Coolier - 新生・東方創想話

この物語にタイトルはありません。

2010/05/18 18:30:16
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………


「巫女ー、巫女ー」

自分の名前が呼ばれてるのに、気がつき視線をそちらに向ける。
どうやら意識が完全に考え事に向いていたらしい。

「巫女、聞いているのか?」
「何、考え事をしてたのよ」
「悩みでもあるなら、私が聞くぜ」

目を見れば私の事を友人として心配してくれてることがわかる。
でもこの悩みだけは貴方にだけはいえないのよ。

「別に何も無いわよ」
「おいおい私には言えないのかよ、友達だろ」
「…」

私を友達としか見てない貴方に言える訳無いじゃない。
幼い頃から一緒にいる貴方の事を好きになった。
ずっと一人だった私の元に毎日のように来てくれた貴方を愛するようになった。

恋愛なんて初体験だからよくわからないんだけど、多分そう。
初恋ってこんな感じなのかしら。
恐らく私は貴方の事をどうしようもなく愛している。貴方を手に入れるなら全てを捨てても良い位に。
でも言えない、絶対言ってはいけない。

私は貴方を愛してる。
言葉にしたら十三文字、文字にしたら十文字。
ただそれだけの言葉を私は貴方に伝えることはできない。

「本当に何も無いのよ」
「まあ言いたくなったらいつでも言ってくれ」

私だって言いたい。
でもこれを言ったら貴方が離れて行ってしまいそうで。
怖いのよ。

貴方の私を心配するようなその視線が。
貴方の私を友人としての視線が。
貴方の私を見るときの楽しそうな視線が。

全て無くなってしまいそうで。

「多分言うことは無いわね」




                                作者不明の本より抜粋。











ある日、幻想郷に一冊の本が出版された。
阿求の元から出版されたその本は作者もタイトルも書かれておらず、黒いカバーをされ人里の本屋に販売された。

初めの頃は誰も買わなかった。
当たり前だ、何の本かまったくわからないのだ。
そんな本を買う者はいない。

しかしその異様な本を見て、興味をもった者もいた。
そうして買った者の手により、その本の内容は里に広がっていった。

その黒い本の物語は
ある巫女が、ある魔法使いの少女に恋する恋愛ものだ。
幻想郷と言えども女同士の恋愛は常識的な物では無く、もし実際にそうなってしまったら村八分になる恐れすらある。
だがその主人公である巫女の葛藤や精神的不安を書き綴った描写が素晴らしく、見ている物の心を打ったため、今人里で大流行し、今ではその本を持ってない者はいないというほどだ。

この本が大流行した最大の理由は。
主人公の巫女だ。
この巫女、この幻想郷のある人物にそっくりなのである。
幻想郷において人妖種族問わずに好かれている、幻想郷の巫女博麗霊夢に。

幻想郷の人間にとって博麗霊夢という人物は尊敬され敬われ、好かれている。
だが幻想郷の巫女は誰にでも同じ態度で接し、誰にも心を開かないことでも知られている。
といっても無愛想な訳でも無く、暗い性格な訳でも無い。
表面上は陽気で、陽気な表情をしているのだ。
あくまで表面上は。



しかし実際は違う、本当はどんな人間、どんな妖怪よりも中身が無いのだ。
中身が無いという表現はおかしいかも知れない、暗闇と言ってもいいかも知れない。

その理由は
幻想郷の巫女には代々受け継がれている能力のせいだ。

空を飛ぶ程度の能力。

この能力は重力に縛られず、何事にも、何者にも縛られない。
ようするに何も得れず、手に入れる事も出来ず、常に何も無い部屋にいるようなものなのだ。
だから中身が無い。
だからこその暗闇。

