Coolier - 新生・東方創想話

姉疎し、妹恋し、君ら妬まし

2010/07/01 23:45:02
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水橋パルスィは旧都と地上を結ぶ橋の番をしている。
橋の管理者である彼女の許可無しには、あちらからはこちらに来れないし、
こちらからはあちらに行けないようになっていた。
(もっとも、巫女や魔法使いは彼女を吹っ飛ばして通って行ったのだが)

そんなパルスィがいつも履いている高下駄は、カランコロンと地底に響くので、
彼女を探す目安にもなっていた。


・・・


「で、今度は何よ?」
「妹が・・・口を聞いてくれないんです。」
「・・・へぇ。」
古明地さとりは、旧都のはずれにある橋まで来て、愚痴をこぼしていた。
どうせ朴念仁のあんたが気付かない内に何かしたんでしょと言っても良いが、
落ち込むたびにここに来られて毎回毎回愚痴の相手をするのも馬鹿らしいと思い、
パルスィは相槌を打つだけで意識をさとりに向けないようにした。
「・・・話を聞いては頂けないんですね。」
さとりがチラッとこちらを見たが、目線を合わせないように橋の向こうを見ていた。

さとりは自分を全く信じていない妖怪なのではないかとパルスィは思う。
何より、この妖怪からは自分に対する自信と言うものが感じられない。
初めて見る奴は、これで本当に妖怪なのかと疑うだろう。
だが自分を信じていないからなのか固定観念や頑迷さが無く、
あらゆる知識・知恵・経験を他から吸収することにかけては他のどんな妖怪も敵わなかった。
とにかく間違いや、相手に劣っている事に対する修正・対応が反則的に早い。
昨日はさとりに通じていた戦い方が今日はもう通じないのだ。

実はパルスィもさとりが地霊殿を立てた時に反目していたが、僅か数日で
自分の所属していた勢力がぼろぼろにされ、つきあいで参加していたパルスィは
「あー、こりゃ敵わんわ」
とさっさと降参した。

「降参するにあたり、何か希望は有りますか?」
とさとりに聞かれた時、
「別に、あんたたちの好きにすれば良い」
と答えた。

パルスィにとっては、勝とうが負けようが関係無かった。
もう負けると分かっているのに無駄な努力なんてしたくない。
明日死のうが今日死のうがそんなに差は無いだろうとも考えていた。
さとりはパルスィの心を見て、やけでも何でもなく、本当に希望が無い事を知ると、
「では、地底と地上を結ぶ場所に、橋を架けて妖怪・物が往来出来るようにしますので、
そこを管理して下さい。怨霊もペットも、誰もそんな面倒な事はやりたくないと言うので。」

そう言われ、何の目的も無いからと引き受けてしまったが、
結局それ以外はお咎めも無しでよくよく後から考えてみると、
「ぶらぶらしてるのなら職を紹介するからそこで働きなさい。」
と心配されてしまっているようだった。お節介で厚かましい妖怪だと思った。

「すみませんね、お節介は生まれつきです。」
人の回想にさとりが割って入って来た。
「・・・そのお節介の度が過ぎて妹に嫌われてるんじゃないの?」
「?」
「妹が他人にお節介焼いてばかりで、自分に構ってくれなかったら、どう思う?」
「それは本人の性格ですし、仕方無いかなと思いますが。」
「あんた以外は大抵そう思ってくれないと思うけど。
・・・妹に構って貰えないような事をしてるんじゃないか?って聞いてるの。」
「いえ、そんな事は。あ、でも・・・。」
「やっぱりあるんでしょうが。」
「いえ、些細な事なんですが。何度か忙しくて・・・
遅くなるって連絡を入れなかった事があったような・・・
こいしの用意してくれた料理を上の空で食べてしまったような・・・
美味しい?って聞かれても生返事で返したような・・・
疲れてたので、一緒に寝ようと言うのを断ってしまったような・・・。」
「あんたそれだけ妹の事放っておいてまだ普通に口聞いて貰えるとか本気で思ってるの?
妬ましいわね。」

(グサッ)
心に何かが刺さる音がこっちにまで聞こえた気がした。
どうやら割と堪えたようで、膝までついて体を打ち震わせている。
今、顔を覗きながら「ねえ、どんな気分?」って聞いたら
気持ち良いだろうなとか考えていたら、
「やったら殺しますからね・・・」
と震えた声で釘を刺された。


・・・


「全く妹煩悩よね。そんなに大事なものかしら。」
「・・・狂った振りをしてまで妹の身代わりになったあなたに言われたくありませんよ。」
さとりはパルスィが降伏して来た時に、能力を使って記憶を覗いた事で彼女が橋姫に
なった理由を知っていた。

パルスィには妹が居た。洪水が続き、それを鎮める橋姫にするための人柱を立てる計画
が上がった時、妹がまだ子供であった事と、目立つ髪と目をした異郷の者であった
事から、人柱の候補として仕立て上げられようとした。

パルスィは既に仕事を持ち、子供としては扱われない年になっていたのでその候補から
外されていたが、何とか妹を助けたいと芝居を打ち、当時客として通っていた男を
刺して嫉妬に狂ったように見せた。
この事件で橋姫が乗り移った、とすぐに噂になり、結局人柱にはパルスィが選ばれた。
厄介払いの意味も込めて。

