――――てゐんげ! 策士なれーせんちゃんの巻――――
「う~~~……」
迷いの竹林に掘られた落とし穴の中から、悔しそうな声が響く。
いつもであればその穴の中は鈴仙の指定席であったのだが、今日は別の客が入っていた。
「くっ、この私としたことが……自分で掘った落とし穴に自分で落ちるなんて……」
落とし穴に落ちたのはてゐであった。鈴仙をおびき出し、いつものように穴へと誘導するつもりが、何を間違ったのか自分がその穴に落ちてしまったというわけだ。
そして、本来の自分の指定席、穴の上から落ちた者をニヤニヤしながら見下ろすポジションに、いつもは見下ろされる立場の鈴仙が居座っていた。
「てゐ~!だいじょうぶ~?助けてあげよっか?」
心配しているような口ぶりだが、表情は明らかにニヤついている。
てゐは精一杯の虚勢を張りつつ言い返した。
「へっ、私は飛べるんだ、こんな穴に落ちたところでどうってことないね!
それより覚悟しててよね、次はれーせんちゃんが落ちる番だからさ!」
「へえ、まだ私が落とし穴に『引っかかってる』と思ってたんだ。」
思わせぶりな鈴仙の言葉に、てゐは慌てながら聞き返す。
「ど、どういうことさ!」
「今日を見て分かったでしょ?私はこれでも元軍人、落とし穴なんて簡単に察知できるの。
それでもあえて気付かないフリをして落ちてあげてた。何故だと思う?」
「な……なんでよ。」
「私が引っかかった時のてゐの顔がかわいいからよ。」
ボンッ!!
その言葉を聞いた瞬間、てゐの顔は真っ赤に染まった。
「あの瞬間のてゐの笑顔は最高に輝いてる、それだけでご飯3杯はいけたわ。
だからわざと引っかかってあげてたのよ。間抜けないじられキャラを演じてまでしてね。
でもね、私今日気付いちゃったの。」
「……」
「悔しそうなてゐの顔もまたかわいいってことに!これだけでご飯5杯はいけるわ!
これからはいじられつついじめるから覚悟しててね?」
あはははは……と高笑いしながら去っていく鈴仙。
ずっと自分の手の中にあったと思っていた相手、しかし本当は自分が相手の手のうちにいた。
鈴仙のダメな方向に全力な策士っぷりを肌で感じ、てゐはこれからを思い一人身体を震わせた。
――――ゆゆみょん! 妖夢って実はSなのねの巻――――
「妖夢、たまには私も剣を振るってみたいわ。指導してくれない?」
今日の昼、幽々子が妖夢に告げた一言。幽々子自身キャラに合わない発言であると自覚している。こんなことを言ったのは言わば妖夢へのプレゼント。いつも煙に巻いて妖夢の誘いを断り続けていたが、ほんの気まぐれで、今日は妖夢に付き合ってあげようと思った故である。しかし……
(言うんじゃなかった……)
その発言を幽々子は今、全力で後悔していた。理由は……目の前のコレである。
「さあ立ちあがってください幽々子さま!まだ素振りは半分も終わっていませんよ!!」
物凄くイキイキとした表情の妖夢。こんなにもイキイキとした妖夢を幽々子はここ10年見ていなかった。
「ちょ、た、たんま、休憩させて……」
「敵が休憩などさせてくれると思っているのですか!戦場では体力が命!」
敵などいるか、ここは幻想郷だバカヤロウ。
……と叫びたかったが、あいにく大声を出す元気すら残ってはいない。
もっとも、それを言ったところで妖夢は止まらないであろう。完全にスイッチが入ってしまっている。
「よ、ようむ……聞いて?」
「何ですか幽々子様。ギブアップ以外であればお聞きしますよ。」
「何が不満だったの?いいえきっとあなたのことだから溜めこんでいたのね。出来る限り改善するわ、だからお願い、もう許して……」
「私は不満なんて持っていませんよ?ただ幽々子様と剣の楽しさを共有できることが嬉しくてしょうがないだけです。さあ、剣を!」
幽々子は妖夢の目を見た。長い付き合いだから分かる、妖夢は嘘などついてはいない。
本当に、このような状況になってテンションが上がっているだけのようだ。
嫌われてはいないということでは一安心だが、だからこそ困ることもある。
嫌がらせによる行為ならばいくらでも無視できよう。しかしこれは純粋な妖夢の好意から来ているもの、それを無視することなど出来ようか、いや出来まい。
つまるところ、幽々子は妖夢を溺愛していたのだ。
(こ、この感じ、妖忌にそっくりだわ……!)
