Coolier - 新生・東方創想話

人形遣いと夜雀と

2010/06/28 03:05:11
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「……ふぅ、やっと出来た」
私、ミスティアはいつものように屋台の準備を終わらせて呟く。
私は毎晩、魔法の森の近くにある少し開けた場所で屋台を開いている。
客足は……まぁまぁかな。
日によってお客さんはおじさんだったり、知り合いだったりする。
私は準備を終えると用意していた椅子に座ってお客さんが来るのを待つことにした。
椅子に座りながら近くにおいてあった今日の新聞を手に取る。
「今日の新聞は……『神社で人形遣いの人形劇開かれる』か」
……アリスさんか。
懐かしいなぁ。
私がまだ手当たり次第に人を鳥目にしていたときに私を説教してくれたのが彼女だ。
彼女がいなかったら今の私はいなかっただろう。
彼女にはとても感謝している。
感謝しているのもあるけどそれ以上に……
「こんばんは!」
あ、お客さんが来たようだ。
「いらっしゃい……ってみんなじゃない」
暖簾をくぐって入ってきたのは私の友人であるリグル、チルノちゃん、ルーミア、大ちゃんの4人だった。
「ふふ、久々に食べに来たよー!」
「こんばんは、リグル」
私は笑って彼女たちを迎える。
「あたいはいつもみたいに熱くないやつね!」
「はいはい」
チルノちゃんは熱いものが苦手のため、私はいつも冷ましたものを出すようにしているのだ。
「私はとりあえずビールでお願い」
「ルーミアは最初の注文は必ずビールよね」
「うん、これがないと始まらないもの」
ルーミアのおじさん臭い答えに私は笑ってしまう。
「私は……チルノちゃんと同じやつで……」
大ちゃんは頬を少し赤らめて注文した。
「分かってるわ」
私は微笑んだ。
この子はチルノちゃんのことが好きなのだ。
だからいつも注文するものはチルノちゃんと同じ物。
普通の人なら私に気があるのかな、って思いそうだけどチルノちゃんはまったく気づく気配がない。
本当に鈍感な子だ。
一気に屋台が騒がしくなった。
……これから忙しくなるわね。

