満月輝く幻想郷の深夜、深紅に輝く紅魔館。主の吸血鬼・レミリアは自室で紅茶を嗜んでいた。
普段であればメイド長の咲夜や友人であるパチュリー、妹のフランドール、稀に門番長の美鈴が同席し
談笑するのが常である。悪魔の館と恐れられてはいるが、実際のところは闇の眷属に属する者が多いだけであり、住民同士は割と
アットホームに暮らしている。時折毒づき合ったり様々な理由から弾幕ごっこという名の死闘が起こりもするが、概ね仲はいい。
だがこの日の晩は紅魔館の住人ではなく、珍しいことに住人全員の知人であるところの霧雨魔理沙が同席していた。
彼女は今日は強盗ではなく純粋に図書館にて知識を求め、本を読みふけっているうちに遅くなったのだという。
家に帰ろうと廊下を進んでいた際に、退屈を持て余したレミリアに誘われ、茶会に同席するところと相成ったのである。
咲夜はシフトのスケジュールとして今日は夜に眠ることになっていたので、多めの紅茶を準備した後下がらせていた。
茶会は特に大事もなく進み、話題も二人の共通の友人である霊夢についてのことや館の住人の隠れた一面などで盛り上がっていた。
紅茶こそ少なくなったが、レミリアが自室に置いてある高級ワインも用意し、飲み物に困ることはない。
再び住民についての話題になった時、魔理沙が友人であるメイド長について切り出した。
「そういえば、咲夜のことなんだけどさ」
「あら、あの子がどうかしたの?」
「阿求の書いた求聞史紀に載ってたことで、ふと疑問に思ったことがあってな」
「ふむふむ」
「あいつの名前、お前が命名したんだってな?」
「ええ、そうだけど?」
「求聞史紀にはお前があいつを外の世界で拾って、それに合わせてお前が名を与えたみたいな書き方されてるのを見て思ったんだ」
「ほう?」
若干躊躇うようにやや控えめな様子で、魔理沙が尋ねた。
「咲夜の本当の名前って何だったんだ?」
「ああ、そんなことか」
魔理沙の心配をよそにレミリアは何でもないような顔をする。
「ああ。もしかして知らなかったりするのか? まあ求聞史紀にゃあいつは元ヴァンパイアハンターやってて云々とかあったし、お前とは敵同士で出会ってたりしたんなら、あいつが名を名乗ることもないかもしれないけど」
魔理沙は二人の馴れ初めを知らないが、そんなだったらカッコイイなとか思いつつ口にする。
対してレミリアは、手に顔を乗せ唸ってみせた。
「うーん、知らないと言えば知らないし、知ってると言えば知ってるけれど。それに、そもそも咲夜はヴァンパイアハンターなんかじゃないもの」
「はあ? どういうこった?」
「あなたには『霧雨魔理沙』という名前があるけれど、じゃあ霧雨魔理沙と名付けられる前の名前は? って聞かれて答えられる?」
「何言ってんだ? 私は産まれた時から霧雨魔理沙だぜ、それより前に私の名前があるわけないだろ」
「うん、そうでしょう?」
まるでこちらがもうわかっているであろう前提で話してくる。若干苦い顔をしながら魔理沙が尋ね返す。
「は? さっぱりわからん、わかるように言ってくれよ」
「だから、人間にその子が産まれる前から名前があるなんておかしいでしょう?」
パチェに聞けばいかなる存在にも秘められた真の名、真名があるわ、とか言い出しそうだけどね。そう呟き、少し笑みをこぼす。
魔理沙もようやく理解した。
「つまりなんだ、お前はこの世に咲夜が生まれたときに命名した。だから咲夜に名付ける前の咲夜の名前なんて知らない、ってことか」
「そういうこと。真名という意味でなら知ってるけれど、それは不用意には口にできないわね、何があっても。あなたも魔法使いならわかるでしょう?」
真名とは魔術的な思考において非常に重要なものである。レベルの高い魔法使いであれば、真名を知ってしまえばその存在を自由に操ることも可能なのだ。
まだ強大な魔法使いとはいえない魔理沙でもそのくらいのことは知っている。咲夜を思い通りに操ろうなどとは(魅力的ではあるが)興味はないので、
魔理沙はそれ以上の追及をやめた。
とりあえず、幻想郷の中か外かはともかく、レミリアは咲夜が生誕した際に名付け親になっていると知り、魔理沙も納得した。
ということは、レミリアが咲夜の両親と知り合いであり、それも娘の命名を頼まれるほど信頼し合っていたということになる。そのことに驚いた。
「しっかし驚いたぜ、まさかお前が咲夜の親と懇意だったとはな。てっきりヴァンパイアハンターネタもしくは浮浪児を拾ったみたいな出会いだと思ってたのに。で、咲夜の親御さんは今どうしてるんだ? 隠居してるのか? それとももう死んじまってるのか?」
先ほどのようには今回は躊躇わず、普通は聞きにくいであろうことを尋ねた。
だがレミリアは、少々驚いた顔である。「え? 何言ってんの?」とでも言いそうな。
「何を言ってるの? あなたの目の前にいるじゃない」
「は? いや名付け親のお前じゃなくて、産みの親の人間さん」
意味のわからないレミリアの回答にもう一度尋ねなおし、ワインを口にする。
「いや、だから産みの親。あなたの目の前に。人間じゃないけど」
まるでそれが当たり前のことのように答えるレミリア。ワインを口にした姿のまま魔理沙がフリーズする。
え? 何言ってんだこいつは? 咲夜の産みの親は私の目の前? 私の目の前にいるのは誰だ? レミリアだ。え?
ということはあれか? こいつは自分が咲夜を産みました、そう言いたいのか?
