私は夕暮れ時の森を歩いていた。
夕暮れ時とは言っても夏だからまだ辺りは明るいけどね。
私は今、魔理沙の家へと向かっている。
魔理沙とはあの晩、幻想郷中に紅い霧がかかった晩に
出会ってから親しい関係を築き上げていた。
いや、親しい以上の関係……かもしれない。
何回も、何回も私は魔理沙の家を訪ねた。
私を打ち負かした人の強さや優しさにあこがれて……
あの負けは私の人生に大きな影響を与えたといっても良いだろう。
「それにしても久々に魔理沙の家に行けるなぁ……」
最近はまったく魔理沙の家に行っていない。
しばらく雨続きだったしね。
今日は久々に晴れたから魔理沙の家に行くことにしたのだ。
もちろん今日は魔理沙と一緒に寝る予定だ。
ふふ、楽しみだな。
しばらく森の中を進むと小さな家が見えてきた。
あれが魔理沙の家だ。
「居るかな?」
私は少しドキドキしながら扉をノックした。
「鍵なら開いてるぜ」
中からそんな声が聞こえてきた。
良かった。
どうやら居るらしい。
「こんにちは。
……えへへ、久しぶり」
私はドアを開けて中へと入る。
「おお、ルーミアか。
久しぶりだな」
「うん、今日は久々に晴れたから魔理沙に会おうと思って……」
「あー、確かに今日は久々にいい天気だったな」
魔理沙は読んでいた本を置いて私のところまでやってきた。
「まぁ、入れよ」
「失礼しまーす」
私は軽く一礼してから中に入った。
中は相変わらずごちゃごちゃしている。
「全く、相変わらず汚いわねぇ」
「うるさい」
魔理沙は笑った。
釣られて私も笑ってしまう。
「そうだ、私が片付けてあげるよ!」
「えぇ!? いや、いいよ! 気持ちだけで十分さ!」
魔理沙は私の提案をすぐに断った。
「なんで?」
「いや、お前も大変だろ?」
「私は別に大丈夫だけど……」
「それに私は他人にいろいろと家の中をかき回されるのが嫌いなんでな」
魔理沙は笑いながら頭をかいた。
「そう。
それなら止めておく」
正直に言うとものすごく片付けたいんだけどね。
こう見えて私は意外と綺麗好きなのだ。
「すまんな」
「ううん、別に気にしてないよ」
私は笑いながらそう返す。
「そういえば夕食はまだだろ?」
「うん、まだだけど?」
「そりゃあよかった。
ちょうど夕食を作ろうと思っていたところでな。
一緒に食うか?」
「もちろん食べるよ」
笑顔でそう答える私。
魔理沙の作るご飯はとてもおいしい。
好物は何か、と聞かれたら魔理沙の作ったご飯と答えてしまうくらいに大好きだ。
「よし、それじゃあ作るか。
カレーでいいよな?」
「私は魔理沙の作るものなら何でもいいよ。
だってどれもおいしいんだもの」
「おいおい、よしてくれよ。
照れるじゃないか」
魔理沙は苦笑いを浮かべた。
ここで私はあることを考え付いた。
「ねぇ、私も手伝っていい?」
「え? あ、あぁ、もちろん構わないが……」
「ありがとう」
私は腕まくりをして魔理沙の後についていく。
一緒に作ったほうが何倍にもおいしく感じられるし、何より少しでも多く魔理沙と一緒にいられるしね。
私は最初に芋を洗った。
魔理沙は横で調理器具を準備している。
「芋は洗い終わったか?」
「うん、後は皮を剥くだけ」
私は洗い終わった芋を皿に置いた。
「それじゃあ剥くか」
魔理沙は芋に手を伸ばして、ゆっくりと皮を剥き始める。
おっと、私も遅れちゃいけないわね。
芋を一個手にとって包丁を滑らせていく。
芋の皮剥きは指を怪我しやすいから気をつけないと……
「痛っ……」
そう思ったそばから怪我をしてしまった。
「おい、大丈夫か!?
