ある日、博麗神社に突撃取材で訪れた私―――姫海棠はたてが見たものは、縁側でもきゅもきゅとカエンタケを頬張る巫女の姿だった。
……うん、いやちょっと待て! ちょっと待とう!!?
「何食ってんのあんた!?」
「ほぶぅっ!!?」
あわてて後頭部を叩いて口の中のものを噴出させると、ズルズルとカエンタケやら他のキノコが入った籠から彼女を遠ざけて水筒の水を彼女に差し出した。
何で鴉天狗の私がこんなことせにゃならんのか。自殺願望でもあるのだろうか、こいつはさ。
「アンタ新しいパパラッチじゃない! なんてことするのよ、勿体無いでしょ!!」
「いいから、この水で口の中濯いで! あんた、猛毒で有名なキノコなんて食べるんじゃないわよ!!」
「え? そうなの? おっかしいなぁ、昨日の夜もあれ食べたんだけど」
ようやく事態を理解してくれたのか、首をかしげながら巫女―――博麗霊夢は水筒の水を口に含む。
私はその間に籠に入ってた大量のキノコの中から真っ赤で棒状のを手にとって、ポッキリと真ん中でへし折ってみる。
真っ赤な色合いと固い感触、そして内部は白い。やっぱり、どこからどう見てもカエンタケの特徴と一致してて、思わず身震い。
……というか、霊夢のやつ昨日も食べたとか何とかいってなかったっけ?
「……ねぇ、体なんともないの? たしか10分前後で症状が出るはずなんだけど?」
「そーいえば昨日、食べてる最初のうちはお腹痛くなったり眩暈がしたり呼吸困難になったりしてたわね。今はなんともないけど」
巫女ってすごい。何がすごいって話が本当なら免疫ができたってことなんだし。
というか、思いっきり中毒症状が出てるじゃないの。どんだけ人間辞めてんのよこいつは。
みんな、見かけたら絶対に食べちゃだめよ。死ぬことだってあるんだからね? というか、むしろ死ぬ。
「大体ねぇ、中毒症状が出てたなら危ないってわかったはずでしょう? なんで今日もまた食べるかなぁ」
「ほら、なせばなるって言うし、人間は毒キノコ食べたぐらいじゃ死なないわよ」
「いや、普通は死ぬし。あんたカエンタケの怖さわかってないでしょ? ……で、本当のところは?」
ジト目を向けて、彼女に問いかける。
すると彼女は、珍しく気まずそうに視線をそらし、ポツリと一言。
「飢えには勝てませんでした」
私の涙腺がマッハで崩壊した瞬間だった。
▼
かくして、私は霊夢を連れて人里に訪れた。
なぜかと問われれば、私は迷いなく巫女が不憫すぎていたたまれませんでしたと答えるだろう。
だって、毒キノコに耐性ができちゃうぐらいである。もきゅもきゅ頬張っておいしそうにしているぐらいなのである。苦味があるあのカエンタケを。
これほど虚しいことが他にあるだろうか。いいや、ない。
『あっまーい!!』
まぁ、もうひとつ理由を挙げるなら、私も丁度甘いものが食べたかったというのもあるし。
場所は人里のカフェー。私は今話題のジャンボチョコレートパフェというものを注文し、霊夢も今は食後のケーキを口に運んでいる。
先ほどまでの飢えを満たすかのごとく、凄まじい勢いで食べていた食事も今や霊夢の胃袋の中。
今や満面の笑顔でケーキを堪能する彼女は、……なるほど、歳相応の女の子の顔だった。
「なによー、ほたてー。顔が弛んでるぞー☆」
「あっはっはー、ぶっ飛ばすぞーこの腐れ巫女ー☆」
甘味の美味しさに、満面の笑顔を浮かべながらそんなやり取りを繰り広げる私と霊夢。
傍目から見たらずいぶんと奇妙な光景に映ることだろうけど、今はそんなことはどうでもいい。
美味しい。美味しすぎるのだ、ここの料理と甘味と、つまり何もかもが!
