「ひ、ひゃぁぁぁ!」
永遠亭に叫びがこだまする。
「あれ、鈴仙。どうしたの?」
「てゐぃぃ…!」
私はニヤニヤしているてゐの顔を睨みつけた。
「ごめん、ごめん。この前落とし穴掘ったままだったの忘れてた」
…絶対嘘だ。
「それじゃあ、抜け出すの頑張ってー」
そんなことを言いながらくるりと背を向けるてゐ。
今だ!
「てゐ! 捕まえたわよ!」
軍隊仕込みの動きで落とし穴を脱出して、私はてゐに飛び掛る。
「うわっ! 抜けれたの!?」
よし、てゐは驚きのあまり硬直している。
このまま行けば…!
「…残念でした」
驚いたてゐの顔がニヤリという笑みに変わる。
え?
「なぁぁぁぁ!?」
てゐはひらり、と私をかわす。
その先に待っていたのはさっきより深い落とし穴だった…
「ま、元軍人っていっても、罠の達人の私にはかなわないね!
それじゃあせいぜい頑張って抜け出してね!」
「うぅ、何でこんな目に…」
あはははは、という笑い声が少しずつ遠ざかっていく。
その声を聞きながら私は一人涙を流した…
「あら、どうしたのウドンゲ?」
「そ、その声は師匠!」
上に私の師匠、八意永琳の微笑んだ顔が見える。
「訳はあとで説明するので、とりあえずここから出るのを手伝ってもらえませんかぁ!?」
「はいはい、助けてあげるから泣かないの」
師匠が持ってきたロープのおかげで私は何とか外に出ることが出来た…
「ふぅん、今日も仲がいいわね」
「どこがですか…私はいじめられているとしか思えないのですが」
お茶を飲みながら訳を説明していたら笑われた。
「まあまあ落ち着いて。喧嘩するほど仲がいいって言葉があるでしょ?」
「それはそうですが…もう喧嘩ってレベルじゃないですよ。
落とし穴だって一つ間違えば大怪我レベルですよ?」
「まあ、最近のてゐはおかしいわね」
確かに最近のてゐはおかしい。
前から罠を仕掛けたりいたずらをしたりするのはよくあったことだが、最近はその回数が多くなってきた。
しかもその大半が私に対してである。
「もしかして、いまさら私が大嫌いになったとか!?」
「…さあね。私にはわからないわ」
「そういえばてゐはどこに?」
「さっき出かけてくるとか言って外に出て行ったわよ」
…また道行く人にいたずらでもしに行ったのだろうか。
しかしこれでしばらくはゆっくりできる。
あぁ、お茶がおいしい。
「ふぅ、これで集まったね…」
私、てゐは鈴仙を罠にはめたあと、永遠亭から少し離れた花畑に来ていた。
「これくらいでいいのかしら?」
「ええ、これで十分よ。ありがとうね幽香」
「いえいえ。メディスン、もういいって」
「え、そうなの?」
メディスンはそう言いながら手に持っていた花の束を地面に降ろした。
私はここに住む幽香とメディスンに手伝ってもらって、いろいろな花を集めていた。
「二人とも、ありがとうね!」
私は二人に別れを告げた。
「それじゃあ、また今度」
「さようなら!」
幽香とメディスンは手を振ってくれた。
幽香とは昔から住んでいる妖怪仲間としてよく話したりする。
メディスンは…最近幽香の家に住み着き始めたらしい。
そんなわけで幽香の家に行くと彼女がお茶を出してくれる。
私の勘ではあの二人、付き合っているんじゃないかなぁ?
ま、人のことには口出ししたくないけどね。
「さて、この花…喜んでくれるかな?」
私はスキップしながら永遠亭に向かった。
「…てゐがいないとこんなにも静かだったのね」
永遠亭は静まり返っている。
師匠は仕事で部屋に引っ込んでしまったし姫様は寝ている。
てゐが居ないだけでこんなに静かになるなんて…
「ただいまー!」
あの声は。
「お帰り、てゐ」
「ただいま鈴仙」
ちょうどてゐが帰ってきた。
「あら、その花どうしたの?」
てゐは持っているかごに花をたくさんいれている。
「あ! こ、これは…なんでもないっ!」
そう叫んでダッシュで自分の部屋に引っ込んでしまった。
「…嫌な予感しかしないわ」
今度はあの花でどう攻めるつもりなのだろう。
大量の花で生き埋めにするとか?
