Coolier - 新生・東方創想話

太陽娘

2010/07/01 20:55:55
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「それにしてもじめじめするな。
 生温かい上に湿度が高くて、服が水着みたいになってくるぜ。」
「いっそ水着でも来た方が涼しいんじゃないの?」
「間違いなくそんなことをしたら風邪をひくな。」
「今温かいって言ったくせに。」

神社の一室。
紅白の少女はお茶を、黒白の少女は文句をそれぞれ口にしていた。

「あーくそー、なんかイライラするなー。なんかこう、スカーっとするようなことでも起きないもんか。」
「あのねぇ。わざわざ人ん家に来て、勝手にイライラしないでよね。
 大体こんな雨の日に外に出てまでなにしに来たのよ。」

開け放たれた戸の向こう、縁側のその向こうでは、さぁ・と音を立てて雨が降り続けていた。
霊夢にとっては、実に落ち着く音なのだが…

「魔法の森がここよりじめじめしてるのはお前だって知ってるだろう。
 神社はもっとすっきりしてると思ったんだが…風通しとかいい物じゃないのか、こういう建物って。
 ああくそ、雨の音が憎らしいぜ。」

魔理沙にとっては、雨の音は快音ではないようだ。
梅雨。天が夏に向けて、地上の生命に生きる糧を分け与え、蓄えさせるこの季節。
だがしかし、全ての命がただただ癒されるのみと言う訳ではないらしい。
この二人の様に。

「くっそー。じめじめするー。イライラするー。」

八卦炉から弱弱しく風が吹くが、気温と湿度故に、生ぬるい風が出るだけだった。

「もう、文句ばっかり言うだけなら帰ってよね。こっちまでイライラしてくるんだけど?」
 梅雨って言うのは龍神様の視察なんだから。そんな文句ばっかり垂れて、雷に当たりでもしても知らないわよ。」
「いっそその方がスッキリしそうだぜ…」

さぁぁぁぁ。
会話が切れた途端、雨の音が響き渡る。
龍神様は話たがりなのだろうか。

「あぁ、よし。霊夢、いっちょ弾幕(や)るか!負けた方が今日の晩飯係だ!」
「嫌よ。外に出ないといけないじゃない。わざわざ濡れたくなんかないわよ。」
「なんだよ、ノリが悪いな。派手にやって、このイライラを吹き飛ばそうぜ!
 こう、どかぁあああんと…」

瞬間。
どぉん、と、外から派手な音が響き渡った。
と、同時に。
彼方の空の雨の中に太陽が現れた。

「…こりゃぁ派手だな。」
「あれ、いつぞやの馬鹿烏じゃない?…またなんか企んでんじゃないでしょうね…」

低い太陽は煌々と雨に煙る世界を照らしている。

「そうか!あいつ捕まえて、少しだけ力を使わせれば、熱でじめじめもなんとかできそうだな!」

言うや否や、魔理沙はすぐに縁側から庭へと飛び降り、箒にまたがる。

「と、おい?行かないのか?」
「だからわざわざ濡れたくないってば。異変にしても、起きてから動けば十分よ。」
「ふんっ、上手く洗濯物が乾いても、お前には使わせてやらないぜ!」

雨をかき分け、一筋の風が彼方の空に消えて行った。

「…よっぽどイライラしてるのかしら。
 去年の今頃、八卦炉で洗濯物が乾くって自慢しに来ていたのに。」

もう一度外を見ると、太陽は既にない。
辺り一体に聞こえる様に、龍神様の声だけが聞こえていた。



「へぇ…これが間欠泉。周りにいるだけで結構熱いのね。」
「うぅん、でもやっぱり、熱いからって日光みたいに元気は出ないわねー。」
「黙っていてもイライラするだけだから出かけようって言ったのも、
 間欠泉を見に行こうって言い出したのもサニーだけどね。」
「そうだっけー?」

