・幽香 > アリス
「ねえ、アリス。 キスしましょ?」
「……いやよ」
アリスは一瞬嬉しそうに目を光らせてから、慌てて仏頂面を装う。
無理しちゃって。
目を合わせないようにしてるけど、期待してるのがばればれなんだから。
尻尾があったらぶんぶん振り回してるところよね。
「どうして嫌なのかしら? 私のこと、好きなんでしょ?」
大股でゆっくり近付いて、アリスの目の前に立つ。
アリスは少し私を見上げてから、すぐ俯いてしまう。
どうせアリスは逃げやしない。
じっくり責めるとしよう。
その方が、アリスの反応が可愛いもの。
「幽香は好きだし、キスも嫌いじゃないんだけど……」
アリスは下を向いたまま、ぼそぼそと呟いている。
キスをしたいのはアリスも一緒。
ただ、ちょっぴり意地を張っているだけ。
無理やり唇を奪っても、きっと文句は言わないだろう。
「言いたいことがあるなら、はっきり言った方がいいわよ」
少しかがんでアリスの耳元で囁く。
本当なら、今すぐ襲ってしまいたい。
でも、アリスが素直になるまでもうちょっと我慢。
「……恥ずかしい、のよ」
髪に隠れて顔は見えないけど、耳や頬が赤く染まっている。
耳を噛んだら、どんな声を出すかしら。
「なにが?」
アリスの顎に手を添え、上を向かせる。
アリスは、口で言うほど抵抗しない。
目と目が合う。
少し潤んだ瞳で見上げてくる。
このまま泣かせてしまおうか、もう少し焦らそうか、今すぐ食べてしまおうか、どれが一番美味しいか少し考える。
「あんまり、顔見ないでよ」
「アリスが可愛いのがいけないのよ。見てると時間を忘れちゃうもの」
「キスを待ってるときって、すごく恥ずかしいんだから」
「それなら、アリスの方からキスしてくれればいいのよ」
「……うん」
意を決したように、私を見つめてくる。
その一生懸命な表情を見て、もうちょっとからかってみたくなる。
ほんの少し、背伸びをしてアリスから顔を離す。
「なんで逃げるのよ」
「飛ぶのは禁止よ。ちゃんとキスできるかしら?」
「出来るわ」
アリスが私の肩に手をかけ、爪先立ちになって顔を寄せてくる。
その精一杯な仕草がとても可愛い。
「だから、あんまり見ないで」
「アリスの恥ずかしそうな顔が見たいのよ」
「いじわる」
「そうね」
アリスに手で目隠しをされる。
手がじんわりと汗ばんでいる。
そんなに恥ずかしかったのかしら?
こうもいい反応をされると、またからかいたくなるじゃない。
視界が塞がれたので、唇に意識が集中する。
息がかかる距離まで近付き、そこで少し止まる。
そして、アリスの唇が触れる。
キスをしたまま私の首に抱きついて、体重を預けてくる。
少し驚いたけど、抱きしめて体を支えてあげる。
アリスが唇を離して、肩に顔をうずめてくる。
なんだか、いっぱい幸せをもらっちゃったわね。
「満足したかしら?」
「……うん」
「それじゃあ、今度は私からキスする番ね」
アリスを降ろして顔を上げさせる。
今度は、顔を隠そうとささやかな抵抗をしてくる。
「ちょっと待って、今顔真っ赤だから……」
「それが見たいのよ。抵抗しても無駄なんだから」
「恥ずかしいから、勘弁して」
「あ、り、す」
アリスの腰に手を回し、腕で作った輪の中にアリスを閉じ込める。
体を寄せ、前髪が触れる距離まで近付く。
それだけで、アリスは観念したように大人しくなる。
恋する少女のようにしおらしくなる。
「アリス、キスしてもいいかしら?」
「聞かなくたって分かってるくせに」
「言ってくれないと分からないわ」
「私も、幽香とキスしたい」
「ありがと」
アリスが顔を上げ、目を閉じる。
