Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙の話。

2010/06/25 06:45:53
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ある夏の日。
「弟子を取ろうと思うんだ」
開口一番魔理沙が言った。

此処は博麗神社の縁側。少女が二人座っている。
いや、少女という言葉は適当でない。どちらも二十歳を過ぎている。立派な大人の女性と言うべきだろう。
突拍子もないことを言い出した魔理沙に女性――博麗霊夢は怪訝そうな目を向ける。
「如何いうことかしら?」
「そのままさ。私は弟子を取る。弟子に私の研究の受け継ぎを頼むのさ。私の意思を残す、その為にな」
霊夢は思う。いつも突然妙な事を言い、矢鱈目ったら手を出す彼女のことだ。今度も思いついたからやってみよう、ということなのだろう。なら、話にも少し付き合ってやるか。
「へぇ。なんでまた急に?今までそんな事思ってもなかったじゃない」
少し恥ずかしそうに魔理沙は言う。
「いやな?この間のあれを見たら羨ましくなってね。私も、ってことさ」
魔理沙の言うこの間の、とは博麗の巫女の跡継ぎが決定したことを指す。
博麗の巫女は、赤子が生れたらその子を品定めしに行く(能力があるか否か、等)。才はあるが充分でなければ候補となり、充分才があるならその場で次期博麗の巫女として認める儀式を行う。その儀自体は慎ましく、魔理沙が羨むようなものではないだろう。であるなら、
「自分の意思を残す。自分の事を覚えていてもらえる。詳しくは無理でも、“居た”事を忘れないでもらえる。……なんだか無性にそれが羨ましくなって」
思いのほか真剣な言葉に、表情に霊夢は驚く。が、それでもその内探すのをやめるか、見つけても教えるのに飽きて放り出すんだろうな、と思った。
「あらそう。ちゃんと弟子が見つかればいいわね。ま、長続きするとは思えないけど」

「なんだよその言い草ぁ。私がまた放り出すと思ってんだな!」
ムッとして魔理沙が言う。しかしそう思われるのも無理からぬこと。かつて『カワイイ!』と言って飼いだした槌の子を、七日も持たずに放りだした事もあった。
「へんッ!見てろよ霊夢。ちゃ~んと弟子を取って、立派に育てて、何年後かに目に物見せてやる!そんときに吠え面かくんじゃないぜ!」
怒鳴り散らして魔理沙は飛び去った。あちゃあ、と霊夢。
「思ったより真剣だったのかしら?もうちょっとこっちも真剣に聞いてあげればよかったわ」
それでも次に会った時には忘れているのじゃないかしら。そう思いながらお茶を啜った。


「なんだよ霊夢のヤツ」
魔理沙はブツブツと呟きながら飛んでいた。
確かに思いつきの部分はあった。しかしそれ以上に真剣だったのだ。
幻想郷において博麗の巫女は必要なものだ。それは素晴らしいことだ。
誰も口に出さないが、人は巫女に対して尊敬の念を持っている。妖は畏敬の念を持っている。それは巫女が類まれなる力を持っており、巫女という仕事に生涯を捧げる事を知っているからだ。幻想郷を保つために尽力していることを理解しているからだ。
それに加えて霊夢は人を惹きつける。誰からも好かれている。先代の巫女はその名を忘れられてしまった。霊夢はそんなこともないだろう。
「……眩しいんだよ。お前は」
呟く。
霊夢は、それほどの好意を、尊敬を受けても、揺るがない。自身というものを理解し、信じているのだろう。それは絶対の自信だ。彼女の様にはなれない。
それでも、彼女の様になりたかった。彼女は魔理沙の目標なのだ。けれど。
「わかってる。アイツみたいにはなれない。私には、」
それ以上言葉を紡げない。
彼女の無二の親友であり、人でありながら妖怪と退治できる稀有な魔女。その内面は嫉妬や羨望、そしてジレンマで満ちていた。

