※この作品は、作品集95「the Fairytale of the Girls 1st.」、
及び作品集97「the Fairytale of the Girls 2nd.」の続編となっております。
博麗霊夢がその事実に気づいたのは、博麗の巫女として初めて妖怪と対峙したときのことだ。
敵の攻撃が勝手に的を外してくれる。真っ向から顔面に向かってきたはずの爪や牙、あるいは術式が、勝手に軌道を変えてあらぬ空間を裂いていく。
一方で、適当に放った自分の攻撃は、必ずといっていいほど相手の急所を捉えた。
何故に的を外す。何故に一撃で決められない。それはこんなに簡単なことだというのに。
不思議だった。自分が当たり前にできることが、他人にとっては必ずしもそうでないことを、幼い彼女は初めて知った。
幾度かの実戦を繰り返すことで、推測は確信に変わった。自分と他者の間には、差異というには余りに絶望的な隙間が横たわっていると。
誰も彼もが儚過ぎる。万物ことごとくが脆過ぎる。……世界は余りに退屈過ぎる。
それが、感想だった。
だから手を抜いた。適当にやっても勝てるのだから、何を真面目になる必要があろう。
最初の頃はそれでも命を懸けているという感覚がいくらかはあった。
妖怪は人よりもはるかに強靭で恐ろしいもの。周囲の大人たちから叩き込まれた、そんな前提があったからだ。
けれども、違った。
正直なところ、律を無視して暴れ回る妖怪を退治した時も、人里でたまたま出くわした食い逃げ犯を捕まえてやった時も、どちらも同じ感覚しか持てなかった。
他の一切が彼女の前では等価値であり、生物としての個体差・能力差など、見逃がすに足る誤差に過ぎない。
――何とも。世の中とはつまらない。戯言にすらなりやしない。
別段、過信や慢心を抱いたわけではない。そもそも誇りすら持てた試しはなかった。
彼女にとって、それは生まれてこの方当然にして持っていたものだったからだ。呼吸できることをいちいち自慢して歩く馬鹿がどこにいるというのだ。
対峙してきた妖怪たちが、本気で自分を殺すつもりがなかったことに気づいたとき、その気分は否応なしに増した。
何人たりとも博麗の巫女を殺めること罷りならぬ。
幻想郷の人妖すべてに共通する、その絶対原則。強く、聡い者ほどその意味を知り、逸脱することは決してない。
何という茶番劇。巫女の側は適当極まり、妖怪の側は本気の殺意がない。
かろうじて例外に近かったのは、博麗を継いで半年にもならぬ頃に遭遇した吸血鬼の一族だ。
少なくとも彼らは本気で戦争をしようという意気込みがあり、それ相応の覇気があった。
能力的にも、それまで対峙してきた妖怪たちよりはマシだった――とはいえる。少なくとも、自分と相対して一晩は持ったのだから。
しかしその彼らですら、最後の決定的な部分で、自分を殺そうとはしていなかった。幻想郷では紛れもない新参者である彼らだったが、博麗の巫女の存在意義と、幻想郷の幻想郷たる所以――妖怪にとっての最後の理想郷――は知悉していたらしい。結局、どいつもこいつも同じということだ。
殺すつもりはなかった。それだけの必要も感じてはいなかった。他と同様、適当に返り討ちにして心得違いを正し、丁重にお引き取りを願うだけのことだった。
それだけで終わらなかったのは、当の吸血鬼たちが最期まで引かなかったからだ。
壮年男性の姿をしたあの吸血鬼(名前ももう覚えてはいないが)は、最期まで誇り高くあり続けた。歴然たる力の差を見せつけられても戦い続けることを選んだ。生き恥をさらすなど死よりも苦痛、などといっていたか。我にとっての敗北とは死以外にありえないのだと。
……何ていう理不尽。
私を殺すつもりはないくせに、自分は殺せというのか。殺し合いにすらならぬ片殺し。不条理に過ぎる。何故世界はこれほどに理不尽なのだ。
結局、その吸血鬼の一党を、博麗霊夢は殺し尽した。
彼女にとっては初めての殺戮だった。
もしかしたら、それで何かが変わるかも。例え好ましからざるものであったとしても、この退屈と倦怠に波紋をもたらす一滴になるやも知れぬ。
そんな期待もどこかにあったが、結局は何も変わらなかった。極めつけに後味が悪かっただけで、何が変わることもなかった。
望めばすべてがかなう。殺そうと思えばそれだけで殺せる。だから、強いて殺す理由もない。たったそれだけのことであって、たったそれだけのことに過ぎない。それが博麗霊夢のルール。
最初から、何が変わるはずもなかったのだ。
スペルカード・ルールも、そうした退屈と倦怠を忌む余り、気まぐれに創ったものだ。幻想郷に生きる妖怪たちの鬱屈を、自身のそれとすり替えるところから、スペルカードは創られた。
どうせ誰も本気で自分を殺しに来てはくれない。自分が本気で戦うに値するだけの力を持つ者もない。