その姿に、つい目を奪われてしまうけど。
これ以上焦らしたら本気で泣き出しかねない。
甘い誘惑を振り切って唇を近づける。
アリス。
怒った顔も、笑った顔も、恥らってる顔も、全部全部大好きよ。
この可愛らしい唇は私だけのもの。
浮気なんてしたら絶対に許さないんだから。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
・幽香 ≒ アリス
「これで何回目かしら?」
「13回目。おかげで全然進まないじゃない」
「そうね。諦めて今日はキスの日にしましょうか」
「毎日がキスの日でしょ。ケーキ作りたかったんじゃないの?」
「それも少しはあるんだけどねえ。なんだかもうお腹一杯だわ」
「なによそれ。じゃあ一人で作るわ」
「そう、じゃあ見てるわね」
「邪魔しないでね」
「ええ、もちろん」
・・・
一時間ほど前、幽香が家にやってきた。
苺の花が咲いた鉢を抱え、籠に山盛りの苺を載せて。
「これでケーキを作りましょう」だって。
一歩間違えば田舎のおばさんなのに、幽香の笑顔がとても綺麗で、全然そんなふうには見えなかった。
苺は夏が旬らしい。
どこで採ってきたのか知らないけど、味見してみたら中々の出来だった。
材料はあったので、すぐに取り掛かることにした。
のはいいのだけど。
一つアドバイスするたびにキスをして、全然ケーキ作りが進まない。
すぐ隣に立っている幽香の方を見る。
背が同じくらいだから、顔がすぐ傍にある。
だから、ふとした拍子ですぐ目が合う。
あ、ほら、まただ。
幽香が軽く微笑み、唇を近づける。
一回のキスは、そんなに長くない。
唇が触れ合い、互いの熱と吐息を感じ、すぐ顔を離す。
それから、しばらく見つめ合って、決まって幽香の方から、
「次はどうすればいいのかしら?」「こんな感じでいいの?」
と聞いてくる。
幽香が気紛れなのはいつものことだけど、これじゃあ私まで集中できなくなってしまう。
ケーキは作りなれてるから、上の空でもそれなりのものは作れるけど……。
視線を感じ、幽香の方に顔を向ける。
また目が合う。
さっきから、私の手じゃなくて顔を見ている。
見られていると意識してしまったせいで、段々恥ずかしくなってくる。
今度は、幽香からキスをしてこない。
見てるだけと言ったせいか、嬉しそうにこちらを見てるだけ。
これはこれで、落ち着かない。
……。幽香のばか。
スポンジ生地をオーブンに入れて、しばらく焼く。
温度管理は上海にやってもらおう。
私は他にやることがある。
生クリーム作ったり、シロップを作ったり、苺を切り分けたり、グレーズを作ったり。
急ぐ必要はないけど、色々と準備することがある。
でも、急ぐ必要はない。
先に他の事を済ませてしまおう。
「幽香」
「なにかしら、アリス?」
「責任とってよね」
「何を、 って、きゃあっ」
幽香にキスをして、そのまま押し倒す。
息が出来ないくらい、何度も、何度もキスをする。
押し返そうとする幽香の手を掴んで抵抗できないようにする。
キスで口を封じていると、苦しいのか気持ちいのか、幽香が段々と大人しくなってくる。
抵抗されなくなったのを確認し、唇を離す。
荒くなった息、上気した顔で幽香が見上げてくる。
その顔がとても綺麗で、顔を掴んでもう一度キスをする。
いや、一度じゃ足りない。
数え切れないくらい、いっぱい、いっぱいキスをする。
……。
ほんとうに、キスだけでお腹一杯になってしまいそうだ。
・・・
あれだけ脇道に逸れていたにも関わらず、ケーキは美味しく出来上がった。
新鮮な苺をふんだんに使ったのが大きいだろうか?
