Coolier - 新生・東方創想話

ヒメサマノイヘンサワギ

2010/06/02 06:16:23
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「えっとお名前は……八意永琳さん、ですね。
それではご職業をお聞かせ願えますか」
「ヤクザ医師です」
「えっ」
「えっ」
「悪いことでもしたんですか」
「いえ、特に」
「じゃあどうしてヤクザ医師になったんですか」
「クスリが好きだったので」
「えっ」
「えっ」
「たくさん欲しくなったわけですか」
「ただ単に、買う側より売る側になりたいなと」
「えっ」
「えっ」
「大丈夫ですか」
「はい。体力には自信があります」
「そうなんだすごい」
「昔にちょっと浮浪父子になりまして」
「苦労なさったんですね」
「こんな私ですが突きの頭脳と呼ばれてた時期もありました」
「えっ」
「頭の開店が早いということです」
「開店するんですか」
「はい」
「なにそれこわい」
「えっ」
「何故突きの頭脳と呼ばれてたんですか」
「か弱い私にとって頭が唯一の武器だったんです」
「なにそれもこわい」
「えっ」




───────────




「飽きたわ」

「姫が言い出したんですよ、適当に見つけたコピペごっこ」

畳でねんごろする輝夜をよそに、永琳はやれやれと立ち上がった。
夕食の時間である。
エプロン姿のまま輝夜の思いつき遊びに付きあわされ、引っ張られてきたのが数分前。
そろそろ釜の飯が炊ける頃だと言い残し、なけなしの遊び相手は輝夜の前から去っていったのだった。

