クルクルクルクル、小さな踊り子は優雅に踊る。
長い金紗の髪を靡かせて、愛らしい表情を振りまきながらステップを踏む。
回るようにステップを踏んでいた踊り子はふと観客の前に立ち止まると、誘うように小指から人差し指にかけて折りたたむ。
指し示したかのように、踊り子と同じ小柄さの赤髪の彼女は恭しく一礼してその手をとった。
回る回る。二人はお互いの呼吸ぴったりにクルクルと。
楽しそうに、嬉しそうに、愛らしい表情を振りまいて。
まるで鏡合わせの自分のように、まったく同じステップを踏み鳴らし。
手と手を繋いで踊る彼女たちはまるで姉妹のよう。
そうして―――フィナーレ。
まったく同じ動き、まったく同じ仕草で頭をたれた踊り子たちとともに音楽が止まった。
一瞬の静寂。
その僅かな間の後、踊り手の片方が勢い良く抱きかかえられたのであった。
「あーもう、チビってば可愛すぎー!!」
「こ、こぁー!?」
先ほどの優雅な余韻など欠片もなく、困惑した様子で少女に抱きかかえられる手乗りサイズの踊り手。
抱きかかえた少女はフランドール・スカーレット。ここ紅魔館の主の妹君。
そして手乗りサイズの踊り手は、やんごとなき事情で小悪魔から分化した通称「チビ」である。
可愛らしい踊りを見て浮かれているのか、ぐるんぐるんとチビを抱きかかえたまま回るフランだが、一方の踊り手は目を回して悲鳴を上げておいでだった。
そんな様子を眺めて、クスクスと笑うもう一人の少女。
柔らかな印象を受けるセミロングの金髪に、赤色のヘアバンド。人形のように色白で整った顔立ちをした彼女の名は、アリス・マーガトロイド。
そしてアリスが抱きかかえたもう一人の踊り手が、上海人形。アリスが操る人形にして、彼女の相棒であり最高傑作だ。
「あら、私の上海は褒めてはくれないの?」
「もちろん、上海も可愛かったよ。でもさ、それ以上にアリスの人形を操る技術がすごいなーって思っちゃって……本当に生きてるみたいだったわ」
「ふふ、吸血鬼の妹君にお褒めに預かり、光栄ですわ」
少し芝居がかった仕草で頭をたれたアリスに、フランは「そんな大層なもんじゃないってば」などと照れ笑い。
ようやく回転から開放されたチビはというと、顔を真っ赤にしたフランを見上げてどこか不思議そうである。
ここは、紅魔館地下の大図書館。
先ほどまでステージと化していた大きな机にも様々な書物が積み立てられており、図書館の主である魔女も、別の机でのんびりと読書に勤しんでいることだろう。
チビを抱え、頭の上に。
するとその場所が落ち着くのか、チビは「こぁ~」と幸せそうな表情で寝そべるように乗っかっていて、ソレがなんだか微笑ましい。
随分と懐かれてフランもまんざらではないのか、頭の上にいるチビの頬を指でつついてやる。
すると、「きゃーきゃー」と声を上げて、けれども嬉しそうにその指に頬刷りするチビの姿は、人形遣いが「なるほど」とどこか納得してしまうほどに可愛らしかった。
そして、そんな彼女が微笑ましくて、フランがうっかりと言葉をこぼす。
「あー、やっぱり癒されるなぁ。今度から魔法少女とかやるときは小悪魔じゃなくてチビ連れて行こうかなぁ」
バサリと―――本がまとめて地に落ちる音がした。
その音を不思議に思って、フランとアリスが音のした方へ視線を向ける。
そこにあった光景は、本を落としてしまったらしい小悪魔が瞠目している姿だった。
少し気まずくて、フランは「あちゃー」と頬をかいてせわしなく視線をさまよわせている。
アリスも事態を悟ったか、静かに目を閉じてため息をつき、チビは良くわかって無いのか不思議そうに首をかしげるばかり。
どうしようと、フランは思う。なんとなくいった言葉がまさか彼女を傷つけることになるとは思わず、けれども上手い誤魔化し方も謝り方も思いつけないでいる。
「そんな、妹様……私よりもその子を選ぶなんて、私に何か至らぬところでもありましたか!?」
「至らぬところだらけですけども!!?」
だがしかし、この吸血鬼はツッコミにはとことん容赦ねぇのであった。
