Coolier - 新生・東方創想話

操り人形のχ

2010/04/02 00:43:03
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 色鮮やかな町並みがアリスを包み込む。

 唐突すぎて訳の分からない展開を半ば恍惚に感じながら、彼女はその中で足を踏み出す。灰色の固い地面が鮮やかな世界と対照的に、アリスの足を跳ね返した。

 これ程固い地面は最近踏んでいない。せいぜい一月程前に訪れた紅魔館の廊下くらいなものだろう。自宅の床はもう少し家主に優しい。人形に作らせたそれは、暖かくて柔らかいものだった。



「……さて……?」



 通り過ぎる余りにも多い人の数に混乱しながら、アリスは小首を傾げた。疑問という形で口から出ることはなく、答えてくれる人ももちろん現れない。代わりに上海人形が肩の上に乗ってきて、主の金髪を意味もなく整え始める。こういう、無意識の操り方が癖になってしまったのはいつからだろう? 

 まるで、人形に操られているかのような。



 ……ここ、何処?



 聞く人がいないから敢えて口にはしなかったけれど、疑問はこれ一つに尽きる。気づいたらこんな世界にいたのに、その世界がどういうものなのかさっぱり分からない。もちろん細かいことを挙げていけば冷静な疑問なんていくらでも見つかるが、やはりこの疑問ありきでのものばかりだった。



 ともあれ、まず目に入るのは和風の建物と洋風……否、無機質なデザインの建物で構成された地帯。前者だけなら新しく里が増えたのかしらとか、永遠亭が何かやらかしたのかしらとか、いろいろと推測は出来る。後者が何か分からない自分では、そもそも混合地帯をどう扱うかなんて決められるはずもない。強いて言うなら、『訳の分からない場所』としてカテゴライズされることになる。



 記憶の隅からどうにか引き出せるのは、あの無機質なデザインは何処となく魔界のそれに似ているような気がしなくもないけれど、分からない。人形を操るアリスの姿を珍しそうに、あるいは気持ち悪そうに眺める彼らを見ればなおさら魔界のもの、という考えは説得力を捨て始めてしまう。



「となれば、消去法かしら?」



 そう結論付けて、ちょうど近くに見えた図書館という文字をあてにして歩き出す。5キロ先だという。幸いなのは言語が異なっていないことと、どんな世界でもライブラリは情報を詰め込むもの、というアリス自身の考え方が廃れてはいなかったという事実だ。



 一瞬、飛んでいけば早いかなという考えが浮かんだけれど、すぐに思い直してやめた。珍しいことが起きたのだからせっかくだし眺めていこうというのと、人形が動くのを気味悪がられる世界で飛んだりしたらご愁傷様ね、という二つだ。自分だいたい二つの考えありきで行動するのかもしれない、と少し笑ってからアリスは歩きだした。





 ……地図というものがこれほど欲しくなったときはない。少し歩いてからアリスは嘆息した。この町はまるで本物の迷路のようだし、古びた看板らしきものだけで目的地まで辿り着けるとは到底思えない。



『京都図書館 ここから3km テレポートコードはこちら→(意味不明な数字の羅列が並んでいる) 』



 またこれだ。アリスは溜息を吐いた。正直、勘弁して欲しい。

 もちろん幻想郷という土地に住んでいるのだから5キロなんて距離は対したものではないし、非常識が常識になるほど最近は馴染めたとも言える。けれど、分からないものは分からない。理解できないものは理解できない。

 テレポート? スキマか。

 半ば自棄になったアリスは早歩きで進み始めた。空間転移なんてそれこそスキマ妖怪の特権だし、他に出来る可能性があるとしたらとしたら図書館の紫魔女くらいか。放っておけば近所の白黒がマスターするだろうけれど、少なくともあんな面倒なもの、アリスには必要なかった。



「でも、まぁ、コード……、か」



 少しだけ納得できる部分を見つけ、早くなっていた身体が落ち着きを取り戻す。慌てて首にしがみついていた上海が不満そうに頭を叩いた。

 コードというのは、別の言葉に直せばパスワードだったり、魔女に馴染みのある言葉にすれば魔法陣というものになる。

 魔法陣はそのままズバリ魔法の元になる場合があり、描かれた線一本一本によって効果が異なってくる。一本変えれば真逆の効果になるものもあれば、全く別の効果が現れたりすることもある。空間転移などは基本的に書物で学んで、細部を式で導き出すなどして行う……ということくらいは知っている。そしてその式というのは数字で表すから、ある意味であの羅列は正しいのかもしれない。もちろん実際にはあんな自然数を並べただけのものではなくて複雑になってくるのだけれど、暗号化したものと考えれば納得できないこともない。

