また来たのね、なんていう魔女を放っておいて、私は赤い髪の毛を探す。
今日こそやってやるのだ。
小悪魔なくせして手ごわいアイツをギャフンと言わせてやるのだ。
赤い瞳が驚愕に染まる様を想像して、私は自分自身を奮い立たせる。
勝負は立った一瞬、それこそたった一言。
タイミングさえ間違わなければ、強力な一発になるはずだ。
あの子ならあっちの方よ、とか細い指が指し示した方向に、この館よりも濃い赤を確かめる。
さあ、仕返しの時間だ。
「よう」
「どうも、パチュリー様でしたらあちらですよ」
「別にアイツにゃ用はないさ」
またお茶をたかりに来たとでも思われたのだろうか、黒い服をまとった小悪魔はこちらを見向きもせずに、私のあいさつに答えた。
どうやら書架の整理でもしているらしく、分厚い本を出し入れしていた。
割と予想外に薄い反応に、ここまでに固めてきた緊張と決意がゆるみそうになる。
小悪魔の癖に。
最近になって出来た口ぐせを頭の中で呟いて、なんとか体制を整える。
毎日毎日、顔色一つ変えずに私をおちょくっていくコイツに一矢と言わず、百矢は報いてやるのだ。
「それならまた本でも持ち出しに来たんですか?」
「そうじゃなくて」
明らかに意識を書架にしか向けていないように見える小悪魔に、なんだか腹が立ってきた。
いいからこっちを向け。
失礼だろう。
「お、おおおおお前に」
会いに来たんだよコンチクショウと言いかけて、気付いた。
紅いんじゃなくて、赤い目。
それは、笑っているように見える。
まさか。
「お前に、なんですか?」
よく見たら、出し入れしていると思っていたこいつは、小悪魔はさっきから同じ順番で十冊の本の位置を入れ替えていただけだった。
つまり、私が気付いたことに気付いて、とうとうニヤけ顔を隠すことすらしなくなったこいつは。
「悪魔め……」
「小悪魔ですからね」
文字通りに、書架を見ていただけだったらしい。
くそう。
どうやら私は必殺の一撃を入れる前に、恥ずかしい反撃を受ける羽目になるところだったのか。
「それで、魔理沙さん」
一冊の本を胸元に抱いたまま、私より少し身長の高い体を傾けて、微笑む。
くるりと、私の方に向き直ってからのこの一連の動作を見て、悔しくも美しいと感じ、目を泳がせたくなる。
「右目がクロールしてますよ。 あ、左目は平泳ぎ」
「自由形ってやつだ」
「ぬふふー」
なにがぬふふだ。
きっと小悪魔は、私の気持ちなんて全部お見通しなんだろう。
私が何か企んでることも、私に好かれていることも、全部。
「私に会いに来てくれたんですよね?」
「わかってるじゃないかよぅ……」
「嬉しいこと言ってくれますねー。年上キラーですか?」
「ぐう……」
全部、お見通しだから、私をいつもからかってくるんだろうか。
本気に、してくれないのか。
「お茶をお淹れしますね。 あ、ちゃんと大人しくしててくださいよ」
「わかってるって……」
図書館の奥の方にあるらしい、簡易ダイニングに向かう小悪魔とそんなことを言いながら別れて、パチュリーのところに戻る。
お茶は、いつも彼女が本を広げているテーブルでする。
示し合わせたわけでもないのだけれど、最初の茶会以来ずっとそうしてきた。
小悪魔曰く、パチュリーの休憩にもなってちょうどいい、らしい。
なんだか体よく利用されたみたいで嬉しくない意見だが。
そこかしこから魔力を感じる本の海から抜け出してみれば、いつものテーブルには主以外の先客がいた。
金と、茶と、紫と。
なんだか目まぐるしい色合いのメンバーに、あいさつする。
「よっ」
「あら、魔理沙いたのね」
「こんにちは、魔理沙」
「アリスはともかく、白蓮とは珍しいな」
金がアリスで、紫が主ならば、茶は白蓮。
彼女は茶髪というには少々苦しいのだけれど。
「そういえば、魔理沙と、私とパチュリーが揃うのは随分久しぶりよね」
「……そうだったかしら」
「ああ、私もここに来る回数減ったからな」
法術の副作用なのかもしれない、独特の色合い同様、不思議なオーラを発する白蓮には、最近世話になることが多い。
