取材か……それで売上が伸びればいいんだが。
面白いエピソードと言われてもね。ここ最近は特に無いよ。
いつも通り、何も買わない常連が店に入り浸っているだけさ。
最近でなければ昔の?
昔はまあ……うん。色々あったな。
店が軌道に乗るまでがとにかく大変だった。
今も乗っているようには見えない? 余計なお世話だ。
そうだな。その頃の話でもしようか。
ある客の話なんだが……名前? 名前は一応秘密にしておいてくれ。
そうだな……仮にKYとでもしておこうか。適当にイメージするといい。
したかい? じゃあ話そう。
「……誰も来ない」
僕はひとりごちた。
店をこの場所に建ててからしばらく経つ。
関係者は挨拶に来たりしてくれたが、それ以外ゼロだ。
客がまったくといっていいほど来なかった。
「宣伝不足だったか……」
天狗の新聞にチラシを入れて貰ったりしたのだが、よく考えれば天狗の新聞なんてデマしか載っていないようなものだ。
そこに僕の店のチラシが入っていたって、誰も店があると信じなかったのではないだろうか。
この香霖堂のある場所は相当に辺鄙な場所である。
だがこの場所に建てたのはもちろん意味があり……
カランカラン。
「!」
久方ぶりに聞くドアベルに思わず立ち上がった。
自分で出来る限りの満面の笑顔で挨拶をする。
「いらっしゃい! 香霖堂へようこそ!」
だが、そこにいたのは全身ボロボロになった人物だった。
「……大丈夫か!」
慌てて近寄ると空ろな目で一言、水と囁いた。
「水だな、待っててくれ」
取りに行こうと背中を向けた瞬間どさりという音が聞こえた。
「おい、どうした! おい!」
声をかけ、体を揺らすが完全に気を失っている。
「くそっ……」
抱え上げ、店の奥へと運ぶ。
「……僕は医者じゃないんだがな……」
しかし、僕の店に来た事は幸運だったといえよう。
外の世界から流れてきた治療のための道具がいくつかある。
マジックアイテムの作成も僕の十八番だ。
ボロボロになっている衣服を強引に剥ぎ取り、傷の手当を始めた。
衣服はボロボロだが案外体への傷は多くない。
ぎりぎりのところで相手の攻撃をかわしていたというところだろうか。
手持ちの薬とマジックアイテムだけでなんとかなりそうだった。
「妖怪同士の小競り合いは多いからな……」
僕の店は博麗神社に近いせいか滅多にそういう事はないが、少しでもこの場を離れると殺伐とした空間があったりするのだ。
幻想郷の賢者も頭を抱えている事だろう。
もっと平和な世の中になればいいのだが。
「……ん」
そんな事を考えていると、手当てをしていた人物が小さく声をあげた。
「気が付きましたか」
かっと目を見開いたかと思うと、すごい勢いで飛び跳ねて僕から離れていった。
「落ち着いてください。僕は森近霖之助といいます。そしてここは香霖堂。どんな客でも歓迎しています」
じっと疑いの眼差しを僕に向けてくる。
その目は僕に強く警戒を抱いていたが、悪人には見えなかった。
「怪我をしているようだったので手当てをしておきました」
僕の言葉を聞いて、体じゅうに巻かれた包帯に気付いたようだった。
頭を深々と下げ、謝罪の言葉を告げてくる。
「いきなり倒れられたからびっくりしましたよ」
少し警戒を解いてくれたのか、自分の名前を名乗り、事情を話してくれた。
予想通り、妖怪同士の小競り合いに巻き込まれたらしい。
その人物……KYは強力な力を持った妖怪だったのである。
本人が望んでいなくても、力試しと戦いを挑まれる日々。
「そして道具が壊れたところを狙われた……と。災難でしたね」
KYが使っている道具を見せてもらったが、再生するのは不可能なくらいに壊れてしまっていた。
が、それは僕以外の者が見た場合である。
「これも何かの縁です。この道具、直させて貰えませんか」
その道具は非常に珍しく、商売抜きでとても興味をそそられるものであった。
それを聞いてKYは最初喜んだようだったが、すぐに表情を曇らせてしまった。
どうしたのかと聞くと支払う金を持っていないという。
「……ああ、それならこうしましょうか。この店で働いて貰えないでしょうか」
手伝いがいるほど忙しくはないが、一人であれこれやっている時と違って見えるものがあるはずである。
「直すのに時間もかかりますしね。その間に怪我も直るでしょう」
本当にいいのかという顔をしている。
「もちろん貴方さえよければですが」
しばらくの間の後KYは答えた。
敬語とさん付けを止めてくれれば、と。
「わかった。よろしく頼むよ」
僕とKYは熱い握手を交し合った。
……話しておいてなんだけど特に面白くなかったな。
なんだいその顔は。
笑顔なんかしていたんですね?
