Coolier - 新生・東方創想話

お泊り

2010/07/05 04:51:52
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「で、今日は泊るのね」
「そうよー、とめてちょうらいね~」
「はいはい」


冬の宴会の日だった。
萃香と文に絡まれていたアリスは、案の定飲まされ過ぎてベロンベロンになっていた。
あの二人は絡んだ相手を必ず酔いつぶすことから、クラッシャーの異名をとっている。
絡まれたアリスはご愁傷様といった感じだった。


「うおえぇ、吐きそう」
「厠に行くわよ!我慢しなさいよ!」
「霊夢ごめん、もう駄目かも」
「うわあここでは!寝室では吐かないで!!」


そんなこんなで、アリスが落ちつくまでには相当の時間を要した。
ようやくドンチャン騒ぎが終わったと思ったら、余計な置き土産を残していってくれたものだ。


厠から戻ってきたげっそりアリスを風呂へと叩きこんでから、霊夢はやるべきことをやり始めた。
食器類の片づけは明日でいいだろう。アリスもいることだし、二人でやった方が楽そうだ。
となると、布団だ。
戻ってきたアリスがすぐに寝れるように敷いておかなければならない。


博麗神社には客間というものは無く、寝るときは同じ部屋になってしまう。
ここまではいい。

問題は、寝具も一人分しかないということだ。


普段なら客にはごろ寝をしてもらって自分が布団で寝るのだが、今日はそうもいかないだろう。
あんなに酔っぱらったアリスを寒い畳の上に寝かせるのは微かに存在する良心が痛む。
しかし、自分自身が畳の上に寝るなどまっぴらごめんだ。


霊夢が『一緒に布団で寝る』という結論に達するのに、そう時間はかからなかった。





~~~~~~~~~~





「あがったわよぉー」


間延びした声と共に、アリスは寝室に入ってきた。
霊夢はアリスを見て絶句する。
寝間着にと渡したピンクの花衣は紐で止められておらず、羽織っているだけの状態だった。
もちろん、隙間からはアリスの桃色の裸体が全て丸見えである。

霊夢はその美しい体のラインに、同性として見惚れてしまった。
無駄の無い肉づきは、まさに人形のような造形美だった。
そして、ハッと我に帰ってから霊夢は顔を真っ赤にして叫んだ。


「ちょ、ちょっとアリス!」


ふらふらと歩いてくるアリスを布団の上に座らせ、紐を縛る。
縛るときにチラチラと覗くアリスの裸が、やけに艶めかしくて焦った。
何を焦っているのかも気付かないままに、霊夢は焦った。
同性だから恥ずかしがることはないだろう。
そんな考えに至ることは無かった。


結局なにもせずふらついているだけのアリス。
紐を縛り終わってから、あんなに焦ったのが馬鹿みたいだと、霊夢は気を落とした。

吐いたとはいえ、酔いは抜けきっていないらしい。
この酔っ払いめと、心の中で悪態をついた。


「ほら、ここに寝なさい」
「うんー。おやすみぃ」


普段は絶対に言わないような口調でアリスは返す。
無防備な満面の笑み。乾ききっていない濡れた金の髪と、紅に染まった頬。
それら全てをまともに見てしまい、霊夢は顔を真っ赤にした。


なんだこれは。
なんだこの可愛い生物は。

呂律の回っていない口調と、間延びした声。
にっこりと微笑んでいるアリスなど見たのは初めてだ。
その全てが普段のアリスからはかけ離れていて、まるで別人のようだった。

なぜか高鳴っている心臓に慌てているうちに、アリスは布団へと潜り込んだ。


「あ、アリス!その布団で私も寝るから、ちょっと隙間空けといてよ!」
「霊夢もいっしょにねるの?」


酔っ払いの相手をこれ以上してはいられない。
さっさと風呂に入ってしまおうと、霊夢は自分の寝間着を用意している。


「うれしい。霊夢とおとまりだー」


霊夢の動きは、アリスの声が聞こえた時点で止まってしまった。
なんということだ。どこぞのメイドが時間を止めているのではないだろうか。
しかし、背後から聞こえるアリスの声は止まらない。


「わたしね、れーむ霊夢のことが好きなんだー」


なんだ。
何を言っているんだこの娘は。
もう頭は回っていない。
耳にだけ神経が集中し、ジンジンと痛い。


「霊夢はかっこよくて、髪もきれいで、強くて、憧れてたの」


これは酔っ払いの妄言だ。
聞いてはいけない。
そう頭で考えても、心が言葉を吸い込んでいく。
アリスの言葉が、心の中に溜まっていく。


「でもね、憧れてたら、いつの間にか好きになっちゃったんだ」


後ろを見ることはできなかった。
今あの顔を見たら、どうにかなってしまいそうで。
さっきから高鳴っている心臓が、破裂してしまいそうで。


「だから嬉しい。霊夢とお泊り嬉しい」


もう、耐えられなかった。
霊夢は服とタオルをつかむと、固まっていた体を無理矢理動かして部屋を出た。
狭い母屋を全力で走る。頭の中は真っ白だ。


脱衣所に入ってようやく立ち止まった。
息を切らせた霊夢は、その場にへたり込む。
全身から汗が吹き出し、ハアハアと息をついた。


聞いてはいけなかったことを聞いてしまったかもしれない。


霊夢はしばらくの間、そのまま動くことができなかった。





