竹林の中にひっそりと存在する永遠亭。いつもはそれほど騒がしくなる事はないのだが、その朝は珍しくそこの姫君が一枚のビラを握りしめて騒いでいた。
輝夜「イナバー!イナバどこー?」
鈴仙「はいはい、ここに」
輝夜「イナバ!私、働くわ!」
鈴仙「・・・え?・・・ええ!?どうしたんですか急に。
こないだまで『絶対に働きたくないでござる』って叫んでたじゃないですか」
輝夜「私もいつまでもニート呼ばわりされている訳にはいかないのよ。
あなた達も周りに対して肩身が狭いでしょう」
鈴仙「うーん、特に気にしたことはないですが・・・」
輝夜「とにかく!何か仕事を探してきて!今日中よ!」
鈴仙「え~。
・・・ん?何ですかそのビラ」
輝夜「これ・・・は、何でもないわよ・・・。とにかく仕事探してきて!」
鈴仙「はいはい。じゃあ村の求人掲示板でも見てきますよ」
輝夜「早くねー」
せっかく働く気になったんだったら仕事を探すところから自分でやればいいのに、とぶつぶつ不平をもらしながら、鈴仙は村へ降りた。
村の求人掲示板には思った以上の求人広告が貼られていた。あるものをメモしようと思っていた鈴仙だったがあまりの量に面倒くさくなり、貼られていた広告を全てはがして持って帰ることにした。
鈴仙「これなら就職競争率も低くなるし、私ったら天才じゃん。
姫様~、求人広告持ってきましたよー」
輝夜「お、早かったわね。よし、早速片っ端から読んでいって」
鈴仙「おや、やる気十分ですね。じゃあいきますよ。えっと・・・『考古学研究助手』」
輝夜「いきなりいいのが来たじゃない、知的な私にぴったりだわ。詳しく」
鈴仙「『人の家を発掘する作業で知的探求心も満たせる、
そんな高尚なお仕事を私と一緒に楽しみませんか 霧雨魔理沙』・・・。
これってアレ・・・ですよね」
輝夜「アレ・・・でしょうね」
鈴仙「・・・どうします?」
輝夜「悪いことは駄目よ。月から来た私が正義の味方に
『月に代わってお仕置き』なんてされたら洒落にならないわ」
鈴仙「・・・は?どこの世界の話ですか?」
輝夜「守矢神社の巫女が時々鏡に向かってそんなことを言っては、にたにた~っとしているそうよ。
文々。新聞に書いてあったわ」
鈴仙「え~。ああいう三流ゴシップ紙はろくな事が書いてないから目の毒だって
お師匠様が言ってましたよ。
輝夜「イナバも永琳も分かってないわね。一流紙には真実しか書いてないでしょ?
真実は一つしかないの。一つしかない真実なんて、どこにでも書いてあるわ。
でもあの新聞に書いてある事は、他のどこにも書いてないのよ。つまらない真実より面白い噂よ。
さ、次の求人を読んで」
鈴仙「うーん、なんか納得いきませんが・・・まぁいっか。次は・・・『ベビーシッター』」
輝夜「微笑ましいじゃないの。詳しく」
鈴仙「『業務内容は子供の世話。特別な作業は不要、身の回りのお世話をして下さい。
ベビーシッターと言っても相手はもう495歳なので、手がかかりません
(※ちょっとやそっとじゃ蒸発しない方歓迎) 十六夜咲夜』」
輝夜「・・・。495歳って言ったら多分妹の方よね・・・手がかからないって本当・・・?」
鈴仙「2時間に1回起きて夜泣きしたりはないと思いますよ。あれは大変らしいですからねぇ」
輝夜「代わりに2時間に1回スペカを発動するわけ?夜泣きよりタチが悪いじゃない」
鈴仙「うーん・・・でも姫様なら蒸発はしませんよね」
輝夜「しないかも知れないけど嫌よ。痛いのは嫌!次!」
鈴仙「駄目ですか?次は・・・『弁理士事務』」
輝夜「それっぽいじゃないの。詳しく」
鈴仙「『弁理士事務所での経理事務的な業務です。月収100万~、
あなたの頑張り次第でもっとあがります』」
輝夜「いいじゃんいいじゃん!高級取り!」
鈴仙「『(※実務に入る前に通信教育にて弁理士業務の勉強をしていただきます。
まずは教材(50万円)をお買い求め下さい) 因幡てゐ』」
輝夜「・・・」
鈴仙「・・・」
輝夜「次。」
鈴仙「後できつ~く叱っておきます。えっと次は、『庭園掃除』」
輝夜「誰にでもできそうじゃない。詳しく」
鈴仙「『幅二百由旬ある白玉楼の庭掃除を手伝って下さい。ひたすら箒で掃く簡単なお仕事です。
一日16時間労働で年中無休、しかも幽々子様はそんな事お構いなしに
