「綺麗な月……」
漆黒の夜空に浮かぶ満月を眺めていたら無意識に思いを口に出していた。
秋の空気は冷たく澄みわたり、地上へと降り注ぐ月からの光を遮るものは何一つ無かった。
「この月の下で、私は多くの人を殺さなければならないのね……」
そう、月からの迎えの使者を……私は殺さなければならない。
その中には、もちろん彼女も含まれる。
殺したくても殺せず、忘れたくても忘れることの出来ない彼女。
「八意、永琳……」
彼女も私を連れ戻す命を受けているであろう。
事の発端はこうである。
月のとある名家に生まれた私に両親は家庭教師をつけようとしていたのだが……
「私よりも頭の悪い人間から教わることなんて一切無いわ!!」
そう言って勉強をしようとしない私に両親は頭を抱えていた。
これだけを見れば私の我儘に見えるだろうが私にも言い分はある。
運命の悪戯か偶然かはわからないが、私は生まれつき頭だけは良かったのだ。
3歳の時には月の直径を導き出し、それをもとにして月から地球までの距離を暇つぶしに求め、
6歳の頃にはフェルマーの最終定理の新しい解を夏休みの自由研究で求めたりした。
つまり、私に家庭教師なんていうものは一切合切必要なかったのである。
そんなある日、両親は新しい家庭教師を連れてきた。
背は高くスタイルも良い銀髪の女性は、八意永琳と名乗った。
彼女は本物の天才だった。
彼女は私が足下にも及ばないほどの天に愛された人間だった。
その頭脳で多くの人間を救い、その反面、多くの兵器を作ってきた。
そんなこともあったが、彼女が私の家庭教師になってから数日が経ったある日
彼女の本職は薬師だと聞いて私は彼女なら私の願いを叶えてくれるかもしれないと思い、尋ねてみた。
「ねえ永琳。あなたは薬師でしょう?なら、蓬莱の薬は作れる?」
蓬莱の薬
服用した者は不老不死となる禁断の薬。
月最高の頭脳の持ち主である彼女なら、作ることが出来るかもしれない。と私は考えたのだ。
「どうなの?永琳。作れるの?作れないの?」
黙ってしまった彼女には悪いと思いながら追い討ちをかけるように私は頼み込んだ。
「材料なら全て屋敷に揃っているわ。ただ、あなたの能力を貸してほしいのよ。」
「……何故、蓬莱の薬を?」
諦めたように彼女は一つだけ、私に聞いてきた。
「そんなこと決まっているじゃない……」
そう、理由は唯一つだけ。
「………………よ。」
「…めさ…、…めさま、姫様!!」
目を開けると、あの頃と全く変わらない彼女の端整な顔が目に入る。
「姫様、大変うなされていたようでしたが大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、永琳。」
上体を起こしながら答えるがびっしょりと寝汗をかいていた。
「『夢』を見ていたわ……だいぶ、昔の……」
私が永琳の作った蓬莱の薬を飲んだことはすぐに発覚し、穢れを祓うためと称して私は地上へと落とされた。
そして永琳と共に月からの使者を全て殺し、自らの服を血で紅く染め上げても私達は逃げ続けた。
年をとらないことに不信感を抱かれないように転々と居場所を変え、そして、幻想郷へと辿り着いた。
こんな運命を辿ることにはなったが、彼女を恨んではいない。
恨んではいないのだが、こんなことを言ってしまうこともある。
「ねえ、永琳?この地上で私が最も憎んでいるヒトはあなたなのに、何故あなたはこんな私に付き添ってくれるの?」
すると彼女は驚きもせずに
「ねえ、姫様、知ってますか?この地上であなたを最も愛しているヒトは、私なのですよ。」
こんなやりとりも何度やったか覚えていない。
「それに姫様、蓬莱の薬を飲んだのは、姫様自身の『意志』でしょう?」
「そうね……『人の足を止めるのは“絶望”ではなく“諦め”。人の足を進めるのは“希望”ではなく“意志”。』あなたが教えてくれたことだったわね……」
あの頃の『夢』を見ると、どうしても憎しみのやり場を探してしまう。
私が本当に憎んだヒトはもう、いないというのに……
「……理由?そんなもの決まっているじゃない。私がこの世で最も嫌いなヒトは……お父様だからよ。」
その日から私は人間であることをやめたが、ヒトであることはまだやめていない。
いや、やめる時は来ないだろう。
たとえ永劫の時を過ごそうとも私は、蓬莱山輝夜であり続けるのだから……
漆黒の夜空に浮かぶ満月を眺めていたら無意識に思いを口に出していた。