いたとしてもあの吸血鬼のように、殺すつもりはなくとも殺される覚悟はあるという連中ばかり。いい加減にしてくれ。私は屍山血河に耽溺するほど酔狂ではないのだ。
だったら、せいぜい見た目を派手にして、勝負の結果ではなく勝負そのものを楽しもう。
戯言にしかならぬ世界ならば、徹頭徹尾戯言に徹しよう。
そうして、戯言の上に戯れを重ね、怠惰の上に遊びを重ねてきたところに、博麗霊夢の今日はある。
それらがすべて、幻想郷というこの世界の安定に寄与していたのはまったくの偶然であり、掛け値なしの皮肉といえた。
その意味で、彼女はまさに幻想郷のために生まれた、幻想郷に愛された娘だった。
幻想郷は今日も平和に包まれていた。
多くの人妖は何も気づかなかった。気づいていて、しかし自分が部外者と知っていた者は、大人しく口を噤んでいた。
すべてを知り、彼女を知る者だけが、牙を磨き続けていた。
――鈴仙・優曇華院・イナバは博麗神社にいた。
伴となるべき者はいない。
守るべき主も仰ぐべき師匠もここにはいない。
時刻は夜明け前。空がもっとも暗い刻。
今頃、無名の丘には続々と、名だたる人妖が集まり始めている頃だろう。
三日前、巫女が告げた時刻と場所に集い始めているはずだ。
――申し訳ありません、師匠、姫様。
鈴仙は心の中で主人たちに詫びる。
永遠亭の名を汚すこの所業、罰はいかようにも。しかし私はこうせざるを得ないのです。
月兎を出自とする鈴仙が妖怪たちと決定的に異なる点は、その生態や能力ではない。
外の世界でいうところの軍人として教育を受けたか否か、だ。
異能を持った妖怪はいくらでもいる。法術・魔術に長じた者など珍しくはない。しかし、軍隊戦闘術としての武芸を学び、戦略戦術としての兵法を身につけた者は、幻想郷ではこの鈴仙ただひとりだ。
妖夢や美鈴など、武芸を嗜み武人としての心意気を持った者もいるが、鈴仙の学んだ軍事技術はそれらとは根本的に異なる。
卑怯卑劣は褒め言葉。夜討ち朝駆け当たり前。不意討ちこそが最上で、真っ向勝負は下策に尽きる。敵の背中を撃たない奴はただの馬鹿。目的を達成するためにすべての行為は許容される。正義大義のお題目はお偉方が唱えていればよい。
徹底したリアリズムと、情を廃した理の極限。
武人と軍人の違いとはそういうものだ。
その鈴仙が見るところ、あの博麗霊夢に対するにもっとも有効な戦術とは、暗殺以外にありえなかった。
あれと正面から戦うなど、いかに人数を集め準備を整えたとて、下策の極みどころか自殺行為でしかない。
主人たちの顔に泥を塗る、その事実に対する危惧は無論あった。だがそれ以上に、彼女たちを失うことなど考えたくもない。臆病が故、月での紛争から逃げ出したかつての自分。最優秀の兵士として期待され、信頼され続けたすべてを裏切り、捨てて逃げた月兎・レイセン。
その自分を庇護し、その弱さを赦し、薬師として新しい生き方を示してくれた永遠亭。
超然たる高貴さをまといながら、根本的なところでお人好しな主と師匠。
気のいい妖怪兎たちと、それをまとめる悪戯好きだが憎めない白兎。
守るためなら何でもしよう。被れる泥はすべて自分が背負う。
あの呑気な巫女――永遠亭を永の沈黙から陽のあたる場所へ引きずり出してくれたあの巫女を手にかけることになろうと、罪科はすべて自分にある。
鈴仙はすぅ……と息を吸い込む。気配は完全に消している。この種の技術について、彼女は他者の追随を許さない。
山野に紛れること、泥の中で数日を過ごすこと、敵の背後に回り込み、その息の根を断つこと。すべては彼女の修めた技術だ。外界よりさらに洗練され徹底された月の軍事技術、そのすべてを最優秀の兵士として極めた。
何より彼女にはその眼がある。一対一であれば確実に圧倒的優位を築きうる、月の狂気を秘めた赤い瞳。その能力を見こまれ、彼女は暗殺技能も重点的に叩き込まれた。
今、彼女はその眼を使い、社の中の波長を探る。こうして見ると、つくづくとあの巫女の異常性がわかる。決して狭いとはいえない神社の隅々に、いやこの高台を取り巻くすべてに、あの巫女の存在が感じ取れる。法力とか魔力とかの類ではない、単純にして明快な、存在そのものが放つ重圧感。それは、圧倒的に巨大な質量を持つ恒星が、それ自体の有する重力を持って幾多の惑星を従える様に似ている。
鈴仙は重圧の核、存在の基点となるべき中心を探る。
いつも通り、かの巫女は社の奥の寝室で眠りこけているようだ。周囲に漂う重圧感は息苦しいほどであるのに、その中心に在る彼女はどこまでも普段通りだ。台風の目に例えるのも馬鹿らしく思える。
ごめんなさい。でも、貴方の望んだ本物の戦いでは、刻限・約定なんて守られた試しはないのよ。
それが言い訳に過ぎないことを承知の上で、鈴仙は両手を握りしめた。
意識を集中させ、力を凝縮させた魔弾を練り上げる。
