それは、ある日のことだった。この日のことは鮮明に覚えている。忘れたくとも忘れられない。わたしはきっと忘れないんだと思う。この日に起こった出来事は、わたしの頭に多大なる衝撃をもたらした。きっとこんなことは人生で初ではないのだろうか? いや人じゃないから人生ってのもおかしな話だけどね。
とにもかくにもこの日の出来事を語ろうじゃないか。んー? いやさ、そんなに怯えた顔をしなさんな。大丈夫。わたしの話を聞いて、そのあとにちょっとつきあってくれればいいんだ。
そうだねぇ、なにから語ろうか……とりあえず、お前さんが来るちょっと前からだ。
▼
わたしは四畳半の小さな部屋でちゃぶ台に向かって座っていた。地下にある小さなこじんまりとしたアパートだ。そこでわたしは慎重に慎重に、細心の注意をはらってカップ麺にお湯を注いでいた。カップ麺には『地底のお味をたんと召し上がれ』とか、謳い文句と地霊殿の……さとりさんだっけ? が笑顔でカップ麺を十個ほど抱きしめている姿が印刷されている。いつから地霊殿はカップ麺の製造業者になったのだろうか。そういえば、三ヶ月くらい前だった記憶がある。そのころ、初めて買ったカップ麺に衝撃を受けたんだ。そうしていつしかわたしは地霊殿製のカップ麺の虜になっていったのだ。
今注いでいるこれは新製品。
なんとなんとなんと、なんとだよ! 地霊殿の新作のカップ麺なんだよ! そしてもう一つ。おまけのキーホルダーがついてくる。地霊殿のペットたちのがね。部屋の隅っこに置いてあるダンボール(過剰包装のためちょっと大きめ)の中にはそのおまけのキーホルダーが入っている。全十種類の。実を言えばこのキーホルダー、コンビニとかに置いてあるガチャポンとかでも揃うのだが、いかんせん入っている種類がランダムすぎる。こいしちゃんキーホルダーを当てたのは……さとりさんだけだって話だ。
貰える立場にあるのに何故わざわざ当てたかって? 自分で当てなければ意味がない! とかなんとか言ってガチャポンに挑んだらしいよ。三日三晩徹夜して限界突破したらしい。
だから、わたしはこれを貰うために抽選にはがきを出したのだ。そして見事、見事に当たったのだ!
キーホルダーも目的だけど、まずはカップ麺から。なんてったって新作のカップ麺を誰よりも早く食べられるんだ。
わたしは蓋を閉じて、重しに割り箸を置いた。そして、砂時計をセット。くりん、と回して、きっかし三分。この時間が一番楽しい。どんな味だろう、と想像をめぐらせるのだ。
ふと窓の外を見た。いつだって暗くて時間の経過の分かりずらい地底だけど、今はきっと夜だろうか。わたしの腹時計がそう告げている。
リズムに乗って鼻歌なんぞ歌っていると、唐突に扉がノックされた。居間を出ればすぐにある玄関。
「はーい。どなたー?」
と、聞くとすぐに返事は帰ってくる。
「あー、やーさん。いるー? いるなら返事してぇー」
間延びしながら帰っていた声は確かに聞き覚えのある声だった。って、酔ってるんじゃないのか、これ。あとやーさんってなんだよ。やーさんって。まるでわたしが893さんみたいじゃないか。
「だれだよやーさんって」
「じゃあやっちゃん」
さらにだれだよ、と思ううちに扉を開けてやると、水橋さんちのパルスィちゃんが顔を出した。真っ赤に頬を染めて、酒くさ!
酔ってんじゃんかよ完璧に、ぱーふぇくとに。ぐでー、と倒れこんでくるパルスィちゃん。おっと、頭ぶつけるぞ、と受け止めてやった。
「おーい。起きろー!」
無駄なのは分かってるけど呼びかけてみる。
「ほぇー?」
無駄だった!
とりあえず、わたしは酔っ払い一人を引きずって、居間に入った。つってもこのアパート、居間とシャワー室ぐらいしかないんだけどね。シャワーがある分、まだいいほうだと思っている。トイレ? 共用のがあるよ?
