く行こうぜ」
ああもう、と霊夢は後頭部をかいて、
「そうしなさいよ、最初から」
そう言って、自身も飛び降りた。
夏祭りの只中へ。真っ直ぐに。
どこか遠くで、ひぐらしが鳴いている。
◆
「おや、霊夢じゃないか。久しぶり」
石段を降りたところに立っていた萃香は振り返って、石段を見上げながら言った。一つ、一つ、石段を飛び越えたり、踏みしめるようにしながら、霊夢は応える。
「あら、萃香? 久しぶりってほどかなぁ?」
「いや、まぁね。それよりさ、今年も結構にぎやかだよ」
「そうね」
屋台の明かりに照らされて、いつもは暗い道も、昼間のように明るい。けれど昼間とは決定的になにかが違うのだ。
行き交う人々。お面を被った子供たち。金魚掬いでもしたのだろうか、手首に金魚の入った袋をぶら下げる人。皆々はしゃいで、楽しげにしている。
屋台からは大きな客寄せの声。
どこからか聞こえてくる祭囃子。
とん、と降り立ちながら、魔理沙は小さく息を漏らした。
「まったく。毎年、毎年、どっからこんなに集まるんだろうねぇ」
「お祭りだからね。人が集まってなんぼだよ」
「お前が萃めた、とか?」
「今日は違うよ」
やれやれ、と肩を竦める。
「ところで、あんたはここでなにしてんの?」
「んー? お前さんたちを待ってたんだよ。今年は来るのかなぁ、ってさ。来たのなら、私はもう行くよ。やることがあるし」
「ふぅん、なにやるんだ?」
「これこれ」
空を指差して、その手をぱっと弾けさせる。それだけで、魔理沙はにやりとした。
「だったら、大きいのを頼むぜ?」
「任されたよ」
それじゃね、と手を振って歩いていく萃香。魔理沙の隣を抜けて、霊夢の傍を通りながら、小さく言った。それは本当に小さくて、聞こえないぐらい小さくて。もしかしたら聞き逃していたのかもしれないけど、霊夢にはこう聞こえた。
「今日は、楽しんでいってね」
そうして、行き交う人の流れに消えていくように、萃香は消えていたった。
あとに残された二人は顔を見合わせて、笑う。
そして、どちらともなく提案するのだ。
「行こうか?」
「行きましょう?」
もう一度笑って、歩き出した。
騒ぐ雑踏の中に紛れるようにして、歩いていく。
ざわざわとした中を、二人で。
鬼は笑う。
「あ」
と、霊夢は小さく言って、近くの屋台の前でしゃがみこんだ。魔理沙は足を止めて、その屋台の看板を見上げた。「ヨーヨー釣り」の屋台だ。
腰に手を当てて、魔理沙は霊夢の背中に言う。
「おいおい、ヨーヨーか?」
くるり、と振り返って、霊夢は頬を膨らませた。ちゃぷちゃぷとビニールプールの中に手を突っ込みながら。
「いいじゃない。なんか夏祭りっぽいでしょ。これ」
「――ああ、確かにな」
「だから、ね?」
「……まったく、しょうがない奴だよ。お前」
ふぅ、と一息。懐から財布を出すと、ビニールプールの前の椅子に座っている麦藁帽子のおじさんに聞いた。
「おっちゃん。これ、いくら?」
おじさんは指を一立てて、言った。
「一人百円だが、お譲ちゃんはやらんのかい?」
「私は別にいいんだが、こいつがやりたいってんでな」
霊夢は小さく、なによぅ、と呟いた。おじさんは笑う。
「そうかい。友達かい?」
それに対して魔理沙は頷きながら答える。
「ああ。大切な、な」
そう答えて、ほれ、と硬貨を二枚渡した。おじさんはにやりとしながら受け取った。ちゃりん、と小さく硬貨がぶつかる音がした。
先っちょにコの字になった針金をつけたこよりを二本取り出して、おじさんは手渡しながら言った。
「そうか。取れるといいな」
当然だ、と魔理沙は笑う。
ほらよ、と霊夢の隣にしゃがみながら、こよりを渡す。もう一本のこよりを手に持っているのを見て、霊夢は唇を尖らせて呟く。
「なによぅ。結局するんじゃないの」
「誰がしないと言った?」
「それはそうだけど……」
まぁ、気にするな、と答えて、魔理沙はこよりを垂らす。狙うのは黒白っぽい感じのヨーヨーだ。それに上手いこと引っ掛けられそうな位置に輪ゴムが出ているやつ。
じっと、真剣にこよりを操る魔理沙に、霊夢は呆れたように笑った。