考えただけで鳥肌が立つわ…
「あ、危なかった…」
ぜぇぜぇと息を荒げながら呟いた。
これからやろうとしていることがバレたら終わりだ。
この計画は慎重にやる必要があるね…
外は次第に赤くなってきた。
「さて、そろそろ夕食の準備でもしようかしら」
私は立ち上がって台所に行く。
「てゐー! 手伝ってくれない!?」
部屋にいるてゐに聞こえるように大声で叫んだ。
「わかったー!」
少し遅れてそんな声が聞こえる。
最初に味噌汁でも作ろう。
そう思って味噌の袋を取った時、てゐが台所に入ってきた。
「で、何を手伝えばいいの?」
「大根を切ってもらえる?」
「いいよー」
てゐは腕まくりをして、包丁と大根を手に取った。
私が味噌汁のほうに目を戻すと背後からとんとん、と大根を切る音が聞こえる。
しばらくは無言の作業が続いた。
「…あのさ」
「ん?」
沈黙をてゐの声が破る。
「鈴仙は私のことどう思ってる?」
「そうねぇ…いたずらはするし人に迷惑をかけるしいい子ではないわね」
「そう…」
なんだかてゐの声が落ち込んだように聞こえた気がする。
「でも、私は嫌いじゃないわね」
「え?」
「そりゃあ、迷惑をかけるかもしれないけどてゐがいるからこそ永遠亭がにぎやかになっているしね。
それにたまにはいいことをするし」
「鈴仙…」
「さて、仕事は終わったかしら?」
「あ、まだだ!」
慌てながら作業に戻るてゐ。
微笑みながら私も作業に集中することにした。
食事が終わって私は一人で食後のお茶を飲んでいた。
ちなみに師匠は仕事の続き、姫様とてゐは自分の部屋に戻っていった。
「…なんか私一人ってさびしいわね」
そう呟くとてゐの声が聞こえた。
「れいせーん! ちょっと部屋に来てくれない?」
「わかった!」
お茶を置いて私はてゐの部屋へと向かった。
入るわよ、と声をかけると中から入っていいよ! というてゐの声がした。
「失礼するわよ…って暗いわね。明かりくらいつけ…!?」
私が部屋に入ったとき、上から何かが降ってきた。
「わ! これ何!?」
得体の知れないものが振ってきたので私は尻餅をついて慌てた。
「ちょっとてゐ! 何よこれ!?」
そう叫ぶと明かりがついた。
「…え?」
私に降りかかってきたもの。
それは大量の花だった。
「これは一体…」
「鈴仙は花が好きだったよね?」
「え、まあ…」
てゐはゆっくりと近づいてきて私の目線に合わせて座り込んだ。
「だからね、今日花畑に行って取ってきたんだ」
「さっきの花は…これ?」
「うん、正解」
いたずらをしたときのようなニヤニヤ笑いではなく笑顔を見せるてゐ。
「実はね、私は鈴仙のことが好きだったんだ」
「え…」
「そりゃ、最初のころは大嫌いだったさ。
いきなりここにやってきて何様だ、ってね。
でも長い間一緒にいて気持ちが変わってきたよ」
「なんでなの?」
「わからないよ、そんなこと。
人を愛することに理由がなくちゃ駄目なんて決まってる?」
てゐはくっく、と苦笑する。
「…確かにそうね。私もてゐのこと好きよ。
まあ、いたずらはやめて欲しいとは思うけど」
「ふぅ、私からいたずらを取ったら何が残るのさ?」
「そうね。てゐからいたずらを取ってしまったらそれはもう別人よね!」
私とてゐは顔を見合わせて笑った。
「あのさ、今日はずっと私の側にいてもらってもいいかな?」
「もちろんよ。いつまでも側にいるわよ」
「今日だけでいいよ!」
「ふふ、照れたてゐもかわいいわね」
「…! は、はめたね!?」
「昼間のお返しよ」
笑いながら私は開いたままになっていた部屋の障子を閉める。
これから朝までは二人だけの時間が続く…
「まったく、あの子も素直になれないわね」
「しょうがないわよ。昔からそうだったじゃない」
二人から見えないところで永琳と輝夜は二人のやり取りを聞いていた。
「好きな人ほどいじめたくなる…ってことかしらね?」
「そうかもしれないわね。輝夜、私たちもあの二人みたいに今日は一緒に過ごしましょうか?」
「なっ! そんなことしなくてもいいわよ!」
「そう、だったら私は一人で眠りましょうかね」
「…やっぱり私も一緒に寝る」
「ふふふ、じゃあ一緒に寝ましょうか」
永琳は笑って自分の部屋に向かう。
「あ! 永琳待ってよ!」
慌ててその後を追う輝夜。
今日の永遠亭の夜は長くなりそうである。
それはともかく、涙目の鈴仙が目に浮かぶようで楽しめましたw
前回の小悪魔に続き、今回の鈴仙!!ご馳走さまでした。
双角さんのこんな恋愛系の話はなかなかツボに来るんですけど今回はなんか早いような気がしますね・・・
でも美味しいです。ありがとうございました。
基本となる物語はとっても良い話なのに、文章表現や話の流れが淡白すぎて味わいに欠けるように思います。
例えば、夕方になったことを示す描写が「外は次第に赤くなってきた。」だけでは、あまりにも物足りません。
せっかく竹林に佇む日本家屋という美しい舞台が用意されているのですから、それを存分に活かしてほしいなあと感じます。
「文章を飾る」「情景を描く」ことにもっともっと意識を注いでいただければ、いち読者として嬉しい限りです。
丹念に練られた文章というのは、物語の感動を何倍、何十倍にも増幅させてくれますよ。
また、文章が淡白になってしまうところも直していきまたいです。
まだまだ未熟者の私ですが、これからもどうかよろしくお願いします!
座布団1枚ですねw