こんな能力を代々受け継ぐことにしまったには訳がある。
巫女は空を飛ぶ程度の能力とは別の博麗の巫女の能力を持つ。

博麗大結界を管理し、維持する能力を。

大結界が内からでも外からでも崩壊すれば、幻想郷は崩壊してしまう。
そして幻想郷そのものが今の形を維持するためには、博麗神社とその巫女が必要である。
そのため、巫女に逆らえる妖怪はいない。
なにしろ巫女になにかがあれば幻想郷は崩壊し、消滅してしまうのだ。
実質上幻想郷を牛耳っているのは博麗の巫女である。

だからこそ博麗の巫女には空を飛ぶ程度の能力が無ければならない。
外の世界にこんな言葉があるのを知っているだろうか。


権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する。


言うまでも無く幻想郷は巫女の手により維持されている。
しかし巫女が少し手を加える事により崩壊させることも可能なのだ。
勿論そんなことは賢者である八雲紫が許さないだろう。
たが万が一ということもある。

そこで生まれたのが空を飛ぶ程度の能力だ。
何物にも縛られない。

ようするに、欲から縛られないのだ。

権力欲があれば、幻想郷の独裁者になる巫女もいるだろう。
色欲があれば、幻想郷の管理が疎かになる巫女もいるだろう。
金欲があれば、お金のことばかりしか考えない巫女もいるだろう。

人間である以上欲から逃れる術は無い。

そのため八雲紫は幻想郷の巫女になる者の感情面の境界を操作し、代々空を飛ぶ程度の能力を持たせている。
巫女が誰の味方にもならないように。
一人で大結界を管理し、一人で死んでいくように。

この事実は人里の人間なら誰でも習うことだ。
知らない者はいない。
それを知っているからこそ、この本は売れた。

里の者は。
陽気に買い物に来る巫女を知っている。
陽気に里で食事をしている巫女を知っている。
家族を襲った妖怪を退治する巫女を知っている。

そんな巫女が実際は何も持たず、見ていないことも知っている。

そんな彼女の恋愛だ。
興味を持たない者はいない。

実際にありえないからこそ、この本は売れたのだ。


しかし今現在、
巫女があの陽気な表情の裏には何も持っていない事を知らない人間が一人だけいる。

それがこの本の相手である霧雨魔理沙だ。

何故皆知ってる事を魔理沙だけ知らないかという理由は簡単だ。
この事実を教えられる前に彼女は里からでていってるのだから知らないのは当たり前なのだ。
人里の人間も皆知ってると思ってるから今更教える人間は居ない。

だからだろう。
人を好きになる事が絶対に無い巫女に、叶う事の無い思いを向けている魔法使いがいるのは。





その本を知ったのは偶然だった。
滅多に行かない人里のカフェにたまたま訪れた時、皆が見慣れぬ黒い本を見ていて気になったのだ。
横の二人組が本の内容について話しており、ケーキを食べながら聞き耳を立てていると。

「霊夢様の恋愛本」

そう聞こえた直後、気がついたら本屋に走りその本を買っていた。
勢いで会計するのを忘れたせいか慧音に頭突きされ怒られたがまあいい。
そんなことよりもまずはこの本だ。
本を読むために急いで家に帰り、本を読む。

そしてわかった。

この本を書いたのは霊夢だ、と。

理由はたくさんある。
この魔法使いが私にそっくりすぎなのだ。
子供の頃に勘当された、黒い服装を身に纏い、大きな帽子を被り、魔法の森に住んでいる魔法使い。
ここまでなら確かに私を知る者なら誰でも書ける。
しかし一部の者しか知らない、話によったら霊夢しか知らない。
そんな話までもが本に書かれているのだ。

