目の前で霊夢が思いきり腕を振りかぶる。
そして迫る掌。
―ばちん!
神社に響き渡る平手打ちの音。
ぐわんぐわんと頭が揺れて視界が点滅している。衝撃を食らった頬がじんわりと痛い。
霊夢の方を見ると顔を真っ赤にして身体を震わせていた。
明らかに怒っている表情で此方を睨みながら、
「魔理沙の馬鹿っ!」
と、捨て台詞を吐いてやや乱暴な足取りで母屋の方へと歩いて行ってしまう。
それを未だにチカチカする視界で霊夢を見送るが、まだ状況が飲み込めていなかった。
縁側に一人取り残された魔理沙。
「…あっ、おい!霊―」
我に返り霊夢の後を追おうして、ぐらりと世界が傾いた。
―どさり
立ち上がったと思っていた身体は横に倒れていて。
力も入らず、起き上がることも出来ない。
「れい、む―」
声は届かず、遠くなっていく後ろ姿。
手を伸ばそうとしても届かない。
自分の意思に関係なく瞼が下りて、徐々に狭くなっていく視界。
霊夢が怒っていた理由も分からないまま。
真っ暗な闇に包まれた。
―暗転。
目を開けて、最初に視界に入ったのは胡散臭い妖怪の顔。
「御機嫌よう。目覚めは如何かしら?」
「ああ、最悪だな」
まだ若干クラクラする頭を押さえながら倒れていた体を起こし、辺りを見回す。
「痛てて……あー、ここは神社…だよな?」
「あら、何も覚えてないの?」
「いや…」
何も覚えてないのではなく、今現在から数十分前の記憶が曖昧だった。
自分が何で神社にいるのかいつから神社にいたのか、そのあたりがぼんやりとしている。
「ちょっと待て、今思い出す」
こういう時は今日一日の行動を順番に上げていくほうが思い出しやすいと、痛む顎を押さえつつ、今日の出来事を思い起こす。
朝…一週間前に始めた研究にようやく一区切りがついて昼間まで爆睡。
昼…昼飯時に起床。紅魔館にて昼飯を集り、夕方頃まで図書館で本を読んで過ごす。
夜…神社に行って霊夢と晩酌。他愛もない話をしていたら急に霊夢の様子がおかしくなって、それから―
覚えているのはそこまでだ。
そこから先を思い出そうとするとぐわんぐわんと頭が揺れる。
「うん、霊夢と二人で酒を飲んでたのは覚えてるんだが……その後の記憶が無い」
「一番良い所を覚えていないなんて駄目な子ねぇ」
「何様なんだよお前は。覚えてないんだから仕方ないだろ」
全て見透かしたような物言いが癪に障る、苛立つ。
呆れを含んだ紫の視線を受け流しつつ、残っていた酒を飲み干した。
良い酒の筈なのに、生温くて後味が最悪だった。
「熱燗でもなく冷酒でもないお酒は美味しいかしら?」
「さぁな?少なくとも私は気分が悪くなるから二度と飲みたいとは思わないが」
「果たしてそれは本当にお酒の所為なのかしらね」
「酒の所為じゃないとしたら気分が悪いのはお前の所為だな」
腹立たしさも嫌悪も隠すことなくぶつけてもそれで気分が晴れることはない。
嫌味を言われても紫はどこ吹く風。特に気にした様子もなく、いつの間にやらお猪口を片手に扇子を仰いでいる。
このまま軽口の応酬をしていても埒があかないと思い、魔理沙は紫に訪ねた。
「それよりも、霊夢の様子がおかしい理由をお前は知ってるんだろう?」
「知っているというよりはその場にいたという方が正しいわね」
「どうせお前が関わって面白がってたんだろ」
こうやって紫が魔理沙に関わる時は事件の主犯か、事の顛末を既に知っている場合が多い。それ以外といったら宴会の時くらいだろうか。
ぱちん、と小気味いい音を立てて紫は扇子を閉じた。
「…もう少しだけ楽しみたかったのだけれど。この辺にしておきましょうか」
扇子を閉じるのと口を開くのはほぼ同時だった。
それは、魔理沙が神社を訪れる数時間ほど前。
神社に神出鬼没の隙間妖怪、紫がやってきた。
最初は鬱陶しそうにしていた霊夢も紫が手土産に持ってきた菓子折をちらつかせられたことで嬉々として歓迎したのだった。
「知っていて?外の世界での告白はね、遠回しな言葉で想いを伝えたりするのよ」
土産の菓子を茶請けに神社の縁側で霊夢と紫が茶を飲んでいると唐突にそんな話題を振られた。
「ふぅん?外の連中は面倒な事をしてるのねぇ」
「直接的な言葉よりも抽象的な方が美徳だと思っているからよ」
「美徳ねぇ。でも伝わらなかったら意味が無いじゃない」
「そこは台詞次第でしょう。では、親しい相手から『毎日私の為に味噌汁を作ってくれ』と言われたら貴方はどう思うかしら?」
「親しい、相手…」
ふと思い浮かんだのは魔理沙の顔。
「告白」という部分は霊夢の中からすっかり抜け落ちており、「親しい相手」の部分を抜き出した結果、魔理沙が出てきた。
魔理沙から『毎日私の味噌汁を作ってくれ』と言われている場面を想像する。
何故か想像の中の魔理沙は顔を赤くして若干どもりながら先程のセリフを言っていた。
「ま…毎日、私の為に味噌汁を作ってくりぇ!」
がりっ。
噛んだ。
(うわ、痛そう)
想像の中の出来事なのに随分と滑稽な結果になったものだと霊夢は思う。
いくら魔理沙でもそんなに慌てることはないだろう。
けれど、魔理沙にそう言われても何を言ってるの?としか思わない。
毎日じゃないにしろ大抵ご飯時には我が物顔で魔理沙は神社にいるし、大体霊夢がご飯を作る時間帯になるとご飯を集りにやってきては飯を平らげ、そのまま風呂に入って泊まったりする。
まだご飯を作るには早い時間にも関わらず魔理沙が腹が減った飯はまだかと急かすことだってあるのだ。
神社を自分の家と勘違いしているんじゃなかろうかという振る舞いをしているのに、『毎日私の為に味噌汁を作ってくれ』と言われたところで今更だろうと思う。
ほぼ毎日作ってやってるのに改めて言われたところでどうとも感じなかった。
「…普通に面倒くさいわ」
「もう、夢が無いわねぇ」
「味噌汁作ることに夢を持たれても困るわよ」
「ふぅん、じゃあこれは?『一緒の墓に入ってくれ』」
「…これ、告白なの?死ぬ時のことなんか知らないわよ」
「『同じ名字にならないか』」
「なにそれ、養子になりたいの?それともあんたんとこみたく式神にでもなれって事?」
その他にも紫がいくつか告白の例を出してくるがどれを聞いてもピンとこない。
告白の場面を想像すると何故か魔理沙が相手役として出てくるので余計そう思うのかもしれない。
なんで魔理沙が出てくるのかと首を傾げるも親しくて長い事一緒にいる相手が魔理沙しか思いつかなかったからだろうと結論付けた。
「…はぁ、なんでこんな子に育っちゃったのかしら。私は悲しいわ」