アルコールが少々回った頭で彼女の言ったことを理解した時、
「ぶっふぅ!!?」
盛大に吹いた。レミリアの顔にワインが飛ぶ。
「うわ、何すんのよ! もう、あなたので顔がびしょびしょじゃないの。咲夜は寝てるんだから、あなた拭いて頂戴」
「あ、ああすまん」
自分がとんでもなく失礼なことをしたのはすぐ理解したので、自分のハンカチでレミリアの顔を拭う。
頼むから目を閉じてくすぐったそうに「ん…」とかしないでほしい。妙な気分になる。
テーブルまで拭き終わったとき、ようやく落ち着いた。恨みがましい目でレミリアに尋ねる。
「……で、それは新手の冗談か? 今なら時期外れのAprilfoolってことで笑ってやるけど」
「No,it wasn't a joke. I'm her mother. Sakuya is not only a leader of housemaids of my house but also my dear daughter.」
「何で英語!? しかもまだ言ってる!! なあ冗談だろ!? 嘘だと言ってよレーミィ!!」
全力で否定にかかる。もしここでコイツの言ってることを肯定してしまったら色々と大事なものを失ってしまうだろう、
常識を捨てるのはどこぞの風祝だけで十分なのである。そしてこれは失ってはいけない常識だと信じている。
しかし必死な魔理沙をよそにレミリアは飄々としていた。
「あ、そのレーミィって響き何かいいかも」
「引くわー、じゃなくて!!」
「しつこいわねぇ、咲夜は正真正銘私の腹から産まれた私の娘よ。人間だけど。何なら永遠亭の薬師に証明してもらう?」
八意永琳は基本的に誠実である。彼女の名を出してまで肯定を続けるということはそれだけ真実であることを強調しているということだ。
パニクった頭に様々な疑問が浮かんでいき、とにかく確かめていくことにした。
「OK、わかった、とりあえず保留だ。色々聞いていいか」
「どうぞ」
「一つ! 何で吸血鬼から人間が産まれるんだよ!?」
吸血鬼は妖怪ではあるが生物でもある。そして人間とは一線を画した生物であるはずだ。
レミリアは相変わらず澄ました顔でさらりと答える。
「さあ? 鳶が鷹を産むなんて言葉があるくらいだし、言うほど珍しいことじゃないんじゃない? 人間として生を受けた者が妖怪化することだってあるじゃない、似たようなもんでしょ」
「その諺の意味はたぶん違う! 次! お前の娘なら何でわざわざ『十六夜』なんて名字を付けたんだ!?」
「ああそれ? 保険、かしらね。あの子は人間だし、私から離れて人間の社会の中で生きていくと決めたのなら、吸血鬼の血統であるスカーレットの名を冠していては色々不便でしょう?」
存外深く考えられた理由に納得してしまう。
「…なるほど」
「まあ一番の理由はカッコよさを狙ったってのもあるけど」
「台無しだなぁおい!!」
「あれよ、あの閻魔とか永遠亭の背の高い方の兎と同じようなものよ」
「色々ちげぇ!! ……お前さ」
ツッコミすぎて逆に頭が冷静になってきた。自分でも冷たい声になるのを止められぬまま、魔理沙が尋ねる。いや、むしろ確認でもあった。
「?」
「お前さ、吸血鬼こそが最高の種族だと思ってんだろ? 人間なんて取るに足りないものなんて考えてるんだろ? 人間として生まれたあいつを無碍に扱ったりとか血統を汚すような奴だとか考えたりしてないだろうな?」
魔理沙の『確認』に――その態度に顔色も変えず――むしろ穏やかな笑みを以てレミリアは答える。それこそ母親のような笑顔であった。
「そんな怖い顔しないで頂戴。バカね、いくら誇り高い吸血鬼とはいっても、誇りよりも大事なものくらい弁えてるわよ。それに、あなたが言うほど人間を見下しもしてないわよ。魔力も肉体もあらゆる妖怪より劣っておきながら、知識を振り絞って妖怪を退治したりあるいは消滅させたりする潜在能力の高さには、ある種の尊敬だって覚えるわ」
「ならいいんだ……で、最後にだが……一番これが聞きたかったんだが……」
彼女の答えに安心し、そして核心(?)へと迫る。
「なぁに?」
「……父親って誰だ、どんな奴だ」
いっそ無性生殖だったと言ってほしい。年齢はともかく見た目こんな幼女と○○する・したがる男のことなど考えたくはない。
「ああ父親? 香霖堂の店主だけど?」
「こあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
恐ろしいほど予想外の回答に脳が理解に追い付かず思わず絶叫した。
そんな魔理沙をしかしレミリアは優しくたしなめる。
「静かになさいな、みんな起きちゃう。別にあなたが嘆くことじゃないわ、あの店主が□リコンってことでもないもの」
伏字になってないぞ。
「う~…うぅ~、でもよぉ~~~」
信じたくない。知り合いというには親しすぎる、兄のような父のような存在の、まさかの所業に涙が止まらない。少女は今大人の階段を一歩登った。
「(可愛い…)ちょっとした悪魔の契約よ、あの店主が森で商売を始めた時に、自身や店や客が徒に妖怪に襲われたり災害に見舞われたりしないようにっていう。その代償として、私があの店主の魂の極々一部を貰っただけなのよ」
それも生命としてはほとんど影響がない程度のねと続ける。
「なんでそんなものを欲しがったんだよ…」
「当時のあの人、面白いものとか持ってなかったんだもの。あの人の望みも大それたものじゃなかったから、命を寄越せとも言えないしね。それに私も、フラン以外の血を分けた家族が無性に欲しかったのよ」
「……咲夜と香霖はお互いのこと知ってんのか?」
「知らないと思うわよ? でも、咲夜は私や美鈴やパチェが大事に大事に育てたから別段父親の愛に飢えてはいないし、二人とも知ったところで大して動じやしないわよ」
想像してみる。
『店主さん、貴方が私の実の父親だそうですわ』
『そうなのか。子作りを誰かとした覚えはないんだけれど』
『ならいいです。ところで、新しいティーカップが欲しいのだけれど』
『ああ。それならこっちにあるよ。これからもウチを御贔屓に』
「……そんな気がする」
「でしょ? だから気にしないでね」
「無理だ!!」
「落ち着きなさい、咲夜の成長メモリアルアルバム見せてあげるから」
そういって戸棚から取り出した大きな本。レミリアの後ろから覗いてみる。そこには多くの写真が副題と共に存在していた。
『かいしんのいちげき!』と言わんばかりのどや顔で自分を抱こうとした美鈴を殴るさくや0歳
(余談だが写真の下に『この時、私はこの子を勇者として育てていこうと決心しましたby美鈴』と書かれている)
おしゃぶりと言わんばかりにレミリアの翼をしゃぶっているるさくや1歳
とてとてと危うげな足取りでレミリアのもとに必死に足を進めるさくや3歳
パチュリーの魔法の花火に目を輝かせているさくや5歳
『字を覚えたよ!』という副題の元、『さゅうごく』と美鈴の顔にマジックで書いてこちらを見るさくや6歳
小悪魔のしっぽを追いかけまわしているさくや7歳
美鈴の頭に綺麗に投げナイフが刺さったのを『褒めて!』と言いたげにこちらを見る咲夜10歳
そのすぐ後であろう、レミリアに叱られて大泣きしている咲夜10歳