次々とくだらない仕事を言いつけてくるし、そうこうしてる間にまた葉っぱや花は落ちるし、
もう大変なんです(T_T)お願いだから誰か手伝って下さい 魂魄妖夢』」
輝夜「何その仕事・・・地獄じゃない・・・次!」
鈴仙「・・・あの姫様、本当に働く気あります?」
輝夜「あるわよ!でもさっきからろくな仕事がないじゃない」
鈴仙「姫様。仕事というのは多かれ少なかれ辛いものなんですよ」
輝夜「むぅ・・・」
鈴仙「えり好みしてたら仕事なんてないですよ?」
輝夜「うーん・・・よし、じゃあ次にイナバが読んだ仕事に決めるわ」
鈴仙「え、まだ聞いてもいないのにですか?何もそこまで・・・」
輝夜「それくらいしないと、いつまで経っても決まらないのよ。姫に二言はない!」
鈴仙「そうですか?じゃあ読みますよ。えっと。
あ・・・」
輝夜「何?」
鈴仙「・・・姫様、本当にこの仕事でいいんですよね?」
輝夜「いいわよ」
鈴仙「決める前にまずは聞いてみませんか?」
輝夜「くどい!姫に二言はないわ!」
鈴仙「そうですか?じゃあ読みますよ。依頼人は藤原の」
輝夜「ちょっ」
鈴仙「姫に何言がないんでしたっけ?」
輝夜「二・・・」
鈴仙「よろしい。読みますよ。その前に、私は書いてあることを読むだけですからね?いいですね?
『蓬莱山輝夜の抹殺:根暗で乱暴でいけ好かない性格ブスをこの世から消し去る
とっても気分がさわやかになるお仕事です。社会のゴミはゴミ箱へ!
(※永遠亭の内部事情に詳しい方歓迎します) 藤原妹紅』」
輝夜「ブチッ」
鈴仙「いやだから私は書いてあることを読んだだけで・・・」
輝夜「誰が根暗よ誰が乱暴よ誰が性格ブスよ!!!社会のゴミはあいつの方でしょうが!!!」
鈴仙「ちょ、いたた、髪だけは・・・きゃあぁ、毛並みが乱れる~(;>x<)
まったく、乱暴ってとこは合ってるじゃないですかぁ。
・・・で、この仕事に決めるんでしたっけ?」
輝夜「いやそれはごにょごにょ・・・」
鈴仙「ん?ウサギの耳にも聞こえませんよ?」
輝夜「・・・姫に・・・
姫に二言はない!今から面接に行ってくる!」
鈴仙「え、ちょっと本気ですか?仕事内容分かってます?
ちょっとからかっただけですよ、ホラまだこんなに求人はありますし」
輝夜「ええい、二言はないったらない!」
鈴仙「ええええええええええ」
引くに引けなくなり、輝夜は面接へ出かけた。何でこんな事になってしまったのだろうか。よりによって一番嫌いな奴の下で、自分を抹殺するために働こうだなんて。だが働かなければならないという事実は毅然として輝夜の前に立ちはだかっている。
そこで輝夜は、考えるのを止めた。
限りなく永遠に近い時間を生きていると、数多くのどうしようもない困難に直面することになる。そんな時に永琳の様に知力で切り抜けることができない輝夜は、逆に思考放棄する習性を身につけていた。要するに単なる現実逃避なのだが、永琳はこれを「無念無想モード」と呼んで畏れている。
こうなった時の輝夜は強い。
妹紅「求人広告を出したはいいけど、希望者は来るのかしら。あ、茶柱」
輝夜「ごめんくださ~い」
妹紅「お、来た来た。・・・って何でアンタが来んのよ!?」
輝夜「えっと、求人の広告を見て来たんですけど」
妹紅「え?え?求人の広告って?」
輝夜「これです。『蓬莱山輝夜の抹殺』。永遠亭の内部事情に詳しい方歓迎ですよね。
私ちょっと詳しいですよ」
妹紅「いやまぁ詳しいだろうけども」
輝夜「まずは面接をお願いします」
妹紅「いやおかしいでしょ」
輝夜「そう言わずに面接だけでも」
妹紅「いや不可能でしょ」
輝夜「そう言わずに面接だけでも」
妹紅「いや何よりアンタに払う給料なんてびた一文ないし」
輝夜「そう言わずに面接だけでも」
妹紅「ああもう分かったわよ!面接で落ちたら諦めるのね?じゃあそこに座って!」
輝夜「はい、失礼します。あ、これ履歴書です。蓬莱山輝夜です、よろしくお願いします」
妹紅「何この履歴書。誕生の次が現在って、アンタ根っからのニートなのね・・・」
輝夜「混乱極まるこの現代社会、学歴なんて関係ないと思います!!」
妹紅「はいはいそうですか。えっと・・・じゃあまず、この仕事を希望した理由は?」
輝夜「以前から蓬莱山輝夜を抹殺する仕事に興味があって、」
妹紅「すとおおおおおおおっぷ!!!」
輝夜「ほえ?」
妹紅「何?何を言っているんだお前は?
