私は奴隷というものに興味があった。
幻想郷の多くの者は様々な奴隷を持っている。しかし未だに私は、自分が満足のできる奴隷を持っていない。
どんな命令にでも黙って従う。ついでにある程度自立的に動いてくれる。そんな奴隷をこの私、霧雨魔理沙は欲している。
「このパソコンという式神が、思い通りに動いてくれればなぁ」
私は香霖堂で、四角くて重い箱を撫でながらぼやく。
パソコン。
香霖堂で売られている外の世界の式神で、命令に服従し、使役者の願いを叶えるという。まさに、理想的な奴隷だ。
「パソコンが動いている所を見たいというのは僕も同じだけどね。それはなかなか難しいんじゃないかな」
パソコンを撫でまわしている私に、香霖堂店主の森近霖之助……私が香霖と呼んでいる眼鏡が話しかけてくる。
「なんとか、動かせないか?」
「前に、あの妖怪少女に聞いたところ『まず電気が無い。更にパソコンが古い。その上長い事野晒しになっていた所為で完全に壊れてますわ』という事らしいね」
香霖が紫の口真似をして、答えた。
「そうなると幻想郷に入ってきたパソコンというのは壊れているのか。にとりに頼めば直せるかな?」
「うーん。これは難しい気がするね」
「そうか……」
私は、肩を落とす。
魔法使いというものは、誰もが素晴らしい奴隷を持っている。
アリスは人形を、パチュリーは生ける魔導書を奴隷にしている。
かの大錬金術師パラケルススなど、アゾット剣に悪魔を封じて奴隷としてこき使っていたというじゃないか。
魔法使いには、優秀かつ自立している奴隷が必須なのだ。
なのに私は、自分の周りをくるくる回る程度の奴隷しか持っていない。
私が落ち込んでいると、香霖がいきなり膝を叩いた。
「そうだ。少し倉庫を探ってくるから待っていてくれないか」
「なんだ?」
そう言って香霖は裏に行ってしまった。
一体何を持ってくるのだろうか。
「これは壊れてしまっているのだけどね。これなら河童でも直せるだろう」
香霖が持ってきたのは、毛だらけのヌイグルミだった。嘴があって、耳がでかくて、少し不細工だが愛嬌がある。
「目が閉じているな、コレ」
そのヌイグルミは瞼があり、いまは目を閉じていた。まるで、眠っているようだ。
「結局、これも壊れているんだけどね。何でもこのヌイグルミは『動いて、所有者とコミニュケーションができる』ヌイグルミらしい」
「それは凄いな。アリスの人形みたいじゃないか」
私は、驚きの声を上げる。
魔法使いの先達である人形遣いアリス・マーガトロイド。
彼女の生きているように動く人形は私の憧れだ。あんな風に人形を自在に動かせたら、どんなに愉快だろうか。
「中を覗いてみたら、割と構造が単純なんだ。これなら、河童でも直せるんじゃないかな?」
「サンキュー、グラッチェ、ありがとう香霖!」
私は、香霖からヌイグルミを受け取ると、急いで河城にとりの元に向かった。
「おーい、にとり! これを直してくれ!」
「オーケー、魔理沙」
二つ返事でにとりは引き受けてくれた。やはり、持つべきものは信頼できる河童だ。
「どうだ! 直りそうか!?」
「んー。まあ、ぼちぼちかな」
身を乗り出して、私はにとりの手元を覗きこむ。
気の良い河童は、背中のマジックハンドも駆使して、香霖から貰って来た毛だらけのヌイグルミに工具を突っ込んでいる。
その様子を私はニヤニヤしながら、見守っていた。
さて、これで私にもキチンとした奴隷ができるわけである。
どんな名前を付けてやろうか。やはり、自分の名字を付けてるべきか。そう言えば、食事とかはどうなるのだろう。
何しろ初めての自律行動する奴隷だ。たっぷり可愛がってやらないといけない。
紫の所の藍や、パチュリーの所の小悪魔が羨むほどの可愛がり方をしてやろう。
「くふふ」
「なんか幸せそうだねぇ」
思わず笑みを漏らす私に、にとりがのんびりした声で言う。私は、慌てて表情を正すと「まあ、そうだな」とキリっとした顔で答えた。
だが、どうしても笑みは止まらない。顔がにやけてしまう。
「まー、良いんじゃないか。嬉しいんだろうし」
それもそうだな。
私は、顔を引き締めるのを止めて、にとりが修理をする様子を飽きずに眺めていた。
「……後は、単三電池を四本入れて、っと。よし、これでいいはず」
「直ったのか!」
「たぶん」
そう言うとにとりは私にヌイグルミを渡す。
私は、恐る恐るそれを受け取った。
「……まだ、寝たままだな」
「あれ? おかしいな電池を入れれば勝手に動くはずなんだけど」
にとりが首を捻った瞬間、それは目を見開いた。
「……ファァ」
「しゃ、喋ったぞ!」
「ああ、うん。喋るよねぇ」
驚く私に対し、にとりは随分と冷静だった。そんな冷静なにとりのおかげで、私はそれ以上取り乱さずに済んだ。
