さくら、さくら
満開の桜、桜、桜、
空を覆った桜、桜、
地面さえも桜、桜、
空気も何もかも桜で埋め尽くしてしまったかのような空間
境界をぼやかしてしまう曖昧な色で包まれる、まるで自分も桜に溶けてしまう錯覚
桜の森に、出逢った
***
「新しい幻想かな?」
「さぁ……実物をまだ見ていないから何とも言えないわよ」
それが夢か現かを確かめる暇なく、魔理沙は博麗神社へ飛んでいき霊夢に報告した。
春の博麗神社、幻想郷でも上位を争う桜の名所。今までなら此処でも充分に桜を楽しめたが、桜の森に出逢ってしまった以上それはもう無理ではないかと思われた。
だが報告を受けた霊夢はいつもと変わらず暢気に茶をすすっていた。変化があると言えば若干面倒くさそうな表情で魔理沙を見つめている程度だ。その変わらない顔の意思が解らないので、こうして頬杖をつきながら眺めている。
彼女は何も考えていなさそうで、多分実際に何も考えていないのだろう。あまりに中立過ぎてこいつには知的好奇心と言うものは存在しているのだろうかと、いつも魔理沙は疑問に思う。存在しないのならば、魔理沙にとっての人間の定義からは完全に外れている。
それでも人間だし、時折人間臭いところを見せるけど、この巫女は人間とも妖怪とも根本的なところが違っているような気がしてならない。もしかしたら、何でもないからこんなにも中立で、悲しいまでに法則に囚われない存在なのかもしれない。
そんな霊夢を人間の自分側に振り向かせたくて、出逢った桜の森について話を続けた。
「だが無縁塚や紫の桜のような雰囲気も持っていたな。彼処に行ったら半刻もしないうちに気が狂ってしまいそうだった」
紫の桜、辺りに少し反応を見せて霊夢は眉間に皺を寄せた。
なんとなく、それがあの大妖怪と同じ名の桜だからかと邪推して嫌な気持ちになる。同じ人間なのに、彼女とまともに関われるのは自分ではなくてあの境界を操る胡散臭い妖怪なのだ。自分を見て、自分に興味を持ってほしいのに、彼女がそのベクトルを向ける先はいつも八雲紫でしかない。
「ほんとにそんな場所が幻想郷に生まれたなら、私も気がつくし……あいつも行動してるはずなんだけどなぁ」
「んあ、霊夢は私の言うこと信じてないのか」
たまらない不快感、それが霊夢に対するものか自分に対するものか魔理沙には判別がつかなかった。劣等感、敗北感、悔しい、悲しい、様々な負の感情が自分のなかで渦巻いている。心のうちに自身の符を放てたら、そんな嫌な感情全てを吹き飛ばせたらと自嘲した。
そんな魔理沙に気がつかないのか、どうでもいいのか、霊夢は面倒くさそうに茶を一口含んでから話始めた。
「違うわよ……別に信じてないわけじゃない。魔理沙が見たものは多分、関わっちゃいけない類いの幻想。そういうのはさっさと幻想郷の幻想にして消し去ってしまうのが一番なの」
「どういう意味なんだ?説明してくれよ」
「幻想郷は外の世界で幻想となったものを全てを留めておく訳じゃない、あんたも六十年の異変に遭遇したでしょ?
ただでさえ六十年周期で一掃される幻想、そのなかにはここにいる私たちさえ知らずに消える幻想があるわ。
私や紫が知らないのは本能か幻想郷のシステムだからか、それを認識しないようにしているせいなんじゃないかな。
魔理沙の言うその幻想は、何もかも引きずり込んで狂わしてしまう類い。幻想郷を滅ぼす一因になりかねないわ」
暗に魔理沙がそれを見つけたことを非難しているようだった。頬を膨らませて抗議するが、霊夢の指がすぐに膨らみを潰してしまった。
「責めようとか、そんなつもりじゃないわよ」
「じゃあどんなつもりだよ」
「桜は、怖いからね。忠告のつもり」
困った生徒を見ているような目付きに不満を覚えるが、相手がこっちを見ていると思うと溜飲が下がった。
このまま見続けてくれればいいのに、浅はかで歪んだ願いが生まれる。頬杖をほどき、仰向けに寝転んだ。霊夢と自分との距離がほんのすこし離れるが、その視線は絡み合って離れることがない。そして霊夢は魔理沙をつついた指を戻さずに頬をなぞって下へ降ろし、その小さな喉仏をくっと押した。
動けない。
仰向けから金縛りにあったように身体が痺れ、霊夢を見つめる瞳だけが揺れている。
霊夢の瞳が妖しく細まる。笑っているのか判りにくい。例えるなら口許を歪めたら偶然笑顔になったような顔が魔理沙の頭上にある。
喉仏を押さえたまま、霊夢の身体はこちらへ近づいた。鼻と鼻が触れあう境界線まで霊夢が顔を近づける。
思考が解らない、焦茶の瞳が魔理沙の黒曜石のような瞳に映る。近づき過ぎて口許が見えなくなったが、その瞳は細まって、たしかに笑んでいた。
「……っ」
唇を、ついばまれた。ちろりと出た彼女の舌が、魔理沙の咥内で妖しく蠢く。
彼女の唇は柔らかく、桜の味がした。儚いはずの香りが、今や噎せかえるように漂って、魔理沙の思考を霞めさせる。
「………ぁっ」
同時に喉仏に加えられる力も増していた。
霊夢の指が、魔理沙と皮膚と混ざるように食い込み続ける。唇と喉、両方から霊夢に侵入されて、苦痛なのか快楽なのか、全てが混ざりあい曖昧になってゆく。
「……ぃ、む」
彼女の名前を呼ぶはずの口は塞がれたまま。
彼女の名前に動くはずの喉は押さえられたまま。
桜の香りが、身体の境界線を曖昧にしていく。
さくらは、こわいよ?
