「オヤカター。ソ、ソラカラオンナノコガー!」
アリス・マーガトロイドがいつものように自室で研究をしていた時のことだった。
ちなみに研究とは当然いつもの人形作りのことである。
家の周囲をパトロールさせていた上海人形が、何事か叫びながら窓から勢いよく飛び込んできた。
「誰が親方よ。また魔理沙にでも変な言葉習ったわね」
やれやれと溜息をつくアリス。
アリスの操る人形のうち何体かの特別な人形は、言語を操り、ある程度自分で思考することまで出来る。
あくまでアリスと魔力の糸で繋がっている事が条件であるが、それにより人形でありながら他の人形を操ったり、
他人と簡単なコミュニケーションをとることすらできる。
中でも特にこの上海人形は別格である。
アリスと共に行動する機会も多いため日々色々な事を学習する機会に恵まれており、
他の人形よりも経験値の蓄積が多い。
それでもアリスに言わせれば完全自律にはまだ程遠い状態であるが、
傍から見ればまるで人形が命を持っているかのように見えた。
「だいたい空からって、幻想郷じゃ空飛ぶ女の子なんて珍しくも無い……」
「コッチー。タオレテルー」
上海人形がアリスの袖を引いた。
「倒れてる!? 一体誰が……」
「シラナイヒトー」
アリスの住む魔法の森には普通の人間が近寄ることはあまり無いのだが、それでも時々は迷い込む人間はいた。
そういった人間を見つけた場合、神社や人里まで送り届けてあげたり、
遅い時間の場合は自宅に泊めたりすることがアリスにはよくあった。
ちなみに泊めてあげるのは子供や女性限定なので、くれぐれも押し掛けたりしないように。
「案内してちょうだい」
森に迷い込んだだけの人間ならば人形に道案内でもさせるだけだが、倒れていると聞いては流石に放ってはおけない。
「ハヤクハヤク」と飛んでいく上海人形に先導され、アリスは森の奥へと向かうのだった。
――時間は少しさかのぼる。
守矢神社と命蓮寺の間では、妖怪の信仰をめぐって緊迫した空気が漂っていた。
事の発端は、新興勢力である命蓮寺の取材に行った新聞記者の射命丸文が、
取材中に命蓮寺の代表である聖白蓮の勧誘に屈しそうになった事にある。
「いま信仰すると、もれなく等身大毘沙門天様(代理)抱き枕がついてきます!」
これには流石の射命丸もイチコロである。
普段から自分の撮影した少女達の写真を引き伸ばしては、等身大ポスターなどをこっそり作成していた文にとって、
これ以上の魅惑のアイテムは存在しないだろう。
しかもこの抱き枕は裏面がスク水バージョンなのだ。
だが、この手口を知った守矢神社側は当然激怒した。
妖怪の山の信仰は守矢のもの。
当然、山の天狗の組織の一員である射命丸文も例外では無い。
かくして、守矢神社と命蓮寺の間にはピリピリとした険悪なムードが漂い、
いつ争いが起こるかわからない状態になっているのだったのだが……。
「不人気妖怪は退治するものだって神奈子様が言ってました」
「誰が不人気だっ! 控え目。そう、ちょっと控え目なだけよっ」
そしてついに今日、魔法の森上空にて両者は出会ってしまったのだった。
一方は守矢の風祝『東風谷早苗』
もう一方は命蓮寺の入道使い『雲居一輪』&『雲山』
二人の少女はくるくると踊るように宙を舞い、激しく攻守が入れ換わりながら華麗な弾幕戦を繰り広げていた。
色とりどりの弾が乱れ飛び、親父のゲンコツが唸りを上げる。
だがそれもいつまでも続くわけはなく、ついには終わりを告げる時が来た。
一輪と雲山のタッグ相手に長期戦は不利だと感じたのか。
それとも家にお腹をすかせた神様が二人待っている事を思い出したのか。
いつまでもチマチマとした小競り合いは時間の無駄だとばかりに早苗が先に動いた。
一輪のほんのわずかな隙を突き、いきなり大技を解き放つ。
――大奇跡「八坂の神風」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
すさまじい暴風が竜巻となって襲いかかり、雲山を四散させ、一輪の身体を天空へと吹き上げた。
「正義は守矢にあり。これが神の力です!」
一輪の飛ばされた上空を見上げ、早苗が呟く。
「って、あれ? あの尼さん……もしかして気絶してますか?」
一度上空まで打ち上げられた一輪が再び落下してくるのを見て、早苗が相手の異変に気付く。
