Coolier - 新生・東方創想話

ノーレッジ袋

2010/05/15 22:55:11
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 いつものようなぽかぽかした陽気の中、二人の少女が神社近くの森を散策していた。
「いい天気だな! 今日は豊作の予感がするぜ!」
 白黒の魔法使い、霧雨魔理沙。
「ふふ、いいものが見つかるといいね」
 そして灰色のダウザー、ナズーリンである。
 聖輦船の事件のときに戦った二人だが、その後ネズミ対抗紅魔館チキンレースなる謎の催しで再会し、トレジャーハントという趣味で意気投合し、色々あって現在に至る。
 探すナズーリン、調べる魔理沙で割と息が合い、今日はこの外の世界のものが比較的よく落ちている神社近辺を捜索してみることにしたのだ。
「むっ、反応が。たいして大きくない反応だけど……」
 ディテクターに引っかかった反応を、眉根を寄せてナズーリンが吟味する。
「ふむ、まぁ千里の道も一歩からって言うぜ。とりあえず行ってみないか?」
「うん。魔理沙が見てみたいならいいよ。行ってみよう」
 そうして反応のあるほうへとホイホイ向かったのであった……。
 そして、そこで二人が見たものとは。
「うん? なんだこれ、スペルカードかな?」
「スペカにしちゃあなんか変だぜ。配色とか、何より判で押したみたいに綺麗な字が……なになに? ノーレジ袋? 『ノーレジ袋』!?」
「ど、どうしたんだ魔理沙!」
 無造作に地面に落ちていたカードを見て目を見開く魔理沙に、ナズーリンが驚いた。
「ああ……ナズー、私はとんでもないことに気づいてしまった」
「い、一体何に気がついたというんだい」
「まず、この『ノーレジ袋』という単語に『八ッ場ダム』という言葉を加える」
「ふんふん」
「そしてこのうち『八場ダム』の部分はノイズと考えられるのでこれを抜く」
「うん?」
「出来る単語は『ノーレジ袋ッ』。これを自然に並べ替えると『ノーレッジ袋』となる。つまり、このカードは『ノーレッジ袋』という存在を示唆していたんだぜーーっ!」
「いやそのりくつはおかしもがっ」
 ツッコミを入れるナズーリンの口を、魔理沙が幻想郷1、2を争う手の速さで塞ぐ。
「馬鹿そこは『なんだってー!』だ。これができないとこの業界生き残っていけないぜ」
「ご、ごめん」
 仲良しの魔理沙にたしなめられ、しゅんとうつむくナズーリン。
(むう、かわいいぜ……)
 きゅんとしてしまうのもやむなしであるが、さすがにこのままで放っておく道理は無い。
「あー、まぁそんなに真面目にとらんでくれ。世の中ノリも重要だぜってこった」
「……うん。魔理沙を見てるとわかる気がするよ」
「なんか引っかかる言い草だな……」
 腕組みをして考える魔理沙にくすりと微笑みながら、ナズーリンは尋ねる。
「で、ノーレッジ袋って何なんだい?」
「うむ、なんだろうな」
 存在が示唆されようが、それが何かわからないのでは意味がない。
「思うにこれは紅魔館の魔女、パチュリー・ノーレッジと関係するのではないだろうか」
「おお、さすがナズー。するどいぜ」
 そう、名前と言う共通点に気づいたのはナズーリン。
 名が大きな意味を持つ幻想の世界において、名称の一致というものはことさらに大きな意味を持つ。
 これは有力な意見に違いないだろう。
「しかし、ノーレッジ袋とはパチュリーの何なのか……」
「パチュリーのことだ。きっとすげえもんが入っている袋に違いないのぜ!」
「お宝か! 魔女のお宝、なかなか気になるものだね」
「おう、早速行こう。かの地、紅魔館へ!」