スペルカード・ルール下の決闘においての彼女は、弾丸に模した弾幕を好んでいた。軍人たることを裏切って地上に逃げたとはいえ、またお遊びの弾幕ごっことはいえ、彼女の技術はやはり軍事に特化している。何でもありの戦いならば――不意打ちも暗殺も許容される類の戦闘ならば、例え相手が鬼であっても負ける気はしない。勝てはせずとも、殺すことは可能だ。そのための手管は、月で腐るほど叩き込まれた。
今、彼女が練り上げた魔弾もその産物だった。
破壊力を徹底して凝縮し、任意の空間で破裂させる。スペルカード・ルールで使用される光弾とは根本的に異なる、純粋に殺傷目的で練られた無形の炸裂弾。その威力は神社そのものを吹き飛ばして余りある。まして人体など欠片も残るまい。
それほどの破壊力を持ちながら、外形がほぼ無色透明に近く、しかも妖力の気配が探知されにくいというのもこの魔弾の特性だった。鈴仙自身の気配も完全に周囲と同化していた。完全な迷彩、完璧な伏撃態勢といえる。
最後に一瞬だけ、社の内部の波動を探る。博麗霊夢の波動は寝室から動かない。変化もない。
さて、と最後に心の中で呟いて、鈴仙は魔弾を解き放った。
――否、解き放ったつもりだった。
練り上げたはずの魔弾が無形無色のままに音もなく霧散し、自身の体が金縛りにあったように動かなくなるまでは。
「こんな場面でいうのもアレだけど、嬉しく思うわ」
全身の毛穴がこじ開けられたような感覚があった。
冷汗が吹き出す、どころの話ではない。冷汗を流すまでもなく汗腺が凍りついたような感覚。
「私の希望をつつがなく理解してもらえたようね。本当、楽しくなってくる」
優しいほどの声音。怒りとか不満とかそんなものとは無縁な。
鈴仙・優曇華院・イナバのすぐ背後から、まるで慈しむように語りかけてくる。
「惜しむらくは、独りで来たこと、かしら。気取られてもどうにか対処できるほどの人数を、せめて逃げて態勢を整えるくらいはできるだけの人数をあんたはかき集めるべきだった。極端な話、あのときあの場にいた連中すべてに声をかけて不意打ちを仕掛けるくらいのことはしてもよかった――いや、すべきだった」
何故気付かれた? 何故これほどの接近を許した?
ほんの数瞬前まで、この巫女はたしかに社の中にいた。眠ってもいたはず。波長を操る自分が見誤るはずはない。
気配も完全に殺していた。例え八雲の大妖であろうと気取られない自信はあった。なのに。なのに。
「……いつから、気づいていたの?」
からからに乾いた喉から、それだけを押し出す。
「ああ、もしかして気づかれてないつもりだった?」
背後の声の主は意外そうに言ってくる。
「前々から不可解なのよ。というより不条理というか。気配を消すだの何だのという技術があるらしいけど、あんたはたしかにこの場に存在しているじゃない。だったら、気づかないなんてあるわけないでしょうに」
数多の技術、先人の努力を粉砕する、まさに博麗霊夢のみがなしうる発言だった。
言葉自体はまったく道理だ。
存在している以上、その事実自体は否定しようがない。いかに足音を消し、吐息を溶かし、迷彩を施そうと、生体活動そのものが止まっているわけではない。亡霊や怨霊の類とて、霊体としての活動・反応を絶えず行ってはいる。
しかし、その当たり前を当たり前でなくすところに、技術と知識の蓄積はある。そのために、幾万の先人が幾億の切磋琢磨を重ねてきた。
……その努力を。歴史を。幾万幾億の積層を。
ただ一人で踏破する、真の怪物。
何と莫迦らしい。何たる現実。何と残酷な。
「で、どうする? とりあえず、この場での勝敗は決したといってもいいんじゃない?」
背後から聞こえる声はあくまで穏やかだった。怒りや優越感に類するものは微塵もない。
「その様子だと黙ってきたみたいだし。早く戻って、輝夜たちに合流すれば……」
「……他に選択肢はなさそうですね」
鈴仙は両手を挙げて戦意のないことを示した。
まったく。この巫女はどれほど化け物じみているのか。いや、わかってはいたことではあったが。
そう、最初から。わかっていた。
背後から感じる圧迫がほんの少しだけ弛む。
ふぁ、と眠そうな欠伸。どこまでも場違いで、少女としては当たり前の仕草。
この自分の奇襲も、この巫女にとっては早めの目覚ましに過ぎないということか。
鈴仙は力ない笑い声を発して、崩れ落ちるようにして前方によろける。
否、崩れ落ちるようにして前方によろけかけた――その刹那、両脚の筋肉を爆発的に加速させた。
「…………っ!!」
地面を転げ回る。無数の魔力弾を展開。もはや精度や照準など構ってはいられない。上半身だけを背後に向けたのと同時に、それらすべてを射出する。点ではなく、空間そのものに対する制圧射撃。
さらに駄目押しとばかりに、両眼の魔力を全開にしていた。赤く光るその眼が巫女のそれと合ったのを確認し、すべての波長を手当たり次第に滅茶苦茶にした。
月で受けた軍事教練の鉄則が思い出される。
ほんのささいな隙も見逃すな。見出したならつけ込み、こじ開けろ。油断した方が負ける。戦場に正義があるとすれば、それは勝利し生き残るということだけ。
