※この作品は、作品集106「緑の瞳」「Green eyes」作品集107「黒猫と嫉妬姫」の続編です
上記の作品を読んでいない方は、ご覧くださいませ。
また、全て読んでいるという方は、最後までお付き合いいただくと幸いです。
餌と薬とを混ぜて食べさせてから数日が経った。
以前と比べてくしゃみをすることは少なくなったが、まだ薬が余っているので霊夢のところにお世話になっている。
しかし、もう春だと言うのにまだこたつを出している。
外は暖かいし、熱くないの?と問いかければ
「妖怪と違って私は寒がりなのよ」
脇を出しておきながら何を言うかと突っ込もうとしたけどやめたのは言うまでもない。
こんなのが幻想郷の重要人物なんて誰が見てもそう思わないだろう。
少なくとも私はそう思わないから。
私は、烏天狗が持ってきた新聞を床に広げる。
面白おかしく書かれたその記事に目を通す、が…
「ちょっと、あんた邪魔よ」
どこからか、忍び足でやってきた黒猫が新聞の上でくるっとまわって座ると、私の方を見つめる。
可愛い、やっぱり猫って可愛いとつくづく思う瞬間だった。
いやね、可愛いのはわかるんだけど、邪魔な事には変わりないのよ、わかる?
そんな場所にいたら記事が読めないでしょう?
新聞は座布団とは違うのがわからないのだろうか。
「あんたはあっちで寝てる霊夢の上にでも乗ってやりなさい」
それには答えず、ついにはそこで丸くなって目を瞑った。
新聞の読んでいるところは日が当って温かい、温かいがだね、君。
日が当たる箇所ならもっと沢山あるのになんでわざわざ新聞の上を選ぶのよ。
ツンツンと頭をつつくも、薄めで睨みつけ、また眠る。
そこで私は一つの事を思い出した。
この前に森に棲む魔法使いとやらが宴の時にかくし芸とか言って、机上のものを倒さずにテーブルクロスを素早く引きぬくってのをやってたことを。
あの人形遣いに出来て私に出来ないはずがない。
根拠なんてないけど、何となく今なら出来る気がする。
とりあえず実行に移す。
新聞の端…いや、端よりはもう少し内側を持つことにする。
指と指とで挟むように、丁寧に新聞を持つ。
絶妙な力加減と、微妙なタイミングで勝負が決まる…はず。
春の温かい日差しで陽気さが溢れる昼下がり、私とこの空間だけは張り詰めている。
そして、
「せいっ!!」
ここだと言わんばかりに私は新聞紙を引く。
それと共に響く、ビリビリッという妙に心地の良い音。
今、私の手には新聞の切れ端があり、相変わらず黒猫は新聞の上で寝ている。
何故か知らないけど腕が震える。
ふと黒猫を見れば、安らかな顔で寝息を立てて眠っている。
一人だけ気持ち良さそうになんて許さないわよ…
「うがーっ!!」
「んにゃぅ!!」
新聞を無理やり引っ張り、黒猫を叩き起こしてやった。
黒い瞳を大きくさせて、尻尾を毛を逆立てている。
びっくりしたようだ、見てわかる。
「…ごめんね、流石に大人げなかったわ」
引っ掻かれたり噛まれたりするかもしれないけど、謝る為に頭に手を伸ばす。
ずっと私の手を見ている目は、どこか恐怖を感じる。
だけど、それでもやらなきゃいけない、悪い事をしたのは私なんだから。
やがて頭に触れ、そーっと撫でてやる。
引っ掻くこともなく、また、噛むことも無くじっとこちらを見ている。
瞳が段々細くなっていき、尻尾も通常の状態に戻っていることに気付いた。
「私を許してくれるの?」
「にゃーん」
私の指を、ざらざらの舌でぺろぺろと舐める。
妙にくすぐったい。
そして、時折痛みのない甘噛みをする。
本気で噛まないところが愛らしかった。
しばらくすると、それに飽きたのか、こたつの方へと歩いていく。
そして、こたつで眠る霊夢の上でぐるっと丸くなり、眠りだす。
それでも霊夢は気持ち良さそうに寝ている。
私は、霊夢をじーっと見ていると、次第に表情が曇っていくのを見て、にやけてしまう。
性格がひねくれているのは百も承知なので、気にせず、にやけたまま霊夢の表情を覗く。
