*** 先に『人形』と『雲に梯』を読んでおく事を強くお勧めします。***
*** 前二作を読んでないと状況が分かりづらいと思います。 ***
*** "ゆかアリ"タグで検索するとラクチンですよ。 ***
曇りがちな日の午後。
紫が持ってきた紅茶とスイーツでのティータイム。
紫によると、どうやら外の世界の人気店のものらしい。
紅茶からは良い香りが立ち上り、ケーキは程よい甘さで申し分がない。
紫が自慢するだけあって、確かに美味しい。かなり美味しい。
私や、紅い館の犬でも、ここまでのものは作れない。
材料からして違うのかもしれないけど、作り手も相当な腕前だ。
作ったのはどこかのパティシエだろうけど、紫がいなかったらこれは食べられなかった。
この感動を届けてくれた紫に感謝しよう。
「お味はどう?」
「すごく美味しいわ。今まで食べた事ないくらい」
「そう、喜んでもらえて嬉しいわ」
「うん」
……。
会話が続かない。
最近はずっとこんな調子だ。
紫は静かに微笑んでいるだけ、私からはとりたてて話すようなこともない。
紫が何かしてこなければ、そもそもあまり接点はないのだ。
紅茶を一口飲む。
前に比べて、ほんの少し、距離を取られているような気がする。
おかげで少し物足りない思いをしている。
別に嫌われたわけではないだろう。
相変わらず抱きついたり、ちょっかいを出してくるし。
これは私が焦れるのを待っているような、そんな感じの……。
「アリス」
「うん?」
「クリームがついてるわよ」
言い終わらぬうちに顔を近づけ、私の唇を舐めてくる。
席に座りなおして満足そうに笑う。
「ごちそうさま」
その笑顔を前に、思考が止まる。
どうにか、取り乱さずには済んだ。
口の端にクリームをつけるなんて愚は冒していない。
これは紫のいつもの悪戯だ。
唇の感触がいやに生々しい。
別に嫌なわけではない。むしろ、
「欲求不満?」
にやついた顔で紫が聞いてくる。
そう思うなら、ちゃんと相手してくれればいいじゃない。
「そんなんじゃないわよ」
「そう、ならいいのよ」
紫は私の反応を見て楽しんでいる。
全てを吸い込んでしまいそうな紫色の瞳で、きっと私の心を見透かしている。
その上で、私をからかって遊んでいる。
胡散臭い妖怪。
どこまでが演技で、どこからが本気で、どこに本心があるのか分からない。
だから、私も紫に素直になれないでいる。
どこまでが本気なのか、まるで分からないから。
本気になっても、馬鹿を見そうだから。
「ねえ、アリス。私はアリスのことが好きよ。
貴女は、私のことをどう思っているのかしら?」
突然の告白に、思わずカップを落としそうになる。
からかっているわけじゃないのが、態度で分かる。
こうやってはっきり好きと言われたのは、あの時以来かもしれない。
真剣な紫の瞳が、私を見据えてくる。
紫色の瞳に魅入られ、目が離せなくなる。
私は、この眼が好きじゃない。
紫色の瞳。
長く見つめていると、理性を奪われそうで、怖い。
私の本心を見抜かれそうで、逃げ出したくなる。
「私はアリスのことが好きよ。
もう十分待ったわ。待ちくたびれたくらい。
そろそろ、貴女が私のことをどう思っているのか、聞かせてくれないかしら?」
一語一語、確かめるように口にする。
ずるい女。
私が何て答えるか、最初から知っているくせに。
拒絶するつもりなら、一番最初に拒絶するべきだった。
一度受け入れてしまったのなら、遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた。
もしかしたら、こうなることを望んでいたのかもしれない。
貴女が私を好きなんであって、私は別に貴女に興味は無いの。
そういう振りをしてきたけど、そろそろ限界らしい。
予想できない言動、その奔放さに惹かれていたのかもしれない。
紫が次に何をしてくるか、それを楽しみにしていた。
紫の気紛れの抱擁だけでは、もう物足りなくなっている。
私は、いつの間にか紫のことが。
「ゆか、――」
「アリスにその気が無いのなら仕方がないわ。ここは潔く身を退きましょう」
紫が席を立ち、背を向ける。
見え透いた嘘、見え透いた駆け引き。
それなのに、
「紫ッ!」
紫に抱きつき、離さないようしっかりとその体を掴む。