今、鈴仙・優曇華院・イナバは、その鉄則を半歩踏み出していた。繰り出した魔力弾の破壊力と総数は、この至近距離であれば自殺行為に等しい。主と師と、気の置けない友人たちと過ごした日々が、臆病ゆえに戦場から逃げ出したかつての月兎に、その半歩を踏み出させた。
振り返った視界に映るは一人の少女。死に瀕しているはずの、ただの人間。しかも今、彼女は鈴仙の狂気を誘う瞳により、すべての距離感を殺されている。
その巫女が――距離感を狂わされたただの人間が、迫り来る魔力弾のすべてを素手で叩き落としていく。目で捉えられているはずはない。そんな生易しい速度ではなく、そもそも鈴仙の魔力弾には一切の光彩がない。何より、あらゆる感覚を、巫女は狂わされているはずだ。にも関わらず、細い両腕が無造作に、しかし的確に、魔力弾を撃墜し、威力を相殺していくのを、鈴仙は驚くことなく眺めていた。
狂わされた感覚が、実際にどの程度狂わされているのかを、一瞬で当たりをつけたのか。空気の微妙な振動を知覚しているのか。それとも、ただの勘か。まったく、論理もへったくれもあったものではない。
……ああ、そうだ。わかっていた。わかっていた。こんなていどで倒せる相手ではない。こんなていどで倒せる怪物ではない。
暗殺だろうが何だろうが、自分ひとりでどうにかなる怪物ではないことは、わかりきっていた。
あの永夜の異変において対峙した時、博麗霊夢はまさにこのようにして、あらゆる弾幕を避け切ったのだから。
だが、それでもいい。
鈴仙・優曇華院・イナバの勝利条件は主と師匠、そして友人の無事。
ここで少しでも巫女の体力を削ることができたなら、それだけで自分の目的は果たされる。一つの魔力弾を無効化されるごとに、主たちに向けられる力をいくらかでもそぎ落とせる。
やるべきことは単純にして安直なのだ。
息の続く限り、この四肢が動く限り、とにかく戦闘を継続すること。何を考える必要もない。戦術とは、本来シンプルであるべきもの。
奇妙なことに、彼女はそのことに今、痛快な感覚さえ覚えていた。培ったすべてを、この身につけた全知全能を叩きつける。しばしば地獄のようにも思われた月での修練、血反吐を吐きながら身につけた技術と知識。そのすべてを吐きだして余りある存在が目の前にいる。
全身の筋肉を躍動させ、絶え間なく位置を変え、絶え間なく魔力弾を射出しながら、鈴仙・優曇華院・イナバはたしかに笑っていた。
――幻想郷において空前にして絶無と後代に謳われた博麗霊夢の異変。その序章は、かくして幕を開けた。
東の空が白み始めた。
黄金色の煌めきが、空と大地の境界から顔を覗かせる。
払暁、無名の丘で。
幻想郷において特に名の知られた大妖たち(一部を除く)が、各々集まり始めていた。
レミリア・スカーレット、
十六夜咲夜、
紅美鈴、
パチュリー・ノーレッジ、
アリス・マーガトロイド、
魂魄妖夢、
西行寺幽々子、
上白沢慧音、
蓬莱山輝夜、
八意永琳、
因幡てゐ、
藤原妹紅、
小野塚小町、
四季映姫・ヤマザナドゥ、
東風谷早苗、
八坂神奈子、
洩矢諏訪子、
射命丸文、
姫海棠はたて、
犬走椛、
河城にとり、
秋静葉、
秋穣子、
鍵山雛、
古明地さとり、
古明地こいし、
火炎猫燐、
霊烏路空、
星熊勇儀、
比那名居天子、
永江衣玖、
聖白蓮、
寅丸星、
村紗水蜜、
雲居一輪、
ナズーリン、
封獣ぬえ、
チルノ、
風見幽香、
伊吹萃香、
八雲藍、
橙、
八雲紫、
霧雨魔理沙。
見る者が見れば、これからどこぞの国でも攻め落とすつもりかと怖気を振るう顔ぶればかり。チルノのような強引に参加した者、てゐやナズーリン、にとり、秋姉妹のような荒事以外の方面で力を発揮する者を除けば、幻想郷において最強クラスの実力者が過半を占める。
ちなみに、本来この丘の住人であるメディスン・メランコリーの姿はない。生まれて数年の子供を戦列に加えることを、誰もが厭ったからだった。今、彼女はミスティア・ローレライなどとともに、知己の帰りを待っているはずだ。
「なかなかの壮観だわな」
中空に浮いた箒に腰かけながら、魔理沙が感嘆しきった声を漏らす。
その傍らでは、アリスが何と呑気な、と呆れていた。
こいつはこれから起きることの意味を本当に分かっているのか、そういいたげであったが、口に出すのは控えて置く。代わりというように、周囲に漂う人形たちのいくつかがやれやれとばかりに肩をすくめる仕草をした。
「一応聞くけれど、勝算は?」
「知らん。紫にでも聞け」
この返答である。
アリスは本格的に呆れた表情でつくづくと魔理沙を見やる。
見た目の彼女は、ひどく幼い雰囲気すらある。莫迦みたいに快活で、図々しくて、遠慮がなくて。けれどもどこまでもひたむきで、前を向く。
本来はしかし、それだけの娘なのだ。
