※この作品は、作品集106「緑の瞳」「Green eyes」作品集107「黒猫と嫉妬姫」作品集108「黒い猫と妬み姫」作品集112「嫉妬の緑、愛しの黒」の続編です。
上記の作品を読んでいない方は、ぜひともご覧ください。
また、全て読んでいるという方は、最後までお付き合いいただくと幸いです。
黒猫の子供が、橋から転げ落ちていく。
川へと落ちて、暴れる子猫へ手を伸ばしても、沈み、流れていく子猫。
必死に鳴いて抵抗するその子に、私は何もしてあげられなかった。
やがて、段々沈んでいく。
それをただ、私は指をくわえて見ているしかなかった……。
「にゃぉん」
耳元で何やら聞こえるので、ゆっくりと目を開く。
すると、目の前に広がったのは、視界を埋め尽くすほどの緑の瞳だった。
他でもない、黒猫達のもの。
しばらくぼーっとしている戸、私の頬をざらざらの舌で舐めてくる。
小さくにゃーんと鳴きながら舐めなくても、起きてるのに。
「わかった。起きるからどきなさい」
「んにゃぅ」
私に乗っかっている黒い子猫達をそっとどかすと、ゆっくりと立ち上がる。
親は何処にいるんだと辺りを見渡せば、橋の奥の方で丸まっている。
親が子を放っておくとは何事なのよ……。
「にゃーん」
「にゃおーん」
「んにゃ~ん」
「あ~もう、うっさいわね。何なのよもう」
あの黒猫が子供を産んでから数カ月経った。
小さいものは成長が早く、自由に歩き回れるようになっていた。
子猫が産まれたことを霊夢に報告すると、彼女は私に食いつくようにして話しかけてきた。
「え!? もう生まれたの!?」
「おかげさまで。四匹生まれたわ」
「四匹もなの!? ちょっと見に行ってもいいかしら」
「まぁ、好きにすればいいわ」
その後、霊夢が急ぐようにして黒猫の元へと行き、発狂していた。
普段の霊夢とはかけ離れ、女の子っぽさ全開だった。
普段からあれくらいだと可愛らしいのになぁと思うが、口にはできなかった。
なぜなら、その一言で私の身がぼろぼろにされるかされないかが決まるからだ。
また、パチュリーにもそれを知らせてあげた。
すると、
「あら、おめでとう」
「あなたのおかげで凄い助かったわ。本当にありがとう」
「いいえ、いいのよ。それよりも、今度その猫を見せてくれないかしら?」
「え?」
「いや、あの……。私だって見てみたいわ」
「あら、そう。ならいつでもいらっしゃいな」
顔を微妙に赤く染めながら、パチュリーが頼むので、意外だなぁと思った。
なんっていうか、実際に見てみたいとか言いそうにないから。
それから数日後、パチュリーが黒猫を見に来た。
なんというか、意外な一面を垣間見た気がする。
動物相手だと皆変わるんだなぁと、霊夢とパチュリーの様子を見て改めて実感した。
それはそうと、最近は子猫たちのせいで、お昼寝もろくにさせてくれなくなった。
今までは一匹だけだったのに、四匹増えて、今では五匹。
今までの一匹は、勝手にぶらぶらお散歩にいったり、寝てたりしておとなしかったのに、活発な子猫が四匹も増えると変わるものだ。
ゆっくりすることが出来ないのはちょっと残念だけど、騒がしいのも嫌いではない。
まぁ、宴会ほど騒がしいとちょっと辛いものはあるけれど。
しかしながら、嫌な夢を見たものだ。
子猫が溺れてしまう夢なんて……。
まぁ、親猫がちゃんと見張ってれば心配ないんだけど。
「親がこれじゃあねぇ」
眠っている黒猫の頭をそっと撫でる。
片方だけ、薄く目を開けながらこちらを見つめる黒猫は、むすっとしている様子だった。
子猫が増えたせいか、なんというか可愛らしくない。
真っ黒の鼻をツンとつつくと、首をビクンと引っ込め、ゆっくりと起き上がった。
「んにゃぁ~ぉ」