「あんたは私の母親か。ていうか今のが告白と言われてもしっくりこないし、分かりにくいわ」
よよよと泣く真似をする妖怪の賢者に付き合うのはやはり疲れる。こんなことならさっさと追い出すべきだったかもしれない。
まともに相手をするのも面倒くさくなって頬に片手をついてやれやれと嘆いている紫を半ば無視しながら茶をすする。
ふと湯呑に目をやると茶柱が立っているのが見え、今日は良い事あるといいなぁ…と紫の方を見ずにぼんやりと空を眺めた。
「『月が綺麗ですね』」
「はぁ?何言ってんの、まだ昼よ?」
隙間の弄りすぎでとうとう惚けたのか?という目で紫を見た。
口に出さないのは決して報復が怖いからではない。
そんな霊夢の視線すら気にせず紫は続ける。
「外の世界のとある小説家が別の言語の告白を『月が綺麗ですね』と訳したのよ。直接言わずともそれで伝わるから、とね。風情があると思いません?」
「…さぁ?少なくとも今までで一番分かりにくいわ。風情云々は置いといて」
そう呟き、興味を無くしたように茶を啜る。
しかし、少なくとも一番分かりにくいと思った言葉は霊夢の中に染み込んだ。
何故、それだけが印象に残ったのかは霊夢にもよく分からない。
紫の方も言いたい事を言って満足したのかそれから特に何も言わず、霊夢が気付いた時にはいつの間にかいなくなっていた。
紫が唐突に話を振るのはいつもの事だが、今回の話も何を言いたいのか霊夢には理解できない。
周りくどい物言いは霊夢自身あまり好きじゃない。
面倒臭い、分かりにくい、伝わりにくいの三拍子が見事に揃っている。
どの例えも少し考えなければ相手が理解しないような言い回しばかりで、本当にあれで伝わるのかと思ってしまう。
もう一度だけ自分が先程の台詞を言われているところを想像してみるが、やはりピンとこない。
無意識になのかそれとも意図的に相手を魔理沙にしているのかは霊夢にも分からないが、紫に『親しい相手』と言われて最初に浮かんだのが彼女だった。
毎回想像の中で台詞を言うのは魔理沙なのだが、どれもしっくりこない、パッとしない。
原因は分かっている。
「なんで噛むのよ」
何度想像の中でやり直しても台詞を変えても、与えられた台詞を言い切れずに魔理沙は噛む。
言われてるこっちが哀れに思うほど、盛大に。
想像の中なのに噛みまくるわつっかえるわで全てが台無しだ。風情も美徳なんかあったもんじゃない。
それどころかこんな告白で一体誰がときめくのか。誰が告白だと思うのか。
「…アイツに言わせるのは駄目ね」
霊夢は告白の相手が魔理沙だという事に疑問を抱くこともなく。
只、そんな事ばかり延々と考えていた。
昼間に紫とそんな話をした所為だろうか。
その晩、魔理沙と二人で酒を飲んでいた時に霊夢は思わず口にしてしまう。
「…月が、綺麗ね」
別に昼間の事があって魔理沙を意識していたわけではなかった。
良い具合に酒が回って酔っていたのかもしれない。
二人きりという状況があの時の想像を思い出させたのか、なんとなく「私が言わなきゃ」と霊夢は思ったのだ。
しかし、霊夢の言葉に魔理沙は怪訝な表情をする。
「月?お前、何言ってんだ?」
「何って、そのままの意味だけど」
「…いや、綺麗云々の前に曇ってるんだが」
「え?」
「ほら、外を見てみろよ」
障子を開けて上を見上げると空は雲で覆われていた。
かろうじて月が見えそうな隙間さえどこにもない。
昼間は雲なんてなかったのに。
まさかの曇天に霊夢の酔いが一気に覚める。
「へっ?…あ、いや、その。く、曇ってなかったら綺麗だろうなって思ったのよ!」
「…今日、新月だぜ?」
「え?」
「だから、新月だって。曇ってなかったとしても月は出ないだろ」
「あ…」
迂闊だった。
そういえば今日は新月だったかもしれないと日数を頭の中で確認すると恥ずかしさが猛烈に込み上げる。
空を見上げていた視線は徐々に移動して、そのまま膝の上に置いたお猪口へと下降した。
何故自分が恥ずかしがっているかもよく分からないまま、魔理沙の方を見る事もできない。
「巫女なんだからそれ位は把握してるんだろ?それともなんだ、酔いが回って物忘れが激しくなったのか?」
魔理沙がお猪口を傾けながらカラカラと笑う。
これくらいの軽口はいつもの事なのだが今の霊夢には羞恥を煽る嘲笑にしか聞こえない。
―恥ずかしい。ていうか、なんで伝わらないのよ。
顔が沸騰したかのように熱くなり、同時に瞬間的な怒りに身を包まれる。
分かりにくいだの回りくどいだの散々文句を言っていたことなどさっぱり忘れ、怒りの矛先を魔理沙に向けた。
南無三。
「魔理沙の、馬鹿っ!」
気付いた時には感情に身を任せて魔理沙を思いきり引っ叩いていた。
「…とまぁ、こんな感じかしら。霊夢の平手打ちはそりゃあ見事なものだったわよ?」
「あー…、うん。なんとなくそんなんだった気がするぜ。つーか、話を聞いてりゃあ私は完全にとばっちりじゃないか」
「霊夢は頬を叩いたつもりでしょうけど、顎にも衝撃がいってたわ。顎は人間の急所でしょう?意識が飛んでしまったのはその所為よ」
「何真面目に解説してんだよ。人の話聞けよ」
紫から詳細を聞き、ついでに記憶の境界も弄られたことで大体の記憶が戻っていた。
「それにしても霊夢も間抜けよねぇ、今日が朔の日という事くらい分かるはずなのに」
「お前、分かってて霊夢を嗾けたろ」
「いつまで経っても色恋沙汰に興味を示さない霊夢に切欠を与えただけですわ。別に、誰に如何云いなさいと唆したわけではないわ。まさか、今日の内に言うとは思っていなかったけれど…結果は散々だったわねぇ。相手が悪かったのかしら」
「…なんでこっち見るんだよ。言っとくが私は被害者だぞ」
「あら、知らないことが罪になる場合もあるのよ?今回は色んな要因が重なった結果だから別に貴方を責める気はないけれど」
「ふん、元凶の癖に好き勝手いいやがって」
愚痴りつつも思い出すのは霊夢に叩かれた場面と瞳を潤ませて去っていく場面。
ずきずきと痛みを発しているのは叩かれた頬か、それとも別の場所だろうか。
魔理沙に非は無い筈なのに、居心地が悪い。何故こんなにも苛々するのか。
「くそ…」
頭をかいて考えても導き出される答えは変わらない。
紫に話を聞いた時から分かっていた、既に回答は自分の中にあった。
あとは動くだけ。行動に移せばいい。
「明日になったら霊夢は何事も無かったかのように振舞うでしょうね。今日の事を無かった事にして」
「ああ、だろうな」
何もする気がないのならこのまま明日が来るのを待てばいい。