霊夢の口は触れあっているので動いていないはず、だが魔理沙にはたしかに聞こえた。
さくらは、まりさをたべちゃうから
充満する桜の香り
絞められた喉の内側を、霊夢の舌が這いずり回る。
明らかにおかしい状況のはずなのに、魔理沙の頭は桜に埋め尽くされてぼやけていた。
「…………っ」
もはや、声を出す空気がない。肺を満たしていた空気の代わりに桜の花びらが詰め込まれている。苦しさから滲む涙さえも花びらとなって、はらはらと頬を伝う。
霊夢に、桜に、殺される
それでもいいか、桜となった魔理沙はそう思い、
【引きずられてはいけないわ、人間の魔法使い】
静かな一声に釣り上げられるように目を醒ました。
***
「……っ、はぁっはぁっはぁっ!!!」
声に導かれて飛び起きた魔理沙は、身体の上に積もった桜の花びらを散らしながら立ち上がった。
まだ動転していて、自分がどこにいるかも判らない。少しでも状況を理解しようと辺りを見回し、雪のように降り続ける花びらが空中も地面も埋めていることに気がついた。
今までみたことのない桜の森……否、魔理沙は知っている。此処は夢の中で霊夢に伝えようとした件の場所だ。どこからが現実で夢だったのか、境界が曖昧になって地面さえもぐらつくように感じてしまう。
「心地よいお目覚めかしら、黒白の魔法使い?」
「……ぁ、最悪だな」
ふらつく頭を手で支えながら、魔理沙はどこからともなく聞こえた声に応える。未だに曖昧な世界のなか、やけにその声がはっきりと聞こえるのは相手が境界を操るからだろう。
「これは、お前の仕業か……八雲紫」
「ふふ、今回は寧ろ助けてあげたのよ?感謝の言葉ぐらいは私も欲しいわ」
扇子で隠していても分かる不気味な笑みを浮かべて、八雲紫は魔理沙の目の前に音もなく現れた。
紫はそっと手をかざして魔理沙についていた桜を払う。不思議なことに紫に触れられた桜は霞のように消え、魔理沙にはそれ以上桜が積もることがなくなった。見れば紫にも桜の花びらは一切積もっていない。
(払ったというより、祓ったのか)
あの紫が何らかの処置をしなければ居たくない程度に、この空間は異常なのだろう。
「なんで、助けた」
八つ当たりにもほどがある言葉、それでも言わなければ魔理沙は自分を保てなかった。
あまりにも自分が惨めでちっぽけで、悔しかった。この幻想郷を自分の力だけで渡り歩くことができない弱さに、吐き気を催す。
魔理沙は、住む世界がもともと異なっていた。魔理沙の世界は里のなかで完成された、妖怪と共存しながらも恐怖する平凡な世界だった。
だから何もせずにいれば里で暢気に暮らし、ゆくゆくは霧雨雑貨店を引き継いで、もしかしたら霖之助とイチャイチャしあう仲になっていたかもしれない。
だがすぐ側で、自分と同い年の少女が空を飛んでいた。近所に住む姉と慕っていた少女が種族を変え、魔法使いとなっていた。
魔理沙は二人に狭い幻想郷でありながら、広い世界を提示されたのだ。可能性が夜空に散りばめられた星屑の数よりも多いと、教えられたのだ。
そして“里の平穏な暮らし”を不満として飛び出したのは他ならぬ魔理沙自身の選択だ、後悔はしていない。たしかに世界は広かった。
ただ、広すぎた。
魔法を使える素質など、素人並みにしかなかった魔理沙には全てが手探りだ。漸く手応えを掴みかけても、側にいたい少女は常に俯瞰の位置で遠くを飛んでいた。妖怪には殺されそうになり、力をつけた今でさえも手加減されているのが判った。
世界が広いのは狭いよりもいい、ただ、広すぎる世界に押し潰されそうになる。
端にしがみついているのが精一杯な自分、どれも悔しくて地団駄を踏みたくて、その感情を全て前へ進むために使って、それでもまだ楽園の巫女の側までは届かない。
「あら、助けてほしくなかったの?」
だと言うのに、放って自滅してもいいような存在のはずなのに、誰よりも彼女に近いこの大妖怪は自分を助けた。
憐れみか、施しか!!