余計なお世話だ。あの頃は若かったんだよ。
だいたい今だってちゃんとした客にはそうしている。
やってみろ? ほら。
……何故後ろに下がるんだい。
はぁ、もう取材は止めようか。やっぱり天狗の新聞の記事なんかアテにならないしね。
ウチは他の新聞とは違う?
僕もそう評価しているから取材を受けてるんだが。
期待し過ぎない程度に期待しているよ。
続けるかい? よし。
そうだな。一週間くらいだったかな。KYがいたのは。
その間は一緒に暮らしていたけれど、直った後は普通に帰っていったよ。
もう少し教えろ……ね。
せっかくだからと仮想の客役をやって貰ったんだが、僕の話を興味深そうに聞いてくれたよ。
しかも僕の話の足りないところを的確に指摘してくる。
あれはとてもいい練習になったよ。
凄い人ですねってどういう意味だい。
例えばそこにある……後で聞く? まあ、いいだろう。
食事? お互いに作りあってたよ。
僕はあの頃はあんまり料理は上手くなかったんだが、KYはそりゃあもう上手でね。
料理の仕方を教わったりしたんだ。おかげでその後自炊で困る事もなくなった。
自分も大分上達したと思うけど、やっぱりKYの料理には及ばないな。
なんだいその顔は。
僕は美味いものは美味いというよ。
他の?
他の話をしろって事かい。違う? どっちでもいい?
寝る時は別の部屋だったよ。客間もあるしね。
霊夢や魔理沙が泊まる時もそこを使わせている。
今舌打ちをしなかったかい。
まあいいだろう。
風呂?
……ああ。
いや何もなかった。
無かったよ。
うっかり鉢合わせてしまった事はあったけれど、それだけだ。
本当ですかって本当だよ。
向こうが逆に体を見せ付けてきたとかそういう事は無い。
無いよ。本当に無い。
そういう話をもっと聞かせろ?
そうだな……KYは酒癖が悪かった。
絡んでくるし、突然高笑いはするし、踊りだすし、挙句の果てには服まで脱ぎだす始末だ。
そのまま外に行こうとするから、大変だった。
押さえつけようとすると逆に押し倒されるし、散々だったね。
正気に戻った時は平謝りされたが、大変だったよ。
なんでそんな生き生きとした顔してるんだい。
……他の話にしよう。
KYは強力な妖怪だって言っただろう。そのKYが実際に戦う姿も見た。
たまたま外出していた時だったんだがね、妖怪に襲われたんだ。
店ではKYは割と静かで大人しかったんだが……戦いとなると完全に別人だった。
鬼神というのはああいうのを言うんだろうね。
とにかく強かった。
気付いたら敵が倒れているって感じだったよ。
それだけ? ……いやそれだけだけど。
僕はそんなに戦いには詳しくないんだ。強かったことくらいしかわからない。
今でも十分すぎるくらいに強いと思うよ。
スペルカードルールが主流にはなったけれど、体の動きは重要だからね。
僕が直した道具を使って戦っているんじゃないかな。
弾幕を捌くのに役に立っているはずだ。
残念ながらあれからKYが店に来た事はなくてね。今どうしているかは知らない。
ひょっとしたらこの記事を読んだら、遊びに来てくれるかもしれないな。
珍しい?
