※この作品は、作品集106に載っている「緑の瞳」「Green eyes」の続編です。
見ていない方は、ぜひご覧ください。
また、上記の2作品をすでに見たという方は、ぜひ最後までお楽しみください。
黒猫が初めて狩りをし始めてからしばらくが経った。
心成しか、お墓の数が増えてきている気がする。
将来ここは墓地になるかもしれない、いや、させちゃいけないんだけどね。
今日も今日とて絶好調らしい、今日はもぐらを狩ってきた。
「え、何それ?でかすぎるでしょ」
「んにゃぅ~」
重そうにしている、わざわざ持ってきてご苦労さまと頭を撫でる。
もう慣れてしまった、慣れたくもないのに。
そして案の定、私の前にちょんと置いて、そのまま去っていくのだ。
まぁ、それはもう慣れたとして、最近困っていることと言えば…
ガリガリガリッ…
「こら、やめなさい」
私の大事な橋で爪をとぎ始めたのである。
ところどころ傷がついてしまってもう直らない、どうしてくれる。
いつかはこの橋ボロボロになって修理しなきゃいけないかもしれないじゃない。
そうなった時は…どうしよう。
黒猫に金出せ!って言ったって毛玉出すか、獲物取ってくるか、はたまたそっぽを向いて寝るかのどれかだろうし。
あぁ、何でこんなに猫に悩まされなきゃいけないの?
「にゃぁん」
何私は関係ありませんみたいな顔してんのよ。
私は、猫の顔掴み、こちらを向かせると、猫の額と私の額とをくっつける。
なんでも、猫は視力が人間の10分の1らしい。
あ、これは地上にある、森の中にある店で買ってきた猫の本からの情報ね。
なので、私がはっきりと見えるようにこうしているのだ。
「あんたのせいよ?解ってる?」
「んにゃん?」
解らないよね~。人の言葉なんてわからないもんね~。
だって猫だもん。
私だってあんたの言葉わからないし、仕方がない。
「人以外の言葉が分かったら素敵なのにね」
そう呟き、私は猫を抱き抱えた。
ぷらーんと足を宙に放り出し、尻尾もぷらんぷらんと揺れている。
「くしゅ!」
…顔に猫の鼻水がかかった。
最近くしゃみをするようになったし、涙も流しているようだった。
どこかおかしいところでもあるのかなぁと思った私は、地上の医者の所までいった。
あやしい、おかしいと思ったらすぐお医者さんへ!
小さい時に習った事を実行することにした。
すると…
「ウイルス性呼吸器感染症ね」
「…はい?」
竹林のところの八意とかいう医者はこういった。
そんな難しい名前言われたってわからないんですけど。
ほんと、医者って解ってて難しい名前で言うような気がする。
私は病気の難しい名前も言えますよ?って自己アピール何だろうか。
それで、え?って感じの顔をみて内心喜んでいるに違いない。
医者はドS 確定ね。
「あぁ、ごめんなさい。簡単にいえばネコかぜよ」
何であんな場所で普通に私と過ごしてたのにかぜなんて引くのかしら?
そして、一つ頭の中によぎった。
黒谷ヤマメ、病気を操る能力を持つ土蜘蛛である。
あの土蜘蛛が私の猫をやったに違いない。
「あの土蜘蛛、覚悟しときなさいよ…。病原菌撒き散らしてるに違いないわ、何を考えてるのかしら…」
「あの、パルスィさん?」
「ぼっこぼこにしてちょっと反省させないといけないようね。さぁて、どうやっていたぶろうかしら…」
「パルスィさん?」
「え、あ、何?」
どうやら口に出してしまっていたらしい、無意識って怖い。
「まぁ、暗い所にずっと暮らしてたんじゃかぜになっても仕方ないわ。ここ数日間はこっちの地上ですごしたらどうかしら?太陽の光の下で寝るって言うのも大事なことよ」
「…へ?」
「猫はね、日向ぼっこをして気持ち良さそうに寝るだけじゃないのよ。太陽の光を体に浴びると体の表面にビタミンDが作られるの。それをなめることによって、ビタミンDを摂取してるのよ」
流石医者だなぁと感嘆するばかりである。
竹林に住む医者っていうのは人体だけじゃなくて動物の体でもわかってしまうのが本当に凄い。
相当頭がいいんだなぁと、尊敬と妬みの視線を送る。
「とりあえず、薬を渡すから、餌を与える時に一緒に混ぜて食べさせてあげなさい」
「わかったわ」
「にゃぁん」
あら、人の言葉解るの?