私と霊夢が初めて出会った時のこと。
私と霊夢が初めて弾幕勝負をしたときの会話。
私と霊夢が初めてご飯を食べた時の会話。
私と霊夢が初めてでかけた時の会話。

そんな話がこの本にはあるのだ。
何年も何年も前の事だし、あの霊夢がそんな話を他者にするとは考えられない。
きっとこれは、私に対する遠まわしな告白なのだろう。

本から手を離し、帽子のツバを掴み顔を隠す。
私の癖だ。
嬉しくて、嬉しくてたまらない時があると帽子で顔を隠す癖がある。

絶対に叶わないと思ってたのに。
絶対に言えないはずだったのに。

まさか霊夢も私と同じ事を考えていてくれたなんて。
これに答えなければ私の名前が廃るぜ。

「待ってろ、霊夢。すぐに行く」

箒を手に取り、霊夢のいる場所へ向かう。
待っててくれ。

博麗神社。
外と幻想郷の境目に建築されているここは、博麗大結界を維持する巫女が一人で住んでいる。
それが私の目的の人物、博麗霊夢の住んでいる場所だ。

先程まで掃除をしていたのか、縁側に腰かけ横に箒をおいてぼんやりとお茶を飲んでいる霊夢を見つけたので挨拶をする、
挨拶なんかより言いたいことはあるがまず挨拶だ。

「よお霊夢」
「おはよう魔理沙」

霊夢はこちらに一度視線を向け挨拶をするとまたお茶を飲み始めた。
相変わらずのお茶好きである。
お茶を飲んでいるときは誰が来たとしてもお茶を優先する困った巫女だ。

しかし今日は重大な用事がある。
いつもはただ霊夢の顔が見たい、霊夢と話したい、霊夢の存在を感じたいと。
ほとんど病気のように通い、言うことが出来ない言葉を言えずに過ごして来た。

「真剣な話がある、聞いてくれ」
「なら少し待って」

そういうと霊夢は飲んでいたお茶を飲み干し、こちらに視線を向けてくる。
相変わらず美人で、可愛くて、神々しい。

「いいわよ」
「そうか」

承諾を貰えたので、今まで言うことができなかったことをいう。
心臓が壊れるぐらいに痛い。
早く楽になりたいが、ようやく夢が叶うのだ。
少しぐらい我慢しろ私。

「まさか霊夢も私の事をあんなに思っていてくれたなんて思わなかったよ」
「何の事?」

私が霊夢を好きになった、いや思い始めたのは博麗の巫女という存在を知ってからだった。
クソ親父、いや当時は仲の良かった父親にこの幻想郷を守っていてくれる巫女の話を聞いてからだ。
最初に巫女、霊夢の存在を知った時私は彼女を偉人のような存在と思っていた。
何しろ私と同じ年齢なのにこの幻想郷を守っていてくれる偉大な巫女なのだ。
そんな彼女を私は最初ヒーローのように思った。

そして博麗神社を訪れ彼女を見た時、そのあまりの神々しさに私は畏敬の念を抱いた。
私と同じ年齢とは思えない程の力を持ち、堂々とし、大人達と接していたのだ。
私も彼女のようになりたい。
そう思いたかったが無理だった、あまりにかけ離れている。
彼女のようになるなんて不可能だ、しかし近くにいたい。
傍で彼女を見ていたい、彼女の後ろを追いたい、彼女の横に立ちたい。

しかし私はただの人里の人間だ。
そんなことが許される訳も無く、出来るはずも無い。

でももし彼女の傍にいれるなら何をいてもいい、そう考えさせる何かが巫女にはあった。
そうして私は魔法使いになることを決意した。

今のままでは絶対に彼女の傍に行くことが出来ない。
だから少しでも近づきたいがために私は魔法を習い始めた。

そして私の存在を知って貰いたいがために私はその巫女の下に通い続けた。
人里から行くのが煩わしく、父親にも毎日何をしているのだと叱られた為。
私は即座に家を出た。
あの巫女の下にいけるのならば何の未練も無かった。
そうして通い続け、ひたすら通い続けた結果。

「魔理沙、また来たの?」

とうとう名前を呼んで貰えた。
その日私は初めて巫女の名前、霊夢の名前を呼んだ。
それからも私は通い続けた。
初め神社に訪れた時、驚くほど家具や私物が無く寂しい部屋だったから、私は色々な物を持ってきた。
冬寒くならないためにあったかい布団を持ってきたり、霖之助の所から興味を持って貰えそうなものを持ってきたり、食べ物や果物なども色々持ってきた。
その中で気に入って貰えたのがお茶だ。
今まであまり飲んだ事がなかったらしいが、私が持ってきたお茶を気に入り今では何時も飲んでいる。