美味しかったせいで、すぐに二人で半ホール食べてしまった。
残りは冷やして保存しておこう。
苺の鉢はテーブルに置いてある。
ピンク色の小さくて可愛い花。
花言葉は『尊重と愛情』『幸福な家庭』。
確かに、私は今とっても幸せよ。
「美味しかったわね」
「ありがとう。幽香が持ってきてくれた苺のおかげよ」
「そうね、苺も美味しかったわね。まだ食べ足りないくらい」
「まだケーキ食べるの?」
「ケーキはもういいわ。美味しそうな苺がここにあるもの」
「どこに?」
「こ、こ、に」
幽香が、目と鼻の先に立つ。
顔がとても近い。
あと半歩踏み出せば、キスが出来る。
その距離で、幽香と見つめ合う。
蕩けたような幽香の表情に釘付けになる。
「他のどんなデザートよりも甘くて、どんなに食べても飽き足りない素敵な苺が、ここにあるじゃない」
「こんなものでよければ、いつでもご馳走するわ」
どちらからともなく、顔を近づけ、キスをする。
手を繋ぎ、抱き合って、何度も何度もキスをする。
今日はキスの日ね。
幽香は知らないだろうけど。
幽香の唇も、とっても甘くて美味しいのよ?
キスだけでお腹いっぱいになっちゃうくらいにね。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
・幽香 < アリス
幽香は私より背が低い。
それ自体はそんなに問題ではない。
抱くのに丁度いいし、私を見上げてくる仕草がとても可愛い。
ただ、ちょっぴり不満があるとすれば。
デートのとき、花を見てばかりで、あんまり私の方を見てくれないことだ。
幽香は地面に咲く花を見て歩く。
私の方が背が高いから、幽香が見上げてくれないと目が合うことはない。
下にある花と、上にある私の顔を交互に見るのは大変かもしれないけど。
それでも、デートなんだし、もう少し私の方を見てくれてもいいんじゃないの?
「どうかしたの?」
幽香が可愛らしく見上げてくる。
幽香に悪気が無いのは分かってる。
花が大好きで、それから、私のことを好きで。
花に囲まれてる幽香は好きだし、幽香の笑ってる顔が好き。
それでも、ちょっぴり嫉妬してしまいそう。
「花もいいけど、もう少し私の方も見てほしいかな」
幽香を抱きしめる。
幽香の頭が肩に当たる。
ふわりと、花の香りが漂ってくる。
花の妖精みたい。
「私が幽香より小さかったら、私の顔を見ながら散歩してくれたのかしら」
「アリスの顔しか見なくなって、花が楽しめなっちゃうわね」
「私も幽香の方ばかり見て、足元がおぼつかなくなりそう」
「ふふふ、花に嫉妬でもしたのかしら?」
「そんなところ」
「ごめんなさいね。花を見るとどうしてもはしゃいじゃって。
その代わり、家にいる間はちゃんとアリスのことを見てあげるから」
「……うん」
あんまり解決になってないけど。
デートのときは、寂しい思いをするしかないのかな。
それだったら、外に出ないで家に引き篭もってる方がいいわ。
「アリス、こうすればいいかしら?」
幽香が腕に抱きついて見上げてくる。
あ、これはいいかも。すごく可愛い。
「ようやく笑ったわね。アリスが笑ってくれないと、私も楽しくないんだから」
「そう思うなら、ちゃんと私の方も見てよね」
「そうね、ごめんなさい」
髪を掻き分け、幽香のおでこにキスをする。
そして、しばらく見つめ合う。
・・・・・・?
「幽香、お散歩はもういいの?」
腕に抱きついたまま、幽香がいつまでも私を見つめてくる。
楽しそうに、花みたいに可憐な笑顔で。
それを見てるだけで、幸せな気持ちになれる。
私まで笑顔になる。
幽香が、一層強く私の腕を抱きしめる。
「私を見て、って言ってたのにもう満足なの?」
どうだろう?
少なくとも、今はとても満足している。
でも、また滅入ってしまうかもしれない。
それは、幽香次第。
「私だって、アリスには笑っていてほしいもの。だから、出来る限りの事はするわ。
だから、アリスが音をあげるまでずうっと見つめ続けてあげる」
子供のように純真だった笑顔が、悪戯っ子の笑みに変わる。
これは藪蛇だったかも。
でも、そんなに悪い気はしない。
こうやって顔を近づけて笑いあうのも、とっても気分がいいもの。
二人で花畑に寝転んで、ずっと見つめ合う。
まるで睨めっこみたい。
相手を笑顔にするために、相手のことを見つめ続ける。
これはとっても楽しいお遊び。
先に音をあげるのはどっちかしら?