今日の出来事を無かった事にしたくないのなら、動くしかない。
「貴方はどう動くのかしら?」
「それをお前に言う必要は無いだろ」
「あら、残念」
ただ、紫の思惑通りに動かされてると思うと腹立たしくなるのだが、そんなことは言っていられない。
むしろここまで来たら乗ってやろうじゃないかと魔理沙は腹を括った。
「お前の余計なお節介の所為で私はとばっちりを食らったんだ。落とし前はキッチリ付けさせてもらうぜ」
あら怖い怖いと言いながら紫は扇子で口元を隠すが目は明らかに笑っており、怖がっている様子は微塵もない。
それをジト目で睨みつつ胡散臭い奴めと魔理沙は呟く。
「短気は損気よ?安心なさい、お膳立てくらいはしてあげますわ」
誰が見ても胡散臭いと形容する笑顔で紫は微笑むのだった。
魔理沙を引っ叩いて席を立った後、霊夢は鳥居の台石に腰掛けていた。
しばらくそのままぼんやりしていたが、酒を向こうに置いてきたことに気付く。
せめて徳利だけでも持ってくれば良かったと思うが、魔理沙がまだいるであろう場所に酒を取りに戻る気は無い。
酔いはとうに冷めた。頭も幾分か冷静になった。
不思議と後悔は無かった。
魔理沙に言った事も叩いた事もどちらも霊夢の中では過ぎた事として処理されている。
先程の事を思い出して浮かぶのは、疑問。
「あー、もう…」
何故、魔理沙に昼間の台詞を言ってしまったのか。
霊夢はその時の自身の心理が分からず、疑問だけがもやもやと渦巻く。
別に言う必要はなかった。言ってしまったのはなんとなくで、魔理沙を意識してはいなかった。けれど、「魔理沙に言わせるのは駄目だ、私が言わないと」と思ったのも事実。でも、だからって。その日の内に言う必要はなかった筈だ。一体自分はどうしたっていうのだ。結果は空振りとも玉砕とも言えない微妙な終わりを告げ、霊夢に残ったのは羞恥のみ。朔の日だったなんて考えれば分かることだ。それに気付かなかったなんて阿呆にも程がある。当の本人は気付いてなかったどころか台詞の意味を知らなかった事が唯一の救いであり、絶望であり。気付いた時には魔理沙をぶっ叩いて飛び出して今に至るわけで。
「ああ、私振られたのかな」とぼんやり考えてなんだか悲しくなった。あれ、なんで悲しいんだろう、何でちょっと残念がっているんだろう。魔理沙に伝わってないほうが誤魔化す手間も少ないしからかわれることもなくて都合がいいはずなのに、残念に感じている自分がいる。月が出ていなかった事か、それとも伝わっていなかった事だろうか。そもそも何をこんなに悩んでいるのか分からない、ていうかなんかこんがらがってきた。
そんなことを悶々と俯いたまま考え事をしていたお陰ですぐ近くに人がいることすら気付けない。
ぽすんと頭の上に圧力がかかるのを感じて見上げようとするがぐいと押さえつけられる。
「…何すんのよ」
「お前の頭にきのこが生えてたから異変かと思ってな」
どかりと霊夢の横に座り、そのまま頭をやや乱暴に撫でた。
不器用な頭の撫で方と聞き慣れた軽口。長年の付き合いだ。見なくたって、見えなくたって誰だか分かる。
「万年頭にきのこが生えてるあんたよりマシよ」
「そういうお前は頭ん中が万年春だろうに。…いて!っと、なんだよ、暴れるなって」
「うっさい馬鹿、バカ、ばか。笑いに来たのならどこかに行って」
まるで駄々をこねる子供のように頭を撫でる魔理沙の手から逃れようともがく。
今はまだ駄目だ。
現在の霊夢の精神状態では魔理沙を前に平静でいられない。
「明日になったら元に戻ってるから、だから、今は放っておいて」
「それで今日の事を無かったことにして逃げるのか?巫女の癖に」
魔理沙は暴れる霊夢の腕を掴んで抵抗できないようにする。
「逃げてなんかないわ!…っていうか巫女は関係ないでしょ!」
「おお、反論と突っ込みを同時にこなすとは流石だな」
「もう…なんなのよ、あんたは…」
胸中穏やかでない霊夢だが能天気な魔理沙の声を聞いていると力んでいたのが馬鹿らしくなった。
魔理沙といるとどんなに機嫌が悪いときでも自然と張り詰めていたものが少しだけ無くなって無駄な力が抜けてしまう。
抵抗する気も無くなり、諦めを含んだため息が漏れた。
「手、離して。もう暴れたりしないわ」
「ん」
がっちりと掴まれていた右手首から魔理沙の手が離れたと思って気が緩んだその時。
「と、思ったがやっぱり止めた。そう言っておいてまた霊夢が逃げるかもしれないだろ?だから逃げられないようにしっかり捕まえておいてやる」
手首ではなく、指を絡めるようにして霊夢の手は完全に捕らわれる。
やられた。
「ちょっと、魔理沙!」
「まぁ落ちつけよ。さっき何処ぞの覗き魔を懲らしめたら報酬に酒を貰ったんだ。良い酒だからさ、これで飲み直そうぜ」
「……いいけど」
帽子に手を突っ込んで一升瓶を取り出し、魔理沙が屈託のない笑顔を見せると霊夢は何も言えなくなる。
本人に自覚はないが、霊夢は昔から魔理沙の笑顔には弱かった。
「そういえばお前に叩かれた頬の痛みが引かないんだが、巫女のビンタってのは呪いでもかけられるのか?」
「さぁ?そんなの知らないわよ。普段の行いが悪いからじゃないの?」
「馬鹿言うな、私ほど普段の行いがいい奴なんかいないぜ。呪いの方がよっぽど信憑性があるだろ」
「そもそも普段の行いが良かったら誰もあんたに呪いなんてかけようと思わないでしょうが」
仲直りもとい仕切り直しの二人だけの晩酌。
先程の事を引き摺ることも気まずくなることもなく、いつも通り。
いつもと同じ会話のノリに、変わらない二人の態度。
やはりこの関係が一番落ち着く。変に意識せず、気兼ねすることもないこの雰囲気が好きだ。
「呪い云々は抜きにしてもお前のビンタで記憶が飛んだぜ。これスペルカードにしたらきっと面白いぞ」
「スペルっていうか弾幕ですらないじゃない。ただの平手打ちでしょう」
「いやいや、不意を突くんだよ。相手の懐に潜り込んで弾幕を叩き込むよりもビンタ食らわしたほうが精神的にキツイだろ。なんならスペカ名はまた私が付けてやるぜ」
さっきの騒動も魔理沙にかかればただの笑い話になる。
後腐れなく尾を引いたりしない、何も気にする必要がない。それがこんなにも安心できるものなのだと霊夢は改めて実感した。
霊夢にとって魔理沙といるのが一番気楽だった。
現に今だってそうだし、仕切り直す前の晩酌の時でさえそう思っている。
あの時、霊夢は本当に嬉しかったのだ。