密かに心のうちで、夢では霊夢が自分のことだけを見てくれていた暗い喜びがあった。その夢から醒めさせた、勝手に頼んでもないのに助けた、コンプレックスに嫉妬、複雑に理由が絡み合い、悔しさとはまた違う感情、どす黒い感情がこぼれ出す。
「……んなもの、私のマスパで一発だったぜ」
帽子を深くかぶり表情を見せないようにしたが、どうしても声から滲む感情だけは隠せなかった。
紫は逆に表情を見せながらも、どのような感情を持っているか分からない。
「此処の桜たちは、無縁塚よりも危険な狂気を秘めたものです。外の世界が桜の恐怖さえも忘れてしまったのか……理由はわかりませんが、流れ込んではいけない幻想なことに変わりはないでしょう」
不意に、紫と魔理沙を除いて全ての景色が揺らぎ出した。はっきりと見えていた桜が切り抜かれたように浮かび上がったと思うと、背景に霞むように境界線をなくしていく。
桜が桜足り得た境界線を、紫が操っているのだ。
「あなたは随分と自分を卑下しているようだけど、ちょっとそれは過小評価過ぎるわ」
境界を操り続けて世界を淡い桜色に変えながら、紫は魔理沙に語りかけた。
「なっ……ん!!弾幕遊びする奴等からしてみれば、私なんて本気を出す必要がない相手なのは事実だろう!」
自分の心中を知られて、顔が勝手に赤く染まる。そんな魔理沙を見て、困った子供を相手するように紫は目を細めた。
「あなたは、人間だから」
“人間だから”、その一言に今までなんとか堪えていた激情が迸る。
「人間だから、なんだ!
私は、もう進むのを止めることはできない!!進まなければ、あいつは見てくれない、世界の中心が、常に空を飛ぶあいつが、私のことを俯瞰風景の一部としか見なくなる。少しでもあいつに向かって飛ばなければ……側にいるのに取り残されるこの思い、それをお前に、いつも一番近い距離に居るお前に分かるものか!!」
紫の姿も涙で歪み、その涙を拭い続けるも止まらず、顔を擦ったせいで頬は赤くかすんでしまう。
そんな激情に身を任せてしまった魔理沙に対して、紫はどこまでも対極に冷静な声で静かに喋る。
「ヨダカの星ね……どこまでも進み続ければ星になれると、信じて疑わない」
紫の言葉は理解できなかったが、また神経を逆撫でされている感覚ははっきりと理解できる。
もう一度怒鳴り返してやろうかとやさぐれた心で考えていたら、視界に入ってきた大妖怪の表情にその全てを拍子抜けにされた。
彼女は、心底羨ましそうな顔をしていたのだ。
「私はあなたが羨ましいわ。たしかに私は彼女に最も近い妖怪かもしれない、けれどある程度の妖怪ならば年月を得れば誰だって私の位置に入ることができる」
あの花咲き婆とかあなたのお師さん、鬼や天狗がその類いね。
そう言うと紫はため息をついた。
「でも、この時代では決してあなたのような人間はもう現れないでしょう。
自ら空を飛ぶでなく箒を使い、日々研究と精進を重ねて新たな力をつける、どこまでも人間なあなた。
彼女……霊夢にはあなたみたいな存在が一番必要なの」
唖然としたまま、紫の言葉の意味を理解しようと魔理沙は首を傾げる。
実力も何もかもが足りない自分が霊夢には必要なのだと、この妖怪は言っている。
霊夢がいつも必要としていて、その存在をいつも探しているような相手が自分のことが羨ましいと言っている。
「わけが…わからん」
「簡単なことよ、霊夢はどこまでも中立だから人よりも妖怪に好かれてしまう」
「中立ならどちらからも好かれるか、嫌われるしかないんじゃないのか」
「普通ならね。でも人間は愚かだから、敵対する妖怪と同じ扱いをされることに屈辱を感じる。逆に妖怪は人間なんて歯牙にもかけないから、自分たちと同じ部分が見受けられる霊夢を好む。
だから霊夢は普段から妖怪寄りに見えてしまう。本人にその気がなくても、周りの視点からみると彼女は決して人間という括りのうちにはいない」
漸く、魔理沙は紫の言葉を呑みこみはじめた。
中立ゆえの、偏り。
半獣という身分でありながら、あえて人間の味方をしている歴史喰いとは似ているようで全く違う。
「つまり、霊夢は何もしていなくても妖怪側によってしまうというのか」
「そして霊夢自身それに気が付いているように思えない。彼女は自分に対しても同じぐらいに平等だから……言い換えれば、もし彼女が改善点を知っても動かないわ。この世界、この場所から動かず、硝子に映る自分を見るように、ただ傍観を続けるでしょう。彼女が動くのは幻想郷の天秤がどちらかに傾いた時だけなのだから」
「はん、だとしたら…もうあいつは空気と同じじゃないか。矛盾してるぜ、何よりも存在感がある博麗の巫女が空気に等しい存在なんてな」