……あーあ、血が出てるじゃないか」
「ううん、大丈夫。
傷は浅いから……」
私は指を押さえながら笑い返した。
「大丈夫じゃないっての。
ちょっと指貸せ」
魔理沙は強引に私の指を引っ張って……
口に咥えた。
「え、ちょ、ちょっと……」
私はいきなりの魔理沙の行動に驚いた。
「まったく、傷口は放置しておくとそこから菌が入って酷くなったりするんだぞ?」
「え、あ、ごめんなさい……」
怒ったような顔をする魔理沙を見て、私は謝ってしまう。
「とりあえず絆創膏を貼っておくか。
ちょっと待っててくれ」
そう言って魔理沙は走って台所を出て行った。
……まさかこんな展開になっちゃうなんて。
指の根元を押さえながら少し待っていると魔理沙が帰ってきた。
手には絆創膏が握られている。
「ほら、とりあえずこれを巻いておけ」
魔理沙は私の指に絆創膏を巻いてくれた。
「あ、ありがとう……」
「これで良し。
さて、どうする? 休んでおくか?」
私の怪我を気遣ってそう言ってくれたのだろう。
「ううん、大丈夫。
このくらい平気だよ」
「そうか。
だったらさっさと終わらせるぞ」
「うん、わかった!」
私は魔理沙の言葉に力強く頷いた。
今度は怪我をしないように気をつけながら私はまた包丁を握った。
「さて、やっと出来たか」
何とかカレーが出来上がった。
あれから気をつけて作業をしていたおかげもあって、他に怪我はせずにすんだ。
「あとは皿に移すだけだな。
自分の分は自分でやってくれよ」
「あのね……」
「ん、どうした?」
私は少し赤くなりながらこうお願いした。
「すまないけど……私の分、盛り付けてもらえないかな?」
「は、はぁ? 何でだ?」
「魔理沙に盛り付けてもらったご飯が食べたいの……駄目、かしら?」
少し、というよりかなり恥ずかしかったのだがそう伝えてみた。
断られるかな、と思ったけど……
「しょ、しょうがないな……今回だけだぞ……」
魔理沙は赤くなりながらも私の願いを聞いてくれた。
「ありがとう!」
私は嬉しくなって魔理沙に飛びついた。
「おわっ! いきなり飛びつくな!
びっくりするだろ!」
「あ、ご、ごめん」
私はただただ謝った。
「……そこまで愛されているのは嬉しいけどな」
「え?」
「いや、何も」
なんて言ったのだろう。
よく聞こえなかった。
「それより早くしないと冷めちまうな」
「あ、そうだね」
魔理沙は自分の分をすばやく皿に盛り付けた。
「魔理沙はどうする?」
「私がルーミアのを盛り付けるんだったら私は逆にルーミアに任せようかな」
「わかった」
魔理沙から皿を受け取って彼女の分を盛り付ける。
カレーが盛られた皿を魔理沙に返してから二人分のスプーンを取った。
「それじゃあ、食うか」
「うん!」
私は魔理沙の後ろをカレーをこぼさないように気をつけながらついていった。
「ごちそうさま」
私は手を合わせる。
ちょうど魔理沙も食べ終わったようだ。
魔理沙はスプーンを皿に置いて水を飲んでいた。
「ふぅ、食った食った」
「あ、私がお皿持って行くね」
「お、すまんな」
「別にいいよ」
私は笑いながら魔理沙の皿を手にとって台所へ向かい、流しに皿を置いた。
「何もすることはないし……少し早いけど寝るか?」
「うーん……」
確かに寝るには早いかもしれない。
それに魔理沙とおしゃべりもしたかった。
しかし少し疲れていたせいもあって同意することにした。
「うん、寝ようかな」
「よし、それじゃあ寝るか」
魔理沙は私の手を引いて寝室へと向かう。
いつも魔理沙は私の手を引きながら寝室へと向かうのだ。
いつの間にかそれが当たり前になっていた。
最初のほうは恥ずかしかったが、いつの間にか自然に自分から手を差し出すようになっていた。
……なんだか親子みたい。
私はそう思ってくすくすと笑った。