「ううん…」
時折唸り声をあげ、少し汗まで滲ませている。
だからこたつで寝るもんじゃないんだ。
平然として黒猫は霊夢の上で眠っている。
あぁ、寝顔可愛い。
いいぞ、もっとやれと言わんばかりに私は猫の頭をそっと撫でてやった。
「んあー!重いわね!!」
がばっと言う音と共に霊夢が起き上がる。
それに驚いて猫も飛び上がると、静かに地につく。
先ほどの私の時のように、黒い瞳を大きくし、尻尾の毛を逆立てている。
「フーッ!」
威嚇するような声を出している。
あら、私の時にはこんな声出さなかったのに。
やっぱりこれは私に懐いているからなのだろう、あぁ、嬉しすぎて涙が出る。
しかし、相当びっくりしたんだろうなぁと心の中で呟く。
私は頭の中で、次に起こる事を予想してみる。
「あ、ごめんね。寝てたのに起しちゃった?」
猫撫で声で可愛らしく言う霊夢、ここは予想通り。
そして、彼女はそっと猫に手を伸ばして、許しを貰うように撫でようとする…
きたっ!やっぱりそ~っと手を伸ばしてる、予想通り過ぎて怖い。
そして、最後には…
「シャーッ!!」
「いたっ!?な、何するのよ!」
あぁ、完璧すぎて涙が出そう。
あの妖怪には容赦のない博麗霊夢がたかが黒猫一匹に振り回される姿…
霊夢は、黒猫に顔を引っ掻かれ、引っ掻かれた場所をさすっている。
にやにやが止まらない、笑っちゃいけないのに。
「あんた何笑ってんのよ」
あ、ばれた。
「絆創膏貼ってあげようか?」
「…別にいいわよ」
「またまた、遠慮しなくていいのよ。いつもポケットに絆創膏入れてるんだから任せなさいよ」
「…意地悪」
私は別に意地悪なんてしてないのに、何故そんなことを言われにゃならんのよ。
とりあえず、私は絆創膏を取りだすと、霊夢の頬に貼ってやる。
優しい事をしたからきっといつかいい事があるわね、違いないわ。
だって、いい事も悪いことも全部見てる神様がいるから。
まぁ、見たこと無いから本当かどうかは知らないんだけど。
その日、霊夢は黒猫に触る事が出来なかった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ガリガリガリッ…
今朝は、黒猫が爪とぎをする音で起きた。
身を起こすと、霊夢の寝室の扉で爪とぎをしていたようだ。
うっすらと削れた後と、畳の上に削れた木くずが落ちている。
とりあえず、後から掃除しろって言われるのが容易に想像できたので、拾っておく。
霊夢に鰹節って言って渡したら怒られるだろうなぁ。
まぁ、あらかじめ鰹節の容器の中に入れておけば全然問題はないんだけども。
ばれたときが怖いのでゴミ箱に放り込んだ。
それはそうと、きっと地下の方に帰れば、橋も同様に爪とぎに使われるのだろう。
神社でやるのは一向に構わないんだけどなぁ。
「ちょっとあんた、躾がなってないんじゃないのかしら?」
がらっと扉が開くと、寝間着姿の霊夢が姿を現す。
「表情が怖いわよ、何があったのかしら?」
「あんたのせいに決まってんでしょ」
「正確にいえば私じゃなくて黒猫じゃないの?」
「細かいことはいいのよ」
変な顔をしてたら、年を取ってからもそんな顔になるって誰かから聞いたことがある。
きっと年を取ったら霊夢のおでこにはしわが寄っているんだろうなぁ。
せっかく整った顔をしているのにもったいない。
「んにゃぁ」
私の足に頭を擦りつけて鳴く黒猫。
きっと餌がほしいのだろう、いつもこれくらいに餌をくれと言わんばかりに鳴く。
くれるまで鳴き続けるからたまったものじゃない。
無視したら引っ掻かれる、ソースは私。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「パルスィ、朝ご飯作るから手伝いなさい」
「解ったわ」
「にゃぁん」
「煩いわね、ちょっと待ってなさい」
―数分後
「にゃぁお」
「ちょっと、台所で猫がうろうろしてると危ないんだけど」