二人きりの晩酌が久々で。少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しかった。
いつもの賑やかな宴会だって嫌いじゃない。妖怪と人間が入り混じって酒を飲むのだって楽しい。
それでも、魔理沙と二人だけの晩酌が霊夢にとって特別だった。
だから多分、自分でも気がつかなかったが気持ちが浮ついていたのだ。
そこに昼間の事を思い出して酒の力が変な方向に働き、気付いたらあの言葉を漏らしていた。
「『月が綺麗だな』」
そう、こんな風に。
「…えっ?」
思っていた事をそのまま口に出してしまったのかと思い慌てて口を押さえるが、ふと自分の声ではない事に気付いてふと隣に座る魔理沙に視線を向けた。
魔理沙は霊夢の方を見ておらず、お猪口を傾けながらじっと空を見つめていた。
「…曇ってるんだから見えるはずないでしょ」
すました顔の魔理沙を見てからかわれているのだと思い、若干不機嫌な声で反論する。
霊夢の中で済んだ事になってはいるものの思い出すとやはり恥ずかしい。
出来れば掘り返されたくないというのが本音だ。
「空を見てみろよ」
どうせ曇ってるんでしょと文句を言おうとしたが、魔理沙が上を指差しているのを見て上を見上げた。
すると雲はいつの間にか晴れて鈍色から空に変わっていた。
天人の仕業かと疑う程分厚い雲に覆われていた曇天の空だったというのに、どうしたことか。
種明かしをすると魔理沙が紫を使って雲を除去しただけのことだが、そんな事を知らない霊夢は驚くばかり。
「嘘。いつの間に…」
「お前が俯いてる間にゆっくりと雲が動いてたぜ。きっと空に隙間でも開いてそこから雲が出て行ったんだろ」
「…なんで」
月は出ていない。
今日は朔の日。月なんか出てないといったのは魔理沙だ。
なのになぜわざわざ同じことを言うのだろうと霊夢は首を傾げる。
すると霊夢から視線を逸らして頬を掻きながら
「…まぁ、あれだ。私の、返事」
と、魔理沙は呟いた。その頬は若干紅い。
「へ…?」
思わず漏れた間抜けな声と数秒の沈黙の後。
「…―――――っ!!!」
魔理沙の言った意味を理解して声にならない声を上げた。
「何だよ、何か言えよ。恥ずかしいのを堪えていった私が馬鹿みたいじゃないか」
「ぁ、う……あ、ああれはっ!しっ、知らないっ、私は何も知らないもん!」
「自分で言った台詞すら覚えてないとは言わせないぜ」
「あれは…っ!違う、違うもん…」
全身が沸騰したかのように熱くなり、霊夢の顔は真っ赤になっていた。
いつもの能天気な姿からは想像できないほどのテンパりようだ。いやいやと首を振り、もう何も聞きたくないと耳を塞いで蹲る。
あんなに取り乱した霊夢をみたのは初めてだ。
魔理沙は未知との遭遇に多少驚きながらも攻め手は緩めない。むしろここぞとばかりに突っ込んでいく。容赦が無かった。
「あのな、遠回りすぎるんだよ。あんなんで伝わるか」
「うっさい…、しらないもん…」
「霊夢でもそんな風に慌てることがあるんだな。こんだけ長い事一緒にいるのに、お前がそんな風になるの初めて見たぜ」
「やだ、やだ、しらない…まりさのばか、ばか、ばか…」
「うわ、殴るなって」
魔理沙の口撃に耐えられなくなったのか、両手をグーにしてポカポカと叩き始めた。
力は強くないものの、顔面目がけて振り下ろされるグーパンチを受け止め、そのままぎゅうと抱きしめると抵抗なく魔理沙の腕の中へとおさまった。
霊夢と魔理沙の体型はさして変わりはないというのに魔理沙の両腕の中にすっぽりと入ってしまう位小さい。
何を言っても「魔理沙が悪い」「魔理沙の馬鹿」としか言わない駄目巫女をよしよしとあやすと、愚図ってはいるものの叩かれる事はなく、魔理沙の服を掴んだまま黙って頭を撫でられるのであった。
「あー…、すまん。ちょっと調子に乗りすぎたな」
「魔理沙が悪いんだもん…魔理沙が台詞を噛むからいけないのよ…」
「はぁ?私がいつ噛んだっていうんだ?」
「想像の中の魔理沙は毎回噛んでたんだもの。私が言わなきゃ、って思うじゃない。あんたが噛まなきゃこんなことにはなってかったんだもん…」
「いやいや意味分からん。それはお前の妄想だろう」
言ってることはもうめちゃくちゃだ。
会話が噛み合ってるのかすらも怪しいし、現実と妄想がごっちゃになってる時点で相当危ないんじゃないかコイツと相変わらず霊夢の頭を撫でながら魔理沙は若干心配になる。
それだけ色んなものを溜め込んでいたのか、吐き出す術を知らなかったのか、兎に角壊れた蛇口みたいに霊夢のぼやきは止まらないのだ。
一応言葉を投げかければ返事を返してはくれるものの、会話が成り立っているとは言い難い。
それに対して適当に相槌を打ちながら霊夢が落ち着くのを待つことにする。
一見お気楽で能天気そうに見えたって、妖怪に恐れられる巫女であったって、霊夢は一人の人間であり一人の少女なのだ。
神社に一人で住んでいて異変が起こったらそれを解決して、の繰り返しだ。
いくら霊夢とはいえ内に溜めてしまうものだってある。それを発散する機会が無かっただけのことだ。
こういう時は全部吐き出してしまった方が楽になれるということを魔理沙は知っている。だから、ずっと霊夢の頭を撫でて愚図る霊夢をあやしているのだ。
「殴られた時は何事かと思ったが、霊夢のこんな姿を見れたなら結果オーライってところか」
「ぐす…っ、まりさがわるいんだもん…」
「あーそうだな、私が悪かったよ」
溜めこんでいる期間が長かったせいか霊夢のぼやきはなかなか止まない。
魔理沙が撫でる手を止めるとぐりぐりと頭を押し付けて無言の抵抗をされる。再び撫でてやるとくたりと体重を預けてくるのだ。
その反応が新鮮で、とても可愛らしい。
こんな霊夢の姿を見たのは魔理沙が初めてだろう。不安定で脆くて子供っぽい霊夢を腕の中に抱きしめていて、しかもそんな姿を自分に見せてくれたと思うと素直に嬉しくて、思わず強く抱きしめると霊夢から苦情を言われてしまった。
「…いたい、くるしい」
「まぁ、気にすんなよ」
わしゃわしゃと魔理沙の腕の中でされるがままの霊夢。
多分、明日には何事も無かったかのように振舞うのだろう。
それでも、分かっているのだ。今日の事を忘れたりはしない。無かった事にもならない。
多くは望まない。こうして隣に座っていられたらそれでいい。
霊夢の頭を撫でながら魔理沙はふと空を見上げる。
相変わらず月のない空だ。
―…月にだってこんな霊夢は見せてやらないぜ。
夜空に思いきりあかんべーをして魔理沙は笑った。
そして迫る掌。
―ばちん!
