Coolier - 新生・東方創想話

とあるなんとかのなんとか

2010/06/25 15:00:26
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●face 早苗●

「嗚呼――麗しき姫よ。何故月の京都へ帰られてしまうのか」
暗く厳かな世界。
月光と見紛うような、柔らかな光が彼に注ぐ。
否。
正確には『彼』ではなく『彼女』。
孤独に仰々しく台詞を呟く彼女の声色は男を装った女独特のもの。
しかしながら着飾った音色ではなく寧ろありのままのような、そんな基調の声である。
それに答えるのは一人の少女。十二単衣を纏う女だ。
紅葉色と若葉色を基調とした上品且つ美しい着物を、しかし優美な物腰の彼女にはよく似合っている。
「我と汝は身分が違います。故に元より結ばれぬ運命……逢坂を越ゆることはないのです……」
彼女が一言一文を曰う度に、空気が白く輝くような雰囲気が展開される。
―――謂うなれば浄化だ。それは儚く散ってしまう雪を彷彿とさせた。
「ですが……この身を尽くし、貴方へ澪標を致しましょう……」
ゆっくりと舞台を下手から上手へ、宛ら一本の軌跡を辿るように歩む少女。
唯―――歩くだけ。
たったそれだけの動作なのに……桜が舞い降りるかのような優美さを演出する。
それをただ客席で見ているだけの私。
そして。
時間は停留する。
ひたすら氷解の合図を待つのみ……。

「かっと~! おっけーい」

真剣とは程遠い声色が響き渡る。
音が綺麗に浸透するなぁ、と当たり前のことを思った。
「真剣にやりなさいっ早苗!!」
私に向けて何かほざきやがります……。
……というかそこの紅白巫女は今、寝転がってませんでした?
そんな愚痴と嘆きは後で本人に捧げるとして。
ここは人里にある、舞台芸術劇場。
木製の舞台を白熱灯の照明が照らしている。
色は様々に変化する。。
時々真っ暗になったり、赤と青が交互に照らしたり、赤一色になったりするのは照明係が色作りをしているからなのです。
と、いうわけで。
私たちは今日一日芸術劇場を貸しきって練習(直前なのでリハーサルとも謂う)をしているのであった。
「撤収~。おーい大道具~全部わらって(片付けて)~」
だらし無く、怠惰の業を背負った巫女が終了の合図をしやがりました。
「ちょっと! まだ全然練習してないですよ!」
キャストの一人で帝役である紅美鈴が苦言を呈する。シリアスブチ壊しなちょび髭はなんとかならないのかなぁ……。
「でも、ほら。パチュリー死にそうじゃん」
霊夢の視線を追ってみれば、かぐや姫役の息絶え絶えな喘息持ち少女が地面に仰向けに倒れでごほごほと空気を吐き出している。
ステロイド薬を吸引するのを手伝っている小悪魔も涙目だ。
「パチュリー様、しっかりしてください!!」
「ほらぁ~お腹すいたし、帰ろう?」
「スミマセンっ! 照明、色作りまだできてません! もうちょっと時間ください」
照明役の鈴仙も若干手間取っているみたいだし……。
そんなバ監督に一言行ってやるべく、私は舞台を降りて監督のそばに駆け寄る。
「ちょっと監督。さっきからこんな調子ですけど、ほんとに私たちど素人が――」
「ん~いいんでね? つーか演技なんてどうでもいいし。台詞覚えてるかどうかの確認よ」
「そ、それは駄目なんじゃないんですか!? だいたい、見に来てくれる人に失礼ですよ!」
「いいの! それにアンタたちは何かあったら舞台監督である私の責任にでもなんでもすればいいじゃない! もう知らないんだから!」
それはもう惚れ惚れするほど見事な逆ギレだった。ホントにピンチになったら責任ななすりつけてやろうと心に固く誓った。
「私を信じて方舟に乗ったつもりでいなさい」
烏滸がましいにも程度があります。泥船でももうちょっとマシな指針を指すのに。
「それじゃあ明日に備えて今日は七時には寝なさいね! 解散!」
「……本当に大丈夫かしら」
物語の始まりはかれこれ一週間ほど前に遡る。