今の妖夢の姿は、かつて自分を鍛えていた妖忌の姿にとてもよく似ていた。
まさかこんなことから血のつながりを再確認することになるとは思ってもいなかった。
幽々子は、次からは絶対に練習は断ろうと、死んでも断ろうと強く誓ったのであった。(死んでるけど。)
――――めーさく! ナイフを刺されてもお母さんですよの巻――――
紅魔館の医務室、普段あまり使われることのないこの部屋のベッドに、一人の少女が息苦しそうに寝ていた。
「はぁ……はぁ……」
十六夜咲夜。この館を取り仕切るメイド長である。労働時間は1日48時間という、労働基準法もヘッタクレもない環境で自らを酷使してきた。その結果、ついに身体が限界を迎えてブッ倒れるという事態となったのである。
「大丈夫ですか?咲夜さん……。」
心配そうに看病するのはこの館の門番長である紅美鈴。かつては、咲夜の教育係も務めていた妖怪である。咲夜が倒れたと聞き、真っ先に医務室へと駆け込んだ。
「大丈夫じゃないわよ……私がいないと誰が館を回すっていうの……」
「あなたが心配すべきなのは紅魔館ではなくあなた自身の身体です。キツい言い方になるかもしれませんが、あなたがいなくても紅魔館は回ります。皆が望んでるのは仕事をする咲夜さんではなく、元気な姿の咲夜さんです。」
「でも……」
「……咲夜。」
美鈴の言葉にも納得せずベッドを出ようとする咲夜に対し、美鈴は表情を険しくして咲夜の名前を呼んだ。いつものような「さん」は付けずに、昔、教育係をしていた時のように呼び捨てで。
「私はアンタが心配なんだよ。いつも何かに必死で、まるで「完璧」でいないといけないっていう義務感に駆られているみたい。」
「……そうよ。私は『完璧で瀟洒なメイド』なの。そうでなければ、私がこの館にいる価値なんて……」
「『無い』なんて言ったら、ぶっ飛ばすからね?」
拳を握り睨みつける美鈴。昔を思い出したのか、咲夜はビクリとして縮こまった。
「咲夜は咲夜、それだけで価値があるの。お嬢様がここまで人間を気に入ったのは初めてなのよ?それでもって私にとっても娘みたいな存在。他に何か文句ある?」
「無い……です、美鈴さま……」
「よろしい!……だから、ゆっくり休んでくださいね?館のことは心配しなくていいです、私が代理を務めますから。それじゃあ……おやすみなさい。」
最後は今の口調に戻って、美鈴はゆっくりと部屋から出ていった。
咲夜がメイド長になり、立場のために敬語になった。咲夜自身、居眠りしている美鈴にナイフを投げて説教したこともたくさんある。それでも、教育係であり母である美鈴にはずっと敵わないのだろうなと咲夜は思った。
――――ゆかりぐ! ゆうかりんでもアレは怖いんだよの巻――――
リグルは幽香の家へと走っていた。幽香の能力を利用した『花電話』。メッセージを書いた花を特定の場所に咲かせメッセージを伝えるという、幽香にしか出来ない伝達手段。
その『花電話』がリグルの家に咲き誇った。そこに書かれていたメッセージは……
『今すぐ私の家に来い。来なければ殺す』
恐怖のメッセージを受け取り、一目散にリグルは駆け出した。嫌な予感しかしないが、行って殺されるとの無視して殺されるのだったら、行って殺される方をリグルは選んだ。
普段からひどい扱いを受けているが、それでもリグルにとって幽香は憧れの女性なのだ。
「幽香さん!来ました……けど……」
息をきらしながら幽香の家のドアを開けたリグルが目にしたものは……
「り、りぐる……」
涙目で部屋の隅で小さくなっている幽香の姿であった。
「ど、どうしたんですか幽香さん!
