※首吊り霊夢と首締められ霊夢の続きです。読まなくてもなんとかなりますけど。
私博麗霊夢。
荒ぶる死にたがりよ。
住所はこの寂れきって人が来ることがほとんど無い神社。
身長は割と低く、体重も軽い。
特技はこんてにゅー。
足がもげても、手がもげても、頭ももげても死んだら再生することよ。
こんてにゅーが無くなったら寿命で死んじゃうけどね。
寿命がきてもこんてにゅー出来ないけどね。
そのせいか、それとも最初からそうだったのかちょっと頭が変で。
趣味は死ぬこと。
痛みが無くなる訳じゃないけどのたうち回って死ぬのが趣味よ。
意識が無くなり死ぬ寸前だけが生きてると実感するから、色々と死に方するのが趣味よ。
まあ所謂精神異常者って奴かしら。
それとも極度の自殺志願者なのかしら、自分ではわからないわね。
まあ人間性が碌でも無いのは確かね。
こんな私でも人を気に入ったり、好きになったり、愛するという感情はあったらしく。
該当する奴は何人かいるわ。
本人達に言う気は無いし、相手からしてもこんな私にそう思われるなんて真っ平ごめんだと思うけど。
今日はその中でも、気に入ってる人形遣いの話でもしましょうか。
愛する者の話はこの前した気がするし、好きな奴はいつも神社の隅で花畑の世話してるからいつでもできるしね。
でははじまりはじまり。
私の気に入ってる人形遣い。
アリス・マーガトロイドは私の神社に訪れては人形を作ってるの。
だからいつも話すのは少しだけ。
私は元々必要最低限しか話さないし、あの子もあまり話すタイプでも無いのよ。
でも雰囲気が良いのよね。
一緒の空間にいると落ち着く、いやし系みたいな感じかしら。
なんか違うわね。
親友以上友達未満、言うならばそんな関係かしら。
話す訳でも無く、一緒に何かする訳でもないけど一緒にいると居心地が良い。
そんな距離感を保ってくれるのがアリスなのよ。
必要以上に干渉してこないけど、無関心って訳で無く
んー…自分でも言っててよくわからないけどそんな関係なのよ。
で、そんなアリスを私が気に入ったのは最近のこと。
今までも気に入ってたんだけど、もっと気に入る出来事があったの。
その日は昼前に文が怪盗アキュー再びの原稿用紙を取りにきて
私の最近の最大の楽しみである首絞めをして貰ったんだけど、生き返ったらなんか物凄いしんどそうだったのよ。
疲れでもたまってるぽいから神社で休むよう言ってみたんだけど、一瞬妙な表情して帰っちゃった。
やっぱり私の血とかで染まってる布団や私の体の部品が転がってる部屋で寝るのなんて嫌よね。うん。なんだか血生臭いし。
文と私の関係って私の小説が良いからって理由だけで続いてる関係だしね。
私は愛してるけど、言う気は無いわよ。あっちがそんなこと思ってる可能性は無いしね。
ごめんなさい、今はアリスの話だったわね。
しんどそうな文が帰って一時間ほどたった頃、いつものようにアリスが来たのよ。
「こんにちは」
「おはようアリス」
「もうそんな時間じゃないわよ」
アリスはいつものように少し挨拶すると居間に上がりこんで、腕に抱えてた裁縫セットというか工具セットみたいなもので人形作り始めたのよ。
初めて神社に来た最初の頃はもう少し会話してた気がするんだけど、今はこんな感じ。
必要以上に会話しなくてもわかりあってる気がするのよ。
アリスを一言で言うなら人形狂いかしら。
あの娘は人形のためなら迷わず死ねるタイプ、私の直感がそう告げてる。
で、私はいつものように。
畳の上に寝そべったり、お茶を飲んだり、アリスをぼんやり眺めていたのよ。
眺めるというより、見つめていたという言い方のほうが正しいかしら。
ぼんやり見つめていたのよ。
人形のように綺麗な髪、人形のように綺麗な顔、人形のような綺麗な金色の目。
人形のような綺麗なスタイル、人形のように繊細な手。
とにかく私はアリスを上から下まで隅々と見つめていたのよ。
ぼんやりと見つめていたのよ。
その日のアリスはいつもと違ってた。
いつもと同じように人形のように完璧だった。
どこから見てもアリス本人だった。
でも違和感がしたの。
少しだけの致命的な違和感が。
しばらく考えていると気が付いたの。
今までそうだったかはわからないけど、今のアリスを見て断定できることがあったの。
何回も、何回も神社に訪れていたというのにようやく気が付いたのよ。
だから私は実行に移したわ。
部屋の片隅に転がってた私の愛用の包丁。
何度も何度も私の体を突き刺した包丁。
そのせいかかなり切れ味が鈍くなってて、使うと中々死ねない私の包丁。
そんな愛用の包丁を左手に握りしめて、人形を作っていたアリスに声をかけた。
「ねえアリス」
「なに?」
「首斬らせて頂戴」
勿論、返事何て聞かない。
聞く必要が感じられないからね。
で、何か硬い物にぶつかるような感覚とともにアリスの首に私の包丁は突き刺さり、アリスの首が畳の上を転々と転がっている。
金髪の髪を振り回しながら、転々と転がっている。
中々止まらない。
コロコロ、コロコロ転がっている。
私があんなことされたら目をぐるぐる回してしまいそうなぐらいに転がっている。
まるでボールのようにコロコロ転がってて、それが面白くて少し笑ってしまった。
「あははっ…」
更におかしいのが、さっきまで私の前に座ってた首から上が無いアリスの身体よ。
どうなってたと思う?