  †face 魔理沙†

天気がいい~な~。
あったか~くてー、ぽっかぽかするぅ~。
……とけてバターになってしまいそ~……。
帽子が黒なので熱を吸収しちゃって余計に熱い……ちょっと被り方をかえてみるか。
「まーりさっ!」
後ろから聞きなれた声がする。声だけでわかってしまう。
「霊夢……」
振り返るとやっぱりだ。紅と白のコントラストはお昼にはちと目にクるものがある。
あの企み顔。
ソレに加えて、霊夢がこんな猫無で声を出すときはたいてい面倒事を押し付けるとき。
分かってるさ、付き合いが長いんだもの。
だから私もこう返す。
「だが断る」
「まだ何もいってないじゃない!!」
もっともなツッコミ……だが、
「腹は読めてるぜ。どうせお金儲けの企みをしてるんだろう。やめとけやめとけ」
心からの忠告。悪が栄えた試しはないぜ。
「な、何をでまかせを」
「だったら何を私に伝えたいんだ?」
「ボルァンティーアをしましょう」
発音が良かった。たぶんレミリアに教わったんだろう。
「ボランティアってただ働きだろ? 私はごめんだぜ」
寺子屋の時給千円でも足りないのに、その上ただ働きは御免被る―――おっとナイス言い訳を脳内で発掘出来た。
「悪ぃな! これから寺子屋でバイトにいかないといけないんだー(嘘)」
「あら、貴方も寺子屋に用事なの?」
「は? 『貴方も』って……」
「私も寺子屋の慧音に用があるから……丁度いいじゃない」
霊夢の頬が半月を象る。
やっちまったぁ……!
発掘したら落盤した。生き埋め八方塞りだ。
こうなったら、もうこれ以上自分から物をのたまうのは愚策だ。
誰か偶然通りかかって私を救助してくれるのを待つしか無い、という他力本願がベスト策。
来なかったら、このまま霊夢と共になにかしらのアクションを起こし共犯扱いされてしまう……。
「……なんとかしないと」
「ほら、魔理沙。早く行かないといけないんでしょ、早く早く」
霊夢が小躍りしながら、スタスタと歩いて先に行ってしまう。
その嬉しそうな足取りを見ていたら……。
「これは……覚悟を決めるしかないようだな」
今日も平生と変わらずいい天気だが私の心模様は梅雨前線が接近しつつあった。
………………。
…………。
……。
「――――――♪」
「なぁ、その曲って……」
横で嬉々揚々として歌う少女。(あれ、意気揚々だっけかな?)
「『少女綺想曲』よ」
普通自分のテーマソング歌う!?
私だって鼻歌は『恋色マスタースパーク』は避けて『東方妖々夢』にしてるのに。
流石生粋のナルシス
「今、私をナルシストだと思ったでしょ!?」
「め、滅相もございませんだぜ☆ミ」
「ほんとに~」
「ほんとだぜ」
相変わらず無駄に感だけは冴えてるなぁ。
などと取るに足らないやりとりをしていたら、あっという間に人里に着いてしまった。
人里の南東に位置する木製の校舎を目指し足を進める。
今日は祝日なので、商店街はいつも以上の賑わいを見せていた。
途中、色々な妖怪を見たような見ないような……。
メイドとか式神とか早苗とか、あの格好で野菜を値切る姿はなかなか滑稽だ。
基本的に祝日は寺子屋はおやすみ。今日は土曜日なので休校ということなのだ。
用もないのに訪れるって気まずいなぁ。
そんなことは顔にも出さず、バイト先の店長に挨拶をすることにした。
円滑な人間関係を築くのも大事なんだぜ。
また一説によれば、酒は命の潤滑油。よってお酒が一番いい人間関係築けるという結論が導き出された。
「ちわー店長」
「店長じゃなくて慧音でいいですよ。寧ろ慧音先生と呼びなさい、魔理沙先生」
……慣れないなぁ。
教員同士は先生と呼び合うにしても、彼女と私では四千年ぐらい年の差があるのだ。年上にも程がある。むしろババ
「失礼なこと考えてるでしょ!?」
また見抜かれた。これは私は考えが顔にでるタイプということなのか? そうなのか!?
「魔理沙、あんたいつ先生になったのよ」
「つい先日から。インスタント教員だぜ。主に錬金術と数学術を教える程度の能力だ」
「魔理沙さんは理系科目を担当してもらって本当に助かってるのよ」
「へぇ~どうでもいいや、咲夜の卵焼きがおいしいという情報ぐらいにどうでもいい情報だわ」
霊夢に言われると腹が立つ。
それはそれとして、咲夜の卵焼きはおいしいのか、どうでもいいや。
「それはおいといて郵送してっと。慧音、出来た?」
「あ、はい。一応出来ましたよ」
そういって手渡されたのは藁半紙の裏を利用して書かれた紙の束。表紙には達筆で読めない時だが推測するに『かぐや姫』と書いてある(と思う……なにせ読みにくいのだ)。
裏には算数の問題が活版印刷されていた。慧音のリサイクル精神を垣間見た。
「……私の知ってる台本とちょっと違うけど、ま、いっか」
「ん? 一応史実にそったような書き方をしてみたけど……なにかダメなところある?」
年上のお姉さんに上目遣いをされたら、どんな問題も解決してしまうね! 
ああ、台本の文字読めねぇ。
記されていたのは書道家の展覧会に何枚も飾ってあるような読めないけどうまい(と想像に難くない)文字。
……読めないなら文字ではなく絵ではないのか。でも象形文字甲骨文字というのが外国にあるから大丈夫、モーマンタイだと自己解決しておくぜ。
「問題ないわ。どうせなんとかなるわ」
「霊夢……お前は『なんとかなる』じゃなくて、見知らぬところで他人が『なんとかしてくれている』という自覚があるか?」
主に私が、だけど。
「え、そうなの。ふーん。そんなことより台本、ありがとね慧音」
そんなことって……。
こいつに天罰が下してください、神様。雷を雨霰のように神社中心に降らせてください。
「いえいえ。どういたしまして。それじゃあ演劇祭頑張ってね。期待してるわ」
掌をあわせて喜ぶ慧音先生を見ていたらほわほわとした気分になった。
きっと天然で世渡りがうまい先生なんだなぁ……。
いや実に羨ましいと思う。このおっとりさが欲しい。
――――――。
……ん。演劇祭?
「どうしたの魔理沙。早く行くわよ」
「え、あ、ああ。分かった」
演劇祭。
不吉な単語を聞いてしまった。願わくば聞き間違いで、『炎撃砕』というスペルカード名であってほしい。
否、そうじゃないとやってられないんだぜ。