「あ、あれ……」
幽香が指差した先、それは台所の床の隅、スキマからひょっこりと顔を出したのは……
「あ、ゴッキー。」
「いやああああああ!!」
みんなのトラウマ、通称『G』である。幽香は台所で料理をしていたところこのGに遭遇してしまい、恐怖で身体がすくんでしまい身動きがとれなくなってしまったのだ。
「リ、リグル!早くあの虫を殺しなさい!」
幽香は涙目になりながらリグルに助けを求める。
しかし幽香は気付いていなかった。
「何言ってるんですか?こんなにかわいいのに。ほら、おいで。」
「おいで!?」
助けを呼ぶ人選を間違えたことに。リグルは虫の王、故にGなど屁でも無い。
そこまではいいのだが、更にGであろうともフレンドリーに接してしまう。
だから幽香が近くにいるにも関わらず……
「おーよしよし、いい子だねえ。」
「いやああああああ!?」
こんなことまでしてしまうのだ。更にリグルは虫の言葉を聞くことが出来る。よって……
「この子、幽香さんに憧れてるみたいですよ?1回、遊んであげてもらえませんか?」
「て、手に乗せたまま近づけるな!」
こんなことまでしてしまう。幽香はもう意地もプライドも捨てて全力で拒否する。
「ちょ、マジやめて!無理だから!今までいじめてたことも謝るから!だから許して!
お願い、来ないで、いやあああ!!」
ここから先どうなったのかは想像におまかせする。
これ以上の描写は、いくら文字であろとr-18となる危険があるからだ。
――――さとこい! 小五ロリとか言われてるけど大人の女なのよの巻――――
「おー姉ちゃん♪」
こいしは無意識の能力を使って、さとりに気付かれないまま真後ろから抱きつく。
これだけならば微笑ましい姉妹のちゅっちゅなのだが……
「……こいし。それはやめなさいと言っているでしょう。」
「えーどうして~?姉妹のスキンシップじゃない。」
「その手に持ってるナイフが無ければね。」
こいしは抱きつくと同時にさとりの胸元、第三の目にナイフを当てている。
少し力を入れるだけで、こいしのナイフはさとりの第三の目を貫くであろう。
「私思ったんだ、いつまでたってもお姉ちゃんは目を閉じてくれない。
閉じれば私みたいに幸せになれるのに。だからね……」
「無理矢理傷つけて閉じさせよう、ですか?」
「ご命答♪ね、悪い話じゃないでしょ?お姉ちゃんは私より力が弱いし、何よりお姉ちゃんは私の心を読むことは出来ない。抵抗は無駄だよ?だから……」
「笑わせないで頂戴。」
さとりはこいしの手を取りくるりとこいしに向き合った。そしてナイフを奪い取る。
「心を読むことが出来ないですって?私にはあなたの考えが手に取るように分かるわ。
あなたは、寂しかったのよね。心を閉じて一人の世界、そこに私を引き込もうとしている。」
「違うよ、私はそんなこと思ってない。」
「だったらどうして声をかけたのです?あなたなら気付かれずに私の目をえぐることも可能だった。それをしないで一回気づかせたのは、本当にそんなことをする気は無いから。
ただ構ってほしいだけだった。違いますか?」
「……」
「私の目をえぐるよりも簡単な方法がありますよ。あなたがこちらに歩み寄ればいいのです。そうすれば私だけでなく、他の皆とも同じ世界を共有できる。」
「……ふん、違うもん!もういいよ、お姉ちゃんのバカ!」
こいしはナイフを放り投げ、拗ねたような捨て台詞を吐きながら自室へと戻っていった。
さとりはほっと一息つく。いつも妹に振りまわされてばかりなので頑張って威厳のある態度をとってみたがこれは予想以上に疲れた。
しかし手応えは確かにあった。きっとそのうち、こいしの方から歩み寄ってくれるであろうとさとりは信じることにした。
――――あやもみ! 先輩、真面目にウザイッスの巻――――
文は暗い表情を浮かべながら、椛の家へと押しかけた。
「はぁ……ネタがない。ネタがないんですよ椛!」
「そうですか。それはよかったッスね。」
「も~み~じぃ~!ネ~タ~が~なぁ~いぃ~!」
「まとわりつかないで欲しいッス。ウザイッスよ先輩。」
夕飯を作っている椛にまとわりつく文。しかし椛は動じず、揚げ物の油をピッと文の額に飛ばす。
「うあっちゃ!うあっちゃ!!」
「料理している時にそんなことするからですよ。不慮の事故です。」
「絶対悪意ありましたよね!意図的にやりましたよね!」
「意図的かどうかは知りませんか、文先輩に対する悪意はどんな時でも持ってます。」
「ひどい!ひどいわ椛!こんな優しい先輩のどこに不満があるというの!?」
「自分を客観的に評価できてないところじゃないッスかね?」