 既存の枠にあの羅列を打ち込めばそこへテレポート出来るといった類のものが、あれの正体だろう。



「以上、Q.E.D……っと」



 意味もなくそう呟いて思考を終わらせる。だいたいここまで考えるのに五秒間程かかった気がする。



 そう……ここはそういうレベルの世界なのね、と思考を先ほどのそれから僅かにすらした部分に着地させる。

 やたら無機質に見えるのは科学……という名前の魔法に囚われて他を排除しているという現実が背後にあるのだろう。それが分かっていて違う振りをしているけれど、幻想郷の住民が見たら間違いなくアリスと同じ結論を導き出すだろう世界だ。



「そういえば、やたらと科学が好きな奴も幻想郷にはいたわね」



 ふと、そんな妖怪のことを思い出す。といってもそれは妖怪というより妖怪群といった方が実は性格で、山に住んでいる者はどういうわけかすべからく科学好きなのだ。河童然り、天狗然り。果ては山頂の神社の二柱とその巫女さえも。



「神社の連中は外から来たから良いとして、問題は妖怪の方よね」誰も聞いていないだろうから、得意の独り言を人形に披露する。「やっぱり山が外と繋がっているとかいう噂と関係してくるのかしら……?」



 人形はもちろん答えない。操っているのは自分だ。操られているわけではない。そう再認識して――最近こうすることが多くなった気がする――、顔を上げた。



 相変わらずの、無機質な建物。いい加減飽きてきたそれに看板とはまた違う大きな『図書館』の文字が見えたときにはアリスは少しだけ感動した。少なくとも、ここ一年の間では一番の感動だろう。幻想郷という世界にいながらここまで感動が少ない生活を送っているのは、さすがに損な気がしてきた。もうちょっと贅沢に生きても良いのかもしれない。



「……でもライブラリにしてはちょっと、」入り口から入る前に、アリスはコンクリートの壁をそっと撫でた。「荒れ果てている、というのかしら?」



 科学がこのように結集した世界では情報化、というものが出来上がるらしい。そう本で読んだことがある。それならば情報の集合地帯であるライブラリ、図書館がここまで荒れ果てていて良いわけがないはずなのに……、アリスは首を傾げた。



 ……書物よりも効率的な他の媒体がある、ということかしらね。



 森の入り口にある道具屋の言葉を思い出す。

 外の世界から情報が詰まったとされるディスクが流れ着いたらしい。掌サイズに多くの情報を詰め込むことが出来たなら、それは効率的だ。それを読みとる何かがどれほどの大きさなのかによるけれど。

 そも、レコードだって情報を詰め込んだものに近いじゃない、と人里の少女の家を思い出して笑った。あの家はその少女こそが一番効率のいい情報収納媒体だった。



 こんなに廃れた外見の図書館でも誰かいるだろうか? 半ば本来の目的を忘れながら扉の前に立つと、それは勝手に開いた。何処にドアノブがあるのだろうと悩んだ先の出来事で、小さな感謝と大きな吃驚だ。感謝する相手が誰かは知らないけれど。



「うわぁ」



 予想以上の蔵書量だった。自分の家との違いは一目瞭然。さすがに紅魔館のそれの足元にも及ばないけれど、一ヶ月行っていない身としてはこの本の山には目を見張るものがある。

 誰もいないカウンターと、大きな大きな客用の机。それの周りには外見からは想像も出来ない程整理された棚がところ狭しと並んでいる。整理されているというのは若干嘘で、床にも本は大量に積まれていた。



