生暖かい風がそっと魔法の森を揺らす。
ゆっくりと降りていった太陽に代わって出てきた、黄金色の月。
濃い紫色のキャンバスに、青やオレンジの星々が色をつける。
幻想郷は夜に包まれていた。
夏の暑い日差しは消え、代わりに月が空に昇っている。
人里のほうから、かえるの鳴き声が小さく聞こえてくる。
この魔法の森の奥まで響いてくるとは驚きだった。
霧雨邸は、森の中にひっそりと建っている。
秘密基地を思わせるような、そんなに大きくも無い家。
石の壁には少しばかり蔦が伸びている。
その家の窓からは柔らかい光が見えた。
中では、ここの主である魔理沙が料理を作っている途中だった。
煙突からはうっすらと煙が出ている。
「よっと。我ながら完璧な中華鍋捌きだぜ」
鍋の中では、今が旬の夏の野菜とお肉とを炒めた、野菜炒めが踊っている。
魔理沙の絶妙な力加減で野菜と肉は宙を舞い、そしてまた鍋の中に戻ってくる。
魔理沙はまだ子供だが、一人暮しには慣れている為、料理なんておてのもの。
本人曰く、霊夢よりは絶対に料理がうまい、だそうだ。
「らららっ、らららら~、ららららららっ、らららら~」
ご機嫌な魔理沙は、オリジナルの音楽を口ずさみながら真っ白のお皿をテーブルに置く。
珍しく今日は掃除をして、綺麗になった机の上。
おしゃれをしてテーブルクロスをテーブルに敷いてみたのだが、それを魔理沙はいたく気に入った。
汚さないように、慎重にお皿に野菜炒めを盛る。
立ち昇る匂いは、食欲をそそった。
「ららららららっ、らららら~ららららららら、ららら……『じゃらららららららぁん』……あん?」
魔理沙の音楽をかき消すように、急に変な音が紛れこんできた。
次に胡散臭いピアノの音楽が流れてくる。
なんというか、音楽のセンスとか雰囲気で誰だかわかる。
魔理沙は気にせずにお茶碗にご飯を盛ると、その音楽は突然ぴたっと止まった。
そして、
「じゃじゃーん」
「案の定といわざるを得ないな。お前はドアが何のためについているか分かってんのか」
驚かせる為に言ってみた紫の言葉も、魔理沙には既に誰が登場するか分かっていたから意味が無い。
そんな魔理沙の反応に不満の様子を見せる事無く、紫は魔理沙の問いに答えた。
「外と家との境界線でしょう? 私はそれが必要無いからこうやって出てくるのよ」
「心臓に悪いぜ。まぁ、今回は変な音楽流れてきたから分かったけど」
「変なとは失礼ね」
紫は隙間から出てくると、魔理沙の家にゆっくりと降り立つ。
ゆっくりと部屋を見渡し、少し目を丸くする。
「あら、綺麗に掃除したのね」
「私だって女の子だ。ちゃんと部屋の掃除くらいするぜ」
「男の子っぽい所の方が多い気もするけどね」
「余計なお世話だ」
台所から魔理沙は箸とコップを取り出す。
コップに緑茶を注いで、夕食の準備は終わりだ。
魔理沙は木製の椅子を引きずると、そこにちょこんと座る。
「貴女が作ったの?」
「私以外に誰がいるんだ」
「もしかしたら誰かが隠れてるかもしれないわよ?」
「お前は私を見くびってんのか? そういう紫は料理ができるのか?」
「見くびってなんかないし、料理はできるわ」
「ふ~ん」
これ以上話をしているとごはんが冷める。
魔理沙は手を合わせると、箸を持った。
そんな魔理沙の様子を見て、紫は向かい側の椅子に座った。
それに対して魔理沙はなにも言わず、目だけをそちらに向けた。
「あら、何も言ってくれないの?」
「紫と喋ってたら時間が無くなるぜ」
「ひどい言い様ね」
すると魔理沙は箸を置き、お茶を口に含む。
「あのなぁ、話していてめんどくさいランキングをつけるとしたら、一位は閻魔だ。そしてその次に来るのが紫、お前だぜ」
「それは名誉なことね」
「なにが名誉だ。とりあえず、紫は相手をおちょくったり、何でもかんでも話したいお喋り。さとりは人の心が読めるからややこしいってのに、微妙に人をおちょくったりしてくるからな。あとは、聖は私には優しくしてくれるけど、妖怪と人間の平等がなんちゃらこうちゃらって話が長い」
「ずいぶん愚痴を吐くのね」
「この際だから言っておいただけだぜ」
「へぇ、そう」
言い終わると、魔理沙は箸を持って、食事を進めた。
カチャカチャ……
箸が、皿、茶碗とぶつかる音だけが静かに響き渡る。
紫は魔理沙をじっと見つめ、魔理沙はそんな紫を無視する。
つまらないと思ったのか、紫は魔理沙に話しかける。
「一口くれないかしら」
「やだね。絶対にやだ」
「ケチ」
「ケチで結構だぜ」
魔理沙は野菜炒めを箸で掴み、口の中に放りこんだ……はずだった。
口を動かすと、歯と歯がぶつかり合う感触しかなかった。
ふと紫を見ると、口をもぐもぐと動かしている。
「何勝手に食べてるんだ」
「ん? なんのことかしら。私は何も食べてないわよ」
「さっきまで口動かしてなかったじゃないか」
「ガムを噛み始めたからよ」
「負けず嫌いだな」
「そうかもしれないわね」