大きなあくびをして起きた黒猫の周りに、子猫たちが集まってくる。
可愛らしい鳴き声で、黒猫に頭をなすりつけている。
まだ私にはこんなことしてくれない。
せいぜいやってくれても舐める程度。
これが親の特権なのだろう、妬ましいったらありゃしない。
ふと黒猫を見ると、こっちをじーっとみている。
え、なに? いいだろって自慢でもしてるのこれ。
べ、別に羨ましくとも何ともないんだけど、え? 何これ。
「んにゃ~お」
「うっさい馬鹿。もういいもん」
もう寝るからいいもん。
勝手にいちゃいちゃしてればいいじゃない。
黒猫から離れたところに座ると、ゆっくりと私は目を閉じた。
その、目を閉じる最後まで、黒猫は私の方をずっとみたままだった。
ぼちょん……。
何か音が聞こえる。
私が気持ちよく寝ているのに、一体何の音だろう
「にゃおん」
続いて、猫の鳴き声が聞こえてきた。
声からして、子猫ではなく、親の方の黒猫だろう。
親の方が起こすなんて珍しいこともあるんだなぁと私は思った。
「にゃおー」
しつこく鳴くので、私が目を開けると、黒猫の緑の瞳と視線が合う。
そのまま、視線を橋の下にやって見せた。
その黒猫の目線の先で、何やらばしゃばしゃと音が聞こえる。
私はもう、迷うことなく橋へと足をかけた。
眼下には川が広がり、その川の中心で子猫が溺れかけている。
私は橋を蹴ると、そのまま川へと落ちていった。
バシャーン!
川の冷たい水の感触が全身を襲う。
それを気にせずに、私は溺れかけの子猫を掬いあげた。
少し水を飲んでしまったのか、少しばかり辛そうに見える。
橋の上にあげると、親の黒猫の元へと持っていった。
少し弱り、毛がびしょびしょになった子猫を、親の黒猫がぺろぺろと舐める。
頭を擦りつけ、怖かったよぉ~とでも言いたげな様子だった。
そりゃ怖いよね、急に川に落ちたら。
黒猫が、子猫から目線をそらし、私の方に目を向ける。
まっすぐ私の方を見て、首をかしげながら
「にゃーん」
私に、ありがとうとでも言うように鳴いた。
必死に自分の子供を助ける為に、鳴いてたんだよね。
私しか頼れるのがいないから鳴いてたんだよね。
「ごめんね、頼りのない飼い主で」
「んにゃぅ」
ごめんという意味も込めていった言葉に、黒猫は答えてくれた。
私は推測しか出来ないけれど、きっと、そんなことないと励ましてくれたんだと思う。
それはそうと、またこういうことが起きないとは完全に言いきれない。
さてと、どうしたものか。
「そうねぇ……」
あまり頼みたくはないけれど、仕方がない。
私は、旧都の方へと足を運んだ。
旧都の方へ行くと、私は勇儀の元へと向かった。
鬼は工事とかそういうのが上手いらしいので、知り合いでもある勇儀に、橋に網を張ってほしいということを伝えた。
すると、快く承諾してくれて、即日のうちに網を設置してくれた。
「ありがとう、勇儀。助かったわ」
「なぁに、気にするこたぁないさ。それじゃ、またな」
「うん、それじゃ」
手を振り、勇儀に別れを告げた。
橋を今一度見てみる。
落ちないようにネットが張ってあり、また、それでも落ちた時の為に橋の下の方にもネットが張ってある。
これで落ちる心配も無くなった。
私は黒猫をひょいと持ち上げると、ネットをよく見せてやった。
子猫の親として、これで安心してもらえるかどうかを見てほしかったのだ。
辺りを見させると、地面に下ろしてあげる。
「どう? これで安心できる?」
一度私の顔を見上げた後、ぷいと背中を向けてしまった。
そのまま向こうへ行こうとするので、私は黒猫の尻尾を掴んだ。
「んにゃう」
「んにゃう、じゃないわよ。何か言ったらどうなのよ」
折角黒猫達の為だけに勇儀に頼んでもらったのに、この反応はひどいと思う。