初めて弾幕勝負をした時は完敗であった。
手も足も出なかった。
何もかもが力不足であった。
だからこそ私は一撃に賭ける弾幕を作る事にした。

初めて起きた異変の時、私は何も出来なかった。
何しろいつの間にか解決していたのである。

私は霊夢の事を最初はヒーローのように思い、次に神様のように思い、次に尊敬する人となり。

恋人となりたくなった。

彼女の恋人になれたらどれだけ素晴らしいだろう。
身分不相応なんてことはわかっている。
今の、友人関係。
恐らく霊夢も私の事を友人と思ってくれてる程度の関係でさえ奇跡のようなものだ。

しかし私の感情は友人でも、親友なんかでも足りなく。
私を見て欲しかった。
私という人間を見て欲しかった。

そんなことは絶対ありえない。
そんなことはわかってる。

しかし絶対にありえないと思っていた夢が突然目の前に舞い降りた。
この本の作者は霊夢に違いない、この本の内容は霊夢に違いない、と。




「この本だ」

先程里で仕入れ、先程まで読んでいた本を霊夢に見せる。
そうすると霊夢は。

「……?」

不思議そうな顔でその本を見ている。
どういうことだ。この本は霊夢、お前にしか書かけないはずだ。
霊夢と私以外に知ることの出来ない話もあるというのに。

「里で大流行している恋愛本だ、作者は霊夢お前だろ?」

何故不思議そうな顔をする。
何故首を傾げる。
お前で無ければ誰が書いたというのだ、私の夢は所詮夢なのか?

「恋愛?」
「ああ巫女と魔法使いの恋愛本だ」
「あーあれね、恋愛、恋愛か」

一拍置いて、だらだらした声から一転し、はっきりとした口調は冷然と言い渡す。

「気持ち悪いわね」
「えっ?」

気持ち悪い?
どういうことだ?
言い間違いか?
いつもと違う冷たい言葉が続く。

「恋愛なんて他人と分かり合わないとダメだし、他人と愛し合わないとダメなんでしょう。
そんなの吐き気がするわね」

おいおい何を言ってるんだよ。
そんなこと霊夢が言ったら私はどうなるんだよ。
私の気持ちは間違ってて気持ち悪くて吐き気がするようなものなのか?

「で、でも恋愛って良いと思わないか」
「思わないわね、考えるだけで気持ち悪いわね」

畜生、畜生、畜生。
霊夢の言葉を聞き被っていた帽子を掴み顔を隠す。
身体が震える、涙が止まらない。
なんでだよ。
なんでそんな事を言うんだよ。
私がお前にどんな感情抱いているか知っててそれを言っているのか。
やっぱりこれはおかしな感情なのか。
墓場まで持っていかないとダメなのか。

じやあ誰なんだよ。
霊夢お前が恋愛を気持ち悪い、吐き気がするなんていうなら誰がこれを書いたっていうんだよ。
こんなことならここに来なければ良かった。
里でこの本を買わなければ良かった。
畜生、畜生、畜生。

「魔理沙」

声をかけられるがとても返答できるような状況では無い。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
自分の中で何かが暴れまわっている。

「どうしたの?」

今の私の声は聞かせたくない。
今の私の顔は見せたくない。
今の私の思いは言いたくない。
畜生。
畜生。
畜生。

「疲れてるの?」

霊夢は急に私を抱きしめた。
私の事を心配してくれてるのだろうか、しかし違う。それは違う。
私は身体をよじり暴れたが、霊夢の腕は解けなかった。

「離せ」

突然態度のおかしくなった私を心配してくれているのはわかる。
しかしこれは違うのだ。
こんな事をされたら期待してしまう。

「疲れてるのよ、一度寝なさい」

霊夢がそういうと急に頭がぼんやりとし瞼が閉じてきた。
畜生、また何か仕掛けやがったな。










寝かしつけた魔理沙の頭を膝の上に乗せる。
膝枕という奴だ。

私は博麗の巫女である。
といっても先代の博麗の巫女とは何の繋がりも無い。
先代の巫女が死んだ時、私はどこからか連れてこられてここにいるように命じられた。
拒否権は無かった。
それに昔の暮らしは思い出せないが碌な生活では無かったため、私は承諾した。

