姫は私の事をいつも気にしてくださっている。
上に立つものとして従者の面倒を見るのは当然と考えているから、私は感謝しても感謝しきれない恩がある。
今回の件も私が原因なのだ。
「永琳、私はニートになるわね」
私が姫にそういわせてしまったのは。
姫は優秀なお方だ。
薬学だけに特化した私と違い、経済政治に精通し、人を支配する方法も知っており。
不老不死になってから暇だったらしく、色々な事に手を出し多趣味だ。
月に居た頃お姫様として我侭し放題に育てられ引きこもりがちであったか、学ぶべきことは学んでいる。
地上に移り住んだ際も、自分を拾い世話になった人間の祖父や祖母に散々尽くし貧しい農民であった彼らを
幸せを破壊しない程度に裕福にし、去る時まで家族として幸せに過ごしていた。
姫様の力を使えば彼らを一国の主にすることすら可能だったろうが、彼らはそれを望んでおらず
ただ農民として平穏で幸福な日々を願った、そのため不自由しない程度の自由と金を得た。
何度も言おう、姫様はなんでもできるのだ。
彼らの元から去った後、私は姫様の従者として使えた。
しかし姫様が私がやる前に私以上の成果と素早さで終わらせてしまうため、私は正直泣きそうであった。
確かに私は天才だ、月でも月一の薬剤師と言われた。
しかし私はあくまで薬剤師なのだ。
料理や掃除や洗濯などあまりやったことは無く、生活費の稼ぎ方もあまりわからない。
そんな私を見て姫は、文句を言う訳でも無く。
朝は私より早く起床し、朝食を作り。
いつのまにか洗濯を終わらせ掃除をしており。
どこからともなく生活費、恐らく何万年と過ごせるような生活費を稼いでくる。
私は従者だ。
私の視点から考えて見てもほしい。
朝は姫が起こしにきて、既に朝食を作り、掃除洗濯を終わらせ、お金に困ることも無い。
やることがまったく無いのである。
上に立つ者として、なんでもできる事は良い。
しかし姫様が全てを終わらせてしまうので私は居心地が悪く、何かしようにも全て終わっている。
最高で最低なのだ。
そんな生活が続き、私はある日耐え切れなくなって、姫様に土下座して頼み込んだ。
「お願いですから私に仕事をください」
「貴方は研究が仕事じゃない」
姫様は部下が一番得意なことをやらせようとする、苦手な事をやらしても捗らないと知っているからだろう
しかし、しかしだ。
「姫にトイレ掃除をさせる従者がどこにいるのですか」
「ここにいるじゃない」
姫はトイレ掃除までやり終えているのだ。
それも文句の付けようのないぐらい綺麗に、そんなことを姫様にやられたらこちらの立つ瀬が無い。
「お願いします、家事洗濯掃除や生活費は全て私にお任せください」
「私のやる事が無いじゃない」
「従者として自分が許せないのです、お願いします」
「仕方が無いわね…わかったわ」
「本当ですか!」
「ええ従者をここまで追い込んでいたなんて、私は上に立つ者として失格ね」
「違います、全ては私が不甲斐無いのが悪いのです申し訳ございません」
「顔をあげて永琳」
「はい輝夜様」
「私はニートになるわね、それでいい?」
「はいニートになってくださいお願いします」
そうして姫様はニートになった。
私はそれによりようやく従者らしい生活を送れるようになり、幸せな日々を過ごしていた。
過ごしていたのだが…。
ある農民の家に、豪華な服装で身を包んだ太った男と兵士がいた。
無理やり米俵を持って行こうとしてるのか、必死に抵抗する農民の男の手から米俵を奪おうとしている。
「領主様、その米をもって行かれたらワシらは餓死してしまいます」
「黙れ、税を納めぬ者は処刑じゃ連れて行け!」
「はっ」
「そこまでよ!」
しかしいつの間にか扉に一人の女性が立っていた。
全身を鎧で身を包み、片腕に斧を持った重武装の鎧武者だ。
「自身の暗愚な施政に関わらず、善良なる農民から無理やり食料を奪い
農民を処刑しようとする、人、それを悪という!」