まずその絵に描いたような紋切り型の答えは何?
何かのマニュアル本でも読んだ?」
輝夜「あ、ばれました?実はここに来るまでにこれを読んで・・・あ、趣味は読書です(^o^)」
妹紅「・・・。どれどれ、『100%合格する楽勝就職面接術 チルノ著』。
って、こんなもん信じるなっ!」
輝夜「えー、そうですか?結構なるほどと思うことも書いてありましたよ」
妹紅「全く・・・もうさっきの質問はいいわ。私があなたを雇うことで、私にどんなメリットがありますか?」
輝夜「私は大学の頃サークルで蓬莱山輝夜の抹殺に成功した経験があるのでそのノウハウを、」
妹紅「待て待て待てえええええええぃ」
輝夜「もう、何ですかいちいち」
妹紅「蓬莱山輝夜の抹殺に成功した?」
輝夜「はい。その時の達成感が、」
妹紅「じゃアンタ誰よ」
輝夜「やだ、最初に名乗ったじゃないですか。履歴書にも書いてあるでしょ?蓬莱山輝夜です」
妹紅「いやいやいやいやいや」
輝夜「??何なんですか一体」
妹紅「あぁ、でもこいつなら死んでもまた・・・いやでもそれ以前にも色々問題が・・・
えっと、どこから行こう・・・まずさっき何て言った?『大学の頃サークルで』?」
輝夜「はい」
妹紅「アンタの履歴書真っ白なんだけど?」
輝夜「ああ、それは・・・ホラ、このご時勢、学歴なんて自慢するものじゃないじゃないですか」
妹紅「いや履歴書には書けよ・・・どこ大学?」
輝夜「え
・・・・・・ぴょんぴょん大学」
妹紅「んな大学あるかっ!目をそらすな!」
輝夜「混乱極まるこの現代社会、学歴なんて関係ないと思います!!」
妹紅「そういう事を言っているのではなく・・・」
輝夜「それに私、『輝夜さんはインテリ系美人だね』ってよく言われるんです!」
妹紅「聞いてない聞いてない」
輝夜「そうそう、確かあなたのお父上も私を口説こうとして、」
妹紅「おいその話をそれ以上続けたら今ここで私が殺す」
輝夜「とにかく!私は蓬莱山輝夜を抹殺するこの仕事がしたいんです!この情熱は誰にも負けません!!」
妹紅「それ!!そこなのよ、そもそもおかしいのは!アンタ蓬莱山輝夜よね?」
輝夜「はい。だから履歴書に、」
妹紅「で、この仕事が何をする仕事か分かってる?」
輝夜「蓬莱山輝夜を抹殺するお仕事ですよね」
妹紅「蓬莱山輝夜が蓬莱山輝夜を抹殺するっておかしいでしょ!?」
輝夜「・・・ああなんだ、さっきから様子がおかしいと思ってたら、そんな小さい事を気にしてたんですか?」
妹紅「小さいってね、アンタ」
輝夜「私ね、一時期ザリガニにハマっていたことがあるんですよ」
妹紅「は?は?ザリガニ・・・?」
輝夜「あれ、知りませんか?ザリガニ。エビとカニを足して2で割った様な生き物で、」
妹紅「いやザリガニは知ってるから。話が唐突過ぎると言ってるの」
輝夜「ああ。まぁ最後まで聞いて下さいよ。
で、捕まえたザリガニ達を水槽に入れて楽しんでいたんですけど、
ある日突然飽きてエサもやらずに放置したんですよ。
そしたら数ヶ月後に見た時、どうなってたと思います?」
妹紅「死んでた」
輝夜「まぁ最終的にはそうなんですけど。
なんとザリガニ達は、エサがないならないで徐々に共食いして生き延びていたんですよ!」
妹紅「はぁ。で?」
輝夜「分かりませんか?ザリガニはザリガニを殺すんです。
蓬莱山輝夜が蓬莱山輝夜を抹殺したっておかしくないでしょ?」
妹紅「・・・・・・
は?」
輝夜「え、分かりませんでしたか?