『お母さんとおそろい!』の副題通りレミリアと同じドレスに身を包む咲夜11歳
『初めてのメイド服!』もはや何も語るまい咲夜12歳
『■■■■(上塗りで黒く潰されていて読めない)と遊んでもらった!』フランドールと弾幕ごっこ(らしきもの)に興じる咲夜14歳
『親離れしなさいbyレミリア ←嫌ですby咲夜』レミリアを抱き枕にして幸せそうに眠る咲夜15歳
『きさま! 見ているなッ!』世界の時が止まった咲夜17歳
……などなど。
なにこれほしい、(最後除き)鼻血モノであった。だがレミリアは誰が相手でもこの写真を手放す気はないらしい。
あまり家族のことをよく思っていない魔理沙でも、この写真の中のレミリア達が本当に幸せそうにしているのはわかった。
しかしそこである疑問が浮かぶ。
「……なぁ、お前咲夜が娘であること、咲夜の親であることに誇りを持ってるんなら、何で求聞史紀にそう書かなかったんだよ?」
「私達は別に書いてもらってもよかったわよ。でも、私みたいな子供の体でも出産ができるなんて知ったら、悪い意味で喜ぶ輩が出てくるでしょ? 画面の目の前の人とか。世の中綺麗な人間ばかりではないのだし」
「画面って何だ!?」
「だから、『少女は愛でるもの』ってポリシーのスキマ妖怪が検閲したのよ」
「……何処から突っ込めばいいんだ……」
ちなみに世界最年少出産記録はおよそ六才の幼女である。人間って怖いね。色んな意味で。
「……あのさ」
「何かしら?」
「さっき言った悪魔の契約…他にもやってる奴いるのか?」
「色々いるわよ、大体は外の世界の企業のお偉いさんが、会社が潰れず大きく繁盛するようにってのが多いけれどね」
レミリアは正確に言えば吸血鬼であり悪魔ではない。しかし運命を操る能力を持つレミリアと契約できればよほどのことがない限り
約束を違えることはない。その契約遂行能力はまさに悪魔的ともいえた。
「ふぅん…そいつらも魂の一部とやらを代償にするのか?」
「いいえ、利益の一部とかかしらね。紅魔館が常に潤ってるのもそこら辺が大きいわ。魂の一部を代償にして私に子供を産ませた者も一人だけいるけれど」
「まだいたのかよ!? 誰だその依頼主は」
信じられない真実その2にまたも驚く。その者への侮蔑の感情を隠さず尋ねた。
「霧雨の道具屋の店主」
帰ってきた答えは色んな意味で終わっていた。
「親父ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
まさかの身内の所業にまたしても絶叫。
「だから静かになさいって」
「落ち着いてられるか!! 親父が母さん差し置いてよりによってお前に子供作らせたんだろ!!?」
「別に愛し合ってるわけじゃないわよ、あなたの両親にとっても仕方なかったことなのだから」
「どういうことだよ!?」
「落ち着きなさいと言ってるでしょうに……あなた、兄弟はいないでしょう? おかしいとは思わない? 人里の最大手道具屋という名家なのに、後を継ぐはずだったあなたを勘当したにもかかわらず、新しく後継ぎを産もうともしないなんて」
「……何が言いたい」
「この際だから言っておくわね……あなたの両親は子宝に恵まれなかった。しかし後継ぎは欲しい。かと言って孤児を引き取ろうにも孤児自体簡単には現れない。孤児が現れるよう運命を操ることも可能ではあったんだけど、孤児が産まれるということは必然的に不幸になる者が現れることでもあるから、彼らが嫌がってね」
孤児がいるということはその孤児を捨てる者、もしくは手放さざるを得ない者がいるということである。その理由は大抵救い難い。
養子縁組にしても、幻想郷では子供は家庭の有望な働き手である、簡単に手放す者はいまい。
「それで、お前のそれの出番ってわけか……でもおかしいな、私が家を出た後だって、あの家に後継ぎができたなんて話、聞いちゃいないぜ。かと言って私に兄弟がいたことなんてなかったはずだ。いつ産んだんだよ?」
それこそ求聞史紀には自分が道具屋の一人娘であると書かれている。
「あら、まだ気付かないの?」
「あ?」
「私が霧雨家のために産んだ子供はあなたなのだけど」
「うえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
完全にヨソウガイでした。
フリーズする魔理沙をよそに、レミリアはしみじみとした表情を浮かべる。
それは例えるなら『あらあら○○ちゃん! しばらく見ない間にずいぶん大きくなったわねぇ!』などと勝手に感慨にふける親族のようだった。
「まさかあの時の娘が家を捨てて魔法使いになって、その上我が家の友人になるだなんて思ってもみなかったのだけどねぇ~。咲夜といいあなたといい私の娘はすごい人生を歩むのねぇ」
「え、ちょ、冗談だろぉ!?」
契約内容は『とにかく子供が欲しい』だったようだ。でなければ後継ぎを約束された娘が魔の道へ進むはずがなかった。
「嘘じゃないわよ。もっとも、このことはまだ誰にも言ってないけれどね。あ、でも美鈴あたりなら気の能力とかで気付いてるかも。そっか、だからあなた相手だったらついつい手加減しちゃうのね」
「ええ!?」
「知ってる? あの紅霧異変から、正確にはあなたがウチに準強盗するようになってから、人間相手に簡単に何度も破られる程度の力しか持たないように見られちゃったのよウチ。でもそれで調子に乗った有象無象の妖怪共の襲撃ではあの子、弾幕ごっこでも本気の戦闘でも敵に門を破られたことなんてないのよ? ま、弾幕ごっこじゃあなたよりも弱いのは否定できなそうだけど」
「……色んな意味で信じられないぜ……」
「思い返してみればいいんじゃない? 例えば咲夜は、基本的に人間…他人に冷たい子なのよ、でもあなたとは早くから打ち解けてたじゃない。あの子、あなたを妹みたいなものに思ってる節があるのよ。実際姉妹なんだけど。きっと本能的に通じ合ってるんでしょうね」
友人と認識している咲夜について思い返してみる。確かに彼女は自分に甘い節があったのではないか。それこそ図書館に忍び込んだのを見逃してもらったり
あまつさえ自分の来訪におやつを用意してくれたり。フランが初めて暴れた日もパチュリーのように妨害はしてこなかった。
そういえば宴会でも常にレミリアの傍に控えるか料理の準備をするか、そうでなければ自分の近くにいた気もする。
「フランにしてもそうよ。あいつ弾幕ごっこ大好きでしょ? なのにウチでの宴会とかに集った実力者とは基本的に誘われた時しかしないのよ。あなたとやるのが一番楽しいとも言っていたわ」
フランドールについても考えてみる。彼女は確かに好戦的だが、宴会やパーティーで会った誰それと遊んだよ! という会話は確かに少なかった。
図書館に忍び込むために忍び込んだ館で出会った時のキラキラした瞳で自分を見つめてくる姿に、罪悪感と疲労を覚えるのはよくあることだった。
「あなた自身を思い返してみなさいな。多くの異変に首を突っ込みたがる好奇心とか、様々な魔法使いを模倣してより上を行こうとする向上心とか、少なくとも並の人間じゃないわ。あなたが覚えてる属性魔法だって、図らずも私の使い魔に似てるでしょ?」
コールドインフェルノのことかーーーーーーーーーー!!