法界の話だとか、何せ長い時を生きてきた尼僧から得るものは大きい。
そして、命蓮寺に行って、その後こっちまで来れるほど私も暇じゃない。
新しい場所の方へ自然と足が向くのは、人の性といってもいいんじゃないだろうか。
「まあ、魔理沙はいないならいないで、静かでいいんだけどね」
「……『静かすぎるわね』なんて文句をおっしゃったのはどちらの人形遣いだったかしら」
「う」
割と薄情なことを言って格好つけたつもりだったのだろうけど、その後魔女のカウンターに顔を赤くするアリスだった。
愛い奴め。
「……私も、白蓮の話には興味あったからね」
「ああ、それで招待したってわけか」
わざわざ自分から出向かずに呼びだすあたり、この魔女の不動性は相変わらずなようだ。
「まあ、今日はそれだけじゃないんだけど」
「あ?」
「それはそれとして魔理沙、なるべくこっちに顔を出す回数は減らさないでほしいんだけど」
「なんだ私に惚れたのか、パチュリー?」
「それはない」
「ないない」
「あらあら」
紫は表情で、金は手で、茶は目で物を言ってくれやがりました。
「私としては別にあなたが来なくても問題も支障も一切ないわね」
「じゃあ、なんで私が来なきゃならないんだよ」
「こあむぎゅ」
鈍い音がして、パチュリーの口が閉ざされた。
どうやら上からの衝撃に驚いてしまったようだ。
そして、その衝撃を放った人物にパチュリーを除いた、茶会のメンバーの視線が向けられた。
「あら、パチュリー様申し訳ありません。 帽子とテーブルの見分けがつきませんでした」
小悪魔が、ポットなどを載せたトレーを、さらに主人の頭の上に載せていた。
相変わらずいやらしい笑みを浮かべているが、目が笑っていないように見えたのか、アリスがとても短く、小さい悲鳴を上げていた。
「小悪魔、あなたね」
「あらあら、でもパチュリー様の生気があんまりにもないのがいけないんですよ? 服をまとった木材にしか見えませんし」
「むぐぐ……」
矢継ぎ早に繰り出される小悪魔の毒に、流石のパチュリーも反論を諦めてしまったようだ。
わかったわよ、などと言いながらため息をついた。
「後で覚えてなさいよ……」
「このままトレーから手を離してもいいんですよ?」
「ああ、そういうことですか」
主従の、目線を合わせない睨みあいを見ていた白蓮が、閃いたとでも言いたげに手を叩く。
私がやってもぶりっこにしか見えない動作なのに、妙に似合って見えた。
ちょっと悔しい。
「そういうことってどういうことよ」
自分だけ状況を理解できないからか、アリスも悔しそうだ。
ジト目で睨みつけられた大魔法使いは、満面の笑顔でそれを拒否した。
「自分で覚ってみてくださいね」
「えー?」
ヒントのつもりなのか、白蓮は小悪魔をじっと見て、その後私の方を指差した。
アリスはそれを見て、納得がいった顔をしていたが、私は無表情を貫くのに精いっぱいだった。
答えは少し考えればわかるかもしれない。
でも、間違ってるかもしれないし、何より合っていたら嬉しいけれど、そうでなかった時の自分へのダメージが大きすぎる。
「……へえ、悪魔なのに純情なのね」
「さて、どうでしょう?」
追及を華麗にかわして、小悪魔はようやくトレーをテーブルに降ろした。
「これ以降余計なことおっしゃられた方のお紅茶には、特別なトッピングをしてさしあげますからね」
反撃も忘れない辺りが小悪魔らしい。
普通の紅茶であることを、全員がきちんと確かめてから茶会は始まった。
いつも話題は世間話だったり、魔法のことだったり、方向性がないけれど、今回ばかりは別だった。
茶会初参加の白蓮が、一番口を動かしていた。
主催者のようなものであるパチュリーも、劣らないくらいには質問をしていたが、質問だけだ。
「なるほど、随分と興味深いものばかりあるのね」
ようやく、質問以外の、感想らしい感想を吐いたパチュリーは、興味が失せたとばかりに、新たに呼びだした本に目を落とした。
厚そうな表紙には、『次元跳躍理論』とある。
本当に異世界にでも行くつもりなのか。