 先客は机に二名とそこから少し離れたところにもう一名。どこかで見たことのある気がする二人の顔ぶれにアリスはゆっくりと近づいていった。



「席はないよ、席はないよ!」



 机の上の黒い帽子をクッションにして本を眺めていた黒白少女がアリスを見て笑顔で叫ぶ。その二人の目の前に紅茶が置いてあるのを見て彼女は溜息を隠せなかった。



「いくらでもあるじゃないの!」クレイジィ・ティタイムの真似事かしら、と悪ノリしながらアリスは叫び返す。それから紫色の少女の隣の椅子に腰掛けた。

「烏龍茶はいかが?」紫の少女が問う。当然ながら烏龍茶は見当たらない。別にワインでなくても良いから、もう少し高級感のある響きにしてほしかった。

「烏龍茶なんかないじゃないの、パチュリー?」それでも二人の期待通りだろうとそう続けて、いつの間にか目の前にあった紅茶を顔に近づける。ダージリンだった。

「もちろん、烏龍茶なんてないわ」パチュリーが欠伸をしながら言った。「ない場合は、作るか買ってくるかしないと現れることはない」

「あるいは、諦めるか」黒白――魔理沙がニヤリと笑う。

「ないものを薦めるなんて礼儀知らずよね」

「招待されもしないのに座り込むなんて、礼儀知らずも甚だしい」

「ここは公共の図書館。そうじゃなくて?」

「そこは、貴女のテーブルだとは知らなかったわ、だろ?」

「悪いけど、」アリスは溜息をついた。「今はそこまで乗り切れる気分じゃないの」

「うちの門番の前では随分ノリノリだったそうじゃないの」

「それは夢でしょう!」



 バン、と机を叩いた振りをしてアリスは立ち上がった。そしてその慣性で少しだけ立っていたが、やがて椅子へとすとんと落ちる。一気に力が抜けた。



「もぅ……、で、貴女たちはこんなところで何してるのよ」

「気づいたら図書館にいたの」とパチュリー。

「気づいたら図書館が在ったんだ」と魔理沙。二人の性格の変わらなさが伺える。何処にいても特に変わることはないらしい。

「それで?」アリスは先を促した。

「レム睡眠が兎に似ているのはなぜか?」

「あのね、パチュリー」いい加減に――、と言いかけたアリスを横目に、魔理沙が、ひゅう、と口笛を鳴らす。

「分かる?」

「帽子屋もそんなにせっかちじゃなかったわ」そう不満げに漏らして、「そうね、まぁそれの答えはだいたい分かるけれど」

「じゃ、どうぞ」

「私は英語はあまり得意じゃないの」

「正解。私と魔理沙は、ここで帰る方法を探していたのよ」



 パチュリーがのそのそと椅子を引いて立ち上がる。床に置いてあった本を一冊拾い上げて、こちらに放って寄越した。

 不思議の国のアリス。タイトルはこれだ。金髪の少女が描かれた古びた表紙が目に入る。アリスは呆れて横に首を振った。



「それであんな真似をしたのね。……でもこれが何になるのかしら?」

「この世界には、それくらいしか鍵がなさそうよ」

「ファンタジィ? 他にもいくらでもあるでしょう」

「いや、魔理沙が片っ端から探したけれど見つからない」そう言ってパチュリーは自分のカップに紅茶を足している黒白に目をやった。「幻想はもう残っていないのね」

「だって、ここは外の世界だろ?」



 魔理沙がニヤリと笑う。ずっと誰も口にしていなかったけれど、改めて告げられたその事実に二人は黙り込む。紅茶を啜る音だけが館内に響いた。

 外の世界。もう分かっていたことなのに、あまり受け入れたくはない。幻想に住む者として、認められる世界ではないからだ。けれどこの世界ありきで幻想郷が存在するというのもまた事実。現実なしに幻想なんて存在し得ないのだから。



「秩序は必ず無秩序へと向かう……」ぼそぼそとパチュリーが呟く。「これは、分かる?」

「分かるぜ」

「貴女には訊いてない」

「分かるわ」

「よろしい。……この本のアリスの世界は無秩序の世界。幻想郷も同じく無秩序の世界。これも良いわね。だから道具屋には外の世界が流れ着く」

「オーケーオーケー。まだ理解の範疇だわ」段々と彼女の言いたいことを理解しながら、「続けて?」

「……魔理沙、不満そうな顔は止して頂戴」パチュリーが本の角で魔理沙を小突く。「一般的には、無秩序が秩序に帰ることはあり得ない。唯一それを実現するのが博麗神社。及び八雲のアレ」

「二つだぜ」額を押さえて魔理沙が呻く。

「お黙り。そしてそれは無秩序の中での存在。秩序――早い話がこちらの世界から幻想郷に干渉することは出来ないということ。例外は幾つもあるけれど、少なくとも人間では不可能」

「山の神社とかかしら」

「まぁ、それが例外の内の一つね」パチュリーは欠伸をかみ殺しながら、「私たちが此処へ来たのが八雲のアレを原因としたものでないのなら、悪魔が存在することになるのよ」

「悪魔?」魔理沙が首を傾げる。

「マックスウェルの悪魔よ。秩序と無秩序を弄くり回す、厄介極まりない悪魔のこと」



 アリスは額に手を当てて天井を仰いだ。そも、パチュリーが人間では不可能と言った時点で大方の希望は失われてしまったのだけれど。もちろん自分たちは魔女だが、幻想郷と外とを隔てているのは空間の境界ではない。単純に考えれば無理があるだろう。