もともと私のお気に入りの店ではあったのだけれど、ダンディな重低音と厳つい姿の店長曰く、材料や調理法方に色々とこだわりを持っているのだとか。
今度、取材してここの特集でも作ろうかな。なんか結構な部数が売れそうな気がする。
ま、それはさておき。
「いやー、食べた食べた。美味しかったわー」
「そ、そりゃよかった。もう毒キノコなんて食べるんじゃないわよ」
「……」
「ねぇ、なんで顔そらすの? なんで何も言わずに顔をそらすのよ!? そんなに飢えてんのかあんたは!!?」
忠告すれば何ゆえか顔をそらされて、ぎゅーっと巫女の頬を引っ張ってグニグニと動かしてやる。
饅頭みたいに広がった巫女の口から、「いひゃいいひゃい!」などと聞こえてきたが、私は知らぬ存ぜぬで霊夢の顔で遊んでたり。
……うん、予想以上に面白い。このままその頬をこねくり回してやろうか。
それでもいいのだけど、いつもでもこうしているわけにもいかないわけで。
「まぁ、これ以上言ってもしょうがないんだろうけどさぁ」
「そう思うならとっとと離しなさいよ!」
身を乗り出して巫女が殴りかかってくるけど、ひらりとかわして手帳を取り出した。
「ごめんごめん」と口だけの謝罪にやっぱり納得がいかないようで、巫女は小さくため息をつくと私をジト目でにらみつけてくる。
けれどこちらは新聞記者、そういった視線には慣れっこなのである。悲しいけどね。
「……何かいてるのよ?」
「んー、別にぃー。ここのお店の料理の感想書き込んでるだけよ。今度特集でも組もうと思ってさー」
暢気な言葉をこぼしながらも、私は手帳に書き込む腕の動きを止めたりしない。
最初は巫女の行動でも観察して記事にでもしようと思ったのだけれど、生憎それが潰れてしまった今、代わりになる話題が必要だろう。
まぁ、それはそれで楽しいんだから別にいいんだけどねー。
「仕事熱心ねぇ。迷惑なことだわ」
「アンタはもうちょっと仕事したほうがいいと思うけどね」
「失敬ね、仕事してるわよ。掃除してお茶飲んで、昼寝してお茶飲んで」
「よし、あんたは世のお父さんに謝れ」
働いている人々全員を敵に回すような発言をしながら、彼女はのほほんとした様子で店員に食後の緑茶を頼んでたり。
こいつ、私のおごりだとわかってて注文してるからなおのこと性質が悪い。なんだって文はこいつのことがお気に入りなんだろうか。
こういうのジェラシーって言うのかなぁ。こういった感情がどろどろとしたサスペンスを生み出すのね。
いや、見るのは楽しそうだけど、直に体験するのは勘弁願いたいかな。
「あんたさ、いつか後ろから刺されるわよ」
「刺さられる前に殴り倒してる自信があるわ」
「いや、まぁ……」
本当にそうなってそうだから否定できないのは、この巫女だからこそだろうか。
なまじ、妖怪に好かれやすいこともあってかべらぼうに強いし、色々人間離れしてるし、毒キノコ食べても平然としてるし。
……そういえば、あのキノコ誰が持ってきたんだろう。キノコといえばあの白黒だとは思うけど……あれ、じゃあ魔理沙やばいんじゃないだろうか?