  †face 白蓮†

まずはじめに疑問に思った。
……なんで呼び出されたんだろう。
レミリアさん率いる紅魔館組。
幽々子さんと妖夢さん。
鈴仙さんと永琳さん。
それに早苗と神奈子と諏訪子。
それと私。
なにか会議でもするのかと思ったらそうではないらしい。
今現在花見みたいな事になってるし。
なんか不安という漠然もやもや。別に話す人がいないから不満なわけではない。
「あの、なぜ私は呼ばれたのでしょうか?」
勇気を振り絞って訪ねてみた。
「そんなの決まってるじゃない数合わせよ」
「はい? なんの?」
「演劇祭っていったじゃない」
「それで……」
声を発したのは霊夢の目の前の少女であった。
エプロンドレスを常時身にまとっている少女。私服のセンスが無いんですかと聞きたいけど聞いたら弓道の俵状態になるのでやめておきます。
「勿論かぐや姫の役はレミリアお嬢様よね」
さも当然と言わんばかりに主の名をあげる十六夜咲夜。さらりとエプロンドレスを揺らし、一歩前にでる。碧眼は曇り無く霊夢監督を見つめる。
ん……かぐや姫、やく?
「え、なんですか。かぐや姫役って?」
「貴女は何も聞いてないのね……」
「むっ! なんですか説明しなさいしてください!」
なんですか、そのアホの子を見るような眼差しは!
「演劇祭に参加するらしいよ~」
「なんで諏訪子が知ってて私が知らないのよ!」
「ああ、ちなみに私も知ってた」
「神奈子まで!?」
「まぁまぁどうどう、人参でも食べて落ち着きなよ」
「私は馬じゃない!」
「馬鹿三人組はおいておいて……やはり姫役はレミリアお嬢様よね」
馬鹿三人組と言われて黙るしか無い私たち。情けないことこの上ない。
「今の発言は納得できませんね。やはり生まれも育ちも死さえも日本生まれの幽々子お嬢様こそが相応しいです」
咲夜の発言に異を唱えるのは魂魄妖夢。
切れそうな、それでいて何を考えているか分からない眼差しはある種蛇を連想させる。
ちょうど色も緑だしね。緑じゃない蛇もいるが、それは考えない方針でしましょう。
「でも、こういうのは溢れ出るオーラが重要ではなくって?」
「それは幽々子お嬢様がレミリア様より劣っていると受け取りますよ……?」
妖夢が鯉口を切り欠けている。やめないか。
「全てにおいて劣ってるわ」
するりと袖からダガーナイフを取り出す咲夜。気が気でないので戻して欲しい。けどそれをいったら確実にダーツの的にされる。
「一応、幽々子お嬢様も歴史を生き抜いてきた身。今はちょっと死んでるけど、琴(きん)の琴の腕も一流ですし、百人一首も諳(そら)んじれます!」
そんな平安時代の『これがモテる三種の神器』を出されても……。時空(とき)は現代なのでなんのメリットにもならない。あ、ちなみにあとひとつは黒くて長い髪をもっていることらしい。
「レミリアお嬢様だって、最近『きらきらほし』をピアノで演奏出来るようになりましたし、お湯も一人でわかせるようになりました!」
うん、幼稚園なら賞賛ものだ。
「幽々子お嬢様だって最近はご飯を5杯に押さえてるんですよ! それに一日7食から5食に減らしてるし―――」
全く関係ない。
しかし私の目が間違っていなければ妖夢の背後にニコニコと微笑みながら、それでいて額に怒りマークをくっつけると言う離れ業をやってのける白玉楼の主が見えるのだが。
幽霊が見えるって私は霊感が高いのかしら?
「あらあら、妖夢……主の汚点ばらしとは……いつの間にそんな悪い子になっちゃたのかしら