「ほら、あっち行ってなさい」
「にゃーん」
―数分後
「にゃぉーん」
「ごめんね、遅れちゃって。今ご飯入れ…」
「んにゃぉ!」
「痛っ!?」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「餌あげるわね」
「んにゃぁ」
皿に餌と薬を入れてやると、がっつくようにして餌に食いつく。
さっき拾った木くずを混ぜてやればよかった。
まぁ、そんなもの食べたら尚更体を悪くしそうなのでやめておいて正解だったけど。
それはそうと…
「全く、女の子なんだからもっとお上品に食べられないの?」
ガツッガリッ…
餌を食べる黒猫の頭を撫でる。
硬い餌なので、牙で噛み砕き、音を立てながら食べている。
私とおんなじ女の子とは思えない食欲と行儀。
少しは控えるということを知らないのかしら。
まぁ、前足を使って皿を持ちながら食べろなんて無理なことだし、仕方ない。
前足で皿を持って餌を食べるのなんて猫じゃないわ。
外の世界にそんなのがいたのなら申し訳ないんだけど、まぁ知ったこっちゃない。
私は、無我夢中で食べる黒猫の、白く伸びる髭を指で触れる。
髭を頬にくっつけるかのように嫌がった。
そういえば、この前、猫の本を借りに行きたいと思って、霊夢に聞いてみたら、
「紅魔館のところの大図書館で貸してもらったら?」
という答えが返ってきた。
そこには、あの時の魔法使い、パチュリーがいたので話をした。
色んな話をしていたのだけど、髭についても言っていたのを思い出した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「髭は猫の大切なもので、アンテナのようなものなの。それを切ってしまえば、歩く時に障害物にぶつかって、つまづいたりする危険性が生じる。明るい所ならともかく、暗い所での行動をひどく妨げてしまう事になるわ」
「へぇ、そうなんだ。っていうか、前から思ってたんだけど何でそんな猫について詳しいの?」
「また、猫は生活に欠かせない髭を無くすと精気を失い、新しく生えてくるまで部屋の隅にうずくまってじっと動かなくなってしまう事もあるの」
「いや、何で無視するのよ。猫飼ってたりしたの?」
「髭には色んな役割があるわ。猫の髭には神経が集中していて、猫のヒゲは反射弓により、まぶたとつながっているの。このため、顔の近くに刺激を感じるとすぐに目を閉じて大切な目を保護する役割がある。また、猫の目は近くのものが見えないので、口ヒゲで食べ物を感じとるの」
「いや、猫すごいんだけどね、凄いんだけど…」
「他にも、狭いところを通る時には髭を一杯広げて、顔をちょっと入れて入れるかどうか確かめるのに使うの。また、髭で空気の流れを読むから、暗闇の中でもぶつからずに進むことが出来るの」
「ふ~ん。とりあえず、あなたが猫が好きだってことはわかったわ」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「ってことは、髭切っちゃうと狩りもできなくなっちゃうのね」
その言葉に反応してか、こちらの方を見つめる。
緑の瞳が、潤った瞳がじっとこちらを見ている。
あぁ、可愛くて抱きしめたくなる。
「嘘よ、嘘。そんな可哀想なことしないわ」
「にゃぉ」
短く鳴くと、こたつの方へと歩いて行ってしまった。
「こたつで寝られると毛だらけになって私の服まで毛だらけになるんだけどな~」
「あったかくなってきたのにいつまでもこたつ出してるから悪いんじゃないかしらね~」
「とりあえず、朝食作るから手伝いなさい」
「はいはい」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
朝食は、いつもこたつの上で食べる。
こたつの上に朝食を食べるのは、霊夢がこたつで食べたいって言うからそういう形になっている。
一人で食べるのも寂しいので、一緒に食べることにしているんだけど…