早苗のスペルを至近距離でくらってしまった一輪は、目を回し気を失っていた。
錐揉み状に回転しながら魔法の森へと落ちていく一輪。
「………………ここかなりの高度なんですけど……まあ妖怪だから死にはしないでしょう」
敗者に差し伸べる手は無し。
妖怪退治の楽しさに目覚めて以来、戦うときは徹底的に容赦のない娘であった。
一輪に遅れる事少しして、何か小さな輝きが早苗の目の前に落ちてくる。
反射的に手を伸ばしそれをキャッチする早苗。
それは一輪が手にしていた入道を操るための金色の輪であった。
先ほどのスペルで吹き飛ばされた雲山は今は輪に繋がってはいない。
「うーん。みため金っぽいですけど」
太陽にかざしてみると、光を反射しキラリと光る。
「明日にでも道具屋さんに持って行ってみましょう。高く売れたらラッキー♪」
上海人形に案内されてアリスが辿り着いた森の奥には、一人の見慣れぬ少女が倒れていた。
アリスも初めて見る顔だ。
一見して身元の分かりそうな特徴のある物は身に着けておらず、着ている服はところどころ破れている。
落ちてきたときに激しく打ったのか、頭部に大きな怪我を負っている様子だった。
「ひどい怪我してるわ……みんな、家まで運んでちょうだい!」
アリスの号令に応じて、それまで誰もいなかった空間から大量の人形がわらわらと出てきた。
人形達は怪我をした少女を数にものをいわせて持ち上げ浮かび上がる。
「上海は先に戻ってベッドと手当の準備をお願い」
「ハーイ」
元気よく返事をし、アリスの家めがけて上海人形は一直線に飛んで行った。
残ったアリスは他の人形に「頭を打ってるみたいだから、みんなはなるべく静かに飛んでね」と指示を出す。
「さて、こっちも戻るわよ」
と、人形達と並んで飛び上がったアリス。
その視界の端に、高い木の枝に引っかかってヒラヒラと何かがはためいているのが映った。
(……布の……袋? 黒いから魔理沙のかしらあれ?)
アリスの美的感覚では、それが頭にかぶるものだとは気がつかなかったようである。
「んっ、……ここは?」
「あら、気がついた?」
少女が意識を取り戻したのはすっかり日が暮れた頃だった。
「ああ、まだ起きちゃだめよ」
起き上がろうとする少女をアリスが慌てて制する。
「あなたも妖怪みたいだから傷の治りは早そうだけど、いくらなんでもまだ無理しちゃだめよ」
「傷? 妖怪?」
少女はこのときになって初めて自分の頭や身体が包帯でぐるぐる巻きになっている事に気がついたようだった。
包帯の巻かれた自分の腕を、少女は不思議そうに見つめて呟いた。
「私が……妖怪?」
「ん、違うの? 妖精にはちょっと見えないわね」
アリスの目の前で寝ている少女は、外見は普通の人間のように見える。
角も翼も生えていないし、動物の耳もついていない。
だが、この幻想郷ではそういう妖怪は珍しくはなかったし、
妖怪独特の気の質のようなものをアリスはこの少女から感じ取っていた。
そもそも彼女が人間だったら、空から落ちてきて地面に叩きつけられた時点で即死だったろう。
「私はアリス・マーガトロイド。魔法使いよ。あなたの名前は?」
「わたし……私は…………ぅっ……」
自分の名前を言おうとした少女が、頭を押さえて小さな呻き声をあげた。
「ちょっと、大丈夫?」
「わ、わたし……は……私は………………いったい誰なんでしょうか……」
「大した回復力ね。もう傷はほとんど治ってる」
一口に妖怪といってもこの幻想郷には様々な種族がいる。
アリスなどは元が人間だったためか、自然治癒力はそれほど高くはない方だった。
この少女の傷はたった一晩で驚くべき速度で回復していた。
「それにしても、記憶喪失なんて初めて見たわ。本当にあるのねぇ」
「ごめんなさい……」
「あなたが謝る事じゃないわよ」
ベッドの脇に置かれた小さなテーブルの上には、人形達の手によって着々と朝食の準備が整えられていた。
てきぱきとせわしなく動く人形達を物珍しそうに眺める少女。
傷はほぼ癒えたが、少女の記憶はまだ戻っていなかった。
「何日かしたら自然に戻るかもしれないし、それまではここにいるといいわ」
「ありがとうございます……えと……あのぅ」
「ん?」
「私の服は」
全身に巻かれていた包帯をアリスが外してしまったために、現在の少女の恰好はほぼ全裸であった。