「ああ、もうパチュリー様ったらお礼もしないで……白蓮さん今日はありがとうございました」
「いえいえ、私もなかなか有意義な時間を過ごせました」
「そういえば、なんだかんだで白蓮の方がパチュリーよりもずっと年上なんだよな」
「そうね……私も歳ですね」
あらあら、なんて言いながら頬に手を当てる様子なんて見てると、とてもじゃないが千歳を超えているようには見えない。
「むしろパチュリーの方が老けて見えるよな……」
やっぱり悔しいことにかなりおいしい小悪魔の紅茶を含む。
そして脇腹にインパクト。
「余計なことは言わないほうが吉よ、白黒」
どうやら、紫色の魔女に本ではたかれたようだ。
外見の話題はこの魔女にとっては禁句なのか。
「ゲホッ……随分と久しぶりな上にあんまりな呼び方だな……お茶を吹き出しかけたじゃないか」
「汚いわね」
「誰のせいだ誰の」
「あ、こら魔理沙動かない」
手で口元についた紅茶を拭おうとしたところで、アリスの手が近づいていることに気づいた。
「いや、アリス……自分で拭けるって」
「いいから、ジッとしてる」
「……はい」
う、なんか居心地が悪い。
ほら、白蓮に笑われてるし。
クスクスって感じの笑いで、怪しくないタイプのは初めてだが、そんなことはどうでもいい。
「なんだよ、笑うことないじゃないか……」
「いえ……アリスさん、なんだかお姉さんみたいですね」
「お姉さん……?」
「ええ、出来の悪い妹の面倒を見てる、いいお姉さんですよ」
出来の悪い妹……。
ああ、私か。
「悪かったな、『普通の』魔法使いで」
「あらあら、機嫌を損ねちゃったかしら」
一つ、発見した。
怪しくないクスクスでも、クスクス笑うやつは全員性質が悪い!
「だー! 笑うなー!」
「仕方ないじゃない、事実でしょ?」
「あら、聞き捨てならないわね」
勝手に私を叩いた挙句に再び本の世界に没頭していたパチュリーが、頭を上げた。
「あなたみたいな半端者に、魔理沙みたいな未熟者のコントロールができるのかしら?」
「くっ……言ってくれるじゃない」
「魔理沙の姉に相応しいのは、私よ」
いや。
「いやいや、パチュリー何を言ってんだ」
「魔理沙は黙ってなさい」
「だから」
「魔理沙、黙ってて」
「はい」
「弱いですねぇ魔理沙さん」
「うるさいな」
二人とも異常に怖かったんだよ。
魔女のプライドを傷つけると、とんでもないことになるって、昔魅魔様が言ってたのはこういうことだったのか。
「ふっ、こうなったらどちらが魔理沙の姉としてふさわしいか勝負しましょう? 木偶遣いさん?」
「受けて立つわ、カビた大図書館さん?」
「……どうしてこうなった」
「さあ、始まりました!」
「わー!」
「紅魔館主催、霧雨魔理沙の姉の座争奪戦! 司会はこの紅美鈴!」
「解説は私、レミリア・スカーレットが務めるわ」
「ねーねー、美鈴、私は? 私は!?」
「妹様は特別ゲストということで……そして、こちらが賞品の霧雨魔理沙です!」
アリスとのにらみ合いを終えたパチュリーが指を鳴らした瞬間、私たちはいつの間にかどこかの広い部屋に飛ばされていた。
パニックに陥りそうな状況だったが、なぜだか妙に私は落ち着いていた。
「……いや、疲れただけか」
そして、私の隣にいたのは紅魔館の主と、その妹とそれから。
「おいこら門番、仕事はどうしたんだ?」
「気づいたら、台本と一緒にここに移動してました」
「咲夜が一瞬でやってくれました。 ってやつね」
「お姉さまノリノリね
」
「むしろ咲夜さんの方がノってますよー」
ちなみにそのメイド長は仮眠をとっているらしい。
さすがのパーフェクトメイドも、これだけ大掛かりな作業は堪えたのか。
「しかしだな。 どうしてお前らそんなに楽しそうなんだ」
「それは、ねえお嬢様」
「ねえ、フラン」
「ねー、美鈴?」
「「「他人の不幸は蜜の味」」」
「お前ら悪魔だろ」
「悪魔だもの」
「浄化されてしまえ」
「さてさてさて!?」
私の悪態をスルーして、美鈴が声を張り上げる。
「それでは各選手の入場です!