「幽々子様ぁ!? ……いつから? ……というか汚点って気づいてるならやめて下さ―――いたいたいたい!!」
ほっぺたを引っ張られている。いたそー(他人事)。
「さっきから聞いてたわ。貴女……完全に幽霊にするわよ」
「も、申し訳ありません~!」
土下座をする妖夢。固い地面に額を擦りつけている。
「アハハハッやっぱり、うちのお嬢様の方が……」
勝ち誇る咲夜。
そして私の目が間違っていなければ咲夜の背後にも……。
「咲夜」
「そ、そのお声は……」
「還るか……? 澱みに……」
「め、めめっ滅相もございません。ただお嬢様の日々の努力を皆様に知っていただこうと……」
「努力は人に見せちゃだめって美鈴が言ってたわ」
当に正論。というか紅魔館の連中は絶対に教育係を間違っている。人格的に美鈴がパチュリーに任せればいいのに……。
「グッ……!!」
「今時『グッ』っていう人がいるんですね」
漫画の人みたいだ。
「と、とにかく! お嬢様、これはチャンスですよ!」
「私は嫌。恥ずかしいもん」
「ええええ!?」
「よしきたっ! では……幽々子様です!!」
満開笑顔がはじけてる。
「私も嫌よ」
「―――え」
「嫌なものは嫌よ。そんな演劇祭だなんで……いつも仮面かぶってる生きてるのにさらに仮面なんて……暑苦しいわよ」
「「お、お嬢様ぁ……」」
「はいはい喧嘩しないの! 実は役者は私の方で考えてあるから」
「…………あえて聞くけど『かぐや姫』役は?」
「わ・た・し」
「却下―――!!」
この脳内お花畑巫女は何を考えてる生きているんだ!  
寧ろ今まで良く生きてこられたな……。
寧ろこの性格だからこそ今ままでふてぶてしく、図々しく生きてきたに違いない。
「っていうのは冗談だけど。まさかそんなに反対されるとは心外ね」
「―――――」
「……何よ。その開いた口が塞がらない顔は。だらしないからやめなさい」
みんなでいっせーので。
「お前が言うな」
うぇーいおっけぃっ!
これだけ一緒に願えばきっとお星様も願いを叶えてくれるはず。
「まぁこれで人数揃ったわね」
「ちょ、ちょっとまってよ!!」
「それは聞いてない! だいたい、収入の八割を私たちの神社に寄付してくれるんじゃ……」
「ええ、収入の八割を寄付するわ。でもね無償なの、木戸御免なの……貴方最終学歴高校卒だから分かるでしょ? 零をいくつで分配しても零」
「いちいち尺に触る物言いですね……。でしたら賞金の方で分配してください」
「お黙り! さっきからお金お金……それでも神に仕える巫女ですか! ああ嘆かわしい、神奈子諏訪子も泣いているわよ!」
「別に泣いてないけど」
うん! 神奈子&諏訪子、ナイスツッコミ!
「少しは私のように質素倹約簡素清貧のようになりなさい!」
その四字熟語は金の亡者の反対の意味だった気がする。意味などわからなくても……霊夢にはもっとも似つかわしくない単語の羅列だ。
貧しいのは胸囲だけじゃないですか! と反論したくなるほどに、実に滑稽極まりない。
「だから収入はなし。賞金は私のところに寄付という形で懐に入れさせてもらうわ。勿論、人里の子どもたちの夢の為に使わせていただくわ」
「絶対に私利私欲のためだz――――――ッ!!」
何かが地面に倒れる音がしたので見てみれば、横で魔理沙が倒れていた。
倒れる直前……魔理沙さんなにかいいかけてませんでしたか?
「――とにかく、賞金ゲットするぞー!!」
「お~」
やる気ダウン~。
「声が小さい!!」
「おおー」
みんな……やる気無いなぁ。