いいですか、私は一時期ザリガニにハマっていて、」
妹紅「いやその話はもういい。アンタとザリガニじゃ違うでしょうがと言いたい」
輝夜「まぁ!何て事を言うんですか!
ミミズだって、オケラだって、アメンボだって
みんなみんな、生きているのよ
友達なのよ!」
妹紅「ああ、もう・・・もう駄目だわ・・・。何?何なの?こいつは何を言っているの?
理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・
理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解・・・」
しばらくして永遠亭に帰ってきた輝夜を永琳が出迎えた。永琳は鈴仙から朝の出来事を聞いて、きっと輝夜が無念無想モードに突入したであろう事を予想していた。
永琳「姫、お帰りなさい。あの、何と言いますか・・・どうなりました?」
輝夜「受かったわ」
永琳「・・・は?」
輝夜「『もう合格でいいから今日は帰ってくれ』って青い顔で。
よく分からないけどいい気味だったし二重で嬉しかったわ」
永琳「妹紅さん、敵ながら可哀想に・・・。で、いつから出勤なんですか?」
輝夜「いえ、自宅勤務だそうよ。毎日自分で飲む味噌汁に入れる塩分を増やすのが仕事ですって。
それで月給1円」
永琳「それは・・・一応『抹殺』の利にはかなっているけど、
蓬莱の薬にそんな所帯じみた方法が通用するとでも思って・・・。
でも心中はお察しします・・・」
輝夜「さぁ、これで私もニートじゃないわ。永琳待っててね。
今にお金を貯めて、あなたにプレゼントを買ってあげるから。
ああ、今日は疲れたわ。ちょっと寝るから食事の支度が出来たら起こすようイナバに伝えて」
慌ただしく寝る支度をすると、輝夜はさっさと寝てしまった。何だったのかしら、と輝夜の寝顔を見つめる永琳は、その枕元に輝夜が握り締めていたビラを見つけた。
鈴仙が食事の支度を終えて輝夜を起こしに部屋に入ると、すやすやと眠る輝夜の傍らで永琳が座りこんで泣いていた。
鈴仙「え、お師匠様どうしたんですか?」
永琳「これ・・・」
永琳は鈴仙にビラを見せた。それは河童の未来水妖バザー、家電製品フェアの広告ビラだった。マッサージチェアの項目がぐりぐりと丸で囲まれている。
永琳「姫、私が最近肩凝りに悩まされているのを知っていたのね。
それでこれを買おうとして、いきなり働くだなんて・・・」
鈴仙「なるほど・・・それは感動的ですねぇ」
永琳「ウドンゲ、いい主君にめぐり合える幸せってそうはないものなのよ。
ああ、あの時姫と共に地上に残る事を選んだ私の判断に間違いはなかったわ・・・」
鈴仙「で、このマッサージチェアっていくらですか?」
永琳「フェア特価で20万円ね」
鈴仙「月給1円で何ヶ月かかります?」
永琳「20万ヶ月でしょうね」
鈴仙「それって何年です?」
永琳「ざっと1万7千年ね」
鈴仙「気の長い話ですねぇ」
永琳「河童は死んでるかも知れないわね。でも私はこれをもらえるまで姫に仕え続けるわ」
鈴仙「美談ですねぇ。
それにしても、そんな些細な事から永く仕えるべき主君を見極めてしまうなんて、
お師匠様って本当に
ちょろい女ですね」
永琳「ポカッ」
鈴仙「あいたっ(;x;)」
こうして輝夜はニートの汚名を返上した。だが自宅警備員の肩書きはもうしばらくついて回りそうだ。
了
輝夜「イナバー!イナバどこー?」
鈴仙「はいはい、ここに」
輝夜「イナバ!私、働くわ!」
鈴仙「・・・え?・・・ええ!?どうしたんですか急に。
こないだまで『絶対に働きたくないでござる』って叫んでたじゃないですか」
輝夜「私もいつまでもニート呼ばわりされている訳にはいかないのよ。
あなた達も周りに対して肩身が狭いでしょう」
鈴仙「うーん、特に気にしたことはないですが・・・」
輝夜「とにかく!何か仕事を探してきて!今日中よ!」
鈴仙「え~。
・・・ん?何ですかそのビラ」
輝夜「これ・・・は、何でもないわよ・・・。とにかく仕事探してきて!」
鈴仙「はいはい。じゃあ村の求人掲示板でも見てきますよ」
輝夜「早くねー」
せっかく働く気になったんだったら仕事を探すところから自分でやればいいのに、とぶつぶつ不平をもらしながら、鈴仙は村へ降りた。
村の求人掲示板には思った以上の求人広告が貼られていた。あるものをメモしようと思っていた鈴仙だったがあまりの量に面倒くさくなり、貼られていた広告を全てはがして持って帰ることにした。
