Coolier - 新生・東方創想話

もしもアリスが人形遣いじゃなかったら

2010/04/25 22:39:23
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【注意】

タイトル通り、アリスというキャラクターの可能性を広げようという目的で書いています。

つまり、オリ設定です。
そう言うのが駄目な人は読まないほうがいいかも。

良ければお進みください。










































私には、好きな人がいる。
彼女は、人形遣い。
毎日を人形と暮らし、人形で過ごす。
そんな彼女が好きだ。



ある日彼女は言った。
"この人形たち、扱うのが難しいのよね"


何を言っているんだと、思った。


この人形たちは、全て彼女が操っている。
言わば、究極の自作自演。

人形たちの…
時折見せる笑顔も、
転んでしまうそそっかしさも、
あたふたする様子も、

全ては、彼女の統制下。


彼女はそうやって、自演を繰り返し、目指すのだ。
自演などしなくても、そのように動いてくれる人形を。
ソレを、自らの手で生み出すことを。


だから、日々繰り返す。
一見無意味に見える、人形の全ての振る舞いを。

そこで見て、掴んだ全てを、夢の一作へと繋げられるように…







少なくとも、私はそう思っていた。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










「お邪魔するわよー」
「あら…珍しいわね、あんたの方からくるなんて」


魔法の森。

瘴気のたちこめる森。
獣が身を潜める森。
死の香りが充満する森。

そして

魔法使いが暮らす森。


「出不精のあんたが、よくもまあ遊びになんてきたわね」
「うるさいわよ。別にいいじゃないの」
「ま、いいんだけどね」


その森に建つ洋館。
苔むした森の中で、白が眩しい綺麗な家。
魔法の森の、人形屋敷。

私の好きな妖怪、アリス・マーガトロイドは、そこに住んでいた。
そして、私…
博麗神社の巫女、博麗霊夢を招き入れてくれた。






「今紅茶を出すわ」
「私は緑茶しか好まないわよ?」
「我慢なさい。郷に入れば郷に従うのが基本でしょう。」
「…うへぇ」


洋館のリビング。
いつものように、聞き入れられない提案を出す。
それを、いつものように切り捨てられた。
“いつも通り”というものは、どうしてこうも甘美で、心休まるものなのだろうか。



「うへぇじゃないの。いい加減慣れてもらわないと、こっちも困るわ」
「それは、キライな緑茶を振舞われるからでしょうに」
「だからあなたが慣れればいいでしょう」
「どっちが」


文句と文句の、なんとも実のない言い合いをしながら、私は紅茶を待つ。
緑茶に慣れきっているから、紅茶が苦手・・・というより、受け付けなかった。
なにかお茶ではない、得体の知れない何かを飲んでいる気になるのだ。
私のなかの「お茶」というカテゴリには、未だに紅茶は含まれて居ない。
どうやらアリスも同じ状況のようなので、どっこいどっこいなのだが。


「…ほら、温かいうちに飲みなさいな」
「まぁ…せっかく淹れてくれたし、そうするわ」


一口啜る。
緑茶とはまた違った苦み。
腹の底からため息をつける緑茶とは違い、紅茶はどうも飲んでも落ち着けない。
こう…まったりという言葉に当てはまらないというかなんというか。


「…やっぱり、まだ好きにはなれそうにないわ」
「あら、そう?なら今日はたっぷり飲んでもらって、少しでも慣れてもらわないとね」
「…まぁ、ほどほどにするわ」


紅茶は苦手だが、ここで飲むとおいしい。
好きな人が淹れてくれるのだから、おいしくないはずはない。
だから、素っ気なく返しはしたが、今日もたらふく飲んで帰るのだろう。


「紅茶のつまみが何も無いのも寂しいわね」
「あいにく、紅茶しかないわ。お菓子はまた作らないとね」
「アリスのクッキーは美味しいから好きよ。甘すぎないし」
「それは、光栄の至り」