そうして巫女となった私は大結界の管理の仕事を学ばされ、巫女の教えも学ばされた。
いや植えつけられた。

博麗の巫女たる者、常に平等にあるべし。

その教えを。
それから私は人間や妖怪に平等に接し、同じ態度を取る。

成長し、異変が起きる度に知り合いは増えていったが。
紅魔館の奴らも、永遠亭の奴らも、幽界の奴らも地底の奴らも、幻想郷の巫女という者がどういう者か知ってて、勝手にやって来るだけだ。
私自身は、ただぼんやりと。
今はお茶を飲んで過ごしていただけだ。

誰が来ても何も感じ無いのだから、誰にでも同じような態度で接して適当に相手をし、それを向こうが勝手に楽しんだ。

時折自分が巫女で無ければと思うこともあるが。
無かったとしたら私の周りには誰もいない気がする。
幻想郷の巫女ということで皆が寄って来ているだけなのだから。

そう考えれば色々な者に関われる私は恵まれているのかも知れない。
例え幻想郷の維持のための生贄だろうと、死ぬまで一人だとしても。
元より他者の事などどうでもいいのだ。

一人でいることが当たり前なら、一人でいる事は簡単だ。
私の元に来る奴らも皆それがわかってて、私の元に来ている。

いや来ていたはずなのだが。

「…れ…ぃむ…」

この膝上の少女はどうやらそれを知らないらしい。
幻想郷の者なら知ってるはずの私の事を知らないらしい。

他者と関わろうとしても何も感じない私の事を知らず。
必要以上に干渉すると気分が悪くなる事も知らないらしい。

貴方が来る度に気分が悪くなることを魔理沙は知らないのだろう。
今膝の上で眠る貴方を見るだけで殺したいぐらい気分が悪いのだ。
もし今首を絞めたらこの少女はどういう反応をするだろうか。
必死に抵抗するのだろうか、それとも抵抗しないのだろうか。

自分でも何でこんなことをしているかわからない。
もし殺したとしてもきっと魔理沙は事故で死んだとか行方不明という扱いになるのだろう。

「…ぁ…ぃし…るぜ…」

この子がどんな気持ちを私に抱いてるかは初めて会った時から知っている。
初めの頃の憧れの目、尊敬の目なら特に何の問題も無かったのだ。
しかし時が立ち、友人を見る目になってからは気分が悪くなってきた。

今ではもう近くにいるだけで殺してやりたいぐらい気持ち悪い。
理由はわかってる。
巫女の教えに相反した存在だから心が拒否反応を起こしているのだ。

髪を撫でる。
気分が悪くなるが我慢する。
相変わらず丁寧に世話をされているか綺麗な髪だ。

「邪魔するわね」
「邪魔するなら帰れ」

折角人が楽しみ、気持ち悪がってたというのに。
唐突に現れたそれはいつも言葉ではお邪魔しますなどというが、私の返事を聞く前に近くに現れる。
建前だけの挨拶などはいらないのでは無いだろうか。
こいつの存在を目にすると、ひどく胸がむかむかする、いらいらする。

「こんにちは霊夢」

返事をしなかっただろうか、いつのまにか目の前に回りこまれて。
目線が合い挨拶をされる。
畜生、これでは無視することもできない。
私はこいつが大嫌いなのだ、幻想郷を包む博麗大結界の提案者の一人であり、幻想郷の創造にも関わり
今現在も結界の監視や安全管理を行っているこいつ、八雲紫が。

「…こんにちは紫」

しかし巫女たる者、こんな奴相手にも普段と変わらない対応を取らねばならないのだ。
そうして不本意ながら嫌々挨拶をすると、紫は隙間から一冊の本を取り出した。
こいつも知っていたのか。

