「……ちょっと意地悪し過ぎたかしら?」
「……私にも責任あるか?」
「それなりじゃない?」
「げぇぇ。また八つ当たりでキチガイな弾幕ごっこやらされるのは勘弁なんだぜ」
霊夢に聞こえないようにという配慮か。もしくはただの悪戯心か。
二人は顔を近付けてひそひそと話す。
「大体紫が悪いんだぜ。ってか霊夢関連のごたごたは主に紫の所為なんだからな」
「そんな事を言われてもねぇ」
魔理沙は困ったような顔で言うが、紫は呑気でのんびりとした口調で言葉を返す。
だから魔理沙は余計に困った顔をした。
「機嫌を悪く出来るのもお前なら、良くできるのもお前しかいないんだぞ?」
分かってくるクセに、酷い奴だぜ。
そう付け加えて、魔理沙は冷め切ったお茶をぐびっと飲み干す。
だが予想以上の渋さだったのか、魔理沙は舌をべろっと出して「ぐぇぇ」と呻いた。
「くす。今更ね。妖怪相手に酷いも何も無いんじゃない?」
「そうだなぁ。お前はどっちかというと良い妖怪じゃないな。胡散臭くて何考えてるか分からないし、神出鬼没だし、意地悪だし……あー、あとなんだ? いて欲しい時にいてくれないだったか?」
「……それ霊夢が言ったの?」
「あぁ。霊夢の独り言を盗み聞きしたから間違いないぜ」
魔理沙は「にしし」とまるで悪戯っ子のように笑って、紫は少し困ったような顔。
そんな悪戯っ子の白黒魔法使いは、無邪気に笑ったまま「でも」と付け足す。
「私はそんな酷い妖怪でも、悪い奴とは思ってないぜ」
知ってたか? 天パーに悪い奴はいないんだ。
また「にしし」と歯を見せて笑う。
紫も小さく笑みを返した。
「それは初めて聞いた定理ね」
「そりゃそうだ。今初めて言ったからな。今日から座右の銘にしたっていいぞ」
このでっち上げをですか、白黒先生?
そうですよ、八雲君。
そんな風にふざけ半分に言葉を交わしながら、紫はまた魔理沙の頭を良い子良い子と撫でた。
「まだやってんの?」
と、そんな仲良さ気な二人に、霊夢の不機嫌そうな低い声が一つ。
不機嫌度が「Lv.1」から「Lv.2」へと移行してしまった様子の霊夢に、魔理沙は大袈裟に怖がってみせた。
「おぉ、こわいこわい。じゃあ脇役は大人しく退散しとくに限るぜ」
「あら、一人だけ逃げるなんてズルいじゃない?」
「紫は私の為に人身御供だ。じゃあな!」
合羽を手早く纏って、魔理沙は手をひらひらと振って出て行く。
しとしと降る雨の合間を縫うように、流れ星みたいな軌跡を残して飛んでいく箒に跨った魔法使いの姿が遠くに消えて行った。
「……人身御供、ねぇ」
紫はどこか不敵に微笑んで、その場で盆を持ったまま立っている霊夢を見上げた。
「……何よ?」
霊夢はむすっとした顔で紫の視線を受け取って、やっぱり不機嫌な調子の声で返した。
「イケニエですって。妖怪の私が」
「はぁ?」
肩を竦めながら言う紫に、霊夢は首を傾げた。