二人でクスクスと笑い合う。
なんてこと無い会話の、一つ一つが楽しくてしょうがない。


「つまみにはならないけど、この間新しい人形ができたのよ。ちょっと見てくれる?」
「あら、いいわね」


アリスは微かに笑顔を受かべて席を立つ。

人形を自慢する時のアリスは、本当に生き生きとしている。
輝いていると言ってもいい。
子を自慢する親のようだ。
ほとんどの人形はアリスの手作りだそうだから、この解釈も、あながち間違いではないのだろう。


1分も経たないうちにアリスは戻って来た。
両手には、人形が一体包まれている。

「これよ。この子…何に見える?」
「何にって…」

整った着流しと腰の刀。
頭には笠を被り、足には足袋と草鞋。


「…侍?」
「正解よ!ちゃんと侍に見えるのね…良かった」
「大丈夫よ。心配性ねアリスは…」
「そりゃあね、せっかく作ってあげるんだから、それらしく見えないとね」


ニコニコと、先ほどの微笑とは違い、明らかな笑顔をつくるアリス。
私は、この顔が好きだ。
これを見に来たのだと言ってもいい。
冷静な面からは見えない、やわらかい表情。
これに、惹かれた。

私の脳がこの笑顔に焼かれたのはいつだったろうか。
気がついた時には、この笑顔を求めている自分がいた。
理由なんてものは、今でもよくわかっていない。
だが、きっかけなんてものがなくても、今ここにちゃんと感情はある。


まだ気持ちを打ち明けるような勇気はない。
友達だから?それもある。
種が違うから?それもある。
同姓だから?それが一番ある。


こういう気持ちを持ったのは生まれて初めてで、その相手が同性だった。
自覚を持った時から、その事実は私の心の重石となっている。
自分で自分を受け入れるのにも何カ月もかかったのだ。
それを他人が受け入れるのにはさらなる月日がかかるだろう。
…いや、一生受け入れてもらえない可能性だってあった。


だから、今はここでいい。
一緒に居られるのなら、今のままでいい。
この距離が幸せ。この関係が最善。
“いつも通り”が、今の私にとっての至福。


「…そうそう、パスタのレシピを里で貰ったのだけど、霊夢も食べていかない?」
「あら、いいの?」
「悪くなってきた食材をまとめて使おうと思うのだけれど、全部使うとなると、一人で食べるのには多すぎるのよ」


珍しいこともあるものだ。
アリスの料理なんて、食べるのはいつぶりだろうか。
断る理由は何もなかった。


「…それじゃあ、頂くわ」
「じゃあ、今から作ってくるから待ってて頂戴。暇だったら、あそこの本棚から好きな本を取って読むといいわ」
「知っているでしょう?私は活字が苦手なの」
「そういえば、そうだったわね」


フフフと笑いながら言われる。
わかっていて言ったのは明らかだ。この魔女め。


「すぐ作るから、待っててね」


その一言を残して、アリスは部屋から出て行った。







やはりというか何というか、やることは何もなかった。
ただ暇しているというのも、普段と変わり映えしなくてつまらない。
だが、それ以外の選択肢を見つけられなかった。


時計を見ると、12時30分。
太陽は真上に上がりきっておらず、真後ろにある東の窓から温かい光が背を照らす。


ポカポカとした陽気。
それにあてられ眠気に襲われる。

アリスがご飯を作ってくれている。
それを知りつつも、本能の欲求には抗えない。



目を閉じては開け、開けては閉じ

意識は徐々に削り取られ、瞼は閉じていった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







っと、いけないいけない。
ハッと我に返りあたりを見回す。
まだ、アリスは戻ってきていない。


良いにおいは漂ってきているので、もうすぐ出来上がるのだろう。
だが、これ以上座っていたらまた寝てしまう。
アリスにお小言を言われるのは嫌だと思った。

活字は苦手だが、とりあえず本棚を見ることにして席を立った。
体を動かせば、少しは眠気も晴れることだろう。


一通り背表紙を見回す。
『魔法力学』
『人形の作り方・上級編』
『山の料理レシピ1000』
パッとしないものばかりであった。
アリスらしいラインナップではあるが、私の興味はそそられない。
もっと理解しやすくて、それでいて絵を多い本は無いのだろうか。


目線を流していくと、本棚の隣の机が目にとまった。
そこにも数冊本が積まれている。

本棚には隙間があいていたので、これはそこに入っていたものだろう。
何の気なしに、一番上の本を見た。


『日記帳 Alice Margatroid』


見て呆気にとられたのは言うまでもない。
気がついたら、ゴクリと生唾を飲んでいる自分がいた。

マメなアリスのことだから、日記をつけていたとしても不思議ではないが…
現実としてお目にかかるとは夢にも思わなかった。


見たいと思った。
だって、それは普通の感情でしょう?

