Coolier - 新生・東方創想話

後悔は、立たせない

2010/06/12 22:02:25
最終更新
サイズ
12.12KB
ページ数
1
閲覧数
1404
評価数
9/51
POINT
2780
Rate
10.79

分類タグ


初めて私が彼女を見たのは果たして何時のころであったであろうか。

紅霧異変。
私が初めて映写機を持ち、妖怪の山を飛び出した時である。
どうして新聞記者になろうとしたかはもう覚えていない。
ただ何千年も生きてきて初めて挑戦する『撮影』という行為にかなりの緊張と期待感を持っていたのは覚えている。



初めて私が彼女を見たのは果たしてどの瞬間だったであろうか。

神社の境内に隠れるようにして彼女の動向を探った。

案の定、彼女は神社の近くの空で妖怪と弾幕ごっこ中だった。
慌てた私が、急いでシャッターを押したのを覚えている。
相手は宵闇の妖怪だった。
空に浮かぶ彼女は手にお払い棒とお札を持ち、鮮やかな弾幕を展開。
あっという間に宵闇の妖怪を撃墜した彼女は紅い霧へと姿を消していった。

それが初めて彼女を見た瞬間。

「あれが、新しい博麗の巫女…」

そう呟いたのは覚えている。その頃は興味はなく、ただ見ていただけだった。



次に彼女を撮影したのは、終わらない冬。
春雪異変。

次は神社の屋根に身を隠し撮影を試みた。
神社に佇む彼女の周りには雪とわずかな桜の花が優雅に舞っていた。
その光景に少しだけ、本当に少しだけ見惚れていたのを覚えている。
彼女の黒い髪に舞い散る白と桜。見事なコントラストを生んだそれはまさに『美しい』ものだった。
何も関係の無い妖怪を理不尽に叩きのめして彼女は空に向かって飛び出した。
これ以上の追跡は出来なく撮影を断念したのだった。


それから、三日おきの宴会、終わらない夜という異変を彼女は解決した。らしい。
裏も取れていないので新聞にはしなかった。






そして、





私が初めて彼女と接触した異変。




「こんな所に池なんて有ったっけ?滅多に山の中には入らないしねぇ…
 それにしても、蓮の花ですら満開ねぇ。ほんと、どうしちゃったのかしら。」
「神社に人影がなくなってから数時間、ついに巫女が動き始めたと思って探しても、なかなか見つからないから何処に向かっているのかと思いきや、やっと巫女を発見したわ!こんな山奥で!
 さ、記事にするわよー。」


60年周期の大結界異変。


最早、異変のあることに彼女を追跡していたため緊張はしなかった。
ただ、初めて今代の博麗の巫女と話をするということでは少しだけ緊張していたのかもしれない。
それに対し彼女は動揺の色すら見せていなかった。さすがは博麗の巫女というところか。

そしてお決まりの弾幕ごっこの始まりだった。
私はもちろん手を抜くつもりだった。
いくら巫女といっても所詮人間である。天狗である私に敵うわけも無い。
そう、私は思っていた。


が、その考えはあっという間に覆された。

(こ、これは…)

彼女は私の弾幕をすいすいとまるで泳ぐように抜ける。
そしてお札を私に向けて展開する。
その量の半端無いこと。私の余裕だった心はいつの間にか焦りに変わっていた。


結果は言わずともわかる。明らかに油断したこちらの負け。もう少し真面目にすればという後悔はしなかった。
巫女につめよられて、知ってることを白状した。

「言われなくてもうすうす気づいていたわ。」
「じゃ、訊かないでくださいよ。」

意味は無かったが。





それをきっかけに私――射命丸文は彼女――博麗霊夢とよく出会うようになった。

ある時は神社が地震で倒壊したとき、ある時は地底にサポート役としてパートナーを組んだとき、またある時は取材対象として。



そんなこんなで、気がついたら私は何時の間にか霊夢に夢中になっていた。










*********







ここ最近、幻想郷にも初夏が訪れ、日に日に気温が高くなる傾向にあった。
そんなある日の暑い中、私は手にある薄い生地の袋を持ちながら風に乗り神社に向かう。
もちろんあの巫女がいる神社だ。恐らく暑さにやられぐだぐだになっているはずだ。