ああ、そりゃあまあ最初の客だったからね。思い入れがあるのかもしれない。
言ってなかったか。KYは僕の初めての……いや、だから君が期待しているような事は何も無いよ。
妙な書き方はしないでくれよ。
余計な事は書かないでいいから、そのままにしておいてくれ。
じゃあ、話はここまでだ。
ああ、待ってくれ。せっかくだから何か買っていくといい。この商品は……
「……むぅ」
私は天狗の新聞を読んで自分の眉間に皺が寄っているのを感じた。
何だこのKYとかいう奴は。
あの香霖と同棲していただって? とんでもない奴だ。
私だって一応は遠慮して別の場所に住んでいるというのに。
この記事に書かれていることが全てではないだろう。
きっと他にも色々な事があったに違いない。
KY……KY。
考えているうちに一人の名前が思い浮かんだ。
「風見……幽香か?」
あいつはいつも傘を持っている。弾幕ごっこをやる時にもそれを使っていたはずだ。
強力な妖怪というのにも当てはまる。
「……香霖はああいうのが好みだったのか……」
そうと決まれば話は早い。
この記事は私にとっての武器にもなり得る。
「なんせツケは一杯溜まってるからな……チャンスだぜ」
それを払うためだと強引に店に居座ればいい。
そして幽香並の怒涛の攻めを見せれば……いける!
「待ってろよ香霖! たっぷりいぢめてやるからな!」
私は箒に跨り一直線に香霖堂へと飛んだ。
「んー……」
私は記事を見てある人物の事を思い出していた。
KY。
「魂魄妖忌……」
彼は突如として私たちの前から姿を消した。
この妖怪というのは彼のことではないだろうか?
妖夢も同じ綴りではあるが、時期が合わない。
妖忌は強力な妖怪だったし、料理の腕でも一級品だった。
道具は妖夢に残していったが、他にもいくつも名剣と呼ばれる武器を持っていたはずだ。
この記事には私の知らなかった事も書かれている。
「まさか……でもそんなはずは……」
いや、しかしそれが真実だとすれば、妖忌が突如この場所を去ったのも頷ける。
この場所には男がいない。
そう、彼は……オトコに飢えていたのだ!
「ふ、ふふふ」
きっと彼と店主との間で色々な事があったろうに違いない。
あんなこといいな、できたらいいな。
ああ僕の初めての……ってそういう。
「これは確かめないとね~」
私は真相を確かめるべく香霖堂へ向かうことにした。
「後ほど休みを頂きたいのですが、宜しいでしょうが」
「構わないけれど、後ほどっていつ頃?」
「嵐が過ぎ去った頃にです」
「はぁ? まあ何でもいいけど出る時は言ってね」
「はい」
彼も迂闊だと思う。
この場にいても、私には不穏な空気が感じ取れていた。
あんな事を書かせれば、面倒な事になるとわかっていただろうに。
それとも、それをわかっていながら話したのだろうか。
ひょっとしたらこの記事を読んだら、遊びに来てくれるかもしれないな。
そんなつまらない理由で。
「……申し訳ありません、やはり今すぐ休みを頂いてもよいですか?」
「今!? ちょっと……」
私は羽衣を纏い、飛んだ。
別に彼を心配しているわけではない。
ただ、その場に私がいれば役に立つだろうと思っただけだ。
私のKY――空気を読む程度の能力が。
君が行っても場の混沌がさらに増すだけなんだ。
霖之助の身体が心配なら、どうか、どうか……
それとゆゆ様はいったいどうやって確かめる気なんだ……
ゆゆ様の思考回路に吹いたwwwww
しかしそうか……酒癖が……
スペルカードルール~の辺りで、妖忌じゃ無いと確信したので、じゃあ、幽香かな?と思ってたんですが……。
てっきりKYは名前を指してるんだろうとばかり思っていたので一本とられました。
ヤマメ「……あー私道具なんか使いませんし、力試しなんかされませんし、滅多に地上には行けませんでしたから……」
これはひどいw 幽々様の思考もひどいw
通報します。
妖忌のイメージで読んでいたので、私もゆゆ様思考で読んでましたw
結局霖ちゃんの最初の客のKYってドイツなんだw
このオチだとやっぱり衣玖さんなのか、いや違うような・・・
自分的には入店時→妖忌、同居中→幽香なイメージの変遷があったんだけど。
これは読者の想像がかき立てられるネ!
でも評価しちゃう
一本取られましたw
という新しい幻想郷を幻視しました
そしてこの幽々子様はBLなんすねww
それはきついぜイクさん!
妖忌だと思って読んでましたが幽々子様の思考にはびっくりだw