ぱんっ、と急に扇子を閉じた紫は、それをそのまま魔理沙へと指し示した。いきなり扇子を突き付けられて驚くが、隠れていた彼女の笑みがとても満足そうで、意味がわからずまたもや拍子を抜かれてしまう。
「そう、だからこそあなたが重要な位置にいるのです。あなたは楔、霊夢が人間であるための楔。彼女に興味を示し側にいる妖怪は数多にいれど、彼女の側に居続ける人間は……あなただけなのよ」
「だ、だが咲夜や早苗だって人間だ」
「彼女たちは、既に人間を捨てている部分がある。悪魔や神に仕え、人としては有り余る能力を持っている。
あなたは、違う。あなたは自身の力を研磨し、伸ばし、修練を重ねて現在に至っている。そのすべてが人間として行われたものであり、妖怪と関わる世界に入っても人間としての立ち位置を変えなかった。あなただけが人間だった」
「か、変えなかったんじゃない!変えられなかったんだ!!私にはそれだけの力を持ち合わせていなかった!!」
納得しがたく言い放った言葉に、紫はゆっくりと首を横にふって否定を示す。
「これは力の問題ではないのよ。
今までの博麗の巫女を、私は初代から知っているわ。彼女たちのほとんどが妖怪を嫌悪していた、同時に人間も嫌っていた。だからこそ自分自身で楔をかけてどちらに流れることのない中立の立場を保っていた。だから、全てを俯瞰する霊夢は歴代の巫女のなかでもかなり特殊なの。
霊夢は…そうね、たしかに私に惹かれている部分があるのかもしれない。おそらく同じシステムの一部としての同族意識に近いものだけど、それは彼女が中立すぎるから生まれてくるもの。
彼女は浮いているから、放っておけば風に流されるようにこちら側に寄ってきてしまう。流されてしまえば中立ではなくなり、システムは崩壊する。それなのに彼女は今に至るまで妖怪になることなく人間であるのは、あなたの存在なくしてはありえない。
あなたの霊夢に強く惹かれていながらも同等であろうとしたその思いが、彼女から人間を消させていないの」
だから、それは私には決して行えないこと、私が羨望を持つもの。霊夢が一番必要とするのは、あなただという理由。
そう言い終わると、紫は再び扇子を開いて横へ薙いだ。途端に緩みきった景色の境界は紐できつく縛られるように、急速に確かなものへと戻りだす。薙いで生まれた風が収まった頃には、既に魔理沙と紫はいつもと変わらぬどこかの森に立っていた。
見渡しても、桜の気配は微塵もない。ただ青々と茂った名もない樹が魔理沙たちを囲んでいた。
「……つまり、だ。私は必要のない焼きもちを焼くなというわけか?」
「正解です。焼きもちはからかいがいがあるので私としては歓迎ですが、何事もほどほどが一番でしょう」
周囲を見て、桜を消し去ったことを確認した紫は境界線に身を沈めながらそう言った。もう何度目になるか、神経を逆撫でするような発言に、結局はお前の手のひらで踊っていただけではないのかと糾弾しようと魔理沙が口を開きかける。だがそのときには、もう紫はさよならと振る手を残して消え去っていた。
「それではまた、ごきげんよう」
「…お前がいると私はご機嫌になれそうにもないがな」
結局、別れの言葉に、皮肉を言うことが精一杯だった。
桜が消え、紫が消え、魔理沙だけが残された森に佇む。風にざわめく葉を眺めながら、今さっきまで起きていた白昼夢のような出来事を思い返した。
しばらくの沈黙、魔理沙は自分からため息を一つ吐いてそれを破る。ずっと表情を隠すために深く被り続けていた帽子を被り直し、その星屑を散りばめたようにきらめく瞳を露わにした。
そこには桜の夢にいた魔理沙の淀んだ想いはない
そこには夢から醒めた魔理沙の劣等感はない
「さて、今からでも霊夢をからかいにいくとするか!!」
地べたに這いつくばる人間として自ら飛ばず、喚びだした箒にまたがる。
記憶に残っていた桜の香りを吹き飛ばし、魔理沙は空高く飛び上がり、いつもの神社へと向かっていった。
満開の桜、桜、桜、
空を覆った桜、桜、
地面さえも桜、桜、
空気も何もかも桜で埋め尽くしてしまったかのような空間
境界をぼやかしてしまう曖昧な色で包まれる、まるで自分も桜に溶けてしまう錯覚
桜の森に、出逢った
***
「新しい幻想かな?」
「さぁ……実物をまだ見ていないから何とも言えないわよ」
それが夢か現かを確かめる暇なく、魔理沙は博麗神社へ飛んでいき霊夢に報告した。
春の博麗神社、幻想郷でも上位を争う桜の名所。今までなら此処でも充分に桜を楽しめたが、桜の森に出逢ってしまった以上それはもう無理ではないかと思われた。