「こあショォォォォック!!?」などと意味わからん単語をほざいて床に手をつき、はらはらと涙を流して俯いてしまわれた小悪魔さん。
だがしかし、仕方があるまい。フランの記憶に蘇る小悪魔の奇行と悪戯の数々は最早フォローがどうこう以前の問題である。
つまり、なんというか完璧な自業自得というやつだった。
「まぁ、その辺の意見には私も賛同するわ」
「そ、そんなアリスさんまで!? 私が一体何をしたというんですか!!?」
『自分の胸に手を当てて聞いてみろ』
見事なシンクロ具合である。存外に気が合うのかもしれない人形遣いと吸血鬼。
何しろ、二人とも普段から小悪魔から様々な悪戯の数々を受けている被害者である。さもありなんと言った所か。
ただし、人形遣いの方は頭打ったり徹夜したりするともれなく暴走するが、ソレはさておき。
しばらく「よよよ」とわざとらしく泣き崩れていた小悪魔だったが、何を思い立ったのやらむくっと立ち上がるとキッとフランを―――正確に言えばチビを睨みつけた。
「こうなったら、勝負ですよチビちゃん! 私とあなた、どちらが魔法少女マジ狩るフランのマスコット役としてふさわしいか、ここで決着をつけて差し上げます!!」
「うわー、心底どうでもいいわー」
「まぁまぁ妹様、そんなこと言わずに! さぁ、どっち!!?」
「じゃチビで」
惚れ惚れするぐらいの即答だった。
「アリ―――」
「私もチビで」
「ガッデムッ!!?」
今度は皆まで言わせてももらえずに即答され、四面楚歌に陥った小悪魔は再び床に手をついて項垂れる。
そんなわけであっさりと勝負が決まったわけなのだが、諦めが悪い小悪魔は再び立ち上がると、フランの近くに歩み寄ってチビにビシッと指を突きつけた。
「コレで勝ったと思わないでくださいよ!!」
なんだか涙目だった。それだけ先ほどの即答攻撃が効いているのか、指先も心なしか震えてらっしゃる。
そんな彼女を視界に納め、何を言われてるのか良くわかっていないらしいチビはきょとんと首を傾げた。
それからしばらくして、チビは一体どういう解釈をしたのやら、指を突きつける小悪魔に向かって。
「こぁ~♪」
非常に可愛らしい、満面の笑顔を浮かべたのであった。
「ぐはぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「何で車○ぶっ飛びィィィィィ!!?」
なぜか空高く舞い上がるように吹っ飛ばされる小悪魔に、フランが盛大なツッコミをひとつあげる。
しかもご丁寧に頭から落下し、盛大に血液をぶちまける始末。ネタの為だからって、この小悪魔、力の入れ所を間違えてる気がしてならない。
ぼたぼたと血液を滴らせながら、かろうじて頭を上げる小悪魔。しかし、その表情には「こぁっこぁっこぁっこぁ」と不敵な笑みが張り付いていた。
ただし、体を支える腕は生まれたての小鹿の如くプルプルだったが。
「……やるではないですかチビちゃん。だが、ゴールドセメントに同じ技は二度通用しない。コレすでに常識です!」
「セメントじゃねーよ、セイントだよ。そもそも全身黒尽くめでゴールド要素欠片も無いじゃんか。
ていうかそんな常識聞いた事も無いし、すでに瀕死の重症にしか見えないんだけどどうなのさ、その辺」
相変わらずフランのツッコミには容赦ってもんが微塵たりとも感じられねぇ。
そんなやり取りにアリスがちょっぴり小悪魔に同情しそうになったが、小悪魔だからいいかとわりと投げやりに納得しておいでである。
「流石は妹様、ツッコミの切れ味がレヴェルアップしてらっしゃる。流石は一流の漫才師」
「どつくよ? つかレベルの言い方がいちいち腹立つなチクショウ」
そんな彼女の言葉を受け、ふらりと小悪魔は立ち上がる。やっぱり足もプルプル震えてた。
しかし、彼女は不敵に笑うのみ。頭血塗れの人が薄っすらと笑ってればそりゃあもう怖いわけで。
もれなくアリスもフランもドン引きであった。無理も無いことではあるのだが。
そんな中チビが机に降りて、とてとてと小走りに小悪魔の方に向かっていく。
