Coolier - 新生・東方創想話

温もり異変

2010/05/13 05:18:30
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霊夢は今日も縁側で茶をすすっている。というか茶をすすっていたら一日が終わった。いつも元気でうるさい魔法使いは研究が忙しいとかで久しく顔を見せていない。わがままな吸血鬼も最近は妹とよく遊んでいるらしく神社に来る回数はめっきり減った。要するに霊夢は一人ぼっちだった。


(人肌が恋しい……)


最近は異変も宴会も無く暇なのでなおさらである。しかし茶を飲む以外することも見当たらないのでただただ孤独に茶を飲む毎日。
誰に対しても公平な幻想郷の巫女、博麗霊夢。しかしそんな博麗霊夢といえども十代の女の子、思春期真っ盛り、まだまだ誰かに甘えたい年頃である。他人にあんまり興味が無いなんて言いつつ、その実誰よりも寂しがりやなんてことは十代にはよくあることなのだ。

「そういや誰かに抱きしめてもらった記憶ってないなぁ」

茶をずびずびとすすりながら一人つぶやく。
思えば物心ついた頃から既に巫女としてあった自分。友人や知り合いは多くいても愛情を注がれたことはない気がした。


(なんという理不尽)


山の巫女には二柱の神様がいるし、ここによく来る魔法使いだってこそこそ隠れて師匠の悪霊に甘えに行っているのを霊夢は知っている。紅い館の吸血鬼などは特に酷く、館中の者から溺愛され、メイド長は毎日求愛のダンスを踊りつづけているという。なぜだ、なぜ自分だけ一人ぼっちなのだ。
釈然としない思い。公平を重んじる霊夢としては見過ごせない不公平。霊夢の感性豊かな十代の心は敏感に世の中の理不尽を感じ取ったのだ。
いや、むしろこれは理不尽を通り越して…


(まさかっ…異変か!?)


突如として行き当たった一つの可能性。あくまで可能性に過ぎないそれは巫女の勘という幻想郷の不文律によって確定的事実へと昇華された。霊夢は慄いた。まさか十数年に及びこの自分が異変に踊らされるとは。自分が他者の温もりを感じたことがないのは、他でもない異変のせいだったのだ……ッ!
しかし異変と分かったからには放っておくわけにはいかない。異変を解決し、温もりを取り戻すのだ。なんとなればすぐにでも出発せねばと立ちあがる。
その瞬間、背後で空間に亀裂が走る気配。

「あら、おはよう霊夢。こんなところで会うなんて奇遇ね」

「…紫」

ここは私の神社だ。そして刻は既に夕方である。いきなり現れたスキマ妖怪にいろいろ突っ込みたいことはあったが、その矢先にまたしても巫女の勘がピーンと働く。このとき恐ろしい勢いで回転していた霊夢の頭脳は一つの言葉を想起したのだ。


(“困ったときの八雲紫”……)


困ったときの八雲紫。幻想郷に古くから伝わる諺である。困った異変があったら八雲紫を頼れば良いという意味ではない。困った異変があったら大体こいつのせいという意味だ。


「またアンタの仕業ねっ」


お祓い棒を突きつけキッと睨み付ける博麗霊夢。一方それに対峙する八雲紫は




「? 何のことかしら?」


きょとんとしていた。
霊夢の言っていることの意味が分からなかった訳ではない。このスキマ妖怪、いささか心当たりが多すぎたのだ。


(こやつ、あくまでシラを切り通す気か)

ちょっと美少女だからって調子に乗りやがって。霊夢は内心毒づく。しかしきょとんとした紫の顔が可愛かったからといって異変が解決されるわけではない。異変は可及的速やかに解決されなければいけないのだ。

「…!」

八雲紫の目ですら追いきれない速さで刹那の内に間合いを詰める。流石は異変解決のプロフェッショナル、博麗霊夢。紫が霊夢の接近に気づいた時には、もう遅い、その両手は紫の背後に回されているのだ。

そのままの体勢で霊夢は紫に言い放つ。


「紫、私を抱きしめなさい」


そう、こいつには異変の落とし前をつけてもらわねばならない。博麗の巫女を舐めてもらっちゃあ困る。この程度の異変解決、弾幕ごっこをするまでもないのだ。


「? こうかしら?」

「もっと強く」

「このくらい?」

「そうよ、しばらくこのままでいなさい」

博麗の巫女の前ではあらゆる妖怪が無力である。いかな大妖怪八雲紫といえども、こうなっては最早なすすべ無く従うしかないのだ。
妖怪の体も意外と人間と変わらず温かいんだなと感心しながら、霊夢は紫の胸に顔を埋めつつもしっかりと紫の体を抱き締め返す。

「あらあら、博麗の巫女がこんなことでいいのかしら。天狗にでも見つかったりしたら…」

「異変だからしょうがないのよ。とにかくアンタは黙って言うこと聞けばいいの」

「はいはい」

「“はい”は一回でいい」

「はいはい」

紫は霊夢に気づかれないようにそっと神社の周囲に結界を張る。そんな紫の気遣いを知ってか知らずか、幻想郷の巫女として今日も無事異変が解決できたことに、霊夢は満足そうに笑みを浮かべるのだった。
お読み頂きありがとうございます。初投稿ということで至らぬ点ばかりだとは思いますが…少しでも皆さんに楽しんで頂けたら幸いです。


追記:誤字指摘ありがとうございます。修正させて頂きました。まさかこんな短い作品で誤字するとは…俺のバカバカ!
前菜
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コメント



0.2210簡易評価
6.80コチドリ削除
ほほう、初投稿でしたか。
八雲紫様至上主義者にして、ゆかれいむ原理主義者の私としては、こう言わざるを得ない。

…………「偉いっ!!」 と。

初投稿作品にゆかれいむを持ってきた、作者様の心意気が偉い。
『ちょっと美少女だからって調子に乗りやがって』、この描写が偉い。偉過ぎる。
『霊夢は紫の胸に顔を埋めつつもしっかりと紫の体を抱き締め返す』、この描写もエラ……悔しいっ!

まあ、お話のテンポがちょっと急だったかな? とは思いましたが、
綺麗にまとまった良い物語だと私は感じましたよ。
これからも投稿されるのであれば、ぜひ読ませて頂きたいと思います。
26.90v削除
いやいや霊夢、「不平等は平等に訪れる」とDSで神主もry
きっと年相応に猪突猛進な霊夢も、それを大らかに受け止める紫さんも、和みます。
こう孤独って重苦しい話題も軽く受け流せるのが、郷の彼女らの魅力のひとつじゃなかろうか、と一人頷いております。
初投稿、お疲れ様です!
次回も、こっそりとお待ちします。どうか良いそそわライフを!
31.100Jiro削除
良いゆかれいむでした。ご馳走様です。
38.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです。異変と勘違いしたままの霊夢はこのあと紫をどうするつもりなんでしょうか

ただ、もうちょっと長く読んでみたかったです
物足りなかったのでこの点数で
40.70名前が無い程度の能力削除
変なデレ方をする霊夢もいたものだw珍しいゆかれいむを魅せてもらった!
短いけど面白かったw紫様と霊夢のノリの温度差が笑えるw
素晴らしいけどもう少しボリュームがあると嬉しいかな
51.100名前が無い程度の能力削除
ベネ
52.100名前が無い程度の能力削除
よいではないか