どんだけこたつ好きなんだこの巫女、もう夏もこたつだしっぱなしでいいのに。
そんなことを思いながら朝食を食べていると
「にゃーん」
何を食べているのか見せろと言わんばかりにこたつに前足を乗せて覗いてくる。
前足を下ろしては、ぐるぐると回った後に私の膝の上に乗ってくる。
首をかしげるような仕草を見せ、料理を興味津津と言った様子で眺めている。
「…食べる?」
「んにゃ」
魚を小さく崩すと、それを畳の上にちょこんと置いた。
すると、それを一度舐め、そして食べた。
「ちょっと、畳が汚れるでしょ!」
「あ、ごめん」
どうもここが我が家のように感じてしまう。
だから妖怪たちがここに集まってくるのかと、勝手に納得してしまう。
何と言うか、居心地がいいというか。
まるで、我が家のような温かさがある。
それはやっぱり、霊夢自身の何とも言えない魅力のようなものg
「にゃーん」
空気読め。
人がせっかくこういうのも悪くないな~とかいろいろ思い耽っているっていうのに。
黒猫は、頭突きをするかのように私に頭を擦りつけてくる。
そっちの方に目をやると、もっとくれと言わんばかりにこちらを見ている。
「これは私のご飯なの。さっきあんたはご飯食べたでしょう?今度は私が食べる番なの、わかる?」
「んにゃー」
「わからないわよねぇ。とりあえず、あなたはおとなしく寝てなさい。病人なんだから」
「にゃう~」
ねだるようにして、何度も何度も頭を擦りつけては、甘い声で鳴いている。
なんでこう、おねだりするときってのは何でも可愛く見えてしまうのだろうか。
あげたくなるけど、私だって食事が食べたいのだ。
第一、この黒猫は今さっき餌を食べたばっかり。
なにも、自分があげなくてもいいじゃないか。
そんなことを思っていたら、また膝の上に乗り、こちらを見ている。
地味に重いし、早く退席願いたい。
私は黒猫の目と目を合わせるように近くに寄る。
今日はビシッと言ってやって、主らしいところを見せてやらねば。
「にゃぉー」
「お腹が空いたんなら狩りでもして、その獲物でも食べてなさい!」
「んにゃぉー!」
「痛っ!!」
頬に伸びた爪はそのまま肌を傷つけた。
突然の事に、驚きと痛さとで飛び上がり、こたつの上の朝食が毀れる。
あ、まずい。
とっさに霊夢の方を見ると、肩を震わせている。
「朝食、作ってきなさい。食材はあんたが取ってくるのよ。わかったわね?」
「…はい、すみません」
私は食材を求めて人里へと向かうことにする。
最後にちらっと黒猫を見ると、大きく欠伸をして、ちょうど眠りにつくところだった。
黒猫に嫉妬の瞳を送るも、眠りについて気づくはずもなかった。
(覚えてなさいよ…!!)
「早く行ってきなさい!」
「は、はいぃ!!」
早く元気になった猫と一緒に地下に帰りたい…。
そう、切に思った一瞬だった。
上記の作品を読んでいない方は、ご覧くださいませ。
また、全て読んでいるという方は、最後までお付き合いいただくと幸いです。
餌と薬とを混ぜて食べさせてから数日が経った。
以前と比べてくしゃみをすることは少なくなったが、まだ薬が余っているので霊夢のところにお世話になっている。
しかし、もう春だと言うのにまだこたつを出している。
外は暖かいし、熱くないの?と問いかければ
「妖怪と違って私は寒がりなのよ」
脇を出しておきながら何を言うかと突っ込もうとしたけどやめたのは言うまでもない。
こんなのが幻想郷の重要人物なんて誰が見てもそう思わないだろう。
少なくとも私はそう思わないから。
私は、烏天狗が持ってきた新聞を床に広げる。
面白おかしく書かれたその記事に目を通す、が…
「ちょっと、あんた邪魔よ」
どこからか、忍び足でやってきた黒猫が新聞の上でくるっとまわって座ると、私の方を見つめる。
可愛い、やっぱり猫って可愛いとつくづく思う瞬間だった。
いやね、可愛いのはわかるんだけど、邪魔な事には変わりないのよ、わかる?
そんな場所にいたら記事が読めないでしょう?