そのことを思うと、アリスは痛ましいものすら覚える。
霧雨魔理沙は決して天才とはいえない。
むしろ不器用といってすらよい。
アリス・マーガトロイドが前々から思っていたように、種族としての魔法使いを目指さず人身で魔法を扱うことが最たるものだが、その魔法に関しても決して才能に恵まれているとはいえない。
アリス・マーガトロイドやパチュリー・ノーレッジが本や経験則から学び取り、実践する魔法を、霧雨魔理沙は自分自身を実験台にした無数の試行錯誤の末に実現する。
ちょっとした光弾を生み出す術すら、それは霧雨魔理沙が劇薬同然のキノコを幾度も自身に投与した結果、編み出されたものだ。
凄絶という表現を通り越した研鑽の果て、霧雨魔理沙はここにいる。
本来なら、と、アリスは思う。
彼女はそこまで過酷な生涯を背負うことはなかったはずだ。
魔法を修めるにしても――例え人身のままであったとしても――、もっと穏便な、心身に負担を課すことのない手法はあったはず。
しかし霧雨魔理沙は文字通り劇薬じみた手段で、より多くの力を、より強い力を求める。
ほんの半歩でも踏み違えれば、一直線に破滅へ突き進みかねないその生き方。
そうでありながら、霧雨魔理沙はどこまでも真っすぐで、明瞭だ。
狂気に近い生き方を選びながら、その眼はひたむきに前を向く。そのありように、かつてアリスは恐怖すら覚えたことがある。何をどうすればこんな娘ができるのかと。
だが、今ではその理由も理解できた気分になっている。……魔理沙の眼の先に、常に一人の少女の背中があることに気づいたから。
かつて、何故に魔法を志したのかと訊ねたとき、魔理沙はこう答えた。
星をこの手に掴みたいから、と。
だが、それだけでは到底説明できない凄絶な生き様を選択した理由は、星よりも眩い才能を間近に知ってしまったから――ではないかと、アリスは思う。
最高のものを知ってしまったからには、その高みを目指さざるを得ない。諦めることはできない。それに魅入られ、惚れ抜いてしまったからには。
霧雨魔理沙にとっての極めつけの不幸はそれだ。あまりに健全に真っすぐに育った少女は、この世でもっとも眩い光を見てしまい、そこへ駆け上がることを生涯の目標にしてしまった。
それがどれほど過酷で、常人なら発狂しかねない生き様を強いることになったとしても。いや、それほどの生き様を選びながら、なお健全であり続けられたことが、彼女の不幸だったともいえる。ひねくれ、絶望し、諦めてくれた方が、どれほど人間としては幸せだったことか。
まったく、馬鹿げている。これは悲劇か、喜劇か。
だが、それにこうして付き合う自分も大概馬鹿げている。
アリス・マーガトロイドは何度めのことか、ため息をついた。
「――うん? 何か騒がしいな」
魔理沙のそんな呟きが耳に届いて、アリスは暗くなりかけた思考を現実に引き戻した。
友人の視線を追った先に、月人と白兎の一行がある。
「どうしたんだ?」
月の姫の傍に降り立ち、魔理沙はそう訊ねた。
アリスもそれに続きながら、月の姫との従者たちの様子を確かめる。
一見して、違和感に気づいた。永遠亭の実戦担当ともいうべき月兎の姿がそこにはない。
「鈴仙が遅いわね、って話してたところなのよ」
輝夜が答えた。
「私たちより少し遅れて到着するのは事前の予定通りなんだけど」
あの巫女と戦うからには相応の準備が必要だから。そう鈴仙はいっていた、と、てゐは説明する。鈴仙は月の兵器の扱いにも長じていて、今回の戦にもそれを持ち込むつもりらしいのよ。
魔理沙などよりもはるかに幼い外見のこの妖怪兎は、実のところ幻想郷でも最古参の部類に入る。荒事向きの能力はなかったため、幻想郷に名を轟かせる大妖とはなれなかったが、積み重ねた経験からなる知識と判断は他者から数目を置かれてもいる。
事実、永遠亭の妖怪兎たちはこの白い兎娘に全幅といってよい信頼を置いていた。
いささか油断のならない面はあるにせよ、因幡てゐは本質的に面倒見の良い姉御肌で、身内を決して裏切らないし、無碍にもしない。その判断の確かさで、幻想郷では弱妖に分類される妖怪兎たちを幾度も救ってきた。
「兵器の扱いには私たちは素人だから、鈴仙に任せきりでね」
てゐは肩をすくめる。力弱き妖怪兎の長である彼女にとって、戦闘への対処法とはすなわちどうすればそれを避けられるかを考えることだ。
口八丁に手八丁、脅し賺し宥め騙し、裏取引からハッタリまで、あらゆる手段を用いて戦闘を回避し、利益と安全を確保する。それが因幡てゐの流儀である。
であれば、そもそも何故にこの場に付き合うのかという話になるが――
それについて当人は「浮世の義理だわね」と肩をすくめる。
狡知をもってよしとする彼女は、超えてはならない一線を誰よりもよく知っている。場合によっては魔王すら顔色なさしめる姦計も辞さないが、それでなお従う者がいるのは最低限のルールをわきまえているからだ。表現を変えるならば、彼女の行動の大元には、誰にも否定できないある種の高潔さが確固として存在する。因幡てゐは、決して仲間を見捨てない。