だが報告を受けた霊夢はいつもと変わらず暢気に茶をすすっていた。変化があると言えば若干面倒くさそうな表情で魔理沙を見つめている程度だ。その変わらない顔の意思が解らないので、こうして頬杖をつきながら眺めている。
彼女は何も考えていなさそうで、多分実際に何も考えていないのだろう。あまりに中立過ぎてこいつには知的好奇心と言うものは存在しているのだろうかと、いつも魔理沙は疑問に思う。存在しないのならば、魔理沙にとっての人間の定義からは完全に外れている。
それでも人間だし、時折人間臭いところを見せるけど、この巫女は人間とも妖怪とも根本的なところが違っているような気がしてならない。もしかしたら、何でもないからこんなにも中立で、悲しいまでに法則に囚われない存在なのかもしれない。
そんな霊夢を人間の自分側に振り向かせたくて、出逢った桜の森について話を続けた。
「だが無縁塚や紫の桜のような雰囲気も持っていたな。彼処に行ったら半刻もしないうちに気が狂ってしまいそうだった」
紫の桜、辺りに少し反応を見せて霊夢は眉間に皺を寄せた。
なんとなく、それがあの大妖怪と同じ名の桜だからかと邪推して嫌な気持ちになる。同じ人間なのに、彼女とまともに関われるのは自分ではなくてあの境界を操る胡散臭い妖怪なのだ。自分を見て、自分に興味を持ってほしいのに、彼女がそのベクトルを向ける先はいつも八雲紫でしかない。
「ほんとにそんな場所が幻想郷に生まれたなら、私も気がつくし……あいつも行動してるはずなんだけどなぁ」
「んあ、霊夢は私の言うこと信じてないのか」
たまらない不快感、それが霊夢に対するものか自分に対するものか魔理沙には判別がつかなかった。劣等感、敗北感、悔しい、悲しい、様々な負の感情が自分のなかで渦巻いている。心のうちに自身の符を放てたら、そんな嫌な感情全てを吹き飛ばせたらと自嘲した。
そんな魔理沙に気がつかないのか、どうでもいいのか、霊夢は面倒くさそうに茶を一口含んでから話始めた。
「違うわよ……別に信じてないわけじゃない。魔理沙が見たものは多分、関わっちゃいけない類いの幻想。そういうのはさっさと幻想郷の幻想にして消し去ってしまうのが一番なの」
「どういう意味なんだ?説明してくれよ」
「幻想郷は外の世界で幻想となったものを全てを留めておく訳じゃない、あんたも六十年の異変に遭遇したでしょ?
ただでさえ六十年周期で一掃される幻想、そのなかにはここにいる私たちさえ知らずに消える幻想があるわ。
私や紫が知らないのは本能か幻想郷のシステムだからか、それを認識しないようにしているせいなんじゃないかな。
魔理沙の言うその幻想は、何もかも引きずり込んで狂わしてしまう類い。幻想郷を滅ぼす一因になりかねないわ」
暗に魔理沙がそれを見つけたことを非難しているようだった。頬を膨らませて抗議するが、霊夢の指がすぐに膨らみを潰してしまった。
「責めようとか、そんなつもりじゃないわよ」
「じゃあどんなつもりだよ」
「桜は、怖いからね。忠告のつもり」
困った生徒を見ているような目付きに不満を覚えるが、相手がこっちを見ていると思うと溜飲が下がった。
このまま見続けてくれればいいのに、浅はかで歪んだ願いが生まれる。頬杖をほどき、仰向けに寝転んだ。霊夢と自分との距離がほんのすこし離れるが、その視線は絡み合って離れることがない。そして霊夢は魔理沙をつついた指を戻さずに頬をなぞって下へ降ろし、その小さな喉仏をくっと押した。
動けない。
仰向けから金縛りにあったように身体が痺れ、霊夢を見つめる瞳だけが揺れている。
霊夢の瞳が妖しく細まる。笑っているのか判りにくい。例えるなら口許を歪めたら偶然笑顔になったような顔が魔理沙の頭上にある。
喉仏を押さえたまま、霊夢の身体はこちらへ近づいた。鼻と鼻が触れあう境界線まで霊夢が顔を近づける。
思考が解らない、焦茶の瞳が魔理沙の黒曜石のような瞳に映る。近づき過ぎて口許が見えなくなったが、その瞳は細まって、たしかに笑んでいた。
「……っ」
唇を、ついばまれた。ちろりと出た彼女の舌が、魔理沙の咥内で妖しく蠢く。
彼女の唇は柔らかく、桜の味がした。儚いはずの香りが、今や噎せかえるように漂って、魔理沙の思考を霞めさせる。
「………ぁっ」
同時に喉仏に加えられる力も増していた。
霊夢の指が、魔理沙と皮膚と混ざるように食い込み続ける。唇と喉、両方から霊夢に侵入されて、苦痛なのか快楽なのか、全てが混ざりあい曖昧になってゆく。
「……ぃ、む」
彼女の名前を呼ぶはずの口は塞がれたまま。
彼女の名前に動くはずの喉は押さえられたまま。
桜の香りが、身体の境界線を曖昧にしていく。
さくらは、こわいよ?