私が同じことした時は、頭と胴体が別れた瞬間身体は倒れてたわ。
でもね。
アリスの身体は座ったままだったの。
バランスを崩す訳でも無く、血を出す訳でも無く。ただ先ほどと同じ用に座っていたの。
作りかけの人形を腕に持ったまま。
その腕を止めずに動かしていた。
やっぱりそうだったんだ。
「やっぱり、貴方人形だったのね」
このアリスは人形だ。
いつものように会話し、いつものように人形を作り、いつものように人形を操作していたこのアリスは人形だったんだ。
「いきなり何するのよ」
ようやく転がるのをやめたアリスの首がこちらを睨んでいる。
都合よくこちらを向いている。
でもまったく怖くない。
生き物ですら無い物が睨んだとしてもまったく怖くない。
「ごめんなさいね、急に確かめたくなったのよ」
そういうとアリスはため息を付く。
頭だけというのに、いつものアリスと変わらない。
「どうして私のことわかったのかしら、完璧だったと思うんだけど」
どうしてだろう。
私はどうしてこのアリスが妖怪で無く、人形と断定できたのだろう。
もし生きていたら大惨事だ。
アリスは大怪我か、運が悪ければ死んでいたかも知れない。
どうしてだろう…あっわかった。
「あははは、だって貴方私と同じじゃない」
「突然人を突き刺す奴と同じにして欲しく無いわね」
「違うのよ、貴方は生きてる匂いがしないのよ」
そうこのアリスは本物のように人形らしい。
しかし、生きていない。
死んでも生き返るために生きてると実感できない死んでる私と同類だ。
匂いが同類なんだ。
「匂い?」
「ええ、生きてるけど死んでる、そんな匂いよ」
「そんな曖昧な理由で普通首刺す?」
「刺したんじゃないわよ、斬り落とす気でいったわ」
人形となれば死なない。
だから生きてても死んでる、その匂いがこのアリスからはしたのだ。
だから私はその違和感の正体を知るために包丁で斬り落とした。
「これでも私アリスの最終傑作なのよ」
「うん、多分私以外には見破れない」
この匂いがしなければ、本物のアリスと勘違いする出来だ。
この肌も、眼も、髪も全部作り物だなんて誰がいっても信じないだろう。
「当たり前よ、アリス本人の髪や肌、目、知識、癖全て詰め込んだのよ」
「でも刺した感触はダメね、人じゃなくて物を刺してる感覚だったわ」
「そんなの想定外よ」
転がってるアリスの頭を持ち上げ、抱きしめる。
機嫌が悪そうなじとーっとした目をこちらに向けている。
「自律人形が夢って言ってたけど叶えていたのね」
「当たり前よ、アリスを何だと思ってるのよ」
この腕の中の頭だけのアリスは人形なのだ。
こんな完璧な、本物にしか見えないアリスは人形なのだ。
「アリスマーガトロイド、私のお気に入りの最高の人形遣いよ」
「…わからないわ」
腕の中のアリスが不思議そうな声を出す。
本物の頭に比べて大分軽い。
「何が?」
「アリスが貴方みたいな頭のおかしい巫女のことを気に入ってた訳がわからないのよ」
あの関係は気に入ってたというべきなのだろうか。
碌に話もせず、何かする訳でも無く。
時折同じ空間で一緒に過ごしていただけだ、どう言って良いのだろうか。
「私もわからないわよ、貴方ならわかるんじゃないの?」
「思考回路までは同じじゃないのよ」
知識と癖は同じにしたが、思考回路だけ別にする。
どうしてそんなことをしたのだろうか。
そのままの自分の思考回路植え付けた方がもっと早く完成させれたと思うが。
「どうして?」
「わからないわよ」
どうしてだろうか。
どうしてアリスは完全に一緒にしなかったのだろうか。
完全に一緒にするとクローンになり、自律人形とは別物になるからだろうか。
「わからないわね…ところでアリス、アリスはどうしたのかしら」
「アリスは私よ」
こちらを見つめそう言い切るアリスの頭を撫でる。
髪の質は昔触ったアリスの髪と同じ、やわらかい質感であった。
頭だけでなければ、どこからどうみても本物のアリスだった。
「言い方が悪かったかしら…いつからアリスは貴方だったの?」
「一ヶ月前よ、貴方以外にはばれなかったわ」
一ヶ月前というと丁度アリスが来なくなった頃だ。
いつものように研究に専念してるから来ないと思っていたが、こういう訳だったのか。
まったくアリスは良い仕事をする。
「じゃあもう一度質問するわね」
「ええ」
「一ヶ月前までいたアリスはどうなったの?」
「………」
黙り込む頭だけのアリス。