じーっと見つめていると、こっちの方にやってきた。
一度立ち止まり、私の目をじーっと見た後、私の膝に頭を擦りつけた。
「にゃーん」
「……んもぅ」
黒猫の頭を撫でてやると、満足そうに瞳を閉じた。
やがて撫で終わると、向こうでじゃれ合っている子猫たちの元へと向かった。
前まで妙に小さく感じたのに、今では何だか大きく感じた。
もう、四匹の子猫を引き連れた親だもんね。
いつまでもわがままなお嬢様のままじゃいられないよね。
「なんか、憧れるわね」
嫉妬を含んだ瞳で、私は黒猫を見つめた。
だけど黒猫は、振り向くことはなかった。
最初は、子猫たちは親のお乳を飲んでいたものの、黒猫が食事をしているのを見て、段々同じものを食べるようになってきた。
また、狩りをするようになってきた。
私としてはとても嬉しくない事なのに、子猫の方まで狩ってきた獲物を見せびらかしに来る。
私はそのたびに黒猫を叱るのだが、聞く耳持たない様子だった。
黒猫は賢いのか頭が悪いのかどっちなのかよくわからない。
人の話を理解してるような時もあれば、何度注意しても全く言うことを聞かない時もある。
つくづく動物と言うのは不思議だと思う。
「にゃぉー」
「にゃーん」
私が橋の上でぼーっとしていると、子猫は私のスカートの下に付いている、赤い紐であやとりを始める。
最近の子猫たちのブームらしく、暇があれば赤い紐でじゃれる。
可愛らしいのだが、足元でふらふらされたら踏んでしまうかもしれない。
注意しても、可愛らしくにゃーんと鳴くだけで、親と同じで聞く耳を持たない。
「にゃぉーん」
「んにゃ~」
「はいはい、えさでしょ? 今持ってくから下で待ってなさい」
黒猫と子猫たちのえさの時間は大体決まっている。
えさは橋の下で食べることにさせている。
黒猫の方は下で待っているのだが、子猫たちは待つことができず、私の周りをうろうろと歩き回っている。
一度尻尾を踏んでしまったこともあり、引っ掻かれた。
びっくりしてえさを放り投げてしまったこともあるので、注意しなければいけない。
……とはいえ、毎回毎回私の周りをうろうろされても困る。
私は両手にえさを持って橋をゆっくり下りていく。
その途中も子猫が周りをずっとくるくると歩き回っているため、動きづらい。
「にゃぉーん」
「にゃー」
移動しながらも、ぷらんぷらんと揺れる赤い紐に前足を伸ばす子猫たち。
あぁ、可愛い。
小さいって卑怯だと思う、なんか可愛く見えるんだもん。
「んにゃおーぅ」
ふと、何かスカートが引っ張られるような感覚を覚えた。
下をふと見ると、赤い紐に子猫の爪が引っ掛かっており、暴れている。
え? ちょっと、これ……
その時、私のスカートがぱさりと地に落ちた。
「っ!?」
しゃがんで、両手のえさを橋の上に置くと、急いでスカートを掴む。
周りを見渡し、誰もいないかを確認する。
誰もいないことを確認すると、赤い紐に引っかかった爪を慎重にとり、スカートをはく。
その間に私が地面に置いたえさを子猫たちは食べていた。
凄い連携だったんだけど、これは狙ってたとしたら相当凄いと思うんだけど……。
えさを食べる黒猫をじーっと見つめ、そして頭を撫でた。
なんというかマイペースな子猫たちだなぁと思った。
自分たちのやりたいことを自由にやっている感じがする。
「まるであんたたちの母親みたいね」
橋の下を眺める。
すると、そこにはえさを待ちわびている黒猫の姿があった。
「にゃおーん」
遠くから私を眺めて鳴いている。
子猫はえさをここで食べているのに、ちゃんと指定した場所でえさを待っている。
ほんと、賢いのかどうなのかわからない。
私はえさの入った容器を持つと、橋の下で待つ猫の元へと運んでいった。