霊夢の口は触れあっているので動いていないはず、だが魔理沙にはたしかに聞こえた。
さくらは、まりさをたべちゃうから
充満する桜の香り
絞められた喉の内側を、霊夢の舌が這いずり回る。
明らかにおかしい状況のはずなのに、魔理沙の頭は桜に埋め尽くされてぼやけていた。
「…………っ」
もはや、声を出す空気がない。肺を満たしていた空気の代わりに桜の花びらが詰め込まれている。苦しさから滲む涙さえも花びらとなって、はらはらと頬を伝う。
霊夢に、桜に、殺される
それでもいいか、桜となった魔理沙はそう思い、
【引きずられてはいけないわ、人間の魔法使い】
静かな一声に釣り上げられるように目を醒ました。
***
「……っ、はぁっはぁっはぁっ!!!」
声に導かれて飛び起きた魔理沙は、身体の上に積もった桜の花びらを散らしながら立ち上がった。
まだ動転していて、自分がどこにいるかも判らない。少しでも状況を理解しようと辺りを見回し、雪のように降り続ける花びらが空中も地面も埋めていることに気がついた。
今までみたことのない桜の森……否、魔理沙は知っている。此処は夢の中で霊夢に伝えようとした件の場所だ。どこからが現実で夢だったのか、境界が曖昧になって地面さえもぐらつくように感じてしまう。
「心地よいお目覚めかしら、黒白の魔法使い?」
「……ぁ、最悪だな」
ふらつく頭を手で支えながら、魔理沙はどこからともなく聞こえた声に応える。未だに曖昧な世界のなか、やけにその声がはっきりと聞こえるのは相手が境界を操るからだろう。
「これは、お前の仕業か……八雲紫」
「ふふ、今回は寧ろ助けてあげたのよ?感謝の言葉ぐらいは私も欲しいわ」
扇子で隠していても分かる不気味な笑みを浮かべて、八雲紫は魔理沙の目の前に音もなく現れた。
紫はそっと手をかざして魔理沙についていた桜を払う。不思議なことに紫に触れられた桜は霞のように消え、魔理沙にはそれ以上桜が積もることがなくなった。見れば紫にも桜の花びらは一切積もっていない。
(払ったというより、祓ったのか)
あの紫が何らかの処置をしなければ居たくない程度に、この空間は異常なのだろう。
「なんで、助けた」
八つ当たりにもほどがある言葉、それでも言わなければ魔理沙は自分を保てなかった。
あまりにも自分が惨めでちっぽけで、悔しかった。この幻想郷を自分の力だけで渡り歩くことができない弱さに、吐き気を催す。
魔理沙は、住む世界がもともと異なっていた。魔理沙の世界は里のなかで完成された、妖怪と共存しながらも恐怖する平凡な世界だった。
だから何もせずにいれば里で暢気に暮らし、ゆくゆくは霧雨雑貨店を引き継いで、もしかしたら霖之助とイチャイチャしあう仲になっていたかもしれない。
だがすぐ側で、自分と同い年の少女が空を飛んでいた。近所に住む姉と慕っていた少女が種族を変え、魔法使いとなっていた。
魔理沙は二人に狭い幻想郷でありながら、広い世界を提示されたのだ。可能性が夜空に散りばめられた星屑の数よりも多いと、教えられたのだ。
そして“里の平穏な暮らし”を不満として飛び出したのは他ならぬ魔理沙自身の選択だ、後悔はしていない。たしかに世界は広かった。
ただ、広すぎた。
魔法を使える素質など、素人並みにしかなかった魔理沙には全てが手探りだ。漸く手応えを掴みかけても、側にいたい少女は常に俯瞰の位置で遠くを飛んでいた。妖怪には殺されそうになり、力をつけた今でさえも手加減されているのが判った。
世界が広いのは狭いよりもいい、ただ、広すぎる世界に押し潰されそうになる。
端にしがみついているのが精一杯な自分、どれも悔しくて地団駄を踏みたくて、その感情を全て前へ進むために使って、それでもまだ楽園の巫女の側までは届かない。
「あら、助けてほしくなかったの?」
だと言うのに、放って自滅してもいいような存在のはずなのに、誰よりも彼女に近いこの大妖怪は自分を助けた。
憐れみか、施しか!!