アリスの日記なら、私のことも書いてあるだろう。
私のことをどう思っているかも、書いてあるかもしれない。
先に進めるかもしれない。

幸せな停滞か、叶うわけもない望みにかけ玉砕するか。
勇気の持てない霊夢には、この日記の存在は、まさに僥倖と言えた。

これなら、今の関係を維持したままアリスの本心が探れる。


もし、私のことが書いてあったら?
好きとまではいかなくても、親友とか、そのように書かれていたら?
そういう考えが次々とあふれ出し、体を動かそうとする。
日記から目が離せない。


見てはいけないというような、人間として当然の感情が心の片隅で蠢いていた。
その感情が背徳心となり、アリスへの申し訳なさがにじみ出る。


にじみ出たのは申し訳なさ。
この時点で、心は決まっていた。



誘惑とは、時に残酷に人を動かす。
思考はまるで、これからの行為を正当化するかのように利己的に働く。
肉体は、脳みそが言い訳を考える間にも目的のソレににじり寄る。

アリスは本棚にあるものを読めと言い、恐らくこの日記は本棚にあったとか。
そんな感じの適当な言い訳を作り己を正当化し、
神職につくものらしく神様に懺悔をしたりする。
全部偽物なのだけれど。


結局は、そうだ。
見たいから、手に取った。
気になるから、開いた。
好きな人のだから、目を通した。


だって、この報われぬ恋が、もしも報われる恋なのだとしたら。
その可能性があるのなら。
その可能性が、万が一にでも書かれているかもしれないのなら。


それを見つけた時、私は幸せという感情に押しつぶされて死んでしまうと思うから。
そんな気持ちを味わってみたいから。


そう、そういうこと。
結局はそういうこと。
私は私のために日記を読み始めた。



私の愛する日常に、ヒビが入った。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







午の月 6日


今日は、新しい殻を作った。侍の格好だ。
私にとっては、和服はほぼすべてが同じものに見える。
コレも、ちゃんと侍に見えるかが心配だ。

中身については、明日にでも調達してこようと思う。
以前から目をつけていたものがある。明日にでも完成しそうだ。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~









どことなく不自然な日記だと思った。
良くわからない言い回しがあり、異様に短い。
いや、短いのが日記なのかもしれないが。


だが、内容は一通り理解できた。
どうやら、先ほど見せてくれた侍の人形は、一昨日作り終えたものらしい。

壁に貼ってあるカレンダーを確認する。
今日は午の月の8日だ、間違いない。

付箋が挟まっていたのはこのページで、ここから先には何も書かれていない。
なので、2,3ページさかのぼることにした。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







午の月 5日


今日は里へと出かけた。

八百屋の徹二さんが一段と元気だった。
あの調子ではあと10年は元気でいるだろう。

ほうれんそうを多めに入れてくれた。
そういうサービスを勝手にやるから奥さんに怒られてしまうのに。
少し申し訳ない。


歩いていると、食堂のお妙さんが声をかけてきた。
この間、子供たちに見せた人形劇のお礼にと、スパゲティーのレシピを教えてくれた。

里でも評判のクリームスパゲティーのレシピ。
ずっと教えてと頼んでいたが、ついに手に入れた。
これは本当に絶品なのだ。


霊夢に作ってあげよう。
美味しい美味しいと喜ぶ霊夢が目に浮かぶ。


昨日から、ずっと霊夢のことを考えている気がする。

私の頭にも春が来てしまったようだ。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








午の月 4日


今日は神社に遊びに行った。
最近は行くことが多くなったが、霊夢はやかましがらず、いつも通りにお茶を出してくれる。


霊夢は綺麗だ。
あの艶やかな黒髪も、白い肌も、何もかも。

そんな霊夢に惹かれている。
人形を作るときに、何度霊夢を参考にしたことだろう。


霊夢は最近、やけに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
以前とは違い、遊びに行ってもやかましがることが無くなった。
それどころか、遊びに来てくれることまであるのだ。