「うー」

畳でひたすらごろごろするが、それすらとうの昔に飽きている。
畳のごろごろに関して、輝夜は既に神の領域へと足を踏み入れていた。

「……」

ゆっくりと眼を閉じ、体をより速く回転し始める。
1……2……
頭ではなく体で覚えたその感覚が、時を刻みだす。

「おりゃああああ!」

いける!
入射角、速度、申し分ない。
このまま襖に突入し、ローリング壁登りの術を初成功させ

「ご飯でうわああああ!」

「うわああああ!」




───────────




奇跡的にもローリングウドンゲ登りの術を成功した輝夜は、そのままお姫様だっこされ、居間へと移動していた。

「デフォでお姫様ですけどね」

「私はあなたの意外な腕力にビックリしてるんだけど」

「これでも兎ですから」

「えっ」

「えっ」

「兎の力を舐めると痛い目を見るはめになりますよ」

「…………」

「…………」

「く……失われし邪鬼兎族の力だと」

「ふふ、貴様も“持つ者”……か」

「ぐぁっ! 静まれ! 私の左目よ!」

「くくく、共鳴してやがる」

「う、うわあああぁ!」

「な……!? 共鳴が強すぎるっ! それにこの振動は一体!」

ゴゴゴゴゴゴ

「あなた達…………」

二人の背後、“持たざる者”ならばそれだけで失神してしまうほどの威圧感を放ち、その人物は立っていた。

「し、信じられん! お師匠様自ら出向かれるとは!」

「感じる……凄まじい“怒気”を! アレを喰らってはまずいっ!」

すっと腰を降ろし、居合いの構えをとる。
永琳の手にした獲物に凄まじいエネルギーが凝縮し、その余波によって彼女を中心とした暴風が巻き起こる。

「飯が冷めるつってんです! “穴多太刀・御飯DEATH夜”!!」

別名、穴あきおたま連打。

「「ぐああああああああああ!!」」




───────────




次の日。

「ねー、えーりーん」

昼食も終わり、シエスタを決め込もうとしたが目が冴えてしまった。
仕方なく永琳の研究室へと赴くと、案の定そこには椅子に座り背を向けている永琳の姿があった。

「ん……なんです」

試験管を真剣に見つめている彼女は、振り向かずに声だけで返事をする。

「暇」

「…………」

もはや何回繰り返したかわからないこの言葉。
最近では返事すら返ってこなくなってしまった。
最も、彼女らの「最近」は数年数十年前まで含まれるのだが。

「暇よ」

「はあ……」

「暇だにゃー」

「ほぅ……」

「暇でござる」

「あ、そこの赤い瓶取ってくれます」

「これ?」

「それそれ」

「はい」

「どーも」

「暇・スプラッシュ!」

「ふーむ……」

「…………」

「…………」

「あ、そうだ」

「へー……」

「えーりん、異変起こしてよ!」

「ん……今忙しいので」

「いーへーん! いーへーん!」

「お小遣いあげるから買って来ていいですよ」

「ヒャッフー、ヤッタネ! って違うわああああ!」

「もういいわ! 異変の一つや二つくらい、自分でやってやるわよ!」

「晩御飯までに帰るんですよ」

「うん」

言ってからハッっとなった輝夜は、帰らねえYO! バーヤバーヤ!と泣き叫びながら走り去っていった。

「……ウドンゲ」

何もない空間に向かって永琳が声を発すると、屋根裏から黒い影が音もなく舞い降りた。

「ここに」

「頼むわね」

「御意」

「…………」

「…………」

「何?」

「いえ、その」

いつまで罰ゲームの忍者ごっこ続けるんですか、と。

「とりあえず私の気が済むまで」

輝夜の後を追って永遠亭を飛び出した。
涙で前がよく見えなかった。




───────────




「そこで私は言ってやったのよ。キノコのチョコ部分だけ食ってんじゃねえぞ! ってね」

「タケノコ派(笑)」

「あ? イナバてめえタケノコさんディスってんの」

「タケノコなんて竹林で見飽きてますよ」

「だからいいんじゃない」

「そういうもんですか」

「そういうもんなのよ」

毒にも薬にもならない話をしているうち、いつの間にか竹林は遥か後方にあった。
獣道から出て道沿いに歩いていると次第に人工物が増えてくるのがわかる。
やがて、二人は里へと到着した。

「さて、異変起こすわよ」

「異変って、どうするんです?」

「そうねぇ……」

異変というからには、やはり大きな規模のものでないといけない。
さらに、ほおっておけないと思えるものだったりするとなお良い。

「んー……」

「……考えてなかったんですか」

「いや、思いつくのよ? 思いつくんだけど……」

しかしそれらは、“永琳がいたら”という前提のもとに成り立つアイデアばかり。
やはりというかなんとうか、何かをする時、彼女の知識によって増える選択肢というのはとても多い。
もっとも、鈴仙としては何も思いつかずにこのままおとなしく帰ってくれたほうが楽なのでそうなって欲しかったのだが。

「立ち話もなんですし、そこのお団子屋さんにでも入りませんか」

「……そうね」

うーんうーんと頭をひねっている輝夜の背を押し、茶屋へと入る。
適当に注文し、茶を啜っている間も輝夜は眉間にしわよ寄せて悩んでいた。

「佃煮かぁ」

鈴仙が何かを見上げている。
見るとそこには壁に掛けられた品書きがあり、そこには確かに様々な川魚の佃煮の値段が書かれていた。

「最近はイナゴの佃煮とかめっきり見なくなりましたね」

「……イナゴ?」

「姫様の好物だったじゃないですか、私は食べられませんけど」

「INAGO!!」

バンっとテーブルを叩いて立ち上がった輝夜は、周囲の視線も気にせず興奮した様子で叫んだ。

「それよ! イナゴでいきましょ! イナゴ!」

首根っこを掴まれぶんぶんと振られてる当の鈴仙は迷惑そうに言った。

「意味がわかりません、あと落ち着いて下さい」

「田んぼいくわよ! ほら、早く!」

「あ、ちょっとまっ、今お団子きましたから……」

と、伸ばした手が串に届く数センチ手前、輝夜は鈴仙の耳を掴むと脱兎のごとく駆け出した。

「DANGOォォォォォ!!」

後日、永琳のもとへ身に覚えのない小額の請求書が届いたという。
その日の鈴仙のおかずだけ一品少なかった。




───────────




「んで、イナゴがどうしたんですか」

「ふっふーん、私が何年生きてると思ってるのかしら」

知らんがな、とさきほどの茶屋の件もあり冷たい視線を向ける鈴仙だったが、相手はアウトオブ眼中。
輝夜は自慢げに胸を張って言い放った。

「過去にこんな話があったわ………………“イナゴ大発生”」

「……なんか嫌な予感しかしないんですが。」

「“蝗害”を起こすわよ!」

「………………えー」

【蝗害】
蝗害(こうがい)とは、トノサマバッタなど、相変異を起こす一部のバッタ類の大量発生による災害のこと。
蝗害を起こすバッタを「飛蝗」「トビバッタ」と言う。また、飛蝗の群生行動を飛蝗現象と呼ぶ。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

