Coolier - 新生・東方創想話

急にマシュマロが食べたくなったので

2010/07/24 16:29:24
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 霧雨魔理沙はマシュマロが食べたくなった。

 どうして急にそう思ったのかわからない。しかし理由があろうとなかろうと、現にマシュマロを食べたいという気持ちがあるという事に変わりはない。
 純白の体。控えめに漂う甘い香り。触れた指先から伝わる柔らかい感触。舌に置いた瞬間に広がる蕩けてしまいそうな甘さ。乙女の柔肌の様な舌触り。舌先で突付くと、柔らかなイメージからは想像もつかないほど力強く押し返してくる弾力性。
 思い出しただけで痺れるような感覚が全身を走る。ああ、私はマシュマロが食べたいんだ。そう自覚した途端ますますマシュマロが食べたくなってきた。マシュマロのことを考えるだけでぎゅっと胸が締め付けられる。その名を呟くだけでドキドキと心臓の鼓動が高まる。
 霧雨魔理沙はマシュマロを手に入れるべく家を飛び出した。目指すは同じ魔法の森にあり、自宅から最も近いアリスの家。


「ないわよ」
 しかしそこで待ちうけていたのは残酷な現実だった。
「そ、そんな……アリスお菓子作り得意だろ!?」
「いくら私がお菓子作りが得意だからといって、お菓子が常備されている訳ではないわよ。それにマシュマロなんて作ったことないし」
 魔理沙はがっくりと崩れるように膝をついた。お菓子作りが趣味のアリスの家に行けばすぐにでもマシュマロが手に入ると思っていた。しかし、女神は彼女に微笑まなかった。
「そこまで落ち込む必要もないでしょうに」
「駄目なんだ。私にはマシュマロが必要なんだ。今すぐマシュマロを食べないと死んでしまう……」
「大げさねぇ……。そんなにマシュマロが欲しいなら紅魔館にでも行ってみたら? 咲夜もお菓子作りは得意な方だし」
「本当か!」
 ガバッと跳ね起きる魔理沙。そうだ、こんな所で立ち止まっていても始まらない。くよくよしていては恋色の魔法使いの名が廃る。ここに無いなら次の場所に行けばいいのだ。
 マシュマロよ、私を待っていてくれ!
「邪魔したなアリス。ありがとう!」そう言い残し、魔理沙は紅魔館に向けて飛び立った。


「ごめんなさい、たった今無くなった所よ」
 そして墜落した。
「お嬢様が今日のお茶請けはマシュマロが良いとおっしゃって、持っていったらパチュリー様にも好評で……大丈夫?」
「大丈夫じゃないぜ……」
 紅い絨毯の引かれたエントランスホールに突っ伏したまま答える魔理沙。求めていた物が目の前で永遠に失われたと知り、天国から地獄に叩き落とされた気分だった。愛用の箒が曲がってはいけない方向に曲がっているように見える。
 あと少し、ほんの少しでも早く来ていたら間に合ったかも知れない。アリスの家で絶望に打ち拉がれていた時間。その僅かな時間が命取りとなってしまった。
 いや、まだだ。諦めるにはまだ早い。食べきってしまったのなら、作ってもらえばいい。咲夜の「時を止める程度の能力」を使えば、それこそ一瞬でマシュマロが完成する。魔理沙は希望を胸によろよろと立ち上がった。
「咲夜、そのマシュマロ私にも作ってくれ」
 懇願する魔理沙に、咲夜はにっこりと微笑んだ。
「そのぐらいお安い御――」
「駄目よ」
 その時、凛とした声が響き渡った。二人が振り返った先、大階段をゆっくりと降りてくる小さな人影。
「咲夜のマシュマロは私のもの。白黒の魔法使いに、渡す分は無い」
 紅魔館の主にして夜を統べる紅き月、レミリア・スカーレットその人だった。