友人として、嬉しい。


そうだ、今度霊夢の人形を作ることにしよう。

霊夢とはいつまでも一緒にいたい。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










午の月 3日


今日は、先日完成した殻に中身を詰めた。
中身にしたのは、里から少し離れたところに住む小柄な男性だ。

彼は怪力の持ち主として里で有名だった。
里の近くの川が氾濫したとき、彼は50キロの土が入った麻袋を片手に一つずつ持ち、走った。
反乱を止めるための土塁を築くために。
往復した回数は、ゆうに100回を超えたという話だ。





この話を聞いた時、新作の鬼の人形にぴったりだと思った。
だから、今回は彼を中身にした。




しかし、人間というものは、本当に脆く、呆気ない。
怪力だろうがなんだろうが、準備を整えた魔法使いには手も足も出ない。
ものの一分でおとなしくできた。


いつものように、まずは殺した。


血が服に付かないように、首を締めあげた。
抵抗されて、腕を引っ掻かれて血がにじんだ。
こんな傷、妖怪の再生力なら一日で消えてしまうというのに、彼が最後に残せた生の証はこれだけだった。


体から抜け出る霊魂をつかむのは久しぶりだったが、何度掴んでも心地よい。
あのきゅっと締まっていて弾力のある感触は、癖になる。

霊魂を人形に仕舞い込んで、不要になった入れ物を転がしておいた。
なぜ死体は腐るのだろうか。
腐敗さえしないのならば、わざわざ人形など使わないと言うのに。











「楽しそうね、霊夢」

「――――ッッ!!!!!」



その声に全身が硬直する。
振り返ると、アリスがそこに立っていた。
あの、やわらかな笑顔があった。
アリスはいつも通りだった。


「どこまで読んだのかしら……」

「ヒッ!!」


ずいと頭を突き出して、日記を見るアリス。
混乱するまま、アリスに対して短い悲鳴を上げてしまった。
だが、アリスは気にした様子は無い。
普段と変わらない。


「…ああ、鬼人形の中身を入れた日のことね」
「……あ…ぁ…」
「あそこまでイキの良い人間は久しぶりだったわ」


なんだ、これは。
アリスが、アリスでは無く見える。
アリスの顔をして、アリスの声で話し、アリスの匂いが漂い、アリスの微笑みを持っている、『ソレ』
『ソレ』があまりにも得体が知れないモノで。
でも『ソレ』はどこまでもアリスで。
そう、疑いようもないくらいにアリス・マーガトロイドで。


怖い

怖い怖い

怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い

怖い怖い怖い怖い怖い


もうなにも、わからなかった。
理解が追いつかなかった。


「…ああ、そういえば、霊夢には話したこと無かったわね」


そのアリスの言葉と同時に、体がピクリとも動かなくなる。

「…!?……!!?」

そう、ピクリとも。

全身のあらゆる部分が動かなくなり、指一本動かせない。
瞼は閉じず、喉すらも震えない。
ただ二つ。肺と思考だけは動いていた。


目も動かせないが、ハッキリと見えた。
アリスの腕から伸びる、幾重にも折り重なった魔法の糸。
それらが全身を縛り上げ、全ての動きを拒絶していた。

糸だけではあるまい。
糸から湧き出る魔力は、アリスが魔法を使っている証拠だった。
見動きを封じる魔法だろうか?
声帯を固定する魔法だろうか?