鈴仙「これなら就職競争率も低くなるし、私ったら天才じゃん。
姫様~、求人広告持ってきましたよー」
輝夜「お、早かったわね。よし、早速片っ端から読んでいって」
鈴仙「おや、やる気十分ですね。じゃあいきますよ。えっと・・・『考古学研究助手』」
輝夜「いきなりいいのが来たじゃない、知的な私にぴったりだわ。詳しく」
鈴仙「『人の家を発掘する作業で知的探求心も満たせる、
そんな高尚なお仕事を私と一緒に楽しみませんか 霧雨魔理沙』・・・。
これってアレ・・・ですよね」
輝夜「アレ・・・でしょうね」
鈴仙「・・・どうします?」
輝夜「悪いことは駄目よ。月から来た私が正義の味方に
『月に代わってお仕置き』なんてされたら洒落にならないわ」
鈴仙「・・・は?どこの世界の話ですか?」
輝夜「守矢神社の巫女が時々鏡に向かってそんなことを言っては、にたにた~っとしているそうよ。
文々。新聞に書いてあったわ」
鈴仙「え~。ああいう三流ゴシップ紙はろくな事が書いてないから目の毒だって
お師匠様が言ってましたよ。
輝夜「イナバも永琳も分かってないわね。一流紙には真実しか書いてないでしょ?
真実は一つしかないの。一つしかない真実なんて、どこにでも書いてあるわ。
でもあの新聞に書いてある事は、他のどこにも書いてないのよ。つまらない真実より面白い噂よ。
さ、次の求人を読んで」
鈴仙「うーん、なんか納得いきませんが・・・まぁいっか。次は・・・『ベビーシッター』」
輝夜「微笑ましいじゃないの。詳しく」
鈴仙「『業務内容は子供の世話。特別な作業は不要、身の回りのお世話をして下さい。
ベビーシッターと言っても相手はもう495歳なので、手がかかりません
(※ちょっとやそっとじゃ蒸発しない方歓迎) 十六夜咲夜』」
輝夜「・・・。495歳って言ったら多分妹の方よね・・・手がかからないって本当・・・?」
鈴仙「2時間に1回起きて夜泣きしたりはないと思いますよ。あれは大変らしいですからねぇ」
輝夜「代わりに2時間に1回スペカを発動するわけ?夜泣きよりタチが悪いじゃない」
鈴仙「うーん・・・でも姫様なら蒸発はしませんよね」
輝夜「しないかも知れないけど嫌よ。痛いのは嫌!次!」
鈴仙「駄目ですか?次は・・・『弁理士事務』」
輝夜「それっぽいじゃないの。詳しく」
鈴仙「『弁理士事務所での経理事務的な業務です。月収100万~、
あなたの頑張り次第でもっとあがります』」
輝夜「いいじゃんいいじゃん!高級取り!」
鈴仙「『(※実務に入る前に通信教育にて弁理士業務の勉強をしていただきます。
まずは教材(50万円)をお買い求め下さい) 因幡てゐ』」
輝夜「・・・」
鈴仙「・・・」
輝夜「次。」
鈴仙「後できつ~く叱っておきます。えっと次は、『庭園掃除』」
輝夜「誰にでもできそうじゃない。詳しく」
鈴仙「『幅二百由旬ある白玉楼の庭掃除を手伝って下さい。ひたすら箒で掃く簡単なお仕事です。
一日16時間労働で年中無休、しかも幽々子様はそんな事お構いなしに
次々とくだらない仕事を言いつけてくるし、そうこうしてる間にまた葉っぱや花は落ちるし、
もう大変なんです(T_T)お願いだから誰か手伝って下さい 魂魄妖夢』」
輝夜「何その仕事・・・地獄じゃない・・・次!」
鈴仙「・・・あの姫様、本当に働く気あります?」
輝夜「あるわよ!でもさっきからろくな仕事がないじゃない」
鈴仙「姫様。仕事というのは多かれ少なかれ辛いものなんですよ」
輝夜「むぅ・・・」
鈴仙「えり好みしてたら仕事なんてないですよ?」
輝夜「うーん・・・よし、じゃあ次にイナバが読んだ仕事に決めるわ」
鈴仙「え、まだ聞いてもいないのにですか?何もそこまで・・・」
輝夜「それくらいしないと、いつまで経っても決まらないのよ。姫に二言はない!」
鈴仙「そうですか?じゃあ読みますよ。えっと。
あ・・・」
輝夜「何?」
鈴仙「・・・姫様、本当にこの仕事でいいんですよね?」
輝夜「いいわよ」
鈴仙「決める前にまずは聞いてみませんか?」
輝夜「くどい!姫に二言はないわ!」
鈴仙「そうですか?じゃあ読みますよ。依頼人は藤原の」
輝夜「ちょっ」
鈴仙「姫に何言がないんでしたっけ?」
輝夜「二・・・」
鈴仙「よろしい。読みますよ。その前に、私は書いてあることを読むだけですからね?いいですね?