「ん? どうした?」
「……なんだか魔理沙と私ってお母さんと娘みたい」
「……そうだな」
魔理沙も少し赤くなりながら笑う。
でも私にとって魔理沙はお母さんというよりお姉さんといった感じだったりする。
いざというときに頼りになるし、優しい。
私はそんな魔理沙が大好きなのだ。
「暑くないか?」
「うん、大丈夫」
一緒に布団へともぐりこむ私達。
「それじゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
魔理沙は私の頭を軽くなでてから目を閉じた。
魔理沙が目を閉じたのをを確認してから私も目を閉じる。
しかし久々の魔理沙の家ということもあってなかなか寝られなかった。
「……ふぅ、眠れないなぁ」
私は目を開けた。
辺りはシーンと静まり返っている。
隣にはすー、と軽く寝息を立てる魔理沙の顔。
「完全に寝ちゃったみたい……」
その時私はあることをしてみようと思った。
ずっと前から魔理沙にしてみたかった行為。
私は上体を軽く起こして周りを見た。
周りにはもちろんのことだが誰もいない。
「……誰もいない……よね」
私はゆっくりと隣に寝ている魔理沙へ視線を落とした。
そしてそのまま顔を近づけて……
唇同士をくっつけた。
初めてのキスはほんの一瞬くっつけただけで終わった。
唇を離しても魔理沙は起きる気配が無い。
「もう少し……いいよね?」
全く起きる気配の無い魔理沙を見て、私はもう少し悪戯をしてみたくなった。
「魔理沙……」
今度はさっきより長めにキスをしてみた。
それでも起きない。
私はまた横になり、魔理沙に抱きついてみる。
魔理沙の体温が服を通して伝わってくる。
魔理沙はこんなにも暖かくて柔らかい肌を持っていたんだ……
私は初めて感じる魔理沙の暖かさと肌の感触に夢中になってしまった。
「ん……ん? っておい! ルーミア、何してるんだ!?」
「キャッ……」
いきなり声を上げられたので私は驚きの声を上げて魔理沙から離れた。
魔理沙は体を起こして私のほうを見る。
「あ、すまん……驚かせるつもりは無かったんだ……
それにしてもお前一体私に何をしてたんだ?」
「ご、ごめんなさい……その、あの……」
私は怒られないか震えていた。
「怒らないから言ってみな?」
「ごめんなさい! 私、魔理沙にキスしちゃったの……」
そう言って魔理沙の顔を見ると彼女は眉一つ動かさずに私を見ている。
「……そうか。それじゃあ罰を与えないといけないな」
「え? 怒らないって言ったのに……」
私は半分涙目になりながら魔理沙の顔を見上げた。
「いいから目を閉じろ!」
「ひっ……!」
強い調子で言われてしまったので私は反射的に目を閉じた。
叩かれる。
私はそう思った。
しかし。
……え?
「これが、お前への……罰だ」
魔理沙は私をぎゅっと抱きしめながら唇を重ねていた。
「全く……寝ている奴を襲うなんてことはするんじゃない。
これからそんなことがしたくなったら私に直接言え。
その……恥ずかしいが願いに答えて……やるから……
わ、私もお前のことは嫌いじゃないし……」
魔理沙は赤くなった顔を背けながら私に言い放った。
私は笑いながら彼女に抱きついた。
「魔理沙、ありがとう!」
「お、おい! 抱きつかないでくれよ!」
そう言いながら苦笑する魔理沙。
私はこんな風に優しい魔理沙が大好きだ。
彼女に対しての感謝の気持ちをこめて私は彼女の頬に軽くキスをした。
次の日の朝。
「う、うーん……」
窓から差し込む朝日の眩しさで私は目を覚ました。
昨日は結局遅くまで起きていた。
もちろんその間に何があったかは二人だけの内緒だ。
「おはよう魔理沙……あれ? 魔理沙?」
私は辺りを見回した。
部屋の中には誰もいない。
起きて先に朝食でも食べているのだろうか?