現在は大事な部分を隠すように毛布を体に巻きつけて丸くなっている。
「は、はずかしい……です」
「あ、ごめんなさい。でも、服を着る前に身体を拭くからもう少し待ってて」
アリスがそういうと、湯気の立つ洗面器を持った人形が部屋に入ってきた。
「じ、自分でできますから」
「いいのいいの、任せなさい。あら? 結構スタイルいいのねあなた」
「あっ、前は……前は自分でやりますからっ」
「ヨイデハナイカ、ヨイデハナイカー」
「ちょっと上海! どこでそんな言葉覚えてくるのよ」
アリスが少女の身体を拭き終えた頃には、人形達の用意した朝食はすっかり冷めてしまっていた。
少女は部屋の窓から空を眺めていた。
「どうかしたの?」
少女の髪を丹念に梳かしながら、アリスが問いかける。
元々少女が着ていた服は汚れが酷く、裾などがところどころボロボロになっていたので、
アリスは自分の服から彼女に似合いそうな明るい空色のワンピースを見つくろって着せた。
普段アリスが着ている服とよく似たデザインであり、よく見れば同じ作者のものと誰でもすぐ気がつくだろう。
服装が可愛くなったので、ついでにアリスは少女の髪型も色々と試している最中だった。
「何か面白いものでも見えるかしら?」
窓の外はいい天気だったが、特に興味を引きそうなものは見えない事はこの家の住人であるアリスが一番よく知っていた。
家の周りに見えるのは、せいぜい森の木々とそのあたりに住んでいる妖精くらいのものである。
「雲を見てました……。あの空に浮かんだ雲を見ていると、なぜか不思議な気分になるんです」
「ふぅん、雲ねぇ……雲に関係のある妖怪なのかしら?」
「……どうなんでしょう」
少女は困惑したように少し俯いた。
「雲かぁ、雲、くも……cloud……くら……あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「あなたの名前なんだけど。無いと不便でしょ? クララなんてどうかしら」
名案を思い付いたとばかりにアリスは微笑んだ。
「クラウドじゃ男の子みたいだし、ちょっと変えてクララ。ね、いい名前だと思わない?」
「は、はぃ」
「よし決まり。よろしくねクララ」
アリスは少女の頭の両端で髪に赤いリボンを結んだ。
俗に言う『ツインテール』といわれる髪型である。
完成した髪型に満足して頷き、少女に手鏡を渡す。
「これが私……」
「うふふっ。どこかの河童か死神みたくなっちゃったけど、うん、可愛い可愛い!」
アリスは少女の背中に抱きついて可愛いを連呼する。
クララは今度は顔を真っ赤にして俯いた。
昼食を済ませた二人は人里へと来ていた。
今日はアリスが午後から里で人形劇をやる事になっていたので、それにクララも同行した。
アリスの人形劇はとても人気があり、多くの人や妖が見物に集まる。
もしかしたら、クララの事を知っている者が現れるかもしれないとの期待もあった。
本人の記憶がいつ戻るかわからない以上、今回はアリスも積極的に動くつもりでいる。
「アリスさーん」
いつものようにアリスが劇の準備をし、その隣で不慣れな手つきのクララが手伝いをしていると、
誰かが声をかけてきた。
「あら、早苗じゃない。里で会うのは珍しいわね」
声の主は何故かホクホク顔の東風谷早苗であった。
買い物の途中なのか手には大きな籠を下げている。
「いやぁ、ちょっとした臨時収入がありまして~。今日の晩御飯は少し豪華にしようと思って買い物に来たんですよ」
「景気のいい話ね。ところで……クララ、ちょっと来て」
アリスは手招きしてクララを自分の隣に呼び寄せる。
「こっ、こんにちわ」
オドオドとした様子でクララが早苗に頭を下げた。
「あら、これはまた可愛らしい方ですねぇ」
「この娘の事を何か知らないかしら?」
アリスはクララの事を早苗に尋ねた。
魔法の森に落ちてきた事や、記憶を失っていて本当の名前がわからない事などを簡単に説明する。
「へぇ~。記憶喪失ですかぁ。そんなマンガみたいな話が本当にあるんですねえ」
「で、心当たりはない?」
「こんな可愛い方、いくら私でも一度でも見た事があったら忘れません。少なくてもお山の住人ではないですね」
臨時収入の元が何であったのかすでに記憶が薄れてきているのか、
それとも倒した妖怪の事などまったく眼中にないのか、