~~~~~~~~~~




霊夢はおそるおそる襖を開けた。
部屋からは、規則正しい寝息が一つ。
アリスが寝ているということを確信して、霊夢は忍び足で布団へと向かった。


部屋の電気を消し、暗闇に包まれる。
これでアリスの顔を見ずに寝ることができるだろう。


別なところで寝ようとも考えたが、流石に寒い。
布団で寝る以外は考えられない。
こんなことならめんどくさがらずに炬燵を出しておけばよかった。


アリスの隣に、音をたてないように滑り込んだ。
一人用の布団に二人なので、流石に狭い。
左の肩は布団の外に出てしまっている。

寒いからとアリスに寄る。
自分も使っているシャンプーの香りに混じって、アリスの匂いがした。
自分にはないいい香りで、嗅いでいると酔ってしまいそうだった。
柔らかいアリスの体と密着していると、先ほどの裸体が頭をよぎる。
そして、それと同時に蘇るあの言葉。


霊夢はアリスに背を向けた。
出来るだけ気にしないように。
出来るだけ忘れられるように。


そのとき、アリスの口から言葉が漏れた。


「……れいむぅ」


それを聞いてしまったのは、不覚だった。
折角落ちついた心臓が、三度目の大暴れを始める。



もう、今日は寝れそうにないな。
霊夢は、心のどこかで観念した。






~~~~~~~~~~






気がついたら朝だった。
上半身を起こし、霞がかかった頭を起動させる。
ふと右を見ると、アリスは居なかった。

あれだけドギマギしておきながら、結局は寝てしまったのか。
健康的な自分の体にただただ呆れた。


「あら、起きたの」


襖の方を見ると、そこには花衣をまとったアリス。
昨日と同じ服装なのに、いつものアリスだった。


「とりあえず洗いものは済ませたからね」


それだけ言って、アリスはどこかへ行ってしまった。
洗いものという単語で霊夢はしばし考える。
そうか、昨日は宴会だったか。
すっかり忘れていた自分に気が付き苦笑した。
そしてゆっくりと立ち上がり、とりあえずアリスの後を追った。



アリスは居間に座ってぼーっとしていた。
霊夢は隣に座り、アリスを見る。
うん、見た感じはいつものアリスだ。


「洗いものってことは、宴会の片づけを全部してくれたってこと?」
「まぁ、そうなるわね」
「すまないわね、寝てる間に」
「泊めてもらっちゃったんだし、これでチャラよ」


そういうと、アリスはプイとそっぽを向いた。
なんだ、借りを作りたくなかっただけか。
なんというか、本当にアリスらしい理由だ。


昨日のことは気にしないことにして、とりあえずぼーっとすることにした。
午前中にやるべきことが無くなってしまったのだ。
のんびりしたっていいだろう。


そう思っていると、アリスが口を開いた。


「ねえ霊夢」
「どうしたの?」
「あの、さ。昨日なんだけど、私凄く酔ってたじゃない?」
「そうね、ベロベロだったわ」


なんだろう、なんともハッキリしない物言いだ。
アリスはモジモジと体を揺らしながら、恐る恐る聞いてきた。


「酔った私さ、なにか変な事口走らなかった?」
「へ、変な事?」


心当たりのあった霊夢も、返答がしどろもどろになる。
変な事とはやはり、アレのことなのだろうか。
思い出すだけで顔が熱くなってくる。
ああもう、折角忘れてたのに!


「やっぱり……言ってた?」
「えっと、まあ、少し」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ……やっぱり…………」


ここまで動揺しておいて今更隠すのもおかしいと思い、言葉を濁しながら首を縦に振った。
アリスはショックを受けて凄い顔になり、そのまま頭を抱えて唸る。
ひとしきり唸ったアリスは真っ赤にした顔を持ち上げた。


「あの、ね、実は私ね、酔うと凄く、その、私らしくない言動というか、なんというか、するらしくてね」
「え……あ、ああ!」


霊夢は得心した。