秋の空気は冷たく澄みわたり、地上へと降り注ぐ月からの光を遮るものは何一つ無かった。
「この月の下で、私は多くの人を殺さなければならないのね……」
そう、月からの迎えの使者を……私は殺さなければならない。
その中には、もちろん彼女も含まれる。
殺したくても殺せず、忘れたくても忘れることの出来ない彼女。
「八意、永琳……」
彼女も私を連れ戻す命を受けているであろう。
事の発端はこうである。
月のとある名家に生まれた私に両親は家庭教師をつけようとしていたのだが……
「私よりも頭の悪い人間から教わることなんて一切無いわ!!」
そう言って勉強をしようとしない私に両親は頭を抱えていた。
これだけを見れば私の我儘に見えるだろうが私にも言い分はある。
運命の悪戯か偶然かはわからないが、私は生まれつき頭だけは良かったのだ。
3歳の時には月の直径を導き出し、それをもとにして月から地球までの距離を暇つぶしに求め、
6歳の頃にはフェルマーの最終定理の新しい解を夏休みの自由研究で求めたりした。
つまり、私に家庭教師なんていうものは一切合切必要なかったのである。
そんなある日、両親は新しい家庭教師を連れてきた。
背は高くスタイルも良い銀髪の女性は、八意永琳と名乗った。
彼女は本物の天才だった。
彼女は私が足下にも及ばないほどの天に愛された人間だった。
その頭脳で多くの人間を救い、その反面、多くの兵器を作ってきた。
そんなこともあったが、彼女が私の家庭教師になってから数日が経ったある日
彼女の本職は薬師だと聞いて私は彼女なら私の願いを叶えてくれるかもしれないと思い、尋ねてみた。
「ねえ永琳。あなたは薬師でしょう?なら、蓬莱の薬は作れる?」
蓬莱の薬
服用した者は不老不死となる禁断の薬。
月最高の頭脳の持ち主である彼女なら、作ることが出来るかもしれない。と私は考えたのだ。
「どうなの?永琳。作れるの?作れないの?」
黙ってしまった彼女には悪いと思いながら追い討ちをかけるように私は頼み込んだ。
「材料なら全て屋敷に揃っているわ。ただ、あなたの能力を貸してほしいのよ。」
「……何故、蓬莱の薬を?」
諦めたように彼女は一つだけ、私に聞いてきた。
「そんなこと決まっているじゃない……」
そう、理由は唯一つだけ。
「………………よ。」
「…めさ…、…めさま、姫様!!」
目を開けると、あの頃と全く変わらない彼女の端整な顔が目に入る。
「姫様、大変うなされていたようでしたが大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、永琳。」
上体を起こしながら答えるがびっしょりと寝汗をかいていた。
「『夢』を見ていたわ……だいぶ、昔の……」
私が永琳の作った蓬莱の薬を飲んだことはすぐに発覚し、穢れを祓うためと称して私は地上へと落とされた。
そして永琳と共に月からの使者を全て殺し、自らの服を血で紅く染め上げても私達は逃げ続けた。
年をとらないことに不信感を抱かれないように転々と居場所を変え、そして、幻想郷へと辿り着いた。
こんな運命を辿ることにはなったが、彼女を恨んではいない。
恨んではいないのだが、こんなことを言ってしまうこともある。
「ねえ、永琳?この地上で私が最も憎んでいるヒトはあなたなのに、何故あなたはこんな私に付き添ってくれるの?」
すると彼女は驚きもせずに
「ねえ、姫様、知ってますか?この地上であなたを最も愛しているヒトは、私なのですよ。」
こんなやりとりも何度やったか覚えていない。
「それに姫様、蓬莱の薬を飲んだのは、姫様自身の『意志』でしょう?」
「そうね……『人の足を止めるのは“絶望”ではなく“諦め”。人の足を進めるのは“希望”ではなく“意志”。』あなたが教えてくれたことだったわね……」
あの頃の『夢』を見ると、どうしても憎しみのやり場を探してしまう。
私が本当に憎んだヒトはもう、いないというのに……
「……理由?そんなもの決まっているじゃない。私がこの世で最も嫌いなヒトは……お父様だからよ。」
その日から私は人間であることをやめたが、ヒトであることはまだやめていない。
いや、やめる時は来ないだろう。
たとえ永劫の時を過ごそうとも私は、蓬莱山輝夜であり続けるのだから……
とても,印象的な文体でした.他の方とは意見が違うかもしれませんが,いつもの90点から100点を入れさせてください.