私はベッドを降りて居間へ向かう。
居間にも誰もいない。
ふと、テーブルに目をやると一枚の紙切れが置いてあった。
「えーと……
『ルーミアへ。
私は少し事情があって早く家を出ることにする。
朝食は作っておくから食べてくれ。
あ、それと鍵は閉めなくてもいいからな。
うちには泥棒なんて入らないさ』」
私は手紙を読み終えると少しだけ肩を落とした。
「なんだ……魔理沙はもう出かけちゃったのかぁ……」
二人でゆっくりと朝食をとりたかったのに。
でも事情があるなら仕方ないよね。
私はそう言い聞かせてテーブルの上にあった朝食に手を付ける。
「……おいしい。魔理沙の作るご飯はとってもおいしいよ」
私は一人呟いた。
魔理沙に向かって感謝するように。
おっと、書き置きを残しておこう。
「魔理沙へ。
ご飯、とってもおいしかったです。
また遊びに来ます。また一緒にお話をしたり、遊んだりしましょう。
ルーミアより」
さぁ、ご飯も食べ終わったし家に帰ろう。
……魔理沙には好きなときに会えるんだから、ね?
夕暮れ時とは言っても夏だからまだ辺りは明るいけどね。
私は今、魔理沙の家へと向かっている。
魔理沙とはあの晩、幻想郷中に紅い霧がかかった晩に
出会ってから親しい関係を築き上げていた。
いや、親しい以上の関係……かもしれない。
何回も、何回も私は魔理沙の家を訪ねた。
私を打ち負かした人の強さや優しさにあこがれて……
あの負けは私の人生に大きな影響を与えたといっても良いだろう。
「それにしても久々に魔理沙の家に行けるなぁ……」
最近はまったく魔理沙の家に行っていない。
しばらく雨続きだったしね。
今日は久々に晴れたから魔理沙の家に行くことにしたのだ。
もちろん今日は魔理沙と一緒に寝る予定だ。
ふふ、楽しみだな。
しばらく森の中を進むと小さな家が見えてきた。
あれが魔理沙の家だ。
「居るかな?」
私は少しドキドキしながら扉をノックした。
「鍵なら開いてるぜ」
中からそんな声が聞こえてきた。
良かった。
どうやら居るらしい。
「こんにちは。
……えへへ、久しぶり」
私はドアを開けて中へと入る。
「おお、ルーミアか。
久しぶりだな」
「うん、今日は久々に晴れたから魔理沙に会おうと思って……」
「あー、確かに今日は久々にいい天気だったな」
魔理沙は読んでいた本を置いて私のところまでやってきた。
「まぁ、入れよ」
「失礼しまーす」
私は軽く一礼してから中に入った。
中は相変わらずごちゃごちゃしている。
「全く、相変わらず汚いわねぇ」
「うるさい」
魔理沙は笑った。
釣られて私も笑ってしまう。
「そうだ、私が片付けてあげるよ!」
「えぇ!? いや、いいよ! 気持ちだけで十分さ!」
魔理沙は私の提案をすぐに断った。
「なんで?」
「いや、お前も大変だろ?」
「私は別に大丈夫だけど……」
「それに私は他人にいろいろと家の中をかき回されるのが嫌いなんでな」
魔理沙は笑いながら頭をかいた。
「そう。
それなら止めておく」
正直に言うとものすごく片付けたいんだけどね。
こう見えて私は意外と綺麗好きなのだ。
「すまんな」
「ううん、別に気にしてないよ」
私は笑いながらそう返す。
「そういえば夕食はまだだろ?」
「うん、まだだけど?」
「そりゃあよかった。
ちょうど夕食を作ろうと思っていたところでな。
一緒に食うか?」