椛と文とでは、妖怪の山の中でのランクも種族としての格も、そして持っている力においても圧倒的に文の方が上だ。文が本気を出すまでもなく椛を葬り去ることは可能であろう。
しかしそれでも文と椛は先輩後輩といった括りはあるものの、このようにほぼ対等、下手すれば椛の方が優位に立っているのではないかというコミュニケーションを取る。
先輩の額に油を飛ばすなど、普通ならば死刑ものである。椛も椛で、文だからこそこのようなフランクな態度を取っているのだ。
「ねぇ、椛、私が嫌い?」
「ウザいけど嫌いっては無いッスね。ウザいですけど。」
「二回もウザいって言われた!でもめげない、私は椛のことが大好きですよ!」
「はいはい。」
椛はコロッケを取りだし、皿へと乗せる。
その皿は、いつの間にか二枚に増えていた。
「先輩、どうせここで食べるッスよね?早くお箸を持ってきてください。」
……なんだかんだで、とても仲のよいコンビのようである。
――――ゆからん! 結局いつもどおりじゃね?の巻――――
八雲紫。境界を操る能力を持ち、博麗大結界を作った妖怪の大賢者である。
並の妖怪でも裸足で逃げ出し、力の弱い妖怪はその姿すら確認することが出来ない。
人間の里で秘密裏にとられた『幻想郷で最強なのは?』というアンケートでも見事1位を獲得した、
そんなカリスマ溢れる妖怪、八雲紫。その紫は今……
「……で?何か言い訳があるなら聞きますが?」
「いえ、ないです……」
式神である藍によって正座させられていた。
「あれほどスキマを使って冷蔵庫の中のものをつまみ食いするなと、
口を酸っぱくするほど言いましたよね?言いましたよね?」
「はい……」
「それがどうして、鍵をかけていた冷蔵庫の中身が一番で消えるという怪奇が起こるのでしょうか?藍は出来の悪い式神ですので答えが見つかりません。紫様の頭脳ではどうお考えになりますか?」
「私がスキマを使ってつまみ食いをしました……」
「しかし不思議なのは私は既に紫様にその行為を止めてもらえるよう頼んでいるのです。
私の知る紫様はそれを無視するようなお人ではない。となると振り出しに戻るのです。
ああ不思議ですねぇ、不思議ですねえ!」
何が不思議だ、全部わかってるくせにイヤミなんだよコノヤロウ。
と紫は思っているが口には出さない。なんとかご機嫌をとって、最大の罰が下されるのを回避しなくてはならない。
「それでは……紫様。心苦しいですが、今晩は……」
(……ごくっ)
「夕飯は一品だけです!」
その罰の内容を聞いて紫はほっと一息つく。最大の罰は夕飯抜き。しかし、どうやら一品だけでもご飯は作ってもらえるらしい。飯抜きと一品では大きく違う、例え一品であろうと藍の真心篭もった料理には変わらない。おいしく頂こうではないか。
「納豆だけ!!」
前言撤回。納豆、それは紫が忌み嫌う食材の一つだった。
納豆は腐った豆なのだ、あんなものをおいしく食べる者の気がしれない(※紫様個人の意見です)。あんな臭みのある物を食べるくらいなら、飯抜きの方がはるかにマシだ。
「ら、らん!あなたそれでも式神なの!そんな極悪非道な罰を!」
「しょうがないでしょう!紫様が納豆以外の全てを食い尽くすんですから!
もうつまみ食いってレベルじゃないですよ!幽々子嬢じゃあるまいし!」
「幽々子は蔵にある食材を一瞬でたいらげる女よ!一緒にしないで!」
「とにかく!もうこれは決定事項です!おとなしく食べてくださいね!」
「いやああ!慈悲を!この哀れなスキマ妖怪に慈悲を!!」
わーわーぎゃーぎゃーと騒がしくなる八雲家。
これが八雲家の日常である。例え従者が主を説教しようとも、主が従者の足にしがみついてまともな夕飯を懇願しようとも、これで上手くいっているのが八雲家なのである。
了
「う~~~……」
迷いの竹林に掘られた落とし穴の中から、悔しそうな声が響く。
いつもであればその穴の中は鈴仙の指定席であったのだが、今日は別の客が入っていた。
「くっ、この私としたことが……自分で掘った落とし穴に自分で落ちるなんて……」
落とし穴に落ちたのはてゐであった。鈴仙をおびき出し、いつものように穴へと誘導するつもりが、何を間違ったのか自分がその穴に落ちてしまったというわけだ。
そして、本来の自分の指定席、穴の上から落ちた者をニヤニヤしながら見下ろすポジションに、いつもは見下ろされる立場の鈴仙が居座っていた。
「てゐ~!だいじょうぶ~?助けてあげよっか?」
心配しているような口ぶりだが、表情は明らかにニヤついている。
てゐは精一杯の虚勢を張りつつ言い返した。
「へっ、私は飛べるんだ、こんな穴に落ちたところでどうってことないね!