  †face 早苗†

「と、いうわけで。練習過程をすっ飛ばして本番当日よ!」
「あの……霊夢さん、誰に向かって話してるんですか?」
人影すら無い空中に向かってしゃべりかける霊夢さん。
傍から見たら単純に危ない人にカテゴライズされそうな行動だ。
「モニターの向こうの老若男女、むしろ聖人君主の方々よ」
「はぁ……」
霊夢さんは時々ワケの分からないことを言います。
……まぁ白いお薬でもヤってるんでしょうと自己完結。
「じゃあいよいよ本番だけど用意はいいかしら!?」
思い思いの返事をするが……ここまできたらやるしか無いと言う、半ば自暴自棄的な気持ちは同じである。
「呼ばれて参上! 焼き鳥屋だよ、全員集合!」
眩い白髪を灼熱の熱気に靡かせて参上したのは藤原妹紅。
「な、なんか演劇祭をやるみたいね。呼ばれたから来てやったわ!」
誰も呼んでないと、全員がそう思った。

  †face 霊夢†

「で、何しに来たのよ。よもや邪魔にしきたわけじゃないでしょう?」
邪魔するなら容赦なく殺す。不老不死だろうと棺に入れてみせるわ。
「そういうことじゃない! あ、あのさ霊夢……」
バツが悪そうに妹紅が話しかけてきた。手をもじもじさせるな頬を染めるな気色悪い。
「明日、演劇祭やるんだよな?」
「ええ。そうよ。おひねりは明日くれると嬉しいわ」
「そんなんじゃないわよ! あのな……その……なんだ、アレだ」
「なによ、はっきり言いなさい」
「私を、チョイ役でもいいから、出してくれないかぁ!?」
「急に大きな声を出すな、ショック死するでしょ! それに何故前日になってから言う!?」
「その、慧音が見に来るって……言ってたから……」
うわぁ~……ピュアだ純粋だ。
私の辞書にはない言葉だわ。尊敬しちゃう。
―――でも迷惑なのよね。
「そんなことより妹紅」
「え、いいのか!? ありがとう!」
「そんなこといってない」
なんとかして追っ払わないと……。
「ピカーン!」
「え、出してくれるの!?」
「―――そういえば輝夜がね『妹紅が許されるのは永夜抄までだよねー』って言ってたわよ」
「……ンの馬鹿姫が!! 今すぐ殺してやる!」
すぐに不死鳥になり天空へと舞い上がった。
「ばいば~い。クスッ……さて邪魔なヤツが消えたわね」

  †face 早苗†

『弐ベルはいりまー』
す、ぐらい言えばいいのに。
「悪態をついたものの……やはり大勢の前にたって自分をトランスさせるのは緊張しますね」
「まあ、ここまできたらやるしか無いぜ」
隣にいる魔理沙さんは欠伸をしています。私も欠伸をできるほど余裕を持ちたいものです。
『では、本ベルはいりま~す』
電力不必要な不思議インカムから霊夢さんの声がします。
その直後。
ベル音が響きわたります。
「―――――」
司会者さんが台本のタイトルをコールし―――緞帳がゆっくり開きます。
こうして私たちの初めての舞台は幕を開けたのです。

  †face 妖夢†

「嗚呼―――麗しき姫よ。何故月の京都へ帰られてしまうのか……」
「我と汝は身分が違います。故に元より結ばれぬ運命……逢坂を越ゆることはないのです……」
「ですが……この身を尽くし、貴方へ澪標を致しましょう……」
うん、順調みたいです。
気がつけば、後半に差し掛かってますね。
私の出番は次ですね。
「妖夢……」
「あ、咲夜さん」
「貴女にいい忘れたことがあるの……」
……なにか嫌な予感しかしません。
「やはり、姫にふさわしいのはレミリアお嬢様よ」
さも当然と言わんばかりに堂々たる戯言。
……引きずってましたか。
「じゃあ、私は出番ですので」