神社が見える。少しスピードを緩め着陸の姿勢に入り、境内にすっと降りる。
この一連の動作も慣れたものである。

そのまま真っ直ぐ神社の庭へ。
恐らく彼女はそこにいる。


賽銭箱に適当に硬貨を投げ入れる。
これも最早日課となっている。
投げ入れた後、神社の前を回り庭へと向かい、足を運ばせる。
曲がったところで彼女がいないか確認。いた。


予想通りの光景だった。彼女は縁側に腰掛ながらも仰向けに寝ころがっていた。暑さのせいなのかその顔は良いものではなかった。
近くには団扇と庭には箒が投げ捨てられていた。
恐らく掃除していたが暑くて放り投げたのだろう。

寝ているであろう彼女の隣に腰掛ける。

「霊夢さーん。」

まずは一声。返事はなかった。

「霊夢さーん。清く正しい射命丸文ですよー。」

次に軽く肩を揺すりながら声をかける。うーん、という声がしたものの彼女は起きなかった。
はぁ、と私はため息をついてそっと彼女の耳元に口を寄せる。

「氷菓子、持って来ましたよ…」
「本当!?」

がばっ!という効果音がふさわしいぐらい彼女の起き方は見事だった。
起き上がった彼女の虚ろな瞳が私を捕らえる。恐らく本当に直感で起きたのだろう。自分の言った言葉を頭で理解し切れていない。
私を見つめながらようやく状況を理解したのか彼女の目が虚ろなものから何時もの目に変わった。

「おはよう、文。」
「おはようございます、霊夢さん。これお土産です。」

そういって手に持っていた袋を霊夢に渡す。中身は本当に氷菓子、人里によって買って来たものだ。

「ん、ありがと。」

小さくそう呟いて袋を受け取った霊夢は嬉しそうな顔をするかと思いきや少しだけしかめっ面になっているのを私は見た。

「あの、どうかしましたか?」

そのことを怪訝に思い私は彼女に問う。
もしかして氷菓子が苦手だったのだろうか?いや、先程の起き方からしてそれはないはず。
もしかして溶けたのだろうか?と思うがそれもない。何しろ幻想郷最速の私だ、溶ける前に持ってくることも朝飯前である。

では一体何が?と思っていたら彼女が口を開く。

「あんたの分は?」
「はい?」
「だから、あんたの分の氷菓子は?って聞いてるのよ。」

もしかして、一本じゃ足りなかったのだろうか。というか私の分まで取るつもりだったのだろうか。さすがは巫女である。

「あやや…すいません。人里で氷菓子売ってるところって少なくて…しかも今の時期じゃ人気じゃないですか。だからそれが最後の一本だったんですよ。」
「ふーん…」
「こ、今度は2本買ってきますから今日は一本で勘弁してくださいよー。」

それっきり彼女は口を開かなかった。袋から棒についた氷菓子を取り出すと、それを食べだした。
恐らく冷たかったのだろう、少しだけ表情を苦くしたものの、しかしそれはすぐに幸せな表情へと変わった。
暑い時期に氷菓子というものは本当に美味しい。彼女のそんな表情が見れて少しほっとした。


しばらく何も会話はしないで時間が過ぎていく。私は空を見上げながらぼんやりしていた。
時折霊夢の姿を視界の隅にいれながら縁側を流れる風を感じていた。

また霊夢をちらっと見る。すると変な光景が目に飛び込んできた。
彼女はまだ氷菓子を半分ぐらいしか食べていないのにそれを食べることをやめていた。
少し不振に思うも、霊夢の行動を見ていたら…


ずいっと霊夢は顔を動かさないでその食べかけの氷菓子を私に突きつけた。
私はその行動を理解することが出来なかった。彼女は何がしたいのだろう?
何も動かない私を見てか、霊夢は少し仏頂面になって口を開く。

「ん。」
「な、なんですか?」
「あんたの分。」
「…はい?」
「だから、あんたの分の氷菓子だってば。」
「え…?」

そう言われて一瞬思考がフリーズを起こすもすぐに復旧。そして完全に理解する。なるほど、そういうことだったのか。さっきの疑問がつながる。
さっき霊夢が言った『あんたの分は?』という言葉は『あんたが食べる氷菓子は?』という意味だったのだ。