「もちろん食べるよ」
笑顔でそう答える私。
魔理沙の作るご飯はとてもおいしい。
好物は何か、と聞かれたら魔理沙の作ったご飯と答えてしまうくらいに大好きだ。
「よし、それじゃあ作るか。
カレーでいいよな?」
「私は魔理沙の作るものなら何でもいいよ。
だってどれもおいしいんだもの」
「おいおい、よしてくれよ。
照れるじゃないか」
魔理沙は苦笑いを浮かべた。
ここで私はあることを考え付いた。
「ねぇ、私も手伝っていい?」
「え? あ、あぁ、もちろん構わないが……」
「ありがとう」
私は腕まくりをして魔理沙の後についていく。
一緒に作ったほうが何倍にもおいしく感じられるし、何より少しでも多く魔理沙と一緒にいられるしね。
私は最初に芋を洗った。
魔理沙は横で調理器具を準備している。
「芋は洗い終わったか?」
「うん、後は皮を剥くだけ」
私は洗い終わった芋を皿に置いた。
「それじゃあ剥くか」
魔理沙は芋に手を伸ばして、ゆっくりと皮を剥き始める。
おっと、私も遅れちゃいけないわね。
芋を一個手にとって包丁を滑らせていく。
芋の皮剥きは指を怪我しやすいから気をつけないと……
「痛っ……」
そう思ったそばから怪我をしてしまった。
「おい、大丈夫か!?
……あーあ、血が出てるじゃないか」
「ううん、大丈夫。
傷は浅いから……」
私は指を押さえながら笑い返した。
「大丈夫じゃないっての。
ちょっと指貸せ」
魔理沙は強引に私の指を引っ張って……
口に咥えた。
「え、ちょ、ちょっと……」
私はいきなりの魔理沙の行動に驚いた。
「まったく、傷口は放置しておくとそこから菌が入って酷くなったりするんだぞ?」
「え、あ、ごめんなさい……」
怒ったような顔をする魔理沙を見て、私は謝ってしまう。
「とりあえず絆創膏を貼っておくか。
ちょっと待っててくれ」
そう言って魔理沙は走って台所を出て行った。
……まさかこんな展開になっちゃうなんて。
指の根元を押さえながら少し待っていると魔理沙が帰ってきた。
手には絆創膏が握られている。
「ほら、とりあえずこれを巻いておけ」
魔理沙は私の指に絆創膏を巻いてくれた。
「あ、ありがとう……」
「これで良し。
さて、どうする? 休んでおくか?」
私の怪我を気遣ってそう言ってくれたのだろう。
「ううん、大丈夫。
このくらい平気だよ」
「そうか。
だったらさっさと終わらせるぞ」
「うん、わかった!」
私は魔理沙の言葉に力強く頷いた。
今度は怪我をしないように気をつけながら私はまた包丁を握った。
「さて、やっと出来たか」
何とかカレーが出来上がった。
あれから気をつけて作業をしていたおかげもあって、他に怪我はせずにすんだ。
「あとは皿に移すだけだな。
自分の分は自分でやってくれよ」
「あのね……」
「ん、どうした?」
私は少し赤くなりながらこうお願いした。
「すまないけど……私の分、盛り付けてもらえないかな?」
「は、はぁ? 何でだ?」
「魔理沙に盛り付けてもらったご飯が食べたいの……駄目、かしら?」
少し、というよりかなり恥ずかしかったのだがそう伝えてみた。
断られるかな、と思ったけど……
「しょ、しょうがないな……今回だけだぞ……」
魔理沙は赤くなりながらも私の願いを聞いてくれた。
「ありがとう!」
私は嬉しくなって魔理沙に飛びついた。
「おわっ! いきなり飛びつくな!