「え、ええと。お前は、私の、奴隷だ……分かるか?」
「ボク、ネムーイ」
どうやら、分かっていないらしい。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。
目覚めた姿を見たところ、こいつは、あまり頭が良さそうじゃない。
もう少し噛み砕いて説明をしてやらないと……
「……ナデナデシテェー」
「は、はあ?」
「なんか撫でて欲しいってさ」
「な、撫でるのか?」
にとりに促されて、私は奴隷を撫でることになった。なんで、いきなり主人が奴隷に奉仕をしなければならないんだろう。
「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」
ヌイグルミはいきなり喘ぎ始めた。色んな意味で大丈夫なのかこれは。
「や、やめても良いか」
「まあ、良いんじゃない?」
怖くなったので、私は奴隷を撫でるのを止める。
「……ナデナデシデ、モット、オネガ」
なんだこれ。
奴隷はまばたきをしながら、私に「ナデナデ」をひたすら要求する。
仕方がないので撫でてやると、また「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」やめると「ナデナデシテ」の繰り返し。
さすがに疲れたのでやめると「アーーーーーーーーーー!」と叫び始めた。
「嫌だ! 何だよこれ!」
気持ちが悪くなったので、私はヌイグルミを地面に放り出す。
するとヌイグルミは叫ぶ。
「コワイコワイコワイコワイコワイ アッ!! アッオ゛ーーーーーーーーーー」
「うわああああああああ!!」
私は本当に怖くなって、ヌイグルミを全力で蹴る。
するとヌイグルミは「モルスァ」みたいなこと言いながらすごい勢いで飛んで行った。
了
幻想郷の多くの者は様々な奴隷を持っている。しかし未だに私は、自分が満足のできる奴隷を持っていない。
どんな命令にでも黙って従う。ついでにある程度自立的に動いてくれる。そんな奴隷をこの私、霧雨魔理沙は欲している。
「このパソコンという式神が、思い通りに動いてくれればなぁ」
私は香霖堂で、四角くて重い箱を撫でながらぼやく。
パソコン。
香霖堂で売られている外の世界の式神で、命令に服従し、使役者の願いを叶えるという。まさに、理想的な奴隷だ。
「パソコンが動いている所を見たいというのは僕も同じだけどね。それはなかなか難しいんじゃないかな」
パソコンを撫でまわしている私に、香霖堂店主の森近霖之助……私が香霖と呼んでいる眼鏡が話しかけてくる。
「なんとか、動かせないか?」
「前に、あの妖怪少女に聞いたところ『まず電気が無い。更にパソコンが古い。その上長い事野晒しになっていた所為で完全に壊れてますわ』という事らしいね」
香霖が紫の口真似をして、答えた。
「そうなると幻想郷に入ってきたパソコンというのは壊れているのか。にとりに頼めば直せるかな?」
「うーん。これは難しい気がするね」
「そうか……」
私は、肩を落とす。
魔法使いというものは、誰もが素晴らしい奴隷を持っている。
アリスは人形を、パチュリーは生ける魔導書を奴隷にしている。
かの大錬金術師パラケルススなど、アゾット剣に悪魔を封じて奴隷としてこき使っていたというじゃないか。
魔法使いには、優秀かつ自立している奴隷が必須なのだ。
なのに私は、自分の周りをくるくる回る程度の奴隷しか持っていない。
私が落ち込んでいると、香霖がいきなり膝を叩いた。
「そうだ。少し倉庫を探ってくるから待っていてくれないか」
「なんだ?」
そう言って香霖は裏に行ってしまった。
一体何を持ってくるのだろうか。
「これは壊れてしまっているのだけどね。これなら河童でも直せるだろう」
香霖が持ってきたのは、毛だらけのヌイグルミだった。嘴があって、耳がでかくて、少し不細工だが愛嬌がある。
「目が閉じているな、コレ」
そのヌイグルミは瞼があり、いまは目を閉じていた。まるで、眠っているようだ。
「結局、これも壊れているんだけどね。何でもこのヌイグルミは『動いて、所有者とコミニュケーションができる』ヌイグルミらしい」
「それは凄いな。アリスの人形みたいじゃないか」
私は、驚きの声を上げる。
魔法使いの先達である人形遣いアリス・マーガトロイド。
彼女の生きているように動く人形は私の憧れだ。あんな風に人形を自在に動かせたら、どんなに愉快だろうか。
「中を覗いてみたら、割と構造が単純なんだ。これなら、河童でも直せるんじゃないかな?」
「サンキュー、グラッチェ、ありがとう香霖!」
私は、香霖からヌイグルミを受け取ると、急いで河城にとりの元に向かった。