神社に響き渡る平手打ちの音。
ぐわんぐわんと頭が揺れて視界が点滅している。衝撃を食らった頬がじんわりと痛い。
霊夢の方を見ると顔を真っ赤にして身体を震わせていた。
明らかに怒っている表情で此方を睨みながら、
「魔理沙の馬鹿っ!」
と、捨て台詞を吐いてやや乱暴な足取りで母屋の方へと歩いて行ってしまう。
それを未だにチカチカする視界で霊夢を見送るが、まだ状況が飲み込めていなかった。
縁側に一人取り残された魔理沙。
「…あっ、おい!霊―」
我に返り霊夢の後を追おうして、ぐらりと世界が傾いた。
―どさり
立ち上がったと思っていた身体は横に倒れていて。
力も入らず、起き上がることも出来ない。
「れい、む―」
声は届かず、遠くなっていく後ろ姿。
手を伸ばそうとしても届かない。
自分の意思に関係なく瞼が下りて、徐々に狭くなっていく視界。
霊夢が怒っていた理由も分からないまま。
真っ暗な闇に包まれた。
―暗転。
目を開けて、最初に視界に入ったのは胡散臭い妖怪の顔。
「御機嫌よう。目覚めは如何かしら?」
「ああ、最悪だな」
まだ若干クラクラする頭を押さえながら倒れていた体を起こし、辺りを見回す。
「痛てて……あー、ここは神社…だよな?」
「あら、何も覚えてないの?」
「いや…」
何も覚えてないのではなく、今現在から数十分前の記憶が曖昧だった。
自分が何で神社にいるのかいつから神社にいたのか、そのあたりがぼんやりとしている。
「ちょっと待て、今思い出す」
こういう時は今日一日の行動を順番に上げていくほうが思い出しやすいと、痛む顎を押さえつつ、今日の出来事を思い起こす。
朝…一週間前に始めた研究にようやく一区切りがついて昼間まで爆睡。
昼…昼飯時に起床。紅魔館にて昼飯を集り、夕方頃まで図書館で本を読んで過ごす。
夜…神社に行って霊夢と晩酌。他愛もない話をしていたら急に霊夢の様子がおかしくなって、それから―
覚えているのはそこまでだ。
そこから先を思い出そうとするとぐわんぐわんと頭が揺れる。
「うん、霊夢と二人で酒を飲んでたのは覚えてるんだが……その後の記憶が無い」
「一番良い所を覚えていないなんて駄目な子ねぇ」
「何様なんだよお前は。覚えてないんだから仕方ないだろ」
全て見透かしたような物言いが癪に障る、苛立つ。
呆れを含んだ紫の視線を受け流しつつ、残っていた酒を飲み干した。
良い酒の筈なのに、生温くて後味が最悪だった。
「熱燗でもなく冷酒でもないお酒は美味しいかしら?」
「さぁな?少なくとも私は気分が悪くなるから二度と飲みたいとは思わないが」
「果たしてそれは本当にお酒の所為なのかしらね」
「酒の所為じゃないとしたら気分が悪いのはお前の所為だな」
腹立たしさも嫌悪も隠すことなくぶつけてもそれで気分が晴れることはない。
嫌味を言われても紫はどこ吹く風。特に気にした様子もなく、いつの間にやらお猪口を片手に扇子を仰いでいる。
このまま軽口の応酬をしていても埒があかないと思い、魔理沙は紫に訪ねた。
「それよりも、霊夢の様子がおかしい理由をお前は知ってるんだろう?」
「知っているというよりはその場にいたという方が正しいわね」
「どうせお前が関わって面白がってたんだろ」
こうやって紫が魔理沙に関わる時は事件の主犯か、事の顛末を既に知っている場合が多い。それ以外といったら宴会の時くらいだろうか。
ぱちん、と小気味いい音を立てて紫は扇子を閉じた。
「…もう少しだけ楽しみたかったのだけれど。この辺にしておきましょうか」
扇子を閉じるのと口を開くのはほぼ同時だった。
それは、魔理沙が神社を訪れる数時間ほど前。
神社に神出鬼没の隙間妖怪、紫がやってきた。
最初は鬱陶しそうにしていた霊夢も紫が手土産に持ってきた菓子折をちらつかせられたことで嬉々として歓迎したのだった。
「知っていて?外の世界での告白はね、遠回しな言葉で想いを伝えたりするのよ」
土産の菓子を茶請けに神社の縁側で霊夢と紫が茶を飲んでいると唐突にそんな話題を振られた。
「ふぅん?外の連中は面倒な事をしてるのねぇ」
「直接的な言葉よりも抽象的な方が美徳だと思っているからよ」
「美徳ねぇ。でも伝わらなかったら意味が無いじゃない」
「そこは台詞次第でしょう。では、親しい相手から『毎日私の為に味噌汁を作ってくれ』と言われたら貴方はどう思うかしら?」
「親しい、相手…」
ふと思い浮かんだのは魔理沙の顔。
「告白」という部分は霊夢の中からすっかり抜け落ちており、「親しい相手」の部分を抜き出した結果、魔理沙が出てきた。
魔理沙から『毎日私の味噌汁を作ってくれ』と言われている場面を想像する。
何故か想像の中の魔理沙は顔を赤くして若干どもりながら先程のセリフを言っていた。
「ま…毎日、私の為に味噌汁を作ってくりぇ!」
がりっ。
噛んだ。
(うわ、痛そう)
想像の中の出来事なのに随分と滑稽な結果になったものだと霊夢は思う。
いくら魔理沙でもそんなに慌てることはないだろう。
けれど、魔理沙にそう言われても何を言ってるの?としか思わない。
毎日じゃないにしろ大抵ご飯時には我が物顔で魔理沙は神社にいるし、大体霊夢がご飯を作る時間帯になるとご飯を集りにやってきては飯を平らげ、そのまま風呂に入って泊まったりする。
まだご飯を作るには早い時間にも関わらず魔理沙が腹が減った飯はまだかと急かすことだってあるのだ。
神社を自分の家と勘違いしているんじゃなかろうかという振る舞いをしているのに、『毎日私の為に味噌汁を作ってくれ』と言われたところで今更だろうと思う。
ほぼ毎日作ってやってるのに改めて言われたところでどうとも感じなかった。
「…普通に面倒くさいわ」
「もう、夢が無いわねぇ」
「味噌汁作ることに夢を持たれても困るわよ」
「ふぅん、じゃあこれは?『一緒の墓に入ってくれ』」
「…これ、告白なの?死ぬ時のことなんか知らないわよ」
「『同じ名字にならないか』」
「なにそれ、養子になりたいの?それともあんたんとこみたく式神にでもなれって事?」
その他にも紫がいくつか告白の例を出してくるがどれを聞いてもピンとこない。
告白の場面を想像すると何故か魔理沙が相手役として出てくるので余計そう思うのかもしれない。
なんで魔理沙が出てくるのかと首を傾げるも親しくて長い事一緒にいる相手が魔理沙しか思いつかなかったからだろうと結論付けた。
「…はぁ、なんでこんな子に育っちゃったのかしら。私は悲しいわ」
「あんたは私の母親か。ていうか今のが告白と言われてもしっくりこないし、分かりにくいわ」
