両足が動かなかった。
動かそうと力を振り絞っているのに、ぴくりとも動かない。
そうだ、両足はもう無いんだった。
両手が動かなかった。
動かそうと力を振り絞っているのに、ぴくりとも動かない。
そうだ、両手はもう無いんだった。
真っ暗だった。
目を開けているのに、何も見えない。
そうだ、両目はもう無いんだった。
今の私は胴体と頭しか残っていない。
それ以外は皆妖怪に襲われ、食べられてしまった。
何かを咀嚼する音が聞こえる。
ぐちゃぐちゃと何かを食べる音が。
行儀が悪いわね。
食事する時は音を出さずに食べなさいと習わなかったのかしら。
人間だけの常識で妖怪ではそういうのないのかしらね。
それにしても食べられてるというのに痛み感じないわね。
何でかしら。
顔に太陽の光の暖かさを感じながら考える。
手足が無く、目が見えなくても頭だけははっきりとしている。
そもそも私何時からこんな状況だったのかしら。
「あー……」
声を出し考えるが思い出せない。
妖怪に食べられてると言う事は、退治にでも来ていたのだろうか。
しかしここ最近そんな依頼を受けた記憶は無い。
記憶が飛んでる可能性もあるがわからない。
なら夢なのだろうか。
その可能性もあるが、わからない。
そもそも現実じゃないと確信がもてない時点で夢かどうかはからない。
それに現実にしろ、夢にしろ食べられる事には変わりが無い。
どうせ私が死んでもすぐに次の巫女になるだけで、アレは助けに来ないだろうし。
修行嫌いの巫女なんて負けた時点で用済みだろう、私は勝ってるから許されているのだ。
声はでるし助けの声ぐらいは出そうかしら。
そう考えていると誰かの声が聞こえた。
遠くの遠くのほうで、近くの近くで。
遠いはずなのに、近くで声が聞こえた。
聞き覚えのある声であったが、誰であっただろうか。
終わったから起きなさい
そんな声が空から聞こえた、どうやら私は寝ていたらしい。
ならこの両手足と両目が食べられてるのは夢か。
なんとなく思い出して来た。
霊夢起きて
私は見る事も出来るし、手もある。
意識が急に覚醒していくのが感じられるとともに思い出して来た。
どうやらここは夢の世界だったようだ。
霊夢
どうやら私は全部食べられてないようだ。
よかった。
私はまだ生きている。
私が目を覚ましたのは、明るい場所、眩しくて目が眩む。
ここはどこだったかな……ぼんやりする頭で現在の状況を考え光に目が慣れるまで待つ。
頭のエンジンのかかりが遅いな、いつもはもっと早いと思うんだけど。
そう考えていた所で声をかけられた。
「起きたかしら」
「ええ……」
何で貴方が真っ先に視界にいるのかしら。
私寝る前……なんとなく思い出してきた。
確か私、朝やってきた魔理沙と弾幕勝負をした時に左腕に当たり壊れてしまい、直して貰っていたのだ。
神社にはアリスの人形が置かれているため、何かあったらすぐに連絡を取ることができる。
「よく寝れたかしら」
「うん、気持ちよく寝れた」
目が覚め真っ先に視界に入ってきたのは、いつものように愛想の無い顔をしている人形遣いの顔であった、何を考えているかわからない無表情で人形遣い。
いや、昔からの知り合いでもあるアリスは私を見下ろしている。
どうやら膝の上に頭を乗せ寝ていたらしい、所謂膝枕というやつだ。
「おはようアリス」
「人に仕事だけやらせて自分だけ寝るなんてひどいわね」
目覚めの挨拶をして、左手をアリスの頬に付ける。
なんとなくやった行為であり、特に意味は無い。
洗い立ての皿のように肌がスベスベしていて気持ちが良い。
「天気が良いのが悪いのよ」
首を巡らして右目で周囲を見るといつもの縁側だ、日差しが少し眩しい。