びっくりするだろ!」
「あ、ご、ごめん」
私はただただ謝った。
「……そこまで愛されているのは嬉しいけどな」
「え?」
「いや、何も」
なんて言ったのだろう。
よく聞こえなかった。
「それより早くしないと冷めちまうな」
「あ、そうだね」
魔理沙は自分の分をすばやく皿に盛り付けた。
「魔理沙はどうする?」
「私がルーミアのを盛り付けるんだったら私は逆にルーミアに任せようかな」
「わかった」
魔理沙から皿を受け取って彼女の分を盛り付ける。
カレーが盛られた皿を魔理沙に返してから二人分のスプーンを取った。
「それじゃあ、食うか」
「うん!」
私は魔理沙の後ろをカレーをこぼさないように気をつけながらついていった。
「ごちそうさま」
私は手を合わせる。
ちょうど魔理沙も食べ終わったようだ。
魔理沙はスプーンを皿に置いて水を飲んでいた。
「ふぅ、食った食った」
「あ、私がお皿持って行くね」
「お、すまんな」
「別にいいよ」
私は笑いながら魔理沙の皿を手にとって台所へ向かい、流しに皿を置いた。
「何もすることはないし……少し早いけど寝るか?」
「うーん……」
確かに寝るには早いかもしれない。
それに魔理沙とおしゃべりもしたかった。
しかし少し疲れていたせいもあって同意することにした。
「うん、寝ようかな」
「よし、それじゃあ寝るか」
魔理沙は私の手を引いて寝室へと向かう。
いつも魔理沙は私の手を引きながら寝室へと向かうのだ。
いつの間にかそれが当たり前になっていた。
最初のほうは恥ずかしかったが、いつの間にか自然に自分から手を差し出すようになっていた。
……なんだか親子みたい。
私はそう思ってくすくすと笑った。
「ん? どうした?」
「……なんだか魔理沙と私ってお母さんと娘みたい」
「……そうだな」
魔理沙も少し赤くなりながら笑う。
でも私にとって魔理沙はお母さんというよりお姉さんといった感じだったりする。
いざというときに頼りになるし、優しい。
私はそんな魔理沙が大好きなのだ。
「暑くないか?」
「うん、大丈夫」
一緒に布団へともぐりこむ私達。
「それじゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
魔理沙は私の頭を軽くなでてから目を閉じた。
魔理沙が目を閉じたのをを確認してから私も目を閉じる。
しかし久々の魔理沙の家ということもあってなかなか寝られなかった。
「……ふぅ、眠れないなぁ」
私は目を開けた。
辺りはシーンと静まり返っている。
隣にはすー、と軽く寝息を立てる魔理沙の顔。
「完全に寝ちゃったみたい……」
その時私はあることをしてみようと思った。
ずっと前から魔理沙にしてみたかった行為。
私は上体を軽く起こして周りを見た。
周りにはもちろんのことだが誰もいない。
「……誰もいない……よね」
私はゆっくりと隣に寝ている魔理沙へ視線を落とした。
そしてそのまま顔を近づけて……
唇同士をくっつけた。
初めてのキスはほんの一瞬くっつけただけで終わった。
唇を離しても魔理沙は起きる気配が無い。
「もう少し……いいよね?」
全く起きる気配の無い魔理沙を見て、私はもう少し悪戯をしてみたくなった。
「魔理沙……」
今度はさっきより長めにキスをしてみた。
それでも起きない。
私はまた横になり、魔理沙に抱きついてみる。
魔理沙の体温が服を通して伝わってくる。
魔理沙はこんなにも暖かくて柔らかい肌を持っていたんだ……
私は初めて感じる魔理沙の暖かさと肌の感触に夢中になってしまった。
「ん……ん? っておい! ルーミア、何してるんだ!?」
「キャッ……」
いきなり声を上げられたので私は驚きの声を上げて魔理沙から離れた。
魔理沙は体を起こして私のほうを見る。
「あ、すまん……驚かせるつもりは無かったんだ……
それにしてもお前一体私に何をしてたんだ?」
「ご、ごめんなさい……その、あの……」
私は怒られないか震えていた。
「怒らないから言ってみな?」
「ごめんなさい! 私、魔理沙にキスしちゃったの……」
そう言って魔理沙の顔を見ると彼女は眉一つ動かさずに私を見ている。
「……そうか。それじゃあ罰を与えないといけないな」
「え? 怒らないって言ったのに……」
私は半分涙目になりながら魔理沙の顔を見上げた。
「いいから目を閉じろ!」
「ひっ……!」
強い調子で言われてしまったので私は反射的に目を閉じた。
叩かれる。
私はそう思った。
しかし。
……え?