 †face 早苗†

月の使者と帝の護衛が現れる。
舞台化粧が映え、咲夜さん、妖夢さん共に美しく、
「言わずもかな、決着をつけましょう」
「ええ、もちろんですわ」
「無個性貧相幼女」
「胸詐欺ペド従者」
…………およ?
今、お互い毒を吐いたような気がする。
しかもキャラ的に引き返せないほどの暴言だったような。私の耳が腐ったかな?
「穢れた土の民の剣士。恐るるに足らん!」
おーい咲夜。台詞違うし、手にナイフ持ってるわよ~。
時代設定的にナイフはまだ日本にはないのだ(慧音先生受け売り)。
「望むところです。月に胡座をかく従者よ―――!!」
妖夢……それ作りもんやない! モノホンの白楼剣や!! 
交錯する着物の少女たち。
まずは咲夜が先制。右手のスナップをきかし、三本の凶器を放つ。
しかし、妖夢の顔面すれすれですべて白銀の狂気は弾き落とされる。
全てが完成された動きで、一気に刀を構える痩躯は咲夜へと肉薄する―――!
……って冷静に解説している場合じゃない!
どうにかしないと……!

  †face 霊夢†

……あいつら後で生皮剥いてやる。
咲夜は生身と半霊に分けて、妖夢にはお経を聴かせて成仏させてやろう。
「霊夢さん……あのこれ……本物?」
すぐ右隣に座っている批評家が危険じゃないかと指摘してきた。
……やばい。非常に不利な展開だ。
いまここで中止にされたら賞金がもらえない。
そしたらしばらく塩と水の晩御飯になる……。
「…………ぐっ」
考えろっ……勝つことは偶然なんかじゃないっ……!!
―――――――――頭で豆電球が点灯した(様な気がした)。
「……違いますよ。本物ソックリで、しかも切れ味は抜群な偽物ですよ」
「なんだ偽物か~びっくりしました」
「ええ、迫力重視でやってますから」
なんとか誤魔化せた。
ええ、騙せて騙す。人間やってやれないことはないんだと実感した瞬間だった。