「なんでだよ! どうせ材料はたくさんあるんだから、少しぐらい貰ったっていいだろ!」
 突然現れて希望の芽を潰した彼女に食って掛かる魔理沙。
「そうですわお嬢様。人のセリフを勝手に使わないでください」
 同じくレミリアに文句を言う咲夜。しかし論点がどこかズレていた。
「咲夜の作るマシュマロは最高よ。幻想郷で一番、いや、外の世界を含めても5本の指に入るでしょうね。
 そして、そのマシュマロを食べることができるのは紅魔館の住人だけ」
 レミリアは踊り場で立ち止まると、羽をバサっと広げ、口角を吊り上げて不敵に笑った。
「どうしても咲夜のマシュマロが欲しいのなら、私の下に付きなさい」
 悪いようにはしないわよ。と、心底愉しそうな目で、魔理沙を見下ろした。
「くっ――」
 魔理沙はぎりと奥歯を噛んだ。主人であるレミリアが渡さないと言った以上、咲夜はそれに従うだろう。ここは諦めて別を探すことも考えたが、レミリアが最高と褒めるぐらいだ。それはそれは美味しいマシュマロなのだろう。そう簡単に諦めたくはない。
 無理にでも奪いとるか。気付かれないように懐のミニ八卦炉に手を伸ばす。まともに戦っては分が悪い、隙を突いて一気に決める。二人の間に緊張が走った。
「あら、それは大変ですわ」
 しかし、咲夜の気の抜けた声のせいで緊張した空気はあっさり壊れた。
「昨日巫女が来たときに、あげてしまいましたわ。マシュマロ」
「なんですって!?」
「本当かそれは!!」
「ええ、どうしても欲しいとせがまれたので」
 その時はまだ門外不出なんて言われていませんでしたので、と眉尻を下げる咲夜。レミリアが「どうして勝手なことするのよ!!」と騒いでいたが、魔理沙にとってそんな些事はどうでも良かった。重要なのは。
「咲夜! その巫女ってどっちの巫女だ!? 霊夢か?早苗か?」
「紅白の方ですわ」
 聞くが早いか、箒を引っ掴んで魔理沙は飛び出した。さっき曲がっていたように見えたのは気のせいだったようだ。
 ぐんぐん加速する箒は光る尾を引いて霧の湖の上空を一直線に飛翔する。昨日の今日だ、いくら霊夢でもまだ全て食べきっては居ないはずだ。


「とっくに食べたわよ。あ、ちょっと待ち――! 何しに来たのかしら一体」
 突然来て突然去っていった魔理沙を不審に思った霊夢だったが、ま、いつものことかと納得すると再び湯呑みに手を伸ばしてずずっと緑茶を啜った。



 すっかり日も傾き夜の気配が迫る頃、魔理沙はとぼとぼと自宅への道を歩いていた。
 博麗神社を出た魔理沙は、その後人里の命蓮時、旧地獄の地霊殿、山の守矢神社、果ては冥界白玉楼まで探し回ったが――
  「洋菓子はあまり食べませんねぇ」
  「ましまろ?なあにそれ?」
  「そんな事より信仰を――」
  「幽霊ならいくらでもあるわよぉ」
 その成果は芳しい物ではなく、結局丸一日探してもマシュマロを手に入れることは出来なかった。
「マシュマロ、食べたかったな……」
 はぁ、と一際大きくため息をついた。追い打ちをかけるようにお腹がくぅと悲鳴をあげる。そういえば朝食以来何も口にしていなかった。帰ったら適当にご飯食べてさっさと寝よう。そう思って自分の家に近づいたとき。
「ん?」
 誰かが玄関の前に立っているのが見えた。目を凝らすと、その人影は金色のショートカットに青いケープを羽織っていて。
「おかえり魔理沙。ずいぶん遅かったじゃない」
「どうした? アリス。私に何か用か?」
 小さなバスケットを抱えたアリスは、半ば壁にもたれかかるようにして立っていた。随分と長い間ここにいた様子だ。
「その様子だと、マシュマロは見つからなかったみたいね」
「ああそうだよ。だからどうした」
「良かった――」
 良かった? 今こいつは良かったと言ったか? 人が幻想郷中を探しまわって捜し物が見つからなかったのに、それを良かっただと? 人の不幸を見て喜ぶような性格の悪い奴だとは思わなかった。見損なったぞアリス。
 今にも掴みかからんとした魔理沙だったが、続く言葉に危うく思いとどまった。