早苗はとても真っ直ぐな笑顔で知らないと答えるのであった。
一方、アリス達の会話を少し離れたところから眺める村人たちがいた。
村人A「おいおい、あの麗しいスリーショットは一体何事だ!」
村人B「アリスさんと早苗さんが一緒にいるだけでもタマランというのに……もう一人の美しい方は一体誰なんだ!」
村人C「それとなく会話を盗み聞きしてきたぜ! どうやらクララさんと言う名前らしい」
村人A「クララさん……ああやってアリスさんと並んでいるとまるで姉妹のようだ。オラもうワクワクしてきたぞ」
通りすがりの記者S「なんと、謎の美少女はアリスさんの妹! これはスクープです!」
その助手M「…………(こうやって尾ヒレのついた記事が毎回出来上がるのか)」
『文々。新聞号外 魔法の森に咲いた神秘の花 クララ・マーガトロイド特集号』
『あのアリス嬢に妹がいた! その謎のベールに包まれた素顔に迫る』
『クララ・マーガトロイドファンクラブ会員募集中』
「あのパパラッチ……」
朝一番でポストに投げ込まれていた新聞を観て、アリスは怒りを通り越して呆れるよりほかになかった。
クララと二人で里に行ったのは昨日の午後。
そのままいつものようにアリスは人形劇をして家に帰ってきたわけなのだが、それからわずか半日でもうこれである。
「私とした事が甘く見てたわ。インタビューすら受けてないのにもう記事になってるとは」
「なんか怖いですね……」
「まあいいわ。写真も大きく載ってるし、これを見てあなたの事を知っている人が現れるかもしれないわ」
どうせ、あの新聞記者に文句を言うだけ無駄に終わるのだという事を、幻想郷の住人の大半は経験から知っている。
「でも、あのブン屋もあなたの事知らなかったみたいね。早苗の言うとおり山の妖怪ではなさそうね」
「そうなんですか?」
「ええ、でもそうなると他に可能性のあるのは……」
紅魔館、白玉楼、永遠亭、地霊殿……。
幻想郷で有名なこれらの場所は調べるだけ無駄だろうとアリスは考えた。
知名度は高いくせに友好関係は狭そうな引きこもり気味の連中ばかりである。
第一、住人はアリスもよく知っている顔ばかりだ。
いまさらさらに調べても都合よく新たな妖怪など出て来るはずもない。
(スキマのところは考えるだけ無駄ね、そもそも場所なんて知らないし)
クララがアリスのもとにいて何か不都合があれば、紫かその式が頼まなくても向こうからやってくるだろう。
どこの勢力にも属していない無所属の妖怪も幻想郷には数多くいるが、
こちらは数が多すぎて博麗霊夢あたりでも恐らく全て把握しきれていない。
残るは……。
「最近出来たっていうお寺かしらね」
霊夢や魔理沙に聞いた話では、その命蓮寺という寺も守矢神社のように妖怪の信仰を集めているという。
しかも人間にも割と人気があるらしく、縁日などを開けば里から大勢の参拝客が訪れるらしい。
妖怪しかいないどこかの神社とは大違いである。
ならば、クララの顔を知っている者がいるかもしれないとアリスは考えた。
(ついでに今度そこでも人形劇やらせてもらえないかしら……)
その寺は人里から割と近い場所に堂々と建っていた。
いくら人間にも信仰されているとはいえ、妖怪の住処をこんな人里近くに作ってしまうとは大胆な話である。
(霊夢のところの神社もそろそろ本気で危ないかもしれない)
時々差し入れをしてやらないと餓死しかねない友人の顔を思い浮かべ、アリスはため息をついた。
「おや、見ない顔だがウチに何か用かい?」
「これ、ナズーリン。また参拝の方にそんな口のきき方をして」
命蓮寺の門前では二人の妖怪が箒を持ってのんびりと掃き掃除の最中だった。
小柄なネズミの妖怪ナズーリンと、その主人にあたる寅丸星である。
「あいにくだけど参拝じゃないの。ちょっと尋ねたいことがあって来たんだけど。ほらクララ……」
アリスは自身の背中の陰に隠れていたクララの肩に手を置き、前に出るように促した。
それに応えて、おずおずとクララが一歩前に出てくる。
「おおっ、見たまえご主人」
「うわぁ、ナズーリン。クララさんだ! 本物のクララさんですよ! さっ、サインくださいっ!」
どうやら文々。新聞の号外はこの寺にもすでに届いていたようである。
「えっと……あのぅ……サインって言われても」
「ご主人。こんなところで立ち話もなんだから、中に入ってもらおうじゃないか」