「ほら、どうぞ」
「にゃーん」
黒猫は、待ちに待ったえさを食べ始めた。
がっつくことなく、落ち着いた様子だった。
なんというか、大人になったなぁと思う。
「お前もいつまでも無邪気なお嬢様じゃいられないもんね」
それに対し、黒猫は左右に尻尾を振って答えた。
黒猫の隣に座ると、背中を撫でてやった。
「なんだか急に大人っぽくなっちゃたわね。何だか少しさみしいわ」
「んにゃう?」
私の膝に頭を擦りつけ、そっと差し出した指をあまがみした。
いたくはない。
優しく噛んだ私の指には、ほんのり黒猫の温かさが残っていた。
ふと眼と眼が合う。
優しそうな、愛情に満ちた緑の瞳がそこにはあった。
私のは、嫉妬に満ちた緑の瞳でしかない。
何だか羨ましいなぁと思った。
「んにゃぅ」
「ん? 励ましてくれるの?」
今の私には、その黒猫の鳴き声が、励ましてくれているような気がした。
じーっとこっちを見つめる黒猫の頭をそっと撫でてやった。
「ありがと」
それには何も答えずに、私の膝に頭をなすりつけるだけだった。
上記の作品を読んでいない方は、ぜひともご覧ください。
また、全て読んでいるという方は、最後までお付き合いいただくと幸いです。
黒猫の子供が、橋から転げ落ちていく。
川へと落ちて、暴れる子猫へ手を伸ばしても、沈み、流れていく子猫。
必死に鳴いて抵抗するその子に、私は何もしてあげられなかった。
やがて、段々沈んでいく。
それをただ、私は指をくわえて見ているしかなかった……。
「にゃぉん」
耳元で何やら聞こえるので、ゆっくりと目を開く。
すると、目の前に広がったのは、視界を埋め尽くすほどの緑の瞳だった。
他でもない、黒猫達のもの。
しばらくぼーっとしている戸、私の頬をざらざらの舌で舐めてくる。
小さくにゃーんと鳴きながら舐めなくても、起きてるのに。
「わかった。起きるからどきなさい」
「んにゃぅ」
私に乗っかっている黒い子猫達をそっとどかすと、ゆっくりと立ち上がる。
親は何処にいるんだと辺りを見渡せば、橋の奥の方で丸まっている。
親が子を放っておくとは何事なのよ……。
「にゃーん」
「にゃおーん」
「んにゃ~ん」
「あ~もう、うっさいわね。何なのよもう」
あの黒猫が子供を産んでから数カ月経った。
小さいものは成長が早く、自由に歩き回れるようになっていた。
子猫が産まれたことを霊夢に報告すると、彼女は私に食いつくようにして話しかけてきた。
「え!? もう生まれたの!?」
「おかげさまで。四匹生まれたわ」
「四匹もなの!? ちょっと見に行ってもいいかしら」
「まぁ、好きにすればいいわ」
その後、霊夢が急ぐようにして黒猫の元へと行き、発狂していた。
普段の霊夢とはかけ離れ、女の子っぽさ全開だった。
普段からあれくらいだと可愛らしいのになぁと思うが、口にはできなかった。
なぜなら、その一言で私の身がぼろぼろにされるかされないかが決まるからだ。
また、パチュリーにもそれを知らせてあげた。
すると、
「あら、おめでとう」
「あなたのおかげで凄い助かったわ。本当にありがとう」
「いいえ、いいのよ。それよりも、今度その猫を見せてくれないかしら?」
「え?」
「いや、あの……。私だって見てみたいわ」
「あら、そう。ならいつでもいらっしゃいな」
顔を微妙に赤く染めながら、パチュリーが頼むので、意外だなぁと思った。
なんっていうか、実際に見てみたいとか言いそうにないから。
それから数日後、パチュリーが黒猫を見に来た。
なんというか、意外な一面を垣間見た気がする。
動物相手だと皆変わるんだなぁと、霊夢とパチュリーの様子を見て改めて実感した。
それはそうと、最近は子猫たちのせいで、お昼寝もろくにさせてくれなくなった。