辺りには細かいボルトやネジ、工具等が転がっている、どうやら調整は終わったらしい。
「調整ありがとね」
「まだ終わってないわよ」
アリスはそういうと、膝の横に置かれていた私の右腕。
義手である右腕を取り、私の肩に取り付けを始める。
「三日前に作ったばっかりなのに、壊さないでよ」
「ごめんなさい、でも私は悪くないわよ」
「魔理沙の弾幕に当たった貴方が悪いわ」
「そんな日もあるわよ」
魔理沙の弾幕が右腕をかすり義手が壊れてしまった。
先ほどの夢では両腕が無かったが、実際は右腕が無いだけだ。
左腕はまだある。
「相変わらず本物みたいね」
「外見だけで性能なんて無いに等しいわよ」
「にとりの義手義足は高いからねー」
アリスの作る義手は人形作りの経験を生かして作られている。
最初のうちは関節部分等が剥き出しだったり、どうみても人形の腕にしか見えなかったのだが、私のために色々試行錯誤して人間の肌のような材質の物を作りだしたらしい。
この技術はにとりの作る機械で肩・肘・手首の運動が再現出来て触角や温度などもわかる外の世界の技術を取り入れたらしい機械義手にも使われている、恐ろしく高いが。
「動かしてみて」
「ええ」
取り付けられた義手を動かす。
といっても空を飛ぶ程度の能力の応用で腕を動かしているだけだが。
外見だけは人間の腕にそっくりだが、神経が繋がっているわけでは無いから能力無しでは動かすことができないのだ。
「大丈夫ね」
「ええありがとう、ちょっと待っててお菓子とお茶いれてくるから」
アリスの膝枕から身体を浮かし、飛び上がり台所へ向かう。
本当なら義手の代金を払うのだが、払おうとするとアリス本人から断られてしまった。
理由を聞くと「思い人からお金なんて取る筈無いじゃない」などと相変わらず無表情で冷静に淡々と言われた、ならいいかなと私は思いお金を払っていない。
アリスは私が魔理沙に一番興味を持っていると知っていてそう言っているのだ。
それならばその言葉通りに従うべきだろう。
「待って、足がまだよ」
「えっ?」
後ろから身体を抱き止められ振り向くと、アリスの左側に両足が置かれていた。
といっても両方義足だが。
「忘れてたわ」
「すぐ付けるから、ちょっとそのまま飛んでて」
そういうとアリスは緋袴を捲り上げ、右足から取り付けを始めた。
正直義足はいらないのだが、アリスがどうしてもと言うから付けている。
そもそも足を使わなくても飛ぶことが出来るのだから義足はいらないのである。
「アリス」
「なにかしら」
「足使わないし、袴で隠れてるからいいじゃない」
「流石に足が無いことぐらい、袴があってもわかるわよ…」
そういえば、そうね。
里の人間にはどう思われてもいいけど、魔理沙が驚くなら仕方が無いか。
あの子私がこんな体って事知らないみたいだし。
整備中に来ても対魔理沙用の結界を神社の周りに仕込んでるから魔理沙が近寄ってくれば、私がすぐ逃げるか対応するしね。
「出来たわよ」
「ありがと、じゃあお菓子持ってくるわね」
「ええ楽しみにしてるわ」
両足を取り付けてくれたアリスは散らばった部品や工具を片付け始めた。
それを確認して私は台所まで飛ぶ。
歩くことも出来るといえば出来るのだが、結局空を飛ぶ能力の応用で、歩いているようにみせかけるだけだ。この義足にも義手と同様に神経は伝って居らず外見だけの存在なのだから。
お茶を淹れて、里から買ってきたせんべいをお盆の上に載せ、居間に向かう。
「今日はごめんなさいね、予定日じゃなかったのに」
「どうせ来る予定だったから良いわよ」
お盆をテーブルに置き座り込もうとするが、足が邪魔で据わりにくい。