ぶしゅぅ、と大きな音を立てながら、雨に対抗するかのように天高く登る間欠泉の足元。
赤・白・青の三色が、小さな体で天を仰いでいた。

「で?間欠泉は見たけど、どうするのかしら?」
「うん?どうしようか?」
「あのねぇ…見物に来てる人か妖怪を、脅かしてイライラを発散しようって言ったのはサニーなんだけど?」
「だって誰もいないじゃない!あーあ、梅雨はやっぱり退屈ね…」

間欠泉の轟音、静かな雨音、混じる騒がしい声。

「ん?妖精?こんなとこで珍しいね。」

大きな翼に異形の右足、揺らめくマントと黒い髪。
そこにもう一つ、間欠泉と同じように地上から現れた妖怪の声が混じった。

「え?!妖怪!?」
「しかも強そう!!今、間欠泉の中から出てきたよね?!」
「隠れて隠れて!!ちょっとサニー!早く早く!」
「あぁ、別にいじめたりはしないよ。弱い者いじめは駄目だってさとり様から…って、うにゅ?いない?」

「あ、あの、貴女はどちら様ですか?今、間欠泉の中から…」
「私は霊烏路空、皆はお空って呼ぶよ。地底の地獄烏だよ。
 ねぇ、本当にいじめないから姿を見せてよ。なんだか話しづらいって。」

キョロキョロと声の主を探す空だが、
間欠泉の轟音と静かな雨音、それらの中にポソポソと内緒話が聞こえるだけだった。
少し経って、空の目に声の主が入ってきた。

「あ、いたいた。あなた達はすごいね。妖精なのに、そんな真似ができるなんて。」
「え、えぇ、まぁ。私は、光の屈折を操れるんですよ。
 だから、目の前にある物を見えなくしたり、本当はそこにはない物を相手に見せたり出来るんです。ほら!」

その瞬間、四人の周囲だけ雨が止み、間欠泉は突如として、地底に向かって流れ落ちる滝へと姿を変えた。

「おぉぉぉ!!すごいねぇ!へぇー。そっか、光って操れるとこんなにすごいんだ。」
「えへへー。まぁ、屈折を歪ませて見え方を変えてるだけなんで、雨は降ってますし、間欠泉も噴き上げていますけどね。」
「…?なんかよくわかんないけど。凄いなぁ。今度山の神様に核で同じことできるか聞いてみよう。
 で、白い貴女は?」
「え?!あ、私は…ルナチャイルドと言います。
 私は、音を聞こえなく出来ますよ。サニー、雨と間欠泉戻して。ほら。」

降りしきる雨と吹き上がる間欠泉。拍手の様に手を叩く白い妖精。
しかしお空の耳には、それらと一致する音は何も聞こえなかった。

「おおおおおお!すごい!あれ?私の声は聞こえる?」
「あ、まぁ、少しぐらいは調整できますから…声を聞こえなくもできますよ。」
「え?本 ?  ?  ?!    !      !!」

空一人がはしゃぎ、手を叩いたりその場で足踏みをしたり、無音の世界を堪能する。
音の聞こえている三妖精にとっては、なかなかシュールな光景だった。

「へええええ。あ、聞こえた。うわぁ、すごいなぁ。面白いねぇ!青いあなたは?!今度は何?!」
「私は、動く者の気配を察知できますよ。」
「…?それって、生き物がどこにいるかわかるってこと?…なんだか、地味だなぁ…」
「あら、そんなことないですよ?たとえば、目をつぶったら何も見えないでしょう?
でも、私なら、目を瞑っても、誰がどこにいるか、簡単にわかるんですから。」
「あー。あー、うん。確かに!
 あれだね、目をつぶったままで相手を倒したりしたら格好いいかもねぇ!
 へぇ。妖精ってすごいねぇ。周りからはもっと何もできないって聞いてたんだけどなぁ。」