その時の事を思い出して、パルスィは何の感慨も無いなぁ、と改めて自分の感情の無さ
を認識しながらも、こんなだし自分が人柱になって良かったかな、とも思っていた。
そのまま成仏すれば上々と思っていたら本当に橋姫になるとは思ってもいなかったが。

さとりも、もし妹がそんな立場になればそうするだろうと思い、以来妹の事で悩みが
出来ては、ここに来て相談するようになっていた。
まぁパルスィにとっては愚痴を聞かされる以外の何でもないが。

「で、それが棺桶まで持って行った高下駄ですか。」
「ああ、これね。仕事は嫌だったけど、この高下駄の音だけは嫌いじゃなかったわ。」
と、自分の履いている三枚高下駄をさとりに向けて見せる。

「橋姫になって、復讐は考えなかったんですか?」
「別に。そんな柄じゃないし、暴れたところで退治されるのは目に見えてたしね。
無駄は嫌いなの。」
「はぁ、なるほど。まぁ、私ならこいしに手を出そうとする輩は悉く旧灼熱地獄に
生きたまま放り込みますけどね。」
微笑んでいるが目が笑っていない。こいつなら容赦なくやるだろう。
「お節介ついでに言っとくけど、妹が恋人とかあんたのとこに連れて来た時に
そんな態度だったら、一生口聞いて貰えないわよ。」
「?いえ、こいしは私と・・・」
自分以外で誰かを妹が愛するなんてそんな事あり得ないと言った顔だ。
「妹はあんたに家族としての愛情を望んでるだけでそんな関係とは思って無いわよ。
単に甘えてるだけでしょ。そのうち恋人くらい連れ込むわよ。」

(ドスッ)
さとりは想像の限界にでも達したか崩れ落ち、今度は肘を地面について目を見開いて
何かぶつぶつと呟いている。
「そんな・・・うちのこいしに限って・・・連れ込・・・絶対に・・・
この前だってベッドで私とこいしで××・・・」
なんだか18歳未満お断りな言葉が聞こえて来ているが気のせいだろう。
「まぁ、それが恋愛感情になる事もあるだろうけど、別の奴に恋愛感情持ったって
不思議じゃないんだから、妹の選んだ奴ならとりあえず祝っときなさいよ。」
「え、ええ、呪ってあげますよ?」
「字が違う。丑の刻参りでもするつもり?」
「ああ、その手がありますね。」
「・・・。」


・・・


「それともう一つ、他の奴に出来る事は他に任せなさい。
今までだってペットに任せてたでしょ。」
「でも、ペットたちでは出来る事も限られてるし、時間が掛かるので私がやった方が・・・」
「違うでしょ、あんたはこの前みたいな事が起きないか心配してるだけ。」
「ぐ・・・」
「それとも何、一度失敗した奴はもう信用なんて出来ない?」
「いえ、そんな事はありません。」
「じゃあ任せてしまいなさいよ。あんたの仕事は自分で全部何でもやる事じゃなくて、
他の奴らにきちんと仕事をやらせる事でしょ。」
「・・・確かにそうですね。
あんな事があったものだから、慎重が過ぎて臆病になっていたのかも知れません。」
「そうそう。何もしない奴には何が起きても何も言う権利も無い。
だから、誰でも一言くらい言う権利を残しておくべきだわ。」
「はい、参考にします。」

暫くしてさとりは地霊殿へ帰って行った。
妹の事は片付かなかったが、仕事が少なくなればまた元に戻るだろうと、
来た時より少し晴れやかな顔をしていた。

パルスィは橋から地霊殿の方を見ながら、
(全く、姉妹で喧嘩出来るうえにこっちに愚痴振って来るなんて、妬ましい事この上無いわ。)
と思った。


地底と地上を結ぶ橋には、今日もカランコロンと言う音が鳴り響いていた。
前回出る予定だったパルスィさんが間に挟むと長すぎて没にしてしまったので、
続きとして切り直しました。当然パルスィの性格や背景は全て創作です。
猫額
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コメント



0.1490簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
パルスィさんいい相談相手やってますね
さて、××について少し話を聞こうか
18.100名前が無い程度の能力削除
下駄パルとは珍しい。
というか、パルスィの衣装って洋風なんだか和風なんだか分からない、不思議な感覚がありますよね。その格好と下駄のコンボ、橋と組み合わせてとても絵になると思いました。

……本音をいうと、この二人が話してるだけで満足。
21.90名前が無い程度の能力削除
これはよいパルスィ。
27.無評価猫額削除
感想頂いて感謝です。以下、まとめてレス。

2.>何だかんだで毎回きちんと相手をしてくれるパルスィさんは偉いと思います。
××については、年齢制限が無いので詳しくは書けませんが、
チョメチョメターイムと乗り気なこいしが、さとり様の(以下検閲

18.>パルスィって下駄似合うんじゃないか、からここまで膨らみました。
書くに当たって少し履物を調べてみたんですが、舞妓さんのこっぽりだと音が違うんですよね。
あっちの方が形的には理想だったりしたんですが、結局高下駄に。

21.>DSやったら、妬ましいなんて言ってるけど実はポーズかもと言う所からこんなイメージに。
地霊殿ではそんなでもなかったけど、DSで割と好感度が上がった方です。