 ――紅魔館、大図書館。
 知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジが日がな本を読んで過ごす場所である。
「むきゅー(本当は恐ろしいグリム童話マジこええ)」
 幽雅にページをめくりながら、紅茶に口をつけた瞬間に、天窓が音を立てて破砕された。
「邪魔するぜー!」
「わっほー」
「むきゅ!?(なにごと!? なにごと!?)」
 慌ててパチュリーが立ち上がると、魔理沙とナズーリンのネズミコンビが、スタッと着地する。
「しばらくだな、パチュリー。今日はノーレッジ袋をいただきに来た!」
「むきゅー!?(ノーレッジ袋!?)」
 いきなり宣言された謎の袋に、パチュリーは狼狽する。
(ま、まさか、アレのこと……? アレは来年に向けて、内密に開発していたもの。なんで情報が漏れているの……!?)
「ふふん、どうやら心当たりがあるようだな」
「むきゅ……(くっ……)」
 口をへの字に曲げて眉根を寄せるパチュリーを見ながら、ナズーリンがもっともな疑問を口に出す。
「それよりも魔理沙、なんであの人むきゅーとしか言ってないのに、会話が成立しているんだい?」
「ん? ナズーは知らないんだったか」
 魔理沙が手早く話す。
「あれは『無窮の法』。喘息でスペルを唱えきれないのが悩みだったパチュリーが最近編み出した魔法だ。『むきゅー』の言葉一つにあらゆる意味を込めることができるという優れものらしい」
「なぜむきゅー……」
「むきゅー(むきゅーは良いものよ。心が洗われるわ)」
「そうなの!?」
「まぁそれはともかく、ノーレッジ袋を渡してもらうぜ」
 魔理沙がずいと一歩前に出る。
「むきゅー(ふん、あなたなんかにあの袋の秘密を暴かれてたまるものですか。本気で行くわよ!)」
 そうして、七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジは本を構えて戦闘態勢に入る。
 だが……。
「その本、本当は恐ろしいグリム童話だよ」
「むきゅー(まちがえた)」
 改めて、魔導書を取る。
「むきゅー!(――、火水木金土符『賢者の石』!)」
 パチュリーの周りを、五色の石の想念が旋回し始める。
「おおっ!? 最初から飛ばすじゃないか。ナズー、お宝の反応はわかるか!?」
「うーむ、何しろここには玉石混交ではあるがお宝クラスの書籍が多い。異質とはいえ、色々な反応から一つのものを探り出すには少し時間がかかると思うが……」
「よし、私が時間を稼ぐ! その間になんとか見つけるんだ!」
「わかった!」
 ナズーリンが力強く頷く。
「行くぜー、儀符『オーレリーズサン』!」
 魔理沙も対抗して四色の回転体を出すと同時に、ナズーリンが本棚の影へと走る。
「むきゅー(行かせないわ! ――)」
 パチュリーが詠唱すると、赤と緑の石が飛んで、ナズーリンを追跡し始めた。
「な! そんなのアリかよ!」
 魔理沙がレーザーで撃墜しようと試みるが、しかし当たらず。
 精密射撃は得意とするところではない。二つの石もまた、本棚の影へと消えていった。
「くっ、だが、先にお前を倒せばいいんだ。残りの石は三つ。こっちのオーレリーズサンが数で上回るぜ!」
「むきゅー(フ、甘いわね。本物の魔法使いの力、見せてあげるわ……!)」


 ナズーリンは低空飛行しながら、ディテクターをかざして反応を探っていた。
「うーん、何か隠し部屋のようなものが? いや、本の中にダミーがあるというセンも……」
 止まって、今度はペンデュラムを持ちだして方向を定めようとしたとき。
 赤と緑の石が飛来してきた。
「おおお!?」
 二つの石がナズーリンを仕留めんと弾幕を吐き出してくる。
「くっ……守符『ペンデュラムガード』!」
 五つのペンデュラムの想念が具現化し、ナズーリンの周囲を回りながら弾幕を防いでいく。
 それにしても周囲を何かに回らせるのが好きな方々である。
「これをさばきながら見つけなきゃいけないわけか……。これは骨だね」
 そうしてナズーリンは、少しの時間が惜しいとばかりにバックステッポで飛び去っていった。


「むきゅー(ふふふ……最初の勢いはどうしたのかしら?)」
「くっ、やはり手数勝負じゃつらいぜ……」
 魔理沙も回転体から弾を打ちまくるが、通常の技も織り交ぜてくるパチュリーに一歩押されている。
 貫通性の高い技も放ってみるけどグレイズされては意味がない。
 そうこうしているうちに、オーレリーズサンが消えてしまった。
「……だから私はこれだけは、最後まで取っておくんだぜ……! 恋符ッ……」
「むきゅ(マスタースパーク!?)」
 魔理沙の切り札と聞いて、とっさに身構えるパチュリーだったが。
「『ノンディレクショナルレーザー』!」
「むきゅ!?(そっち!?)」
 イメージ戦略に長けた魔理沙ならではのミスリード。一点集中に備えていたパチュリーを、独特な軌道の五本のレーザーが襲う。
 そして、そのうちの一本が……


「くっ、しつこい石だな……。本当に珍しい石なら大歓迎なのに……」
 逃げながらガードしながら探索するという器用な真似をしていたナズーリン。
「ん、何かしら本とは違うっぽい反応が見つかったぞ。そこの……壁か!?」
 そしてその場所を見据えた瞬間に、魔理沙のレーザーの一本がそこに突き刺さった。
「うわ!?」
 隠し扉があらわになって、壁が崩れる。中には、確かに空間があった。
「ビンゴか。中身は無事かな?」