それはいくらなんでもこじつけな気がした。
「そ…それでもそれは偶然にすぎないだろ!? ……って、なんだその本」
そそくさとまたも戸棚から取り出し、あっけらかんと言い放つ。
「あなたの成長アルバム」
「なんでそんなものがあるんだ!!?」
「ん? さっきの霧雨道具店の店主との契約の報酬よ? 私が産んだ子を契約とはいえ手放すんだもの、これくらいは頂いて然るべきでしょ。家宝の一つよ♪」
奪い取って中身を確認してみる。確かに自分に重なる面影の少女とよく知る夫婦が写っていた。
惜しむらくは咲夜のように煌びやかに着飾った写真が少ないことか。着物のような大仰な服を嫌がっていたのは覚えている。
両親や友人と写っている写真も多いが、所々に霖之助とともに写った写真も見られる。
胡坐をかく霖之助に抱きかかえられて幸せそうな顔をするまりさ4歳
霖之助に肩車をしてもらい上からピースをしてニカッと笑う魔理沙5歳
霖之助(ものすごい形相な)の股間に躊躇いを一切感じさせない表情で蹴りを入れる魔理沙6歳
しかし一番表情が輝いているのが、四つん這いの霖之助に馬乗りになり首輪とリードまで付けて歩かせてる7歳の時の写真ってどういうことなの……
残念ながら10歳以降の写真はない、理由はわかりきっている。
いつかのうふふ口調以上に触れられたくない過去を思い出した気がする。
しかし証拠隠滅に焼き払おうと八卦炉を取り出そうとした瞬間奪い返された。
「どう? これで信じてもらえたかしら?」
とてもいい笑顔で言い放つレミリア、魔理沙はベッドに仰向けになり項垂れる。
「あのなぁ、正直ドアから『ドッキリ大成功!』の看板持ったパチュリーが登場するのを期待してるんだが」
「それはないわー」
「だよなー……何か、今まで積み重ねてきたもんとか全部崩れてった気がする…信じてたもんに裏切られた気分だぜ…」
「あら、不安?」
「当たり前だ!」
モヤモヤを隠せず思わず口調を荒げてしまう。
しかし幼い(はずの)吸血鬼はそんな魔理沙に微笑みながら近づき、倒れた魔理沙に顔を近づけ、向かいあう。
「仕方ないわねー。今日は一緒にいてあげましょうか?」
「は?」
赤く紅い、それでいて優しげな瞳に吸い込まれそうになる。
「お母さんが一緒に寝てあげるわ。ま・り・さ♪」
全力で逃げた。
「もう、照れ屋さんなんだから」
そこから先のことはほとんど覚えていない、何処をどう飛んだのかもわからないまま飛び続け、気が付けば自宅のベッドの上にいた。
住み慣れた家、寝慣れたベッドで横になりながら今日を想う。色々知りたくなかった真実を知ってしまった。
咲夜の母親がレミリアだったこと。
霖之助が咲夜の父親だったこと。
そして、自分までもがレミリアの娘であったこと……
これだけの事実を突き付けられて平気でいられるわけがない。
今度から紅魔館の奴らとどう付き合えばいいんだよ……
夢と現の境界を行き来しているとき、何者かが枕元に立って語りかけてきた気がした……
『今まで通りでいいんですよ、今までも問題なんてなかったじゃないですか』
…それは今まで私が何も知らなかっただけだろう、今からじゃ今までとは何もかも違うんだよ…
『何でそんなことが言えるんですか?』
…何でって、そんなの当たり前だろう常識的に考えて…
『常識は投げ捨てるものです、さぁ、迷える子羊よ! 己が世界の扉を切り開け!』
…
………
……………
…………………
………………………それもそうだな! なんかイケる気がしてきた!!
普段であればメイド長の咲夜や友人であるパチュリー、妹のフランドール、稀に門番長の美鈴が同席し
談笑するのが常である。悪魔の館と恐れられてはいるが、実際のところは闇の眷属に属する者が多いだけであり、住民同士は割と
アットホームに暮らしている。時折毒づき合ったり様々な理由から弾幕ごっこという名の死闘が起こりもするが、概ね仲はいい。
だがこの日の晩は紅魔館の住人ではなく、珍しいことに住人全員の知人であるところの霧雨魔理沙が同席していた。
彼女は今日は強盗ではなく純粋に図書館にて知識を求め、本を読みふけっているうちに遅くなったのだという。
家に帰ろうと廊下を進んでいた際に、退屈を持て余したレミリアに誘われ、茶会に同席するところと相成ったのである。
咲夜はシフトのスケジュールとして今日は夜に眠ることになっていたので、多めの紅茶を準備した後下がらせていた。
茶会は特に大事もなく進み、話題も二人の共通の友人である霊夢についてのことや館の住人の隠れた一面などで盛り上がっていた。
紅茶こそ少なくなったが、レミリアが自室に置いてある高級ワインも用意し、飲み物に困ることはない。
再び住民についての話題になった時、魔理沙が友人であるメイド長について切り出した。
「そういえば、咲夜のことなんだけどさ」
「あら、あの子がどうかしたの?」
「阿求の書いた求聞史紀に載ってたことで、ふと疑問に思ったことがあってな」
「ふむふむ」
「あいつの名前、お前が命名したんだってな?」
「ええ、そうだけど?」
「求聞史紀にはお前があいつを外の世界で拾って、それに合わせてお前が名を与えたみたいな書き方されてるのを見て思ったんだ」
「ほう?」
若干躊躇うようにやや控えめな様子で、魔理沙が尋ねた。
「咲夜の本当の名前って何だったんだ?」
「ああ、そんなことか」
魔理沙の心配をよそにレミリアは何でもないような顔をする。
「ああ。もしかして知らなかったりするのか? まあ求聞史紀にゃあいつは元ヴァンパイアハンターやってて云々とかあったし、お前とは敵同士で出会ってたりしたんなら、あいつが名を名乗ることもないかもしれないけど」
魔理沙は二人の馴れ初めを知らないが、そんなだったらカッコイイなとか思いつつ口にする。
対してレミリアは、手に顔を乗せ唸ってみせた。