・・・
結局その日は、暗くなって互いの顔が見えなくなるまで、ずっと見つめ合っていた。
真剣な表情で見つめ合っていたり、思い出したように吹き出したり。
とんでもないバカップルよね、ほんと。
でも、とても嬉しかった。
お願いすれば、また付き合ってくれるかしら?
今日は幽香に腕に抱きつかれたまま、太陽の畑でデート。
幽香はしょっちゅう私の顔を見ては、にやけている。
こういうのも、悪くは無い。
「アリスは、私の方が背が低いのが気に入らないみたいだけど、私は結構気に入ってるのよ」
幽香が少し離れて、私の方を見上げてくる。
「私の眼に、何が映ってると思う?」
私を見つめて、そう聞いてくる。
幽香は、私を見ている。
他には……、あっ。
「背が高くてとっても綺麗なアリスと、背が高くて太陽みたいに眩しい向日葵。
私の大好きなものが一度に見れるんですもの。こんな贅沢、他じゃ味わえないわ」
幽香が、とても眩しい笑顔で、心の底から嬉しそうに笑っている。
私の隣で、向日葵が陽気に揺れている。
なんだか、それだけで満たされたような気持ちになる。
「ちゃんとアリスのことを見てあげるから、少しくらい花に浮気しても許してちょうだいね」
「うん、少しくらいなら許してあげる」
「ありがと」
幽香は花が大好きだ。それは仕方ない。
花にかまけて私をほったらかしにしたら、ほったらかしにした分めいいっぱい甘えてやる。
花のことが考えられなくなるくらい、いっぱいいちゃついちゃうんだから。
「アリス」
幽香が背伸びをしてキスをする。
そして、私にもたれかかってくる。
「心配しなくても、私はアリスのことが大好きよ」
向日葵にも負けない、明るい笑顔。
それがとても愛しくなって、思い切り抱きしめる。
「私も負けないくらい、幽香の事が大好き」
花が好きなのもいいけど、私を一番に愛してくれないと嫌よ。
花が嫉妬しちゃうくらい、いっぱい愛し合いましょう。
大好きよ、幽香。
「ねえ、アリス。 キスしましょ?」
「……いやよ」
アリスは一瞬嬉しそうに目を光らせてから、慌てて仏頂面を装う。
無理しちゃって。
目を合わせないようにしてるけど、期待してるのがばればれなんだから。
尻尾があったらぶんぶん振り回してるところよね。
「どうして嫌なのかしら? 私のこと、好きなんでしょ?」
大股でゆっくり近付いて、アリスの目の前に立つ。
アリスは少し私を見上げてから、すぐ俯いてしまう。
どうせアリスは逃げやしない。
じっくり責めるとしよう。
その方が、アリスの反応が可愛いもの。
「幽香は好きだし、キスも嫌いじゃないんだけど……」
アリスは下を向いたまま、ぼそぼそと呟いている。
キスをしたいのはアリスも一緒。
ただ、ちょっぴり意地を張っているだけ。
無理やり唇を奪っても、きっと文句は言わないだろう。
「言いたいことがあるなら、はっきり言った方がいいわよ」
少しかがんでアリスの耳元で囁く。
本当なら、今すぐ襲ってしまいたい。
でも、アリスが素直になるまでもうちょっと我慢。
「……恥ずかしい、のよ」
髪に隠れて顔は見えないけど、耳や頬が赤く染まっている。
耳を噛んだら、どんな声を出すかしら。
「なにが?」
アリスの顎に手を添え、上を向かせる。
アリスは、口で言うほど抵抗しない。
目と目が合う。
少し潤んだ瞳で見上げてくる。
このまま泣かせてしまおうか、もう少し焦らそうか、今すぐ食べてしまおうか、どれが一番美味しいか少し考える。
「あんまり、顔見ないでよ」
「アリスが可愛いのがいけないのよ。見てると時間を忘れちゃうもの」
「キスを待ってるときって、すごく恥ずかしいんだから」
「それなら、アリスの方からキスしてくれればいいのよ」
「……うん」
意を決したように、私を見つめてくる。
その一生懸命な表情を見て、もうちょっとからかってみたくなる。
ほんの少し、背伸びをしてアリスから顔を離す。
「なんで逃げるのよ」
「飛ぶのは禁止よ。ちゃんとキスできるかしら?」
「出来るわ」
アリスが私の肩に手をかけ、爪先立ちになって顔を寄せてくる。
その精一杯な仕草がとても可愛い。
「だから、あんまり見ないで」
「アリスの恥ずかしそうな顔が見たいのよ」
「いじわる」
「そうね」
アリスに手で目隠しをされる。
手がじんわりと汗ばんでいる。
そんなに恥ずかしかったのかしら?