つまるところ彼女は、永遠亭に君臨する月人主従へ、完全に近い忠誠と同胞意識を抱いていた。
「そろそろ刻限だぜ」
魔理沙は空を睨みながらいった。
逃げたのでは、という言葉は、その場の誰も可能性の欠片としてすら考えなかった。
月からの逃亡兵である鈴仙・優曇華院・イナバ。しかしその彼女がどれほど蓬莱山輝夜と八意永琳を、因幡てゐと妖怪兎たちを――永遠亭を愛していたかは、全員が知悉していた。
月の兵器の扱いがどれほどの手間暇がかかるかも、まったく知識がないわけではない。それの整備、調整に時間が食うというのなら、そういうものだろうと納得するだけのことである。
「……迂闊でした」
顎に手を当てて黙考していた永琳が、このとき、心持ち血の気の引いた顔で口を開いた。
「なに、永琳?」
「あの娘の性格――というより、軍人の発想というものを見落としていたかも知れません」
悔やむように、永琳はいう。
幻想郷の誰もが認める薬学の偉才、膨大な知識と人生経験を誇る彼女だが、軍事という点についてはそれほど深い造詣はない。
月の指導者であった時期、戦を主導することもあったが、彼女の役割はあくまで為政者としての視点に立ったものだ。軍事ではなく政治、多少踏み込んでも軍政に関わったに留まる。
それが、彼女をして薬学における教え子の行動を見誤らせた。
「自軍を明らかに凌駕する敵。それを打倒する最良の方法。永遠亭の保全。あの娘の人格。馬鹿な、こんな簡単なことを見落としていたなんて」
うわ言のようにつづられる後悔は、中途で途切れた。
彼女だけではない。
その場にいた誰もが――戦を控えて猛っていた者も、静かに時を待っていた者も、雑談に興じていた者も、等しくその動きを止めていた。
誰もが感じ取っていた。
五感、直感、あるいはそれ以外の何か、はたまたそれらを含むすべてが否応なしに感知した。
脊髄を鷲掴みにされたような寒気。
喉元に鉄の棒を差し込まれたような圧迫感。
砲弾の込められた巨砲の口を覗き込んだような畏怖。
――やって来る。
あの巫女がやって来る。
あらゆる幻想を凌駕する怪物が。
持ちうる天才すべてを剥き出しに。
博麗霊夢がやって来る。
「いやはや、何とも――」
聖白蓮が呟いた。さすが、平安の御世において魔道を極め、そうでありながら仏門の聖として悟りを開いた魔法使いだけあり、必要以上の緊張はない。
「この一千年にどれほど過酷な天変地異があったのか、つぶさに調べたくなりますね。何をどうすればこんな人間が生まれるのでしょう?」
「あれは例外だろう。興味を持たない方が健康にいいと思うがね、聖」
ナズーリンが呻くように答えた。命蓮寺において、因幡てゐと立ち位置を同じくする彼女は、とうの昔に愛用のロッドを構えていた。
「今更ながら、後悔したくなるわ」
「本当に今更ですね。ま、去る者を追うほど酔狂な巫女でもなし、今からでも離脱するなら止めはしませんが」
こんなときでもカメラを手放さない天狗娘たちはそれぞれに囁き合った。
「そんな恥知らずな真似はできないわよ」
「その人間が霊夢さんであるという一点のみで、大抵のことは許容されると思いますよ」
「表現を変えるわ。相手が博麗霊夢だからこそできるわけないでしょ。あの巫女の前で無様をさらすことだけはできない」
「……育ちのよろしいことで」
文は苦笑し、はたては決然と顔を上げた。
どれだけ日頃、慇懃無礼を通り看板にしていても、天狗は根本的に誇り高く、そして高位妖怪の例に漏れず契約と義理とを重視する。新聞記者として関わり、個人として親しんだ巫女に対して、彼女たちは奇妙な義務感を共有していた。
「本音を吐く天狗の姿が見れるとは、何百年ぶりかしら?」
「私の知る限り四百年ぶりくらいよ、姉さん」
天狗たちに倣ったわけではないが、豊穣の秋姉妹も小声で囁き合う。どちらかというと微笑ましいものを見る顔だった。
鍵山雛も微笑している。厄神などと呼ばれているが、彼女は本来、人に付きまとう厄を引き取る役割を持つ、優しい女神だ。山の中ではもっとも慈愛に不足ない存在かも知れない。
ただひとり、河城にとりだけが落ち着かない表情で格上の天狗や神々の様子を眺めている。
秋姉妹、雛、そしてにとりは、それぞれ立場は違えど人間というものに対して愛着があり、親しみも深い。
故にこそ、博麗霊夢という人間の友人の願いを、見過ごすことができなかった。彼女たちにとってはそれだけで十分で、それだけがすべてだ。他に理由をつける必要を、彼女たちは感じていない。
「――そろそろ夜明けね」
気を取り直したはたてが、空を見上げた。
「…………」
魂魄妖夢は無言で腰の二刀を抜き放った。
普段は謹厳ながらもどこか間が抜けていて、親しみやすさすら感じられるこの半人半霊の庭師が、この半月、どれほど鬼気迫る表情で剣を振るい続けていたか。