今までは一匹だけだったのに、四匹増えて、今では五匹。
今までの一匹は、勝手にぶらぶらお散歩にいったり、寝てたりしておとなしかったのに、活発な子猫が四匹も増えると変わるものだ。
ゆっくりすることが出来ないのはちょっと残念だけど、騒がしいのも嫌いではない。
まぁ、宴会ほど騒がしいとちょっと辛いものはあるけれど。
しかしながら、嫌な夢を見たものだ。
子猫が溺れてしまう夢なんて……。
まぁ、親猫がちゃんと見張ってれば心配ないんだけど。
「親がこれじゃあねぇ」
眠っている黒猫の頭をそっと撫でる。
片方だけ、薄く目を開けながらこちらを見つめる黒猫は、むすっとしている様子だった。
子猫が増えたせいか、なんというか可愛らしくない。
真っ黒の鼻をツンとつつくと、首をビクンと引っ込め、ゆっくりと起き上がった。
「んにゃぁ~ぉ」
大きなあくびをして起きた黒猫の周りに、子猫たちが集まってくる。
可愛らしい鳴き声で、黒猫に頭をなすりつけている。
まだ私にはこんなことしてくれない。
せいぜいやってくれても舐める程度。
これが親の特権なのだろう、妬ましいったらありゃしない。
ふと黒猫を見ると、こっちをじーっとみている。
え、なに? いいだろって自慢でもしてるのこれ。
べ、別に羨ましくとも何ともないんだけど、え? 何これ。
「んにゃ~お」
「うっさい馬鹿。もういいもん」
もう寝るからいいもん。
勝手にいちゃいちゃしてればいいじゃない。
黒猫から離れたところに座ると、ゆっくりと私は目を閉じた。
その、目を閉じる最後まで、黒猫は私の方をずっとみたままだった。
ぼちょん……。
何か音が聞こえる。
私が気持ちよく寝ているのに、一体何の音だろう
「にゃおん」
続いて、猫の鳴き声が聞こえてきた。
声からして、子猫ではなく、親の方の黒猫だろう。
親の方が起こすなんて珍しいこともあるんだなぁと私は思った。
「にゃおー」
しつこく鳴くので、私が目を開けると、黒猫の緑の瞳と視線が合う。
そのまま、視線を橋の下にやって見せた。
その黒猫の目線の先で、何やらばしゃばしゃと音が聞こえる。
私はもう、迷うことなく橋へと足をかけた。
眼下には川が広がり、その川の中心で子猫が溺れかけている。
私は橋を蹴ると、そのまま川へと落ちていった。
バシャーン!
川の冷たい水の感触が全身を襲う。
それを気にせずに、私は溺れかけの子猫を掬いあげた。
少し水を飲んでしまったのか、少しばかり辛そうに見える。
橋の上にあげると、親の黒猫の元へと持っていった。
少し弱り、毛がびしょびしょになった子猫を、親の黒猫がぺろぺろと舐める。
頭を擦りつけ、怖かったよぉ~とでも言いたげな様子だった。
そりゃ怖いよね、急に川に落ちたら。
黒猫が、子猫から目線をそらし、私の方に目を向ける。
まっすぐ私の方を見て、首をかしげながら
「にゃーん」
私に、ありがとうとでも言うように鳴いた。
必死に自分の子供を助ける為に、鳴いてたんだよね。
私しか頼れるのがいないから鳴いてたんだよね。
「ごめんね、頼りのない飼い主で」
「んにゃぅ」
ごめんという意味も込めていった言葉に、黒猫は答えてくれた。
私は推測しか出来ないけれど、きっと、そんなことないと励ましてくれたんだと思う。
それはそうと、またこういうことが起きないとは完全に言いきれない。
さてと、どうしたものか。
「そうねぇ……」
あまり頼みたくはないけれど、仕方がない。
私は、旧都の方へと足を運んだ。
旧都の方へ行くと、私は勇儀の元へと向かった。
鬼は工事とかそういうのが上手いらしいので、知り合いでもある勇儀に、橋に網を張ってほしいということを伝えた。
すると、快く承諾してくれて、即日のうちに網を設置してくれた。