「今までの異変も大概人に迷惑をかけてますけど、これはさすがに洒落にならないんじゃないですか」

死人が出ますよ、と。

「だーいじょーぶよ。 いざとなったら永琳に農薬作ってもらうし、博麗神社あたりに重点的に撒くから」

まぁそれならいいか、と鈴仙。

「それはそうと、仮に蝗害を起こすとして具体的にどうするんです? あんなもん自然発生的ですよ」

「そりゃまぁ、適当捕まえて……んで…………んー? …………繁殖?」

「…………」

「…………」

「帰っ「駄目」

「せめて最後まで聞いて下さいよ」

「まぁ、でも……今日は帰りましょ、準備もしないとね」

「き、今日“は”?」

「幻想郷に異変を起こすのよ、一朝一夕で起こそうなんてヘソで茶ね」

「結構一朝一夕で起きてるもんもあるきもしますが」

翌日、人手(?)が足りないということで兎が数匹駆り出された。姫命令で。
作戦は単純、捕まえて、増やす。
そうこうして某月某日、輝夜とそのペット達による大蝗害作戦が開始されたのだった。




───────────        




1日目


「姫様! イナゴを捕まえてきました!」

「よくやったわ! そこのカゴに入れときなさい!」

「姫様! イナゴをひっとらえてご覧にいれましたぞ!」

「うむ、大儀であった! 褒めてつかわす!」

「ヒメサーマ! イナゴツカマエマシタガ、ドウシマスカー?」

「ソコニ、イレルノヨー?」

「姫様! イナゴゲットだぜ!」

「ピッピカチュウ! マサキの転送ボックスに送っておきなさい!」


2日目


「姫様! 昨日のイナゴが全滅してます!」

「声が小さい!」

「姫様あああ! イナゴがあああ! 全滅ううう!! してええええ!!」

「うっさいわボケえええ! さっさと新しいの捕まえてこいやあああ!」

「いってきまんもすううう!!」

「いってらっしゃいなごおおお!!」


3日目


「姫様! 全滅したイナゴで佃煮作ってみました」

「あらイナバ、気が利くわね」

「まぁ私は指揮中心なんで疲れませんから」

「ん……なかなかいけるわ」

「まだまだありますよ」

「いや好きだけどさ……さすがに魔法瓶に入れてくるのはやめてくれないかしら」


4日目


「姫様! 里の百姓の方々から感謝状が来てますよ!」

「なんてこったい!」


5日目


「姫様! イナゴの佃煮をご近所の方に配ったらまた欲しいって言われました!」

「し、しょうがないからもっと捕まえにいくわよ!」


6日目


「姫様! 大量に買い取りたいって佃煮屋さんの方が!」

「もう既に捕まえに行かせてるわ!」


7日目


「姫様! 在庫が残り少ないです!」

「落ち着いて流通ルートを確保するのよ! 3丁目の水田は見に行った?」

「あっ! まだでした! すぐに行かせます!」


15日目


「姫様! やりました! 幻想郷中でイナゴの佃煮ブームらしいですよ!」

「いまこそ店を構える時……っ 刻は満ちたのだっ!」


63日目


「社長、八雲フーズの方から中国産イナゴの流通についてご相談とのことです!」

「通しなさい」


175日目


「号外だよー! 号外号外ー! あのイナゴ佃煮の『カグ屋』の佃煮からメタミド○ホスが検出されたよー!」

「社長、方々から苦情が殺到しています!」

「く……八雲フーズめ…………いや、品質の管理を怠ったのは私ね」

「社長……」

「イナバ……こんな私の秘書になったばかりに……ごめんなさい」

「いえ、私はそんな!」

「記者会見の時間ね、行って来るわ」

この時、鈴仙は気づいてしまった。
輝夜の目の奥に秘めた、決意の光に。

「社長! まさか辞任を!」

「…………」

「イナバ、人の上に立つということは、人より偉くなることじゃないの。
大いなる責任を背負うということなのよ」

「社長! ……いえ、姫様! 私は嫌です! 姫様と一緒じゃないとやりたくないんです!」

「イナバ…………うっ」

「姫様! どうしたんですか! 姫様!」

鈴仙が駆け寄るべく一歩を踏み出したと同時、輝夜は急に腹を抱えて崩れ落ちた。

「うぅ……イ……イナ……」

苦しそうに輝夜が伸ばす手を、鈴仙は静かに握った。

「誰か! 誰かいませんか!」

「…………ゴ」

「姫様! 姫さまぁぁぁ!!」

なんかゴって聞こえた気がするけど、たぶんバの間違いだと思う。
師匠のもとへと急ぐべく、輝夜を抱えて部屋を飛び出した鈴仙はそう思うことにした。

(…………絶対“バ”だって!)