西行寺幽々子は懐かしいものを見る気分で見つめ続けていた。
人は物質的な実在に囚われ、妖は精神的な概念に宿る。
半人にして半霊。魂魄家の剣士はその境界の両側に、同時に存在する。
で、あるならば。
魂魄の剣術は岩をも断つ剛剣のみにあらず。形なきものすら斬り伏せ、森羅万象ことごとくを踏破する。
その理念を目指し続けた剣士の面影を、幽々子は妖夢の中に見出すことができた。
無我、無念、無想――などといった禅学じみた代物ではない。
万物を内包し、受け入れ、そして剣で応える。
久方ぶりにできた友人のため、その想いを受け止め、その最期に付き合うため、剣を振るう不器用な娘。
あるいは彼女は、今こそ魂魄の剣士として完成の時を迎えようとしているのかも知れぬ。
幽々子は愛用の扇で口元を隠した。
そうしないと、何とも場違いな微笑を隠すことができなかった。
「お嬢様、日傘を」
十六夜咲夜は、どのような時でも従者としてのペースを崩そうとしない。
今この時も、彼女がまず気にかけたのは、明けかけた空と日を厭う主のことだった。
「ありがとう。だが不要だ、咲夜」
レミリア・スカーレットはしかし、頭を振った。
体が小刻みに震えている。
銀色の髪が波打っている。
肌は粟立ち、声はかすれている。
それは恐怖ではない。
純然たる歓喜であり、狂喜だ。
レミリア・スカーレットがその生涯において、唯一格上と認めた一人の娘。
怪物的な才能を持つ、かの友人。その才能を抑え続けた一人の娘。
ただの人間にして、格上の実力者にして、よき友。
それが今、すべてを自分にぶつけようとしている。
これで奮い立たないようで、何がスカーレットの当主か。
「お体に障ります」
「日傘をさす方が障る。他の凡百ならばいざ知らず、私にとって陽の光は害毒というほどではないわ。好きでもないけどね」
「……されど」
なおも何か言いかけた咲夜を、美鈴が引き留めた。
お嬢様の判断は間違ってはいません、そう小声で囁く。
普段は穏やかなこの門番は、戦闘者という点では咲夜以上に徹底した現実主義者であり、レミリアとの付き合いという点では数十倍の長さになる。
「何となれば、私が曇天にでもすればすむ話よ、咲夜」
それまで座って本を読んでいたパチュリーが、立ち上がりつつ口をはさんだ。
「ええ、頼むわよ、親友」
「こちらこそ」
図書館の魔法使いは、あえて偽悪的な表情を作って見せた。
「私は私で、実に興味深いのよ。天狗、鬼、蓬莱人、天人、閻魔、神……そして吸血鬼。いずれも名だたる最強の代名詞。その力の底を見極められる機会なんて、どれだけ長く生きても巡り合えるものではないわ」
まことに魔法使いらしい好奇心を語りつつ、パチュリーの眼は真摯なものを帯びていた。
「そのすべてを上回る、ただの人間の可能性というものもね」
「ついに決着をつけるときが来たのね!」
そして響き渡ったのは、おそらくこの場でもっとも元気一杯な氷精の声。
冷気の妖精チルノ。
無数の妖精の中で、妖怪とも五分にわたり合える数少ない存在。――もっともそれは、あくまで並の妖怪と、という但し書きがつくのだが(とはいえ、幻想郷で最弱クラスの生物である妖精にとり、並ではあっても妖怪に伍するというのは破格の実力といってよい)。
その叫びを聞いた幾人かは、どうしてそもそも此奴がいるのだ、という呆れをあらわにしたが、同時に好意的な苦笑も漏らしていた。
チルノはまったく単純で、裏表がない。
何だかんだで付き合いのある巫女が、最後の勝負をしたいらしい。
だったら相手をするのは当然じゃん。あたい最強だし。
以上終わり。
チルノの意見はそれだけで完結している。
過去のしがらみ、何らかのこだわり、人との関わり合い、そんなものを必要としない。
ただ今この時において、何が大切で、何がしたいか。
重要なのはそれだけだ。
まったく素直で明瞭極まり、不純物は欠片もない。少なくとも多くの者にはそのように思われた。
ただし、上白沢慧音などの苦笑は、より深かった。
寺子屋の教師として、時にチルノやミスティア、リグル、大妖精などの、精神年齢が比較的幼い精霊・妖怪たちを招いて教室を開くこともある彼女は、チルノが数日前、この戦いに付き合うと表明した友人たちを止めていたことを知っている。
――あたいは最強だから。だから皆、あたいに任せて。
そのときのチルノの言葉だ。
時に慧音は、あの元気な氷精が、他で思われているよりはるかに多くのことを考え、多くを背負おうとしているのではないかとも思うことがある。
幻想郷で最弱といわれる妖精。
その中の最強に位置する氷精、チルノ。
類は友を呼ぶというべきなのか――
慧音はいくらか複雑な視線で、自分たちの大将格ともいうべき黒白の魔法使いを横目で見やり、そして眩さを増し続ける東の空に目を向けた。
そして、夜が明ける。
幾多の想い、幾多の情誼、幾多の記憶。