「うーん、知らないと言えば知らないし、知ってると言えば知ってるけれど。それに、そもそも咲夜はヴァンパイアハンターなんかじゃないもの」
「はあ? どういうこった?」
「あなたには『霧雨魔理沙』という名前があるけれど、じゃあ霧雨魔理沙と名付けられる前の名前は? って聞かれて答えられる?」
「何言ってんだ? 私は産まれた時から霧雨魔理沙だぜ、それより前に私の名前があるわけないだろ」
「うん、そうでしょう?」
まるでこちらがもうわかっているであろう前提で話してくる。若干苦い顔をしながら魔理沙が尋ね返す。
「は? さっぱりわからん、わかるように言ってくれよ」
「だから、人間にその子が産まれる前から名前があるなんておかしいでしょう?」
パチェに聞けばいかなる存在にも秘められた真の名、真名があるわ、とか言い出しそうだけどね。そう呟き、少し笑みをこぼす。
魔理沙もようやく理解した。
「つまりなんだ、お前はこの世に咲夜が生まれたときに命名した。だから咲夜に名付ける前の咲夜の名前なんて知らない、ってことか」
「そういうこと。真名という意味でなら知ってるけれど、それは不用意には口にできないわね、何があっても。あなたも魔法使いならわかるでしょう?」
真名とは魔術的な思考において非常に重要なものである。レベルの高い魔法使いであれば、真名を知ってしまえばその存在を自由に操ることも可能なのだ。
まだ強大な魔法使いとはいえない魔理沙でもそのくらいのことは知っている。咲夜を思い通りに操ろうなどとは(魅力的ではあるが)興味はないので、
魔理沙はそれ以上の追及をやめた。
とりあえず、幻想郷の中か外かはともかく、レミリアは咲夜が生誕した際に名付け親になっていると知り、魔理沙も納得した。
ということは、レミリアが咲夜の両親と知り合いであり、それも娘の命名を頼まれるほど信頼し合っていたということになる。そのことに驚いた。
「しっかし驚いたぜ、まさかお前が咲夜の親と懇意だったとはな。てっきりヴァンパイアハンターネタもしくは浮浪児を拾ったみたいな出会いだと思ってたのに。で、咲夜の親御さんは今どうしてるんだ? 隠居してるのか? それとももう死んじまってるのか?」
先ほどのようには今回は躊躇わず、普通は聞きにくいであろうことを尋ねた。
だがレミリアは、少々驚いた顔である。「え? 何言ってんの?」とでも言いそうな。
「何を言ってるの? あなたの目の前にいるじゃない」
「は? いや名付け親のお前じゃなくて、産みの親の人間さん」
意味のわからないレミリアの回答にもう一度尋ねなおし、ワインを口にする。
「いや、だから産みの親。あなたの目の前に。人間じゃないけど」
まるでそれが当たり前のことのように答えるレミリア。ワインを口にした姿のまま魔理沙がフリーズする。
え? 何言ってんだこいつは? 咲夜の産みの親は私の目の前? 私の目の前にいるのは誰だ? レミリアだ。え?
ということはあれか? こいつは自分が咲夜を産みました、そう言いたいのか?
アルコールが少々回った頭で彼女の言ったことを理解した時、
「ぶっふぅ!!?」
盛大に吹いた。レミリアの顔にワインが飛ぶ。
「うわ、何すんのよ! もう、あなたので顔がびしょびしょじゃないの。咲夜は寝てるんだから、あなた拭いて頂戴」
「あ、ああすまん」
自分がとんでもなく失礼なことをしたのはすぐ理解したので、自分のハンカチでレミリアの顔を拭う。
頼むから目を閉じてくすぐったそうに「ん…」とかしないでほしい。妙な気分になる。
テーブルまで拭き終わったとき、ようやく落ち着いた。恨みがましい目でレミリアに尋ねる。
「……で、それは新手の冗談か? 今なら時期外れのAprilfoolってことで笑ってやるけど」
「No,it wasn't a joke. I'm her mother. Sakuya is not only a leader of housemaids of my house but also my dear daughter.」
「何で英語!? しかもまだ言ってる!! なあ冗談だろ!? 嘘だと言ってよレーミィ!!」
全力で否定にかかる。もしここでコイツの言ってることを肯定してしまったら色々と大事なものを失ってしまうだろう、
常識を捨てるのはどこぞの風祝だけで十分なのである。そしてこれは失ってはいけない常識だと信じている。
しかし必死な魔理沙をよそにレミリアは飄々としていた。
「あ、そのレーミィって響き何かいいかも」
「引くわー、じゃなくて!!」
「しつこいわねぇ、咲夜は正真正銘私の腹から産まれた私の娘よ。人間だけど。何なら永遠亭の薬師に証明してもらう?」
八意永琳は基本的に誠実である。彼女の名を出してまで肯定を続けるということはそれだけ真実であることを強調しているということだ。
パニクった頭に様々な疑問が浮かんでいき、とにかく確かめていくことにした。
「OK、わかった、とりあえず保留だ。色々聞いていいか」
「どうぞ」
「一つ! 何で吸血鬼から人間が産まれるんだよ!?」
吸血鬼は妖怪ではあるが生物でもある。そして人間とは一線を画した生物であるはずだ。
レミリアは相変わらず澄ました顔でさらりと答える。
「さあ? 鳶が鷹を産むなんて言葉があるくらいだし、言うほど珍しいことじゃないんじゃない? 人間として生を受けた者が妖怪化することだってあるじゃない、似たようなもんでしょ」
「その諺の意味はたぶん違う! 次! お前の娘なら何でわざわざ『十六夜』なんて名字を付けたんだ!?」
「ああそれ? 保険、かしらね。あの子は人間だし、私から離れて人間の社会の中で生きていくと決めたのなら、吸血鬼の血統であるスカーレットの名を冠していては色々不便でしょう?」
存外深く考えられた理由に納得してしまう。
「…なるほど」