新聞は座布団とは違うのがわからないのだろうか。
「あんたはあっちで寝てる霊夢の上にでも乗ってやりなさい」
それには答えず、ついにはそこで丸くなって目を瞑った。
新聞の読んでいるところは日が当って温かい、温かいがだね、君。
日が当たる箇所ならもっと沢山あるのになんでわざわざ新聞の上を選ぶのよ。
ツンツンと頭をつつくも、薄めで睨みつけ、また眠る。
そこで私は一つの事を思い出した。
この前に森に棲む魔法使いとやらが宴の時にかくし芸とか言って、机上のものを倒さずにテーブルクロスを素早く引きぬくってのをやってたことを。
あの人形遣いに出来て私に出来ないはずがない。
根拠なんてないけど、何となく今なら出来る気がする。
とりあえず実行に移す。
新聞の端…いや、端よりはもう少し内側を持つことにする。
指と指とで挟むように、丁寧に新聞を持つ。
絶妙な力加減と、微妙なタイミングで勝負が決まる…はず。
春の温かい日差しで陽気さが溢れる昼下がり、私とこの空間だけは張り詰めている。
そして、
「せいっ!!」
ここだと言わんばかりに私は新聞紙を引く。
それと共に響く、ビリビリッという妙に心地の良い音。
今、私の手には新聞の切れ端があり、相変わらず黒猫は新聞の上で寝ている。
何故か知らないけど腕が震える。
ふと黒猫を見れば、安らかな顔で寝息を立てて眠っている。
一人だけ気持ち良さそうになんて許さないわよ…
「うがーっ!!」
「んにゃぅ!!」
新聞を無理やり引っ張り、黒猫を叩き起こしてやった。
黒い瞳を大きくさせて、尻尾を毛を逆立てている。
びっくりしたようだ、見てわかる。
「…ごめんね、流石に大人げなかったわ」
引っ掻かれたり噛まれたりするかもしれないけど、謝る為に頭に手を伸ばす。
ずっと私の手を見ている目は、どこか恐怖を感じる。
だけど、それでもやらなきゃいけない、悪い事をしたのは私なんだから。
やがて頭に触れ、そーっと撫でてやる。
引っ掻くこともなく、また、噛むことも無くじっとこちらを見ている。
瞳が段々細くなっていき、尻尾も通常の状態に戻っていることに気付いた。
「私を許してくれるの?」
「にゃーん」
私の指を、ざらざらの舌でぺろぺろと舐める。
妙にくすぐったい。
そして、時折痛みのない甘噛みをする。
本気で噛まないところが愛らしかった。
しばらくすると、それに飽きたのか、こたつの方へと歩いていく。
そして、こたつで眠る霊夢の上でぐるっと丸くなり、眠りだす。
それでも霊夢は気持ち良さそうに寝ている。
私は、霊夢をじーっと見ていると、次第に表情が曇っていくのを見て、にやけてしまう。
性格がひねくれているのは百も承知なので、気にせず、にやけたまま霊夢の表情を覗く。
「ううん…」
時折唸り声をあげ、少し汗まで滲ませている。
だからこたつで寝るもんじゃないんだ。
平然として黒猫は霊夢の上で眠っている。
あぁ、寝顔可愛い。
いいぞ、もっとやれと言わんばかりに私は猫の頭をそっと撫でてやった。
「んあー!重いわね!!」
がばっと言う音と共に霊夢が起き上がる。
それに驚いて猫も飛び上がると、静かに地につく。
先ほどの私の時のように、黒い瞳を大きくし、尻尾の毛を逆立てている。
「フーッ!」
威嚇するような声を出している。
あら、私の時にはこんな声出さなかったのに。
やっぱりこれは私に懐いているからなのだろう、あぁ、嬉しすぎて涙が出る。
しかし、相当びっくりしたんだろうなぁと心の中で呟く。
私は頭の中で、次に起こる事を予想してみる。
「あ、ごめんね。寝てたのに起しちゃった?」
猫撫で声で可愛らしく言う霊夢、ここは予想通り。
そして、彼女はそっと猫に手を伸ばして、許しを貰うように撫でようとする…
きたっ!やっぱりそ~っと手を伸ばしてる、予想通り過ぎて怖い。
そして、最後には…
「シャーッ!!」
「いたっ!?な、何するのよ!」
あぁ、完璧すぎて涙が出そう。
あの妖怪には容赦のない博麗霊夢がたかが黒猫一匹に振り回される姿…
霊夢は、黒猫に顔を引っ掻かれ、引っ掻かれた場所をさすっている。