無名の丘に、無数の心が交叉して。
そして今、夜が明ける。
白み始めた空の向こう。
黄金に輝く陽の光を背にして、少女が立つ。
この幻想郷で、もっともその名を知られ、もっともその名を畏れられ、もっともその名を親しまれた少女が立つ。
身にまとう巫女装束は汚れない純白と血よりもなお濃い赤。
彼女は丘に集う幻想たちをそれぞれ眺め、苦笑したようだ。
その、圧倒的な存在感。ただ笑う、その姿だけで、暴風よりもなお濃く渦巻く威容がある。
これまでのいかな異変においてすら、ここまで怪物的な気配はなかった。
死の間際になって、その天才が完成したのか。あるいは逆に、天才が完成したからこそその身が滅びつつあるのか。
事実がいずれかは誰にもわからないし、おそらくどうでもいいことなのだろう。
「ひの、ふの……全部で四十五か。ったく、結局誰も欠けなかったのね」
彼女はまず、目の前の物好きな友人どもを数えあげる。
それが一人分、数が多いことに、耳聡い幾人かは気づいていた。
そして、身内が一人いない意味を悟っていた永琳が、代表するように訊ねた。
「……不肖の弟子が、無礼をしたかしら?」
「無礼というより、称賛したいほどのことを。あんたの弟子は優秀だったわ。戦というものの姿の一つを、私に示してくれた」
「…………」
永琳の顔が歪む。
「……安心なさい。死んではいないわよ。行動は正しかった、しかし力が足りなかった。だから逆に、死ぬことはなかった。御礼の意味も込めて、神社に寝かせてきたわよ。――半日もすれば目も覚めるでしょう」
安心させるように、彼女は言う。
ようやくにその意味を悟った者たちが、複雑な表情になった。
それは結局、彼女にとっては本気になるまでもなかった、そういうこと。
「ま、緒戦としてはいい感じではあったわ」
「ならば――」
口を開いたのは、八雲紫だった。
かつて死を間近に迎えた少女にすがり、涙を見せた女の姿はそこになく。
万人が認める八雲の大妖としての威容をもって、告げる。
「――決戦、開幕というわけね」
萃香と勇儀が杯を置く。
古明地さとりの第三の眼が限界まで開かれる。お燐は緊張した顔で主の傍につき、空の周囲の空気が熱気でたゆたう。
比那名居天子がはち切れんばかりの笑みとともに緋想の剣を抜き放ち、衣玖はやれやれとばかりに首を振った。
東風谷早苗が烈風をまといつつ浮き上がる。八坂神奈子は悠然と中空に胡坐をかいたまま。洩矢諏訪子は大地の感触を確かめるように両手を土につける。
四季映姫は瞑目するかのように佇み、小野塚小町は大鎌を構えなおした。
その場に集ったあらゆる人妖が、牙を剥く。
申し合わせる必要もなく、宙に浮かび上がった彼女たちの陣頭で、黒白の魔法使いが片手を挙げて。
「――Show down!!」
それが、号砲となった。
そして、夜が明ける。
それは遠い世界のお伽噺。
巡り巡る季節の中で、一つのお話が幕を開ける。
それは一人の少女の最後の記録。
移り移る季節の中で、一つの時代が幕を閉じる。
そして、夜は明けた。
メンバーが選定されているならまだイメージしやすいけど、遊びがあるからかな。
緊張感が続きませんでした。
続きが待ちきれない
さらにこの先が楽しみですなぁ…。
続きに期待。
けれど、読んでいる文章が頭の中ではっきりと映像化されてゆく。
嗚呼、続きの気になることよ。
それでいて煽りが上手いものだから、物語が進行しなくても否応なしに気持ちは昂ぶってくる。いやはや、見習いたいものです。
自分が山場を読んで平静を保てるかというのは心配です。
鈴仙格好いい
続きが楽しみで仕方がない
4thでも5thでも気長に待っておりますので、どうぞ思う存分推敲してください。
途中なので点数はフリーレスで失礼します。
続きは、続きはまだかっ・・・!
鈴仙・・・(;;
期待して待ってた甲斐があったぜ!
地味に命蓮寺組とはたてが混ざっていて吹かされましたwww
これで以後誰も死なないんだ、と感じられて緊張感が一気に薄れた。
吸血鬼を皆殺しにした過去があるんだったら殺した方が自然だし、
その方が永遠組の本気を引き出しやすく、霊夢の本懐も遂げやすくなる。
キャラが多すぎてさっさとやられちゃうキャラも出てきそう
こんだけ人数いても二、三行で灰になるキャラばかりだと思うとやりきれんな。
続編、いつまでも待ってます。
ああ、早く続き読みたいけどじっくり書いてほしくもあるし…。
…ほどほどのペースで頑張ってください。間違いなく読みますから。
しかし霊夢最強過ぎて他の人らが善戦出来る気がしない。恐ろしい巫女だ。
はたてはいらなかったんじゃないかと思ったり思わなかったり
あとお空の全力は仲間が危ない気がする。神奈子が止めるんだろうか
自分の世界を書き上げてください
そしてあなたが思っている以上の人間達もここに。
7th fallさんの意思で意志が貫かれますよう。