それより覚悟しててよね、次はれーせんちゃんが落ちる番だからさ!」
「へえ、まだ私が落とし穴に『引っかかってる』と思ってたんだ。」
思わせぶりな鈴仙の言葉に、てゐは慌てながら聞き返す。
「ど、どういうことさ!」
「今日を見て分かったでしょ?私はこれでも元軍人、落とし穴なんて簡単に察知できるの。
それでもあえて気付かないフリをして落ちてあげてた。何故だと思う?」
「な……なんでよ。」
「私が引っかかった時のてゐの顔がかわいいからよ。」
ボンッ!!
その言葉を聞いた瞬間、てゐの顔は真っ赤に染まった。
「あの瞬間のてゐの笑顔は最高に輝いてる、それだけでご飯3杯はいけたわ。
だからわざと引っかかってあげてたのよ。間抜けないじられキャラを演じてまでしてね。
でもね、私今日気付いちゃったの。」
「……」
「悔しそうなてゐの顔もまたかわいいってことに!これだけでご飯5杯はいけるわ!
これからはいじられつついじめるから覚悟しててね?」
あはははは……と高笑いしながら去っていく鈴仙。
ずっと自分の手の中にあったと思っていた相手、しかし本当は自分が相手の手のうちにいた。
鈴仙のダメな方向に全力な策士っぷりを肌で感じ、てゐはこれからを思い一人身体を震わせた。
――――ゆゆみょん! 妖夢って実はSなのねの巻――――
「妖夢、たまには私も剣を振るってみたいわ。指導してくれない?」
今日の昼、幽々子が妖夢に告げた一言。幽々子自身キャラに合わない発言であると自覚している。こんなことを言ったのは言わば妖夢へのプレゼント。いつも煙に巻いて妖夢の誘いを断り続けていたが、ほんの気まぐれで、今日は妖夢に付き合ってあげようと思った故である。しかし……
(言うんじゃなかった……)
その発言を幽々子は今、全力で後悔していた。理由は……目の前のコレである。
「さあ立ちあがってください幽々子さま!まだ素振りは半分も終わっていませんよ!!」
物凄くイキイキとした表情の妖夢。こんなにもイキイキとした妖夢を幽々子はここ10年見ていなかった。
「ちょ、た、たんま、休憩させて……」
「敵が休憩などさせてくれると思っているのですか!戦場では体力が命!」
敵などいるか、ここは幻想郷だバカヤロウ。
……と叫びたかったが、あいにく大声を出す元気すら残ってはいない。
もっとも、それを言ったところで妖夢は止まらないであろう。完全にスイッチが入ってしまっている。
「よ、ようむ……聞いて?」
「何ですか幽々子様。ギブアップ以外であればお聞きしますよ。」
「何が不満だったの?いいえきっとあなたのことだから溜めこんでいたのね。出来る限り改善するわ、だからお願い、もう許して……」
「私は不満なんて持っていませんよ?ただ幽々子様と剣の楽しさを共有できることが嬉しくてしょうがないだけです。さあ、剣を!」
幽々子は妖夢の目を見た。長い付き合いだから分かる、妖夢は嘘などついてはいない。
本当に、このような状況になってテンションが上がっているだけのようだ。
嫌われてはいないということでは一安心だが、だからこそ困ることもある。
嫌がらせによる行為ならばいくらでも無視できよう。しかしこれは純粋な妖夢の好意から来ているもの、それを無視することなど出来ようか、いや出来まい。
つまるところ、幽々子は妖夢を溺愛していたのだ。
(こ、この感じ、妖忌にそっくりだわ……!)