「そ、そうですね。ささ、汚い寺ですがどうぞどうぞ……」
妖怪達に背中を押されるまま、アリス達は命蓮寺の中へと通された。
「聖。お客さんですよ~」
二人が通されたのは寺の本堂ではなく、大きめのコタツが置かれた居間だった。
「あらまあ、よくいらっしゃいました」
「いらっしゃいー」
二人の女性がコタツでお茶を飲み、その部屋の片隅では身体が雲で出来た不思議な大男が体育座りをしているという奇妙な空間である。
アリス達が座るのを待って、命蓮寺の住人達が順番に自己紹介を始めた。
「私がこの寺の住職、聖白蓮です」
「私がこの寺の船長、村紗水蜜です」
「私がこの寺の神様代理の寅丸星です」
「私がこの寺の小さな大将ナズーリンだ」
「で、結局誰が一番偉いのよ……」
「なるほど、そちらのクララさんは記憶が無くて本当の名前もわからないんですね」
協議の末、一番偉いのは白蓮ということになった。
「そういうわけで、誰かこの子に心当たりはないかしら」
現在この寺にいるのは全部で四人。
その四人が現在クララを半包囲するように取り囲んで観察していた。
ナズ「どこかで見たような気もしないではないんだが……やっぱり知らない人だなぁ」
ムラ「しってるようなしらないような……やっぱしらないや」
星 「たしか先週無くした宝塔を届けてくれた……いや、あれはお爺さんだったな」
白蓮「ごめんなさいね。最近物忘れが激しくって」
雲山「フルフル(※首を横に振っています)」
どうやらこの中にクララを知っている者はいないようだった。
「無駄足だったみたいね。あれ、クララどうしたの?」
「おかしいな……何故か涙が……へんですね……」
「………………帰ろっか」
「はい……」
理由はわからないが、なぜか涙目になっているクララの頭をアリスはやさしく撫でた。
二人が帰路につくため寺を出た時。
「ちょっと待ってくれないか」
その背中にナズーリンが声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「うちにも実は数日前から寺に帰ってこない奴が一人いてねえ。雲居一輪というんだが」
「あなたの所も大変ね。いいわ、見かけたら教えるからどういう子なのか特徴を教えてもらえないかしら?」
「特徴か……えーと……えーとっ…………」
ナズーリンは腕組みをしてしばらく考え込んだが、
「じ、地味なところ……かな」
「それ特徴なの?」
「いや、まってくれ。最大の特徴を忘れていた! 一輪は雲山という入道を連れている!」
「入道ならさっきお寺の中にいなかった?」
女性ばかり大勢いる空間に、一人(?)だけ親父面の入道が無言で座っているという光景は中々忘れられるものではない。
「……あれ?」
一輪が落とした入道使いの輪は、ナズーリン自身が香霖堂で探し出して買い取ってきていたのだった。
「あー、まあとにかく地味で目立たない感じの妖怪がいたらきっとそれが一輪だ。……おや? クララさんはなんで崩れ落ちているんだい?」
「なんかこの娘さっきから情緒不安定みたいで。帰って休ませるわ」
「ふむ、お大事に」
その夜。
アリスの家にはベッドが一つしかないため、クララが怪我をして寝かされていたその日はアリスはソファーで眠ったが、
昨日からは一つのベッドに二人で枕を並べていた。
ベッドのサイズは大きめの物なので二人でもさほど窮屈ではないが、女同士とはいえ向かい合って眠るのは少し照れくさかったため、
二人は背中あわせに横になっている。
(命蓮寺にも手がかりは無かったし、明日はどこへ行こうかしら)
今の所、クララの記憶の手掛かりはまったく無かったが、この程度でアリスは諦めるつもりは無かった。
いざとなれば天狗のところにこちらから出向き、事情を説明してもう少しちゃんとした記事を書いてもらうという手段もある。
(あの天狗の事だから見返りに変な写真撮らせろとか言ってきそうだけど……)
――スサッ。
アリスの背中で布の擦れる音がした。
「アリスさん……」
寝返りを打ったクララがアリスの背中に声をかける。
「まだ起きてたの?」
「……なんだか怖いんです。もしかしたら、この世界に私の居場所なんてどこにもないような気がして」
そう呟いたクララの声は少し震えていた。
「私……アリスさんの本当の妹だったらいいのに……」
「クララ……」