何事かと小悪魔が彼女に視線を向けると、チビは小悪魔の服の袖をクイクイと掴み、心配そうな表情と舌足らずな言葉を紡ぐ。
「おねーたま、おけがいたくない?」
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幻想郷の空を、有象無象の大軍が支配する。
その大群に囲まれているのは、数百mを超える巨大な人形であった。
金髪の髪を靡かせて、空中に悠然とそびえるその姿は可憐であり、また雄々しくもある。
その内部に―――二人の少女が入り込んでいた。
赤い髪の少女と、金のセミロングの少女の視界には、うじゃうじゃと集まる毛玉と呼ばれる物の怪の群れ。
その数、視界に映るだけで億は下るまい。圧倒的な戦力差においてもなお―――少女たちは不敵な笑みを浮かべたまま、人形の中で敵を見据えている。
「アリスお姉様、アレを使います」
「えぇ、やりなさい小悪魔」
阿吽の呼吸、とでも呼べばいいのか。
淀みの無いやり取りの中で、彼女たちはそれだけの言葉でお互いの意思を通じ合わせていた。
すぅーっと、小悪魔は息を吸う。そして、吸い込んだ息をまとめて吐き出すように。
あらん限りの叫びが、魂の咆哮が、物の怪蠢く空にこだました。
その咆哮に呼応するかのように、巨大な人形が空高く舞い上がる。
空気を突き破り、雲をつきぬけ、成層圏まで刹那の間に急上昇した人形は、力をためるように己が身を亀のように丸めた。
眼下には追いかけてくる大群。それはさながら遠目から見れば塔のように映った事だろう。
そんなことにも、彼女たちは頓着しない。ただ己が出来るあらんかぎりを、己が全ての力をぶつけるかのように。
「スーパァァァァァ!」
彼女たちは気高く。
「ゴリアテェェェ!」
雄々しく貫くが如く。
『キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!』
少女達の魂の咆哮とともに、巨大な人形は蹴りを繰り出しながら急降下した。
塔の如く群がる毛玉を蹴散らし、貫き、蹂躙し、一条の光と化した彼女たちは止まることも無く、亡者の群れを突き抜ける。
あるものは直撃し、あるものは余波に巻き込まれ、あるものは逃げ惑うものとぶつかり自滅していく。
そうして、空に群がる大群が蹴散らされ、その勢いのままに地上へと到達した巨大人形は紅魔館屋上に着地し、当然の如く館は地下もろともぶっ飛んだ。
ズンッと大地を揺らし、そこに仁王立ちした巨大人形は、威風堂々とした様子でそこに存在していた。
まるで一人の騎士のように、鋭い眼光のまなざしが毛玉たちを気押させている。
一瞬訪れた静寂、ソレを破るように、少女が強い意志を携えたまま、言葉を紡ぎだす。
大気を震わすように、怯え竦む物の怪たちを、威圧するように。
「どんな大群が来ようが、どんなに追いかけてこようが、私とアリスお姉様が居る限りゴリアテ人形は―――いいえ、ゴリバスターは負けませんよッ!」
▼
「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
『意味がわからねぇぇぇぇぇぇ!!?』
再び車○ぶっ飛びで空高く舞い上がる小悪魔に、フランとアリスのほうから盛大なツッコミが同時に飛び出した。
再び頭から落下し、もれなく血液をぶちまける小悪魔さん。もう床の一部がものっそい血の海である。
チビが「こあー!? こあー!?」と大慌てしていたが、机が高すぎて降りられないんでそのまま右往左往するだけだった。
「今さっきの無意味な回想なによ!!? なんなの今の意味不明かつわけわかんない時間の経過!!?」
「何で私があなたのお姉様なのよ!? ていうかゴリアテの名前をそこで区切らないで頂戴!! なんか別の類人猿の人形みたいじゃない!!?」
「ふふ、妹様、アリスさん……燃え尽きちまいましたよ。真っ白にね……ガクリ」
『燃え尽きるなぁぁぁぁ!!?』
真っ白になってそのまま息を引きとったっぽい小悪魔を、二人が慌てて起こしに掛かる。
一体どこからどうツッコミを入れればよいのやら、場はいきなり混沌と化してめんどくさいことになりつつあった。