今の妖夢の姿は、かつて自分を鍛えていた妖忌の姿にとてもよく似ていた。
まさかこんなことから血のつながりを再確認することになるとは思ってもいなかった。
幽々子は、次からは絶対に練習は断ろうと、死んでも断ろうと強く誓ったのであった。(死んでるけど。)
――――めーさく! ナイフを刺されてもお母さんですよの巻――――
紅魔館の医務室、普段あまり使われることのないこの部屋のベッドに、一人の少女が息苦しそうに寝ていた。
「はぁ……はぁ……」
十六夜咲夜。この館を取り仕切るメイド長である。労働時間は1日48時間という、労働基準法もヘッタクレもない環境で自らを酷使してきた。その結果、ついに身体が限界を迎えてブッ倒れるという事態となったのである。
「大丈夫ですか?咲夜さん……。」
心配そうに看病するのはこの館の門番長である紅美鈴。かつては、咲夜の教育係も務めていた妖怪である。咲夜が倒れたと聞き、真っ先に医務室へと駆け込んだ。
「大丈夫じゃないわよ……私がいないと誰が館を回すっていうの……」
「あなたが心配すべきなのは紅魔館ではなくあなた自身の身体です。キツい言い方になるかもしれませんが、あなたがいなくても紅魔館は回ります。皆が望んでるのは仕事をする咲夜さんではなく、元気な姿の咲夜さんです。」
「でも……」
「……咲夜。」
美鈴の言葉にも納得せずベッドを出ようとする咲夜に対し、美鈴は表情を険しくして咲夜の名前を呼んだ。いつものような「さん」は付けずに、昔、教育係をしていた時のように呼び捨てで。
「私はアンタが心配なんだよ。いつも何かに必死で、まるで「完璧」でいないといけないっていう義務感に駆られているみたい。」
「……そうよ。私は『完璧で瀟洒なメイド』なの。そうでなければ、私がこの館にいる価値なんて……」
「『無い』なんて言ったら、ぶっ飛ばすからね?」
拳を握り睨みつける美鈴。昔を思い出したのか、咲夜はビクリとして縮こまった。
「咲夜は咲夜、それだけで価値があるの。お嬢様がここまで人間を気に入ったのは初めてなのよ?それでもって私にとっても娘みたいな存在。他に何か文句ある?」
「無い……です、美鈴さま……」
「よろしい!……だから、ゆっくり休んでくださいね?館のことは心配しなくていいです、私が代理を務めますから。それじゃあ……おやすみなさい。」
最後は今の口調に戻って、美鈴はゆっくりと部屋から出ていった。
咲夜がメイド長になり、立場のために敬語になった。咲夜自身、居眠りしている美鈴にナイフを投げて説教したこともたくさんある。それでも、教育係であり母である美鈴にはずっと敵わないのだろうなと咲夜は思った。
――――ゆかりぐ! ゆうかりんでもアレは怖いんだよの巻――――
リグルは幽香の家へと走っていた。幽香の能力を利用した『花電話』。メッセージを書いた花を特定の場所に咲かせメッセージを伝えるという、幽香にしか出来ない伝達手段。
その『花電話』がリグルの家に咲き誇った。そこに書かれていたメッセージは……
『今すぐ私の家に来い。来なければ殺す』
恐怖のメッセージを受け取り、一目散にリグルは駆け出した。嫌な予感しかしないが、行って殺されるとの無視して殺されるのだったら、行って殺される方をリグルは選んだ。
普段からひどい扱いを受けているが、それでもリグルにとって幽香は憧れの女性なのだ。
「幽香さん!来ました……けど……」
息をきらしながら幽香の家のドアを開けたリグルが目にしたものは……
「り、りぐる……」
涙目で部屋の隅で小さくなっている幽香の姿であった。
「ど、どうしたんですか幽香さん!
「あ、あれ……」
幽香が指差した先、それは台所の床の隅、スキマからひょっこりと顔を出したのは……
「あ、ゴッキー。」
「いやああああああ!!」
みんなのトラウマ、通称『G』である。幽香は台所で料理をしていたところこのGに遭遇してしまい、恐怖で身体がすくんでしまい身動きがとれなくなってしまったのだ。
「リ、リグル!早くあの虫を殺しなさい!」
幽香は涙目になりながらリグルに助けを求める。
しかし幽香は気付いていなかった。
「何言ってるんですか?こんなにかわいいのに。ほら、おいで。」
「おいで!?」
助けを呼ぶ人選を間違えたことに。リグルは虫の王、故にGなど屁でも無い。
そこまではいいのだが、更にGであろうともフレンドリーに接してしまう。
だから幽香が近くにいるにも関わらず……
「おーよしよし、いい子だねえ。」
「いやああああああ!?」
こんなことまでしてしまうのだ。更にリグルは虫の言葉を聞くことが出来る。よって……
「この子、幽香さんに憧れてるみたいですよ?1回、遊んであげてもらえませんか?」
「て、手に乗せたまま近づけるな!」
こんなことまでしてしまう。幽香はもう意地もプライドも捨てて全力で拒否する。
「ちょ、マジやめて!無理だから!今までいじめてたことも謝るから!だから許して!
