ペラペラとページをめくる音がなんとも心地いい。
まるで自分と本しかこの世界にいないよう思える。
でも、それはなんとなく嫌だ。
少なくともその世界にもう一人居て欲しい人がいる。
「……紅魔館にでもいこうかしら」
けどそんなの口実で。
実際は美鈴に会いたいだけ。
最近はなにかと研究で忙しくて行けなかったけど、一段落つきそうだし。
「久しぶりに会うなぁ。元気にしてるかな?」
美鈴に限って元気じゃないなんてことまずありえない。
丈夫なのが取り柄と自分でも言ってたし。
「なんか、本当に久しぶりに会う気がする…」
寂しがってないかな?
怒ってないかな?
もう愛想がつきたとか思ってないかな?
こうやっていろいろ考えてると涙が出てくる。
「こんなことなら研究せずに美鈴のとこ行けばよかった」
我ながらバカだ。
とにかく早く美鈴のとこに行こう。
…私が寂しいのよ!
コンコン、コンコン
ドアをノックする音。
誰だろう?
この時間に来るのは魔理沙?
というか魔理沙ぐらいしかこの家に来ることはない。
「はーい! ん? でも魔理沙ってノックするっけ?」
と、考えてるうちにドアを開けていた。
そしたら目の前に広がるのは紅い髪。
吸い込まれそうなその瞳は、私のよく見知った人物だった。
「こんにちは、アリスさん」
「……めー、りん?」
なぜ、彼女がここに?
門を離れてこんなところに、どうして?
「どうかしましたか?」
「へっ? いや、べつに」
「心配になって来ちゃいました。よかった、元気そうで」
「あ、…えっと、ごめんなさい。いろいろと、研究してて」
「いいんですよ。アリスさんにはアリスさんの時間がありますから」
「…ごめんなさい。怒ってる?」
恐る恐る聞いてみた。
そしたら美鈴はニコっと笑って私の頭を撫でた。
「めーりん?」
「怒ってますよ?」
「うっ、…ごめん」
「でもいいんです。こうやってアリスさんに会えただけで、そんな気持ち吹っ飛んじゃいましたから」
「…ホントにごめん」
「もういいですって。それよりもなにか飲み物ないですか?」
「紅茶いれてくから中に入って?」
「はい。お邪魔しますね」
初めて魔理沙以外の人をいれたかもしれない。
だいたいこんな森の中に来る人なんてそういるもんでもないし。
なんか新鮮だなぁ。
あ、紅茶紅茶!
「お人形さんでいっぱいですねぇ」
「ふふっ。可愛いでしょ? どの子も私の自慢の子よ」
「まるで私たちの子みたいですね。ね、アリスさん?」
「んなっ!?」
どこまで恥ずかしいやつなの!
絶対顔赤いよ、これ。
どうしよう。
美鈴の顔見れない。
「アリスさーん? ぼーっとしてると危ないですよ?」
「大丈夫よ! 美鈴も変なこと言わないでよね!」
「変なこと? ああ、子供の話しですか?」
「はい、どうぞ。子供とか言わないでよ!」
「ありがとうございます。いいじゃないですか、私は欲しいですけど」
「ば、ばっかじゃないの!! なに言ってんのよ!」
ダメだ。
これはもう完全に美鈴のペースだ。
恥ずかしくて死にそう。
「あははっ、すみません。でも、もし子供が出来たらアリスさん似の可愛い子なんでしょうね」
「…なによ、それ」
「私に似てもしょうがないですし」
「そんなことないわよ! 私は美鈴似のほうが絶対いい!」
「ほぇ? な、なんでですか?」
「だって、…はっ! な、なに言わせるのよばか!」
「痛っ!? ちょ、叩かないでくださいよ~」
「美鈴が変なこと言わすからでしょ!」
「私のせいですか!? アリスさんが自分で言おうとしたくせに~」
「もう美鈴なんて嫌い! ばかばかばか!」
なんでこんな話しになってるのよ。
恥ずかしくて堪えられない。
美鈴との子供…?