ずっとあの意味深な言葉ばかりを気にしていたが、アリスが気にしていたのはあの言動のことだったのか。
確かに、あんな笑顔のアリスは初めて見た。天真爛漫という言葉が似合う笑顔だった。


「その……やっぱり、すごかった?」
「え、まぁ、うん。それなりにびっくりしたわ」
「ああ、もう駄目だぁ」


アリスは机に突っ伏して頭を左右に振り始めた。
よほどあの状態の自分を見られたのが恥ずかしかったのだろう。
確かに、普段のアリスの性格からして、アレを見られるのは色んな意味で致命的だとは思った。


ん、待てよ。
なら、あの言葉は一体何だったのだろう。


霊夢は、隣で奇怪な動きをしているアリスを見る。
あの言葉は、ハッキリと耳に焼き付いていた。


『憧れてたら、いつの間にか好きになっちゃったんだ』


幸せそうな顔で、自慢するかのように言ったアリスの言葉。
酔ったせいで言った言葉だ。それはわかっている。

問題は、それは本心か否か。



「ねぇアリス」


未だに唸っているアリスに、霊夢は聞いてみることにした。
出来るだけ、相手に悟られないように。
それとなく確かめたかった。


「…………何よ」


アリスは突っ伏したまま動かない。
からかわれるとでも思っているのだろうか。
普段の霊夢ならそうしただろうが、残念ながら今の霊夢はそれどころではない。


「女性同士の恋愛って、どう思う」


アリスの肩がピクリと跳ねたのを、霊夢は見逃さなかった。
アリスはそのまま動かない。
霊夢ももちろん動かない。
嫌な沈黙が居間に充満していた。

しばらくしてから、アリスはゆっくりと喋り始めた。


「……私は、別にありだと思うわ。男性同士だろうが、女性同士だろうが、好き合っているのなら恋人になればいい。愛し合えばいい」


アリスの言葉には、普段は感じられない重みがあった。
いや、霊夢が一方的に感じているだけかもしれない。
全ては昨日の一言のせいだ。


「幻想郷は全てを受け入れる。八雲の賢者が言ってることは正しいと、私も思うわ。ただ……」
「ただ?」


アリスは上半身を起こした。
目線は下を向き、若干陰鬱な表情をしている。


「同性を好きになったとしても、報われるわけがないわ。相手が受け入れてくれるはずもない。報われない恋よ」


アリスはとても悲しそうな顔で言った。
その表情を見ているだけで、霊夢の心は締め付けられる。


「……もしもアリスが同性を好きになったとしても、告白はしないってこと?」
「…………」


アリスは大きくため息をついた。
そして、霊夢を見て言った。


「そうよ。私は、勝てない勝負はしない。したくない。失うものがあまりにも大きすぎるから」


そしてアリスは、机の上に置かれた霊夢の手に、自分の手を重ねた。


「例え目の前にチャンスが落ちていたとしても、私には告白なんてできないわ」


アリスの手は、すべすべしていて暖かかった。





「それにしても、なんで突然そんなことを聞いたの?」


アリスは霊夢に尋ねた。尋ねられた霊夢は、天井を見ながらぼそりと言った。


「んー?アリスと結婚する夢を見たから」
「…………は、はぁああ!?」


アリスは素っ頓狂な声をあげて、顔を茹でダコのようにした。
それを見た霊夢は、上手く誤魔化せたことを確信し、安堵のため息をつく。


やっぱり、聞いてはいけないことだったらしい。
恋する乙女の、誰にも見られたくない秘密だったのだから。
このことはしまっておくことにしよう。


アリスのやかましい喚き声を聞き流しつつ、霊夢はボーっと天井を見ていた。





~~~~~~~~~~





「じゃあ、帰るわね。ありがとう泊めてくれて」
「それはチャラになったんでしょう?」


アリスは、いつもの蒼いドレスに白いケープを身にまとっていた。
研究が押しているということで、あの後すぐに帰る支度を始めたのだ。
サクリ サクリと雪をブーツで踏みしめて、アリスは境内を歩く。