お願い、来ないで、いやあああ!!」
ここから先どうなったのかは想像におまかせする。
これ以上の描写は、いくら文字であろとr-18となる危険があるからだ。
――――さとこい! 小五ロリとか言われてるけど大人の女なのよの巻――――
「おー姉ちゃん♪」
こいしは無意識の能力を使って、さとりに気付かれないまま真後ろから抱きつく。
これだけならば微笑ましい姉妹のちゅっちゅなのだが……
「……こいし。それはやめなさいと言っているでしょう。」
「えーどうして~?姉妹のスキンシップじゃない。」
「その手に持ってるナイフが無ければね。」
こいしは抱きつくと同時にさとりの胸元、第三の目にナイフを当てている。
少し力を入れるだけで、こいしのナイフはさとりの第三の目を貫くであろう。
「私思ったんだ、いつまでたってもお姉ちゃんは目を閉じてくれない。
閉じれば私みたいに幸せになれるのに。だからね……」
「無理矢理傷つけて閉じさせよう、ですか?」
「ご命答♪ね、悪い話じゃないでしょ?お姉ちゃんは私より力が弱いし、何よりお姉ちゃんは私の心を読むことは出来ない。抵抗は無駄だよ?だから……」
「笑わせないで頂戴。」
さとりはこいしの手を取りくるりとこいしに向き合った。そしてナイフを奪い取る。
「心を読むことが出来ないですって?私にはあなたの考えが手に取るように分かるわ。
あなたは、寂しかったのよね。心を閉じて一人の世界、そこに私を引き込もうとしている。」
「違うよ、私はそんなこと思ってない。」
「だったらどうして声をかけたのです?あなたなら気付かれずに私の目をえぐることも可能だった。それをしないで一回気づかせたのは、本当にそんなことをする気は無いから。
ただ構ってほしいだけだった。違いますか?」
「……」
「私の目をえぐるよりも簡単な方法がありますよ。あなたがこちらに歩み寄ればいいのです。そうすれば私だけでなく、他の皆とも同じ世界を共有できる。」
「……ふん、違うもん!もういいよ、お姉ちゃんのバカ!」
こいしはナイフを放り投げ、拗ねたような捨て台詞を吐きながら自室へと戻っていった。
さとりはほっと一息つく。いつも妹に振りまわされてばかりなので頑張って威厳のある態度をとってみたがこれは予想以上に疲れた。
しかし手応えは確かにあった。きっとそのうち、こいしの方から歩み寄ってくれるであろうとさとりは信じることにした。
――――あやもみ! 先輩、真面目にウザイッスの巻――――
文は暗い表情を浮かべながら、椛の家へと押しかけた。
「はぁ……ネタがない。ネタがないんですよ椛!」
「そうですか。それはよかったッスね。」
「も~み~じぃ~!ネ~タ~が~なぁ~いぃ~!」
「まとわりつかないで欲しいッス。ウザイッスよ先輩。」
夕飯を作っている椛にまとわりつく文。しかし椛は動じず、揚げ物の油をピッと文の額に飛ばす。
「うあっちゃ!うあっちゃ!!」
「料理している時にそんなことするからですよ。不慮の事故です。」
「絶対悪意ありましたよね!意図的にやりましたよね!」
「意図的かどうかは知りませんか、文先輩に対する悪意はどんな時でも持ってます。」
「ひどい!ひどいわ椛!こんな優しい先輩のどこに不満があるというの!?」
「自分を客観的に評価できてないところじゃないッスかね?」
椛と文とでは、妖怪の山の中でのランクも種族としての格も、そして持っている力においても圧倒的に文の方が上だ。文が本気を出すまでもなく椛を葬り去ることは可能であろう。
しかしそれでも文と椛は先輩後輩といった括りはあるものの、このようにほぼ対等、下手すれば椛の方が優位に立っているのではないかというコミュニケーションを取る。
先輩の額に油を飛ばすなど、普通ならば死刑ものである。椛も椛で、文だからこそこのようなフランクな態度を取っているのだ。
「ねぇ、椛、私が嫌い?」
「ウザいけど嫌いっては無いッスね。ウザいですけど。」
「二回もウザいって言われた!でもめげない、私は椛のことが大好きですよ!」
「はいはい。」
椛はコロッケを取りだし、皿へと乗せる。
その皿は、いつの間にか二枚に増えていた。
「先輩、どうせここで食べるッスよね?早くお箸を持ってきてください。」
……なんだかんだで、とても仲のよいコンビのようである。