「まあ一番の理由はカッコよさを狙ったってのもあるけど」
「台無しだなぁおい!!」
「あれよ、あの閻魔とか永遠亭の背の高い方の兎と同じようなものよ」
「色々ちげぇ!! ……お前さ」
ツッコミすぎて逆に頭が冷静になってきた。自分でも冷たい声になるのを止められぬまま、魔理沙が尋ねる。いや、むしろ確認でもあった。
「?」
「お前さ、吸血鬼こそが最高の種族だと思ってんだろ? 人間なんて取るに足りないものなんて考えてるんだろ? 人間として生まれたあいつを無碍に扱ったりとか血統を汚すような奴だとか考えたりしてないだろうな?」
魔理沙の『確認』に――その態度に顔色も変えず――むしろ穏やかな笑みを以てレミリアは答える。それこそ母親のような笑顔であった。
「そんな怖い顔しないで頂戴。バカね、いくら誇り高い吸血鬼とはいっても、誇りよりも大事なものくらい弁えてるわよ。それに、あなたが言うほど人間を見下しもしてないわよ。魔力も肉体もあらゆる妖怪より劣っておきながら、知識を振り絞って妖怪を退治したりあるいは消滅させたりする潜在能力の高さには、ある種の尊敬だって覚えるわ」
「ならいいんだ……で、最後にだが……一番これが聞きたかったんだが……」
彼女の答えに安心し、そして核心(?)へと迫る。
「なぁに?」
「……父親って誰だ、どんな奴だ」
いっそ無性生殖だったと言ってほしい。年齢はともかく見た目こんな幼女と○○する・したがる男のことなど考えたくはない。
「ああ父親? 香霖堂の店主だけど?」
「こあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
恐ろしいほど予想外の回答に脳が理解に追い付かず思わず絶叫した。
そんな魔理沙をしかしレミリアは優しくたしなめる。
「静かになさいな、みんな起きちゃう。別にあなたが嘆くことじゃないわ、あの店主が□リコンってことでもないもの」
伏字になってないぞ。
「う~…うぅ~、でもよぉ~~~」
信じたくない。知り合いというには親しすぎる、兄のような父のような存在の、まさかの所業に涙が止まらない。少女は今大人の階段を一歩登った。
「(可愛い…)ちょっとした悪魔の契約よ、あの店主が森で商売を始めた時に、自身や店や客が徒に妖怪に襲われたり災害に見舞われたりしないようにっていう。その代償として、私があの店主の魂の極々一部を貰っただけなのよ」
それも生命としてはほとんど影響がない程度のねと続ける。
「なんでそんなものを欲しがったんだよ…」
「当時のあの人、面白いものとか持ってなかったんだもの。あの人の望みも大それたものじゃなかったから、命を寄越せとも言えないしね。それに私も、フラン以外の血を分けた家族が無性に欲しかったのよ」
「……咲夜と香霖はお互いのこと知ってんのか?」
「知らないと思うわよ? でも、咲夜は私や美鈴やパチェが大事に大事に育てたから別段父親の愛に飢えてはいないし、二人とも知ったところで大して動じやしないわよ」
想像してみる。
『店主さん、貴方が私の実の父親だそうですわ』
『そうなのか。子作りを誰かとした覚えはないんだけれど』
『ならいいです。ところで、新しいティーカップが欲しいのだけれど』
『ああ。それならこっちにあるよ。これからもウチを御贔屓に』
「……そんな気がする」
「でしょ? だから気にしないでね」
「無理だ!!」
「落ち着きなさい、咲夜の成長メモリアルアルバム見せてあげるから」
そういって戸棚から取り出した大きな本。レミリアの後ろから覗いてみる。そこには多くの写真が副題と共に存在していた。
『かいしんのいちげき!』と言わんばかりのどや顔で自分を抱こうとした美鈴を殴るさくや0歳
(余談だが写真の下に『この時、私はこの子を勇者として育てていこうと決心しましたby美鈴』と書かれている)
おしゃぶりと言わんばかりにレミリアの翼をしゃぶっているるさくや1歳
とてとてと危うげな足取りでレミリアのもとに必死に足を進めるさくや3歳
パチュリーの魔法の花火に目を輝かせているさくや5歳
『字を覚えたよ!』という副題の元、『さゅうごく』と美鈴の顔にマジックで書いてこちらを見るさくや6歳
小悪魔のしっぽを追いかけまわしているさくや7歳
美鈴の頭に綺麗に投げナイフが刺さったのを『褒めて!』と言いたげにこちらを見る咲夜10歳
そのすぐ後であろう、レミリアに叱られて大泣きしている咲夜10歳
『お母さんとおそろい!』の副題通りレミリアと同じドレスに身を包む咲夜11歳
『初めてのメイド服!』もはや何も語るまい咲夜12歳
『■■■■(上塗りで黒く潰されていて読めない)と遊んでもらった!』フランドールと弾幕ごっこ(らしきもの)に興じる咲夜14歳
『親離れしなさいbyレミリア ←嫌ですby咲夜』レミリアを抱き枕にして幸せそうに眠る咲夜15歳
『きさま! 見ているなッ!』世界の時が止まった咲夜17歳
……などなど。
なにこれほしい、(最後除き)鼻血モノであった。だがレミリアは誰が相手でもこの写真を手放す気はないらしい。
あまり家族のことをよく思っていない魔理沙でも、この写真の中のレミリア達が本当に幸せそうにしているのはわかった。
しかしそこである疑問が浮かぶ。
「……なぁ、お前咲夜が娘であること、咲夜の親であることに誇りを持ってるんなら、何で求聞史紀にそう書かなかったんだよ?」
「私達は別に書いてもらってもよかったわよ。でも、私みたいな子供の体でも出産ができるなんて知ったら、悪い意味で喜ぶ輩が出てくるでしょ? 画面の目の前の人とか。世の中綺麗な人間ばかりではないのだし」
「画面って何だ!?」
「だから、『少女は愛でるもの』ってポリシーのスキマ妖怪が検閲したのよ」
「……何処から突っ込めばいいんだ……」
ちなみに世界最年少出産記録はおよそ六才の幼女である。人間って怖いね。色んな意味で。