にやにやが止まらない、笑っちゃいけないのに。
「あんた何笑ってんのよ」
あ、ばれた。
「絆創膏貼ってあげようか?」
「…別にいいわよ」
「またまた、遠慮しなくていいのよ。いつもポケットに絆創膏入れてるんだから任せなさいよ」
「…意地悪」
私は別に意地悪なんてしてないのに、何故そんなことを言われにゃならんのよ。
とりあえず、私は絆創膏を取りだすと、霊夢の頬に貼ってやる。
優しい事をしたからきっといつかいい事があるわね、違いないわ。
だって、いい事も悪いことも全部見てる神様がいるから。
まぁ、見たこと無いから本当かどうかは知らないんだけど。
その日、霊夢は黒猫に触る事が出来なかった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ガリガリガリッ…
今朝は、黒猫が爪とぎをする音で起きた。
身を起こすと、霊夢の寝室の扉で爪とぎをしていたようだ。
うっすらと削れた後と、畳の上に削れた木くずが落ちている。
とりあえず、後から掃除しろって言われるのが容易に想像できたので、拾っておく。
霊夢に鰹節って言って渡したら怒られるだろうなぁ。
まぁ、あらかじめ鰹節の容器の中に入れておけば全然問題はないんだけども。
ばれたときが怖いのでゴミ箱に放り込んだ。
それはそうと、きっと地下の方に帰れば、橋も同様に爪とぎに使われるのだろう。
神社でやるのは一向に構わないんだけどなぁ。
「ちょっとあんた、躾がなってないんじゃないのかしら?」
がらっと扉が開くと、寝間着姿の霊夢が姿を現す。
「表情が怖いわよ、何があったのかしら?」
「あんたのせいに決まってんでしょ」
「正確にいえば私じゃなくて黒猫じゃないの?」
「細かいことはいいのよ」
変な顔をしてたら、年を取ってからもそんな顔になるって誰かから聞いたことがある。
きっと年を取ったら霊夢のおでこにはしわが寄っているんだろうなぁ。
せっかく整った顔をしているのにもったいない。
「んにゃぁ」
私の足に頭を擦りつけて鳴く黒猫。
きっと餌がほしいのだろう、いつもこれくらいに餌をくれと言わんばかりに鳴く。
くれるまで鳴き続けるからたまったものじゃない。
無視したら引っ掻かれる、ソースは私。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「パルスィ、朝ご飯作るから手伝いなさい」
「解ったわ」
「にゃぁん」
「煩いわね、ちょっと待ってなさい」
―数分後
「にゃぁお」
「ちょっと、台所で猫がうろうろしてると危ないんだけど」
「ほら、あっち行ってなさい」
「にゃーん」
―数分後
「にゃぉーん」
「ごめんね、遅れちゃって。今ご飯入れ…」
「んにゃぉ!」
「痛っ!?」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「餌あげるわね」
「んにゃぁ」
皿に餌と薬を入れてやると、がっつくようにして餌に食いつく。
さっき拾った木くずを混ぜてやればよかった。
まぁ、そんなもの食べたら尚更体を悪くしそうなのでやめておいて正解だったけど。
それはそうと…
「全く、女の子なんだからもっとお上品に食べられないの?」
ガツッガリッ…
餌を食べる黒猫の頭を撫でる。
硬い餌なので、牙で噛み砕き、音を立てながら食べている。
私とおんなじ女の子とは思えない食欲と行儀。
少しは控えるということを知らないのかしら。
まぁ、前足を使って皿を持ちながら食べろなんて無理なことだし、仕方ない。
前足で皿を持って餌を食べるのなんて猫じゃないわ。
外の世界にそんなのがいたのなら申し訳ないんだけど、まぁ知ったこっちゃない。
私は、無我夢中で食べる黒猫の、白く伸びる髭を指で触れる。
髭を頬にくっつけるかのように嫌がった。
そういえば、この前、猫の本を借りに行きたいと思って、霊夢に聞いてみたら、
「紅魔館のところの大図書館で貸してもらったら?」
という答えが返ってきた。
そこには、あの時の魔法使い、パチュリーがいたので話をした。