「……なぁ、それって、」同じことに気づいたのか、魔理沙が苦々しい笑みを彼女に向けた。「私たち、帰れないんじゃないのか? お前等は魔女だが、悪いがそんな大魔法を拾得しているとは思えない。そもそも科学である魔法にそんなことが出来るとは思えないな」

「だから、」紫の少女は呆れたと言わんばかりに面倒くさそうな手つきで机の上の本を指さす。「そこでこの本なのよ」



 遠くの席で本を枕にしていた少女が立ち上がった。緩んだネクタイを締めながらハットを手に取り、ふらふらと出口へと向かっていく。熱に浮かされたような足取りだった。

 しばらくそれを眺めてから、アリスは再び目の前の本と対峙する。自分と同じ名前の少女が幻想の世界を旅して――最後には帰ってくるお話。無秩序の代名詞のような狂った世界は、幻想郷よりも幻想らしい気がした。書かれた当時の人々はこういうものを望んでいたのだろうか。



「これで、一体どうするというのよ? クレイジィ・ティタイムは終了。けれど女王もいなければ亀も海老も……パイだって盗まれなかった。トランプだけ在ればどうにかなるとでも?」

「そんなこと言ってない。どうするかはこれから考える」不満げに鼻息を漏らして、パチュリーは黙った。

「気づいたら元に戻ってるなんてことだってあるかもしれないぜ。何せ秩序は無秩序に向かっていくんだからな」

「楽観的なのが貴女の仕事よね。人間は時間がないと言うのに」

「せっかく別の世界に来たんだ、何ならすっとこのままでも私は構わないぜ。展開を満足に体験するだけだ」

「素晴らしいことで。生憎この世界じゃ研究が出来ないのよ」



 そう残念そうに吐き捨ててアリスは紅茶に手を伸ばす。ようやく喉を水分が通り僅かに潤う。人形が無意味に暴れ始め、それに気づくと同時に自分が焦っているという状況を認識……、それから無理矢理落ち着いた演技をするのに驚くほど長い時間を要した。



 自分は何をしているのか……。そう考えてみても、自分が馬鹿馬鹿しいことをしているとしか思えない。下手なお遊びに付き合って、変なことをし続けて結局何も進まない。

 もちろんこんなのはただのマイナス思考だし、無意味というか、無駄だということは分かる。けれど進まない状況はじれったいというか、その……、



「どうにかならないものかしらね」

「何がだ?」

「この状況よ! 貴女たちはのんびりお茶を飲むだけで動こうとしないし、その結果がどうしましょうかって」

「そりゃあ、何も分からないからね」パチュリーが不機嫌そうにこっちを睨む。「動かないのは、貴女も同じ」

「はぁ……軽く鬱になるわ」

「気楽に行けばいいじゃないか。私よりか時間はあるんだ。私がのんびりしているのにお前等が焦っているんじゃ世話ないぜ」



 貴女とは違うのよ……、そう言おうとして、やめた。それは結局ループする思考で、それにはやはり意味などないからだ。意味がないことは好きなはずなのに、なぜかこの世界ではそんな気持ちにはなれなかった。

 自分も動いていないのは確かに事実として、動いたなら一体何が出来る? 今から魔法を修得するにはこの図書館ではあらゆるものが不足している。ライブラリで不足しているのなら、他の場所へ行っても状況は好転しないだろう。



 アリスは再び無意識に人形を操り始めた。上海はくるくると踊りだし、蓬莱人形はそんな上海の足をすくおうと必死だ。そんな人形の無邪気な動きを、黒白と紫がぼんやりと眺めている。

 無意識の人形劇――、魔法の糸はもちろん見えることはない。



「それ、どうやって動かしているの?」

「何度も言わなかったっけ」不意に訊いてきたパチュリーに、アリスは面倒くさそうに答える。「普通の人形と何も変わらないの。糸よ。ただそれが見えにくいだけ」

「線じゃなくて?」

「それは同じものでしょう。少なくとも私たちの知る現実では」

「まぁ、線も糸も三次元には成り得ないからな」



 一見しておかしな意見のようだが、これは間違いじゃない。人形の糸についてこの二人に説明をするときにはいつもこうしてきたし、それで二人とも理解してくれている。この二人は僅かだけれど……アリスの中での知り合いとしては浮いた位置にいることは確かだった。もちろん、魔女としてのそれ以外にはないはずだけれど。