「それにしても今日はお客さん来ないわね」
ルーミアはビールを飲みながら私に聞いた。
「うーん、今日は天気が悪いからかな?」
今日は雲がかかっていて、月はまったく見えない。
私の店に来る人たちはよく酒と料理と一緒に月を楽しんでいた。
月が見えない日はお客さんも少なめだったりするのだ。
「それじゃあ、今日は私たちの貸切ってことで!」
「ちょ、ちょっと待ってよリグル! まだ来ないと決まったわけじゃないでしょ!」
「いや、だって私たちが来てから1時間は経っているのに誰も来ないじゃない」
「む……こ、これから来るわよ……」
私は頬を膨らませて反論した。
「それじゃあ、これから誰も来ないに私はビール一本かけるわ」
ニヤリと笑うリグル。
……乗ってやろうじゃない。
「だったら私は誰か来るにビール一本よ!」
そう叫んでからしまった、と思った。
この子は結構ずる賢いのだ。
まんまと流れに乗せられてしまった。
……後悔しても仕方ないか。
「そういえば、今日あたいたち、アリスの人形劇を見てきたんだー!」
「あれ、そうなの?」
「うん、チルノちゃんが行きたいって言って聞かなかったからみんなで行ってきたの」
「だ、大ちゃん、それは言わないでよ!」
チルノちゃんは赤くなりながら叫んだ。
なるほどね、チルノちゃんが駄々をこねた、と。
「それで、どうだったの?」
「すごく面白かったわよ。私もあんなふうに人形を操れたらなぁ……」
ルーミアは軽く目を閉じた。
たぶん人形を操っている自分を想像しているんでしょうね。
「それにしてもどうやって動かしているんだろうね?」
「リグル……あんたバカ?」
いや、あなたにだけはバカって言われたくないと思うよ。
「アレはね……動かしている振りをしているだけで人形が勝手に動いているのよ!」
……それは……どうかな?
「う、うーん、チルノちゃんが言うならそうかもしれないね……」
リグル苦笑してるし……
無理しなくてもいいのに。
「チルノちゃんがそう思うのなら案外そうかもしれないよ?」
「え? それって褒めてるの?」
大ちゃんは笑いながらチルノちゃんに話しかけた。
それにしてもみんな行ったのかぁ……
私も行きたかったな……
気がつくとルーミアが私をじっと見ていた。
「え、な、何?」
「みすちー、もしかしてアリスのこと、好きだったりする?」
「は!? い、いきなり何を……」
「……やっぱりね」
ニヤニヤしながら私を見ているルーミア。
他の人にも気づかれたかな、とか思ったけど他の3人は話に夢中で気づいていなかった。
「大丈夫、すでにみんな気づいてるから……一人を除いてね」
「一人……大体誰だかわかったわ」
その一人のほうをちらりと見た。
チルノちゃんは無邪気な笑顔を見せている。
「でも何で気づかれたの……?」
「だってみすちーってば、アリスの話をするときには饒舌になるじゃない」
「う……」
確かにそんな気もしなくはない。
「それで? みすちーはアリスのどんなところが好きなの?」
「え、えぇ!?」
顔が熱くなってくるのがわかった。
「教えてくれてもいいじゃない」
ルーミアはまだニヤニヤと笑っている。
「だ、誰にも言わないでよ……?」
「はいはい、わかってますよ」
「やっぱり……私を変えてくれたところ……かな」
正直に私は答えた。
「変えてくれた……っていうといつも言っているアレ?」
「そう。彼女がいなければ私は今も人を困らせていたでしょうね」
「なるほどね。だから感謝の気持ちが好きっていう気持ちに変わっていったってこと?」
「そんな感じかしらね。それから彼女に対する憧れっていうのもあるけど」
「憧れ?」
「彼女みたいに他の人のことを思いやれるようになりたい……ってところかしら?」
アリスは他の人のことを思いやれるような優しい人間だ。
私もいつかはそんな風になりたいと思っていたりもする。
「……みすちーならなれるわよ」
ルーミアは私に笑顔を見せてくれた。
「……ありがとう」
「そんなみすちーに私たちからのプレゼント」
「え?」
「リグル、どう?」
「あ、はーい……お、来たみたいだよ」
「そう。みんな、帰るわよ」
「あ、わかった。ほら、行くよチルノちゃん!」
「え、なんで? って、ちょっと待ってよ!」
来た? 誰が?
みんなが席を立った。
「はい、今夜の代金」
リグルがお金を出してくれる。
「……頑張ってね。
 あ、それと賭けは私の負け。ビールは今から来る人にでもおごってあげて」
お金をもらうときに耳元でそう囁かれた。
ついでにビール一本分のお金も手渡された。
「はい?」
「それじゃあこれで失礼するわ……びっくりしないでよ?」
ルーミアはふふふ、と笑いながら外に出る。
「応援してるから頑張ってね!」
大ちゃんまでそんなことを言った。
「え、えーと、よくわからないけどみんなが言ってるから……頑張って!」
チルノちゃんだけは良く分かっていないみたい。
そして屋台は静かになった。
……いったい何が起きるのかしら?