  †face 早苗†

霊夢の目が死んだ金魚みたいになってる……。
アレ、完璧に人を騙す時に自分の考えを読み取らせないようにする目だよ。
あんな霊夢見たこと――あれ、いつものことだっけ? 
よく覚えてないか思い出したくないか……どっちなんだろう? 「早苗、危ない!」
突如横にいる、貴族その三役の魔理沙が声を張り上げる。視線は私の頭上。
「ほえ?」
見れば――否見るまでもない、熱気を肌で感じることができる。
大気がぱちぱちと焦げる。
「―――ぴゃあああ!?」
突如流星。否、隕石と謂うべきか。
そもかく何か炎の塊が舞台に落ちてきた。
「きゃぁあ! ちょっとまって待ちなさいっていってるでしょ待ちやがれ!!」
その場で腰を抜かしたのが幸運だった。
まるで博麗霊夢のような幸運だった。
一生分の運を使いきってしまったのでは……といらぬ心配までするほど幸運が舞い込んできた。
「大丈夫か、早苗!」
「え、ええ。なんとか大丈夫です……」
それにしても何が私を圧死せしめんとしたのか。
振り返るのは嫌だが、その正体不明の物体を確認せずに入られない。
これも幸い舞台は凹むだけだったが、火だるまな『ソレ』はしばらく上手(かみて)をのたうちまわりながら、やっとこさ鎮火。
そうするとそれは人だと言うことが分かった。そして焦げていた。
いやどこがっていうか全部が。まっ黒クロスケみたいだ。
「輝夜ァッ……!」
間違えた。自慢の白銀の髪は墨で漆黒に染まっており、さながら野獣の様だった。
とてもバスの停留所に居る猫とは似ても似つかない生物だ。
「―――不老不死舐めんな!」
叫ぶと同時に焦げた箇所からアイロンの水蒸気みたいなものが吹き出て、どんどんスキンケアされていく。
あっという間に透き通るほど綺麗な肌になってしまった。日焼け止めクリームとかぬらなくていいんだろうな、うらやましい。
「出て来い……輝夜……!!」
「私の名を呼ぶ虫はどこかしら?」
その名をに呼応し、吸い込まれるかのように……彼女は緩慢に舞台上に舞い降りた。
黒く墨汁と血が混じったような艶やかな髪と、雪のように白く透き通った、ある種芸術のような姿。それは正しく―――この劇の主役そのもの。
「あちゃぁ~。モノホン来ちゃったぜ」
あまりにも軽い反応。
しかし私もそうとしか呟けないし、思考も停止している。
そう―――まぎれもなく輝夜(かぐや)姫その人だった。
「今日こそは殺す―――!」
発火能力―――英語でいうと……パイロキネシスだっけ? ともかく両手に炎球を創り出す。
背中には灼熱の翼をはためかせ、孔雀のように威嚇をしている。見ようによっては蝶にも見え、ゆっくりと動く度に火の粉は舞台上に降り注ぎ……。
「しっかし燃えてるなぁ」
誰に言うでもなくつぶやく魔理沙。
「ええ、燃えてますねぇ」
大道具も舞台も木造だし、そこに火薬の申し子こと藤原妹紅来たら燃えるよね……。
紅の羽ばたきが大気を揺らす度にちりちりと舞台がすこしずつ焦がされていく。
「所詮は貴女は愚劣極まりない人間風情。我々に月の民と劣等種族の違いを知りなさい」その言葉が紡がれた瞬間―――。
「ぎにゃああああああ!!」
再び、妹紅がコンロの隅の炭みたいになってしまった。代償としてかつて妹紅だったものの側が炎で赤く彩られた。
ん―――足元が熱い。
それにパチパチと焦げる感じがする。
「うわっ衣装焦げる!?」
「魔理沙さん! 踏んで消して!」
「り、了解!!」
だんだんだんだん!
地団駄を踏んで消火活動……うわぁ滑稽。
「あっははは弱すぎるわ。それに昨今は猫でさえ『ぎにゃあ』とは言わず『うわああ』って負けるわよ」
余裕綽々な笑みを見せつける。喉も焦がされそうな熱さの中だというのに背筋が凍るほど美しい微笑だった。
しかし――そんな私とは裏腹に燃え上がる少女がいた。
「先程の発言許せません……!」
隣で真に怒りに満ちた声色を響かせるのは……。
「ちょ、唯一の良心だと思ってた白蘭さん!?」
「種族の間に優劣は在りません!」
「へぇ―――聖の名を持つ僧侶……。私を知っての発言かしら?」
「貴方が誰だろうと関係在りません。ただ差別発言、許せません!」
自分の信念を貫こうとする白蓮。
「よーしよく言った小娘!! 力を貸してくれ!!」
調子に乗る妹紅。
つかあんたさっきまで『ぎにゃあ』ってほざいて石炭になったんじゃあ……。
打倒輝夜という目的で同盟締結しようとか考えてるに違いない。
「ひゃ!! 貴方……さっきまで黒焦げの燃え滓みたいに……そう、台所の黒い残骸になっていたんじゃ……!?」
白蓮さんはかわいく悲鳴を上げ、的確なツッコミする。
「私は不死身だ! それよりも小娘、私と協力してあいつを殺そう!」
「殺しはしませんが力を貸しましょう! 必ず更生させてみせます!」
どうやら無事(?)結べたようだ。結び目は無骨な蝶蝶結びといったところか。形は悪いし、どちらか一本を引けばあっという間に散り散りになってしまいそうなちぐはぐな感じだけど。
「いきますよ……! 魔法『魔界蝶の妖香』―――!!」
「父上の敵っ! 藤原『滅罪寺院傷』!!」
荒れ狂う数種類の光弾稲妻レーザーキャノン。
舞台が木製だとかカーテンが布だとか関係なしに破壊破砕抉られていく。
ありとあらゆるものが炎に征服されていく。
もはや……賞金とか言ってる場合じゃあないだろう。
嗚呼―――見たくないから目を塞ぐ。
そうすると耳は塞げないから音は聞こえてしまう。
観客席から無数の悲鳴が、『係員の誘導に従って―――』もう中止でいいんじゃないかな!?

