装飾品。
いわゆる贅沢品と言い換えられるこれらは、いわば余計な物だ。
アクセサリや豪奢な家具など、到底生きていく上で必要と思えない。
心や生活が豊かならば、自分を着飾る様になるとは言うが……果たしてそれは有益なのだろうか。
僕には、とてもそうだと思えない。
余計な物は、余計な物だろう。
贅肉を欲しがる女性がいない様に、装飾品を欲しがる必要は無いと思う。
「だが、そうはいかないらしい……」
僕は眼鏡を外して、汚れをふき取った。
そう、この眼鏡だって必要だから付けている。
世の中を歪ませた僕の眼。
それを正しく歪ませてくれる眼鏡。
オシャレで眼鏡をかける者もいるらしいが、それでは道具の業を適える事にはならない。
付喪神と化した時、きっと真っ先に襲われるだろう。
そんな事を脱線しながらも色々と考えつつ、頬杖をついたまま、僕こと森近霖之助は盛大にため息を吐いた。
「にへへ」
現在、香霖堂には珍しくもお客さんが来ている。
たった一人だけど。
お客さんはお客さんだ。
姿見の前で、彼女……霊烏路空は自分とアクセサリを映して楽しんでいる。
もう何時間も。
良くも飽きないものだ、とは感心するのだが……いかんせん長すぎやしないか、と呆れる方が強くなってきた。
「アクセサリの類を拾ってきたのは、失敗だったか……」
いつもなら無視する宝石の類なのだが、すこしばかり思う所もあって最近は拾ってきている。
こういう類は、元の持ち主の呪いや念がこもっている場合があるので、浄化するのが大変なのだ。
簡易的にお払いを済ませ、磨き、修理を行っている。
値段は物によるのだが、僕にとっては価値が無いという事で、二束三文といったところ。
大した儲けにはならない。
「あぁ、これもいいな~」
それでも、心に余裕のある少女達は買っていく。
自分を着飾り、より美しくしようと努力しているのだ。
まったく。
そんな事をする必要が、どこにあるというのだろうか。
見た目に囚われているようでは、本質は見えてこないというのに。
それでも、少女達は自分を着飾る。
元々フリルも贅沢な品なのだ。
貴重だった布をこれでもかと使ったフリル。
ネックレスやイヤリングも、それと同じだろう。
自分をこれでもかと飾るのだ。
美しくなるか、過剰となるか、それは少女次第なのだが。
「ねぇねぇ、これなんかどうかな、霖之助?」
「あぁ、いいんじゃないかな。とても良く似合ってるよ」
僕は投げやりに告げる。
正直、もう、よく分からない。
例え、おくうがそのイヤリングを買ったとしても僕には大した儲けにならない。
できれば、さっさと決めてもらいたいものだ。
まったく……
「う~ん、イヤリングとネックレスと指輪~……どれにしよう」
おくうは呟いた3つを身につけ、やはり姿見で自分を見ている。
「どうせなら3つ買えばいいじゃないか。そんなに高い物でもないだろう?」
「え~、だって……さとり様にこれだけしか貰えなかったもん」
おくうは手のひらの硬貨を見せる。
それは、どうあがいても1つしか買えない額だ。
「使いすぎじゃないのかい? 無駄遣いは良くないよ?」
「え~、そうかな~。前にお金もらったの、3ヶ月前だっけ……う~ん、もっと我慢する」
「……すまん。僕が悪かった」
ブラック会社ここに極めり、じゃないか。
僕の売り上げも微々たる物だが、おくうの給料はもっと酷いらしい。
「ほえ?」
僕が何で謝ったのか、分かってないらしい。
不憫だ。
ちょっと酷すぎないだろうか。
給料とは労働の報酬だ。
それが不当ならば、おくうにはさとりを訴える権利がある。
もしかしたら、山の神様の方かもしれないが。
「はぁ~……よし、おくう。君が何時間も迷っている理由が分かった。それを僕が解決しよう」
そう。
窓の外には、すでにぽっかりと月が浮かんでいる。