「ま、人形遣いが居るから大丈夫よね」
「何が?」
「あー、いやいや。こっちの話」
霊夢の疑問にひらひらと手を振って答えながら、あたり触りのない返事をして店員にコーヒーを頼む。
なんだかんだで人形遣いと仲がいいみたいだし、あれのことだからしぶとく生き残ってそうだ。
心配は要らないだろうと自分自身に言い聞かせる。もしも死なれた時の罪悪感が半端ないことになりそうだけど、あのキノコに詳しい彼女がそんなことになるとも思えないし。
……あれ? 自分で言っててなんか矛盾してないかな、私。
「まぁ、いいわ。ねぇほたて、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「ほたてって言わないでよ。名前がそう見えること気にしてるんだからさー。……それで、何?」
気にしてることを遠慮なく口走る巫女に批難の視線を向けながらも、それでも話を聞いてあげる私は存外に優しいのかもしれない。
霊夢はそんな非難の視線に動じることもなく、彼女はニヤリと笑みを浮かべ。
「あんた、これできる?」
懐から、とある物を取り出したのであった。
▼
「ローン!! リーチ、一発、一盃口ドラ2!!」
「何ぃ!!? やるな鴉天狗のお嬢ちゃん!!」
「ツモ! 面前、三色同順、純全帯、ドラ1よ」
「くぅ、博麗の巫女は化け物か!!?」
「ツーモ!! リーチ、面前、清一色、タンヤオ、一盃口、嶺上開花ー! ドラは……8!!」
「数え役満だとー!!?」
「……あら、あがってるわコレ」
『天和ぉぉぉ!!?』
などと絶叫やらが響いた雀荘での一軒から数時間。
空に赤みがさし、遠くでカラスが鳴き出すような時間帯。
のんびり空を飛ぶカラスたちの、何と暢気な事か。今頃、私と霊夢にとばされまくった大人たちが涙に濡れている頃合だろう。
うん、久しぶりだったんで思いっきりやっちゃったけど、ちょっとやりすぎたかもしんない。
「いやー、やっぱり久しぶりにやると楽しいわねぇ」
「ノーレートでよかったわね、あの連中」
ホクホク笑顔の霊夢を見やりながら、私は引きつりながらそんな言葉をこぼしていた。
何しろこの巫女、容赦ってもんを欠片もしやがらないのである。
当たり牌を引いてくれば、持ち前の直感でそれを察知して違う手を作るし、そもそも運がいいので高めの役をすぐそろえちゃうのだ。
別のテーブルで打ってたからまだよかったものの、同じテーブルでやってたら今頃私もあの雀荘の連中と同じように燃え尽きてたかもしれない。真っ白に。
最後コンビ打ちで何も出来なかったけどね!
「ま、アンタとのコンビ打ちも面白かったけどね」
「私は何もできなかったけどなー……」
恨みがましい視線を向けても、彼女は気にした風もない。
小さくため息をひとつこぼすと、私は「しょうがないか」と小さく言葉にして、そして笑った。
今日の一日の始まりこそ滅茶苦茶だったけど、彼女と一緒に居て楽しかったのは事実なんだし。
まぁ、たまにはこういう一日も悪くないんじゃないかと思うわけで。
「ま、今度は文とあの白狼天狗も連れてきなさいよ。四人で麻雀よ麻雀」
「ふん、今度は負けないわよ」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」
お互いに睨み合いながら言い合って、そしてどちらともなく噴出して、そして笑った。
なんだか、文が彼女を気に入るのも、少しだけわかる気がする。
一緒に居ても飽きないし、こうやって居ると楽しくなれるし、それでいて誰に対してもこんな態度だから、裏表がなくてわかりやすい。
そうして、私たちは満足しながら帰路に着く。
生憎、新聞の記事にできそうな出来事はあまり起こらなかったけれど、まぁそれとは別に楽しかったから、結果オーライということで、ここはひとつ。
あぁ、でもそういえば。
あの毒キノコ、結局誰が巫女の元に持ってきたんだろう?
▼
「紫様、本当に任せて大丈夫なんですか?」
「えぇ、今日は珍しい食材も手に入ったことですし、私がご馳走してあげるわ。どうせなら、妖怪の山に居る橙も呼んであげなさいな」
「はい!! きっとあの子も喜びますよ」
「えぇ、そうなさい。さぁって、霊夢にもお裾分けしたことだし、久しぶりに腕を振るってあげるんだからー!!」
後日、八雲一家が中毒で永遠亭に運ばれましたが、なんとか一命を取り留めた。
……うん、いやちょっと待て! ちょっと待とう!!?
