私の名前は小悪魔。
紅魔館の地下にある大図書館で仕事をしている使い魔だ。
「小悪魔、そこにある本を取ってくれないかしら」
「はい、わかりました!」
このお方は私のご主人であるパチュリー様だ。
私を使い魔として召喚した人である。
「小悪魔、早くして」
「あ、すいません!」
私は近くにある本を取ってパチュリー様のところへとパタパタと駆けていく。
「こちら、ですか?」
「…その本じゃないんだけど」
「え?」
「私が頼んだのはそっちの本よ」
そう言いながらパチュリー様が指差したのは私が取った本の横にあった本。
「す、すいません! 今すぐ取ってきますので!」
私は来たほうへとまた駆け出した。
パチュリー様が指差した本を取ってしっかりと確認してからパチュリー様に手渡す。
「全く…あなたは本当にドジね」
「うぅ…返す言葉もございません…」
私の体に生えた羽も頭と一緒にしょんぼりとうなだれた。
その時。
ぽん、と頭にやわらかくて暖かいものが乗せられる。
顔を上げてみてみると…パチュリー様が私の頭をなでていた。
「でもドジでも私は感謝しているわ。
あなたがいなければ私は一人でここに暮らすことが出来なかっただろうから」
「ぱ、パチュリーさまぁ…」
そんなことを言われて私は涙を流した。
「ほら、泣かないで。
…そういえばそろそろ魔理沙がここに来るはずだからお迎えをしてくれるかしら?」
「わかりました!」
涙を拭いて私は入り口のほうへと走った。
…やっぱりパチュリー様は優しい。
「こんにちは!」
「おう、小悪魔。パチュリーはいるか?」
「はい、いますよ。すぐにご案内いたします。」
私は入り口で魔理沙さんをお迎えした。
彼女はパチュリー様の大切な友人だ。
そのため私も失礼の無いように応対する。
「いつも大変じゃないか?」
「何がですか?」
私が魔理沙さんを先導していると後ろから話しかけられた。
「いや、あいつはお前にいろいろ任せっぱなしだからな。
もっと自分から進んで動くことはできないのかね…」
「そうですね。確かに大変ですが…私は楽しいですよ」
本音を答えたつもりなのだが、魔理沙さんは少し驚いた顔をしている。
「苦労しているのに楽しい…ねぇ」
「はい。何より私はパチュリー様のことを…」
「パチュリーをなんだって?」
「い、いえ、なんでもないです!」
無意識のうちにそんな言葉が出てきてしまっていた。
急いでに私はごまかす。
「…?」
魔理沙さんは首を傾げたが、特に疑問にも思わなかったようだ。
それ以上は聞いてこなかった。
…やっとパチュリー様の姿が見えてきた。
「パチュリー様。魔理沙さんをお連れいたしました」
「ああ、ありがとうね」
パチュリー様のすぐ側まで魔理沙さんを案内する。
「それでは私はお茶を入れてきますので」
「お願いするわ」
そう言って私はお茶を入れに台所へと向かう。
台所に向かう途中に後ろを振り返ると、ちょうど二人が仲良く椅子に腰をかけるところが見えた。
私は台所でお湯を沸かす。
…沸騰するのにはまだ時間がかかりそうだ。
「ふぅ…」
私はため息を一つつく。
この想い…しっかりと伝えるべきなのだろうか。
使い魔としてパチュリー様と過ごしていくうちにいつの間にか彼女を好きになってしまっていた。
もちろん最初のうちは家族や仲のいい友人に対する好きだったのだが…
最近になって異性に対して抱くほうの好きに変わってしまった。
「…どうしてこんなことになったんだろう」
長い年月を毎日共に過ごしたから?
パチュリー様に憧れを抱いていたから?
いや、違う。
恐らく彼女の優しさのせいだと思う。
パチュリー様はいつもドジをしてばかりの私に優しく接してくれた。
きついことを言われることもあったが、それでもそのあとに彼女は必ず私を慰めてくれた。
私はそういう風に優しくされていくうちに彼女に恋をしたのだろう。
「パチュリー様…」
そう小さく呟いた時、お湯が沸く音がした。
「あ、お湯が沸きましたね」
棚から茶葉を取って、ポットの中へ入れる。
お湯が少しずつ茶色に変わっていく。
少しずつ茶色に染まっていくポットの中の匂いをかぐと気持ちが少し落ち着いた。
「よし、持っていこう」
お盆の上にポットとカップを載せて持ち上げる。
お盆はずっしりと重かった。
私の心の中のように。
「お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう」
二人は本を読んでいたところだった。
私はお盆をテーブルの中央に置く。
「それでは何かありましたら呼んでくださいね」
二人に向かって頭を下げて私は残っていた仕事を片付けるためにとある本棚へ向かう。
「えーと、この本はここで…」
私は一冊ずつ本を棚にしまっていく。
仕事をしていると無心になれる。
だからこういう心の中が不安定な時には私は仕事に集中するのだ。
しかし気がつくといつの間にか私の周りの本は無くなっていた。
「あ、終わっちゃった…」
他に何か仕事はあっただろうか。
思い出してみるが、これといってやることはない。
「…少し休もう」
辺りを見回すと椅子が一つ置いてあった。
「ちょうどいいところに椅子があった」
私は見つけた椅子に腰掛ける。
少しだけ目を閉じてみる。
時計の音以外には何も聞こえない。
…静かだ。
このまま目を閉じていると眠ってしまいそうだ。
ちらりとそう思ったが、目を開ける前に私は真っ黒な世界に落ちていってしまった。
「…くま…こあくま」
ん? この声は…?