まずは我らが赤コーナー!」
仮に、私たちが居るところを部屋の北端とするなら、今煙が吹き出した赤いゲートのある位置は、南西か。
「動かない大図書館! パチュルィリイイイイイイイ! ノゥレッジ!」
「ゴホ! ゴホ!」
「キャー! 美鈴巻き舌上手ね!」
「悪魔の配下なら巻き舌くらいできて当然よ」
当然なのか。
ところでその悪魔の友人が煙で死にそうになってるのはいいのか。
「コホッ……魔理沙!」
「ほら、賞品さん返事してあげてくださいよ」
誰が賞品か。
「なんだよー!」
「私の妹になったら、あんなことやこんなことを教えてあげるわー!」
何を教えるつもりだ。
「パチェー!? 何を教えるのー!?」
「当然触手との戯れ方」
「そこまでよ!」
レミリアが叫ぶと同時に、再び煙が吹き出した。
カラフルでけばけばしくて、如何にも体に悪そうな煙だが、いいのか友人。
「ゲーホゲホ!」
「一度言ってみたかったのよ」
「お姉さま私も言いたい!」
「さーて! お次は!? 自称パチュリー様のライバル! 青コーナー!」
南南西の当たりから煙が吹き出した。
青いゲートから徐々に姿を現したのは、人形の軍勢だった。
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
「人形軍団の指揮官! アリイイイイイス! マーガトロイドゥ!」
「ドゥ!」
フランが口を尖らせて門番の真似をする。
なぜかこの子は将来たくましくなる、なんて根拠のないことを思ってしまった。
ちなみにその指揮官とやらは、やはり煙たそうに、遅れて出てきた。
「うわぁ、何このケミカルな気体……」
「ちなみにこの煙は無害ですのでご安心を!」
「ゴホ! ゴホ! ゴホ!」
「嘘だとしか思えない……ところで美鈴」
「なんですか、賞品さん」
「ゲートが二つ余ってる気がするんだが」
「イヤだなぁ、気のせいなんかじゃないですよ!」
こっちがイヤだよ。
「では、同時に入場していただきましょう! 白コーナー、そして黒コーナー!」
ケミカルスモークが、二色のゲートから吹き出す。
さっきと同じ条件で方角を決めるなら、白が南南東で、黒が南東か。
「聖白るぇん! アーンド、こーあーくーまあああ!」
「魔理沙ー! 面白そうだから私も参加しますねー!」
「頼むからこれ以上状況をひっかきまわさないでくれ……」
今日は白蓮によく振り回される日だ。
しばらく命蓮寺には近づかないようにしようと、心に決めた。
「で、小悪魔さんよ」
「はい?」
「なんでお前がいるんだ……」
「私は面倒くさいーって言ったんですよ? でもパチュリー様が泣いて懇願してくるから……」
「捏造、しないでちょうだい……」
いつの間にやら復活したパチュリーが、小悪魔に渾身のチョップを食らわせた。
「まあ、そういうわけですし、私は適当にやらせていただきますね」
「そ、そうか。 それは、助かる」
けど。
なんか、モヤモヤする。
「むう……」
「四人の選手が全員揃ったところで、私からルールを説明させていただきます!」
美鈴の説明を簡単にまとめれば、こういうことになる。
咲夜が一瞬で用意したルールに従った競技で、各選手に競わせる。
競技は全部で三試合。
各試合が終わるごとに、各選手がどれだけ姉っぽかったかをレミリアとフラン、そしてなぜか賞品である私が採点する。
三回の勝負を終えた時点で得点が一番多い選手が私の姉、らしい。
一度の勝負で得点は各審査員それぞれ十点満点で、合計三十点満点。
そしてレミリアとフランが最終競技を終えた時点でボーナスを一点ずつ与えるかどうか、判断する。
つまり最終的には九十二点満点での勝負になるようだ。
決着がついた時、私がどうなるか恐ろしいが、今はとにかく無事に終わってくれることを祈るしかない。
「質問は……ないようですね! では、最初の競技に参りましょう!」
第一競技『家事能力』
「さて、最初はやはりこれでしょう! 妹の世話の基礎!」
「いきなりパチェに不利な競技ね」
「普段小悪魔に任せっぱなしだもんねー」
全員が、フリルのついたエプロンを装着。
そしてなぜか、アリス以外全員がポニーテールとなった。
「こ! これは!?」
「どうしたんですか解説のお嬢様!?」
突然立ちあがったレミリアに、美鈴がマイクを向けるような動作をした。
興奮したままレミリアが語りだす。
「万能髪型ポニーテール! 幼馴染にも合う! 巫女にも合う! 妹にも合う! 当然、姉にも合う!」
「なるほどなるほど……アリスさんも少々厳しくなりましたね」
「髪型まで採点範囲なのかよ」
まあ、白蓮や小悪魔のポニーテールとか、珍しいものが見れたからいいけど。
いいのか?