密かに心のうちで、夢では霊夢が自分のことだけを見てくれていた暗い喜びがあった。その夢から醒めさせた、勝手に頼んでもないのに助けた、コンプレックスに嫉妬、複雑に理由が絡み合い、悔しさとはまた違う感情、どす黒い感情がこぼれ出す。
「……んなもの、私のマスパで一発だったぜ」
帽子を深くかぶり表情を見せないようにしたが、どうしても声から滲む感情だけは隠せなかった。
紫は逆に表情を見せながらも、どのような感情を持っているか分からない。
「此処の桜たちは、無縁塚よりも危険な狂気を秘めたものです。外の世界が桜の恐怖さえも忘れてしまったのか……理由はわかりませんが、流れ込んではいけない幻想なことに変わりはないでしょう」
不意に、紫と魔理沙を除いて全ての景色が揺らぎ出した。はっきりと見えていた桜が切り抜かれたように浮かび上がったと思うと、背景に霞むように境界線をなくしていく。
桜が桜足り得た境界線を、紫が操っているのだ。
「あなたは随分と自分を卑下しているようだけど、ちょっとそれは過小評価過ぎるわ」
境界を操り続けて世界を淡い桜色に変えながら、紫は魔理沙に語りかけた。
「なっ……ん!!弾幕遊びする奴等からしてみれば、私なんて本気を出す必要がない相手なのは事実だろう!」
自分の心中を知られて、顔が勝手に赤く染まる。そんな魔理沙を見て、困った子供を相手するように紫は目を細めた。
「あなたは、人間だから」
“人間だから”、その一言に今までなんとか堪えていた激情が迸る。
「人間だから、なんだ!
私は、もう進むのを止めることはできない!!進まなければ、あいつは見てくれない、世界の中心が、常に空を飛ぶあいつが、私のことを俯瞰風景の一部としか見なくなる。少しでもあいつに向かって飛ばなければ……側にいるのに取り残されるこの思い、それをお前に、いつも一番近い距離に居るお前に分かるものか!!」
紫の姿も涙で歪み、その涙を拭い続けるも止まらず、顔を擦ったせいで頬は赤くかすんでしまう。
そんな激情に身を任せてしまった魔理沙に対して、紫はどこまでも対極に冷静な声で静かに喋る。
「ヨダカの星ね……どこまでも進み続ければ星になれると、信じて疑わない」
紫の言葉は理解できなかったが、また神経を逆撫でされている感覚ははっきりと理解できる。
もう一度怒鳴り返してやろうかとやさぐれた心で考えていたら、視界に入ってきた大妖怪の表情にその全てを拍子抜けにされた。
彼女は、心底羨ましそうな顔をしていたのだ。
「私はあなたが羨ましいわ。たしかに私は彼女に最も近い妖怪かもしれない、けれどある程度の妖怪ならば年月を得れば誰だって私の位置に入ることができる」
あの花咲き婆とかあなたのお師さん、鬼や天狗がその類いね。
そう言うと紫はため息をついた。
「でも、この時代では決してあなたのような人間はもう現れないでしょう。
自ら空を飛ぶでなく箒を使い、日々研究と精進を重ねて新たな力をつける、どこまでも人間なあなた。
彼女……霊夢にはあなたみたいな存在が一番必要なの」
唖然としたまま、紫の言葉の意味を理解しようと魔理沙は首を傾げる。
実力も何もかもが足りない自分が霊夢には必要なのだと、この妖怪は言っている。
霊夢がいつも必要としていて、その存在をいつも探しているような相手が自分のことが羨ましいと言っている。
「わけが…わからん」
「簡単なことよ、霊夢はどこまでも中立だから人よりも妖怪に好かれてしまう」
「中立ならどちらからも好かれるか、嫌われるしかないんじゃないのか」
「普通ならね。でも人間は愚かだから、敵対する妖怪と同じ扱いをされることに屈辱を感じる。逆に妖怪は人間なんて歯牙にもかけないから、自分たちと同じ部分が見受けられる霊夢を好む。
だから霊夢は普段から妖怪寄りに見えてしまう。本人にその気がなくても、周りの視点からみると彼女は決して人間という括りのうちにはいない」
漸く、魔理沙は紫の言葉を呑みこみはじめた。
中立ゆえの、偏り。
半獣という身分でありながら、あえて人間の味方をしている歴史喰いとは似ているようで全く違う。
「つまり、霊夢は何もしていなくても妖怪側によってしまうというのか」
「そして霊夢自身それに気が付いているように思えない。彼女は自分に対しても同じぐらいに平等だから……言い換えれば、もし彼女が改善点を知っても動かないわ。この世界、この場所から動かず、硝子に映る自分を見るように、ただ傍観を続けるでしょう。彼女が動くのは幻想郷の天秤がどちらかに傾いた時だけなのだから」
「はん、だとしたら…もうあいつは空気と同じじゃないか。矛盾してるぜ、何よりも存在感がある博麗の巫女が空気に等しい存在なんてな」
ぱんっ、と急に扇子を閉じた紫は、それをそのまま魔理沙へと指し示した。いきなり扇子を突き付けられて驚くが、隠れていた彼女の笑みがとても満足そうで、意味がわからずまたもや拍子を抜かれてしまう。