こうもいい反応をされると、またからかいたくなるじゃない。
視界が塞がれたので、唇に意識が集中する。
息がかかる距離まで近付き、そこで少し止まる。
そして、アリスの唇が触れる。
キスをしたまま私の首に抱きついて、体重を預けてくる。
少し驚いたけど、抱きしめて体を支えてあげる。
アリスが唇を離して、肩に顔をうずめてくる。
なんだか、いっぱい幸せをもらっちゃったわね。
「満足したかしら?」
「……うん」
「それじゃあ、今度は私からキスする番ね」
アリスを降ろして顔を上げさせる。
今度は、顔を隠そうとささやかな抵抗をしてくる。
「ちょっと待って、今顔真っ赤だから……」
「それが見たいのよ。抵抗しても無駄なんだから」
「恥ずかしいから、勘弁して」
「あ、り、す」
アリスの腰に手を回し、腕で作った輪の中にアリスを閉じ込める。
体を寄せ、前髪が触れる距離まで近付く。
それだけで、アリスは観念したように大人しくなる。
恋する少女のようにしおらしくなる。
「アリス、キスしてもいいかしら?」
「聞かなくたって分かってるくせに」
「言ってくれないと分からないわ」
「私も、幽香とキスしたい」
「ありがと」
アリスが顔を上げ、目を閉じる。
その姿に、つい目を奪われてしまうけど。
これ以上焦らしたら本気で泣き出しかねない。
甘い誘惑を振り切って唇を近づける。
アリス。
怒った顔も、笑った顔も、恥らってる顔も、全部全部大好きよ。
この可愛らしい唇は私だけのもの。
浮気なんてしたら絶対に許さないんだから。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
・幽香 ≒ アリス
「これで何回目かしら?」
「13回目。おかげで全然進まないじゃない」
「そうね。諦めて今日はキスの日にしましょうか」
「毎日がキスの日でしょ。ケーキ作りたかったんじゃないの?」
「それも少しはあるんだけどねえ。なんだかもうお腹一杯だわ」
「なによそれ。じゃあ一人で作るわ」
「そう、じゃあ見てるわね」
「邪魔しないでね」
「ええ、もちろん」
・・・
一時間ほど前、幽香が家にやってきた。
苺の花が咲いた鉢を抱え、籠に山盛りの苺を載せて。
「これでケーキを作りましょう」だって。
一歩間違えば田舎のおばさんなのに、幽香の笑顔がとても綺麗で、全然そんなふうには見えなかった。
苺は夏が旬らしい。
どこで採ってきたのか知らないけど、味見してみたら中々の出来だった。
材料はあったので、すぐに取り掛かることにした。
のはいいのだけど。
一つアドバイスするたびにキスをして、全然ケーキ作りが進まない。
すぐ隣に立っている幽香の方を見る。
背が同じくらいだから、顔がすぐ傍にある。
だから、ふとした拍子ですぐ目が合う。
あ、ほら、まただ。
幽香が軽く微笑み、唇を近づける。
一回のキスは、そんなに長くない。
唇が触れ合い、互いの熱と吐息を感じ、すぐ顔を離す。
それから、しばらく見つめ合って、決まって幽香の方から、
「次はどうすればいいのかしら?」「こんな感じでいいの?」
と聞いてくる。
幽香が気紛れなのはいつものことだけど、これじゃあ私まで集中できなくなってしまう。
ケーキは作りなれてるから、上の空でもそれなりのものは作れるけど……。
視線を感じ、幽香の方に顔を向ける。
また目が合う。
さっきから、私の手じゃなくて顔を見ている。
見られていると意識してしまったせいで、段々恥ずかしくなってくる。
今度は、幽香からキスをしてこない。
見てるだけと言ったせいか、嬉しそうにこちらを見てるだけ。
これはこれで、落ち着かない。
……。幽香のばか。
スポンジ生地をオーブンに入れて、しばらく焼く。
温度管理は上海にやってもらおう。
私は他にやることがある。
生クリーム作ったり、シロップを作ったり、苺を切り分けたり、グレーズを作ったり。
急ぐ必要はないけど、色々と準備することがある。
でも、急ぐ必要はない。
先に他の事を済ませてしまおう。
「幽香」
「なにかしら、アリス?」
「責任とってよね」
「何を、 って、きゃあっ」