「何食ってんのあんた!?」
「ほぶぅっ!!?」
あわてて後頭部を叩いて口の中のものを噴出させると、ズルズルとカエンタケやら他のキノコが入った籠から彼女を遠ざけて水筒の水を彼女に差し出した。
何で鴉天狗の私がこんなことせにゃならんのか。自殺願望でもあるのだろうか、こいつはさ。
「アンタ新しいパパラッチじゃない! なんてことするのよ、勿体無いでしょ!!」
「いいから、この水で口の中濯いで! あんた、猛毒で有名なキノコなんて食べるんじゃないわよ!!」
「え? そうなの? おっかしいなぁ、昨日の夜もあれ食べたんだけど」
ようやく事態を理解してくれたのか、首をかしげながら巫女―――博麗霊夢は水筒の水を口に含む。
私はその間に籠に入ってた大量のキノコの中から真っ赤で棒状のを手にとって、ポッキリと真ん中でへし折ってみる。
真っ赤な色合いと固い感触、そして内部は白い。やっぱり、どこからどう見てもカエンタケの特徴と一致してて、思わず身震い。
……というか、霊夢のやつ昨日も食べたとか何とかいってなかったっけ?
「……ねぇ、体なんともないの? たしか10分前後で症状が出るはずなんだけど?」
「そーいえば昨日、食べてる最初のうちはお腹痛くなったり眩暈がしたり呼吸困難になったりしてたわね。今はなんともないけど」
巫女ってすごい。何がすごいって話が本当なら免疫ができたってことなんだし。
というか、思いっきり中毒症状が出てるじゃないの。どんだけ人間辞めてんのよこいつは。
みんな、見かけたら絶対に食べちゃだめよ。死ぬことだってあるんだからね? というか、むしろ死ぬ。
「大体ねぇ、中毒症状が出てたなら危ないってわかったはずでしょう? なんで今日もまた食べるかなぁ」
「ほら、なせばなるって言うし、人間は毒キノコ食べたぐらいじゃ死なないわよ」
「いや、普通は死ぬし。あんたカエンタケの怖さわかってないでしょ? ……で、本当のところは?」
ジト目を向けて、彼女に問いかける。
すると彼女は、珍しく気まずそうに視線をそらし、ポツリと一言。
「飢えには勝てませんでした」
私の涙腺がマッハで崩壊した瞬間だった。
▼
かくして、私は霊夢を連れて人里に訪れた。
なぜかと問われれば、私は迷いなく巫女が不憫すぎていたたまれませんでしたと答えるだろう。
だって、毒キノコに耐性ができちゃうぐらいである。もきゅもきゅ頬張っておいしそうにしているぐらいなのである。苦味があるあのカエンタケを。
これほど虚しいことが他にあるだろうか。いいや、ない。
『あっまーい!!』
まぁ、もうひとつ理由を挙げるなら、私も丁度甘いものが食べたかったというのもあるし。
場所は人里のカフェー。私は今話題のジャンボチョコレートパフェというものを注文し、霊夢も今は食後のケーキを口に運んでいる。
先ほどまでの飢えを満たすかのごとく、凄まじい勢いで食べていた食事も今や霊夢の胃袋の中。
今や満面の笑顔でケーキを堪能する彼女は、……なるほど、歳相応の女の子の顔だった。
「なによー、ほたてー。顔が弛んでるぞー☆」
「あっはっはー、ぶっ飛ばすぞーこの腐れ巫女ー☆」
甘味の美味しさに、満面の笑顔を浮かべながらそんなやり取りを繰り広げる私と霊夢。
傍目から見たらずいぶんと奇妙な光景に映ることだろうけど、今はそんなことはどうでもいい。
美味しい。美味しすぎるのだ、ここの料理と甘味と、つまり何もかもが!