色んな話をしていたのだけど、髭についても言っていたのを思い出した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「髭は猫の大切なもので、アンテナのようなものなの。それを切ってしまえば、歩く時に障害物にぶつかって、つまづいたりする危険性が生じる。明るい所ならともかく、暗い所での行動をひどく妨げてしまう事になるわ」
「へぇ、そうなんだ。っていうか、前から思ってたんだけど何でそんな猫について詳しいの?」
「また、猫は生活に欠かせない髭を無くすと精気を失い、新しく生えてくるまで部屋の隅にうずくまってじっと動かなくなってしまう事もあるの」
「いや、何で無視するのよ。猫飼ってたりしたの?」
「髭には色んな役割があるわ。猫の髭には神経が集中していて、猫のヒゲは反射弓により、まぶたとつながっているの。このため、顔の近くに刺激を感じるとすぐに目を閉じて大切な目を保護する役割がある。また、猫の目は近くのものが見えないので、口ヒゲで食べ物を感じとるの」
「いや、猫すごいんだけどね、凄いんだけど…」
「他にも、狭いところを通る時には髭を一杯広げて、顔をちょっと入れて入れるかどうか確かめるのに使うの。また、髭で空気の流れを読むから、暗闇の中でもぶつからずに進むことが出来るの」
「ふ~ん。とりあえず、あなたが猫が好きだってことはわかったわ」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「ってことは、髭切っちゃうと狩りもできなくなっちゃうのね」
その言葉に反応してか、こちらの方を見つめる。
緑の瞳が、潤った瞳がじっとこちらを見ている。
あぁ、可愛くて抱きしめたくなる。
「嘘よ、嘘。そんな可哀想なことしないわ」
「にゃぉ」
短く鳴くと、こたつの方へと歩いて行ってしまった。
「こたつで寝られると毛だらけになって私の服まで毛だらけになるんだけどな~」
「あったかくなってきたのにいつまでもこたつ出してるから悪いんじゃないかしらね~」
「とりあえず、朝食作るから手伝いなさい」
「はいはい」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
朝食は、いつもこたつの上で食べる。
こたつの上に朝食を食べるのは、霊夢がこたつで食べたいって言うからそういう形になっている。
一人で食べるのも寂しいので、一緒に食べることにしているんだけど…
どんだけこたつ好きなんだこの巫女、もう夏もこたつだしっぱなしでいいのに。
そんなことを思いながら朝食を食べていると
「にゃーん」
何を食べているのか見せろと言わんばかりにこたつに前足を乗せて覗いてくる。
前足を下ろしては、ぐるぐると回った後に私の膝の上に乗ってくる。
首をかしげるような仕草を見せ、料理を興味津津と言った様子で眺めている。
「…食べる?」
「んにゃ」
魚を小さく崩すと、それを畳の上にちょこんと置いた。
すると、それを一度舐め、そして食べた。
「ちょっと、畳が汚れるでしょ!」
「あ、ごめん」
どうもここが我が家のように感じてしまう。
だから妖怪たちがここに集まってくるのかと、勝手に納得してしまう。
何と言うか、居心地がいいというか。
まるで、我が家のような温かさがある。
それはやっぱり、霊夢自身の何とも言えない魅力のようなものg
「にゃーん」
空気読め。
人がせっかくこういうのも悪くないな~とかいろいろ思い耽っているっていうのに。
黒猫は、頭突きをするかのように私に頭を擦りつけてくる。
そっちの方に目をやると、もっとくれと言わんばかりにこちらを見ている。
「これは私のご飯なの。さっきあんたはご飯食べたでしょう?今度は私が食べる番なの、わかる?」
「んにゃー」
「わからないわよねぇ。とりあえず、あなたはおとなしく寝てなさい。病人なんだから」
「にゃう~」
ねだるようにして、何度も何度も頭を擦りつけては、甘い声で鳴いている。