いくら能力があるといっても細かい動きは面倒なのだ。
「こっちに来なさい」
「えー」
アリスが自分の膝をぽんぽんと叩く
座れと言っているようだ。
「いつも整備してあげてるでしょ、これぐらいのスキンシップは許されるべきよ」
「んー……なら仕方が無いかな」
なんだかんだ言っていつも世話になっているのは確かだ。
身体を浮かせ、アリスに近づき、彼女の身体にその身を預けるようにもたれ掛かった。
ふわりと浮いた金髪が私の頬を撫で、香水のような甘い香りが鼻腔を擽る。
「良い匂いね」
「そういう貴方は少し匂うわよ」
耳元で髪の辺りをくんくんと匂いを嗅がれる。
この流れはまずい
「……あー最近お風呂はいってないからねー」
「もっと綺麗にしなさいよ」
「面倒なのよ」
「私がいれてあげるわよ」
「別にいいわ」
「遠慮しなくていいのよ」
「いや遠慮なんてしてないから」
アリスに片手で髪を撫でられ、片腕で抱きしめられながら問答をする。
どうせ押し切られることがわかってるががんばって反対してみる。
お風呂は嫌いなのだ。
何故嫌いかと言われると…自分の身体を見るのが嫌なのだ。
いつもは特に問題無いと思っているのだが、やはり気になってしまうのだ。
「女の子は清潔にしないとダメよ」
私を女の子って言っていいのかしら。
妖怪退治で血生臭い体だし、退治に失敗したりで傷や破損まみれの私の身体はどう考えても女の子らしくないと思う。
女の子っていうのはアリスのように人形のように綺麗な髪、人形のように綺麗な顔、人形のような綺麗な金色の目、人形のような綺麗なスタイル、人形のように繊細な手。
これらを完備した女性のことを女の子というべきである。
私の事は……女の者、性別上女、そんな分類で良いと思うんだけど。
「ほらいくわよ」
「えー」
ぶつぶつ文句を言う私を無視し、アリスは軽々と私を抱き上げ風呂場へと運ぶ。
義手も義足も本物の足の用に重たくないため、私の体重は軽いのだ。
「いつもいつもなんでそんなに嫌がるのよ」
「わかんない」
実は入浴も、もっぱらアリスの助けを借りている。もちろん一人でも不可能ではないが、
長い髪や背中を片手で洗うのは簡単ではない。
右手が動くといっても、そこまで細かい動きはできないのだ。
だからこの巫女服も時折アリスが着替えさせてくれる時以外は同じ物を着たままだ。
白衣と袴は片腕だと着付けが中々出来ないのだ。
物臭というか面倒だからやらないとも言うが、魔理沙が来る時は事前に着替えておくけど。
風呂場に入ると抱き上げられたまま、慣れた手つきで袴の紐を解き脱がされ、ドロワーズも脱がされる。
「それぐらい自分でできるわよ」
「貴方やらないじゃない」
「やるったらやるー」
あまりに全部やられるのも嫌なのでアリスの手から離れ、両腕の袖を取り白衣を脱ぐ。
面倒なだけでやろうと思えばやれるのだ。
「先に入ってるわよ」
「ええ」
全裸になった私はお風呂場に先に入る。
背後では、アリスが服を脱ぐ衣擦れの音がする。
なんだかちょっとえっちぃわね。
けどタイトルでなんか嫌な予感がして、それが的中して何か…うん、なんだろう。
怖かった。
不思議だ。色々言いたいことがあったけど、
なんかおめでとうだけで言いたいことが言えた気がする
誕生日おめっとさん
良かったです。
とりあえずおめでとう。
因みに
私の仲間内では緋のアリスはジオングとよばれている
(腕→人形で)
まったくもって異常に平和なお話ですね
人形の様で、でも何かが違う二人、良いなぁ。魔理沙は知らないのか? でも分かっている者はちゃんといる。
ケチャさん、誕生日おめでとうございました!
おもしろかったです。
もう止めたら良いのに。