おくうが香霖堂に来たのが、お昼過ぎ。
軽く見ても8時間は経っている。
彼女が延々と悩むのも、これで理解できた。
「ほ、ほんと? どうすればいい?」
「簡単さ。僕が値下げをしてやればいい。そのお金で、その3つを売ってあげるよ」
僕の言葉を聞いた途端、おくうの瞳がパッと輝いた。
「い、いいの!?」
「おくうだけに特別だ。誰にも言わないでくれよ」
オマケや値下げしてくれると噂がたっては、商売がやりにくくなってしまう。
それも同情からなんて事が分かったら、泣き落としにかかってくる者が後を絶たないかもしれない。
そんな負の言霊が溢れた香霖堂など、商売に適してるとは言えないだろう。
「言わない言わない! 霖之助愛してる!」
「うわっ!?」
思い切り正面が抱きつかれてしまった。
もちろん、不意打ち。
彼女の体重を支えられず、僕は無様にも尻餅を付いてしまった。
まったく……感情表現は言葉にしてもらいたい。
ありがとう、の一言で片付くというのに。
「ふむ……」
おくうがスリスリと僕に頬擦りしてくる。
そんなのは無視して、倒れたまま外を見る。
夜空には、綺麗に浮かぶ月。
今からご飯を準備するのも、何だか億劫だ。
「おくうがいるので、億劫だ……つまらんな」
「え? なに?」
「いや、一緒に酒でも呑まないかい?」
「呑む呑む!」
おくうが立ち上がったので、おくうの手に捕まり、立ち上がる。
「もちろん霖之助の奢りよね!」
「……仕方ない」
まぁ、いいか。
たまには良い事をしないと、長い人生もつまらなくなるだろう。
情けは人の為ならず。
~☆~
「むふっ」
月夜の道を、僕とおくうはゆっくりと歩いていく。
僕はのんびりと歩きたいのだが、おくうはフラフラと、いや、バタバタと騒がしく歩いている。
よっぽど、アクセサリが嬉しいらしい。
すれ違う者に迷惑がかかるだろうか、と危惧するが、珍しく、人間も妖怪も歩いておらず、ここが幻想郷かと疑わしい位だ。
もっとも、僕は半人半妖だし、隣でキラキラと月の光を反射した指輪を眺めるおくうは妖怪な訳で。
そんなご機嫌なおくうの邪魔をする者は、どこにも居ないという事なのだろうか。
それにしても。
「それにしても、そんなにアクセサリが好きだったのかい?」
「うん。だって綺麗じゃない。キラキラ光っている物って好きなんだよね~」
あぁ、なるほど。
そういえば、おくうはカラスだったか。
意外にも知能が高いカラスは、光っている物に興味を示すらしい。
恐れもするが、危険がないと分かると、それで遊ぶそうだ。
まぁ、目の前の少女が知能が高いのか、と聞かれれば僕は首を傾げるしかないけど。
きっと『鳥類にしては』という言葉が装飾されるに違いない。
「光物ねぇ……光ってたら何でもいいのかい?」
「何でもって訳じゃないよ。私が好きじゃないと」
「ふむ。じゃ、この眼鏡なんかどうだい? 月明かりを反射して光ってるだろ」
どれどれ、とおくうは僕の顔を覗き込む。
ほんと遠慮のない妖怪だ。
パーソナルスペースが無さ過ぎる。
「これ取っちゃうと、霖之助は見えなくなるんでしょ?」
「まぁね」
「じゃ、やめとく。目が見えないのは怖いよ」
厳密には、見えなくなる訳ではないのだが。
まぁ、いいだろう。
「そうかい? 案外と君は優しいね」
「優しい? 私が?」
僕の言葉に、おくうはケラケラと笑う。
「私は全然優しくないよ。ほら、地上を征服しようとしたもん」
あぁ、そういえば、そうだった。
力を持ったおくうは、増長し、地上の征服を企んだらしい。
それを察知したお燐が間欠泉より怨霊を地上に送る事によって、地下の異変を伝えたという話だ。
運が悪ければ、こうして話をする事が出来なかったのかもしれない。
いや、運が良かったら、なのかな。
「それじゃ、訂正しよう。お燐は優しいな」