「頑張って作った甲斐があったわ」

 そう言って小さなバスケットを差し上げた。可愛いピンク色の布が掛けられたバスケットの中からは、仄かな甘い香りが漂っていた。
「これって……」
「初めてだったから作るの大変だったのよ、マシュマロ」
 でも、魔理沙が喜んでくれるならこの程度の苦労、何でも無いわ。頬を染めてはにかむアリスから、魔理沙は恥ずかしさの余り目を反らした。
 自分はなんて馬鹿なんだ。アリスは私のためを思って善意でマシュマロを作ってきてくれたのだ。そんなアリスを一瞬でも疑った自分が恥ずかしかった。
「その、初めて作ったからうまく出来ているか分からないけど、食べてくれる?」
「あ、当たり前だろ! アリスが失敗するなんてありえないぜ! 絶対美味しいに決まってる!」
「そこまで信頼されると恥ずかしいわね」
「アリス、今すぐ食べていいか? 今日一日食べて無くてお腹ペコペコなんだ」
「もう、仕方ないわねえ。ひとつだけよ?」
 待ちきれないとばかりにバスケットに手を伸ばす。マシュマロを求めて幻想郷の端から端まで探し回ったが、何のことはない、幸せの青い鳥はすぐ近くにいたのだ。
 掛けられていた布を取ると、より一層強く香りが広がる。甘いカスタードの匂いと、香ばしい生地の香りが鼻腔をくすぐり――
「……なあアリス?」
「どうしたの?」
「これ、マシュマロじゃなくて……シュークリームだぜ」

 マシュマロってこれの事じゃなかったの? 今まで見たことが無いから知らなかったわ。
 魔理沙は泣いた。
2回目まして。つちのこです

半年に1回ぐらい、何の原因も前触れもなくマシュマロが食べたくなることってありません?
一昨日帰りの電車の中で急にマシュマロが食べたくなって、近くのコンビニを探しまわって2軒ハシゴしてようやく発見しました。おいしいですよね、マシュマロ
3分の2食べたところで飽きましたけど

最後まで飽きずに読んでくださった皆様には、お礼にマシュマロを食べる権利を差し上げましょう
つちのこ
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コメント



0.2210簡易評価
1.90再開発削除
マシュマロくださいお!

あ、やっぱりアリスのシュークリームください。
8.90名前が無い程度の能力削除
良いスピード感でした。
マシュマロは辞退するので
アリスのシュークリーム食べる権利をください。
9.100名前が無い程度の能力削除
シュークリームでOK。
10.90名前が無い程度の能力削除
マシュマロはコンロであぶってしょっぱめのビスケットに挟んで食べるとおいしいよね
13.90名前が無い程度の能力削除
まて、シュークリームのためにカスタードを作ったのなら卵白が残るだろう
卵白を泡立ててメレンゲにし、砂糖とゼラチンを入れればマシュマロになる
だから材料的に両方あるはずで、アリスはマシュマロを隠しているのだぁ!
14.90名前が無い程度の能力削除
マシュマロおいしいよね

シュークリームもですが
19.90名前が無い程度の能力削除
アリスのシュークリーム食べたいなぁ
20.100名前が無い程度の能力削除
>13の方
マシュマロって、そうやって作るのか…
歯ごたえの無いものが苦手なので、マシュマロも数えるくらいしか食べた事がない。
23.100名前が無い程度の能力削除
アリスのマシュマロって書くと何か別のものを想像する人は挙手。
27.60名前が無い程度の能力削除
食べたくなったじゃないかw
夜だぞ!ちくせうw
28.80名前が無い程度の能力削除
炙っても凍らせても、ココアに浮かべてもチョコを染ませてもいける。
単純ながら至高の砂糖菓子だと言わざるを得ない。
でも飽きが来やすい。
30.100名前が無い程度の能力削除
読み終わった後、無性に甘い物が食べたくなったので冷蔵庫を覗いたら、納豆しか無かった。
悔しいから砂糖をかけて食べてみた。甘かった。
こんな衝動に走らせるなんて、恐ろしい作品だ……!
32.100名前が無い程度の能力削除
深夜にマシュマロを食べたくなった。どうしてくれるw

>13
そうして出来たマシュマロのことをアリスは「シュークリーム」と思ってたんだよ。
つまりマシュマロはアリスの胃の中にあるんだよ!ナ、ナンダッテ(ry
33.100名前が無い程度の能力削除
マシュマロもぐもぐもぐもぐ
38.80名前が無い程度の能力削除
´・ω・)モグモグモグモグ・・・
42.100名前が無い程度の能力削除
この破壊力はw
47.100名前が無い程度の能力削除
XBOX360だと思って買ったら只のXBOXだった時並にがっくりしてそうだ、このまりさ
50.90v削除
オチww
次は魔理沙とマシュマロ作成教室ですね分かります。
58.80とーなす削除
何かシュールww
でもまあ、ありますよね。急に何か食べたくなるとき。ぽたぽた焼きとか。
テンポが良くて面白かったです。
61.90ワレモノ中尉削除
アリスは分かっててわざとやったのでは?とうがった見方をしてしまう自分がいる…w
一日探し回った挙句、この結果はあんまりだw