いずれにせよ、もう体は、自分の支配下には無い。


「良い機会だから、話しておくことにするわね」


そう言い、アリスはテーブルに戻っていく。
それと同時に、私の体も動き出した。
意思に関係なく、手も、足も、腰も、指も、一つの目的を持って動き出す。
まさに今、私はアリスの操り人形。


席に座る私の体。
座った途端に、私から再び一切の動きが無くなった。
目の前には、二人分のクリームスパゲティ。
ホクホクと湯気を立たせるそれを一瞥し、すぐさまアリスを見た。

向かいに座るアリスは、いつものアリスだった。
いつもと同じ顔で、いつもと同じ態度。
何一つ違いなどは存在しない。

だが、私の中では間違いなく、何かが変質していた。



「日記を読んだけど、理解できないところが多かったでしょう?」


アリスは口を動かし始めた。
聞く以外の選択肢は無い。
全てはアリスの掌の上だ。


「当然よね、殻とか中身とかだけで全て理解できるはずがないわ」


殻と中身。
日記に出てきた言葉だ。
まとまらない思考でふと思う。

殻は、人形だろう。
では、中身とはなんだろうか。


「霊夢は、私が魔界に居たころ、なんて呼ばれていたか知ってる?」


動かない人形に対して、薄笑いで尋ねるアリス。
普段は安心する表情が、酷く気持ち悪く感じた。
ネットリと絡みつく視線。
好きな人の、濁った蒼の瞳。


「『死の少女』。生まれた時からネクロマンサーとしての素質があった私はそう呼ばれていたわ」


アリスは、人形遣いだ。
だって、そうでしょう?
魔法の糸で操って…いるんだ。そうなんだ。


「死体は腐るから人形に死霊を入れて操っているの。人形には従順になるような魔法がかけてあるから、一石二鳥なのよね。
暴走した時の保険に魔法の糸を繋いであるし、力づくで抑えることもできるわ」


違う、アリスは人形を、自分の意思で操ってて。
街で人形劇とかも見せてるし。
綺麗だし、人気もあるし。


「人形を爆発させても、霊魂は回収できるから、何度でも使えるの。人形は最高の入れ物なのよね。」


いつも澄ましてて、どこか抜けてて、気立てが良くて!
人間にも優しくて!むしろ人間臭くて!!世話焼きで!!
私はそんなアリスが大好きで!!!!!