「小悪魔!」
パチュリー様の声が聞こえる。
「し、しまった! いつの間にか寝てた!」
私は慌ててパチュリー様のところへと向かった。
私を一目見るとパチュリー様はひどく怒った様子で私を叱る。
「小悪魔! 一体どこに行っていたの!」
「す、すいません! 寝ていました…!」
寝ていたことを正直に伝えるとパチュリー様はため息ひとつをついた。
「まったく…何回呼んでも返事が聞こえないから心配しちゃったじゃない!」
「すいませんでした!」
怒るパチュリー様に向かって私はひたすら謝る。
しかし怒りながらもどこか安心しているように見えたのは気のせいだろうか。
「まあまあ、小悪魔も反省していることだし今日はそこらへんにしておいてやれよ」
魔理沙さんがパチュリー様をなだめる。
「…そうね。小悪魔、魔理沙を外まで案内してちょうだい」
「わ、わかりました!」
パチュリー様は私に向かってそう言うとまた本を読み始めた。
「それでは外までご案内いたします」
そう言って彼女を先導する。
「それじゃあな、パチュリー」
「魔理沙も帰り道に気をつけて」
後ろのほうで魔理沙さんとパチュリー様が別れの挨拶を交わすのが聞こえる。
「なあ、小悪魔」
「なんですか?」
魔理沙さんの声に私は歩きながら答える。
「一ついいことを教えておいてやるよ」
いいこと?
「さっきパチュリーは何回もお前を呼んだって言ってたろ?
あの時パチュリーはお前のことをすごく心配していたぞ。」
「え?」
「『あの子の身に何かあったら…』とか泣きそうな顔でな」
パチュリー様がそこまで私を心配してくれていた?
「で、私は聞いてやったんだ。『そこまで小悪魔が大切なのか?』って」
「そしたら…?」
「あいつ、『世界で一番大好きな小悪魔がいなくなったら生きていけない』だってさ」
ぱ、パチュリー様…そこまで私のことを…
衝撃的な言葉に私はいつの間にか立ち止まっていた。
「実はお前があいつのことを好きなのは最初からわかっていたんだよ」
「え、な、なんでですか!?」
「お前はわかりやすいんだよ。今日来た時も『パチュリーを愛しています』って言いそうになっただろ?」
まさかバレていたとは…
「確か前にも似たようなこと言ってたなぁー」
「も、もう! からかうのはやめてください!」
真っ赤になりながら私は反論した。
…それにしても過去にもパチュリー様に恋していることを匂わせるようなことを言っていたのか。
そのことを考えると恥ずかしそうで倒れてしまいそうだ。
「あはは、すまんすまん。それで、お前はどうするんだ?」
笑っていた魔理沙さんはいきなり真面目な口調になった。
「どうするって…何をですか?」
「決まっているだろ? 思いを伝えることだよ」
「つまり…告白ってことですか…?」
「まあ、そうなるな」
…私はパチュリー様のことが好きだ。
しかし告白してしまうと…
「怖いか? 相手がいきなり特別な存在になってしまうことが」
「…ええ」
「だけどお前は心の奥で『この想いを伝えたい』とも思っている。だろ?」
「はい…」
とても怖い。
パチュリー様に思いを伝えたら今までの日々が壊れていってしまう気がして。
「まあ、今の使い魔と主人といった関係を続けたいならそれでもいい。
今の関係を続けていくのか、恋人という新しい関係になるのか。
どっちを選ぶのもお前の自由だ。好きなほうを選ぶんだな」
…私は。
私はどちらを選べばいいのだろう…
「一晩考えて答えを出しても遅くはないと思うぜ。とりあえず今は悩め。
それでどっちがいいのかじっくりと考えるといい」
「…はい」
「よし、私はここまででいい。今日は世話になったな」
魔理沙さんは図書館の入り口あたりでそう言った。
「はい、こちらこそお世話になりました」
じゃあな、というと魔理沙さんは図書館を出て行く。
魔理沙さんが上に行く階段を登りかけたときだ。
彼女はいきなり振り向いてこう叫んだ。
「頑張れよ!」
「…はい! 頑張ります!」
魔理沙さんの言葉に私は笑顔で答える。
決めた。
…私は、絶対に後悔しない。
だから…
「お帰り小悪魔」
「はい、ただいまでした」
パチュリー様は先ほどと全く変わらない姿勢で本を読んでいた。
覚悟は決めた。