もともと私のお気に入りの店ではあったのだけれど、ダンディな重低音と厳つい姿の店長曰く、材料や調理法方に色々とこだわりを持っているのだとか。
今度、取材してここの特集でも作ろうかな。なんか結構な部数が売れそうな気がする。
ま、それはさておき。
「いやー、食べた食べた。美味しかったわー」
「そ、そりゃよかった。もう毒キノコなんて食べるんじゃないわよ」
「……」
「ねぇ、なんで顔そらすの? なんで何も言わずに顔をそらすのよ!? そんなに飢えてんのかあんたは!!?」
忠告すれば何ゆえか顔をそらされて、ぎゅーっと巫女の頬を引っ張ってグニグニと動かしてやる。
饅頭みたいに広がった巫女の口から、「いひゃいいひゃい!」などと聞こえてきたが、私は知らぬ存ぜぬで霊夢の顔で遊んでたり。
……うん、予想以上に面白い。このままその頬をこねくり回してやろうか。
それでもいいのだけど、いつもでもこうしているわけにもいかないわけで。
「まぁ、これ以上言ってもしょうがないんだろうけどさぁ」
「そう思うならとっとと離しなさいよ!」
身を乗り出して巫女が殴りかかってくるけど、ひらりとかわして手帳を取り出した。
「ごめんごめん」と口だけの謝罪にやっぱり納得がいかないようで、巫女は小さくため息をつくと私をジト目でにらみつけてくる。
けれどこちらは新聞記者、そういった視線には慣れっこなのである。悲しいけどね。
「……何かいてるのよ?」
「んー、別にぃー。ここのお店の料理の感想書き込んでるだけよ。今度特集でも組もうと思ってさー」
暢気な言葉をこぼしながらも、私は手帳に書き込む腕の動きを止めたりしない。
最初は巫女の行動でも観察して記事にでもしようと思ったのだけれど、生憎それが潰れてしまった今、代わりになる話題が必要だろう。
まぁ、それはそれで楽しいんだから別にいいんだけどねー。
「仕事熱心ねぇ。迷惑なことだわ」
「アンタはもうちょっと仕事したほうがいいと思うけどね」
「失敬ね、仕事してるわよ。掃除してお茶飲んで、昼寝してお茶飲んで」
「よし、あんたは世のお父さんに謝れ」
働いている人々全員を敵に回すような発言をしながら、彼女はのほほんとした様子で店員に食後の緑茶を頼んでたり。
こいつ、私のおごりだとわかってて注文してるからなおのこと性質が悪い。なんだって文はこいつのことがお気に入りなんだろうか。
こういうのジェラシーって言うのかなぁ。こういった感情がどろどろとしたサスペンスを生み出すのね。
いや、見るのは楽しそうだけど、直に体験するのは勘弁願いたいかな。
「あんたさ、いつか後ろから刺されるわよ」
「刺さられる前に殴り倒してる自信があるわ」
「いや、まぁ……」
本当にそうなってそうだから否定できないのは、この巫女だからこそだろうか。
なまじ、妖怪に好かれやすいこともあってかべらぼうに強いし、色々人間離れしてるし、毒キノコ食べても平然としてるし。
……そういえば、あのキノコ誰が持ってきたんだろう。キノコといえばあの白黒だとは思うけど……あれ、じゃあ魔理沙やばいんじゃないだろうか?
「ま、人形遣いが居るから大丈夫よね」
「何が?」
「あー、いやいや。こっちの話」
霊夢の疑問にひらひらと手を振って答えながら、あたり触りのない返事をして店員にコーヒーを頼む。
なんだかんだで人形遣いと仲がいいみたいだし、あれのことだからしぶとく生き残ってそうだ。
心配は要らないだろうと自分自身に言い聞かせる。もしも死なれた時の罪悪感が半端ないことになりそうだけど、あのキノコに詳しい彼女がそんなことになるとも思えないし。
……あれ? 自分で言っててなんか矛盾してないかな、私。
「まぁ、いいわ。ねぇほたて、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「ほたてって言わないでよ。名前がそう見えること気にしてるんだからさー。……それで、何?」
気にしてることを遠慮なく口走る巫女に批難の視線を向けながらも、それでも話を聞いてあげる私は存外に優しいのかもしれない。