父親を憎み世界を憎んでいる輝夜がよかったです.
ひとつですが,
>「ねえ、永琳?この地上で私が最も憎んでいるヒトはあなたなのに、
ここの行に来た時になぜ輝夜が憎んでいるか,直感的に理解できませんでした.
具体的には,輝夜が永琳をもっとも憎むエピソードを入れるといいのかもしれません.
ここまで非常によかったのにわかりにくさのせいで流れが断ち切られたのがもったいなかったです.
また同様に
>「ねえ、姫様、知ってますか?この地上であなたを最も愛しているヒトは、私なのですよ。」
>『人の足を止めるのは“絶望”ではなく“諦め”。人の足を進めるのは“希望”ではなく“意志”。』あなたが教えてくれたことだったわね……」
も,なぜそう思うようになったかわかりません.特に“絶望”“諦め”“希望”“意志”という単語の意味が明確ではないです.
皆川さんのマンガのやりとりなら,その意味を明確にする流れなどをとるといいと思います.
ただ,何が他の人にとってわかりやすいかそうでないかは,やはり若いせいだと思います.経験を積めば必ずできるという明確な意思と希望をもって
①マンガでもSSでも印象的な良い読書の量を増やすこと,
②文章を書き,人に読んでもらって伝わっているか確認する練習を
検討してみてください.
特に②,自分と多少ベクトルの違う人に伝えられるようにする努力も怠らないことをお勧めします.人間は,違う相手とも分かり合える希望を捨ててはいけないと思うからです.
ただし,難しいことなのであきらめも肝心です,この点バランス感覚が大切だと思います.
以上,厳しく言ってしまってすみません.ただ,この作品ではっきり思ったのですが,勿忘草さんは,成長が他の人と比べてかなり早いほうではないでしょうか,努力を惜しまれない方なのかもしれませんね.
素敵な作品ありがとうございました.次回作も楽しみにしています.
内容は上のコメントの方のおっしゃるとおり、いくつか脈絡の分かりにくい箇所がありましたが、全体的にはすっきり読めて良かったです。
てな訳で、作者様の頭の中では整合性が取れていても、読者がそうだとは限らんのですよ。
お話を読んでいくと、まず現在の描写から始まり回想に入る。回想終了後、永琳との対峙が
描かれる、と思いきや、それまでの話は全て悪夢だった。うおー、頭がこんがらかるぅ~
みたいな状況になるのですね。
夢の中でも時間軸が変化するのは結構なのですが、それならそれでもっと分かり易く
文章を書いて欲しいのです。
「それは貴方の読解力が足りないのだ」と、言われればそれまでなんですけどね。
次回作に期待、ということで。
確かに描写が足りなかったと思います…
次は久しぶりに明るい話を書こう。
明るい話も書けるように努力します。
勿忘草さま、前のコメントに、自分の作品を信じましょうと書きましたが、一つ言い忘れました。私も勿忘草様ならきっと素敵な作品が書けるように信じておりますよ。何事も良いことも悪いことのあるものですが、悪い時ほどますますしっかり信じてくださいね。
あと、設定的にちょっと違和感を覚える箇所がいくつかありました(フェルマーとか
姫様はなんで父親が嫌いなのかな