「アリス」
「なに?」


飛び立とうとするアリスに、霊夢は声をかけた。
アリスは怪訝そうな顔で霊夢を見る。
言っていいものかと一瞬悩み、霊夢は口を開いた。


「また来なさいよ」
「……」


アリスはぽかんと口を開けて固まった。
なんだ。そんなに驚くことなのか。
こちらは結構気を使って言っているというのに。

そんな、ある意味理不尽な怒りを霊夢が感じているうちに、アリスは笑顔になった。
昨日のほどではないが、それでも綺麗な綺麗な笑顔。


「また来るわね」
「……また来なさい」


アリスはほんの少しだけフフフと笑ってから、境内を飛び立った。
霊夢は見送ることなく、母屋へとひっこむ。
ああ寒いああ寒いと言いながら、頭の中では全く別な事を考えていた。


なんで、また来なさいなんて言ったのだろう。
自分が苦しむだけだろうに。



どうなるか知りつつも言ってしまった自分に、無性にイラついた。
こんなことに振り回されて、馬鹿みたい。


誰が誰を好きになろうが、私には……関係ない。


霊夢は、まだ少しだけ温もりが残っている布団へと飛び込んだ。
午前中にすることは無くなったのだ。
今日は二度寝と洒落こもう。

そして、忘れてしまおう。


全て。



そう考えながら、霊夢は布団を頭から被ったのだった。









しかし、当然忘れることはできず、しばらく霊夢はアリスの言動にどぎまぎすることになるのだが。
それはまた、別のお話。






少女が、今まで考えつかなかった恋愛の形を知り、それがいかに困難なものかを知り、何もしない。私には何もできない。

そんなお話です。

今回も読んでいただきありがとうございました。
ほむら
http://magatoronlabo.web.fc2.com/index.html
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コメント



0.3350簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
さぁ、霊夢がアリスの言動にどぎまぎする話を書く作業に戻るんだ!!

レイアリいいよレイアリ
5.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのしつつ、ちょっと切ない。良いお話でした。
16.100名前が無い程度の能力削除
良し
19.100SIK削除
>>「だから嬉しい。霊夢とお泊り嬉しい」
拙い言葉を二回繰り返すのが、自分の萌えるポイントだと自覚した。
たまりませんなあ、ハァハァ
21.100名前が無い程度の能力削除
待て待て続きは⁉
霊夢がアリスの言動にどぎまぎする話を早く!

泥酔アリス可愛いのぜ
22.100名前が無い程度の能力削除
べろんべろんに酔ってるアリスが可愛いぜ!
24.100名前が無い程度の能力削除
酔ったアリス可愛過ぎる( ´艸`)
この普段とのギャップが堪りませんね。

正直、このアリスと霊夢はくっついて欲しい。
なので、どぎまぎする話、そして、さらにその続きを読みたいです!
25.100名前が無い程度の能力削除
背徳百合入門編
26.100名前が無い程度の能力削除
酔ってふにゃっとなる女の子は可愛いと思います
(`ー´ゞキリッ
32.100奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
レイアリ分補給完了!!
アリス可愛いよ!霊夢可愛いよ!もう言えるのはこれだけ
あとは私のHNが全てを語ってます。もっと広がれレイアリの輪!!!
35.100名前が無い程度の能力削除
ここで終わるのが良いと思いながらも続きを期待してしまうあたり自分の欲深さが滲みでる…
でも一つだけ言えることがある。
もっともっと広がれレイアリの輪
41.100名前が無い程度の能力削除
ふにゃふにゃアリス可愛いしドギマギしてる霊夢も可愛い!
さらに広がれレイアリの輪!
45.100名前が無い程度の能力削除
百合がデフォなのが我が幻想郷だけども、こういう「女の子同士なのに変だよねどうしよう…」 っていう悩みが先にくる背徳百合も大好き
50.100タカハウス削除
くっ・・・なんだこの破壊力は・・・!?
レイアリとは、かくも恐ろしいものだったとは!!
アリスのデレってホントいいですよね。
51.80名前が無い程度の能力削除
アリスかわいい
53.100名前が無い程度の能力削除
簡単にくっつかないところが妙にリアルっぽく印象深い話でした。
酔っ払うとおにゃのこになるアリス…いい。
54.100Fon削除
伝えられない想い、交わることのない心、今後の2人の展開がとてもきになる作品ですね
66.100名前が無い程度の能力削除
うおおおおせつねえええ
自分のことが好きだけど、もう告白してくることはない。そう分かっていて過ごすこの先の時間に、霊夢は何を感じるんだろう…
背徳百合もかなり好きです。よかった。
76.100名前が無い程度の能力削除
グッド
79.100紅魚群削除
憧れの感情が好意になるなんてよくあることですね。…いやまあそんなことはどうでもいいんです。霊夢ちゃんもアリスちゃんも可愛すぎたのです。
89.100Yuya削除
結婚しろ、しろよ.....してくれよ......