腕組みをしながら、しきりにうんうんと楽しそうに頷く空。

「えっへん!何せ私たちは、あの博麗霊夢も目を置く特別な妖精ですからね!
 三妖精って言えば、知ってる人は知っていますよ!」

同じく腕組みをし、小さな体をのけ反らせるサニー。
勿論、霊夢はこの三人に特に注目してはいない。

「え?霊夢って、あの巫女の?えっと…赤い方の、うん。」
「えーと…まぁ…」
「ええ、そうですわ。妖精の中で霊夢に冷や汗かかせられるのなんて、私たち三妖精ぐらいですよ。」
「へぇぇぇぇ…すごい妖精もいるんだねぇ。」

じとり、と二人を見るルナに、嘘は言ってないわよ、と小声でスターが囁く。
紙舞の時のことを思い出し、確かに嘘は言ってないか、と合点するルナだった。

「それで…貴女は、地獄烏、って言ってましたっけ?妖怪なんですよね?」
「あぁうん。私は灼熱地獄跡の窯の火力の管理を任されているんだ。
 あ、そうだ。いい物見せてもらったし、私もお礼に凄いことしてあげるよ!!」

言うと空は、右手を制御棒に変え、少し俯き力を溜め始めた。
しばしの後、空の周りを光り輝く青白い小さな光が回転し始め、三妖精を驚かせる。

「はぁぁぁあっ!!」

力を開放するかのように空が体を伸ばした瞬間。
四人の頭上に、太陽が輝いた。

「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」

熱量も、そのものに及ばずとも相当あるらしく、蒸発によって雨は止み、周囲は瞬時に夏を迎えた。
自分たちとは桁違いの、妖怪然とした能力に(正確にいえば、神にあやかった能力なのだが)、
思い思いの感動を口にする三妖精。
その中で一人、サニーだけが興奮と感動を他二人以上に味わっていた。

「どうだい。私は核融合を操れるのさ。少しばかりの太陽を作るぐらい、朝飯前さっ!」
「凄い!すっごい!太陽だぁ!お日様だぁ!」

自分を照らす久々の太陽の出現に、梅雨の空の代わりにサニーのテンションが青天井になった。
空を仰ぎ両手を広げ、日光を少しでも吸収しようと体中で上を見た。

「いやぁ、そんなに興奮されるとは。核融合冥利に尽きるってもんだねぇ。」
「私、日の妖精なんですよ!地下の妖怪なんですよね?
 地上は最近この通りの雨続きで、日光をしばらく浴びることができなかったんですよ!
 うわぁすごい!すごいですよ!なんだかすっごい元気になってきたー!わああああああああああ!!」
 
その場でピョンピョンと飛び跳ね、興奮を抑えきれないサニー。
その姿を見て非常に大きな充足感を得る空。
残りの二人は、辺りを熱する小さな太陽の暑さに、
もうそろそろ消してくれないかな
と、一足先の夏の到来に満足しきっていた。

「あ、ねぇ、貴女達は、こういう、弾幕はできないの? さっき見せてくれた能力みたいに。」
「あー…そっちは…」
「私たちは、特別すごい弾は撃てないですね。妖精通りの、光弾を出すだけで精一杯です。」
「ありゃ、そうなんだぁ。弾幕ごっこでもできれば、面白そうだったのに。」

こんな凄い能力を相手になんて、絶対にゴメンだ。
正しく湧いて出た突然の熱に比べれば、先までの梅雨のじめじめのなんと涼しいことか。
未だに頭をじりじりと熱する太陽を感じながら、二人の思考は下向きに一致した。
が。

「いいえ!今なら私、何か凄い弾が撃てる気がします!いや撃てる!絶対に撃てます!」

サニーだけは、まだまだテンションを上げ続けている。
やはり間欠泉を見たいと言ったのはサニーだったようだ。

「お!いいね!その意気だよ!ちょっとやってみなよ!」
「はい!うぅぅぅ…たぁぁぁ!!」

被害のないよう間欠泉の方を向き、両手を上げて力を溜め(るつもりで)、勢いよく前に出す。
弱弱しい光弾が、しびびび、と揺らめく。
はずだった。

ビシュウゥ

音を立てて間欠泉に立ち向かったのは、妖精の物とは思えない、速く、真っ赤なレーザーだった。

「「…?!」」
「…」
「おぉぉぉ…!なんだ、結構できるもんじゃーないか!」
「す…すごい!ねぇ!ルナ!スター!見た!?今の見た!?」
「す…凄い…サニー、いつの間にそんな能力を…」
「ビックリした…魔理沙さんに特訓でもしてもらっていたの?!」
「わ、私もよくわかんない!でも見たでしょ!?私凄い!やったー!かっこいいー!」