「私より真剣じゃないの」
「祭りだからな」
「そっか」
そうよね、と霊夢はこよりをビニールプールに垂らした。
どれを取ろっかな、と考えながら。
ぱちん、とヨーヨーが手の平に叩きつけられる音。雑踏の中を二人して、取ったヨーヨーをつきながら歩く。ぱちん、ぱちん。弾けるような音。
歩きながら辺りを眺める。きらきら光る提灯。客寄せの声。屋台の間を行き交う人たち。
わたがし買って、歩く子供。りんご飴が大きくて食べきれないような顔をした女の子。羽の生えた妖精が風車を吹いて、かろかろと回す。妖怪だろうか、角の生えた少女がはふはふとたこ焼きを食べ歩き。その隣でイカ焼きを食べるおじさん。
からん、ころん、下駄の音。
人と人が、人と人でないものが交わるようにして歩く。あっちへこっちへ。
歩きながら、なにかを見つけては買う。
祭りだからだろう。
「あ、魔理沙、あれ」
「なんだよ?」
霊夢はわたがし屋を指差しながら笑う。
ぱちん、とヨーヨーをついて、魔理沙は小さく呆れたような息を吐く。
「子供か、お前」
「子供よ。こんなときくらいは」
「お前みたいなデカイ子供がいて堪るか」
「いいじゃないの」
「まぁ、いいけどさ」
わたがし一つ買って、ゆったりと歩く。
はふ、とわたがしに顔を埋めるようにして食べる霊夢に自然と笑みが零れる。やっぱり子供だよお前、と指摘してやると、顔を真っ赤にして怒り出すのだ。面白いように両手を振り上げて。
「あら、魔理沙、と霊夢?」
屋台の向こうから声。
「おお、アリスか。なにやってんだお前。こんなところで」
魔理沙は霊夢を宥めながら、声の聞こえた方へ近づいて行く。
「なんでもいいじゃないの」
「だからってお前、これ」
看板を指差す。そこには「人形焼」と無駄に達筆で書かれている。
「あんた、いつから人形を焼くようになったの?」
と、霊夢が首を傾げた。
「別に人形焼いてるわけじゃないわよ?」
「いや、わかってるけども」
上海人形の焼き型を用いて作った人形焼。周りではせっせと人形たちが忙しなく動いて、焼いて、お客さんに出したりしている。その人形捌きを見に来ている人も少なからずいるようだ。そういう人たちも人形焼を食べながら、椅子にでも座ってゆったり観賞していた。
「一個いる? 一つくらいならサービスしてあげるわよ」
五個入りのパック一つで四百円。高いかもしれないけれど焼きたてが食べられるなら、それでもちょうどいいような相場だ。
「じゃあ二つちょうだいな」
指を二本立てながら言う。
「ちょっと待て。なんでお前が決めるんだよ。金を払うのは私なのに」
「いいじゃないの。私は一つ分のサービス。あんたが食べる分だけお金を払うのよ」
そう言いながら、アリスからパックを二つ受け取る霊夢。魔理沙は納得いかないような顔をして四百円を手渡した。
「ほらほら、そんなに仏頂面しないの」
と、言いながら、霊夢は人形焼を一つ、魔理沙の口元に持っていく。目をニ、三度瞬かせて、魔理沙は小さくため息を吐いた。
「やれやれ」
そう言って、霊夢の手から人形焼を食べた。ほのかな餡子の甘みが心地よくて、思わず笑顔になってしまう。アリスはそれを見て、口元に笑みを浮かべた。
「美味しいでしょ?」
「まぁな」
と、小さく頬を染めた。
「あ、そうだ。霊夢」
アリスは霊夢を呼んで、ちょいちょいと手招きをした。霊夢はなんだかわからないけれど、という表情でアリスの近寄っていった。アリスはひょいと身を乗り出して、霊夢の耳元へ口を近づける。
「なによ?」
「楽しんでる?」
問いかけて、魔理沙の方を見た。釣られるようにして、霊夢も見る。不思議そうな顔をして小首を傾げて、魔理沙は人形焼を食べた。
「それなりに」
「そっか。ならいいわ。私から言うことはなんにもない」
アリスはそう言って、早く行きなさいな、と手をひらひらと振った。ああそう、と霊夢は唇を緩めた。
魔理沙がぶんぶんと手を振っている。
てててっ、と霊夢はその隣に走っていく。
「なんだったんだ?」
「なんでもないことだったわ」
「そうかい」
そうよ、と歩いていく。