さっき私が説教した時は返事しなかったのに、こういう時だけ返事をする。
ちゃっかりしてる子ね…。
「それじゃあ、これが薬ね。2週間分薬を入れておいたから、薬が無くなったらまた来なさい。解ったわね?」
私はえぇ、と返すと、それに対して黒猫は
「くしゅん」
医者に鼻水を飛ばして返事をした。
「…お大事に」
私は薬と猫を抱えて、とある場所へと向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「…で、何でここに辿り着くのよ」
私の目の前には、腰に手を当て、見下すような目でこちらをみる巫女がいる。
「別にいいじゃない。餌は私が与えるし、私だって自分でご飯を食べるわよ」
「そういう問題じゃないのよ。爪とぎして私の神社が傷ついたらたまったもんじゃないわ。それに、毛だって飛ぶし、掃除が大変じゃない」
「さっきから不満ばっかり口にしてるけど、あんたさっきから猫ずっと撫でてるじゃない」
「う…」
なんだかんだ言って、この巫女は猫が好きらしい。
妖怪とかそういうのにはあんまり興味がないのに、こういう小動物には興味があるのかもしれない。
「…まぁ、いいわ。この子の為だし、仕方ないわね」
甘い…甘すぎるぞこの巫女。
私たちのような妖怪にこのような温かい待遇をしてくれるだろうか、否、ありえない。
この性格の変わりようは何なの…。
…まぁいいや。
とりあえず、私もしばらくこっちにいるのもいいかなぁとも思うし、猫の為だから仕方がない。
なんだかんだ言って私も甘いんじゃないか。
黒猫が来てからというもの、振り回されっぱなしな気がする。
まぁ、いいやと思い、私はついでに持ってきた猫の本を広げる。
すると、紅白がこっちを覗くようにして見る。
「…何?」
「いや、何読んでんのかな~って。一緒に見ていい?」
「勝手にしなさいよ」
紅白は私の隣に並ぶと、興味深そうに私の本を眺めていた。
時折、へ~、ほ~、と感嘆の声をあげている。
なんか女の子らしいなぁって思って、軽く嫉妬。
すると、さっき医者が話していた事が記載されていて、あ、と声を漏らした。
縁側を眺めると、日向ぼっこをしている黒猫がいる。
お腹を出して、気持ち良さそうに寝ている時は、リラックスしている時らしい。
時折、顔だけを起こし、毛づくろいをして栄養補給。
「元気になるといいわねぇ」
「そうね」
紅白がそう言うので、私は素直に返事を返した。
見るからにはくしゃみする以外元気なんだけどなぁ…
あ、どっか行くの?
ふらふらと立ち上がると、外へと散歩に行ってしまった。
しばらく何も言わずに目で追って、茂みの中にがさごそと物音を立てて消えて行った。
「行っちゃったわね」
「そうね」
「帰り道とか解るのかしら?」
「そうね…って、あ」
あれ?ちゃんと帰ってこれるの、あの子。
ここに来るの初めてなのに帰り道とか分かるの?え、まずいんじゃないこれ。
しかもかぜ引いてるのに、あの子何考えてるの?
帰ってこなくて探してもみつからなくて、見つかった頃にはやせ細った姿とか、下手したら死体、白骨化したものとか…
洒落にならないんだけどこれ、どうしよう。
「帰ってこなかったらどうしよう。かぜ引いてるのにあの子何考えてるのよ」
「落ち着きなさいよ、心配しなくても帰ってくるわよ」
「でも、初めてここに来るのよ?地理とか知らないんだし、まずいでしょ!」
「はいはい、分かったわかった!今から晩御飯の準備するからあんたも手伝いなさい!」
「えぇ…」
無理やり立たされると、背中を押されて台所まで強制的に移動させられた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
紅白ってなんか、料理がうまい。
なんというか、手際がいいし、味付けもいい。
ただぐーたらしてて、掃除とお茶を飲むことと寝ることが仕事だと思ってた。
あ、異変解決はついででやってる感じ。
まぁ、それはただ私のイメージでしかなかったんだけどこれは驚いた。
そんな、どうでもいい事を考えていると、台所に付いている戸に何かが当たるような音が聞こえる。
しかも1回じゃなくて2回、3回と連続で続くので、これは見に行かざるを得ない。
「あぁ、私が見に行くわ」
紅白がそう返したので、私は任せることにする。
あぁ、何かこのじゃがいも上手く皮剝けないんだけど。
この包丁がだめなのね、全く、いい包丁を買うこともできないのかこの神社は。
「ひっ!?」
突然紅白が小さい悲鳴を上げるので、何事かと戸の方に目をやる。
「んにゃん」
あ、帰ってきたんだ。
え?じゃあなんで紅白は悲鳴を上げたの?
…もしかして違う猫と喧嘩してけがしたの?それとも鴉とかにいじめられたり?
じょ、冗談じゃないわよ!