そんなことをいくら考えても、体は何も反応しない。
動かない。動けない。
この悪夢を打ち払いたいのに、何もできない。
もしくは、打ち払えないから悪夢なのか。




「…まぁ、こんなところなの。話してすっきりしたわ…すっきりしたところで…」



「あなたもそろそろ『人形』にしましょうか?」



ギョロリと、蒼い二つの眼が動いた。
もう、今までのようには見れない。
そこにあるのは、さながら蛇の目。
獲物に食いつこうとしている、爬虫類の瞳。



「私は体には興味が無いの。霊夢の魂こそ霊夢の全て。それを私のものにしたい」


私の知っているアリスは、そこにはいない。


「あなたのこと大好きよ、霊夢。ずっと、ずっと、いっしょにいましょう?」


そこに居るのは、霊魂を欲しがるネクロマンサー。







アリスは席を立った。
ガタリと椅子が揺れ動く。

【私は、人形にされるの?】

アリスは、歩き出した。
ヒタヒタという足音が響く。

【大好きなアリスに、殺されちゃうの?】

アリスは、テーブルの角を曲がった。
曲がるときにアリスはテーブルに手をつき、そこがギシリと悲鳴をあげた。

【このまま、終わっちゃうの?】

アリスは、手の届く位置まで来た。
アリスはずっと笑っていた。

【好きだと言えないまま、私はワタシじゃなくなるの?】

アリスの両手が、伸びてきた。
大きくなる死の予兆。

【それだけは、伝えたかった。伝えたかったのに】

アリスの両手が、首にかかった。
血が通っていないような、人間味の無い冷たさ。

【私の口から、伝えたかったのに】

アリスの右手を、一筋の涙が伝った。
雫が床に落ちた音がいやにハッキリと聞こえ、永遠にも感じるその一瞬の間、脳を反響し続けた。




涙の源泉は、すぐに枯れ果てた。















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
















「―――いむ、霊夢!霊夢ってば!」

「っふあぁああ!?」






がばりと体を起こすと、そこは変わらずテーブルの上。
目の前には、明らかに不機嫌な顔のアリス。
両手には、スパゲッティーの盛られた皿が一枚づつ。


「ほら、手をどかしてってば!結構重いのよこれ!」

「うぇ?ふぇぁ!?うぇえ!!?」


声に反応して体をピンと直立させる。
両手があった場所には、すぐさまクリームスパゲッティが鎮座した。



ふと左右を見渡す。
変わらない部屋。
隙間の空いた本棚。
時計の指している時間は13時
カレンダーは9日。
そして、位置の変わっていない机の上の本。


前の席に座ったアリスには、不審なところは見られない。

「それにしても、まだ寝てたとは流石ね。予想した通りだったわ。おかげでニの腕が痛いじゃないの」

声に苛立ちを乗せた、アリスの苦言を聞く。


寝ていた?
いつから?
どこまで?


あのときか?
アリスが食事を作りに出て行った直後か?


「頂きます。…ほら、食べていいわよ?」
「あ…い、頂きます…」


とりあえず、促されたので、スパゲッティーを口にすることにした。
フォークとスプーンを持ち、立ち上る蒸気を見る。
吸い込むと、チーズの独特な香りが広がった。


恐る恐る、スパゲッティーを口に運ぶ。
口に入れる前にアリスを見ると、優しく微笑み待っていた。

うん、いつものアリスだ。


スパゲッティーを一口、口の中へ。
滑るようななめらかな食感が口から喉へと滑りこむ。




だが、

「…あれ?」


味がなかった。

クリーム色をしていて、香りも確かにチーズとクリーム。
だが、味が一切しない。
スパゲッティー本来の小麦の味も感じない。


「どうしたの?」


スパゲッティーをもう一度注意深く見た。
おかしなところはなにもない。
具もちゃんと入っている。
ほうれんそうと、チーズと…



目で端から端まで見ていくと、皿の外に奇妙なものを見た。

それを、直視する。
袖から出ていた、自分の右腕の関節。




「ああ、そうそう。その体ね」




その関節は、球体だった。
球体関節だった。
人形の、関節だった。







「まだ味覚と痛覚だけは再現できないの。そのうちつけてあげるから、待っててね?」




「―――ぁ、ぁぁぁ、ぁぁああ、ああぁぁあぁああ゛ ああ゛あ゛あ゛あ!!!」






人形だ。
私は、人形になっていたんだ。


落としたフォークとスプーンが、木製の床を転がる。
耳障りな金属音が部屋に響いた。
だが、もうそんな音は霊夢の耳には届かない。


霊夢は立ち上がり、アリスに駆け寄った。
立ちあがったときにフォークを踏んだが、痛みは一切感じない。


椅子に座ったアリスの前で崩れ落ち、膝をつく。
木製の両手が、アリスを掴んだ。


座りこんだ霊夢の足には、踏んだフォークが刺さっていた。
痛みは一切感じない。


真っ先に考えたことは、自分の体ではない。
アリスの言葉の意味でもない。
生死でもない。


「ぁぁアリスゥゥ!!わ、私、私ぃ…アリスのことが、ずっと…ずっど好きだったのぉぉ゛…!!!」


伝えなきゃという、焦燥だった。
もう二度と伝えられなくなる前に、
自分の口から伝えなきゃと言う、焦燥感だった。

嫌だ。
死ぬのは嫌だ。
後悔はもっと嫌だ。
アリスと離れるのが一番嫌だ。


精いっぱいの気持ち。
自分自身の口からは言えなかった、秘めた気持ち。
人工声帯を震わせて、擦れた声で霊夢は呻いた。




アリスは、天使のような笑顔になった。
私は、この顔が好きだ。
これを見に来ていた。
冷静な面からは見えない、やわらかい表情。
これに、惹かれた。
今も、惹かれている。
きっと、これからもずっと、惹かれながら過ごすのだろう。





「私も愛してるわよ?―――My Doll?」






おまえを蝋人形にしてやろうか!?