人形遣いはその後ろを眺めて、ぴんと百円玉を弾いた。
人形焼を食べつつ、わたがしを食べつつ、霊夢は歩く。ほむほむと頬張っては頬に手を当てて、幸せそうに。
「食ってばっかだな」
「だって美味しいんだもの。食べられるときに食べとかないと、次はいつ食べられることやら」
ぱくりぱくりと食べながら。
その姿を見ながら、魔理沙は人ごみの中に見慣れた羽を見つけた。七色に光る宝石みたいな羽。その隣に見慣れた門番が一緒に歩いていた。
「おおい! フランじゃないか! こんなところでなにしてるんだ?」
ぶんぶんと手を振って、魔理沙はフランを呼ぶ。くるりと振り返ると顔をぱっと明るくさせて、フランが突っ込んできた。ぽーん、と飛んで手首に巻いた金魚の袋が落ちそうになる。
出目金が吃驚したように目を突き出させていた。
「お祭りぃー!」
魔理沙の腕の中に納まると、フランは顔をあげて、そこでようやく霊夢に気がついた。
「ありゃ? 霊夢。来てたの?」
「来てたわよ」
美鈴が走ってきて、魔理沙に小さく頭を下げた。いいってば、これくらい、と魔理沙は手を振る。
「んー、ところでフラン、お前のお姉様はどうしたんだ?」
「お姉様?」
「ああ、最近一緒のことが多いじゃないか」
「あ、それだったら――」
と、美鈴が遠くを見ながら言う。
「あっちの方で、咲夜さんと一緒よ。月でも見てるんじゃないかしら。ほら、今日は十六夜の月だから」
遠い丘の方を指差しながら、答える。どこか遠くを眺めるような視線で。
「なるほどな」
頷く魔理沙。
「ああ、なんだ咲夜も来てたの」
「うん。花火でも見るんじゃないかなぁ。あそこは月も花火もきれいに見えそうだし」
「あんたらは行ってみたりしないの?」
「水入らずってね。邪魔しちゃ悪いじゃない」
「それもそうね」
ぱくり、とわたがしを食べる霊夢。わたしもー、と霊夢の持っているわたがしに向かって口を突き出すフラン。ひょい、とかわす。かちん、と宙を噛む音。ぷくっと膨らむ頬っぺた。冗談よ、と差し出してやると、嬉しそうに一口かじった。
「ほら、そろそろ行きますよ?」
「あー、うん。わかったー」
美鈴が呼びかけると、それに素直に従うフラン。
魔理沙は少し吹き出した。怪訝そうな顔で魔理沙を見る霊夢。
「ああ、違う違う。なんでもないんだ。ただ、お前の方がお姉さんっぽく見えてしまったんだよ」
「今日だけよ」
困ったように笑いながら、美鈴はフランの手を取る。
フランは振り返って、小さく手を振った。
「ばいばい、また今度ね」
と、小さく呟いたのが見えた。霊夢も小さく手を振り返してやった。
魔理沙が隣できしし、と笑う。
「私たちも行こうか?」
「今日はどこまでも付き合うわよ」
肩を竦めながら歩く。
吸血鬼は笑い、吸血鬼は月に思いを馳せる。
「霊夢さん」
「ん?」
突然の呼びかけに振り返ってみると、そこには誰もいなかった。いや、人ごみに流されるようにして緑がかった髪の毛が見えた。
人ごみをかき分けるようにして、早苗は霊夢の前に現れる。いつものように蛙と蛇の髪飾りをつけた、いつも通りではない緑の浴衣。
「ふぅ。人が多すぎますよ」
「まったくね」
「あれ、早苗、自分の神社があるんじゃないのか?」
「本日はお休みです。総出でこっちのお祭りに来てるんです」
「そうかい」
ほう、と小さく息を吐いて、早苗は霊夢に目をやった。なによ、と霊夢は目だけで語る。
「いや、なんとなくですよ。久しぶりだなぁ、って」
「ふぅん、おかしなやつねぇ」
「いやまぁわかってるんですが」
くい、と小首を傾げる霊夢。
ばちん。とヨーヨーが手の平に当たる音。魔理沙は顎に手を当てて、早苗の全身を舐めるように見た。
「ほぅほぅ?」
「な、なんですか?」
きゅっと身体を手で隠しながら早苗は聞く。いやいや、と魔理沙は身体の前で手を振った。
「お前も変わらないなぁってさ」
「な、なにがですか!」
「いやいや」
ひらひらと手をはためかせる。
「神さまってのも、変わらないんだな」
その言葉に、早苗は少し目を細めて、ええ、とだけ呟いた。霊夢はなんとなく髪の毛を弄りながら聞いた。