離れて欲しくない、離れたくない。
初めて、私の方から抱きついてしまった。
体面とか、プライドとかはもうどうでもいい。
ただ、紫と一緒にいたい。
「アリス。ちゃんと言葉にしないと、相手には伝わらないのよ?」
「……うん」
「だから、ちゃんとアリスの口から言ってもらえないかしら」
「うん」
紫は、いつも私を愛してくれた。
私と一緒にいられるだけでいいと言ってくれた。
でも、本当は私の言葉を待っていた。
だから、今その言葉を伝えよう。
紫の愛に応えるために。
少し体を離し、紫の顔を見上げる。
綺麗な紫色の瞳で、優しく微笑んでいる。
もう、逃げる必要も無い。
本心を隠す必要も無い。
思い切り、私の気持ちをぶつけよう。
紫は、私が何を言うか分かってる。
それでも、私に言って欲しいと思ってる。
だから、精一杯想いを伝える。
今まで言わなかった言葉を、はっきりと伝える。
「紫、 大好き」
初めて、私から好きと言った。
恥ずかしいけど、少しすっきりした。
これで、遠慮することなく紫に甘えられる。
顔を隠したくなるのを堪え、紫をじっと見つめる。
紫がなんて応えてくれるか、その反応を見逃さないように。
好きな人の、どんな些細な表情も見逃さないように。
「私もアリスの事が大好きよ」
「うん、知ってる」
泣き出しそうな笑顔をしっかりと目に焼き付けてから、紫の胸に顔をうずめる。
心臓の鼓動が聞こえる。
とくん、とくん。
紫も、やっぱり少しは照れてるみたい。
好きと伝えるのがこんなに大変だなんて知らなかった。
これからは、紫の好きにちゃんと応えてあげよう。
そしてそれ以上に、私から好きを伝えてあげるんだから。
「アリス。これからもずっと一緒にいましょうね」
「うん。いつまでも一緒よ、紫」
これからも、ずっと、ずっと一緒にいたい。
私はしっかりと紫を抱きしめ、紫は優しく包み込むように抱き返してくる。
すごく温かい。
この感覚がとても気持ちいい。
「紫」
「なあに?」
「キス、 したい」
「ふふ、いちいち断らなくてもいいわよ」
「うん」
唇を差し出す。
私から求めるキス。
好きだと伝えたおかげで、積極的になれる。
紫、もう離してあげないんだから。
・・・・・・
「おはよう、アリス」
「おはよう、紫」
眼を開けると、傍にアリスの顔があった。
こちらを見て、微笑んでいる。
今までだったら、私が起きる頃には他の部屋で何かしているのに。
今日は、私を待っていてくれたみたい。
それだけのことで、とても嬉しくなる。
「起きてすぐ愛しい人の顔が見れるなんて、私はとっても幸せね」
アリスの髪に手を入れ、優しく撫でる。
されるがまま、気持ち良さそうに目を閉じ、体を寄せてくる。
アリスの甘い香りが漂ってくる。
とっても愛しいアリス。
今なら、死んでも未練はないかも。
「ゆかり?」
「アリス、私は凄く幸せよ」
「うん、私も」
「もうしばらく、このままでいさせて」
「うん。でも、その前に」
「なにかしら?」
「おはようのキス」
「はいはい」
アリスの前髪を払い、唇を近づけようとしたら、アリスの方から覆いかぶさってきた。
可愛いアリス。
随分と積極的になったわねえ。
何度も唇を重ねた後、互いに顔を見合わせる。
興奮からか羞恥からか、アリスがほんのりと紅くなった顔で見下ろしてくる。
それがとても艶っぽく、思わず見入ってしまう。
ファム・ファタルって、こういう女の子のことを言うのかしら?
思っていた以上に、のめりこんでしまいそうだ。
「恋が女を美しくするって本当みたいね」
「綺麗なのは元々よ」
頬を撫でる私の手に、自分の手を重ねてくる。
本当、今までと全然違うわね。
前みたいな冷たい態度も良かったけど、今みたいに素直に甘えてくるのも堪らないわ。
「アリス、その生意気な口を塞いであげようかしら?」
「好きにするといいわ」
アリスが顔を近づけてくる。
指を絡ませ、唇を重ね、想いを交わし、二人の境が曖昧になる。
ようやく、アリスの心に入り込めた気がする。
もう離れない。
近くにいても、遠くにいても、二人の心はいつでも傍に。
大事に、大事にこの愛を育みましょう。
ねえ、アリス。
今だったら、この指輪を受け取ってもらえるかしら?
それとも、こんなもの必要ないくらいに愛してくれる?