霊夢はそんな非難の視線に動じることもなく、彼女はニヤリと笑みを浮かべ。
「あんた、これできる?」
懐から、とある物を取り出したのであった。
▼
「ローン!! リーチ、一発、一盃口ドラ2!!」
「何ぃ!!? やるな鴉天狗のお嬢ちゃん!!」
「ツモ! 面前、三色同順、純全帯、ドラ1よ」
「くぅ、博麗の巫女は化け物か!!?」
「ツーモ!! リーチ、面前、清一色、タンヤオ、一盃口、嶺上開花ー! ドラは……8!!」
「数え役満だとー!!?」
「……あら、あがってるわコレ」
『天和ぉぉぉ!!?』
などと絶叫やらが響いた雀荘での一軒から数時間。
空に赤みがさし、遠くでカラスが鳴き出すような時間帯。
のんびり空を飛ぶカラスたちの、何と暢気な事か。今頃、私と霊夢にとばされまくった大人たちが涙に濡れている頃合だろう。
うん、久しぶりだったんで思いっきりやっちゃったけど、ちょっとやりすぎたかもしんない。
「いやー、やっぱり久しぶりにやると楽しいわねぇ」
「ノーレートでよかったわね、あの連中」
ホクホク笑顔の霊夢を見やりながら、私は引きつりながらそんな言葉をこぼしていた。
何しろこの巫女、容赦ってもんを欠片もしやがらないのである。
当たり牌を引いてくれば、持ち前の直感でそれを察知して違う手を作るし、そもそも運がいいので高めの役をすぐそろえちゃうのだ。
別のテーブルで打ってたからまだよかったものの、同じテーブルでやってたら今頃私もあの雀荘の連中と同じように燃え尽きてたかもしれない。真っ白に。
最後コンビ打ちで何も出来なかったけどね!
「ま、アンタとのコンビ打ちも面白かったけどね」
「私は何もできなかったけどなー……」
恨みがましい視線を向けても、彼女は気にした風もない。
小さくため息をひとつこぼすと、私は「しょうがないか」と小さく言葉にして、そして笑った。
今日の一日の始まりこそ滅茶苦茶だったけど、彼女と一緒に居て楽しかったのは事実なんだし。
まぁ、たまにはこういう一日も悪くないんじゃないかと思うわけで。
「ま、今度は文とあの白狼天狗も連れてきなさいよ。四人で麻雀よ麻雀」
「ふん、今度は負けないわよ」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」
お互いに睨み合いながら言い合って、そしてどちらともなく噴出して、そして笑った。
なんだか、文が彼女を気に入るのも、少しだけわかる気がする。
一緒に居ても飽きないし、こうやって居ると楽しくなれるし、それでいて誰に対してもこんな態度だから、裏表がなくてわかりやすい。
そうして、私たちは満足しながら帰路に着く。
生憎、新聞の記事にできそうな出来事はあまり起こらなかったけれど、まぁそれとは別に楽しかったから、結果オーライということで、ここはひとつ。
あぁ、でもそういえば。
あの毒キノコ、結局誰が巫女の元に持ってきたんだろう?
▼
「紫様、本当に任せて大丈夫なんですか?」
「えぇ、今日は珍しい食材も手に入ったことですし、私がご馳走してあげるわ。どうせなら、妖怪の山に居る橙も呼んであげなさいな」
「はい!! きっとあの子も喜びますよ」
「えぇ、そうなさい。さぁって、霊夢にもお裾分けしたことだし、久しぶりに腕を振るってあげるんだからー!!」
後日、八雲一家が中毒で永遠亭に運ばれましたが、なんとか一命を取り留めた。
はたても大変ね。
一回食っただけで完全な耐性を得たというのか霊夢…凄まじいな!
それはさておき。はたれいむとは新しい。まさに新境地!
はたては元気があって良いね、見ていて気持ちがいいよ
そして八雲一家は…やばい物くらい調べましょうよ(笑)
カフェーの店長はやっぱりあの某理想郷の銀♯♯このコメント主はスキマ送りにされました♯♯
橙が本当に無事でよかった……
「あっはっはー、ぶっ飛ばすぞーこの腐れ巫女ー☆」甘いものは女の子を笑顔にさせるってこんな笑顔ヤダ☆
何で生きていられるんだよwww霊夢www
ちょっと博麗神社に食えるもの奉納してくるわwww
ゆかりんドジっ子……(白目
博霊神社の住所を誰か教えてください。
不憫な霊夢……