「……あのさ」
「何かしら?」
「さっき言った悪魔の契約…他にもやってる奴いるのか?」
「色々いるわよ、大体は外の世界の企業のお偉いさんが、会社が潰れず大きく繁盛するようにってのが多いけれどね」
レミリアは正確に言えば吸血鬼であり悪魔ではない。しかし運命を操る能力を持つレミリアと契約できればよほどのことがない限り
約束を違えることはない。その契約遂行能力はまさに悪魔的ともいえた。
「ふぅん…そいつらも魂の一部とやらを代償にするのか?」
「いいえ、利益の一部とかかしらね。紅魔館が常に潤ってるのもそこら辺が大きいわ。魂の一部を代償にして私に子供を産ませた者も一人だけいるけれど」
「まだいたのかよ!? 誰だその依頼主は」
信じられない真実その2にまたも驚く。その者への侮蔑の感情を隠さず尋ねた。
「霧雨の道具屋の店主」
帰ってきた答えは色んな意味で終わっていた。
「親父ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
まさかの身内の所業にまたしても絶叫。
「だから静かになさいって」
「落ち着いてられるか!! 親父が母さん差し置いてよりによってお前に子供作らせたんだろ!!?」
「別に愛し合ってるわけじゃないわよ、あなたの両親にとっても仕方なかったことなのだから」
「どういうことだよ!?」
「落ち着きなさいと言ってるでしょうに……あなた、兄弟はいないでしょう? おかしいとは思わない? 人里の最大手道具屋という名家なのに、後を継ぐはずだったあなたを勘当したにもかかわらず、新しく後継ぎを産もうともしないなんて」
「……何が言いたい」
「この際だから言っておくわね……あなたの両親は子宝に恵まれなかった。しかし後継ぎは欲しい。かと言って孤児を引き取ろうにも孤児自体簡単には現れない。孤児が現れるよう運命を操ることも可能ではあったんだけど、孤児が産まれるということは必然的に不幸になる者が現れることでもあるから、彼らが嫌がってね」
孤児がいるということはその孤児を捨てる者、もしくは手放さざるを得ない者がいるということである。その理由は大抵救い難い。
養子縁組にしても、幻想郷では子供は家庭の有望な働き手である、簡単に手放す者はいまい。
「それで、お前のそれの出番ってわけか……でもおかしいな、私が家を出た後だって、あの家に後継ぎができたなんて話、聞いちゃいないぜ。かと言って私に兄弟がいたことなんてなかったはずだ。いつ産んだんだよ?」
それこそ求聞史紀には自分が道具屋の一人娘であると書かれている。
「あら、まだ気付かないの?」
「あ?」
「私が霧雨家のために産んだ子供はあなたなのだけど」
「うえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!??」
完全にヨソウガイでした。
フリーズする魔理沙をよそに、レミリアはしみじみとした表情を浮かべる。
それは例えるなら『あらあら○○ちゃん! しばらく見ない間にずいぶん大きくなったわねぇ!』などと勝手に感慨にふける親族のようだった。
「まさかあの時の娘が家を捨てて魔法使いになって、その上我が家の友人になるだなんて思ってもみなかったのだけどねぇ~。咲夜といいあなたといい私の娘はすごい人生を歩むのねぇ」
「え、ちょ、冗談だろぉ!?」
契約内容は『とにかく子供が欲しい』だったようだ。でなければ後継ぎを約束された娘が魔の道へ進むはずがなかった。
「嘘じゃないわよ。もっとも、このことはまだ誰にも言ってないけれどね。あ、でも美鈴あたりなら気の能力とかで気付いてるかも。そっか、だからあなた相手だったらついつい手加減しちゃうのね」
「ええ!?」
「知ってる? あの紅霧異変から、正確にはあなたがウチに準強盗するようになってから、人間相手に簡単に何度も破られる程度の力しか持たないように見られちゃったのよウチ。でもそれで調子に乗った有象無象の妖怪共の襲撃ではあの子、弾幕ごっこでも本気の戦闘でも敵に門を破られたことなんてないのよ? ま、弾幕ごっこじゃあなたよりも弱いのは否定できなそうだけど」
「……色んな意味で信じられないぜ……」
「思い返してみればいいんじゃない? 例えば咲夜は、基本的に人間…他人に冷たい子なのよ、でもあなたとは早くから打ち解けてたじゃない。あの子、あなたを妹みたいなものに思ってる節があるのよ。実際姉妹なんだけど。きっと本能的に通じ合ってるんでしょうね」
友人と認識している咲夜について思い返してみる。確かに彼女は自分に甘い節があったのではないか。それこそ図書館に忍び込んだのを見逃してもらったり
あまつさえ自分の来訪におやつを用意してくれたり。フランが初めて暴れた日もパチュリーのように妨害はしてこなかった。
そういえば宴会でも常にレミリアの傍に控えるか料理の準備をするか、そうでなければ自分の近くにいた気もする。
「フランにしてもそうよ。あいつ弾幕ごっこ大好きでしょ? なのにウチでの宴会とかに集った実力者とは基本的に誘われた時しかしないのよ。あなたとやるのが一番楽しいとも言っていたわ」
フランドールについても考えてみる。彼女は確かに好戦的だが、宴会やパーティーで会った誰それと遊んだよ! という会話は確かに少なかった。
図書館に忍び込むために忍び込んだ館で出会った時のキラキラした瞳で自分を見つめてくる姿に、罪悪感と疲労を覚えるのはよくあることだった。
「あなた自身を思い返してみなさいな。多くの異変に首を突っ込みたがる好奇心とか、様々な魔法使いを模倣してより上を行こうとする向上心とか、少なくとも並の人間じゃないわ。あなたが覚えてる属性魔法だって、図らずも私の使い魔に似てるでしょ?」
コールドインフェルノのことかーーーーーーーーーー!!