ネクロマンサーって、アリスの可能性に十分あり得ると思うんです。
魔法使いの一種だし、【死の少女】に匹敵するし、人形遣う理由も考えられると思うんです。

そんな感じで書き始めたら、こんな感じになりました。


最初はホラーを目指したのですが、どうにも怖くない・・・
ダークってところですかねぇ。

そういえば、前作から…(三点リーダー)を使い始めました。
見やすさが良くなっていれば幸いです。


そんなこんなで、今回も読んでくれた方はありがとうございました。
ほむら
http://magatoronlabo.web.fc2.com/index.html
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コメント



0.2880簡易評価
2.100リーオ削除
お、おおう。
ネクロマンシーですか。
そうなると上海たちの『シャンハーイ』ももしやすると、いや、うん。

霊夢とアリスのすれ違いの描写が切な哀しいです。
3.80名前が無い程度の能力削除
>【死の少女】
忘 れ て た

ええ、なんというか、本人たちが幸せならそれでいいんじゃないでしょうか。ヨカッタヨカッタ。
10.100名前が無い程度の能力削除
ハッピーエンド!
13.100名前が無い程度の能力削除
霊夢の人形はちゃんと等身大なのねw
どうも等身大って言うとダッチワイ…なんか素敵な人形を想像しちゃうのよね~

ふと思ったがゴリアテって何処にいつも居るのか…
14.100名前が無い程度の能力削除
なにこれこわい
17.90名前が無い程度の能力削除
実際のところ【死の少女】は女神転生のアリスの境遇からです。
しかし実はもう一人、元ネタとなったアリスがいるんですよね。そのキャラから受け継いだのは本を持って戦う点だそうですが……
ただ、そのキャラが『ネクロマンサー』であったという事実を踏まえると、この解釈は大いにアリだと思います。
いつも新しいレイアリの可能性を提供してくれる貴方に感謝!
23.100名前が無い程度の能力削除
ソフトなダーク、もしくはソフトなホラーか

エグ過ぎずで、いい雰囲気でした~
28.100奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
これは…レイアリ?
いや、レイアリでしょうね。

読み終わった後鳥肌が立ちました。素晴らしかったです。
29.100名前が無い程度の能力削除
いや怖いからwww
そういえばそんな二つ名がありましたね・・・
30.100名前が無い程度の能力削除
ひっぎいぃぃ 新境地いぃ!
34.70名前が無い程度の能力削除
霊夢殺しは協定的に突飛だったけど面白かった
47.100名前が無い程度の能力削除
怖い怖い怖い怖い怖い
52.100名前が無い程度の能力削除
さすが魔界の神に仕える少女
鍛えられてる
56.80ずわいがに削除
デーモンアリス閣下ww

確かにこういうことなら色んなことに説明がつくんですねぇ
そうするとアリスの目標の自律人形とは「決してアリスに逆らわない、自ら従順に動き続ける下僕」なのでしょうか……怖すぎる
57.100名前が無い程度の能力削除
何度も読み返してしまう、霊夢の慟哭が堪らない
私は病気のようです、永遠亭に逝こう
58.100名前が無い程度の能力削除
 最初はあまあまな話かと思って読んでいたのにいつの間にかダークでホラーな話になっていたよ!

雰囲気の移り変わりに違和感がなくて、夢中になって読めました。
59.90新谷かづき削除
妖怪ちっくな妖怪を久しぶりに見させてもらいました。
不自然さのないオリ設定だったと思います。
ダークさが自然と滲み出ていて響きました。
62.100名前が無い程度の能力削除
おっかねーな。
しかし面白い。
63.100名前が無い程度の能力削除
ひええええ
69.100名前が無い程度の能力削除
うわああああ
夢オチの末がこれかああ
70.90名前が無い程度の能力削除
レイアリとしてBAD END、個人的好みで-10点スマソ

アリスの「死の少女」設定、忘れちゃいませんよ
ネクロマンサーもろだといろいろときつくなるから
印象をソフトにするために人形に置き換えてるだけな気もします
魂についても研究してる、詳しいみたいな記述もあったはずですが
二次ではあまり使われてないのでそういう意味で貴重なSS
85.100紅魚群削除
人形遣いじゃなかったらってそういう…!
なんだかんだで冗談だったり夢だったりでハッピーになるのかなーと思ってたらそのままバッドエンドに直行である意味意外性がありました。人間と妖怪の価値観の差というか、すれ違いなんてこんなものですよね…。でもそこに愛はあった。