だから言おう。
「あの、パチュリー様。少しお話があるのですが、いいでしょうか?」
「何?」
「…好きです」
私は赤くなりながらパチュリー様の目を見て言った。
「は? 何それ、冗談…かしら…?」
パチュリー様は戸惑いながらもそう返してきた。
「いえ、冗談じゃありません。心からパチュリー様のことを愛しています」
「…」
黙り込むパチュリー様。
私はすこし不安になったが、これで心は軽くなった。
言いたかったことを言ったという達成感が今の私の心の中にはある。
「すいません、こんなことを言って。
今のことは忘れてください」
不思議と悲しくはない。
礼をして回れ右をしたとき、背中に衝撃を感じた。
首を動かすと私に抱きつくパチュリー様が見える。
「ど、どうしたんですか…?」
「小悪魔。実は私もあなたのことが前から好きだった」
小さいがはっきりとした声でそう言われる。
「もうあなた抜きでは私は生きられないわ。
こんな私だけど…いつまでも側にいてもらえるかしら…?」
私は微笑む。
「ええ、もちろん…! こちらこそドジで間抜けですけどね」
「ありがとう、小悪魔…」
私はパチュリー様のほうを向いて彼女を抱きしめた。
こうして私の想いはしっかりとパチュリー様に届いたのだった。
それから数日して。
また魔理沙さんが遊びにやってきた。
「それにしても…見ていてこっちが恥ずかしくなるくらいにラブラブだな…」
魔理沙さんは苦笑しながらお茶を飲んでいる。
「そうでもないわよ。ねぇ、小悪魔」
「ええ、そうですね」
私たちは咲夜さんがおやつに持ってきたプリンをお互いに食べさせあっている。
「小悪魔から食べさせてもらうといつもの2倍くらいおいしく感じるわ」
「いえいえ、私なんかいつもの3倍以上…」
「あー、もうお前ら熱すぎる! お前らを見てると熱すぎて火傷しちまうよ!」
魔理沙さんはそんなことを言っているが私たちのことを祝福しているのだ。
証拠にさっき思いを伝えたということを言ったら「よくやったな! おめでとう!」とか言われたし。
「それにしてもお前らはいつもそんなにくっついているのか?」
「ええ、それがどうかした?」
「食事はもちろん、寝るのもお風呂入るのも一緒ですよね」
「…ごめん、そこまで行くともう私はついていけないわ…」
正直に言ったら魔理沙さんに呆れられた。
「小悪魔、これからもずっと一緒だからね?
もし私を一人にしたらただじゃおかないわよ?」
ふふ、とパチュリー様は笑った。
「わかってますよ。絶対に離れたりしませんから…」
これからも私はパチュリー様の使い魔として、彼女を愛するものとしてずっと側にいるだろう。
こんな毎日がいつまでも続いたら良いのになぁ。
そんなことを私は考えていた。
ドジしたりするけど頑張っている姿とか、主への想いやパチュリーの
小悪魔への優しさとか良かったです。
誤字の報告です。
数か所ほど『小悪魔』が『子悪魔』になってますよ。
ツボですよねw
あ、涙目を書くのを忘れt(ry
>>2
誤字の指摘ありがとうございます!
今後気をつけます^^;
ドジだけど彼女なりに頑張る姿。
かわいいですよね!
そう、涙目は重要w あ、そう言えば鈴仙も涙目がよく似合う!今度ぜひ泣かせてあげて下さい(鬼畜)
あの溺愛ぷりにはもうニヤニヤがw
この後、パチェが「様付け」してるのを辞めて見たいな事言って
甘甘甘甘甘甘甘甘な展開になるんですね分かります(
私はこの作品にやられてしまったっ・・・!
顔がニヤけて・・・変な顔にッ!
最後に「パチュリー様じゃなくてパチュリーって呼んで」っていう展開にしようと思ったんですが、何を血迷ったか取りやめました^^;
この展開も面白そうでしたけどね。
>>12,17
やられてしまいましたか・・・
話が終わってからもこの二人は甘いことをしているはずですw
健気な小悪魔って大好きさ!
自分もパチュこあ派ですw
/ ヽ
/ ̄ ̄/ /i⌒ヽ、| オエーー!!!!
/ (。)/ / /
/ ト、.,../ ,ー-、
=彳 \\‘゚。、` ヽ。、o
/ \\゚。、。、o
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