「そっか、早苗ってば神さまみたいなもんだっけ?」
「ええ、始めから」
「そっか」
そうして、雑踏の向こう側から、大きな呼び声と、小さな身体でジャンプする神さまが早苗を呼んでいる。もう行きますね、と小さく手を振って、早苗は歩いていった。
後ろで組んだ腕を揺らしながら、ゆったりと歩いていく。遅いよ早苗ー! と向こうから声がする。宥める声も聞こえる。
くす、と霊夢は笑った。
「あいつ、神さまになっても変わらないのかしら?」
「人間、そんな簡単に変われるもんじゃないさ。たぶん」
「それもそうよね」
そう言って、巫女と魔法使いは歩き出した。
現人神は昔を思い出して、小さく、誰にも気がつかれないように笑った。けれども神さまにはバレて、くすくすと笑われるのだった。
◆
夏祭りは終盤になるほど賑やかさを増していく。
どうしてだろうか。
きっとそこには懐かしい誰かが共にいるからだろう。
◆
どぉん、と大きな音と一緒に火が空に伸びて行った。そして、少しだけ時間を置いて、ぱぁん、と大輪を咲かせた。十六夜の昇る空に、降ってきそうな星空に、大きな花が咲いた。
それが、時間が経つにつれて、多くなっていく。
空を埋め尽くすほどの花火。
沢山の色。
赤い花。青い花。緑の花。紫の花。桃色の花。
色々な花が、一瞬咲いては散っていく。小さな火の粉となって落ちていく。一瞬だけ咲くための花火は、その役目を終えたゆえ、散っていくのだ。
どぉん、ぱぁん、と次々に上がる花火。
霊夢と魔理沙は、神社の石段に座って、それを見上げていた。
どちらにも言葉はなく、ただ沈黙。
居心地の悪い沈黙ではなくて、悪くない感じの沈黙。
魔理沙は、花火に照らされる霊夢の横顔に目をやった。
「なによ?」
「別に」
「ふぅん。相変わらず変な奴」
「お前にゃ負けるよ」
「そうかなぁ?」
首を傾げる霊夢に、魔理沙はくすくすと笑った。
「それよりもさ、今日、どうだった?」
「んー?」
「楽しかったかどうかを聞いとるんだが」
顎に手を当てて、んーっと空を見上げる。そうして答えが思いついたのか、視線を下ろして魔理沙に移す。
ちょっと微笑んで言う。
「それなりに」
「それなりに、か。だったら良かったよ」
魔理沙はじっと花火に手を透かしながら言う。
「それなりにでも、楽しけりゃいいよ。私は」
「そんなもん?」
「そんなもんだ」
ところでさ、と頭の後ろで手を組む。
「来年は、会えるかな?」
「さぁ?」
「そんな無責任な」
「知らないわよ」
「そうか」
よっこいしょ、と霊夢が立ち上がる。神社に向かって、振り返る。ぱくり、と最後の人形焼を口の中に放り込んだ。
ざぁ、と風が吹く。
さわさわと木の葉が揺れる。魔理沙は、思わず手で髪を押さえた。木の葉が頬に当たって、痛い。
けれど、そんなことを気にすることもなく。
目を開けると、すでに霊夢の姿はなかった。
「ああ」
終わったか。
小さく呟く。
眼下では盆踊りの音頭が聞こえてくる。祭りももう終いだ。
魔理沙はぐっと伸びをして、立ち上がった。
辺りをぐるりと見渡して、ぽつり、と。
「さよならくらい、言わせろよ」
と、だけ言った。
空は未だに花火が絶えなくて、音頭も陽気に歌も聞こえてくる。
その中で、魔法使いは小さな星の魔法を空に投げた。
すぐに消えてしまうそれを空に落とした。
なんとなく。
なんとなく、そうして。
石段を降りていく。
小さく一言呟いて。
「それじゃあ。またな」
とん、とん、と階段を降りていく。今度は一人で。
――またね、と聞こえた気がした。
[了]
ちょっと井上陽水の『夏祭り』聴いてきます。
萃香やアリスが霊夢に楽しんでるか、と聞いてるあたりでもしや…とは思いましたが。
うん、来年も、再来年も会えるさ。
魔理沙がそれだけ大人になったからなのか。
それとも一年ぶりの親友との再会が純粋に嬉しかったのかな? 色々想像しちゃいますね。
きっと咲夜さんも彼女なりの甘え方でお嬢様と過ごしたんだろうなぁ。
少し儚いけれどとても美しい真夏の夜の夢、楽しませて頂きました。
また、会えるといいですね。