――――ゆからん! 結局いつもどおりじゃね?の巻――――
八雲紫。境界を操る能力を持ち、博麗大結界を作った妖怪の大賢者である。
並の妖怪でも裸足で逃げ出し、力の弱い妖怪はその姿すら確認することが出来ない。
人間の里で秘密裏にとられた『幻想郷で最強なのは?』というアンケートでも見事1位を獲得した、
そんなカリスマ溢れる妖怪、八雲紫。その紫は今……
「……で?何か言い訳があるなら聞きますが?」
「いえ、ないです……」
式神である藍によって正座させられていた。
「あれほどスキマを使って冷蔵庫の中のものをつまみ食いするなと、
口を酸っぱくするほど言いましたよね?言いましたよね?」
「はい……」
「それがどうして、鍵をかけていた冷蔵庫の中身が一番で消えるという怪奇が起こるのでしょうか?藍は出来の悪い式神ですので答えが見つかりません。紫様の頭脳ではどうお考えになりますか?」
「私がスキマを使ってつまみ食いをしました……」
「しかし不思議なのは私は既に紫様にその行為を止めてもらえるよう頼んでいるのです。
私の知る紫様はそれを無視するようなお人ではない。となると振り出しに戻るのです。
ああ不思議ですねぇ、不思議ですねえ!」
何が不思議だ、全部わかってるくせにイヤミなんだよコノヤロウ。
と紫は思っているが口には出さない。なんとかご機嫌をとって、最大の罰が下されるのを回避しなくてはならない。
「それでは……紫様。心苦しいですが、今晩は……」
(……ごくっ)
「夕飯は一品だけです!」
その罰の内容を聞いて紫はほっと一息つく。最大の罰は夕飯抜き。しかし、どうやら一品だけでもご飯は作ってもらえるらしい。飯抜きと一品では大きく違う、例え一品であろうと藍の真心篭もった料理には変わらない。おいしく頂こうではないか。
「納豆だけ!!」
前言撤回。納豆、それは紫が忌み嫌う食材の一つだった。
納豆は腐った豆なのだ、あんなものをおいしく食べる者の気がしれない(※紫様個人の意見です)。あんな臭みのある物を食べるくらいなら、飯抜きの方がはるかにマシだ。
「ら、らん!あなたそれでも式神なの!そんな極悪非道な罰を!」
「しょうがないでしょう!紫様が納豆以外の全てを食い尽くすんですから!
もうつまみ食いってレベルじゃないですよ!幽々子嬢じゃあるまいし!」
「幽々子は蔵にある食材を一瞬でたいらげる女よ!一緒にしないで!」
「とにかく!もうこれは決定事項です!おとなしく食べてくださいね!」
「いやああ!慈悲を!この哀れなスキマ妖怪に慈悲を!!」
わーわーぎゃーぎゃーと騒がしくなる八雲家。
これが八雲家の日常である。例え従者が主を説教しようとも、主が従者の足にしがみついてまともな夕飯を懇願しようとも、これで上手くいっているのが八雲家なのである。
了
次は、小悪魔とパッチェでお願いします!!
強いうどんげはもっと書かれるべき
パルスィに振り回される勇儀とかどうですか
そして安心のゆかりんクオリティなのであった
神二人を手玉に取る早苗さん・・・はデフォになりつつあるかww
こうやって力関係が逆転するのも面白いですね。
やはり衣玖さんと天子が見てみたい
ゆからんのところの「冷蔵庫の中身が一番で消える…」のところは「一晩で消える…」では?
間違ってたらすいません。
星とナズーリン……とかどうでしょうか?
強いうどんげは大好きです
強いリグルも大好きですがこれは強いというか…うん
藍を叱り付ける橙
輝夜に甘える永琳
早苗をいじる小傘
なんてのはいかがでしょう?
パチュリーを愛故に叱る小悪魔が見たいっ
あやもみ美味しかったッス( ´∀`)
パチュリーを愛故に叱る小悪魔が見たいっ
あやもみ美味しかったッス( ´∀`)
れーせんもよかったです
うーん、しかしちょっと物足りないきも。
小傘に弄ばれる日傘持ちたち……、やめとこ
想像できない
ほのぼのとしてて最高ですね!
さとこいをもう一本書くべき。
藍の台詞→ ×一番 〇一晩
だと思います。
是非どれかに絞って長いのかいてください
個人的には文絡みで是非
それにしても鈴仙はやばかった
ほのぼのできましたww
幻月と夢月とか……難しいだろうなあ。
五十歩百歩……どんぐりの背比べ……目くそ鼻くそを……
ゆからん最高!