『蓬莱山輝夜の抹殺:根暗で乱暴でいけ好かない性格ブスをこの世から消し去る
とっても気分がさわやかになるお仕事です。社会のゴミはゴミ箱へ!
(※永遠亭の内部事情に詳しい方歓迎します) 藤原妹紅』」
輝夜「ブチッ」
鈴仙「いやだから私は書いてあることを読んだだけで・・・」
輝夜「誰が根暗よ誰が乱暴よ誰が性格ブスよ!!!社会のゴミはあいつの方でしょうが!!!」
鈴仙「ちょ、いたた、髪だけは・・・きゃあぁ、毛並みが乱れる~(;>x<)
まったく、乱暴ってとこは合ってるじゃないですかぁ。
・・・で、この仕事に決めるんでしたっけ?」
輝夜「いやそれはごにょごにょ・・・」
鈴仙「ん?ウサギの耳にも聞こえませんよ?」
輝夜「・・・姫に・・・
姫に二言はない!今から面接に行ってくる!」
鈴仙「え、ちょっと本気ですか?仕事内容分かってます?
ちょっとからかっただけですよ、ホラまだこんなに求人はありますし」
輝夜「ええい、二言はないったらない!」
鈴仙「ええええええええええ」
引くに引けなくなり、輝夜は面接へ出かけた。何でこんな事になってしまったのだろうか。よりによって一番嫌いな奴の下で、自分を抹殺するために働こうだなんて。だが働かなければならないという事実は毅然として輝夜の前に立ちはだかっている。
そこで輝夜は、考えるのを止めた。
限りなく永遠に近い時間を生きていると、数多くのどうしようもない困難に直面することになる。そんな時に永琳の様に知力で切り抜けることができない輝夜は、逆に思考放棄する習性を身につけていた。要するに単なる現実逃避なのだが、永琳はこれを「無念無想モード」と呼んで畏れている。
こうなった時の輝夜は強い。
妹紅「求人広告を出したはいいけど、希望者は来るのかしら。あ、茶柱」
輝夜「ごめんくださ~い」
妹紅「お、来た来た。・・・って何でアンタが来んのよ!?」
輝夜「えっと、求人の広告を見て来たんですけど」
妹紅「え?え?求人の広告って?」
輝夜「これです。『蓬莱山輝夜の抹殺』。永遠亭の内部事情に詳しい方歓迎ですよね。
私ちょっと詳しいですよ」
妹紅「いやまぁ詳しいだろうけども」
輝夜「まずは面接をお願いします」
妹紅「いやおかしいでしょ」
輝夜「そう言わずに面接だけでも」
妹紅「いや不可能でしょ」
輝夜「そう言わずに面接だけでも」
妹紅「いや何よりアンタに払う給料なんてびた一文ないし」
輝夜「そう言わずに面接だけでも」
妹紅「ああもう分かったわよ!面接で落ちたら諦めるのね?じゃあそこに座って!」
輝夜「はい、失礼します。あ、これ履歴書です。蓬莱山輝夜です、よろしくお願いします」
妹紅「何この履歴書。誕生の次が現在って、アンタ根っからのニートなのね・・・」
輝夜「混乱極まるこの現代社会、学歴なんて関係ないと思います!!」
妹紅「はいはいそうですか。えっと・・・じゃあまず、この仕事を希望した理由は?」
輝夜「以前から蓬莱山輝夜を抹殺する仕事に興味があって、」
妹紅「すとおおおおおおおっぷ!!!」
輝夜「ほえ?」
妹紅「何?何を言っているんだお前は?
まずその絵に描いたような紋切り型の答えは何?