「本を読んだわ」
「大ヒットらしいわね、印税が楽しみだわ」
「ねえ霊夢」
「なに」
「この本の内容は本当?」

やはりそれに触れてきたか。
私は八雲紫に空を飛ぶ程度の能力を持たされ、なおかつ境界も操作されている。
その私がこんな本を書いたのだ。
本当だとしたら幻想郷の危機になる可能性すらある。
しかし、違う。
そんなことはありえない。
今もこんなに気持ち悪いし、気分が悪いし、吐き気すらするのだ。
そんな私の答えは決まっている。

「本当の訳無いじゃない、あんたがそうしてるんでしょ」

感情の境界を操作されてる私が他の者を好きになれるはずは無い。
魔理沙に好かれてることも、愛されていることも知っている。
しかしだ。

私は私の膝枕で寝ている魔理沙の存在さえ煩わしいと感じてしまうのだ。
そんな私が魔理沙に思いをよせているなんて事は絶対にありえない。

「じゃあどうしてこれを書いたの?」
「ただの夢の話よ」

私は夢の内容を日記に書く癖がある。
そして毎日のように見ている魔理沙との夢を書いていたのだが、それを「友達になれそう」とかいうふざけた理由で時折、ここに訪れるさとりが「本にしたらどうですか、売れると思いますし生活費になりますよ」等と勧めてきたのだ。
私はその勧めに従い、夢の話をまとめた本を阿求に投げ渡し売れそうなら売って、無理そうなら捨ててと頼んだのだ。
自分でもどうしてそんなことをしたかわからない。
生活費と言っても私はお金に困っていないというのに、何故本にしようと思ったのだろうか。

「夢か、そうね人を好きになることが無い博麗の巫女がこんな事を思うはずが無いわよね」
「勿論よ、でももしかしたら、その本みたいになった可能性もあるんでしょうね」

最近ふと考えることがある。
私が巫女で無く、この能力が無ければどうだったのだろうか、ということを。

もしこんな能力さえなければ魔理沙と共に歩めた可能性もあるのだろうか。
能力が無ければ魔理沙は私の下に来なかったかも知れないが。

しかしそれはあくまで「もし」のはなしだ。

実際の私は一人で。
ずっと結界の管理をして。
ずっと一人に過ごして。
時折異変退治をし。
私の元によってくる者達をどうでもいいと思いつつ適当に話を合わせる。

それが現実だ。
これが幻想郷の巫女が今まで絶対権力者であった理由だ。

私が結界の管理を放棄したら幻想郷の結界は無くなる。
私が誰かと共にいたらその者のためにしか動かなくなる。
私が異変を退治しなければ、幻想郷のバランスが崩れて大変なことになるだろう。
私が巫女で無ければ私の元によってくるものもいないだろう。

「膝枕なんてよく出来るわね、気分が悪くて仕方が無いでしょ」
「ええ、すぐにでも捨てたいぐらい気持ち悪いわよ。でもね、こいつだけは手放したくないのよ」
「ふふふ…あははははは…今代の巫女は優秀ね。今までならとっくに追い出してたというのに私の能力にそこまで逆らえるなんて」

やはり今までの巫女にもいたのか。
こんな状況に陥った巫女が。

気持ち悪くて気持ち悪くて仕方が無いのに、手放せない。
そんな状況に陥った者が。

畜生、だからこいつは嫌いなのだ。
幻想郷の事を愛してるが巫女の事を結界維持のためのただの道具としか思ってないこいつが。

「これからも幻想郷を頼むわね、では御機嫌よう」
「二度と来るな」

八雲紫は隙間に潜り部屋から気配が無くなり、いらいらが収まる。
膝の上の魔理沙の髪をもう一度撫で、気持ち悪くなる。
私はいつまで我慢できるのだろうか。
すぐにでも手放したいが、手放せない。
私の中の何かがそれを拒否する。
しかしこの気持ち悪さから開放されるには魔理沙を手放すしかない。