▼
とりあえず部屋に連れてきたものの、こいつはしくしくと泣きながら、ちゃぶ台に突っ伏していた。なんしたよ? と思っていると、突然がば、と顔をあげた。そして、
「やーさんさー」
「ヤマメでお願い」
「うーい了解。やっちゃんさー」
聞いてねぇし。
「えろいよね?」
「はい?」
「やっちゃんえろいよね?」
なに言っちゃってんのこの人。真顔で真剣に、と言っても机に頬っぺたつけたまんまなんだけどね。まるで重要なことでも話すかのように口にしたのだ。
「糸出すよね」
「うん」
「お尻から?」
「ばかやろう」
がこん、殴っておいた。ちょっとヤバ気な音がしたけどきっと大丈夫だろう。ぷしゅう、と頭から煙をだして、数秒で復活。そして勢いつけてわたしに迫って来る。肩掴むな、あと顔近い顔近い!
「でもさ!」
「う……うん」
「糸はお尻から出すほうがいいと思うの」
「ごめん、意味が分からない」
「要は、そのえろいのが気に食わないのよ」
「つまり妬ましい、って言いたいだけか?」
「そういうわけー」
ずるずる、とわたしにしがみついたままずり落ちていくパルパル。ふぅ、と息を吐く。
ちら、とカップ麺のほうに視線をやるとあと数秒で砂が落ちきるところだった。あっぶな。このまま話し続けて、時間オーバーしたらどうすんのよ。
箸を取り、ぺろぺりと蓋を開ける。水蒸気が立ち昇る。その白い中から現れたのは、黄金色に輝く麺。刻んだネギが、とても良いアクセントを添えている。比較的(数百のカップ麺を食べた結果)に大きめに切られたチャーシューなど、乗っているものは普通な感じだ。しかし! 一口目をおそるおそる口に運ぶ。手が震える。煌く麺を取って、口に運ぶ。たったそれだけの、動作がいやに長く感じる。それを口に入れた。
その瞬間。わたしの身体はまるで宙に浮いたような気持ちになった。それは、なにものにも代えがたい爽快感を伴ってわたしの身体を支配した。頭の中に現れた七人の小人がタップダンスを踊りだすかのような気持ち。それからラインダンスに移行しようとしている感じ。分かりにくいだろうか? なら分からないほうがいいだろう。脳天から足の先まで一気に降り立つ快楽にも似た感じ。口の中で麺を噛むたびに、わたしの舌は小さな爆発を繰り返すかのように、わたしの頭を揺るがした。たった一口だ。一口でこの快感だ。残りを食べたらどうなるのか、わたしは楽しみで仕方がなかった。
が、しかしだ。その瞬間。運が悪かったとしか言いようがない。
突然に意識を取り戻したパルパルがわたしの手に、正確にはカップ麺に向かって頭突きをかましたのだ。
宙を舞うカップ麺。
頭を抑えるパルパル。
くるくると回転したカップ麺は、そのまま熱い汁(なんかえろいね)をパルパルの頭にぶっかけた。妖怪なんだから大火傷みたい大事には発展しないとは思うけど、って、
「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………!」
たった一口かよ! わたしの楽しみはたったの一口かよ。わたしの楽しみはたったの一口で終わりかよ! いや、キーホルダーだって楽しみだったよ。幻のこいしちゃんキーホルダーとかめっちゃ楽しみだったよ。けどね、あのカップ麺! 当たったときはどれほど嬉しかったことか(知らされたの前日だけど)。それから待つ間のわくわく感。全部飛んでったよ。文字通りパルパルの頭に! 返せ! わたしの気持ちを返せ!
パルパルは叫びながらごろごろ転がってるし。あー、そんなにいくと……あ、机の足に腕ぶつけた。あーありゃあ、痛いね。
震えてるもん。叫びたいけど叫べない痛みってホントにやだねぇ。
あーちくしょう。カップ麺……な、泣いてなんかないんだい!