「誰だお前は!」
「正義の味方、輝夜よ!」
「あの悪人殺しの輝夜だと、者どもであえ!であえ!こやつの首をとったものは出世は思うがままぞ!」
「遅い、斧パンチ!」
太った男が兵士達に命令する前に、輝夜は斧を投げ捨て太った男の顔面をぶん殴る。
その細腕からは考えられない威力と速さだ。
顔面を殴られた領主は錐揉み回転をしながら農家の家の壁に打ち付けられる。
「領主様!」
「領主に従った貴方達も同罪よ、誰一人として逃がさないから覚悟しなさい!」
「相手は小娘一人、やってしまえ!」
「複数で囲んで槍で突き殺せ!」
「斧キック!」
その間にも輝夜の攻撃は続く。
斧は最初にぶん投げてしまったためか今の輝夜は素手だ。
領主を殴った時に拳に血が付いているが、気にした素振りも見せない。
「斧飛び膝蹴り!」
兵士の一人を投げ飛ばす。
「斧乱れ撃ち!」
兵士の一人の顎を蹴り上げる。
「斧痺れ矢!」
農民の足をつかみ、股間に攻撃を加える。
「斧円月殺法!」
最後の兵士に米俵ぶつけ気絶させる。
そうしてその場に立ってる者がいないことを確認してから斧を拾いポーズをつける
「正義は勝つ!」
ニートになると約束した姫様は、何故か正義の味方になっていた。
私も何をいってるのかよくわからないが、私もわからない。
正義と刺繍が入った鎧と悪即斬と書かれた斧を持ち歩きだした時は何事かと思った。
彼女は華奢な腕と体格をしているが、どういう鍛え方をしたのか知らないが自分の身長を超える斧を軽々と振り回すかなりの猛者なのだ。
まあ姫が武器の扱いが上手いとか、何故鎧に身を包んでいるかなんてどうでもいい
「正義の味方ってなんですか!」
「上に立つ者は常に貧しい者の味方になれっていうじゃない」
「そうですが…そうなんですが、どういうことですか」
「いやほらニートって暇じゃない、でね私は考えたのよ
ニートって単語の意味は「教育を受けておらず、労働や職業訓練もしていない人」ってことなのよ。
そんなら正義の味方はセーフでしょ」
「どういう理屈ですか、すぐにやめてください!」
「嫌よ、正義の味方って労働するわけじゃないし職業でもないじゃない」
「ですが従者として…」
「ねえ永琳、冷静になって考えてみて。
私は家事も洗濯も掃除も仕事もしてない、そしてお金を稼ぐわけでも無い。
貴方の領分は何も犯して無いしニートとしての役割は果たしている。だからこれでいいのよ」
「しかし…」
「あっちの方角から輝夜悪人センサーが反応してる! 行ってくるわね!」
「待ってください、姫様。私の話を…」
「見てなさい、悪人! 私の斧の錆にしてあげる!」
「姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
どこにケンカ売って逃げてきたんだろ?
正義の味方は立派な労働だと思うがなあ…。じゃなきゃ、科特隊の意義とかが無くなるような。
あと、何故そこまで斧にこだわるw
誤字報告です。
捗らないと知っているからだる→だろう?
火事洗濯→家事洗濯
やべえ。この一行だけでやべえ。こげなもん書けん。
百合物を書きながらの休憩で一体何がどうなったらこんなことになる。
とりあえず姫様に求婚してくる。
飛騨の姉小路あたりだとぴったりですよ、悪大名
というか貴方のギャグ以外も読んでみたい
こんな最凶なNEETがいてたまるかぁぁああああッ!ww
一々、「斧~~!」って読むたびに笑ってしまった。なんか負けた気分になれましたww
農民を処刑しようとする、人、それを悪という!」
「誰だお前は!」
「正義の味方、輝夜よ!」←コレ
ここは「貴様らに名乗る名はない!」だと完璧でしたw
悪者退治の詳細希望。
斧カッコイイよ斧
不覚にも面白かった
しかし斧関係ない!w
>「正義の味方、輝夜よ!」
名乗っちゃう姫様可愛いです姫様。
実力を隠し持ってるというわけか……ゴクリ
いや、斧流奥義か。
姫さま最強w