アリスも寝返りを打ってクララと向き合う。
そしてクララの頭を自分の胸に引き寄せ抱きしめた。
「私の妹ならそんな簡単に諦めるものじゃないわ」
「…………はい」
小さく返事をしてクララもアリスの胸に顔を埋める。
「アリスさんいい匂いです……」
「クララの髪もいい香りがするわ」
「二人で髪の洗いっこしましたからね。……私達、きっと同じ匂いがしてますね」
「ふふっ、そうね」
二人は眠気が襲ってくるまでの間、しばらく他愛のない会話を楽しんだ。
そしてそれが最後の夜だった。
…………一輪。
誰かが私を呼ぶ声がする。
だけど名前が間違ってるよ。私はクララ……。
……一輪。
私はクララだってば……。
だけどその名前はどこかで聞いた事がある。
一輪。
その名前で呼ばないでったら。
私は……。
私の名前は……………………。
まだうす暗い部屋の中で少女は目を覚ました。
隣で眠るアリスを起こさないように慎重にベッドを抜け出す。
「ごめんなさい。やっぱりあなたの妹にはなれなかったみたいです……」
少女は全てを思い出した。
「私にも大切な仲間がいるのを思い出したから……ちょっぴり変わった人たちですけどね」
寝巻を脱ぎ、音をたてないように壁にかかっていた自分の本来の服に着替える。
その時になって彼女はところどころ破れていた自分の服が奇麗に繕われている事に気がついた。
(ありがとうアリスさん……さようなら……)
ここでの生活は短かったけれどもとても楽しかった。
もしアリスに帰らないでくれと引きとめられたら、私は断わる事が出来ないかもしれない。
そう思ったから、少女は何も言わずにここを立ち去ることに決めたのだった。
――パタン。
扉が閉まる小さな音。
それを合図にアリスは目蓋を開いた。
「行っちゃった……」
今追いかければ別れの挨拶くらいは出来るかもしれなかったが、アリスはそうしようとは思わなかった。
「……朝食の材料二人分用意してあったのに無駄になっちゃったわ……」
その後、命蓮寺に帰った一輪は何事もなかったように普段通りの暮らしを送っていた。
「ねえ、一輪」
「なに? ムラサ」
「なんで今日は家の中でも頭巾を脱がないの?」
「うん、まあそういう気分の日もあるのよ……」
一輪は今でも時々アリスに結んでもらったリボンをこっそり付けている。
でも、それは寺に暮らす仲間達にも内緒なのであった。
後書きの最後の一行で許すことにしよう。そう、クララがあまりにも可愛すぎて皆気づかなかったんだ。決して頭巾を取っていて解らなかったんじゃないんだ。そういうことにしよう。
「いま信仰すると、もれなく等身大毘沙門天様(代理)抱き枕がついてきます!」
確かに抱き枕と言ったな。カバーとは言わなかったな。ずいぶん前から信仰してますがまだ貰ってません。早くください。
地味…?
だから良いじゃないですかっ!
ツッコミどころが多すぎて、とても全部はムリだけど、取りあえず……
不人気、だと~~w
上海自重!!
裸に毛布って素敵すぎ!!
ツインテールがたまらん!!
雲山……せめてお前だけはは気付いてやれよw
楽しいお話をありがとうございます。
こんな悲しいssは初めてみたよ……
涙とアリスの優しさの分だけ点数ここに置いていきますね つ100
一輪さんが可愛い…+120
命蓮寺が酷い…-50
早苗さんが酷い…-50
抱き枕…+100
アリス優しい…+30
空から女の子が…+30
計80点
流石一輪さん可愛い
変な言葉色々教えたくなるじゃないか!
だけどっ、このお話の彼女の破壊力を以ってしても、
「やっぱり一輪さんには『少女』という形容詞は似合わないよネ!」
と、思ってしまう自分がとても憎いです。
それにしてもお姉さんアリスは、どんなキャラと絡んでも相性がええなぁ。
一輪さんて実は人気があるんだな~と再認識しました。
ぺ・四潤様>抱き枕は最近のキャンペーン商品なのでずいぶん前から信仰している人にはありません。
7様>最初の一行のネタに気づいていただけてホッとしておりますw
26様>抱き枕が無かったらマイナス点だったのか。危ない危ない……。
コチドリ様>幻想郷にいるのはみんな少女ですw 白蓮さまだって少女なのですから当然一輪さんも少女です。
くそワロチww
なんだろう、一輪さんはこんなにももてはやされているというのに、何故か不憫でならない;ww