▼
「と、まぁこれがわたしのカップ麺が消えてしまったことの顛末だ」
わたしは目の前で正座しているパルパルに語りかける。この間から数日が経過した後のことだ。火傷も治ってよかったー、とか言ってばんざーい、とかしていたこいつの元へわたしは駆けつけた。何故かって? あの日のことの決着を着けにだ。
それにしたって、さすが橋姫。橋の下にテント張って住んでいるとはダテじゃない。
「あの、ちょっといい?」
手をあげるパルパル、うん、そろそろ直そうパルシィ。あれ違う? まぁいっか。
「ああ、却下」
「なんで!」
「わたしは被害者。パルシィは自業自得。さて話せ。あの日、どうしてお前がわたしの家にやってきたのかを」
「私もある意味被害者なんだけど……ってか名前の発音違くない?」
「気にしないように」
「気にするよ!」
「はい、とっとと話す」
ぐぅ、と歯噛みしながら、ぽつぽつと語り始めるパルシィ。もういいやパルスィ。
「あの日ね。当選発表日だったでしょ。連絡来なくって、はずれたって分かったから、それで自棄酒したのよ。そして、たぶん外れているだろう、あなたの家に向かったのよ。愚痴を言いにね。当たってたけど。妬ましいわ」
「ああ、お前さんに台無しにされたけどね」
「うぅー……」
「頭から喰われたしなぁ」
じとーっと見てやると気まずそうに俯く。わたしはため息を吐いた。ああもう。
「いいよいいよ。許す許す。どうせいつかコンビニにでも並ぶでしょ」
パルスィの顔がぱぁ、と輝いた。でもね、
「それとこれとは話が別で、」
「はい?」
「わたしはお尻から糸を出さない!」
パルスィは噴出した。忘れたかったのに、とか言ってる。ああ、こいつ酔ってる最中の記憶も残るのか。あんな質問をしてしまった自己嫌悪なのか、頭抱えて俯いてぶつぶつ言ってる。もちろん正座したまま。心なしか顔が赤い。気のせいだ。
わたしは狙いを定める。右手を前に出して、俯くパルスィ目掛けて、
「わたしはこっから糸を出すのよ!」
手首から糸を噴射した。
ぶしゅぅ、と噴射される糸に巻かれるパルスィ。真っ白な粘性(ちょこっとえろいね)の糸がその身体を覆っていく。ねばー、と顔に引っ付いた糸を引っぱりながら「うぇぇ、なによこれぇ」とかやってんのがえろかったりえろくなかったり。わたしはその糸を手首から外しながら、
「じゃ、それ、少ししたら取れるから」
「す、すこしってどれくらいよ!?」
「んー、一、二時間くらい」
「長いわ!」
「ばーいばーい」
手を振って帰るわたしの背中に「お願い、こいしちゃんキーホルダーを見せて!」とか言われたような気がした。いや、あのキーホルダーはわたしの宝物。ちゃんと埃も被らないように保存しているわ。それにしたって、あのさとりさんはいったいどうやって、こいしちゃんキーホルダーをゲットしたのだろうか?
深まる謎を胸に、わたしはアパートへの帰路についたのだった。
[おしまい]
とにもかくにもこの日の出来事を語ろうじゃないか。んー? いやさ、そんなに怯えた顔をしなさんな。大丈夫。わたしの話を聞いて、そのあとにちょっとつきあってくれればいいんだ。
そうだねぇ、なにから語ろうか……とりあえず、お前さんが来るちょっと前からだ。
▼
わたしは四畳半の小さな部屋でちゃぶ台に向かって座っていた。地下にある小さなこじんまりとしたアパートだ。そこでわたしは慎重に慎重に、細心の注意をはらってカップ麺にお湯を注いでいた。カップ麺には『地底のお味をたんと召し上がれ』とか、謳い文句と地霊殿の……さとりさんだっけ? が笑顔でカップ麺を十個ほど抱きしめている姿が印刷されている。いつから地霊殿はカップ麺の製造業者になったのだろうか。そういえば、三ヶ月くらい前だった記憶がある。そのころ、初めて買ったカップ麺に衝撃を受けたんだ。そうしていつしかわたしは地霊殿製のカップ麺の虜になっていったのだ。
今注いでいるこれは新製品。
なんとなんとなんと、なんとだよ! 地霊殿の新作のカップ麺なんだよ! そしてもう一つ。おまけのキーホルダーがついてくる。地霊殿のペットたちのがね。部屋の隅っこに置いてあるダンボール(過剰包装のためちょっと大きめ)の中にはそのおまけのキーホルダーが入っている。全十種類の。実を言えばこのキーホルダー、コンビニとかに置いてあるガチャポンとかでも揃うのだが、いかんせん入っている種類がランダムすぎる。こいしちゃんキーホルダーを当てたのは……さとりさんだけだって話だ。
貰える立場にあるのに何故わざわざ当てたかって? 自分で当てなければ意味がない! とかなんとか言ってガチャポンに挑んだらしいよ。三日三晩徹夜して限界突破したらしい。
だから、わたしはこれを貰うために抽選にはがきを出したのだ。そして見事、見事に当たったのだ!