「いや、よくないだろ私……」
「美鈴、なんだか魔理沙が落ち込んでるよ?」
「きっとお腹が空いてるんでしょう……というわけで! 家事の中でも重要な要素、料理で勝負していただきます!」
なぜか私の態度を理由で決められた競技内容に、各選手の反応は名案別れたものになった。
「む……」
やはりパチュリーは自信がないらしい。
「ふ、もらったわ!」
アリスは普段から自炊している。
菓子だってうまかったし、この競技ではかなり有利なはずだ。
白蓮も、結構料理はするらしいから大丈夫だろう。
「何を作りましょうか、小悪魔さん」
「うーん、料理は少しばかり苦手なんですよー」
小悪魔の奴、料理苦手だったのか。
クッキーとかうまかったんだけどな。
「いえいえ賞品さん、料理を嘗めてはいけませんよ」
「賞品って呼ぶな、考えを読んでくれるな」
「色々とお菓子作りとお料理で違う点はありますが、特に計量の違いが決定的でしょう」
「そうなのか?」
「お菓子作りなんかではキッチリ決められていますが、料理は割と経験に頼るところが多いですからね」
それが本当だったら、上手い菓子を作れて、かつ料理にも自信があるアリスが第一競技のトップ候補になるのか。
「なんだかんだで真面目に参加する気でいるのが、賞品さんのいいところですね」
「うるさい」
「さて、あーだこーだ魔理沙さんが文句を言っている内に料理が完成したようです!」
「そんなに文句なんてって、もうできたのかよ!?」
「えっとね、咲夜が厨房以外の時間を止めてくれたんだよ!」
「咲夜が満身創痍でがんばってくれたのよ、まる」
まるじゃねぇ。
「休ませてやれよ……」
「本人が一番ノリノリだったんだからしょうがないじゃない」
「咲夜さん多分これで三日分くらい時間止めたんじゃないですかねー」
「馬鹿だ……アイツ本当の馬鹿だ……」
こんなくだらない勝負のために寿命を削るなんて、馬鹿と言わずになんといえばいいんだ。
「うーん、いいにおいがしてきましたね! でも司会の私は食べられないので審査員のみなさんの美味しそうな表情を見ながら味を想像することにします!」
食べづらそうだからやめてほしいところだ。
それはそうと、本当にいいにおいがしてきた。
パチュリーなんかは食べられなさそうなものを作るんじゃないかと疑っていたんだが、やるときはやる魔女だったんだな。
「さて、パチュリーさ……選手のメニューは!?」
「空気」
パチュリーの皿には、何もなかった。
「やれてねー……」
むしろ何もやってないんじゃないか。
「料理ができる使い魔を呼ぼうとしたら、食材を全部触媒にされたわ。 食材なだけに」
「その上にダジャレかよ」
間違ってパチュリーが姉になっても、何も期待しないほうがよさそうだ。
パチュリーが一通り言い訳を終えたところで、最初の採点。
「お嬢様五点、妹様零点、賞品さん零点! 合計五点ですね!」
「この五点は、パチェの渾身のギャグに捧げるわ」
「いや、料理以外のものを評価するなよ」
「悪魔だもの」
そうかい。
「では二番手は青コーナーのアリス選手です! アリス選手、メニューは!?」
「空気よ」
お前もか、ブルータス。
「青(ブルー)コーナーだけに?」
だから思考を読むなパチュリー。
「ついでにつまらんぞ……で、アリスお前はどうしたんだよ」
使い魔を呼びだすほど腕に自信がないわけでもないだろう。
「どんな料理がいいか考えていたら、いつの間にか制限時間を過ぎていたわ」