「おーい、にとり! これを直してくれ!」
「オーケー、魔理沙」
二つ返事でにとりは引き受けてくれた。やはり、持つべきものは信頼できる河童だ。
「どうだ! 直りそうか!?」
「んー。まあ、ぼちぼちかな」
身を乗り出して、私はにとりの手元を覗きこむ。
気の良い河童は、背中のマジックハンドも駆使して、香霖から貰って来た毛だらけのヌイグルミに工具を突っ込んでいる。
その様子を私はニヤニヤしながら、見守っていた。
さて、これで私にもキチンとした奴隷ができるわけである。
どんな名前を付けてやろうか。やはり、自分の名字を付けてるべきか。そう言えば、食事とかはどうなるのだろう。
何しろ初めての自律行動する奴隷だ。たっぷり可愛がってやらないといけない。
紫の所の藍や、パチュリーの所の小悪魔が羨むほどの可愛がり方をしてやろう。
「くふふ」
「なんか幸せそうだねぇ」
思わず笑みを漏らす私に、にとりがのんびりした声で言う。私は、慌てて表情を正すと「まあ、そうだな」とキリっとした顔で答えた。
だが、どうしても笑みは止まらない。顔がにやけてしまう。
「まー、良いんじゃないか。嬉しいんだろうし」
それもそうだな。
私は、顔を引き締めるのを止めて、にとりが修理をする様子を飽きずに眺めていた。
「……後は、単三電池を四本入れて、っと。よし、これでいいはず」
「直ったのか!」
「たぶん」
そう言うとにとりは私にヌイグルミを渡す。
私は、恐る恐るそれを受け取った。
「……まだ、寝たままだな」
「あれ? おかしいな電池を入れれば勝手に動くはずなんだけど」
にとりが首を捻った瞬間、それは目を見開いた。
「……ファァ」
「しゃ、喋ったぞ!」
「ああ、うん。喋るよねぇ」
驚く私に対し、にとりは随分と冷静だった。そんな冷静なにとりのおかげで、私はそれ以上取り乱さずに済んだ。
「え、ええと。お前は、私の、奴隷だ……分かるか?」
「ボク、ネムーイ」
どうやら、分かっていないらしい。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。
目覚めた姿を見たところ、こいつは、あまり頭が良さそうじゃない。
もう少し噛み砕いて説明をしてやらないと……
「……ナデナデシテェー」
「は、はあ?」
「なんか撫でて欲しいってさ」
「な、撫でるのか?」
にとりに促されて、私は奴隷を撫でることになった。なんで、いきなり主人が奴隷に奉仕をしなければならないんだろう。
「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」
ヌイグルミはいきなり喘ぎ始めた。色んな意味で大丈夫なのかこれは。
「や、やめても良いか」
「まあ、良いんじゃない?」
怖くなったので、私は奴隷を撫でるのを止める。
「……ナデナデシデ、モット、オネガ」
なんだこれ。
奴隷はまばたきをしながら、私に「ナデナデ」をひたすら要求する。
仕方がないので撫でてやると、また「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」やめると「ナデナデシテ」の繰り返し。
さすがに疲れたのでやめると「アーーーーーーーーーー!」と叫び始めた。
「嫌だ! 何だよこれ!」
気持ちが悪くなったので、私はヌイグルミを地面に放り出す。
するとヌイグルミは叫ぶ。
「コワイコワイコワイコワイコワイ アッ!! アッオ゛ーーーーーーーーーー」
「うわああああああああ!!」
私は本当に怖くなって、ヌイグルミを全力で蹴る。
するとヌイグルミは「モルスァ」みたいなこと言いながらすごい勢いで飛んで行った。
了
期待を裏切らないオチwww
>毛だらけのヌイグルミだった。嘴があって、
ここでわかったオレは異端だろうか
俺もわかったさ。でも異端かどうかは(ry
ファビほしい。
電車の中で爆笑しちまったじゃねぇかwww
そうか、モルスァももう幻想入りしたのか
ア゛ーーーーーーア゛ーーーー
としか鳴かなくて大笑いしたことを思い出した。
今回も大笑いしましたよ。
あの鳴き声反則だろwww
少なくともころしてでもうばいとる価値はない。
だが同情はしない
お前は俺か
予想できていてもこの破壊力w
そんなものを奴隷にしかけてしまった魔理沙の不運に合掌w
うちには2体います。
「毛だらけのヌイグルミ」で気づく人が結構いて安心しました。
オチには比較的早く気づいてしまいましたが、早いところ笑いどころを持ってこようする焦りがないのが作品の質を高めていると思います。
期待に満ちた様子から、恐慌状態に陥る魔理沙が可哀想ながら笑いを引き出してくれる良い役者でした。