キーホルダーも目的だけど、まずはカップ麺から。なんてったって新作のカップ麺を誰よりも早く食べられるんだ。
わたしは蓋を閉じて、重しに割り箸を置いた。そして、砂時計をセット。くりん、と回して、きっかし三分。この時間が一番楽しい。どんな味だろう、と想像をめぐらせるのだ。
ふと窓の外を見た。いつだって暗くて時間の経過の分かりずらい地底だけど、今はきっと夜だろうか。わたしの腹時計がそう告げている。
リズムに乗って鼻歌なんぞ歌っていると、唐突に扉がノックされた。居間を出ればすぐにある玄関。
「はーい。どなたー?」
と、聞くとすぐに返事は帰ってくる。
「あー、やーさん。いるー? いるなら返事してぇー」
間延びしながら帰っていた声は確かに聞き覚えのある声だった。って、酔ってるんじゃないのか、これ。あとやーさんってなんだよ。やーさんって。まるでわたしが893さんみたいじゃないか。
「だれだよやーさんって」
「じゃあやっちゃん」
さらにだれだよ、と思ううちに扉を開けてやると、水橋さんちのパルスィちゃんが顔を出した。真っ赤に頬を染めて、酒くさ!
酔ってんじゃんかよ完璧に、ぱーふぇくとに。ぐでー、と倒れこんでくるパルスィちゃん。おっと、頭ぶつけるぞ、と受け止めてやった。
「おーい。起きろー!」
無駄なのは分かってるけど呼びかけてみる。
「ほぇー?」
無駄だった!
とりあえず、わたしは酔っ払い一人を引きずって、居間に入った。つってもこのアパート、居間とシャワー室ぐらいしかないんだけどね。シャワーがある分、まだいいほうだと思っている。トイレ? 共用のがあるよ?
▼
とりあえず部屋に連れてきたものの、こいつはしくしくと泣きながら、ちゃぶ台に突っ伏していた。なんしたよ? と思っていると、突然がば、と顔をあげた。そして、
「やーさんさー」
「ヤマメでお願い」
「うーい了解。やっちゃんさー」
聞いてねぇし。
「えろいよね?」
「はい?」
「やっちゃんえろいよね?」
なに言っちゃってんのこの人。真顔で真剣に、と言っても机に頬っぺたつけたまんまなんだけどね。まるで重要なことでも話すかのように口にしたのだ。
「糸出すよね」
「うん」
「お尻から?」
「ばかやろう」
がこん、殴っておいた。ちょっとヤバ気な音がしたけどきっと大丈夫だろう。ぷしゅう、と頭から煙をだして、数秒で復活。そして勢いつけてわたしに迫って来る。肩掴むな、あと顔近い顔近い!
「でもさ!」
「う……うん」
「糸はお尻から出すほうがいいと思うの」
「ごめん、意味が分からない」
「要は、そのえろいのが気に食わないのよ」
「つまり妬ましい、って言いたいだけか?」
「そういうわけー」
ずるずる、とわたしにしがみついたままずり落ちていくパルパル。ふぅ、と息を吐く。
ちら、とカップ麺のほうに視線をやるとあと数秒で砂が落ちきるところだった。あっぶな。このまま話し続けて、時間オーバーしたらどうすんのよ。
箸を取り、ぺろぺりと蓋を開ける。水蒸気が立ち昇る。その白い中から現れたのは、黄金色に輝く麺。刻んだネギが、とても良いアクセントを添えている。比較的(数百のカップ麺を食べた結果)に大きめに切られたチャーシューなど、乗っているものは普通な感じだ。しかし! 一口目をおそるおそる口に運ぶ。手が震える。煌く麺を取って、口に運ぶ。たったそれだけの、動作がいやに長く感じる。それを口に入れた。
その瞬間。わたしの身体はまるで宙に浮いたような気持ちになった。それは、なにものにも代えがたい爽快感を伴ってわたしの身体を支配した。頭の中に現れた七人の小人がタップダンスを踊りだすかのような気持ち。それからラインダンスに移行しようとしている感じ。分かりにくいだろうか? なら分からないほうがいいだろう。脳天から足の先まで一気に降り立つ快楽にも似た感じ。口の中で麺を噛むたびに、わたしの舌は小さな爆発を繰り返すかのように、わたしの頭を揺るがした。たった一口だ。一口でこの快感だ。残りを食べたらどうなるのか、わたしは楽しみで仕方がなかった。
が、しかしだ。その瞬間。運が悪かったとしか言いようがない。
突然に意識を取り戻したパルパルがわたしの手に、正確にはカップ麺に向かって頭突きをかましたのだ。
宙を舞うカップ麺。
頭を抑えるパルパル。
くるくると回転したカップ麺は、そのまま熱い汁(なんかえろいね)をパルパルの頭にぶっかけた。妖怪なんだから大火傷みたい大事には発展しないとは思うけど、って、
「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………!」
たった一口かよ! わたしの楽しみはたったの一口かよ。わたしの楽しみはたったの一口で終わりかよ! いや、キーホルダーだって楽しみだったよ。幻のこいしちゃんキーホルダーとかめっちゃ楽しみだったよ。けどね、あのカップ麺! 当たったときはどれほど嬉しかったことか(知らされたの前日だけど)。それから待つ間のわくわく感。全部飛んでったよ。文字通りパルパルの頭に! 返せ! わたしの気持ちを返せ!