「そう、だからこそあなたが重要な位置にいるのです。あなたは楔、霊夢が人間であるための楔。彼女に興味を示し側にいる妖怪は数多にいれど、彼女の側に居続ける人間は……あなただけなのよ」
「だ、だが咲夜や早苗だって人間だ」
「彼女たちは、既に人間を捨てている部分がある。悪魔や神に仕え、人としては有り余る能力を持っている。
あなたは、違う。あなたは自身の力を研磨し、伸ばし、修練を重ねて現在に至っている。そのすべてが人間として行われたものであり、妖怪と関わる世界に入っても人間としての立ち位置を変えなかった。あなただけが人間だった」
「か、変えなかったんじゃない!変えられなかったんだ!!私にはそれだけの力を持ち合わせていなかった!!」
納得しがたく言い放った言葉に、紫はゆっくりと首を横にふって否定を示す。
「これは力の問題ではないのよ。
今までの博麗の巫女を、私は初代から知っているわ。彼女たちのほとんどが妖怪を嫌悪していた、同時に人間も嫌っていた。だからこそ自分自身で楔をかけてどちらに流れることのない中立の立場を保っていた。だから、全てを俯瞰する霊夢は歴代の巫女のなかでもかなり特殊なの。
霊夢は…そうね、たしかに私に惹かれている部分があるのかもしれない。おそらく同じシステムの一部としての同族意識に近いものだけど、それは彼女が中立すぎるから生まれてくるもの。
彼女は浮いているから、放っておけば風に流されるようにこちら側に寄ってきてしまう。流されてしまえば中立ではなくなり、システムは崩壊する。それなのに彼女は今に至るまで妖怪になることなく人間であるのは、あなたの存在なくしてはありえない。
あなたの霊夢に強く惹かれていながらも同等であろうとしたその思いが、彼女から人間を消させていないの」
だから、それは私には決して行えないこと、私が羨望を持つもの。霊夢が一番必要とするのは、あなただという理由。
そう言い終わると、紫は再び扇子を開いて横へ薙いだ。途端に緩みきった景色の境界は紐できつく縛られるように、急速に確かなものへと戻りだす。薙いで生まれた風が収まった頃には、既に魔理沙と紫はいつもと変わらぬどこかの森に立っていた。
見渡しても、桜の気配は微塵もない。ただ青々と茂った名もない樹が魔理沙たちを囲んでいた。
「……つまり、だ。私は必要のない焼きもちを焼くなというわけか?」
「正解です。焼きもちはからかいがいがあるので私としては歓迎ですが、何事もほどほどが一番でしょう」
周囲を見て、桜を消し去ったことを確認した紫は境界線に身を沈めながらそう言った。もう何度目になるか、神経を逆撫でするような発言に、結局はお前の手のひらで踊っていただけではないのかと糾弾しようと魔理沙が口を開きかける。だがそのときには、もう紫はさよならと振る手を残して消え去っていた。
「それではまた、ごきげんよう」
「…お前がいると私はご機嫌になれそうにもないがな」
結局、別れの言葉に、皮肉を言うことが精一杯だった。
桜が消え、紫が消え、魔理沙だけが残された森に佇む。風にざわめく葉を眺めながら、今さっきまで起きていた白昼夢のような出来事を思い返した。
しばらくの沈黙、魔理沙は自分からため息を一つ吐いてそれを破る。ずっと表情を隠すために深く被り続けていた帽子を被り直し、その星屑を散りばめたようにきらめく瞳を露わにした。
そこには桜の夢にいた魔理沙の淀んだ想いはない
そこには夢から醒めた魔理沙の劣等感はない
「さて、今からでも霊夢をからかいにいくとするか!!」
地べたに這いつくばる人間として自ら飛ばず、喚びだした箒にまたがる。
記憶に残っていた桜の香りを吹き飛ばし、魔理沙は空高く飛び上がり、いつもの神社へと向かっていった。
一番似合うキャラですねえ。
思わず応援したくなります。
紫様の胡散臭さに隠れた優しさにじんわり。
負の感情も一番強そうだし
なんかいい恥ずかしさでもない
地上に居たとしても心はふわふわと空を漂う楽園の巫女。
基本、ゆかれいむを至上とする私ですが、霊夢に重力を付与するのは
やっぱり魔理沙なのかなぁ、と納得しちゃいますね、このお話を読むと。
例え心がへし折れようと、周りに落ちているあらゆる物を無理やり支えに継ぎ足して、
不恰好でも最後には前を向く。霧雨魔理沙はこうでなくては。
紫と、彼女の言う霊夢は「人間」ではなく魔理沙を認めていますよね。
それは、とても名誉だけど、考えてみるととても危ういって事にもなる。
でも同時に、彼女(ら)が求め望んでいる事でもある。ここは、優しい空気だなぁ……
人間側でも妖怪側でもない博麗という存在ならこそ。
桜の恐ろしさと、今の話の掛け合いがいいと思いました。