甘いクッキーなんて、どこまで甘くすればいいのよ…?
正直に言って私自身味見をするのはちょっと地獄を見る気がする。
だいたいあんな笑顔でなんてこと言ってるのよあの門番。
いろいろと勘違いしちゃうじゃない。
「…はぁ。この先どうしたらいいのよ…」
愚痴を吐くつもりはないけど、不安が募っていくのは事実。
私がどんなに美鈴を好きになっても、あの笑顔を私の物にするのは厳しい。
いや、美鈴は物じゃないけど…。
それでも私だけを見て欲しいと思ってしまうのは仕方のないことだと思う。
付き合ってるわけでもないけど、さ…。
「…なんて考えてるうちにクッキー出来たし」
あとは味見して、よければ美鈴に渡すだけ。
でもなぁ…。
「これ食べて私が死んだら…、」
そう考えるだけで寒気がした。
だってこのクッキーには通常の7倍もの量の砂糖を入れたのだ。
恐くて食べられない。
もっと甘くとはどれくらいなのか、どこまで甘くしてよいものなのか。
イマイチわからないのだ。
「とりあえず、魔理沙にでも食べさせるか?」
いやいや、これは美鈴のために作ったクッキー。
他の誰かに食べさせるなど、絶対にダメだ。
なら、どうする?
ここは覚悟を決めてやはり自分で食べるか……?
「う~~~っ! 食べて砕けろ!!」
思いっきりパクっと食べた。
そして食べた後に後悔した…。
ゴミ箱を用意しておくべきだった、と。
「……危うく三途の川渡りかけたわ」
(小町! サボってるからアリス・マーガトロイドの魂も一緒に送るところでしたよ! 反省してください!)
(ご、ごめんないさぁ~い!)
閻魔と死神の声が聞こえた。
本当に危なかった。
「それにしても…、これはちょっと甘過ぎじゃないかしら」
ちょっとではなくかなり。
さすがの美鈴でもこれはヤバいだろう。
ここまで甘いと味覚が狂う。
「でも、一応持って行こうかな…?」
結局美鈴に逢いたいからクッキーはこのままで持って行くことにした。
綺麗に包んで可愛くラッピング。
そしてこれだけだと絶対甘い。
この東○ハ○ズで買った魔法瓶に紅茶をいれて、さっそく紅魔館に向かった。
「…着いた」
目的地に到着。
美鈴は寝ていた。
やっぱり可愛い寝顔してるなぁ。
このあどけない表情を見るのが好き。
いや、全部好きだけど…。
「おーい美鈴? クッキー、持ってきたよ?」
「ん~…、はっ!? アリスさんじゃないですか。こんにちは」
「また仕事サボって…。恐いメイド長に怒られるわよ?」
「あはは…。大丈夫ですよ、あれくらいなら平気ですから」
「もうっ…ばかね」
「自覚してます。それよりも今日も図書館ですか?」
美鈴が一瞬悲しそうな顔をした。
なんでそんな顔するのよ、また勘違いしちゃうでしょ?
「…今日は、貴方に用があって来たの」
「私、ですか?」
「ええ。はい、これ」
「これ、クッキーですか?」
「そうよ? 貴方のお望み通り、甘くしたわ。でもかなり甘くしたからちょっと胃のストレッチした方がいいと思う」
「大丈夫ですよ! 私は強靭な胃の持ち主ですから!」
「…ならいいけど。どこまで甘くすればいいかわからなかったから相当甘くなってるわよ?」
「平気です! 甘いの大好きですから」
「一応これ紅茶」
「ありがとうございます、アリスさん。それではいただきまーっす!!」
美鈴がクッキーを口にいれた。
さあ、どう?
あれ…、なんか美鈴が震え始めた?
やっぱりいくら美鈴でもこれは甘すぎたかな…?
「あの、美鈴? 大丈夫?」
「ん~~~~~っまい!! 美味しいですよアリスさん!」
「…へ?」
「いやぁ~。私の好みをよくぞ当ててくれました! この甘さが大好きなんです!」
「そ、なの? この激甘が…?」
「はいっ!! 大好きです!」
大好き、か。
よくこんな甘いものを平気で食べられるなぁ。
さずが強靭な胃の持ち主。
見てるだけで吐き気がするのはなんでだろう…?
「やっぱりアリスさんの作るお菓子が一番好きです!」
「ッ!? や、やめなさいよ、そんなお世辞はいらないから…!」
「お世辞なんかじゃありせんよ! 私本当にアリスさんが好きなんです!」
「…えっ!?」
「…? どうかしましたか?」
「いや、今なんて言ったの?」
「だからアリスさんの作るお菓子が一番好きだって…」
「じゃなくて! え、気付いてない、の?」
「なにがですか?」
無意識で言ったの?
いや、だからってあんなこと言うはずは…ない、わよ。
ヤバっ…、顔熱くなってきた。
また美鈴に心配かけちゃう。
「…また、熱ですか?」
「えっ?」
「顔、真っ赤ですよ?」
「あ、いやあの…、大丈夫だから!」
「本当ですか? さっきまでそんなに赤くありませんでしたよ?」
「私いつもこんな感じよっ!?」
「わかりますよ、嘘ですよねそれ。私、いつもアリスさんのこと見てましたから」
「…めー、りん?」
「アリスさんのあの白い肌がここまで赤くなってるんですから、嘘ですよね?」
「えっと…、あの…」
どうしちゃったんだろう?
さっきまでの無邪気な顔からから一変して真剣な顔つきになって。
「アリスさん」
「は、はいっ!?」
低い音で呼ばれたその声に、思わず身体をビクリと弾ませた。
あ、なんだろうこれ。
ニゲラレナイ…?