「ありがとう、勇儀。助かったわ」
「なぁに、気にするこたぁないさ。それじゃ、またな」
「うん、それじゃ」
手を振り、勇儀に別れを告げた。
橋を今一度見てみる。
落ちないようにネットが張ってあり、また、それでも落ちた時の為に橋の下の方にもネットが張ってある。
これで落ちる心配も無くなった。
私は黒猫をひょいと持ち上げると、ネットをよく見せてやった。
子猫の親として、これで安心してもらえるかどうかを見てほしかったのだ。
辺りを見させると、地面に下ろしてあげる。
「どう? これで安心できる?」
一度私の顔を見上げた後、ぷいと背中を向けてしまった。
そのまま向こうへ行こうとするので、私は黒猫の尻尾を掴んだ。
「んにゃう」
「んにゃう、じゃないわよ。何か言ったらどうなのよ」
折角黒猫達の為だけに勇儀に頼んでもらったのに、この反応はひどいと思う。
じーっと見つめていると、こっちの方にやってきた。
一度立ち止まり、私の目をじーっと見た後、私の膝に頭を擦りつけた。
「にゃーん」
「……んもぅ」
黒猫の頭を撫でてやると、満足そうに瞳を閉じた。
やがて撫で終わると、向こうでじゃれ合っている子猫たちの元へと向かった。
前まで妙に小さく感じたのに、今では何だか大きく感じた。
もう、四匹の子猫を引き連れた親だもんね。
いつまでもわがままなお嬢様のままじゃいられないよね。
「なんか、憧れるわね」
嫉妬を含んだ瞳で、私は黒猫を見つめた。
だけど黒猫は、振り向くことはなかった。
最初は、子猫たちは親のお乳を飲んでいたものの、黒猫が食事をしているのを見て、段々同じものを食べるようになってきた。
また、狩りをするようになってきた。
私としてはとても嬉しくない事なのに、子猫の方まで狩ってきた獲物を見せびらかしに来る。
私はそのたびに黒猫を叱るのだが、聞く耳持たない様子だった。
黒猫は賢いのか頭が悪いのかどっちなのかよくわからない。
人の話を理解してるような時もあれば、何度注意しても全く言うことを聞かない時もある。
つくづく動物と言うのは不思議だと思う。
「にゃぉー」
「にゃーん」
私が橋の上でぼーっとしていると、子猫は私のスカートの下に付いている、赤い紐であやとりを始める。
最近の子猫たちのブームらしく、暇があれば赤い紐でじゃれる。
可愛らしいのだが、足元でふらふらされたら踏んでしまうかもしれない。
注意しても、可愛らしくにゃーんと鳴くだけで、親と同じで聞く耳を持たない。
「にゃぉーん」
「んにゃ~」
「はいはい、えさでしょ? 今持ってくから下で待ってなさい」
黒猫と子猫たちのえさの時間は大体決まっている。
えさは橋の下で食べることにさせている。
黒猫の方は下で待っているのだが、子猫たちは待つことができず、私の周りをうろうろと歩き回っている。
一度尻尾を踏んでしまったこともあり、引っ掻かれた。
びっくりしてえさを放り投げてしまったこともあるので、注意しなければいけない。
……とはいえ、毎回毎回私の周りをうろうろされても困る。
私は両手にえさを持って橋をゆっくり下りていく。
その途中も子猫が周りをずっとくるくると歩き回っているため、動きづらい。
「にゃぉーん」
「にゃー」
移動しながらも、ぷらんぷらんと揺れる赤い紐に前足を伸ばす子猫たち。
あぁ、可愛い。
小さいって卑怯だと思う、なんか可愛く見えるんだもん。
「んにゃおーぅ」
ふと、何かスカートが引っ張られるような感覚を覚えた。
下をふと見ると、赤い紐に子猫の爪が引っ掛かっており、暴れている。
え? ちょっと、これ……
その時、私のスカートがぱさりと地に落ちた。
「っ!?」
しゃがんで、両手のえさを橋の上に置くと、急いでスカートを掴む。