「あるある。 私もどうやって門を守るか考えていたら、いつの間にか寝てましたもん」
美鈴と一緒にするべきかどうかはともかく、確かにキッチンセットのアリスのテリトリーには、手つかずの食材が鎮座していた。
「だって仕方ないじゃない。 完全勝利を果たすためには、どれだけ策があっても足りないのよ!」
「料理に策はいらないんじゃないのか」
「これは予想外の展開となりましたが、審査員の方々、アリス選手の得点は!?」
まあ、当然と言うべきか。
「零点、零点、零点! 合計するまでもなく零点ですね!」
「ふん、この程度の制限時間では私の実力は発揮できないのよ」
「負け惜しみなんてみっともないわねアリス」
「パチェも似たようなもんでしょ」
「じゃあ、私の番ですね」
三番手は、白蓮だ。
いい匂いの発生源は彼女の皿だった。
「では、白蓮選手の料理は!?」
「はい、カレーライスです!」
「……」
「どうしたのよ魔理沙」
急に黙り込んだ私の顔を、レミリアが覗きこんできた。
「いや、なんか急に普通の料理が出てきてついていけなくなった」
「あら、魔理沙もまだまだね。 そんなんじゃ種族:魔法使いにはなれないわよ」
「どういう基準で言ってるんだ」
さて、いつの間にか目の前には皿に盛られたカレーライス。
「いい加減に休めよ咲夜……」
「では、審査員の方々どうぞ!」
「「「いただきます」」」
「どうぞ召し上がれ」
白蓮はむしろ、姉じゃなくて母のような気がしてきた。
雰囲気とかもそうだけど、何より。
「くっ……カレーライスから溢れる母性を感じるわ、フラン!」
「辛くなくておいしいね、お姉さま!」
「うん、うまい」
なんというか、本当に。
お母さんのカレーライスって感じだ。
ヤバい、泣きそうだ。
うまい、うまい!
「うふふ、まだおかわりもありますからね」
「「「はーい!」」」
「あの、まだ小悪魔さんの料理があるのでほどほどにしてくださいね……」
「カレーって……んぐ……最低二日は続くよな」
「もぐ……ウチは三日続くわよ」
咲夜も作りすぎるんだな。
「「「ごちそうさまでした」」」
「お粗末さま」
「さて、では得点は……六点、十点、七点、合計二十三点! 意外とお嬢様と賞品さんが辛口だー!」
「あらあら?」
「まあ、なんというか、なあ」
「姉じゃないわよね」
「あらら、路線の違いかしら?」
満点を取れなくて残念そうにしている白蓮だが、次の得点次第ではぶっちぎりのトップになる。
運命のカギを握る最後の選手は、余ったカレーを命蓮寺に持ち帰る準備を始めた白蓮の隣、小悪魔だ。
「うーん、やっぱりイマイチ自信ないんですけどね」
「では、小悪魔選手の料理は!?」
「ホットケーキですよー」
空気だカレーだと、なんだかんだで調理終了後から結構時間が経っていたはずなのに、ホットケーキは湯気を立てていた。
「ちなみに保存は、咲夜さんが全力でがんばってくれました」
いい加減咲夜死んじゃわないか?
「えーと、では蜂蜜とバターでいいですか?」
「ええ、もちろん」
「蜂蜜いっぱいね!」
「ああ、それでいい」
「妹様は蜂蜜多め、と……では、どうぞ」
やはり咲夜はもう限界なようで、配膳は全て小悪魔の手で行われた。
「「「いただきます」」」
「最後の試食です! 白蓮選手がリードしたまま第二競技へと移るのか!? それとも小悪魔選手が逆転するか!?」
む。
「こ、これは……!」
ふわふわとしていて、べた付かない上に、甘さもきちんと少女好み!