「うんっ。お燐は優しいよ!」
指輪等のアクセサリを見る以上の笑顔で、おくうは答えた。
ニヤニヤと笑う火焔猫は、今頃は仕事中だろうか。
まぁ、こんな台詞を言われたら、照れてしまって出てこれないだろうけど。
「じゃ、お燐がいなかったら、地上はおくうの物か。剣呑剣呑」
「う~ん、ちょっぴり憧れる」
どうやら、まだ夢と野望は失ってないらしい。
ボコボコにやられた事を忘れてなければ良いが。
「ほら、私って馬鹿だからダメだったんだよ。どう、霖之助? 私とフュージョンしない?」
「僕の知識があれば、大丈夫って事かい?」
「そう! きっと凄く気持ちいいよ!」
その場合、僕はきっと溶けてなくなってるんだろうか。
怖いというか、恐ろしい。
「分離できなさそうだし、遠慮しとくよ」
「えぇ~、1億と2千年後もずっと一緒だよ?」
「……もっと遠慮したいね」
「むぅ、じゃ、眼鏡かして」
僕の返事を待つ前に、おくうは僕の眼鏡を奪う。
そして、眼鏡をかけてから言った。
「どう、これで頭良くなるでしょ?」
「ふむ……やっぱり君は、馬鹿なんだな」
なんだとぅ、というおくうの声が、夜空に木霊した。
~☆~
いつもの道の、いつもの竹林沿い。
いつもの赤提灯が見えてきた。
その赤い光は、やはり安心感を与えてくれる。
暗闇の中の光は、嬉しいものだ。
「ハートをた~べるっきゃない、綺麗にた~べるっきゃない♪」
「いまより誰より食べつくして、射止めてやる~~~♪」
そろそろと店主であるミスティアの歌声が聞こえてきた。
それと同時に、誰かの歌声が聞こえてくるのだが……あれは河城にとりか。
「やるじゃんなかなかやるじゃん、革ジャンきたジャン、似合わないじゃん♪」
どうやら、相当に酔っ払っているらしい。
へべれけ状態でミスティアと一緒に熱唱している。
まぁ、そんなところへ入れる訳もなく、僕とおくうは屋台の隣に座る事にした。
大きな赤い傘に赤提灯。
樹を半分にして作った簡易的なテーブルに、丸太の簡易的な椅子。
見方によっては、手抜きなのだが、情緒と雅と捉えて欲しい。
何せ、僕のお気に入りの空間だから。
「あら、いらっしゃい香霖堂。それから泥棒ネコさん」
「うにゅ? 私はお燐じゃないよ?」
「知ってるわよ」
そして、長机担当のアルバイト。
蓬莱山輝夜。
彼女の存在も、やはりこの空間には必要な物だ。
綺麗なお姫様は、情緒と雅によく似合うのだから。
それを含めて、僕はこの空間が好きなんだろう。
と、思いたいけどね。
「また他の女を連れて。とっかえひっかえ、随分とモテるのね」
「僕がモテてるんだったら、君は今頃女王になってるだろうさ」
それでなくても、お姫様だというのに。
いったい何人の里の男を虜にしているやら。
もしかしたら、一度くらい奥方に刺されているかもしれないな。
死なないのが、大層悔しいだろう。
「女王は頂けないわ。やっぱり私は、お姫様なんだから。それで、今日は何にする?」
「僕はいつも通り。お酒は、竹酒を貰えるかい?」
「はいよろこんで♪ おくうは?」
「え~っとね、八目鰻と天ぷらと、あ、この酢の物も美味しそう。んとね、それからね」
「おくう……僕の奢りだって事を忘れないでくれよ……」
遠慮なく注文はして欲しいが、無遠慮な注文は勘弁して欲しい。
「あ、そっか」
忘れいたらしい。
「じゃ、八目鰻と冷奴! お酒はビールで!」
「はいよろこんで~」
輝夜は屋台へと引っ込む。
僕はその間に付け出しのきゅうりの漬物を口に放り込んだ。
カリコリと噛む度に良い音が鳴る。
うむ、塩っ気が美味しい。
「はい、おまたせ。竹酒とビールね」
竹酒はいつも通り、氷に付けられて出てきた。
ビールは大きなジョッキだ。
よく冷えているらしく、ジョッキも冷たそう。
一体どうやったんだろうか?