そんな時である。カオスと化したその場を、優しい光が包み込んだ。
一体何事かと皆が光の発生源に視線を送れば、アホ毛たくましい魔界の神様がご光臨なさっておいでだった。
「し、神綺様!?」
「アリスちゃん、今はお母さんと呼びなさい」
「え、逆じゃないのそこ」
いきなりの母登場にうろたえるアリスを嗜める神綺だったが、フランから飛んできたのは相変わらずのツッコミである。
光臨した神はそんな言葉にちょっぴり涙目になりつつも、倒れている小悪魔の元に歩み寄った。
「小悪魔ちゃん、大丈夫?」
「うぅ、神綺様―――相変わらずのたくましいアホ毛でございます」
なんか全然大丈夫っぽい。血だらけで声は震えてるけど飛び出した言葉は完璧な軽口である。
しかも、伸ばした腕が神綺の顔にではなく胸に伸びようとしていたぐらいだ。もれなくフランとアリスに拳で止められたが。
そんな彼女を怒るでもなく、神綺は優しく微笑んで手を差し伸べる。
慈愛に満ちた母のように、あるいは愛を説く神のように。なんかどっちも当てはまってるのは気のせいではあるまい。
「私と行きましょう、小悪魔。そしてグレート小悪魔として生まれ変わるの」
「あぁ、神綺様……このような負け犬に手を差し伸べてくれるのですね? でもどっちかというとこあカイザーでお願いします」
『いやいやいやいや』
もう会話のやり取りがツッコミどころ満載だった。
なんか二人の世界にはいったっぽい小悪魔と神綺は、お互いに手を取り合って微笑みあう。
そこに言葉は何も無い、いや、ただ必要なかっただけなのか。
小悪魔振り返る。満面の笑顔で、顔面血だらけのままに、あたりに血液振りまいて。
「妹様、私は妹様のマスコットにふさわしい自分探しの旅に出ることにします」
「はぁっ!!?」
「そういうわけだからアリスちゃん、今頃追っかけてきてるだろう夢子ちゃんによろしく!」
「ちょっ!?」
反論する暇も無く、二人は言いたいことを言い終えると魔法で転移してどこかに消えていった。
後に残ったのは、呆然とする二人と、未だに「こぁーこぁー!」と大慌てするチビと、リットル単位の血の海のみ。
その直後に夢子が到着し、逃げられたことを悟ると「逃がすかぁぁぁぁぁ!」と怨念の叫びを撒き散らしながら図書館から消えていった。
慌しいチビの声以外に、音を発するものは何も無い。
そんな中で、フランは呆然とした様子のまま、ポツリと一言。
「どうオチをつけろと?」
そんな、わりと切実に言葉を呟いたのだった。
ちなみにこの数分後、わりとあっさり神綺と小悪魔は夢子に捕縛され、そのまま図書館に引き摺られて、夢子から三日三晩説教されたそうな。
ゴリバスターにニヤリとしたり、小悪魔たちの会話なども面白かったですねぇ。
永久保存したいねぇ。たとえイナズマキックで地面にグワシャッ!! と叩きつけられようとも。
それにしても作者様、ガ○バスターネタがうろ覚え、だと……
ならば、この先さらなる大量の毛玉に対して、小悪魔の片乳ポロリが見れないと言うのか!
>雄雄しく貫くか如く→貫くが如く、かと。
さーてアメちゃんあげるからおいでおいで´∀`
貴方は私たちに何を求めてるんですか?
カオス過ぎてツッコミが追いつかないよ!!
でも、そんな貴方が大好きだ!!
面白かったです。
ぶっ飛ぶまでの一瞬であれだけの回想する小悪魔侮れねえwww
ふらんちゃんの最後の一言が切なすぎるwww
とりあえずチビは危険だ。俺が預かっておく。
それはさておき、今回も中々のカオスっぷり・・・GJでした!!
あと、小悪魔と神綺様はそのまま説教され続けたらいいと思う。
赤毛で長髪の黄金聖闘士とかそれなんてカミュwwwwww
ネタチョイスが素敵でキャラはみんな可愛いくてとても面白くて読みやすい文章でつまり何が言いたいのかというと
白々燈さん最高です
……アリスと神綺様の邂逅って初でしたっけ?もう少し二人の絡みが見てみたかったw
もっといろんな作品に出て欲しいですね
今回でなかったチビ幽香はどうなった……? まだチビのままなら俺に下さいw