それはいくらなんでもこじつけな気がした。
「そ…それでもそれは偶然にすぎないだろ!? ……って、なんだその本」
そそくさとまたも戸棚から取り出し、あっけらかんと言い放つ。
「あなたの成長アルバム」
「なんでそんなものがあるんだ!!?」
「ん? さっきの霧雨道具店の店主との契約の報酬よ? 私が産んだ子を契約とはいえ手放すんだもの、これくらいは頂いて然るべきでしょ。家宝の一つよ♪」
奪い取って中身を確認してみる。確かに自分に重なる面影の少女とよく知る夫婦が写っていた。
惜しむらくは咲夜のように煌びやかに着飾った写真が少ないことか。着物のような大仰な服を嫌がっていたのは覚えている。
両親や友人と写っている写真も多いが、所々に霖之助とともに写った写真も見られる。
胡坐をかく霖之助に抱きかかえられて幸せそうな顔をするまりさ4歳
霖之助に肩車をしてもらい上からピースをしてニカッと笑う魔理沙5歳
霖之助(ものすごい形相な)の股間に躊躇いを一切感じさせない表情で蹴りを入れる魔理沙6歳
しかし一番表情が輝いているのが、四つん這いの霖之助に馬乗りになり首輪とリードまで付けて歩かせてる7歳の時の写真ってどういうことなの……
残念ながら10歳以降の写真はない、理由はわかりきっている。
いつかのうふふ口調以上に触れられたくない過去を思い出した気がする。
しかし証拠隠滅に焼き払おうと八卦炉を取り出そうとした瞬間奪い返された。
「どう? これで信じてもらえたかしら?」
とてもいい笑顔で言い放つレミリア、魔理沙はベッドに仰向けになり項垂れる。
「あのなぁ、正直ドアから『ドッキリ大成功!』の看板持ったパチュリーが登場するのを期待してるんだが」
「それはないわー」
「だよなー……何か、今まで積み重ねてきたもんとか全部崩れてった気がする…信じてたもんに裏切られた気分だぜ…」
「あら、不安?」
「当たり前だ!」
モヤモヤを隠せず思わず口調を荒げてしまう。
しかし幼い(はずの)吸血鬼はそんな魔理沙に微笑みながら近づき、倒れた魔理沙に顔を近づけ、向かいあう。
「仕方ないわねー。今日は一緒にいてあげましょうか?」
「は?」
赤く紅い、それでいて優しげな瞳に吸い込まれそうになる。
「お母さんが一緒に寝てあげるわ。ま・り・さ♪」
全力で逃げた。
「もう、照れ屋さんなんだから」
そこから先のことはほとんど覚えていない、何処をどう飛んだのかもわからないまま飛び続け、気が付けば自宅のベッドの上にいた。
住み慣れた家、寝慣れたベッドで横になりながら今日を想う。色々知りたくなかった真実を知ってしまった。
咲夜の母親がレミリアだったこと。
霖之助が咲夜の父親だったこと。
そして、自分までもがレミリアの娘であったこと……
これだけの事実を突き付けられて平気でいられるわけがない。
今度から紅魔館の奴らとどう付き合えばいいんだよ……
夢と現の境界を行き来しているとき、何者かが枕元に立って語りかけてきた気がした……
『今まで通りでいいんですよ、今までも問題なんてなかったじゃないですか』
…それは今まで私が何も知らなかっただけだろう、今からじゃ今までとは何もかも違うんだよ…
『何でそんなことが言えるんですか?』
…何でって、そんなの当たり前だろう常識的に考えて…
『常識は投げ捨てるものです、さぁ、迷える子羊よ! 己が世界の扉を切り開け!』
…
………
……………
…………………
………………………それもそうだな! なんかイケる気がしてきた!!
作品として文句無く面白かったです。
大丈夫ですよ
ここはYES■■■■、NOタッチを信条にする変態紳士の社交場ですからwww
今後の妄想時のネタに使わせてもらいますねw
どうでもいい訂正ですが最年少出産記録は五歳ですよー
後書きで黒く塗りつぶされていた意味とか、アルバムの咲夜とか魔理沙、皆との会話とか面白かったです。
でも、ありだと思います
どちらかを選んでナニする気ですかパッチェさん
DQ4コマですね。わかります。
だがフラン叔母さんという言葉の響きに
どうしようもないトキメキを覚えた。
どうしてくれる
ところでそのアルバム二冊を閲覧したいのですが…見せてもらえませんか?
で、俺の子はいつ生んでくれますか?
レーミィ可愛いよレーミィ
俺はどうすればいいんですかね、フランおばさ(ry
にやにやした。
( ゚∀゚)<だがそれがいい
ははっ、何コレ?フッツーに面白かったです。うん、負けた。
お姉ちゃんは破壊力が尋常じゃないな
ふっふー、幸せそうでなによりです。
ガ○キャノン「・・・駄目だこの子、早く何とかしないと・・・」
色々と「何じゃそりゃああああ!??」なツッコミどころありまくりな設定でしたが、面白かったです!
できれば、続きを所望です!!あと、妹(魔理沙)をめでるお姉さん(咲夜さん)なシーンをばぁ!!!(を)
因縁を超えた血筋って奴かなw
ネオ紅魔館ファミリーを見てみたい。是非!!
で、レミリアと契約する為にはどうすればいいんだろうか?
あまりの超絶設定にひっくりかえり、なおかつそれをきちんと纏めている手腕に脱帽。
文句なしの満点です。
よくぞここまで斜め上の舞台装置を纏めてみせたもんです、感服いたしましたw
アリだ!この設定はたいへんアリだぞ!!
アルバムすげえ見たい
オモシロかったです。
しかしフランおば(ryは一気に年齢がにじみ出したなw
そう思いつつ何故か惹かれる作品だった
うまいなぁwww
そして強く生きて下さいまし、フランドールおばさm(キュッとしてドカーン
割と本気で。
すべてのピースがはまったような、すがすがしい気分だ……。
フランに合掌w
ここまで自然にアリだと感じるなんて…
盛大な拍手とともにこの得点を送らざるをえないw
面白かった
そして発想を生かしたテンポの良いストーリー。ぶっとんでるんだけど否定する気にはならない絶妙さ。面白かった。
ニヤニヤが止まりません。面白い作品でした。
どっからこんな発想が出てくるんだ
いやぁ、設定だけでなく話しの筋やテンポも面白かったです。
文句なしに100点です。
なんとまぁ…スキマババァとは一緒に美味い酒が飲めそうだwww
そして早苗さんはもう駄目だwww
腹に子供を宿す代理出産的なもの?
なんかよくわからんな。
吸血鬼を介しての子供で咲夜が奇跡的に人間として生まれたにしても
二人目の魔理沙も人間になるとか奇跡のバーゲンセールじゃあるまいし。
つか魔理沙はわざわざレミリアが生まなくとも他の人に生ませりゃいいと
思うんだが。
手元に置いておく咲夜はともかく、そうでない魔理沙は色々問題が起きる可能性も高いしな。
発想は面白くてインパクトも強いから人目を引いて得点は稼げるだろうが、物語の完成度としては最低ランクのSSだと思う。
しかしお嬢様……生むのは物理的に大丈夫だったのか!?
フランおばさんwww
なのになんだろう・・・すごくいい設定・・・
正にそそわらしい作品。ご馳走様でした
レミリア母さん、フラン叔母さん、咲夜姉さん、パチュリーおばちゃん(母の友人的な意味で)ですね。
なので、ニヤリとさせられましたw
紅って入ってるしww
こんな発想ができる作者様に嫉妬と拍手を。
面白かったですw
母性愛に溢れたレミィは新しい
この紅魔館の美鈴は愛されていそうですね
よかったよかった
今明かされる衝撃の真実と云うかなんというかw