「チルノに頼んだのよ。氷と一緒に密閉した箱に入れておくの」
なるほどね。
「おぉ~、美味しそう~。乾杯しよ乾杯」
おくうは待ちきれないらしい。
淑女だったら、僕に注いでくれてもいいのに。
何て逡巡すると、輝夜が竹酒を持って僕がグラスを構えるのを待っていた。
「ありがとう」
「どう致しまして」
僕はお返しに、彼女のグラスにも注いでやる。
「何に乾杯する?」
「あ、私の給料記念に!」
……果たして乾杯して良いのだろうか。
本人が嬉しそうだから、良いかな……
悲しい現実だ。
「じゃ、おくうの給料に乾杯」
「かんぱ~い」
「乾杯」
僕と輝夜はちょこんと、おくうとはカツーンと景気良くグラスを合わせた。
そして一口。
ん~、仄かに広がる甘み。
そしてキュッと閉まる味が何とも言えない。
毎日呑みたくなってくる味だ。
「ぷはぁ~」
おくうは景気良くジョッキの半分程を呑み干したらしい。
泡で髭が出来ているのはご愛嬌というか、マナーというか。
「まるでカプチーノね。はい、筍ご飯。おくうには、冷奴ね。八目鰻はちょっと待っててちょうだい」
僕は輝夜から筍ご飯を受け取ると、さっそく一口。
少し大きめに切られた筍がコリコリとして、歯ごたえを与えてくれる。
ご飯も美味しく、また筍も美味い。
今日は紅生姜も添えられているので、そのしょっぱさも加えて、ますます美味しい。
そう、この程度の幸せで、人間は満足するのだ。
僕はゆっくりと息を吐いた。
「あ、美味しい~」
おくうは冷奴を食べて、頬に手を当てている。
もっとガツガツと行くかと思ったが、意外と上品に食べているらしい。
「あら、その指輪可愛いわね」
「あ、ほんと?」
頬に手を当てたからだろうか、輝夜がおくうの指輪に気づいた。
「ほらほら、イヤリングもつけてるの? どうどう?」
「意外にオシャレなのね。可愛いわよ、とっても」
「えへへ~」
褒められたのが嬉しいのか、おくうはほんのちょっと頬を染めた。
「装飾品か~。私も付けてみようかしら?」
と、輝夜はチラリと僕を見る。
なんだ?
僕に何か言って欲しいんだろうか?
「んもぅ! そこは、『そんな物を付けなくても輝夜は充分に可愛いよ』でしょ」
「それ、僕が言うのかい?」
「もちろん」
言いたくないな~。
「あれ、霖之助と輝夜って恋人同士なの?」
僕と輝夜は目を合わせた。
「恋人かい?」
「恋人っていうより、下僕?」
「おい」
下僕は酷いな。
「あ~、霖之助は奴隷か」
「おい」
奴隷も酷いよ。
まったく。
「僕と輝夜は店員とお客さんの関係だよ」
「そ。表面上はね」
またこのお姫様は混ぜっ返す。
ふざけないといられない性分なのだろうか。
「心の奥底では、相思相愛よ。あぁ、香霖堂ったら、早く私の物に成らないかしら」
「それの何処が相思相愛なんだい?」
「私はサディスティック、香霖堂はマゾヒスティック。これで、二人は上手くいくわ。結婚式には、おくうも来てくれる?」
「もちろんだよ。核の炎でお祝いしてあげる!」
危ない。
僕達の結婚で、幻想郷が危ない。
「はぁ~、まったくもう」
いつもの事ながら、ほんと、輝夜の冗談は気分がいい。
まったく、客商売としては見習わないとね。
僕はグラスの中身を空っぽにして、輝夜にまた注いでもらうのだった。
~☆~
「スカートは履かないし、メイクもゼロだし~♪」
「どのへん~、取っても~♪」
「おまえが見劣り~♪」
どうやら、おくうもすっかりと酔っ払ってしまったらしい。
ビールばっかりで、よくもあれだけ酔えるものだ。
にとりとミスティアと共に肩を組んで、楽しそうに歌っているのは、なんとも、典型的な酔っ払いという感じがする。
「ところで、香霖堂」
「ん? なんだい?」
「おくうのアクセサリ、おまけしてあげたんですってね」
「……」
秘密だって言ったのに、あの馬鹿烏。