少しだけ心が疼いた。
それと同時に激しく後悔。それもそうだ、霊夢がそんな人の物まで取って満足するような人間だったか。
全てを平等に見て、全てを受け入れる霊夢がそんな自己中心的なことをするわけがないのだ。
さっきのような浅はかな考えを持ってしまった自分を激しく責めた。

「な、なによ、私の食べかけはいらないって…?」

と、霊夢の声で思考が幻想郷に帰ってくる。
気がついて霊夢を見ると、その瞳は少しだけ不安の色に揺れていた。
私は少しだけ笑うと、

「もちろん、いただきますとも。」

そのまま霊夢から氷菓子を受け取り、口に運ぶ。
冷たい感触といつもよりも少しだけ甘くなっている気がした。

「霊夢さん…」
「…なによ。」
「これって俗に言う『間接キス』ってやつですよね。」
「…ばか。」

今度から氷菓子は一本だけ買ってくることにしよう。そう決めた。








それから一度も話さなかった。
ただ2人で横に並んでぼんやりと過ごす。
風が流れ風鈴の音がどこからか聞こえてくるような気がした。
私は幸せな気分で、この時間をとことん満喫した。


時刻はあっという間に過ぎ日が落ちかかるころに差し掛かった。
暑かった気温は下がり、涼しげな風が通り始める。
少しだけ寒い気もしたが霊夢が隣にいるので問題は…

「くしゅん。」

あった。横をみると少しだけ恥ずかしそうな表情で俯く彼女の姿、眼福眼福。じゃなくて

「中、入りましょう?」
「…そうね。」

そう呟き、同時に立ち上がり、神社の中に歩みだす。

「ねぇ、文。」
「はい?」
「今日は泊まってくの?」
「いいんですか?」
「別に…」
「じゃあ、そうします。いや、そうさせてください。」
「ん、わかった。」

また無言、しかしこの無言は私は好きだった。霊夢を見ていられるからだ。
霊夢は猫みたいだった。つかみどころもなくただぼーっとしている日もあったり、その逆で異変解決の時は常に回りに気を張り妖怪を退治したりと。
そんな様子だから恐らくたくさんの妖怪から好かれるのだろう、私も含めて…


神社の居間に腰を下ろす。
霊夢は台所からお茶を持ってきた。

「どうぞ。」
「ありがとうございます。」

ずずーっとお茶を口に運ぶ。温かいお茶はすぐに体に浸透した。

「夜ご飯、何か希望ある?」
「霊夢さんのつくるのなら何でも大丈夫です。あ、煮物があると嬉しいです。」
「そう…まあ、昨日の残り物だけどね。」
「だったら何で聞いたんですか…」

霊夢は台所に姿を消した。
本当にわからなかった。霊夢の性格が、たまに赤くなって恥ずかしがったりすれば、今みたいに全く興味もないような返事をする時もある。
つかみどころが全く見当たらない。それが博麗霊夢なのか。