よよよと泣く真似をする妖怪の賢者に付き合うのはやはり疲れる。こんなことならさっさと追い出すべきだったかもしれない。
まともに相手をするのも面倒くさくなって頬に片手をついてやれやれと嘆いている紫を半ば無視しながら茶をすする。
ふと湯呑に目をやると茶柱が立っているのが見え、今日は良い事あるといいなぁ…と紫の方を見ずにぼんやりと空を眺めた。
「『月が綺麗ですね』」
「はぁ?何言ってんの、まだ昼よ?」
隙間の弄りすぎでとうとう惚けたのか?という目で紫を見た。
口に出さないのは決して報復が怖いからではない。
そんな霊夢の視線すら気にせず紫は続ける。
「外の世界のとある小説家が別の言語の告白を『月が綺麗ですね』と訳したのよ。直接言わずともそれで伝わるから、とね。風情があると思いません?」
「…さぁ?少なくとも今までで一番分かりにくいわ。風情云々は置いといて」
そう呟き、興味を無くしたように茶を啜る。
しかし、少なくとも一番分かりにくいと思った言葉は霊夢の中に染み込んだ。
何故、それだけが印象に残ったのかは霊夢にもよく分からない。
紫の方も言いたい事を言って満足したのかそれから特に何も言わず、霊夢が気付いた時にはいつの間にかいなくなっていた。
紫が唐突に話を振るのはいつもの事だが、今回の話も何を言いたいのか霊夢には理解できない。
周りくどい物言いは霊夢自身あまり好きじゃない。
面倒臭い、分かりにくい、伝わりにくいの三拍子が見事に揃っている。
どの例えも少し考えなければ相手が理解しないような言い回しばかりで、本当にあれで伝わるのかと思ってしまう。
もう一度だけ自分が先程の台詞を言われているところを想像してみるが、やはりピンとこない。
無意識になのかそれとも意図的に相手を魔理沙にしているのかは霊夢にも分からないが、紫に『親しい相手』と言われて最初に浮かんだのが彼女だった。
毎回想像の中で台詞を言うのは魔理沙なのだが、どれもしっくりこない、パッとしない。
原因は分かっている。
「なんで噛むのよ」
何度想像の中でやり直しても台詞を変えても、与えられた台詞を言い切れずに魔理沙は噛む。
言われてるこっちが哀れに思うほど、盛大に。
想像の中なのに噛みまくるわつっかえるわで全てが台無しだ。風情も美徳なんかあったもんじゃない。
それどころかこんな告白で一体誰がときめくのか。誰が告白だと思うのか。
「…アイツに言わせるのは駄目ね」
霊夢は告白の相手が魔理沙だという事に疑問を抱くこともなく。
只、そんな事ばかり延々と考えていた。
昼間に紫とそんな話をした所為だろうか。
その晩、魔理沙と二人で酒を飲んでいた時に霊夢は思わず口にしてしまう。
「…月が、綺麗ね」
別に昼間の事があって魔理沙を意識していたわけではなかった。
良い具合に酒が回って酔っていたのかもしれない。
二人きりという状況があの時の想像を思い出させたのか、なんとなく「私が言わなきゃ」と霊夢は思ったのだ。
しかし、霊夢の言葉に魔理沙は怪訝な表情をする。
「月?お前、何言ってんだ?」
「何って、そのままの意味だけど」
「…いや、綺麗云々の前に曇ってるんだが」
「え?」
「ほら、外を見てみろよ」
障子を開けて上を見上げると空は雲で覆われていた。
かろうじて月が見えそうな隙間さえどこにもない。
昼間は雲なんてなかったのに。
まさかの曇天に霊夢の酔いが一気に覚める。
「へっ?…あ、いや、その。く、曇ってなかったら綺麗だろうなって思ったのよ!」
「…今日、新月だぜ?」
「え?」
「だから、新月だって。曇ってなかったとしても月は出ないだろ」
「あ…」
迂闊だった。
そういえば今日は新月だったかもしれないと日数を頭の中で確認すると恥ずかしさが猛烈に込み上げる。
空を見上げていた視線は徐々に移動して、そのまま膝の上に置いたお猪口へと下降した。
何故自分が恥ずかしがっているかもよく分からないまま、魔理沙の方を見る事もできない。
「巫女なんだからそれ位は把握してるんだろ?それともなんだ、酔いが回って物忘れが激しくなったのか?」
魔理沙がお猪口を傾けながらカラカラと笑う。
これくらいの軽口はいつもの事なのだが今の霊夢には羞恥を煽る嘲笑にしか聞こえない。
―恥ずかしい。ていうか、なんで伝わらないのよ。
顔が沸騰したかのように熱くなり、同時に瞬間的な怒りに身を包まれる。
分かりにくいだの回りくどいだの散々文句を言っていたことなどさっぱり忘れ、怒りの矛先を魔理沙に向けた。
南無三。
「魔理沙の、馬鹿っ!」
気付いた時には感情に身を任せて魔理沙を思いきり引っ叩いていた。
「…とまぁ、こんな感じかしら。霊夢の平手打ちはそりゃあ見事なものだったわよ?」
「あー…、うん。なんとなくそんなんだった気がするぜ。つーか、話を聞いてりゃあ私は完全にとばっちりじゃないか」
「霊夢は頬を叩いたつもりでしょうけど、顎にも衝撃がいってたわ。顎は人間の急所でしょう?意識が飛んでしまったのはその所為よ」
「何真面目に解説してんだよ。人の話聞けよ」
紫から詳細を聞き、ついでに記憶の境界も弄られたことで大体の記憶が戻っていた。
「それにしても霊夢も間抜けよねぇ、今日が朔の日という事くらい分かるはずなのに」
「お前、分かってて霊夢を嗾けたろ」
「いつまで経っても色恋沙汰に興味を示さない霊夢に切欠を与えただけですわ。別に、誰に如何云いなさいと唆したわけではないわ。まさか、今日の内に言うとは思っていなかったけれど…結果は散々だったわねぇ。相手が悪かったのかしら」
「…なんでこっち見るんだよ。言っとくが私は被害者だぞ」
「あら、知らないことが罪になる場合もあるのよ?今回は色んな要因が重なった結果だから別に貴方を責める気はないけれど」
「ふん、元凶の癖に好き勝手いいやがって」
愚痴りつつも思い出すのは霊夢に叩かれた場面と瞳を潤ませて去っていく場面。
ずきずきと痛みを発しているのは叩かれた頬か、それとも別の場所だろうか。
魔理沙に非は無い筈なのに、居心地が悪い。何故こんなにも苛々するのか。
「くそ…」
頭をかいて考えても導き出される答えは変わらない。
紫に話を聞いた時から分かっていた、既に回答は自分の中にあった。
あとは動くだけ。行動に移せばいい。
「明日になったら霊夢は何事も無かったかのように振舞うでしょうね。今日の事を無かった事にして」
「ああ、だろうな」
何もする気がないのならこのまま明日が来るのを待てばいい。
今日の出来事を無かった事にしたくないのなら、動くしかない。
「貴方はどう動くのかしら?」
「それをお前に言う必要は無いだろ」
「あら、残念」
ただ、紫の思惑通りに動かされてると思うと腹立たしくなるのだが、そんなことは言っていられない。