「それで、線がどうしたって言うんだ?」

「いや……、」パチュリーは顔をしかめた。「私たちが人形だったらどういうことになるのかな、と思ってね」

「不快だわ」



 操り人形。

 上から垂らされた糸に、意図に従って動いて、意志など持たずに生きた振りをする者だ。傀儡とも言うそれはしかし、得意分野のアリスでもされたことはないから理解が出来ない。使役するだけで理解しない――、これは独裁者のそれに似ている。

 仕様がない。実際に独裁者なのだから。

 人形を束ね、時にはプライベートに、時には戦闘に。またあるいは黒子として利用する。それがマスターとしてのアリスで、人形遣いの本来あるべき姿であるのは間違いではないはずだ。



 けれど、と。

 もしも……例えば自分が人形だったとしたら? 気づかない内に操られている立場なのだとしたら? 本当に稀にそういうことを考えてしまうけれど、不快になってすぐにやめる。だいたい、それは考えること自体がナンセンスだ。



「不快、ね」

「そう、不快。ナンセンス。笑えないジョーク。とにかく、私はその考えは大嫌いよ」

「まるで独裁者だな」

「独裁者なのよ、実際に」



 腕が。

 足が。

 頭が。

 胴が。

 糸に吊られて、意図に吊られて、勝手に動く。

 気持ち悪いじゃない。

 気持ち悪いじゃない。

 そんな状況、想像したくもない。



 でも、その糸を断ち切ったら――、





 境界線を、断ち切ったのなら、















               ぷつり。

























     ***



















 古びた図書館。けれどもそこは整然とされているように見える。実際には少し違って、床には山ほど本が積んであるからとても歩きづらいのだけれど。おまけに本も探しづらいときた。前時代的なライブラリはこれだから困る、今はデータの時代だ、と言う輩が多いけれど、個人的には書物の方が大好きだ。ロマンティックだから。



 窓から射し込む光が辺りを照らす。棚の奥に隠されてしまった多くのファンタジィが、哲学が、幻想がその姿を露わにした。同時に、誰も手をつけないから放っておかれた埃たちが整然と寝そべる姿も映しだし、見ている方は余り気分が良くない。



 忘れ物を取りに来ていたことを忘れていた。もう貸し出しなどという非効率的なことは行われていないから、この図書館からはほとんど持ち出し自由という無法地帯と化している。ある意味、遺跡。廃墟。図書館。それにロマンを感じてしまうというのは、やはりこの世界が進みすぎてしまった証拠なのだろう。エントロピーの増加は激しい。あと二、三百年もすれば平気で人類は滅亡するだろう。



 ……やはり此処にあったようだ。寝ぼけたまま慌てて出ていってしまったからうっかりその場に置いてきてしまったのだ。

『不思議の国のアリス』

 古典とも言われるそれを帰りの電車の暇つぶしに読んでみようかと思っていたのに、置き忘れるとは馬鹿らしい。



 そういえば、起きたときに離れた席に座っていた少女たちはどこへ行ったのだろう。別に人がどこへ行こうが関係ないのに、今はやけに気になった。

 足を出口から彼女たちが座っていた方の席へと向けなおし、ゆっくりと近づく。



 紅茶はまだ熱を保っていた。

 三人分のそれと、残されたのは二組の人形。



 自分と誰かにやたらと似ているそれが、気持ち悪かった。

 
会なのか怪なのか解なのかよくわからなかったのでχになりました



ということにしておこうと思います。間違いじゃないはずたぶん



あ、どうもぜろしきです
ぜろしき
ergo.region000@gmail.com
http://ergoregion.web.fc2.com/
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コメント



0.470簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
相手を操っているようで、その実相手に操られているのか
相手も同じなのかどうか 判断も理解も認識も出来ない
次元が違うとはそういうことなのでしょうか?

……ああ、考えるだけナンセンス、でしたっけ

全く、カイとはよくいったものです
3.70名前が無い程度の能力削除
面白いんだけどクドイ。
状況説明が細かすぎて、少し疲れるかな。
10.80名前が無い程度の能力削除
なんとも不思議な、面白い作品でした。
ちょっと言葉の繰り返しが冗長だったかな、とも感じましたのでこの点数を。
12.80ずわいがに削除
ちょっと読みづらかった、というのはありますかねぇ;

自分が何者かなんて考えたら、眠れなくなっちゃいます。無知は愚かで幸せなこと。