三時。我が家での楽しい楽しいティータイム。
目の前に魔理沙が座ってなければ、多分もっと楽しい。
「なぁ知ってるかアリス」
「何?」
興味もないのに返事する。
律儀だなぁと我ながら思った。
「人里に凄い人形遣いがいるらしい」
「へぇ?」
凄い人形遣いなどと聞いたら、いやでも反応せざるを得ない。
なんといっても、私自身が人形遣いだから。魔法使いでもあるけど。
紅茶を飲むのもそこそこに、私は魔理沙に更なる話を訊いた。
「どんな人?」
「んー、私も又聞きだから詳しくは知らんけどな。なんでも自ら『人形男』と名乗ってるらしいぞ。まぁそれだけ自信があるんだろうな」
自称・人形男。それはまた、指先によほど自信がお有りなようで。過信だったら笑い話だ。
というか、男なのか。人形遣いは何となく女のイメージがあった。
人形特有のあの繊細さを理解できる男性もいるのか――いやこの発言は取り消そう。女だったら理解できるわけでもないのだから。
たとえばホラ、目の前の奴とか。一応女としてカウントする。
まあそれはどうでもいい。とにかく、同好の士として一度会ってみたいものだ。
「で、どこに住んでるかとか分からない?」
訪ねてみるのも一興。
一回、人形について語らいたいものだ。
それで交流するようになったら楽しいし、なによりも、意見交換は大切だ。
「おや珍しい、アリスがアクティブだ」
「蹴るわよ」
「痛い痛い、蹴ってる蹴ってる」
机の下でガタガタガタ。
おっと紅茶がこぼれかけた。危ない危ない。やめる。
「だが残念なことに、魔理沙さんはその男の住処を知らん。というか見たことも無い」
「えぇ?」
「又聞きなんだってば」
なるほど。なら仕方ない。
とはいえ、諦めるのも惜しい話だ。
「じゃあ、誰に聞いたか覚えてない?」
「あーそれは覚えてるぞ。慧音だ、慧音」
ちょっと意外だった。
真面目な慧音と、……まぁなんていうかアレな魔理沙が、そんな話をするのか。
それとも酒の席か何かで聞いたのだろうか?
「失礼なこと考えてないか?」
「いいえぜんぜん?」
当然のことを考えていたのだ。
にしても宴会かあ。ノリがあまり好きではないけど、私もたまには参加したほうが良いのかなぁ、やっぱ。
おっと、それより今は人形男だ。
「分かった。ちょっと今から話を聞いてくるわ」
「今からぁ? 明日にすりゃいいだろ?」
呆れたような魔理沙。
「善は急げって言うでしょ?」
「……明日は洗濯物が干せないなって痛い痛い蹴るなってば」
紅茶は飲み干してたので、存分に蹴っといた。
************
「というわけなのだけれど」
「ああ……、ああ。確かに話したなぁ。うん」
寺子屋が終わって暇な慧音を、私は訪ねていた。
快く応対してくれた。彼女は社交的だから、会話が凄く楽だ。少なくとも魔理沙よりは。
魔理沙と話してると、会話がぐっちゃぐっちゃになる。それどころか、発熱するとか胸がドックンドックンするといった、風邪みたいな症状まで出てくるから困る。
ああもう、思い出すだけで風邪みたいな症状が出てきた。
と、まぁ、今そのことはどうでもいい。火照る頬を無理やり冷ます。目の前にいるのは慧音だ。
慧音に話を聞いてみたのだけれど、魔理沙が言っていたのとはどうも違うらしい。
「だが、その男は自称が『人形男』だってだけで、実際に人形遣いだなんて話は聞かないし……そのあたりは魔理沙の脚色だな」
そうなのか。だまされた。魔理沙め。
しかし、そうは言っても、会ってみる価値はあるのだろう。人形男という名前からすれば、人形愛好家なのだろうし。
「家は? 知らない?」
「あぁ、それなら中の七組の……って、組区分は人里に住んでないと分からないな。地図を渡すから待っててくれ」
慧音は紙と筆を取り出し、さらさらと地図を描いてくれた。几帳面な筆跡だ。
「ありがとう。早速行ってみるわ」
慧音に礼を言うと、私は地図に書かれた家に向かった。
************
変わった家だ。
いや構造自体はありがちなただの家。でも、見たことのない南国風の木が、庭に沢山植えられている。見た感じ、ぜんぶ同じ種類の奴だ。
丈は相当高い。家そのものを軽く越えている。私の何倍だろう?
実のようなものがてっぺんに付いてるけど、飛べない人間では取るのに苦労しそうだ。それとも、収穫しないのだろうか?
いやいや、庭を見に来たのではない。
「すみませーん」
玄関をノックした。
はぁいと声がして、奥から人がやってきた。
立て付けの悪い戸がガタガタと開いて、私は目を疑う。
「ええと、どちら様でしょう」
人のよさそうな男の人だ。でも、外見は異様だった。私は目を疑う。
耳とか鼻から何か角みたいなのが生えてる。あと、頭にも似たようなのがくっついてる。
なんだ、これは。
「あの?」
自称・人形男が怪訝な顔になった。ようやく、私は我を取り戻した。
そうだ、外見なんて気にしちゃいけない。
幼女に見えて五百だったりウン千だったり、幻想郷は外見と中身が一致しない連中のサラダボウルなんだから。
「私はアリス・マーガトロイドというんですが」
「え、あなたがあの高名な! 幻想郷縁起でお名前はうかがっています」
男性はそう言って握手を求めた。応じる。
同好の士にそういうことを言われるのは何だかちょっと恥ずかしい。
でも悪い気はしなかった。褒められるのはいいものだ。
「えぇと、あなたが人形男さんですか?」
「はい?」
「……え?」
彼が首を傾げたのを見て、私は困惑した。
同居している別の誰かなのだろうか? それにしては、反応に違和感がある。
「えぇと、人形男、というのは何でしょうか」
逆に聞き返されてしまった。私は困惑し、返答に詰まる。
魔理沙ならともかく、慧音が嘘をつくことは無いはずだ。堅実な彼女だから、間違ったことも言うとは考えづらい。
ではどうして?
「いえあの、こちらにそういう方が居ると聞いて」
「うぅん、ですが僕は人形男と名乗ったことは無いですし、知り合いにも居ませんね」
「はぁ、そうですか……」
残念だ。どうも、デマだったらしい。慧音は何かと勘違いしていたのだろう。
せっかく、人形について語らう相手が見つかったと思ったのに。
「その、失礼ですがあなたの名前は……?」
それでも諦められなかったので、彼の名前を聞いた。これも何かの縁だろう。
もっとも、聞いたところでどうなるというわけでもないけれど。
彼は少し意外な顔をして、言った。
「僕ですか? 僕の名前はドールマンです」
「え? やっぱり人形が?」
「ああいえそうでなく」
彼は耳から生える角っぽいものをちぎって、むしゃむしゃと食べ始めた。
「バナナの方です」
でもオチがいつもと同じで安心
吹いてしまったww
>>発熱するとか胸がドックンドックンするといった、風邪みたいな症状まで出てくるから困る
あぁもう、アリスかわいいなぁ!!
>>24様
懐かしい!!
そろそろ幻想入りしてても不思議じゃないね
しっかし、この作者はいつも凄い発想するねぇ
斜め上を行き過ぎてて、理解するのに時間がかかる時もあるけど、そこが良い!
バナナの王様に負けて幻想入りですか?
ツンデレも大概にしろよお前らwww
まさかのそっちかww
でも、それが良い!!
これで人里はバナナに不自由しないぞ!!