なんでこう、おねだりするときってのは何でも可愛く見えてしまうのだろうか。
あげたくなるけど、私だって食事が食べたいのだ。
第一、この黒猫は今さっき餌を食べたばっかり。
なにも、自分があげなくてもいいじゃないか。
そんなことを思っていたら、また膝の上に乗り、こちらを見ている。
地味に重いし、早く退席願いたい。
私は黒猫の目と目を合わせるように近くに寄る。
今日はビシッと言ってやって、主らしいところを見せてやらねば。
「にゃぉー」
「お腹が空いたんなら狩りでもして、その獲物でも食べてなさい!」
「んにゃぉー!」
「痛っ!!」
頬に伸びた爪はそのまま肌を傷つけた。
突然の事に、驚きと痛さとで飛び上がり、こたつの上の朝食が毀れる。
あ、まずい。
とっさに霊夢の方を見ると、肩を震わせている。
「朝食、作ってきなさい。食材はあんたが取ってくるのよ。わかったわね?」
「…はい、すみません」
私は食材を求めて人里へと向かうことにする。
最後にちらっと黒猫を見ると、大きく欠伸をして、ちょうど眠りにつくところだった。
黒猫に嫉妬の瞳を送るも、眠りについて気づくはずもなかった。
(覚えてなさいよ…!!)
「早く行ってきなさい!」
「は、はいぃ!!」
早く元気になった猫と一緒に地下に帰りたい…。
そう、切に思った一瞬だった。
貴方の所のパルスィは本当に可愛くて素敵
私も猫を飼ってるので共感できます。
今回は猫の愛らしさもパワーアップしてて、パッチェさんも良いキャラしてて、霊夢も魅力的!
このシリーズ独特の空気と言うか、ほのぼの感が相変わらず最高です。
毎回楽しいお話しを書いてくれて感謝です
毎回リクエストして心苦しいのですが、また気が向いたらで結構ですので続きを……
評価ありがとうございます。
今回も本当に、日常で起こるような物事を書いたつもりです。
そういったもので、褒めていただけで幸いです。
また、そう言っていただけると非常に嬉しいですし、書いて良かったなと心から思えます。
私も、あなたのコメントに励まされているので、感謝の気持ちで堪えませんね。
また機会があれば続編を書かせていただきます。
改めて、ありがとうございました。
春ですからねぇ
あー ねこねこ
そういや、海はなくても鰹節はあるんですね
やー ねこねこ
評価ありがとうございます。
Green eyesに霊夢が鰹節を渡してる場面がありましたが、そこで鰹節に関しては書いたつもりでしたが…
紫経由ってことになってます。
評価ありがとうございます。
そ、そんなことはないですよ、きっと…。
次に書く頃には病気が治って霊夢とはおさらばのはずです。
いやぁ猫すごく可愛いですね。
パルスィも可愛いなぁ。
なんだろう。このときめきは……。これが、恋?
評価ありがとうございます。
猫もパルスィもどっちも可愛いですねぇ。
そしてリア充になるんですね、わかります。
なんにせよ猫かぁいいよ猫。勿論あなたがかくパルスィと霊夢もです。
評価ありがとうございます。
こっそり霊パルを勧めていたのにばれてしまっては仕方ない。
まぁ、次に書くときには神社とはお別れだと思いますが。
私にはもったいないお言葉、嬉しい限りです。
パルスィと猫のやり取りが和みますね。再三言われてると思いますが、私も続きが読みたいです。
催促してる台詞ですが、急がず丁寧に書いて欲しいと思います。
って、すでに続きを書く前提のコメントだなぁ、これw
評価ありがとうございます。
一気に読んでくださるとは…感謝感激です。
続きをまた書くときは、しっかりと考えて、丁寧に書きたいと思います。
評価ありがとうございます。
おうふwそこまで眠くなってしまうとは…
「本によるとそう書いてあるけど、本物を使って観察してみる必要があるわね。ぜひ研究させてもらえないかしら」(チラッチラッ)
とかやってそうだなwww
猫相手に本気になってるパルスィさんとか可愛すぎwww
評価ありがとうございます。
パチュリー可愛すぎるwwチラチラしてるのがたまりませんw
パルスィは不器用な子。