その反応を知れば充分だ、それだけわかれば充分だ。
ここにいるアリスが、今までのアリスがどうなったかの答えなのだろう。
「伝言は?」
アリスが私の知ってるアリスなら何か私に伝言を残してるはずなのだ。
アリスの性格からして何も残さずいなくなるとは考えにくい。
ここにアリスがいるということは、アリスは何か用意していたはずなのだ。
「私はアリスの自律人形よ」
「ええ」
彼女らしい発想だ。
どう動くかわからない自律人形を作るなんて事はせず、どう動くかある程度理解できる自分の自律人形を作るなんて。
「アリスの全てを詰め込んだ傑作よ」
「アリスの作る人形は全て傑作じゃない」
何を作るにも妥協を許さないアリス。
だからこそ自律人形アリスができたのだろう。
「アリスを作ったアリスはこう言っていたわ」
「うん」
「見破られたら、霊夢の物になりなさい、と」
「わかったわ、任せなさい」
そういうとアリスは妙な表情をした。
一瞬だったからよくわからなかったが今の表情はどういう意味だったのだろうか。
断られると思っていたのだろうか、しかしそれは無い。
私がアリスのアリスとしての頼みだ断る訳にはいかないだろう。
しかし物か、どういう扱いをすればいいのだろうか。
アリスはどういう意図でアリスにこの伝言を残したのだろうか。
さっぱりわからない。
「アリス」
「なにかしら」
今までの好きだったアリスはいなくなってしまったが、アリスの残したアリスが私の腕の中にいる。
このアリスは完全に壊れなければ死なない。
人形だから死ぬという定義は無い。
やはりアリスは私のことがよくわかっている、こんな良い仕事をしてくれるなんて。
これからは死ぬことばかりじゃなくて殺すことも出来るのか。
手ごたえが不満だが、それはアリスがいるのだなんとかなるだろう。
「私今まで貴方のこと割と好きだったけど、今度からもっと好きになれそうよ」
「…そう、そんなことより早く直して欲しいんだけど」
首だけのアリスはそう呟いた。
アリスは夢を叶えたのだ・・・
次は幽香さんで「首潰れ霊夢」ですかね?
すごくいい。
あなたは最高だ。
というか言葉にできないくらいキタ
アリスがゲシュタルト崩壊を起こしました
いや、死の少女らしいというか…ある意味。
いやでもまぁ、こういうのもアリっちゃアリか。
この外れまくった感じ。嫌いじゃない。
その関係性だけは妙に上手く回っているような気がします。
上手く回っているだけに手の加えようがない。手遅れということかしら。
ところでこんてにゅーってどんな感じで生き返るのかね?
文が殺した時は死体は残ってたが…
霊夢を好きになったから壊れてしまったのか、壊れているから霊夢を好きになったのか
それはさておき、今回の話も素晴らしかったです。
このシリーズは愛に満ち溢れてて大好きです。
あとケチャさん元気そうでなによりです
そういうペンネームの漫画家の短篇を思い出させる。
異常性充分!
アリスネタはこれで終りなのでしょうか?続きが気になりますね。
果たしてアリス(人形)はどうなってしまうのでしょうか・・・。
何はともあれ次回も期待しております。
それほどのインパクトと中毒性があった。
うん、俺は好きだ。
自分の体を壊してしまう程に霊夢を愛したアリスの姿は哀しくもとても美しいと感じられました。
ただ、霊夢がアリスを殺して喜びを感じるのには少し違和感を感じます。
以前の作品では霊夢は殺される瞬間が自分が一番生きていると実感できるとありましたが、だからといって殺すことにも喜びを抱くかどうかというと違う気がするのですが…
殺すことでアリスが自分のものになったど実感できるという意味での喜びなのでしょうか?
その他私の読解力不足でしたら申し訳ありません。
いい具合な壊れっぷりでした。霊夢だけでなくアリスまで……。
この幻想郷、文以外にまともな奴いるのか?
でもただくるっとるのをくるくるこねくりまわしてもくるってるだけですよね
一周回ったふつうな世界が人間には一番おかしいのかもしれませんね
どっちのアリスも報われない…。
しかし恐ろしいっすね。
お互いに“気づけない”思いのあやれいむに、静かにそして自ら壊れていったアリス…薄ら寒くなりつつ何故か心に響いた。
恐ろしい純愛という名の狂気…いや狂喜をみた。
ただ報われてない気がする元アリスが可哀想なんでこの点です。
霊夢の自己紹介、ちょっと笑ってしまいました。
今回はまたホラーチックな
霊夢さんどうしちまったのか