考えただけで恥ずかしい。
それを恥ずかしげもなく笑いながら話す美鈴が、今は憎たらしい。
「アリスさん」
と、急に美鈴の声のトーンが低くなった。
やめてほしい。
その声を出されたら、私の身体はまるで誰かに操られるような感覚に陥るから。
「私のこと嫌いなんですか?」
なんなのよ、それ。
そんなわけないじゃない。
でも、口に出すにはやっぱり勇気がいる。
それを催促するかのように私の耳元で先ほどの問を聞いてくる。
「ねぇ、アリスさん。本当に私のこと嫌いなんですか?」
「…あ、」
「どうなんです? 答えてくれないと、次何するかわかりませんよ?」
「な、なにって…、なにするつもりよ…?」
「さあ? 少なくともアリスさん絶対泣きますね」
「なっ!? 私を泣かせるの!?」
「正直泣きたいのは私の方なんですけどね」
「うぐ、…それは、その…」
そこを突かれると非常に困る。
私だって美鈴のこと好きなのに。
こんな時に何も言えない自分が情けない。
情けない情けない情けない!!
「アリスさん? あの、すごい震えてますけど大丈夫ですか?」
「よ、よく聞きなさい!!」
「はい?」
「わ、わわわたしはねぇ! アンタのことが大好きよ!! 文句ある?!」
「…いえ、…ないです」
言ってやった。
最後はすごい早口&逆切れ状態だったけど、ちゃんと言った。
私ナイスファイト!
「す、素直じゃなくて、悪かったわね…!」
「いや、誰もそんなこと言ってませんけど!?」
「うっさいのよばか!」
「ええっ!? なんですか一歩的に!?」
「ばかばかばかばかばかばかばか!」
「ちょ、アリスさん!?」
「……好きなんだから、ばか」
言わなければよかったと今さら後悔しても遅い。
美鈴の顔を見ただけで自分の顔がさらに熱くなっていくのを感じる。
最悪だ、もうこの空気をどうにかしたい。
今すぐ竜宮の使いにでも頼みたい。
「アリスさん、顔を赤くするのが特技なんですか?」
「そんなわけなでしょ!」
そんな特技聞いたことないわよ。
ギネスに載るんじゃないの?
「アリスさんと居ると本当に楽しいですよ」
「…よかったわね」
「大好きですよ? 幻想郷中の誰よりも」
「…前にも聞いた気がするけど、ありがと」
「アリスさんのことを考えるだけで仕事が手につかないんです」
「…いつもの変わらないと思うけど?」
「いつもより、ですよ。貴方を好きになってよかった」
「…なんで?」
「こんな可愛らしくて素敵な女性は好きにならなくちゃ女が廃りますよ」
「なにそれ、ばっかじゃないの…?」
「そうですね~。私はアリスさんバカなので」
「…ばーか」
なんだか妙に心地のいい空気になった。
まさか竜宮の使いが…!?
やるときはやるのね。
「とりあえず、紅茶のおかわりいいですか?」
「ダメって言ったらどうする?」
「仕方ないのでアリスさんでもいただくとします」
「なにばか言ってんのよ!」
「痛っ!? また叩いたぁ~」
「美鈴が変なこと言うからでしょ?」
「これじゃまたさっきと同じ展開じゃないですか!」
「ふふっ。美鈴のばーか」
「…やれやれ。ばかでいいですからおかわりお願いしますよ」
「しょうがないわね」
私の世界には、貴方が必要なのよ。
どんなに本がたくさんあったって。
どんなに強くなったって。
結局貴方が居ないと、私は弱いまま。
だから貴方のその大きな腕で、私を包んでちょうだい。
ねぇ、美鈴?
果たしてアリスの頭は美鈴のどの辺りになるんでしょうか……w?
ついでに誤字報告です
一歩的に→一方的に