パルパルは叫びながらごろごろ転がってるし。あー、そんなにいくと……あ、机の足に腕ぶつけた。あーありゃあ、痛いね。
震えてるもん。叫びたいけど叫べない痛みってホントにやだねぇ。
あーちくしょう。カップ麺……な、泣いてなんかないんだい!
▼
「と、まぁこれがわたしのカップ麺が消えてしまったことの顛末だ」
わたしは目の前で正座しているパルパルに語りかける。この間から数日が経過した後のことだ。火傷も治ってよかったー、とか言ってばんざーい、とかしていたこいつの元へわたしは駆けつけた。何故かって? あの日のことの決着を着けにだ。
それにしたって、さすが橋姫。橋の下にテント張って住んでいるとはダテじゃない。
「あの、ちょっといい?」
手をあげるパルパル、うん、そろそろ直そうパルシィ。あれ違う? まぁいっか。
「ああ、却下」
「なんで!」
「わたしは被害者。パルシィは自業自得。さて話せ。あの日、どうしてお前がわたしの家にやってきたのかを」
「私もある意味被害者なんだけど……ってか名前の発音違くない?」
「気にしないように」
「気にするよ!」
「はい、とっとと話す」
ぐぅ、と歯噛みしながら、ぽつぽつと語り始めるパルシィ。もういいやパルスィ。
「あの日ね。当選発表日だったでしょ。連絡来なくって、はずれたって分かったから、それで自棄酒したのよ。そして、たぶん外れているだろう、あなたの家に向かったのよ。愚痴を言いにね。当たってたけど。妬ましいわ」
「ああ、お前さんに台無しにされたけどね」
「うぅー……」
「頭から喰われたしなぁ」
じとーっと見てやると気まずそうに俯く。わたしはため息を吐いた。ああもう。
「いいよいいよ。許す許す。どうせいつかコンビニにでも並ぶでしょ」
パルスィの顔がぱぁ、と輝いた。でもね、
「それとこれとは話が別で、」
「はい?」
「わたしはお尻から糸を出さない!」
パルスィは噴出した。忘れたかったのに、とか言ってる。ああ、こいつ酔ってる最中の記憶も残るのか。あんな質問をしてしまった自己嫌悪なのか、頭抱えて俯いてぶつぶつ言ってる。もちろん正座したまま。心なしか顔が赤い。気のせいだ。
わたしは狙いを定める。右手を前に出して、俯くパルスィ目掛けて、
「わたしはこっから糸を出すのよ!」
手首から糸を噴射した。
ぶしゅぅ、と噴射される糸に巻かれるパルスィ。真っ白な粘性(ちょこっとえろいね)の糸がその身体を覆っていく。ねばー、と顔に引っ付いた糸を引っぱりながら「うぇぇ、なによこれぇ」とかやってんのがえろかったりえろくなかったり。わたしはその糸を手首から外しながら、
「じゃ、それ、少ししたら取れるから」
「す、すこしってどれくらいよ!?」
「んー、一、二時間くらい」
「長いわ!」
「ばーいばーい」
手を振って帰るわたしの背中に「お願い、こいしちゃんキーホルダーを見せて!」とか言われたような気がした。いや、あのキーホルダーはわたしの宝物。ちゃんと埃も被らないように保存しているわ。それにしたって、あのさとりさんはいったいどうやって、こいしちゃんキーホルダーをゲットしたのだろうか?
深まる謎を胸に、わたしはアパートへの帰路についたのだった。
[おしまい]
ぱるちゃんもえろいのかな。
なんかしらんが、かわいいわこいつら。
小物チックでアホ可愛いパルスィは、新鮮で凄くツボに入りました。
しかしこれがもっといいお話になったかもしれないですと?
馬鹿なノリだけど、最後はしんみり&ほのぼのが大好物な私にとってそいつは聞き逃せねぇです。
いつかそんな物語が読めたらいいなぁ……
アパート住まいでカップ麺食ってフィギュア集めなヤマメさんって。
なんかそこら辺の大学生みたいで、何かいい。
酔ったパルスィも見てて楽しい。いじりたくなりました。