幽香にキスをして、そのまま押し倒す。
息が出来ないくらい、何度も、何度もキスをする。
押し返そうとする幽香の手を掴んで抵抗できないようにする。
キスで口を封じていると、苦しいのか気持ちいのか、幽香が段々と大人しくなってくる。
抵抗されなくなったのを確認し、唇を離す。
荒くなった息、上気した顔で幽香が見上げてくる。
その顔がとても綺麗で、顔を掴んでもう一度キスをする。
いや、一度じゃ足りない。
数え切れないくらい、いっぱい、いっぱいキスをする。
……。
ほんとうに、キスだけでお腹一杯になってしまいそうだ。
・・・
あれだけ脇道に逸れていたにも関わらず、ケーキは美味しく出来上がった。
新鮮な苺をふんだんに使ったのが大きいだろうか?
美味しかったせいで、すぐに二人で半ホール食べてしまった。
残りは冷やして保存しておこう。
苺の鉢はテーブルに置いてある。
ピンク色の小さくて可愛い花。
花言葉は『尊重と愛情』『幸福な家庭』。
確かに、私は今とっても幸せよ。
「美味しかったわね」
「ありがとう。幽香が持ってきてくれた苺のおかげよ」
「そうね、苺も美味しかったわね。まだ食べ足りないくらい」
「まだケーキ食べるの?」
「ケーキはもういいわ。美味しそうな苺がここにあるもの」
「どこに?」
「こ、こ、に」
幽香が、目と鼻の先に立つ。
顔がとても近い。
あと半歩踏み出せば、キスが出来る。
その距離で、幽香と見つめ合う。
蕩けたような幽香の表情に釘付けになる。
「他のどんなデザートよりも甘くて、どんなに食べても飽き足りない素敵な苺が、ここにあるじゃない」
「こんなものでよければ、いつでもご馳走するわ」
どちらからともなく、顔を近づけ、キスをする。
手を繋ぎ、抱き合って、何度も何度もキスをする。
今日はキスの日ね。
幽香は知らないだろうけど。
幽香の唇も、とっても甘くて美味しいのよ?
キスだけでお腹いっぱいになっちゃうくらいにね。
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・幽香 < アリス
幽香は私より背が低い。
それ自体はそんなに問題ではない。
抱くのに丁度いいし、私を見上げてくる仕草がとても可愛い。
ただ、ちょっぴり不満があるとすれば。
デートのとき、花を見てばかりで、あんまり私の方を見てくれないことだ。
幽香は地面に咲く花を見て歩く。
私の方が背が高いから、幽香が見上げてくれないと目が合うことはない。
下にある花と、上にある私の顔を交互に見るのは大変かもしれないけど。
それでも、デートなんだし、もう少し私の方を見てくれてもいいんじゃないの?
「どうかしたの?」
幽香が可愛らしく見上げてくる。
幽香に悪気が無いのは分かってる。
花が大好きで、それから、私のことを好きで。
花に囲まれてる幽香は好きだし、幽香の笑ってる顔が好き。
それでも、ちょっぴり嫉妬してしまいそう。
「花もいいけど、もう少し私の方も見てほしいかな」
幽香を抱きしめる。
幽香の頭が肩に当たる。
ふわりと、花の香りが漂ってくる。
花の妖精みたい。
「私が幽香より小さかったら、私の顔を見ながら散歩してくれたのかしら」
「アリスの顔しか見なくなって、花が楽しめなっちゃうわね」
「私も幽香の方ばかり見て、足元がおぼつかなくなりそう」
「ふふふ、花に嫉妬でもしたのかしら?」
「そんなところ」
「ごめんなさいね。花を見るとどうしてもはしゃいじゃって。
その代わり、家にいる間はちゃんとアリスのことを見てあげるから」
「……うん」
あんまり解決になってないけど。
デートのときは、寂しい思いをするしかないのかな。
それだったら、外に出ないで家に引き篭もってる方がいいわ。
「アリス、こうすればいいかしら?」
幽香が腕に抱きついて見上げてくる。
あ、これはいいかも。すごく可愛い。
「ようやく笑ったわね。アリスが笑ってくれないと、私も楽しくないんだから」
「そう思うなら、ちゃんと私の方も見てよね」
「そうね、ごめんなさい」
髪を掻き分け、幽香のおでこにキスをする。
そして、しばらく見つめ合う。
・・・・・・?