*** 前二作を読んでないと状況が分かりづらいと思います。 ***
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曇りがちな日の午後。
紫が持ってきた紅茶とスイーツでのティータイム。
紫によると、どうやら外の世界の人気店のものらしい。
紅茶からは良い香りが立ち上り、ケーキは程よい甘さで申し分がない。
紫が自慢するだけあって、確かに美味しい。かなり美味しい。
私や、紅い館の犬でも、ここまでのものは作れない。
材料からして違うのかもしれないけど、作り手も相当な腕前だ。
作ったのはどこかのパティシエだろうけど、紫がいなかったらこれは食べられなかった。
この感動を届けてくれた紫に感謝しよう。
「お味はどう?」
「すごく美味しいわ。今まで食べた事ないくらい」
「そう、喜んでもらえて嬉しいわ」
「うん」
……。
会話が続かない。
最近はずっとこんな調子だ。
紫は静かに微笑んでいるだけ、私からはとりたてて話すようなこともない。
紫が何かしてこなければ、そもそもあまり接点はないのだ。
紅茶を一口飲む。
前に比べて、ほんの少し、距離を取られているような気がする。
おかげで少し物足りない思いをしている。
別に嫌われたわけではないだろう。
相変わらず抱きついたり、ちょっかいを出してくるし。
これは私が焦れるのを待っているような、そんな感じの……。
「アリス」
「うん?」
「クリームがついてるわよ」
言い終わらぬうちに顔を近づけ、私の唇を舐めてくる。
席に座りなおして満足そうに笑う。
「ごちそうさま」
その笑顔を前に、思考が止まる。
どうにか、取り乱さずには済んだ。
口の端にクリームをつけるなんて愚は冒していない。
これは紫のいつもの悪戯だ。
唇の感触がいやに生々しい。
別に嫌なわけではない。むしろ、
「欲求不満?」
にやついた顔で紫が聞いてくる。
そう思うなら、ちゃんと相手してくれればいいじゃない。
「そんなんじゃないわよ」
「そう、ならいいのよ」
紫は私の反応を見て楽しんでいる。
全てを吸い込んでしまいそうな紫色の瞳で、きっと私の心を見透かしている。
その上で、私をからかって遊んでいる。
胡散臭い妖怪。
どこまでが演技で、どこからが本気で、どこに本心があるのか分からない。
だから、私も紫に素直になれないでいる。
どこまでが本気なのか、まるで分からないから。
本気になっても、馬鹿を見そうだから。
「ねえ、アリス。私はアリスのことが好きよ。
貴女は、私のことをどう思っているのかしら?」
突然の告白に、思わずカップを落としそうになる。
からかっているわけじゃないのが、態度で分かる。
こうやってはっきり好きと言われたのは、あの時以来かもしれない。
真剣な紫の瞳が、私を見据えてくる。
紫色の瞳に魅入られ、目が離せなくなる。
私は、この眼が好きじゃない。
紫色の瞳。
長く見つめていると、理性を奪われそうで、怖い。
私の本心を見抜かれそうで、逃げ出したくなる。
「私はアリスのことが好きよ。
もう十分待ったわ。待ちくたびれたくらい。
そろそろ、貴女が私のことをどう思っているのか、聞かせてくれないかしら?」
一語一語、確かめるように口にする。
ずるい女。
私が何て答えるか、最初から知っているくせに。
拒絶するつもりなら、一番最初に拒絶するべきだった。
一度受け入れてしまったのなら、遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた。
もしかしたら、こうなることを望んでいたのかもしれない。
貴女が私を好きなんであって、私は別に貴女に興味は無いの。
そういう振りをしてきたけど、そろそろ限界らしい。
予想できない言動、その奔放さに惹かれていたのかもしれない。
紫が次に何をしてくるか、それを楽しみにしていた。
紫の気紛れの抱擁だけでは、もう物足りなくなっている。
私は、いつの間にか紫のことが。
「ゆか、――」
「アリスにその気が無いのなら仕方がないわ。ここは潔く身を退きましょう」
紫が席を立ち、背を向ける。
見え透いた嘘、見え透いた駆け引き。
それなのに、
「紫ッ!」
紫に抱きつき、離さないようしっかりとその体を掴む。
離れて欲しくない、離れたくない。
初めて、私の方から抱きついてしまった。
体面とか、プライドとかはもうどうでもいい。
ただ、紫と一緒にいたい。