「なんで、そんなに顔真っ赤なんですか?」
「これ、は…」
「私、なにか言いました?」
「言ったといえば、まあ、言ったのかな…?」
「なんて言いましたっけ? 教えてくれませんかね?」
こんな美鈴は初めてだ。
私の視線を外さないように気を操っているのか。
どうにも美鈴から目を逸らせない。
私は完全に捕まった状態だ。
「えっと…、それは、」
「ああ、思い出しましたよ。今、完全にね」
「え?」
「私本当にアリスさんが好きなんです、でしたっけ?」
「ッ!?」
「どうしました? さっきよりも顔が赤くなっている気がするんですが?」
「気のせいよ!」
「そうですか? ああ、ついでだから言っておきますね?」
「なにを…?」
「アリスさんは誰にも渡しませんよ? パチュリー様にだって渡す気はありません」
「なっ!? めーりん!?」
「すみません。突然こんなこと言って…。困りますよね?」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか。
急に沈んでしまった。
というか、私が好き?
え、いったいどういうことなの?
「あの、めーりん?」
「…なんですか?」
「ホントに、私のこと、好きなの…?」
「好きですよ。この幻想郷中の誰よりも、貴方を愛しています」
「あ、愛してるってそんなことっ…!」
「本当のことを言ったまでですよ。私はアリスさんが好きです」
「う、あ……」
思考回路ショート寸前。
誰か私に新しい頭を用意して…。
ジャ○おじさんに頼まなきゃ。
「返事は、アリスさんの心の整理がついてからでいいです。てか、そうしてください」
「………。」
「えっと、このクッキー美味しかったですよ。私、気に入りました」
「………。」
「よかったら、また作ってくれませんか? 図々しいかもしれませんけど…、ってアリスさん?」
「…あっ、な、なに?」
「いえ。大丈夫ですか? ぼーっとしてますけど、」
「だ、大丈夫よ!」
「そうですか? あ、そういえば咲夜さんに用があるのすっかり忘れてた。それじゃあ、また…」
「ま、待ってよ!!」
「…はい?」
どうして私を置いていくの?
あれだけ言っといて、他の女のところへいくの?
私は、そんなの…
「いや」
「…え?」
「絶対に嫌よ!」
「あ、そんなに私のこと、嫌い、でしったか…?」
「へっ? あ、いや、違うわよ! そうじゃなくて、」
「いいんですよ無理しなくても。そりゃいきなり好きですとか言われても…」
「違うって言ってるでしょ! 聞きなさいよ!」
「アリスさん…?」
言わなきゃ!
今言わないで、いつ言うのよ!
ほら、美鈴も困ってるじゃない!
「嫌なのは、咲夜のところに行こうとしたからよ…」
「…アリスさん」
「そ、それに! わ、わわわわたしも、美鈴のこと、すすすすす好き、だから…!」
「本当、ですか?」
「………こんなことで嘘ついてどうするのよ」
「ふふっ」
「なっ、なに笑ってるのよ!?」
「いえ、あまりにもアリスさんが可愛かったものですから、つい」
「なによそれ!?」
「あははっ、でもまあよかったですよ。嫌われたのかと思いましたよ」
「嫌いになるわけ、ないでしょ…」
「そうですか…。ところで、アリスさん?」
「…なによ?」
「今日私の部屋に泊りませんか?」
「ぶっ!! な、なに言ってるのよ!!」
いきなりの申し出に思わず吹いてしまった。
確かに美鈴とはもっと一緒に居たいけども。
そんなことすれば私の命がいくつあっても足りない気がする。
いや、絶対足りない。
メイド長にナイフで刺されて、悪魔の妹には粉々にされる可能性が……。
「少しでも長く、アリスさんと一緒に居たいんです。ダメですか?」
「ダメじゃ、ない、けど」
「じゃあ決定ですね」
「ううっ、まだいいなんて言ってないのにぃ」
「いいじゃないですか。あ、そうだ!」
「今度はなに…?」
若干拗ねている私を見て、美鈴はニヤリとした。
あ、ちょっとカッコイイかも…。
「私、結構束縛激しいんで、そこんとこよろしくお願いしますね?」
「えっ!? えっと、…はい」
「可愛いですねアリスさんは。食べちゃいたいくらいですよ」
「んなっ!?」
「まあ、好きなものは最後までとっておきましょうか」
「ば、ばかめーりん!! もう知らない!」
「あ、アリスさん! どこ行くんですか~?」
「…図書館」
「ほぉ。そんなに私に束縛されたい、と?」
「なんでそうなるのよ!」
「言ったじゃないですか。パチュリー様に貴方は渡しませんって」
「べつにパチュリーとはそんなんじゃないから!」
「わからないじゃないですか。もしかしたら貴方を狙ってるかもしれませんよ?」
「ありえないわよそんなの! とにかく図書館で本読んでくるから邪魔しないでね!」
「ちょ、アリスさん! はぁ、まったく。夜が楽しみですねぇ」
なんか最後に美鈴が言った気がしたけど、気にしないことにした。
予定はだいぶ狂ったけど、晴れて美鈴と両想いになれた。
そういえばどうして私のこと好きになったのか聞き忘れてた。
私の理由はなんか子供っぽい感じだから言わないでおこう。
いつか、いや、今日の夜にでも理由を聞いてみよう。
「…愛してる、かぁ」
ぽつり、呟いてみた。
恥ずかしい。
あの真剣な顔でこんなこと言われてた自分がなんだか変な感じだった。
「私も、いつか言ってみよう、かな?」
そう心に決めて、足取りは軽やかに図書館へ向かった。
二人のこれからが楽しみです。
もう少し焦らしてアリスをいぢめて欲しかったですw
後書きいくらなんでもホラーすぎるw