キャッキャとはしゃぐ三妖精。
徐々に太陽はその姿を弱めていた。

「妖精にしちゃ大したもんだよ!ね、どう!?ちょっとさ、私と弾…」
「こうしちゃいられないわ二人とも!」
「そうね、これだけの力があれば!」
「遂に、私達三妖精が異変を起こす時が来たのね!」
「あぁ、ねぇ、私と…」
「異変なんて生ぬるいわ!これは、直接巫女を倒せるわ!!」
「え、サニー、それ本気?!」
「きっと巫女も、梅雨のじめじめに参っているはずよ!
 今やらないでいつやるのよ!今こそ、私たちが幻想郷のトップに立つのよ!」
「そうね!今のサニーに"任せれば"なんとかなるかもね!」
「もっちろん!この最強の妖精、サニーに任せなさい!」
「ねぇ、弾幕ぅ…」
「そうと決まれば、すぐに博麗神社に攻め込むのよ!」
「「おー!」」
「え、ねぇ、大丈夫かな…?」

何やら話を急にまとめ、三妖精は神社に向けて進軍した。
話の内容も状況もわからない空が、ただ取り残され、地底から出る際に纏った熱で、一人雨を蒸発させていた。
「…うにゅう。」


しばらくの後。


「博麗霊夢!」
「あら、いつもの三妖精じゃない。何?言っておくけど、この間の悪戯まだ許してないわよ。」
「ふふん!今日の私達はいつもと一味違うわよ!
 今日が妖精が巫女を倒す記念日なのよ!」
(ね、ねぇ、スター、大丈夫かな?)
(今の内に、少し離れておきましょう。多分、私の予想があっていれば…)
「あん?なに言ってるの?」
「問答無用!先手必勝!博麗霊夢、覚悟ー!たあああ!」

両手を上げて力を溜め、霊夢に向けて勢いよく前に出す。
紅く煌めくレーザーが、ビシュウウ、と霊夢を貫く。
はずだった。

しびびび…

弱弱しく発せられた光弾が、ふらふらと霊夢に向かう。
ぶれた光弾は、霊夢の前に置いてあった湯飲みに直撃。
梅雨に濡れるはずのないちゃぶ台が、お茶に濡れる。
霊夢の顔が、笑顔になった。



「と言う訳で、お前の力で洗濯物を…おぉ?!」

魔法の森。
連れてきた空にようやっと力加減を説明した魔理沙の耳に、轟音が響き渡る。
見ると神社の方角に、オレンジ色の光の柱が立ち上っている。

「わあ、すごい。あれ、霊夢?」
「間違いないな。どうもどこかの誰かが、紅白の龍神様の逆鱗に触れたらしいな。」
「どこかの誰かって誰?」
「私が知るか。しかし…こりゃぁ派手だな。」

ただサニーだけが、季節外れの熱を謳歌した一日だった。
「お空とサニー」というお題を頂いて、必死に頭をひねって出来上がった物です。
よそ様にどの程度の評価を頂けるのかと思い、投稿させて頂きました。
初投稿の、短く拙い作品ですが、読んでの感想を頂けると幸いです。
なめレス
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コメント



0.950簡易評価
12.90とーなす削除
キャラがコミカルによく動いて、楽しい話でした。
お空とサニー……属性的に相性がよさそうだけど、あまり見ないなあ。新鮮です。

サニービームがゲームで見られる日はいつだ! 来るのか!?
16.80名前が無い程度の能力削除
サニーが元気よくて可愛いな