「むきゅ!(しまった!)」
「戦闘中に余所見は負けフラグだぜー!」
「むきゅうううう!」
 崩れた壁に気をとられ、避けることがおろそかになったところに、魔理沙のレーザーに被弾。
 チーム・ネズミーの勝利であった。


「で、いかにもな宝箱があったわけなんだが」
「いかにもな宝箱だなぁ」
 隠し部屋からナズーリンが取り出してきたのは、小さないかにもな宝箱。
 ここに目的のものがありますよ臭がぷんぷんしている。
「よし、じゃあ開けるぜ!」
「うん!」
 そして、中に入っていたのは、笑顔のパチュリーが描かれた紫色の袋。
「こ、これがノーレッジ袋なのか!?」
 そうして魔理沙が取り出したそのとき。

『むーっきゅっきゅっきゅ!』

 響き渡る笑い声のような何か。
「……」

『むきゅっ! むきゅっ! むきゅっ! むきゅきゅきゅきゅ!』

「なにこれ」
 ナズーリンの目が点になる。
「おいパチュリー。これはなんなんだぜ?」
 弾幕勝負に敗れてリアルむきゅー状態のパチュリーに、魔理沙が問う。
「むきゅー(何って……来年の新年会に向けて極秘に開発中だった笑い袋よ。無駄に無窮の法を活用して、ありとあらゆる笑い声の意味を込めるという無駄に贅を尽くした無駄のない無駄な笑い袋に仕上げる予定なんだけど、どうにも無機物の音に意味を込めさせるところまでいかなくてね)」
 パチュリーの説明を受けて、魔理沙はナズーリンに向き直る。
 そして、どちらからともなく肩をすくめ、笑った。
「ぷっ……」
「ハハッ」

『むきゅんむきゅんむーっきゅっきゅっきゅー!』
(うるさい……)
(うるさい……)


 冒険――それは、ハズレもある福袋である。


 『ノーレッジ袋』 劇終
むきゅー
ナルスフ
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コメント



0.2350簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
むきゅー(ノーレジ袋ってなんだろう。マイバック?)
3.100奇声を発する程度の能力削除
むきゅー(ノーレジ袋欲しいかも…そして、落ち込んでるナズ可愛いよ!
5.100名前が無い程度の能力削除
むきゅー(恐らく、スーパー等で「レジ袋いりませんよ」の意思表示に使う、ラミ加工の紙ではないかと推測。あと、グリム原典はマジ怖いよね。)
7.80ぺ・四潤削除
むきゅー(『八ッ場ダム』はやんばと読む。つまりノーレッジではなくノーレンジ袋ということだったんd(略))
むきゅっきゅー(バックステッポって。やべえ妙なところでツボにきたww)
なずー!(しょぼんとするナズーリン可愛いよ!!)
8.100名前が無い程度の能力削除
むきゅー(ナズマリコンビは良いな)
9.100名前が無い程度の能力削除
むきゅー?(これ、何なんだろう?)
むきゅ?(ほのぼのなのかギャグなのか……面白かったけど)
11.80名前が無い程度の能力削除
むきゅー(むきゅーしか言わないパチェに萌えた)
15.70名前が無い程度の能力削除
展開って強引であればあるほど、諦めが付くよね。
17.80名前が無い程度の能力削除
むきゅー(パチュリーにとっておきの怪談本をプレゼントしたい)
22.80風峰削除
むきゅー(ラストのグルグルネタ使いたかっただけだろ! それにしてもナズマリコンビはいいな!)
25.無評価ナルスフ削除
むきゅー(コメントありがとうございます。いくらか返信させていただきます~)

>恐らく、スーパー等で「レジ袋いりませんよ」の意思表示に使う、ラミ加工の紙ではないかと推測
むきゅー(そのとおりでございます)

>グリム原典はマジ怖いよね
むきゅー(がくぶる)

>『八ッ場ダム』はやんばと読む。つまりノーレッジではなくノーレンジ袋ということだったんd(略)
むきゅー(ノーレンジで検索したら愛媛県のバンドが。ちなみに私も愛媛県民というどうでもいい情報)

>これ、何なんだろう?
むきゅー(私は昔から何のジャンルなのかわからないものをよく書いてしまうみたいなのです。自分でもたまに何なんだろうと頭をひねります)
31.100削除
むっきゅっきゅ(むっきゅっきゅ)
37.100名前が無い程度の能力削除
むきゅー(ワロタwwww)
38.100名前が無い程度の能力削除
むきゅー(なぁにこれぇ)
39.100名前が無い程度の能力削除
むきゅん(愛媛・・だと?)
50.100名前が無い程度の能力削除
むきゅー(こういう話もなかなかw)
63.90名前が無い程度の能力削除
むきゅー(>>15空気嫁)