「いつの間にか装飾品まで売る様になっちゃって……お客の女に手を出してないでしょうね」
「僕なんかが手を出せる訳ないじゃないか。それに、まったく売れてないよ」
本当かしら、と輝夜は僕を睨む。
ほんと、このお姫様は口が上手い。
こうやって客をいい気分にして、売り上げを稼ぐのだ。
ミスティアの値段設定が良心的でなければ、今頃は借金で喘いでる人間が大量に発生しているかもしれない。
「装飾ね~。あ、そうそう、最近は『草食系男子』っていうのが流行ってるらしいわよ」
「『装飾系男子』? そりゃまた、ずいぶんとナヨナヨしたイメージが沸くな」
「まぁ、そりゃ、草食だからじゃない。自分から行動しなくて、女の子を待ってるって感じかしら?」
「そりゃ装飾だとすると、少女を目指してるんじゃないのかい?」
「目指してるのかしら? そもそも狙ってもないみたいな感じじゃないの?」
「だったら何の意味があるんだろうね。着飾る事に意味がない訳か」
「ん?」
「あれ?」
何か、食い違ってる気がするな。
「君の言うソーショクってなんだい?」
「草食よ、草を食べる草食動物」
「あぁ、なるほど、そういう事か。僕はてっきり飾る方の装飾かと思ったんだ」
「そういう事か。はぁ~、私と香霖堂の相性の良さも、どうやらここまでね」
「仕方ないさ」
たまには、食い違いもあるだろう。
完璧に合致した関係など、所詮は無理な話だ。
人や妖怪は、日々変わっていく者。
それは、僕達を構成している元素が新しく生まれ変わるからである。
元素とは、西洋でいう4大元素であり、こちらでいう陰陽五行説だ。
そして、それらを繋ぎとめる『愛』と『憎』。
人間や妖怪は、愛で出来ているのは、周知の事実だ。
そう、だから、人間や妖怪は1秒だって同じ固体である時が無いのだ。
『昨日の敵は今日の友』『男子三日会わざれば刮目して見よ』とは、そのままの意味になる。
人間だと、約10年で全てが入れ替わる。
妖怪だと600年ぐらいだろうか。
僕の場合は300年ってところかな?
少なくとも、変わってしまうのだ。
10年前の自分は、まったくの別人である。
対して、お姫様は違う。
不老不死だ。
つまり、永遠の固定を意味している。
決して変わらない。
それはそれで悲劇だし、それはそれで幸せな事だ。
「あらら、ケンカですか~、ダメです、ケンカ駄目です。愛すべき人とは仲良くキスするべきです」
と、そこへおくうが戻ってきた。
相変わらずビールジョッキでガバガバと呑んでいる様だ。
まったく、他人のお金だと思って遠慮がない。
いや、酔っ払って忘れているだけだろうか。
「キスね~。おくうはキスした事ある?」
「へ? 私? あるよ~」
「おぉ~、だれだれ、ねぇ、教えてよ」
輝夜は興味深々な様子で、おくうのジョッキにビールを足していく。
もしかして、あのビールも僕の支払いなのだろうか。
少しでもおくうに同情した僕の負けと言う事なのだろうか。
「お燐だよ。鳥だけに、バードキス~。ちゅっちゅって」
「なんだお燐か~。男の人とは無いの?」
「バードキスって何だ?」
輝夜とおくうはこっちを見て、鼻で笑った。
失礼な。
「軽い触れるだけのキスって事よ。香霖堂ったら、これぐらい知ってないとダメダメよ」
「そうよそうよ。男だったら、女の子をリードしてよ」
輝夜はおろか、おくうまで僕を責めてくる。
キスひとつで……そこまで重要な事なんだろうか。
僕には分からない。
「キスは重要なの。ファーストキスは全少女の憧れなんだから」
「霖之助のファーストキスはいついつ?」
ファーストキスね~。
「……さぁてね。有ったか無かったか、覚えているのか覚えていないのか」
「曖昧ね」
「ゼロか1か、白か黒か。たまには、0.5と灰色を良しとするのもいいじゃないか」
と、適当にはぐらかしてみる。