周りを見渡し、誰もいないかを確認する。
誰もいないことを確認すると、赤い紐に引っかかった爪を慎重にとり、スカートをはく。
その間に私が地面に置いたえさを子猫たちは食べていた。
凄い連携だったんだけど、これは狙ってたとしたら相当凄いと思うんだけど……。
えさを食べる黒猫をじーっと見つめ、そして頭を撫でた。
なんというかマイペースな子猫たちだなぁと思った。
自分たちのやりたいことを自由にやっている感じがする。
「まるであんたたちの母親みたいね」
橋の下を眺める。
すると、そこにはえさを待ちわびている黒猫の姿があった。
「にゃおーん」
遠くから私を眺めて鳴いている。
子猫はえさをここで食べているのに、ちゃんと指定した場所でえさを待っている。
ほんと、賢いのかどうなのかわからない。
私はえさの入った容器を持つと、橋の下で待つ猫の元へと運んでいった。
「ほら、どうぞ」
「にゃーん」
黒猫は、待ちに待ったえさを食べ始めた。
がっつくことなく、落ち着いた様子だった。
なんというか、大人になったなぁと思う。
「お前もいつまでも無邪気なお嬢様じゃいられないもんね」
それに対し、黒猫は左右に尻尾を振って答えた。
黒猫の隣に座ると、背中を撫でてやった。
「なんだか急に大人っぽくなっちゃたわね。何だか少しさみしいわ」
「んにゃう?」
私の膝に頭を擦りつけ、そっと差し出した指をあまがみした。
いたくはない。
優しく噛んだ私の指には、ほんのり黒猫の温かさが残っていた。
ふと眼と眼が合う。
優しそうな、愛情に満ちた緑の瞳がそこにはあった。
私のは、嫉妬に満ちた緑の瞳でしかない。
何だか羨ましいなぁと思った。
「んにゃぅ」
「ん? 励ましてくれるの?」
今の私には、その黒猫の鳴き声が、励ましてくれているような気がした。
じーっとこっちを見つめる黒猫の頭をそっと撫でてやった。
「ありがと」
それには何も答えずに、私の膝に頭をなすりつけるだけだった。
ぅなーぉ、ふえましたねぇ……嫉ましい。
でも、子猫が川に落ちちゃうシーンはちょっとショッキングですね
冒頭の夢は、親猫視点の予知夢のようにも思えますし……何より熟睡していたら……
まぁ、無事で何よりです。よかったぁ。
でも、子猫達もいずれ成長したら、誰か――例えばどこぞの紅白とか――が引き取ってくれたりするんでしょうか。
このお話は、何処までも広がっていきそうで、毎度楽しみです。
子猫いいぞよくやった! 今度はもうちょっとギャラリーがいるときによろしく!
猫相手に3デレトリオも可愛いだろ。絶対赤ちゃん言葉で子猫に話しかけてるに違いない。
その普段から考えられない姿を激写しに文ちゃんがやってくるものの、ミイラ取りがミイラになりそうだ。
毎回楽しみにしています。
評価ありがとうございます。
待たせました、すみません。
私も、この作品をどのように進めていくか想像するのがとても楽しみですわ。
>10 様
評価ありがとうございます。
そういってくださると嬉しいです。
書いていてよかったなぁと思います。
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
他人とこういう話をすると、なんかいくらでもネタが浮かんできそうですw
次はどうしようかなぁと考えれば考えるほど楽しくなってきます。
>13 様
評価ありがとうございます。
前回は子猫を産みましたからねぇ。
ありがとうございます。
うんうん、書けるうちにいっぱい書いとくのが吉ですよ!
もしかしたら、いずれどんなに書きたくても書けなくなる時が来るかもしれないんですから、ね(ウゥゥ;
パルスィも母猫の風格に感じるものがあるようですね
よしパルスィ!俺と子作りしy(グシャリ