むしろここまで来たら乗ってやろうじゃないかと魔理沙は腹を括った。
「お前の余計なお節介の所為で私はとばっちりを食らったんだ。落とし前はキッチリ付けさせてもらうぜ」
あら怖い怖いと言いながら紫は扇子で口元を隠すが目は明らかに笑っており、怖がっている様子は微塵もない。
それをジト目で睨みつつ胡散臭い奴めと魔理沙は呟く。
「短気は損気よ?安心なさい、お膳立てくらいはしてあげますわ」
誰が見ても胡散臭いと形容する笑顔で紫は微笑むのだった。
魔理沙を引っ叩いて席を立った後、霊夢は鳥居の台石に腰掛けていた。
しばらくそのままぼんやりしていたが、酒を向こうに置いてきたことに気付く。
せめて徳利だけでも持ってくれば良かったと思うが、魔理沙がまだいるであろう場所に酒を取りに戻る気は無い。
酔いはとうに冷めた。頭も幾分か冷静になった。
不思議と後悔は無かった。
魔理沙に言った事も叩いた事もどちらも霊夢の中では過ぎた事として処理されている。
先程の事を思い出して浮かぶのは、疑問。
「あー、もう…」
何故、魔理沙に昼間の台詞を言ってしまったのか。
霊夢はその時の自身の心理が分からず、疑問だけがもやもやと渦巻く。
別に言う必要はなかった。言ってしまったのはなんとなくで、魔理沙を意識してはいなかった。けれど、「魔理沙に言わせるのは駄目だ、私が言わないと」と思ったのも事実。でも、だからって。その日の内に言う必要はなかった筈だ。一体自分はどうしたっていうのだ。結果は空振りとも玉砕とも言えない微妙な終わりを告げ、霊夢に残ったのは羞恥のみ。朔の日だったなんて考えれば分かることだ。それに気付かなかったなんて阿呆にも程がある。当の本人は気付いてなかったどころか台詞の意味を知らなかった事が唯一の救いであり、絶望であり。気付いた時には魔理沙をぶっ叩いて飛び出して今に至るわけで。
「ああ、私振られたのかな」とぼんやり考えてなんだか悲しくなった。あれ、なんで悲しいんだろう、何でちょっと残念がっているんだろう。魔理沙に伝わってないほうが誤魔化す手間も少ないしからかわれることもなくて都合がいいはずなのに、残念に感じている自分がいる。月が出ていなかった事か、それとも伝わっていなかった事だろうか。そもそも何をこんなに悩んでいるのか分からない、ていうかなんかこんがらがってきた。
そんなことを悶々と俯いたまま考え事をしていたお陰ですぐ近くに人がいることすら気付けない。
ぽすんと頭の上に圧力がかかるのを感じて見上げようとするがぐいと押さえつけられる。
「…何すんのよ」
「お前の頭にきのこが生えてたから異変かと思ってな」
どかりと霊夢の横に座り、そのまま頭をやや乱暴に撫でた。
不器用な頭の撫で方と聞き慣れた軽口。長年の付き合いだ。見なくたって、見えなくたって誰だか分かる。
「万年頭にきのこが生えてるあんたよりマシよ」
「そういうお前は頭ん中が万年春だろうに。…いて!っと、なんだよ、暴れるなって」
「うっさい馬鹿、バカ、ばか。笑いに来たのならどこかに行って」
まるで駄々をこねる子供のように頭を撫でる魔理沙の手から逃れようともがく。
今はまだ駄目だ。
現在の霊夢の精神状態では魔理沙を前に平静でいられない。
「明日になったら元に戻ってるから、だから、今は放っておいて」
「それで今日の事を無かったことにして逃げるのか?巫女の癖に」
魔理沙は暴れる霊夢の腕を掴んで抵抗できないようにする。
「逃げてなんかないわ!…っていうか巫女は関係ないでしょ!」
「おお、反論と突っ込みを同時にこなすとは流石だな」
「もう…なんなのよ、あんたは…」
胸中穏やかでない霊夢だが能天気な魔理沙の声を聞いていると力んでいたのが馬鹿らしくなった。
魔理沙といるとどんなに機嫌が悪いときでも自然と張り詰めていたものが少しだけ無くなって無駄な力が抜けてしまう。
抵抗する気も無くなり、諦めを含んだため息が漏れた。
「手、離して。もう暴れたりしないわ」
「ん」
がっちりと掴まれていた右手首から魔理沙の手が離れたと思って気が緩んだその時。
「と、思ったがやっぱり止めた。そう言っておいてまた霊夢が逃げるかもしれないだろ?だから逃げられないようにしっかり捕まえておいてやる」
手首ではなく、指を絡めるようにして霊夢の手は完全に捕らわれる。
やられた。
「ちょっと、魔理沙!」
「まぁ落ちつけよ。さっき何処ぞの覗き魔を懲らしめたら報酬に酒を貰ったんだ。良い酒だからさ、これで飲み直そうぜ」
「……いいけど」
帽子に手を突っ込んで一升瓶を取り出し、魔理沙が屈託のない笑顔を見せると霊夢は何も言えなくなる。
本人に自覚はないが、霊夢は昔から魔理沙の笑顔には弱かった。
「そういえばお前に叩かれた頬の痛みが引かないんだが、巫女のビンタってのは呪いでもかけられるのか?」
「さぁ?そんなの知らないわよ。普段の行いが悪いからじゃないの?」
「馬鹿言うな、私ほど普段の行いがいい奴なんかいないぜ。呪いの方がよっぽど信憑性があるだろ」
「そもそも普段の行いが良かったら誰もあんたに呪いなんてかけようと思わないでしょうが」
仲直りもとい仕切り直しの二人だけの晩酌。
先程の事を引き摺ることも気まずくなることもなく、いつも通り。
いつもと同じ会話のノリに、変わらない二人の態度。
やはりこの関係が一番落ち着く。変に意識せず、気兼ねすることもないこの雰囲気が好きだ。
「呪い云々は抜きにしてもお前のビンタで記憶が飛んだぜ。これスペルカードにしたらきっと面白いぞ」
「スペルっていうか弾幕ですらないじゃない。ただの平手打ちでしょう」
「いやいや、不意を突くんだよ。相手の懐に潜り込んで弾幕を叩き込むよりもビンタ食らわしたほうが精神的にキツイだろ。なんならスペカ名はまた私が付けてやるぜ」
さっきの騒動も魔理沙にかかればただの笑い話になる。
後腐れなく尾を引いたりしない、何も気にする必要がない。それがこんなにも安心できるものなのだと霊夢は改めて実感した。
霊夢にとって魔理沙といるのが一番気楽だった。
現に今だってそうだし、仕切り直す前の晩酌の時でさえそう思っている。
あの時、霊夢は本当に嬉しかったのだ。
二人きりの晩酌が久々で。少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しかった。
いつもの賑やかな宴会だって嫌いじゃない。妖怪と人間が入り混じって酒を飲むのだって楽しい。
それでも、魔理沙と二人だけの晩酌が霊夢にとって特別だった。
だから多分、自分でも気がつかなかったが気持ちが浮ついていたのだ。