にこにこと笑いながら魔理沙を見つめる紫。
そんな紫を鬱陶しいと言わんばかりの瞳で見つめる魔理沙。
魔理沙は冷静に頭の中で考える。
なんでこいつが家に来たのか、それが謎で仕方が無い。
いつもだったら霊夢のところでじゃれあってるこいつが、何故我が家に。
霊夢にふられたのだろうか。
それだったらざまぁみろと言ってやりたいところなのだが。
もう一度紫のほうを見る。
相変わらず笑顔でこちらを見ている。
「私を見てて楽しいか?」
「えぇ、楽しいわ。表情がころころ変わる様なんて見てたら特にね」
顔にすぐ出る癖を直さないとなぁと心の中でそっと呟く。
それにしても、この目の前の胡散臭いの代名詞たる紫をどうにかすることはできないものか。
蚊取り線香でもつけておくべきだったと、魔理沙は思った。
それに対して紫は、またなにか考え事してるわねぇと心の中で笑う。
霊夢は掴み所がないというか、面白みに欠ける。
不意をついて女の子っぽい仕草を見せるものの、普段そんなことはあまりない。
異変解決で協力するほどの仲なのに、何で打ち解けてくれないのかしらと少し寂しい気持ちもあった。
が、今は魔理沙をからかっていることで、そんな寂しさも紛らわせる事ができている。
「正直に聞くけど、紫は私の家になにしにきたんだぜ」
「からかいにきたの」
「いつもだったらここで変化球なのにな」
「私の頭の中ではストレートを投げろと指令が出たからよ」
変に紛らわせたり、本当の目的を言わなかったり、遠回りに目的を言ったりする紫だが、今回ばかりはストレートに来た。
何か裏があるんじゃないかと魔理沙は思ったが、そんな風ではなかった。
「魔理沙は弄りがいがあっていいわねぇ。霊夢から魔理沙に変えようかしら」
「人を使い捨てみたいに言うんじゃない。それに、私に変えられたら命がいくらあっても足りないぜ」
「それはどういうことかしら?」
「そういうことだぜ」
残念だわぁと呟く紫。
何が残念だぜと返す魔理沙。
「さてと、暇もつぶれたし、もう夜だから帰るわ」
「おう、帰れ帰れ。もう来なくていいからな」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、隙間を開く紫。
早く帰れと急かす魔理沙に対し、紫はゆったりとしている。
「また暇なときに顔を出させていただきますわ」
「顔も出さなくていいぜ」
「じゃあ足でいいかしら?」
「足もいらん」
「あら、残念ね」
隙間の中へ足を進めると、最後にひとこと、
「お邪魔したわね」
と返して消えた。
「ほんと、邪魔されたぜ」
それに対して魔理沙は、自分以外誰もいない部屋で呟いた。
食事も終わり、食器を片付けた後、紫の座っていた椅子を元に戻そうとしたその時だった。
椅子の上に、大きな花弁をつけた紫陽花がそっと横たわっていた。
「置き土産、ってわけか。粋な事してくれるぜ」
魔理沙は台所から、空の瓶を取り出すと、水を入れた。
その瓶の中に紫陽花を入れ、テーブルの中央に置いた。
綺麗な紫色が、テーブルの上に咲き誇っている。
魔理沙は腰に手をやると、それをじっと見る。
「悪いもんじゃないな。紫のやつに礼を言わないとな」
「礼には及ばないわよ~」
紫陽花の隣、小さな隙間が開き、紫の声だけが返ってきた。
「は、はやくどっかいけ!」
「はいはい、それじゃあまたね」
そうして小さな隙間が閉じた。
「まったく、紫のやつめ……」
また、ふと紫陽花に目をやった。
優しい紫が、私を見ている。
「ま、こういうのも悪くは無いか」
魔理沙はそっと微笑むと、部屋の電気を落とした。
一人暮らしを初めた思春期の娘と、下宿先によく顔をだす歳の離れた姉、みたいな
魔理沙はそれほど嫌ってなくて、紫もそれを解っててちょっかいをかけてて
ほっこりしますね
もっと広がれゆかまりの輪!!
まさしく>6さんの言うとおりの雰囲気。これはアリだ。
これからどんどん忙しくなるでしょうけど、頑張ってください。
評価ありがとうございます。
お~、なんかいい例えですね。
確かに、くっつきすぎず、冷めていない、そんな関係を描きたかったので、そういう表現は会ってるのかもしれませんね。
嬉しいお言葉です。
>11 様
評価ありがとうございます。
こういうの少ないんですかね?
>14 様
評価ありがとうございます。
変わったカップリングって言うのもありだと思います。
>23 様
評価ありがとうございます。
ゆかまりの輪を広げるのって大変そうですわ。
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
こういう雰囲気、なんかたまらないですよね。
頑張ります!
>30 様
評価ありがとうございます。
河童の技術で片付けます。
>37 様
評価ありがとうございます。
(^-^)
>43 様
評価ありがとうございます。
あまり見ないカップリングですけど、いいですよね。