『困ったことがあったら私に頼りなさい』
天からのお告げならぬ、責任転嫁の呪文を思い出した!
―――そうか。
きっと舞台監督なら何とかしてくれる……というよりも舞台の中止をしてくれるはず。
目隠しを外し見たくもない客席をみると、もうお客さんは殆ど脱出していて、批評家を無理やり縛り付ける霊夢と、猿轡をされている批評家ぐらいしか見えなかった。
当然と言えば当然だ。
お客さんに怪我がないといいな……。
「~~~~~!」
なにやらジェスチャーで私に何かを伝えたいらしい。
そんなタコ踊りで意思疎通できたら結婚もんだと殴ってやりたい。
しかし横にいる魔理沙は小声で、
「えっとなになに……『続けろ』だって」
お前ら結婚しちまえ。
「……『無理』って伝えて」
ダメもとだったが、なんか魔理沙がマヤ民族みたいな踊りをしていた。マヤ民族の踊りをみたことがないので想像です。
「伝えた」
「そうありがとう」
「そして早苗、逃げる準備をしておこうぜ。私たちはウィッグに『どうらん』塗ってるから顔バレしにくいだろうし……」
さすがはコソ泥。思考が私とはかけ離れている。
てっきり、霊夢の言いなりだと思っていた自分を恥じた。私よりも二手三手先を読んでいるとは、恐れ入った。
「で、でもどうやって……」
「それはな、上見てみろ。あの天井が」
見れば、もう限界と言わんばかりに大黒柱が折れかかっていた。
おそらくもって数分。そうすれば
「あ、分かりました――――――っ!?」
再び背後で爆音が響く。
もう耳は慣れたがそれでも唐突に音がすると体は否応なしに反応してしまう。
しかし、慣れると花火大会に行ってるみたいな感覚が訪れます。
……あんなに晴れやか夏模様な気分ではないけどね。
見やれば輝夜が緞帳に絡まって昼休みの小学生みたいになってる……。
天が平伏す姫君でも、人間やめた二人相手では若干不利らしい。
これは面白い新事実―――わけがない。
「チッ―――愚民共がァ……!」
「無様だなぁ輝夜……」
ここぞとばかりに見下す妹紅。完全に悪の顔だ。
もっというなら小悪党が物語序盤の主人公に向ける顔だ。
「この通り、格差はないのです。分かっていただけましたか?」
こっちは一心な眼光を向けている。同じく見下ろしているが、そこには驕りが無い。腕を胸の下で組み、その格好が豊満の―――これ以上の描写は私が傷つくから打ち切り。
と、とにかくっ! 妹紅と違い誇っていないってことをいいたい。
四つの視線を一人で受け止めていた輝夜は口を開き、
「えーりん、たすけてー!」
苦悶の表情から吐き出されるのは要請の声。
そんなのでくるわけ「ひめー! 無事ですかー!?」本気か。
否、真実。
竹林薬剤師が文字通り宙を駆けて、宛ら白馬の王子様。
「援軍とは卑怯なっ……」
「なんとでもいいなさい! 勝てば官軍。勝ちゃァいいのよ勝ちゃあ!! 姫より優れた妹紅なんて存在しないわ!」
いろいろな意味で盛り上がる舞台を尻目に私達はどんどん下がって冷静になっていく。
「早苗……そろそろ」
「ええ、わかってます」
「私が合図をしたら弾幕頼むぜ。その隙に罪なき魑魅魍魎を誘導しながら脱出だ」
「了解しました」
そっと懐からお守りがわりに持っていた符を一枚取り出す。
まさか本番中に実用するときがくるとは……。
「早苗……!」
火柱が落下する刹那、
「秘術『グレイソーマタージ』」
あたり一面に光が撒き散らされる。
くしゃくしゃな閃光が周囲へ放たれる。
それと同時に、天井が崩れ……、
そう、私たちは解き放たれた。
自由という名の明日へっ……!!
「全速力で逃げよう……! みんなこっちです!」
「燃える燃える!!」
「あたい溶ける!!」
チルノいたのね。蒸発してしまえ氷の妖精。
「あら敵に背を向けるのかしら? 剣士さん」
「いいえ、心頭滅却すれば火もまた涼し……この程度で逃げ出すわけにはいきません!」
「輝夜―――殺す!!」
「やってみなさい、たがだか不老不死になったぐらいで、私に牙をむかないでよね」
一生やってなさい、この大馬鹿共!
「あぁ~~~!!」
私の何を表しているのか分からない情けない叫びだけが木霊した。パチパチと拍手にもにた炎と、祭ばやしの崩壊音がエンディングテーマ曲だ。
ふと客席をみると霊夢バ監督はもう撤退しているようだ。恨みなど無く、無神で純粋に殴ってやりたかった。
嗚呼―――全てが嘘だったらいいのに……。
背後は当に阿鼻叫喚鬼哭啾啾……断じて言い過ぎじゃない。
心から願えば願うほど欝になる。そんな鬱屈した感情とは反比例して走り逃げる速度は上がる。
さぁ光になろう……。

  †後日談†

黄金の昼下がり。
演劇祭から一週間後のことだ。
「霊夢……これ」
「ん、なにこれ?」
「請求書、被害総額四百万だって」
※現在の貨幣価値に換算して四千万以上である。
「――――――――!!」
少しでも目に通してくれたあなたに感謝です。
嘘つきゃんでぃ
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コメント



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長文お疲れ様です。
気になった点をいくつか…

登場人物の視点が変わっても、中身は全て同一人物のように感じてしまいました。誰がどのセリフか混乱する事もしばしば。
白蓮さんはこういう反応しないだろ~、などと気になってしまい、肝心の物語に集中できませんでした。
後日談は蛇足だった気もします。

でも文章から「東方好き好きパワ~」を感じました。
次回作も期待しています。