私の貧困なボキャブラリではこれが限界だが、とにかく。
「おいしー……」
「魔理沙、素に戻ってるよ」
「放っておいてあげなさい……それはそうとフラン、口を拭いてあげるからこっち向きなさい」
「むー」
「おおっと! ここで解説役のお嬢様が姉的行動に出たー! これはやばい! たぎります! 私が審査員だったら他の審査員の分も分捕って三十点くらい入れちゃいますよ!」
「落ち着け司会」
「魔理沙さんも落ち着いて食べましょうね。 ほら、パンくず」
「え」
ちょん、とつつかれたかと思ったら、小悪魔の指にはパンくずがついていて。
そいつは、それを。
「ん、これはおいしくできましたねー」
食べた。
え、ま。
「ちょ、や、あ」
どうしよう。
うまいこと声が出ない。
とんでもないことをしてくれた悪魔はニコリと、あでやかに笑った。
「うふふー、間接キス、もどきですねー」
「う、や」
なんだこれ、恥ずかしすぎる。
「や、やああああ……」
「魔理沙さんかーわいー」
嬉しいけど!
嬉しいんだけど!
「おおっと賞品さんの顔面が不夜城レッド! さしずめ脳内はフジヤマボルケイノか!?」
「ハートフェルトファンシーに一ドル」
「じゃあねじゃあね、私は恋の迷路にコイン一個!」
「アーティフルサクリファイスに人形一体」
「ロイヤルフレアに本一冊」
「あら、アンタ達随分冷静ね」
「いや、もうね……」
「あんなの見せられたら、どうでもよくなっちゃったわ」
「アリス、別の勝負と行きましょう」
「そうね」
「フラン、アリスとパチュリーが弾幕ごっこで勝負するみたいよ」
「私もやるー!」
「「え」」
何か皆が好き勝手なこと言ってるけど、わけわかんない。
「あらあら、じゃあ二人ともお願いね。 地下室は開けておくから」
「お姉さまはやらないのー!?」
「眠いから寝なおすわ。 惚気なんて見てられないし」
「私もそろそろ命蓮寺に帰りますね。 フランさん、また今度弾幕ごっこしましょうね」
「うん!」
「じゃあ私はまた門に……」
「あ、美鈴は片づけよろしく」
「お嬢様!?」
「咲夜をこれ以上こき使ったら壊れちゃうもの」
「そして寝ると言いながらこっそり咲夜の見舞いに行くレミィであった」
「フラン、パチェが本気出してもいいって言ってるわよ」
「わーい」
「レミィ、あなた鬼?」
「ええ、容赦なき吸血鬼よ」
たくさんの足音と、扉の閉まる音がして。
私は。
「……きゅう」
「あら?」
気を失った。
「じゃあ、美鈴さん後片付けよろしくお願いしますね」
「あ、あの手伝って……」
「私は魔理沙さんの介抱で忙しいので」
「悪魔!」
「小悪魔ですから」
美鈴の非難を背中に受けながら、小悪魔は賞品らしい、妹を抱きかかえた。
いわゆるお姫様だっこの態勢だ。
「意外と……軽いですね」
「ああ、魔理沙さん見た目には体格よさそうに見えますけど……実際は着膨れしてるだけですからね」
「なるほど」
どうして美鈴にそんなことがわかるのかは、あえて言及しない。
この門番がどれだけの『たらし』であるか、小悪魔もそれなりに理解している。
「しかし……あなたも悪い女ですね」
「なんのことですかね」
「気の無いように、冗談のように見せかけて、実際には少しずつ魔理沙さんを引き込んでますよね」
「美鈴さんには言われたくないですねぇ……見ましたよ? 最近は人里で」
「あー降参です」
「ふふっ……お互いに」
「ええ、悪い女ですよ」
美鈴と苦笑いの応酬をした後、小悪魔はもう一度腕の中の妹の顔を見つめる。
「う、うー……やー……」
相変わらず顔は真っ赤で、夢の中でも小悪魔におちょくられているらしい。
「美鈴さん、またやりましょうね、争奪戦」
「お嬢様の気が向いたら、ありそうですね」
「ええ、今度は姉の座じゃなくて、お姫様争奪戦がいいですね……では」
美鈴に会釈して、小悪魔は会場から出た。
腕には獲物を抱えて。
だが、小悪魔は肉食獣ではない。
「ふふっ、少しずつ、あなたは私の物にしてみせますからね……」
小悪魔は、小悪魔なのだ。
商品→賞品では?
あとフランのドゥ!が可愛い。
もっと戦いを見たかったです。
てか小悪魔近頃ブームだな。
「こあむぎゅ」よりも「こあむきゅ」にすべきだろ
最強です
なんか夢にこあまりがでてきたと思ったら、実際にあった。
いいぞー!もっとやれー!
あぁなんか続きが欲しい