───────────




「…………ん」

「目が覚めましたか」

目を覚ますと、そこは見慣れたオフィスではなく、久しく見ない永琳の寝室だった。

「ストレスで胃に腫瘍が出来ていましたので、切っておきました」

それにしても、と永琳は続ける。

「ウドンゲが姫を連れてきた時の顔ときたら、ふふ」

「死なないのに、ね」

「それだけ愛されてるってことですよ。 全く、羨ましいことです」

「失礼しま……姫様!」

「あら、噂をすれば」

盆に看病用の水と手拭いを乗せてきた鈴仙は、たたっと早足に駆け寄った。

「お加減はいかがですか」

「ありがとう、あなたと永琳のおかげで大分いいわ」

そう言って微笑んだ輝夜を見、やはりこっちのほうがいいと鈴仙は思うのだった。
普段見れないキリっとした社長輝夜もいいが、こちらがよりしっくりとくる。

「あーあ、それにしても脱線しまくってて結局異変は起こせなかったわね」

楽しかったからいいけど、と輝夜が付け加えると、永琳と鈴仙が何やらニヤニヤしていた。

「何?」

「いえね、“姫の”を記念に取ってるんですけど」

「姫様が寝てる間に、見つけましたよ」

鈴仙が指を刺す先を見つめる。
輝夜は目を凝らすと、まずその色と形を知ることができた。
やがて、それが何であるかを理解した。













「い………………胃片……」
【蝗害】

日本での発生は稀なため、漢語の「蝗」に誤って「いなご」の訓があてられたが、日本で水田に生息し、食用になる分類学上のイナゴ類がこの現象を起こすことはない。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハリー
[email protected]
http://kakinotanesyottogan.blog66.fc2.com/
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コメント



0.1450簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
何気に要所要所で伏線をちゃんと張ってるのが憎いW
面白かった。
5.100名前が無い程度の能力削除
宿敵八雲フーズはこの後、ラー油にニンニクをいれるという前代未聞のご飯のお供を開発するのであった……
7.100名前が無い程度の能力削除
この姫様好きだなぁ。
楽しく読めました。
11.100名前が無い程度の能力削除
ある意味で異変になったし、胃片も手に入った。
私も満足しましたのでいいこと尽くめですね。
12.100奇声を発する程度の能力削除
何かもう色々なとこで笑ったwww
13.80即奏削除
なにこの永遠亭凄く愛しい。
おもしろかったです。
14.100名前が無い程度の能力削除
フルスロットルだなぁ。
16.100豚」削除
ん?・・・・・ん?
・・・・ん(つ100
21.100名前が無い程度の能力削除
蝗の読みは「むしきんぐ」でいいのよね?
28.100名前が無い程度の能力削除
うどんげと一緒にはしゃぐ姫様可愛いなあ。
38.90名前が無い程度の能力削除
予想外の落ちじゃねえか……ッ!!
うどんげと姫様の名コンビが楽しく読めました。異変騒ぎでツメが甘かったのは、やはり永遠亭きっての兎詐欺が一枚かんでなかったから?
39.100名前が無い程度の能力削除
佃煮を一週間で事業化して、二週間で軌道に乗せるとは! 紫の妨害さえなければ、
そのうち幻想郷をモノポリーしかねなかった姫様の本気マジパネェっス
普段の姫様が何もしないのは、永い年月を生きた末に辿り着いた人畜無害の境地なのかもしれませんね。
42.90名前が無い程度の能力削除
テンポ良く面白い話でした。
姫様愉快、こんな姫様にならついて行きたい。
44.90名前が無い程度の能力削除
姫様ちょーアグレッシヴ!それでいて天然。実に素敵です。可愛い。
食品製造における、”流通”の重要さは計り知れません。過去、イナゴ佃煮の中にカマキリが混じっていたワタクシは特にそう思うのです。
あれ、流通関係ない?でも姫様が可愛いからいっか。
45.60名前が無い程度の能力削除
時事ネタのつもりなんでしょうが中国産=毒物混入という安易な考えを東方キャラを利用して流布させたことに心より軽蔑します。特定の思想はあなた自身で主張してください。

内容はギャグとしてはいいと思いました。これくらいはっちゃけているくらいでないとギャグとは呼べません。話の組み立ても意外性があって面白いと思います。
46.90名前が無い程度の能力削除
なんだか面白かった。