そこに昼間の事を思い出して酒の力が変な方向に働き、気付いたらあの言葉を漏らしていた。
「『月が綺麗だな』」
そう、こんな風に。
「…えっ?」
思っていた事をそのまま口に出してしまったのかと思い慌てて口を押さえるが、ふと自分の声ではない事に気付いてふと隣に座る魔理沙に視線を向けた。
魔理沙は霊夢の方を見ておらず、お猪口を傾けながらじっと空を見つめていた。
「…曇ってるんだから見えるはずないでしょ」
すました顔の魔理沙を見てからかわれているのだと思い、若干不機嫌な声で反論する。
霊夢の中で済んだ事になってはいるものの思い出すとやはり恥ずかしい。
出来れば掘り返されたくないというのが本音だ。
「空を見てみろよ」
どうせ曇ってるんでしょと文句を言おうとしたが、魔理沙が上を指差しているのを見て上を見上げた。
すると雲はいつの間にか晴れて鈍色から空に変わっていた。
天人の仕業かと疑う程分厚い雲に覆われていた曇天の空だったというのに、どうしたことか。
種明かしをすると魔理沙が紫を使って雲を除去しただけのことだが、そんな事を知らない霊夢は驚くばかり。
「嘘。いつの間に…」
「お前が俯いてる間にゆっくりと雲が動いてたぜ。きっと空に隙間でも開いてそこから雲が出て行ったんだろ」
「…なんで」
月は出ていない。
今日は朔の日。月なんか出てないといったのは魔理沙だ。
なのになぜわざわざ同じことを言うのだろうと霊夢は首を傾げる。
すると霊夢から視線を逸らして頬を掻きながら
「…まぁ、あれだ。私の、返事」
と、魔理沙は呟いた。その頬は若干紅い。
「へ…?」
思わず漏れた間抜けな声と数秒の沈黙の後。
「…―――――っ!!!」
魔理沙の言った意味を理解して声にならない声を上げた。
「何だよ、何か言えよ。恥ずかしいのを堪えていった私が馬鹿みたいじゃないか」
「ぁ、う……あ、ああれはっ!しっ、知らないっ、私は何も知らないもん!」
「自分で言った台詞すら覚えてないとは言わせないぜ」
「あれは…っ!違う、違うもん…」
全身が沸騰したかのように熱くなり、霊夢の顔は真っ赤になっていた。
いつもの能天気な姿からは想像できないほどのテンパりようだ。いやいやと首を振り、もう何も聞きたくないと耳を塞いで蹲る。
あんなに取り乱した霊夢をみたのは初めてだ。
魔理沙は未知との遭遇に多少驚きながらも攻め手は緩めない。むしろここぞとばかりに突っ込んでいく。容赦が無かった。
「あのな、遠回りすぎるんだよ。あんなんで伝わるか」
「うっさい…、しらないもん…」
「霊夢でもそんな風に慌てることがあるんだな。こんだけ長い事一緒にいるのに、お前がそんな風になるの初めて見たぜ」
「やだ、やだ、しらない…まりさのばか、ばか、ばか…」
「うわ、殴るなって」
魔理沙の口撃に耐えられなくなったのか、両手をグーにしてポカポカと叩き始めた。
力は強くないものの、顔面目がけて振り下ろされるグーパンチを受け止め、そのままぎゅうと抱きしめると抵抗なく魔理沙の腕の中へとおさまった。
霊夢と魔理沙の体型はさして変わりはないというのに魔理沙の両腕の中にすっぽりと入ってしまう位小さい。
何を言っても「魔理沙が悪い」「魔理沙の馬鹿」としか言わない駄目巫女をよしよしとあやすと、愚図ってはいるものの叩かれる事はなく、魔理沙の服を掴んだまま黙って頭を撫でられるのであった。
「あー…、すまん。ちょっと調子に乗りすぎたな」
「魔理沙が悪いんだもん…魔理沙が台詞を噛むからいけないのよ…」
「はぁ?私がいつ噛んだっていうんだ?」
「想像の中の魔理沙は毎回噛んでたんだもの。私が言わなきゃ、って思うじゃない。あんたが噛まなきゃこんなことにはなってかったんだもん…」
「いやいや意味分からん。それはお前の妄想だろう」
言ってることはもうめちゃくちゃだ。
会話が噛み合ってるのかすらも怪しいし、現実と妄想がごっちゃになってる時点で相当危ないんじゃないかコイツと相変わらず霊夢の頭を撫でながら魔理沙は若干心配になる。
それだけ色んなものを溜め込んでいたのか、吐き出す術を知らなかったのか、兎に角壊れた蛇口みたいに霊夢のぼやきは止まらないのだ。
一応言葉を投げかければ返事を返してはくれるものの、会話が成り立っているとは言い難い。
それに対して適当に相槌を打ちながら霊夢が落ち着くのを待つことにする。
一見お気楽で能天気そうに見えたって、妖怪に恐れられる巫女であったって、霊夢は一人の人間であり一人の少女なのだ。
神社に一人で住んでいて異変が起こったらそれを解決して、の繰り返しだ。
いくら霊夢とはいえ内に溜めてしまうものだってある。それを発散する機会が無かっただけのことだ。
こういう時は全部吐き出してしまった方が楽になれるということを魔理沙は知っている。だから、ずっと霊夢の頭を撫でて愚図る霊夢をあやしているのだ。
「殴られた時は何事かと思ったが、霊夢のこんな姿を見れたなら結果オーライってところか」
「ぐす…っ、まりさがわるいんだもん…」
「あーそうだな、私が悪かったよ」
溜めこんでいる期間が長かったせいか霊夢のぼやきはなかなか止まない。
魔理沙が撫でる手を止めるとぐりぐりと頭を押し付けて無言の抵抗をされる。再び撫でてやるとくたりと体重を預けてくるのだ。
その反応が新鮮で、とても可愛らしい。
こんな霊夢の姿を見たのは魔理沙が初めてだろう。不安定で脆くて子供っぽい霊夢を腕の中に抱きしめていて、しかもそんな姿を自分に見せてくれたと思うと素直に嬉しくて、思わず強く抱きしめると霊夢から苦情を言われてしまった。
「…いたい、くるしい」
「まぁ、気にすんなよ」
わしゃわしゃと魔理沙の腕の中でされるがままの霊夢。
多分、明日には何事も無かったかのように振舞うのだろう。
それでも、分かっているのだ。今日の事を忘れたりはしない。無かった事にもならない。
多くは望まない。こうして隣に座っていられたらそれでいい。
霊夢の頭を撫でながら魔理沙はふと空を見上げる。
相変わらず月のない空だ。
―…月にだってこんな霊夢は見せてやらないぜ。
夜空に思いきりあかんべーをして魔理沙は笑った。
こんな霊夢もかわいいね。
難しいお年頃なんですよね、霊夢さんは。
魔理沙の背伸び具合も微笑ましくそしてカッコいい。
八雲さんは……、相変わらずだなぁ。
いや、もちろんいい意味でなんですが。
レイマリはやっぱり男前魔理沙×乙女霊夢に限ります。
男前魔理沙に惚れた
やはりレイマリは良い
ベーした先には実は紫さんがいましたw←
可愛らしいレイマリをありがとうございました。