Coolier - 新生・東方創想話

ある日の八雲家

2010/05/13 22:17:03
最終更新
サイズ
7.84KB
ページ数
1
閲覧数
1426
評価数
2/17
POINT
820
Rate
9.39

分類タグ


 ここは幻想郷のどこかにあると言われているが住んでいる人以外はどこにあるかもわからない不思議なお家マヨヒガ、ここには三人の家族が住んでいます。
 寝てばかりでグータラのおばあ……ぐわぁ!? なにをする! やめ……
 ……失礼いたしました。
 寝てばかりでグータラですが若々しいおかあさ……ひぃ!? すんません、すぐ直します! ですから隙間送りだけはご勘弁を……
 何度もすみません。
 眠ってばかりでグータラですが若々しくてお美しい一番上のお姉さん、しっかり者の真ん中のお姉さん、そして二人とは歳の離れた一番下の妹。そう、八雲家は家族なのです。 今日はそんな彼女達のある一日を覗いてみることにいたしましょう。

八雲家の朝は早い。とはいえ起きているのは真ん中のお姉さんだけですが……おや? 今日はいつもとは違うようです。
「ふぁ……おふぁよう、藍」
 綺麗な金色の髪と和装のパジャマ姿がどこか艶やしい美しさを持っている一番上のお姉さん、八雲紫さんです。この時間に起きている彼女に出会えるのは滅多にあることではありません。
「おはようございます紫さま、朝に起きておれらるとは珍しいですね」
 こちらは真ん中のお姉さん八雲藍さん、紫さんと同じく美しい金色の髪ですがこちらは短く切りそろえています。そして厚手の導師服を着ていますがその胸元の破壊力は厚手の服でも隠しきれていません。紅い館のメイド長さんが三日三晩涙で枕をぬらして神様に与えられなかったものの悲哀を嘆き続けたという最終兵器です。
 ちなみに、一番上のお姉さん、紫さんは夜行性なので基本的に朝から晩まではぐっすりと眠っています。ひょっとしたら今から寝るのかもしれません。
「それがねぇ、昨日の晩は寝過ごしちゃったら今起きたのよ」
「はぁ、それはまた随分豪快な寝坊ですね」
 違いました。流石は大妖怪、常に私達の予想の斜め上を行っておられます。
「しかしそれでしたら朝食はお召し上がりになりますか?」
「ええ、頂くわ。藍のご飯は美味しいもの」
「では仕度をいたしますので少々お待ちください」
 料理の腕を褒められても照れるわけでもなく淡々と仕事をこなす藍さん。え? 照れてるって? どれどれ……あ、九つの尻尾が嬉しそうに揺れています! なるほど、これはわかりやすいですね♪
「ごめんください」
 紫さんが食事を待っていると玄関から声が聞こえてきました。とはいえこのマヨヒガの場所を知っているものは限られていますし彼女達にとっては慣れ親しんだ相手の声です。
「ああ、橙か、少し待ってて……」
「いいわ藍、私が出るから。今は手が離せないんでしょう?」
 調理中の藍さんに代わり紫さんが玄関に向かいます。
「あ、紫さま。おはようございます!」
「ええ、おはよう橙。今日も元気そうね」
 玄関に立っていたのは赤い服と緑の帽子、そして頭の耳と二股に分かれた尻尾が特徴の健康的な少女、八雲家の一番下の妹、橙(ちぇん)ちゃんでした。ですが彼女はこの家に住んでいる訳ではありません八雲の家は規則が厳しい家なので妖怪としてまだ未熟な彼女は苗字を名乗ることとこの家に住むことが許されていないのです、厳しいものですね。
「はい、ありがとうございます! ところで藍さまは……」
「ゴメンね。藍は今食事の支度中なの、少しだけ待っててもらえるかしら?」
「はい、わかりました!」
 ちなみに橙ちゃんの尻尾は嬉しそうにぴょこぴょこ揺れています。よほど藍さんに出会えるのが楽しみなのでしょう。そんな様子を見て紫さんも微笑ましく思えてきます。
「橙は今日は藍にどんな御用なのかしら?」
「はい、今日は藍さまが遊んでくれる日なんです!」
 橙ちゃんは本当に嬉しそうで、表情も尻尾も感情をまるで隠しきれていません。
「そう……そうだ! だったら藍の手が空くまで私が遊んであげましょうか? 橙」
「ええ!? そ、そんな畏れ多いですよ紫さま」
 そう、橙ちゃんにとって自分の主人である藍さんのさらに主人である紫さんはいわば雲の上の存在に当たるお方なのです。ですが橙ちゃんは紫さんのことが大好きですので遠慮している言葉とは裏腹に尻尾はぴょこぴょこ揺れています。
「そ、そうです紫さま。お食事ならもうすぐ出来上がりますから!」
 台所から藍さんの声も聞こえてきますが紫さんはそこまで気を使われるとちょっと寂しく思えてきます。だって紫さんも橙ちゃんが大好きなのです、今日のことは橙ちゃんと親交を深める意味でもいい機会なんです。
「いいのよ、遠慮しなくても。それで橙、あなたはいつも藍とどんなことをして遊んでいるのかしら?」
「え? 本当によろしいのですか?」
「だ、ダメだぞ橙! 紫さまと遊んでもらうなんて畏れ多い……」
「藍の言うことは気にしなくていいわ」
「そうですか? それなら……」
「ダメだーっ!」
 藍さんは必死になって橙ちゃんを止めようとします。藍さんは真面目ですのできっと上下の関係を重視しているのですね。
「藍さまは「今日はお医者さんごっこをしよう、今回は橙が患者役で」って……」
「らぁん!?」
「ちぃ!」
 ……違いました。自分が式にしている変態行為をばらされたくなかっただけでした。やばいことをばらされてしまった藍さんは咄嗟に逃げ出そうとしましたが紫さんは素早く空間の隙間に手を伸ばして藍さんを捕らえました。今は結界で簀巻きにされてロープで天井から吊るされています。
「……で、あなたは橙に何を教えているのかしら?」
「いや、あの……情操教育? のわぁあああ!?」
 紫さんは無言で結界に電流を流します。電流が強力で骨が透けて見えています。まるでベタな一昔前のギャグアニメのようです。
「紫さま……藍さまはどうしてこんな折檻を受けているのでしょう?」
 橙ちゃんが心から藍さんを心配して恐る恐る紫さんに尋ねます。どうやら自分が受けていたセクハラには気づいてない模様です。ここまで純粋だといつか悪いお兄さんに騙されちゃうんじゃないかとちょっと心配です。
「えっと……それはね」
 紫さんは言葉に詰まってしまいました。なぜ折檻しているのか答えるのは簡単ですが橙の純粋な目を見ていると藍さまのいかがわしい煩悩を教えることははばかられます。
「違いますって紫さま! 純粋な橙だからこそ何も理解させずにお医者さんごっこやご主人様とメイドさんごっこに興じさせて汚すという喜びが……にょわぁあ!? ってちょっといいかも~♪」
(やれやれ、いったいどこで教育を間違えたのかしらねえ)
 頭上で折檻から新たな快感に目覚めていく煩悩全開な発言をかます藍さんを見ているといつもは飄々としている紫さんも流石に頭が痛くなってきます。
「あの……紫さま、大丈夫でしょうか?」
 頭を抱える紫さんを気遣う橙ちゃんは本当にいい子ですよね。
「ええ、大丈夫よ……だからあなたは何も気にしなくていいのよ、橙」
 そんな橙ちゃんの優しさに荒みかけた紫さんの心も癒されます。
「そうだ! 藍がこんなことになっちゃったけどせっかく来た橙をこのまま帰すのもなんだから今日は一日私と遊びましょうか? 橙」
「え……いいのですか? 紫さま、今はお昼前ですよ」
 橙ちゃんはいつもは眠っている紫さんに気遣っていますが本人の方も大好きな藍さんと遊べる機会を無くしてしまって残念に思っているのです、その証拠についさっきまで元気にぴょこぴょこ揺れてた尻尾はうなだれてしまっています。
「もちろんよ、私にも気晴らしになるしね」
 ええ、橙ちゃんはまだ幼く遊びたい盛りなのです。だからこそ大好きな藍さんと遊べることをとても楽しみにしていたのです、だからそれが台無しになってしまってはいくらなんでもかわいそう過ぎます。そう、紫さんは空気の読める女性なのです。もっとも普段は読んだ上でぶち壊しているところが彼女の性質の悪いところですが……
「そんな! 紫さま! 私の見ている前で橙とお医者さんごっこなんて残酷すぎます! 私も混ぜ……ふにゃわあ!? 気持ちいい~♪」
「だれがやりますか!」
 藍さんがなんか言ってきましたがスルーします。というかこれ以上彼女の発言は橙ちゃんの教育に悪すぎるので紫さんは藍さんの口元の声と音の境界を操って彼女の声がこちらに届かないように調整しました、これでもう安心です。
 その日一日、橙ちゃんはマヨヒガで紫さんと仲良く遊びました。その日は橙ちゃんにとって忘れられない一日となりました。