「こんばんは、まだやっているかしら?」
「あ、いらっしゃい……って、アリスさん!?」
私は声の主を確認して驚いた。
暖簾をくぐってきたのはアリスさんだったのだ。
「何? 私がお客だったら悪いのかしら?」
「い、いや……そういう訳では……」
「そう。とりあえず焼酎をもらえるかしら?」
「は、はい! 今すぐ出します!」
私はあわてて焼酎を取り出す。
しかし何でアリスさんが……?
「それにしてもいい場所ね。今日は月が見えないのが残念だけど……」
辺りを見回しながら私に言ってくるアリスさん。
「実は今日ルーミアとかリグルにおいしい店があるって聞いてやってきたんだけれど……
 まさかこんな場所にあるとは思いもしなかったわ」
あ、あいつらの仕業か……
プレゼントってこのことだったのね……
「とりあえずあなたのお勧めは何かしら?」
「えーと、一応ヤツメウナギですね」
「ヤツメウナギ……聞きなれない名前ね。とりあえずもらおうかしら」
「わかりました」
私はヤツメウナギを焼き始めた。
焼きあがるまで少しだけ時間がかかるので、
その間を利用して私はアリスさんに聞いてみた。
「あの、アリスさんは覚えてますか? 私に説教をしてくれたときのことを……」
「……ええ、もちろんはっきりと覚えているわ」
アリスさんは微笑んだ。
「あの時の私は本当に駄目な奴でしたね……
 道行く人を鳥目にして面白がるなんて……」
私は軽く自虐の笑みを浮かべた。
「そこに現れたのがアリスさんでした」
「ええ、そのときの私はあなたの話を聞いて懲らしめようと思っていたわ」
「そしてアリスさんはまっすぐ私のところにやってきて私を殴った。
 あれには驚きました。
 私の姿を見た人は逃げるか動けなくなるかのどちらかだったから……」
あれは衝撃的だったな……
だっていきなり殴られたんだもの。
「そのままアリスさんは
 『他人の迷惑も考えなさい。
 あなたは楽しいのかもしれないけど他の人は迷惑してるのよ』って私に言いましたよね」
「な、なんか改めて思い出してみると恥ずかしいわね……」
「その言葉は私の心には深く突き刺さりましたよ。
 それで私はこれからは他人と積極的にかかわろうと思って屋台を始めました。
 最初はなかなか慣れなかったけど今では生きがいになってますね」
いろいろな人が毎日来てくれる。
本当に屋台を始めてよかったって最近になって思ったな。
「……私の行動が他人の生き方をいい方向に変えたというならばこれほど嬉しい事はないわね」
「改めて御礼を言わせていただきますよ。ありがとうございました」
「ふふ、少し照れるわね」
「へぇ……アリスさんみたいなクールな人でも照れることはあるんですね」
「あ、あるわよ、それくらい!」
アリスさんは少しだけ頬を赤らめて笑った。
その様子を見て私も笑う。
なんかアリスさんのこんな顔、初めて見たな。
あ、ちょうどヤツメウナギも焼けたみたいだ。
「お待たせしました。これがうちの名物のヤツメウナギです」
「へぇ、これがヤツメウナギね……それじゃあ頂くわ」
そう言ってから一口かじるアリスさん。
「おいしいわね、これ! こんなおいしいものがあったとはねぇ……」
驚きの声を上げるアリスさんの口の周りにはたれが少しついていた。
「アリスさん、口にたれがついてますよ?」
「え? あ、ほんとだ。ありがとう」
私はちり紙を取り出してアリスさんに渡した。
「あとこれはお酒と一緒に飲むとさらにおいしく感じられるんですよ」
「なるほど、酒の肴にぴったりってことね」
アリスさんは口の周りを拭いてから答えた。
「そういうことですね」
「それじゃあ、言われたとおりに……あら! この組み合わせ、すごくいいわ!」
アリスさんは口に手を当てて驚いた。
驚くほどにおいしかったみたい。
「でしょ? これがうちの評判の組み合わせなんです」
私は胸を張って答える。
「これ、家でも食べたいわね」
「あ、良ければ包みましょうか?」
「お願いできる?」
「えぇ、もちろん!」
アリスさんが喜んでくれるなんて……
あまりの嬉しさに気絶してしまいそうだった。
私は微笑みながら持ち帰り用のヤツメウナギを焼き始めた。

私たちは時間が経つのを忘れて一緒にお酒を飲んだ。
この屋台では良くあることだ。
今までもよくお客さんから「一緒に飲まないか?」と誘われて一緒に飲み食いしたりしたし。
「さて、今日はもう遅いしそろそろ私は帰るわ」
「えー、まだいいじゃないですか」
私はそう言ってアリスさんを引きとめようとした。
「明日も少し忙しいからね。明日は寺子屋で子供たちに人形劇を見せて欲しいって頼まれてるのよ」
寺子屋……慧音先生が頼んだのかな。
「そうですか。それなら仕方ないですね」
「私ももうちょっと飲んでいたかったんだけどね」
仕方ないわよ、と軽く笑うアリスさん。
「さて、お勘定はいくらになるのかしら?」
アリスさんは財布を取り出す。
私はこのとき、変なことを思いついてしまった。
いつもの私なら絶対に言わないようなこと。
しかし酔っていた私はそんなバカらしいことをアリスさんに言ってしまった。
「お代はいりませんよ」
「え?」
「その代わりに……私にキスなんて……してもらえませんか?」
「……はい?」
アリスさんは目を丸くして私を見ていた。
「だから、キス、ですよ」
酔いの勢いというものは恐ろしい。
しばらく沈黙が続く。
……やっぱり駄目だよね。
私はごめんなさい、と言おうとした。
しかし、気づくと目の前にはアリスさんの顔があった。
私の唇にはやわらかい感触。
少し遅れて私はアリスさんにキスをされたのだと気づいた。
「……これで、満足かしら?」
「は、はい……?」
「……これで満足かって聞いているの」
アリスさんは赤くなりながら私に聞いてきた。
「……はい、すみません。こんなことを、頼んでしまって……」
今のキスのおかげで意識がはっきりしてきた私はものすごい嫌悪感を感じていた。
何でこんなことを頼んだのだろう。
顔が火が出そうなくらいに熱い。
「……別にいいわよ。私もあなたのこと、嫌いじゃないし」
「え?」
「そしてこれは……おまけよ」
そういうとアリスさんはまた顔を近づけてきた。
今度はさっきよりも長い間唇をくっつけていた気がする。
「……ふぅ。私、酔っているみたいね」
唇を離すとアリスさんは軽く笑った。
本当に酔っていたのかどうかは私には分からない。
「それじゃあ、帰るとするわ。あ、ヤツメウナギありがとうね」
「は……」
はい、と返そうとしたが、今の私にはそれだけしか言えなかった。
「……また来るわ。次に来たときもよろしくね」
「わ、分かりました……! お待ちしてます!」
アリスさんは軽く手を振ってから真っ暗な森の中へと消えていった。