「幽香、お散歩はもういいの?」
腕に抱きついたまま、幽香がいつまでも私を見つめてくる。
楽しそうに、花みたいに可憐な笑顔で。
それを見てるだけで、幸せな気持ちになれる。
私まで笑顔になる。
幽香が、一層強く私の腕を抱きしめる。
「私を見て、って言ってたのにもう満足なの?」
どうだろう?
少なくとも、今はとても満足している。
でも、また滅入ってしまうかもしれない。
それは、幽香次第。
「私だって、アリスには笑っていてほしいもの。だから、出来る限りの事はするわ。
だから、アリスが音をあげるまでずうっと見つめ続けてあげる」
子供のように純真だった笑顔が、悪戯っ子の笑みに変わる。
これは藪蛇だったかも。
でも、そんなに悪い気はしない。
こうやって顔を近づけて笑いあうのも、とっても気分がいいもの。
二人で花畑に寝転んで、ずっと見つめ合う。
まるで睨めっこみたい。
相手を笑顔にするために、相手のことを見つめ続ける。
これはとっても楽しいお遊び。
先に音をあげるのはどっちかしら?
・・・
結局その日は、暗くなって互いの顔が見えなくなるまで、ずっと見つめ合っていた。
真剣な表情で見つめ合っていたり、思い出したように吹き出したり。
とんでもないバカップルよね、ほんと。
でも、とても嬉しかった。
お願いすれば、また付き合ってくれるかしら?
今日は幽香に腕に抱きつかれたまま、太陽の畑でデート。
幽香はしょっちゅう私の顔を見ては、にやけている。
こういうのも、悪くは無い。
「アリスは、私の方が背が低いのが気に入らないみたいだけど、私は結構気に入ってるのよ」
幽香が少し離れて、私の方を見上げてくる。
「私の眼に、何が映ってると思う?」
私を見つめて、そう聞いてくる。
幽香は、私を見ている。
他には……、あっ。
「背が高くてとっても綺麗なアリスと、背が高くて太陽みたいに眩しい向日葵。
私の大好きなものが一度に見れるんですもの。こんな贅沢、他じゃ味わえないわ」
幽香が、とても眩しい笑顔で、心の底から嬉しそうに笑っている。
私の隣で、向日葵が陽気に揺れている。
なんだか、それだけで満たされたような気持ちになる。
「ちゃんとアリスのことを見てあげるから、少しくらい花に浮気しても許してちょうだいね」
「うん、少しくらいなら許してあげる」
「ありがと」
幽香は花が大好きだ。それは仕方ない。
花にかまけて私をほったらかしにしたら、ほったらかしにした分めいいっぱい甘えてやる。
花のことが考えられなくなるくらい、いっぱいいちゃついちゃうんだから。
「アリス」
幽香が背伸びをしてキスをする。
そして、私にもたれかかってくる。
「心配しなくても、私はアリスのことが大好きよ」
向日葵にも負けない、明るい笑顔。
それがとても愛しくなって、思い切り抱きしめる。
「私も負けないくらい、幽香の事が大好き」
花が好きなのもいいけど、私を一番に愛してくれないと嫌よ。
花が嫉妬しちゃうくらい、いっぱい愛し合いましょう。
大好きよ、幽香。
あばばばばばばばばばばばばばぱ
俺のジャスティスと一致したから多分世界の真理ですな←何様www
それより喉の奥から砂糖が・・・おろろろろろ
これやばいよほんとやばいって
ごちそうさまでした