そして、ようやく認める。
「私は、……アイツの真似をしたいだけなんだろうな」






それかの数日、魔理沙は方々に出向いていた。
例えそれが出来心のサル真似だったとしても、有言実行が彼女のポリシーだった。

まず、彼女は弟子の育て方を調べ出した。何のかんの言ってもまだ彼女は若い。人に物を教えたこともない。もし、弟子が出来てもあたふたしては格好が付かないじゃないか、と思ったのだ。
始めに永琳のもとに向かったが、元々優秀な月の民の中でなお天才と称される彼女だ。
その言葉は理解しがたく、所詮は凡人である魔理沙には何も得るところはなかった。
それどころか、
「わからないかしら?」「そうねぇ・・・簡単に言うと」
と言われるたび、自身の劣等感をチクチク突かれているようでいたたまれなかった。
次は誰の元へ、と考えたとき、
“そもそも幻想郷に物を教えるような奴がどれ程いるものか”
と思い、渋々人里へ向かった。慧音を尋ねる為である。

人里にはなるだけ足を踏み入れたくない。それは少女時代から変わることのない思いだ。
元々霊夢や霖之助等の世俗から浮いている様な奴の方が付き合いやすい、というのもあるが、一番の理由は“実家があるから”である。勘当された身として気が引ける。そしてそれ以上に、勘当された理由である。それはそのまま彼女の劣等感に繋がる。
ため息一つつき、
「……取り敢えず慧音に話を聞いて、弟子探しもするかぁ」
ぼんやり空を眺めて、寺子屋へ向かった。

慧音の話は非常に為になった。師たるものがどの様な態度でいれば良いか、どの様に振る舞えば良いか、叱り方は、教え方は・・・。
流石にいつも子供相手に授業を行っているだけあって、その口調も相手に教えることを念頭に置いているものであり、魔理沙はそれらを貪欲に吸収していた。彼女は凡人だが、それ以上に秀才なのだ。
「なるほど。中々為になったぜ。やっぱり教師は違うな」
「それほどでもないよ。私ほどの時間教師をやっていれば、貴方でもこのぐらいはできるさ」
昔と変わらぬ姿で慧音は言う。いや、少しは変化しているのだが、それは人間が一つ年を取った程度。その微細な変化に気づけるものは少ないだろう。

それにしても、と慧音。
「弟子を、ねぇ。あのヤンチャッ子だった貴方が」
「なんだよ。似合わないってか?」
ムッとして魔理沙が言う。今はそう言われるのが一番腹立たしいのだ。
「そうじゃないさ。・・・うん。もう、そんなに時間がたったのだなとね」
かつては慧音が魔理沙を見下ろしていた。彼女が大人で魔理沙が子供。そう見えた。
しかし、今はその図式が逆転している。魔理沙は大人になったのだな、と思ったのだ。
「貴方ならキチンと大事な事を教えられる師になれるさ。私が保証する」
優しい笑顔で慧音が言う。魔理沙はキョトンとした後、恥ずかしくなり、帽子で赤くなった顔を隠した。


大変なのはその後だった。
弟子を取ると言っても、彼女は人間で、勘当娘なのだ。子供は彼女を好いているが、大人はそうでなかった。
彼女がどれだけ熱心でも、それは関係の無いこと。一瞥もくれずに戸を閉める者すらいた。
十日も過ぎたころには魔理沙も諦め気味だった。
“私が、弟子を取るなんて・・・・無理だったのかな・・・”
彼女は悪くないのに、彼女に非があるわけでもないのに、彼女は徐々に追い詰められていた。



更に一月経った頃。
里中を廻って、ついに一つの了解も得られなかった。恐らく首を縦に振ってくれる者も居ないだろうことを、彼女は理解してしまった。
皆、魔理沙に不信感を持ってはいるだろう。しかしそれ以上に、もし彼女に肩入れして、里の有力者である魔理沙の父から、どの様な対応をされるかが恐ろしいのだろう。
魔理沙は諦めきれず、だが如何することも出来ない宙ぶらりんのままで過ごしていた。神社にも、霊夢に宣言して以来行っていない。

夕暮れ時、魔理沙は太陽の畑に向かっていた。
いつもの森での採集もそろそろ飽きていたので、様々な場所に採集に行くのが最近の彼女の日課だった。
不気味なほどに向日葵の咲き乱れる所。此処に向日葵以外のものがあるのか?とは思ったが、現場百回だ、と思って来たのだ。
フラフラと見回っていると、難しい顔の幽香を見つけた。
「よぉ幽香。何顔をしかめているんだ?」
ようやく気付いた幽香がゆっくりとこちらを向く。
「こんにちは、魔理沙。・・・・これを御覧」
視線を彼女の足元へ向ける。