「これが、お前への……罰だ」
魔理沙は私をぎゅっと抱きしめながら唇を重ねていた。
「全く……寝ている奴を襲うなんてことはするんじゃない。
これからそんなことがしたくなったら私に直接言え。
その……恥ずかしいが願いに答えて……やるから……
わ、私もお前のことは嫌いじゃないし……」
魔理沙は赤くなった顔を背けながら私に言い放った。
私は笑いながら彼女に抱きついた。
「魔理沙、ありがとう!」
「お、おい! 抱きつかないでくれよ!」
そう言いながら苦笑する魔理沙。
私はこんな風に優しい魔理沙が大好きだ。
彼女に対しての感謝の気持ちをこめて私は彼女の頬に軽くキスをした。
次の日の朝。
「う、うーん……」
窓から差し込む朝日の眩しさで私は目を覚ました。
昨日は結局遅くまで起きていた。
もちろんその間に何があったかは二人だけの内緒だ。
「おはよう魔理沙……あれ? 魔理沙?」
私は辺りを見回した。
部屋の中には誰もいない。
起きて先に朝食でも食べているのだろうか?
私はベッドを降りて居間へ向かう。
居間にも誰もいない。
ふと、テーブルに目をやると一枚の紙切れが置いてあった。
「えーと……
『ルーミアへ。
私は少し事情があって早く家を出ることにする。
朝食は作っておくから食べてくれ。
あ、それと鍵は閉めなくてもいいからな。
うちには泥棒なんて入らないさ』」
私は手紙を読み終えると少しだけ肩を落とした。
「なんだ……魔理沙はもう出かけちゃったのかぁ……」
二人でゆっくりと朝食をとりたかったのに。
でも事情があるなら仕方ないよね。
私はそう言い聞かせてテーブルの上にあった朝食に手を付ける。
「……おいしい。魔理沙の作るご飯はとってもおいしいよ」
私は一人呟いた。
魔理沙に向かって感謝するように。
おっと、書き置きを残しておこう。
「魔理沙へ。
ご飯、とってもおいしかったです。
また遊びに来ます。また一緒にお話をしたり、遊んだりしましょう。
ルーミアより」
さぁ、ご飯も食べ終わったし家に帰ろう。
……魔理沙には好きなときに会えるんだから、ね?
しかし仮にも妖怪の血を、消毒とはいえ舐めるとは……
これが恋の魔法使いの力かww
私にこれほどのダメージを与えるとは。
「うちには泥棒なんて入らないさ」とありますが、前に一度咲夜さんが泥棒に入った事があったのでは・・・?(書籍版文花帖)
まさかそれを踏まえて防犯対策がされているのかな・・・?
ルーミア、なんて純情かつ大胆不敵!
形式的なことですが、改行が多すぎて縦に伸びているのが若干読みにくいかもしれません。
自分のルーミアのイメージはこの小説で書いたような感じだったりしますねw
年相応の少女らしさを少しは出せたかな、と思っています。
咲夜泥棒の件に関してはおそらく和解しているはずです。
他に悪党がいそうな気配もありませんし。
幻想郷では犯罪って起きなさそうですしねw
改行については今回初めて「句点の直後は行を変えよう」と思って実行したのですが・・・
どうやら逆効果だったようですね。
次回は改行にも気をつけて書こうと思います。