「アリス。ちゃんと言葉にしないと、相手には伝わらないのよ?」
「……うん」
「だから、ちゃんとアリスの口から言ってもらえないかしら」
「うん」
紫は、いつも私を愛してくれた。
私と一緒にいられるだけでいいと言ってくれた。
でも、本当は私の言葉を待っていた。
だから、今その言葉を伝えよう。
紫の愛に応えるために。
少し体を離し、紫の顔を見上げる。
綺麗な紫色の瞳で、優しく微笑んでいる。
もう、逃げる必要も無い。
本心を隠す必要も無い。
思い切り、私の気持ちをぶつけよう。
紫は、私が何を言うか分かってる。
それでも、私に言って欲しいと思ってる。
だから、精一杯想いを伝える。
今まで言わなかった言葉を、はっきりと伝える。
「紫、 大好き」
初めて、私から好きと言った。
恥ずかしいけど、少しすっきりした。
これで、遠慮することなく紫に甘えられる。
顔を隠したくなるのを堪え、紫をじっと見つめる。
紫がなんて応えてくれるか、その反応を見逃さないように。
好きな人の、どんな些細な表情も見逃さないように。
「私もアリスの事が大好きよ」
「うん、知ってる」
泣き出しそうな笑顔をしっかりと目に焼き付けてから、紫の胸に顔をうずめる。
心臓の鼓動が聞こえる。
とくん、とくん。
紫も、やっぱり少しは照れてるみたい。
好きと伝えるのがこんなに大変だなんて知らなかった。
これからは、紫の好きにちゃんと応えてあげよう。
そしてそれ以上に、私から好きを伝えてあげるんだから。
「アリス。これからもずっと一緒にいましょうね」
「うん。いつまでも一緒よ、紫」
これからも、ずっと、ずっと一緒にいたい。
私はしっかりと紫を抱きしめ、紫は優しく包み込むように抱き返してくる。
すごく温かい。
この感覚がとても気持ちいい。
「紫」
「なあに?」
「キス、 したい」
「ふふ、いちいち断らなくてもいいわよ」
「うん」
唇を差し出す。
私から求めるキス。
好きだと伝えたおかげで、積極的になれる。
紫、もう離してあげないんだから。
・・・・・・
「おはよう、アリス」
「おはよう、紫」
眼を開けると、傍にアリスの顔があった。
こちらを見て、微笑んでいる。
今までだったら、私が起きる頃には他の部屋で何かしているのに。
今日は、私を待っていてくれたみたい。
それだけのことで、とても嬉しくなる。
「起きてすぐ愛しい人の顔が見れるなんて、私はとっても幸せね」
アリスの髪に手を入れ、優しく撫でる。
されるがまま、気持ち良さそうに目を閉じ、体を寄せてくる。
アリスの甘い香りが漂ってくる。
とっても愛しいアリス。
今なら、死んでも未練はないかも。
「ゆかり?」
「アリス、私は凄く幸せよ」
「うん、私も」
「もうしばらく、このままでいさせて」
「うん。でも、その前に」
「なにかしら?」
「おはようのキス」
「はいはい」
アリスの前髪を払い、唇を近づけようとしたら、アリスの方から覆いかぶさってきた。
可愛いアリス。
随分と積極的になったわねえ。
何度も唇を重ねた後、互いに顔を見合わせる。
興奮からか羞恥からか、アリスがほんのりと紅くなった顔で見下ろしてくる。
それがとても艶っぽく、思わず見入ってしまう。
ファム・ファタルって、こういう女の子のことを言うのかしら?
思っていた以上に、のめりこんでしまいそうだ。
「恋が女を美しくするって本当みたいね」
「綺麗なのは元々よ」
頬を撫でる私の手に、自分の手を重ねてくる。
本当、今までと全然違うわね。
前みたいな冷たい態度も良かったけど、今みたいに素直に甘えてくるのも堪らないわ。
「アリス、その生意気な口を塞いであげようかしら?」
「好きにするといいわ」
アリスが顔を近づけてくる。
指を絡ませ、唇を重ね、想いを交わし、二人の境が曖昧になる。
ようやく、アリスの心に入り込めた気がする。
もう離れない。
近くにいても、遠くにいても、二人の心はいつでも傍に。
大事に、大事にこの愛を育みましょう。
ねえ、アリス。
今だったら、この指輪を受け取ってもらえるかしら?
それとも、こんなもの必要ないくらいに愛してくれる?
ゆかアリは終わりとの事ですが冬眠話は読みたいので書いてくださーい
ついに落ちたか
そして終わりとな・・・! なんでだー
もっとはやってくれ
ようするにGJ
いい夢が見れそうだ。
さすがはゆかりんだ!
見え透いた駆け引きなのに飛びつきたくなるアリスの気持ちが分かりますw
申し分無し