程なくして霊夢が夕飯を運んできた。
昨日の残り物と思われる山菜と、肉料理、それと、温かい煮物だった。








夜、完全に闇が支配した時間帯。

入浴を済ませた私と霊夢は2つの布団を引いて隣同士で寝た。
しばらく私は起きていた。寝ようにも寝れなかったのだ。

しかし、それは彼女も同じようであった。

「霊夢さん…」
「何よ…」
「眠れないんですか?」
「お互い様でしょう。」
「一緒に、寝ます?」

何言ってるのよ、この馬鹿。と返事が返って来ると思っていたのだが、返事はなかった。眠ってしまったのだろう。そう思って私も目を閉じようとした瞬間だった。

背中から誰かにぎゅっと抱きしめられる。
その誰かってのは彼女しかいないわけで、私の頭はパニックとかそういうレベルじゃないぐらい混乱しだして。

「れ、霊夢さん…!?」
「な、なによ…あんたから、言ってきたんだからね…」

少し顔を動かし、彼女を見ると真っ赤になって俯いていて、その姿が可愛いのなんのってことで。もっと私の頭は混乱していて。

「ど、どうしたんですか…?急に、こんな。」

そんなことしか聞けなくて。

「文…」
「な、なんでしょう。」

何かとてつもないことを言われるよなことがして。

「もしも、私があんたと同じ鴉天狗だったらどうする?」

少し予想と外れていた。もっとこう何か凄いことを言われそうだったのだが。愛の告白とか…?
ちょっと残念に思いながらも、霊夢の問いに答える。

「そりゃあ、もちろん疲れるぐらい毎日たくさん愛でるでしょう。」

少し眠くて、ぼーっとしていて自分の発言に対して何も考えず真っ正直に答える。
霊夢が私の背中に顔を埋める。湿りを少しだけ感じる。
吐息かそれとも、涙か。

「じゃ、じゃあ、もし私が明日死ぬっていったら?」
「明日、死ぬまで命一杯愛で続けます。死ぬ暇も与えないくらい。」
「………」

霊夢は答えなかった。
私も限界が来たのかそこで目を閉じた。
霊夢に抱かれながら、背中からありがとう…と聞こえた気もするがよく覚えていない。









翌朝、私が目を覚ますと霊夢はどこにもいなかった。
居間に顔を出しても、その姿は見当たらない。少しだけ泣きそうになった。
だけど、耐えた。これも彼女の運命、それに自分は関わることは一切出来ない。
最後に彼女と話せただけでも凄いことなのだろう。
一回ぐらい好きっていっといてもよかったかなぁ。と思ったが振り切った。
後悔先に立たず、私はこの言葉が大嫌いだ。だから後悔はしない。だからこの言葉を口にする。
彼女を振り切るための言葉。

「さようなら…霊夢さん…」























「何勝手に人殺してるのよ。」
「あ、あやややや!?生きてたんですか!?」
「その言い方は死んで欲しいの?」
「い、いやそういうわけじゃなくてですね…」
「どういうわけなのかしら?」

霊夢は何時もの巫女服にエプロンをつけて朝食を運んでいた。
その顔はえらく不機嫌だ、それもそうだろう、いきなり死んだ者扱いされれば誰でも不機嫌になる。

「だ、だって昨日の夜に…」
「『もし』って言ったわよね?」
「え、で、でも普通あんな深刻そうに言われたら…」
「…はぁ、全くもう…本当に妖怪らしくない妖怪よね、あんたって。」
「め、面目もございません。」
「ふぅ…ほら、こっち向いて…」
「はい…?」

そう言われて霊夢を見る、その顔は不機嫌な顔ではなくその逆のような表情だった。
霊夢は私の目をみたり、見なかったりを繰り返しながら口を小さく開く。

「昨日の夜、少しだけ…本当に少しだけ、その、う、嬉しかった、というか…えっと、あんたがあんな風に答えてくれて…その、なんというか…」
「…霊夢さん。」

徐々に恥ずかしくなったのか真っ赤になり俯きだす彼女の言葉をさえぎった。
彼女は私を見つめてくる、私もそれを見つめ返す。
どうせならいっておいて損はないだろう。後悔先に立たず、後にも立たず。


















「大好きです。」
初投稿です。いろいろとおかしいと思います。ごめんなさい…
ただあやれいむが可愛すぎて、勢いに任せて書いてみただけなんです。
実際に霊夢と文はいいコンビだと思ってます。どっちも可愛いですしね。
最近はあやれいむがひろがっているんですよね?
だったら少しでも加勢したかったんです。
もっと広がって欲しいですね。あやれいむ。

ここまで読んでくださった方々ありがとうございました。
馬小屋
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1920簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
イヤッホォォォォォォォウ
6.80名前が無い程度の能力削除
間接キス、ですよね?

とりあえず面白かったです´`
甘い霊夢もいいですね
7.100名前が無い程度の能力削除
最近のあやれいむの波は尋常じゃないですな
11.100名前が無い程度の能力削除
乗るしかないこのビックウェーブに!
25.100名前が無い程度の能力削除
ひゃっほーい!
間接キスおいしいです。
33.100名前が無い程度の能力削除
二人ともええ子やなぁ…
34.100名前が無い程度の能力削除
あやれいが乱立している

バランスを考えろ
40.80名前が無い程度の能力削除
近すぎもなく、遠すぎもなく、
二人の距離が絶妙な具合で、とても心地よく読ませて頂きました。
44.100名前が無い程度の能力削除
ヴェェェァァアヤレイムイヤッホォォ!