もっとも、こんな言葉に騙されるのは、おくうぐらいだろう。
お姫様は、煙に巻けない。
「なら、私がその唇に思い出を刻んであげる」
輝夜は僕の頬を両手で包み込んだ。
「なっ!?」
驚き、思わず逃げようとした僕だが、どうやらお姫様は逃がすつもりは無いらしい。
輝夜は静かに僕の目を見てくる。
そして、少しだけ朱に染まった頬。
彼女は、長机から、少しだけ身を乗り出した。
「う、あ、……ちょ、ちょっと待て」
「だ~め」
少しづつ、輝夜の唇が近づく。
ど、どうすれば。
何が、何だか。
僕は。
僕は、覚悟を決めて。
覚悟を決めて。
……目を閉じた。
「……いたっ!」
で、額に思い切り衝撃を受けて、目をあける。
そこには、ニヤニヤと笑った輝夜とおくう。
「香霖堂ったら、可愛い」
どうやら、デコピンをくらったらしい。
「……酷いな、まったく」
はぁ~、と大きくため息が零れた。
「女心をもてあそぶ気はないが、男心をもてあそんで良い道理は無いと思うんだが?」
僕は、グラスを差し出す。
呑んでないと、やってられないよ。
まったく。
「あら、それは香霖堂が気づいてないだけよ」
僕が何に気づいてないのだろう。
「男心をもてあそばれてる時点で、女心は揺れているんだから」
「……どういう意味だい?」
「だから、香霖堂はダメなのよ」
ね~、と輝夜とおくうは笑っている。
どういう意味か考える前に、僕はグラスの中身を煽った。
心は揺れている、ね。
どうとでも取れる表現だ。
曖昧模糊。
この場合だと、愛舞喪故だな。
愛を喪う、故に舞う。
「うん、意味が分からない」
さてさて、僕も相当に酔っ払ってきたようだ。
前後不覚になる前に、帰るとしよう。
「おくう、そろそろ帰るぞ」
「え~、もっと呑んでる~」
「そうよそうよ、もっと呑んでいきなさい」
お金に問題がなければ、僕もそうしたいのだが……
そうも言ってられないのが僕の売り上げだ。
「だったら、少しはサービスして欲しいな」
「あら」
ニヤリと輝夜は笑って、僕の横までやってきた。
「お客さん、こういう店は初めて~?」
そして妙に艶かしく僕の腕に絡み付いてきた。
同時に、わざとらしく胸を押し付けてくる。
いかんせん、着物が豪奢なだけに感触は良く分からないが。
「はぁ~……そういうサービスじゃない!」
まったく、このお姫様の色気は間違っているよ。
まぁ、これはこれで、蓬莱山輝夜らしいと言えばらしいのだが。
「ドンペリニョンはいりま~す♪」
「注文してないよ!」
お空の明るさやミスティアの歌なども面白かったです。
全キャラコンプがんばってください!
>「チルノに頼んだのよ。氷と一緒に密閉した箱に入れておくの」
最初読み違えて、チルノごと箱に詰め込んでおくのかと思ってしまったw
こーりんに抱き着くだと?そんなの認めません。
お空はお燐と百合百合するのが極上です。
相変わらず読んでて疲れない。キャラが無理無く棘なく魅力的で舞台は変わらないのに飽きません。
今後とも長寿なシリーズとして存在してくれれば読者として有難いです。
次の投稿お待ちしております。ありがとうございました。
そこは自分から顔を近づける所だろ霖之助・・・!
というわけで輝夜も霖之助もお空も可愛かったです。
久我さんのアルバイト輝夜いつも楽しく読ませてもらってます。
頑張って下さいね!
おくうがえらく可愛い。地獄勤めがブラックすぎて泣きそうですw
にしても続き物?だからって避けるのは良くないな。ほのぼのと楽しかった。
ちょいと他のも読んできます!
あとさりげなく混ざったパプワネタにニヤリとしてしまいました。皮ジャンw
うむ
広げ過ぎず、マンネリ化もしていない。
今後も楽しみにしています。
嫁にしたいかどうかはともかく
普段は奥手だけど、極たまに攻めに転じるタイプ。