「私はどうすればいいんでしょうね」


答えが見えない。
「霊夢」
「起きたの? さっきはごめんなさいね」
「いや実は…その…途中で目が……」
「……」
「なあ霊夢。私は…」
「気持ち悪い」
「……」
「私は絶対そう言うわよ」
「そう、か…」



読んで頂きありがとうございます。
というわけでレイマリです。
なんか違う気もするけれど、霊夢の能力と性格ってこういうことなのでは無いだろうかという考えで書きたいように書きました。


誤字や指摘や評価をよろしくお願いします。


すみません間違えて同じ文二回繰り返されてました、申し訳ありません。
誤字訂正しました。
ケチャ
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コメント



0.2340簡易評価
13.50コチドリ削除
作品は当然作者様の物、そしてコメントは……ということで、私見をば。

無為自然、老荘思想の権化たる博麗霊夢がこんな雁字搦めの状態じゃ、
可哀想でとても見ていられないんだぜ。

大を救うため小を切り捨てる紫様、その矛盾には残念ながら同意するが、
その他の描写は許容できないんだぜ。
18.70名前が無い程度の能力削除
誰に対しても平等、という設定を霊夢の人格そのものを
指すと解釈するなら他者への感情が欠落した一種のサイコパスの
ようで薄気味悪い、と以前から思っていたのでこの作品は中々。
しかし紫はこの手の二次創作で悪役にするには最適だなあ。
20.90名前が無い程度の能力削除
空を飛ぶ程度の能力の「空」はとても悲しい読み方なんじゃないかと常日頃から思っていた、俺得な文でした。主要キャラが役にドンピシャリとハマっていて、イメージの中の幻想郷でありそうな一コマを堪能させてもらいました。
21.100名前が無い程度の能力削除
いいですね、霊アリ厨の私の心がぐらつきましたよ
縛られいむと恋色魔法使いの今後への妄想が膨らむ
24.60削除
ケチャさんはこういうのうまいっすよね
でもあまりにも悲しすぎるんで点数少なめwww
25.10名前が無い程度の能力削除
気持ち悪い
30.100名前が無い程度の能力削除
「霊夢」と「博麗の巫女」としての間が見え隠れするような、そんな感じ。
本当に霊夢は何者にも縛られない。
けどそれと同時に雁字搦め。
どこかで「霊夢」として進むのか、「博麗の巫女」として離れるのか…
そんな決断が待ってるのかな。
40.80名前が無い程度の能力削除
「空を飛ぶ鳥は自由などではない。空を飛ばねば生きられないという鎖に縛られているのだ」という言葉を思い出した。
46.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。個人的にすごく好きなタイプの話。

霊夢の心の書き方が上手いなあと感じました。割と非道な紫も紫で良い味出てます。


非常に続きが気になる終わり方でした。
48.90名前が無い程度の能力削除
いい・・・かな?
53.90名前が無い程度の能力削除
いいかも
57.90v削除
「霊夢」が見る恋の夢。
どこまでも遠いけれど、近付こうとする事は出来る。
それを続けられるかどうか……なんだか続きがあるならとても読みたいです。
妖怪は伝え聞き、人里を出た人間でなければ、彼女からすれば本当に素直に近付いているとさえ思えない。
もどかしさが良いのだけど、やっぱ進んで欲しいっすな……。
61.100名前が無い程度の能力削除
その気持ち悪さは、もっと別の感情なんだと教えてやる奴がいれば……
でも、そうなると「博麗霊夢」じゃなくなっちまうんだろうなあ。
62.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです
いつか霊夢が魔理沙を拒絶する形で破綻するんだろうなぁ
67.100名前が無い程度の能力削除
\すげえ!/
69.90名前が無い程度の能力削除
ちょっと思った
もし霊夢の力が衰え、代わりの巫女が連れてこられるまで魔理沙との関係が変わらなかったらと
いつか枷が外されることを願う
73.100名前が無い程度の能力削除
素敵なレイマリ。