何かのマニュアル本でも読んだ?」
輝夜「あ、ばれました?実はここに来るまでにこれを読んで・・・あ、趣味は読書です(^o^)」
妹紅「・・・。どれどれ、『100%合格する楽勝就職面接術 チルノ著』。
って、こんなもん信じるなっ!」
輝夜「えー、そうですか?結構なるほどと思うことも書いてありましたよ」
妹紅「全く・・・もうさっきの質問はいいわ。私があなたを雇うことで、私にどんなメリットがありますか?」
輝夜「私は大学の頃サークルで蓬莱山輝夜の抹殺に成功した経験があるのでそのノウハウを、」
妹紅「待て待て待てえええええええぃ」
輝夜「もう、何ですかいちいち」
妹紅「蓬莱山輝夜の抹殺に成功した?」
輝夜「はい。その時の達成感が、」
妹紅「じゃアンタ誰よ」
輝夜「やだ、最初に名乗ったじゃないですか。履歴書にも書いてあるでしょ?蓬莱山輝夜です」
妹紅「いやいやいやいやいや」
輝夜「??何なんですか一体」
妹紅「あぁ、でもこいつなら死んでもまた・・・いやでもそれ以前にも色々問題が・・・
えっと、どこから行こう・・・まずさっき何て言った?『大学の頃サークルで』?」
輝夜「はい」
妹紅「アンタの履歴書真っ白なんだけど?」
輝夜「ああ、それは・・・ホラ、このご時勢、学歴なんて自慢するものじゃないじゃないですか」
妹紅「いや履歴書には書けよ・・・どこ大学?」
輝夜「え
・・・・・・ぴょんぴょん大学」
妹紅「んな大学あるかっ!目をそらすな!」
輝夜「混乱極まるこの現代社会、学歴なんて関係ないと思います!!」
妹紅「そういう事を言っているのではなく・・・」
輝夜「それに私、『輝夜さんはインテリ系美人だね』ってよく言われるんです!」
妹紅「聞いてない聞いてない」
輝夜「そうそう、確かあなたのお父上も私を口説こうとして、」
妹紅「おいその話をそれ以上続けたら今ここで私が殺す」
輝夜「とにかく!私は蓬莱山輝夜を抹殺するこの仕事がしたいんです!この情熱は誰にも負けません!!」
妹紅「それ!!そこなのよ、そもそもおかしいのは!アンタ蓬莱山輝夜よね?」
輝夜「はい。だから履歴書に、」
妹紅「で、この仕事が何をする仕事か分かってる?」
輝夜「蓬莱山輝夜を抹殺するお仕事ですよね」
妹紅「蓬莱山輝夜が蓬莱山輝夜を抹殺するっておかしいでしょ!?」
輝夜「・・・ああなんだ、さっきから様子がおかしいと思ってたら、そんな小さい事を気にしてたんですか?」
妹紅「小さいってね、アンタ」
輝夜「私ね、一時期ザリガニにハマっていたことがあるんですよ」
妹紅「は?は?ザリガニ・・・?」
輝夜「あれ、知りませんか?ザリガニ。エビとカニを足して2で割った様な生き物で、」
妹紅「いやザリガニは知ってるから。話が唐突過ぎると言ってるの」
輝夜「ああ。まぁ最後まで聞いて下さいよ。
で、捕まえたザリガニ達を水槽に入れて楽しんでいたんですけど、
ある日突然飽きてエサもやらずに放置したんですよ。
そしたら数ヶ月後に見た時、どうなってたと思います?」
妹紅「死んでた」
輝夜「まぁ最終的にはそうなんですけど。
なんとザリガニ達は、エサがないならないで徐々に共食いして生き延びていたんですよ!」
妹紅「はぁ。で?」
輝夜「分かりませんか?ザリガニはザリガニを殺すんです。
蓬莱山輝夜が蓬莱山輝夜を抹殺したっておかしくないでしょ?」
妹紅「・・・・・・
は?」
輝夜「え、分かりませんでしたか?
いいですか、私は一時期ザリガニにハマっていて、」
妹紅「いやその話はもういい。アンタとザリガニじゃ違うでしょうがと言いたい」
輝夜「まぁ!何て事を言うんですか!
ミミズだって、オケラだって、アメンボだって
みんなみんな、生きているのよ
友達なのよ!」
妹紅「ああ、もう・・・もう駄目だわ・・・。何?何なの?こいつは何を言っているの?