「……まさか本当にあんなことされちゃうなんて」
私は屋台の中の椅子に腰掛けて呟く。
予想外だったな。
「しかも2回もされちゃった……」
私は驚きながらも嬉しく思っていた。
「……また今度会ったときにも、してくれるかな?」
期待せずにはいられなかった。
「ふふ、してくれるといいな」
笑いながら席を立つ。
もう閉店の時間だ。
私は屋台を片付け始める。
片付けをしながら、私はアリスさんのことをずっと考えていた。
「……あれ? これは?」
片付けの最中、私は何かが落ちていることに気づいた。
「ハンカチ……」
拾い上げてみるとそれはハンカチだった。
今日はルーミアたちとアリスさんしか店には来ていない。
だけどこの柄はあの4人のじゃない……
ということはこれは……アリスさんのだ。
たぶん立った拍子に落としたのね。
「届けたほうがいいかしら?」
……いや、私が持っておこう。
今から家に行ってもアリスさんは寝ているだろうしね。
私は大事にハンカチをたたんでポケットにしまった。
「アリスさん、いつ来てくれるかなぁ……」
空を見上げて呟く。
いつの間にか雲は流れ、うっすらとだが月が顔を覗かせていた。
「……今度は一緒にきれいな月を見ながら話したいな」
……さて、屋台は片付け終えたわね。
それじゃ、帰ろうかな。
私は屋台を引いて家へと向かう。
「ふふ、今日はいい夢が見れそう」
先ほどのことを思い出して、私は笑った。
いい夢が見れますように。
そう願いながら私は足を家に向かって進めた。
いかがだったでしょうか?
ミスティア以外のバカルテットで活躍したのはルーミアくらいという・・・^^;

それにしてもアリ×みす…いいですねw
書いていて、いい組み合わせだなぁ、と思いました。
実は友人から「アりみすいいぜ!」というプッシュがあったのは内緒w

自分の中のアリスはなぜか少し硬いイメージがありますね・・・
次回アリスを出すときは少し壊してみたいなぁと思っていたりしますw

とりあえず今回はこれで終わります。
感想、アドバイス等があったらよろしくお願いします!
双角
[email protected]
http://blogs.yahoo.co.jp/soukaku118
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コメント



0.1570簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
アリみす来た!!!とっても良かったです!
…何かお話読んでたらお腹空いて来ちゃった。
2.100名前が無い程度の能力削除
アリミスもアリだな
5.100終焉皇帝オワタ削除
アリみすがここまでしっくり来るとは。
しかし今回はみすちー珍しく歌ってませんね・・・
お代の代わりにキスか、よかろう何度でm(ry
18.無評価双角削除
まさかの連続100点・・・
ここに投稿してから初めてのことなので感謝と感動の気持ちでいっぱいです!
読んでいただきありがとうございました!

書いていくとアリみすがとてもいいものに感じられましたねw
アリみすかわいいよ、アリみす。
歌わせても良かったですね…少し後悔^^;
35.100月宮 あゆ削除
アリみす、なんと珍しい組み合わせだと思って読んでいたら まさにアリです

ルーミアの気の効かし方や
ナツメウナギを焼きながらアリスとミズチーの会話
が自然で簡単に想像できました。


だけと代金支払い方法は卑怯だと思います!
2828が止まらない