其処には布で包まれた何かがあった。
それは時折モゾモゾと動き、止まってはまた動く。
「なんだ?これ」
「人の子よ」
魔理沙の問いに幽香は即答する。
「……へ?」
「捨て子の様ね。・・・今の幻想郷で子を捨てなくてはならない程追い詰められた者等、在り様が無い。多分“外“の子よ」
魔理沙は愕然としている。それは子供が捨てられていた事のショックもあるが、それ以上のモノが渦巻いていた。
「愚かなことね。子は愛でるべきもの。守るべきもの。その筈なのにね。きっとこの子は」

「望まれず生れてきた子なのね」

その言葉を聞いた瞬間。
魔理沙は追憶の波に飲まれた。


彼女は知っていた。自分が望まれて生れた存在でないことに。
昔から家を継ぐのは男であった。それは此処幻想郷でも例外ではなかった。
魔理沙が生まれたのは、里でも力を持つ家、「霧雨店」である。この店を永劫に存在させるのが家長の悲願である。そして生まれる子は男でなくてはならない。
魔理沙の父は、魔理沙が生れた時。落胆にまみれた。

魔理沙は父に頭をなでられたことが無い。優しい言葉を掛けられたことも、微笑んでもらった事もなかった。
顔を合わせるたび、「早く良い婿を見つけろ」としか言われなかった。我の強い彼女は反発した。その内互いに避け合うようになっていた。
そして最後の日。彼女と父は大喧嘩をして、彼女は勘当された。しかし彼女は知っていた。

その日に母のお腹に子供が居ることを。その子が男の子だということを。全ては父の姦計だったことを。



「この子は如何してあげるのがいいのかしら?外に帰してあげる?」
幽香が訊ねる。魔理沙は思考の海より、ゆっくりと浮かび上がり、口を開いた。
「なぁ・・・幽香。この子、私が引き取ってもいいのかな?」
目じりに涙を浮かべて言った。


「この子が弟子だよ」
開口一番魔理沙が言った。

霊夢は愕然としていた。久しぶりに訪ねてきた友人が、赤子を連れて来たのだ。驚かない方が変だろう。
「え?ちょっと・・・へ?なな何!?どいういこと?」
霊夢が言う。慌てている彼女を見てクスリ、と笑いながら魔理沙が言う。
「この子は私なんだ。・・・私なんだよ、霊夢。私はこの子に私の全てを伝える。この子は弟子で、私自身で、私の子供になるんだ」
霊夢は少しばかり落ち着きを取り戻し言った。
「……成程。まぁ、なんとなくわかったわ。・・・おめでとう、魔理沙」
にっこりと笑う。魔理沙も笑顔で返す。

そして言う。
「なぁ霊夢。お前が“博麗”を継がせるように、私も名を継がせるよ。それは“沙”の字さ。
私やこの子は、所詮細かい砂の、その一粒かもしれない。けれど、それでもかけがえのない一粒なのさ。この子は大事な私の子だ。誰にも否定させない」




霊夢をまっすぐに見て宣言する。
「私は私だ。もう絶対に揺るがない」
彼女は今までで一番の明るさで笑った。
こんにちは、二作目です。
前のがちょっと短めだったので、今度は少し長めにしてみました。
少しでも楽しんでいただければ、と思います
アドバイスや、此処を直したら良くなるよ、感想等を書いて頂ければ幸いです。
涅槃太郎
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コメント



0.720簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
ごめん、どうしても魔理沙の父親の描写だけは受け付けられなかった

でも話自体は面白かったです
14.50名前が無い程度の能力削除
赤子って・・・魔理沙、それは弟子やない、養子と言うんや。
16.無評価削除
魅魔様を出して欲しかった・・・・。
でも、話しは面白かった
17.無評価涅槃太郎削除
頂いた感想を見るに、説明不足か表現力不足の様ですね。
皆さまの感想を次回に活かせるように頑張ります。
20.90名前が無い程度の能力削除
うん、魅魔様は欲しかったですね。
でも、逆に魔理沙がなぜ家出したかって点では、納得ができるかも。
魔理沙の一所懸命さに好感が持てましたw