そんなことした奴いたらぼっこぼこにしてやるわ…
そう思いながら、私は戸の方へと歩を進めて、黒猫の方を見ると…
「んにゃんぅ」
あぁ、またですか、また捕ってきたんですね。
地底じゃいないもんね、鳥。
まぁ、地獄烏ならいるけど、あそこは熱すぎるし遠いから行かないもんね。
口に咥えられた雀を私に見せびらかすようにしている黒猫の頭を撫でる。
「えらかったねぇ。あんた病気なんだから寝てなさい」
「にゃぉ」
素直に黒猫は短く返すと、雀をぽいと私の前に放り捨てて奥の部屋へと帰って行った。
「これ供養しといて。あの猫下手したら毎日狩ってくるかもしれないから大変かもしれないけど」
「え、それくらいあんたがしなさいよ」
「私はただの妖怪だから供養なんてできないわ、残念ね」
「ぐむむ…」
とりあえず、狩られた雀を家の中にいれてやり、夕ご飯の調理を再開することにした。
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夕ご飯も終わり、黒猫にも薬混じりの餌を食べさせてやった。
薬混じっててもお構いなしに食べてたってことは味には変わりないんだろうか。
凄い技術の進歩だなぁと感嘆するばかりだった。
そして、夜も深くなり、そろそろ睡眠を取ろうとした時だった。
黒猫が私の方にゆっくりと歩み寄ると、私の隣で丸くなった。
「寒いの?」
その問いかけに対して返事はない。
ただこちらをじっと見ながら、丸まっているだけだった。
「ねぇ、私は妖怪で、あんたは黒猫。生きる時間が違うの、わかる?」
「にゃぁん」
本当に理解してるのかわからないけど、つい可笑しくて笑ってしまう。
私は黒猫の頭をそっと撫でてやる。
「そんな貴重な短い時間をこんな私と過ごしてもいいの?自由に自然の中で暮らしてもいいのよ?」
そう問うと、喉をゴロゴロと鳴らし、頭を擦りつけるようにして私の顔を擽る。
それは、私と一緒にいたいんだと、そう答えているように私は思った。
私は、黒猫が愛らしくてたまらなかった。
「ありがと」
短く礼を言うと、それに返すように
「くしゅん」
小さくくしゃみをした。
「もう、かぜ引いてるんだから寝てなさい」
それ以上、猫は返事をせず、寝息を立て始めた。
「…早く良くなりなさいよ」
私はそう小さく呟くと、気づかぬうちに、夢の中へと潜り込んでいた。
パルスィ中毒が抜けません!!
しかし、いつの間にか買ってたんだ猫の本、そんな所もステキだよパルスィさん、いやマジで惚れてしまいそう。
あと、だって猫だもんが妙に懐かしい、この一言で全てが許されるのはどこの世界でも同じなのですねw
続編、ホント有難う!!……出来たらまだまだ続いて欲しいなー
>「これ成仏しといて。あの猫下手したら毎日狩ってくるかもしれないから大変かもしれないけど」
ここ、成仏じゃなくて供養では?
評価ありがとうございます!
そうですかね?
自分は書いているだけなので分からないのですが…可愛くなってるのなら嬉しいですw
猫だからなんか許しちゃうんですよねぇ、可愛さって罪。
またネタが浮かんだら書かせていただきますね。
>2
評価ありがとうございます!
猫のこと書いているうちにだんだん猫がいとおしくてたまらなくなってきました。
指摘ありがとうございます!変えておきました!
続きは読みたいけど、もし作者さんが潮時を感じた時はすっぱりやめたほうがいいと思う。
書きたくなったときに、続編なり番外編なり書けばいいさ。
猫より可愛いパルスィが妬ましい。
評価ありがとうございます。
ネタがまた浮かんだら続きを書かせていただきますね。
>oblivion 様
評価ありがとうございます。
パルスィと一緒に暮らせる猫、羨ましいですよね…
>10
評価ありがとうございます。
まぁ、時間が経てばネタってのはきっと浮かんでくると思います。
なので、それまでは家の猫と戯れることにします。
>椿 様
評価ありがとうございます。
パルスィってもう、病んでるのか可愛らしいのしかない気がするのはきっと作者の偏見です。
>15
評価ありがとうございます。
猫もパルスィも可愛いよ、うん。
やはり猫は偉大ですね!
評価ありがとうございます。
やっぱり、ずっと一緒にいると愛着がわいてくるものですからね。
猫には敵わない…
猫自体も好きなので、続いて欲しい作品です、うんw
評価ありがとうございます。
もうなんだかんだ言ってパルスィの頭の中は猫でいっぱいなんですよね。
ネタが思い浮かんだら書かせていただきます。
別れを考えちゃあ……いかんよなぁ
評価ありがとうございます。
別れを考えてたら楽しめるものも楽しめなくなりますからね!
パルスィさんは本当に理想的なツンデレだな。
猫も可愛い。パルスィさんも可愛い。もう俺にどうしろって言うんだ!
評価ありがとうございます。
何にびっくりしたか想像もできませんわ。
とりあえず悶えればいいと思います。