理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・
理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解できない・・・理解・・・」
しばらくして永遠亭に帰ってきた輝夜を永琳が出迎えた。永琳は鈴仙から朝の出来事を聞いて、きっと輝夜が無念無想モードに突入したであろう事を予想していた。
永琳「姫、お帰りなさい。あの、何と言いますか・・・どうなりました?」
輝夜「受かったわ」
永琳「・・・は?」
輝夜「『もう合格でいいから今日は帰ってくれ』って青い顔で。
よく分からないけどいい気味だったし二重で嬉しかったわ」
永琳「妹紅さん、敵ながら可哀想に・・・。で、いつから出勤なんですか?」
輝夜「いえ、自宅勤務だそうよ。毎日自分で飲む味噌汁に入れる塩分を増やすのが仕事ですって。
それで月給1円」
永琳「それは・・・一応『抹殺』の利にはかなっているけど、
蓬莱の薬にそんな所帯じみた方法が通用するとでも思って・・・。
でも心中はお察しします・・・」
輝夜「さぁ、これで私もニートじゃないわ。永琳待っててね。
今にお金を貯めて、あなたにプレゼントを買ってあげるから。
ああ、今日は疲れたわ。ちょっと寝るから食事の支度が出来たら起こすようイナバに伝えて」
慌ただしく寝る支度をすると、輝夜はさっさと寝てしまった。何だったのかしら、と輝夜の寝顔を見つめる永琳は、その枕元に輝夜が握り締めていたビラを見つけた。
鈴仙が食事の支度を終えて輝夜を起こしに部屋に入ると、すやすやと眠る輝夜の傍らで永琳が座りこんで泣いていた。
鈴仙「え、お師匠様どうしたんですか?」
永琳「これ・・・」
永琳は鈴仙にビラを見せた。それは河童の未来水妖バザー、家電製品フェアの広告ビラだった。マッサージチェアの項目がぐりぐりと丸で囲まれている。
永琳「姫、私が最近肩凝りに悩まされているのを知っていたのね。
それでこれを買おうとして、いきなり働くだなんて・・・」
鈴仙「なるほど・・・それは感動的ですねぇ」
永琳「ウドンゲ、いい主君にめぐり合える幸せってそうはないものなのよ。
ああ、あの時姫と共に地上に残る事を選んだ私の判断に間違いはなかったわ・・・」
鈴仙「で、このマッサージチェアっていくらですか?」
永琳「フェア特価で20万円ね」
鈴仙「月給1円で何ヶ月かかります?」
永琳「20万ヶ月でしょうね」
鈴仙「それって何年です?」
永琳「ざっと1万7千年ね」
鈴仙「気の長い話ですねぇ」
永琳「河童は死んでるかも知れないわね。でも私はこれをもらえるまで姫に仕え続けるわ」
鈴仙「美談ですねぇ。
それにしても、そんな些細な事から永く仕えるべき主君を見極めてしまうなんて、
お師匠様って本当に
ちょろい女ですね」
永琳「ポカッ」
鈴仙「あいたっ(;x;)」
こうして輝夜はニートの汚名を返上した。だが自宅警備員の肩書きはもうしばらくついて回りそうだ。
了
でも内容的には文句なしに面白かった。
てゐの詐欺兎ぶりと姫様のダメさ加減がステキすぎるw
輝夜のニートネタとか、創想話では今更感の漂う2次設定をあえて使ったのは賛否分かれると思いますが、
個人的にはまあこれくらいギャグに特化していれば許容範囲かと。
話は確かに面白かったですが、やっぱりプロットじゃなく普通に話を読みたいですね。。。
特に後半は疾走感がありましたね。
しかし、やはりこれはまだ作品の形をとれていないように思います。
もっと勉強して、ちゃんとした『小説(SS)』を書けるようになれば、もっと多くの方に読んで頂けるようになれるでしょう。
期待しています。
色々ツッコミたいところはあるけど、鈴仙がなんだか良い感じですね。
ザリガニの例え話も危うく納得しかけてしまったッ
個人的には台詞の前に人物名が無いと、本当に誰が会話しているのか理解できないレベルの作品が少なからず存在し、
それらを読んで閉口してきた過去を持つ読者が『またかよオイ』的に拒絶反応を示すのではないかと考えております。
翻ってこの作品。率直な感想を言わせてもらうならば、
「これ人物名いらなくネ? これだけきちっとキャラを書き分けているのに何故そんなリスクを?」
てな感じでしょうか。
この作品が一対一の会話の積み重ねで構成されているから喋っているキャラが判り易いってのもあるでしょう。
ただ、作者様くらい会話文の上手な方ならば100%会話で、しかも四人の登場人物が入り乱れて話していたと仮定しても
やっぱり人物名を必要としないレベルのSSを書かれるんじゃないかと思うのです。決して買被りではなく。
後書きで落語という単語が出てきますよね。自分も一時期随分とハマりまして、速記本をかなりの数買込みました。
その中でも面白いと感じたものは、会話の文頭に大家のでこぼこや若旦那、八っつぁんと書かれているものよりも
小説形式の本に多かったと記憶しております。
……自分で言うのもなんですが、なんと支離滅裂で実のないコメントなのだ。
こうなったらスパッと一行でまとめます。
「台本形式はやっぱり馴染めない。でもこのお話は大好きだ」 以上!
輝夜ちゃんはいい子
わざとやってるなら上手すぎる