「あ、もうこんな時間です。紫さま、今日は本当にありがとうございました」
 日も暮れて橙ちゃんがおうちに帰る時間がやってきました。しかし紫さんは帰ろうとした橙ちゃんが一瞬寂しそうな眼をしたのを見逃しませんでした。
「橙、今日は泊まっていく?」
 紫さんはとても優しい微笑で橙ちゃんを呼び止めました。
「ええ!? でも私はまだマヨヒガに住むのを許されてませんし……」
「泊まっていくくらいは構わないわ。どうする?」
 橙ちゃんは少し戸惑いましたがすぐにコクリとうなずいて。
「はい、それじゃあ宜しくお願いします!」
 と元気よく答えました。
 その夜はいつも一人で夜をすごしている橙ちゃんにとってとても暖かなものになりました。紫さんと一緒にお食事を作って、一緒にお風呂に入って、同じ布団で眠りました。藍さんはその様子を天井から眺めながらその輪に加われないことに一人涙を流しました。

 これが今日一日の八雲家の日常です。
 寝てばかりでグータラですがとても優しい一番上のお姉さん、しっかり者ですがちょっぴり変態さんな真ん中のお姉さん、そして二人とは歳の離れた一番下の可愛らしいの妹。そう、八雲家は家族なのです。それではお休みなさい、よい夢を……
二回目の投稿です。大好きな八雲一家を書いてみました。
T・ノワール
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.650簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
真ん中のお姉さんの教育は任せて貰おうか
3.90名前が無い程度の能力削除
九つの尻尾が揺れるのか……それはもう壮観でしょうね。