貴方にこの手を握り締められた時から、私は貴方に恋をした。
それは単純で、それでも複雑で、媚薬のように私の心を狂わせた。
「…ねぇ、パチュリー?」
「なにかしら、アリス?」
恋してしまった相手はパチュリー。
自分でも意外だなぁと思ってる。
いつもこの図書館から動かない彼女になぜ恋をしてしまったのだろう。
パチュリーに手を握られた時、『嗚呼、なんて小さな手なんだろう』とか思った時にはすでに恋に堕ちていて。
その手があまりにも儚げな感じだったから、つい握り返してしまった。
あの時は本当にびっくりした。
まさかここまで発展するとは思ってなかったから。
「…この本の続きが読みたいんだけど、どこにあるかしら?」
「それ? 小悪魔に聞けば探してくれるわ。あ、小悪魔。アリスがこの本の続きを読みたいそうだから探してきてちょうだい」
「はい。これならあそこにあるはずですね。ちょっと待っててください」
「あ、いいわよ。場所案内してくれれば後は私が取りに行くから」
「いえいえ。お客様にそんなことさせられませんよ」
「…じゃあ一緒に行くわ。それならいいでしょ?」
「…まあ、仕方ないですね。ではどうぞ、こちらです」
「ええ。ちょっと行ってくるわね、パチュリー」
「……。」
パチュリーは黙って本に集中していた。
これは話しかけてもダメだなと思った私は大人しく小悪魔について行くことにした。
「…アリスさんは本当にパチュリー様のことがお好きなんですね」
「…えっ!?」
何をいきなり。
てか、なんで小悪魔はニコニコしながら私の顔覗いてんのよ。
「ふふっ。アリスさんって可愛いですね。とても反応が初々しいというかなんというか」
「貴方、…いったい何かしら?」
「いえ。アリスさんを見てるととてもおもしろくて」
私がおもしろい?
なんの冗談だろうか。
「…私がおもしろいって、どういうこと?」
「アリスさんって、パチュリー様の前だと急に口数少なくなりますもん」
「へっ?」
「それに、パチュリー様が動くたびに目で追っていますし」
「なっ?」
「パチュリー様がアリスさんに声をかけるととても幸せそうな顔してらっしゃいますもん」
そこまで言われてしまったら終わりだ。
まったくその通りであるから。
「あ…! あの、小悪魔…。パチュリーには黙っていてくれない?」
「大丈夫ですよ。私は口堅いほうですから。でも…、私がパチュリー様に言うまでもなく…」
そこでいったん切って、次に発せられた言葉は、私にひとつの勇気をくれた。
「パチュリー様は気付いておられるみたいですし」
「…う、そ…でしょ?」
「嘘じゃありませんよ。パチュリー様はずいぶん前から知っていたみたいです」
「…なに、それ。じゃあ私今までなにしてきたの…?」
「パチュリー様に会いに、でしょう? 早く行ってあげたらどうです?」
「…小悪魔」
「本なら、私が探しておきますから。ついでにアリスさんに是非読んでほしい本もいくつか用意しておきます」
「…あの?」
「少し時間がかかるので、その間パチュリー様とお話でもしてきたらいかがです?」
「ッ!? あ、えっと…、ありがとう」
「どういたしまして」
自分では気づかれていないと思っていたのに。
相手には筒抜けで。
恥ずかしいったらないわ。
でもそれ以上に、パチュリーも私のことが好き、ということが嬉しくて。
私は急いでパチュリーのところへ戻った。
「…あらアリス。お目当ての本は見つかったかしら?」
「聞いてほしいことがあるの。ちょっといい?」
「…なに? 簡潔にお願い。私次の本が読みたいの」
「…長くなるかもしれないんだけど」
「…まあ、いいわ。どうぞ、話して」
パチュリーは本を読むためにかけていた眼鏡を外して私をまっすぐにみた。
正直そんなふうに見られると恥ずかしいんだけど、ここは耐えねば。
「あの、パチュリー? 私貴方にずっと言いたかったことがあるの」
「奇遇ね。私もアリスに言いたかったことがあるのよ」
「…え?」
「実はね、私ある女の子に恋をしてしまったの」
「…パチュリー?」
いきなりパチュリーが語りだしたから、私はそれに耳を傾けることしかできなくなった。
「その女の子は人形のように肌が白くて、綺麗で、可愛くて。触れてしまったら壊れてしまうんじゃないかって思うくらいに細くて」
ねぇ、パチュリー。
それは誰のことを言っているの?
教えてよ。
「このままの関係でもよかったんだけど、私の使い魔が少々お節介でね。まったく、あの子はなんでも知ってるような目をしていたの。困っちゃうわよね」
私はいつまでその話を聞けばいいの?
その女の子って、だれ?
パチュリー。
「短い金色の髪がとてもよく似合っていて。私の心を揺れ動かすの」
「…あの、パチュリー」
「ねぇ、貴方はいつまで私を待たせる気かしら? いい加減にしないと、私最後まで言っちゃうわよ?」
「…ッ!?」
待っている?
私が言うのを待っているの?
「パチュリー、私、その…」
「ゆっくりでいいから、ね?」
「あ、…うん。あのね、パチュリー。私もある女の子に恋をしたの」
「…うん」
「その女の子、いつも図書館から動かないし、病弱だし。なんで私好きになったのかわかんなくて」
「…うん」
「でも、結構単純だったから自分でも驚いて、恥ずかしくて」
「…うん」
「このままでもいいな、とか思ったけどそれはなんとなく嫌で」
「私、パチュリーのことが好きなの」
言った。
言ってしまった。
これで返事はNOですだなんて返ってきたら、もう立ち直れないかも。
「本当に奇遇ね。私も、アリスのこと好きよ」
一生分の幸せが、ここにあるかもしれない。
もっと何かあっていい気がした。
あまりに 何もなさすぎる気がした。
けど まぁ 二人が幸せならそれでいい気もした
これぞ真理ですね、これからも頑張ってくださいな(´ワ`)ノ
これをそこで書いちゃあだめだ・・・